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第七十三話 新しい家族

 話しかけてくる冒険者を避けつつ。俺達は無事に隠れ家に帰ることが出来た。


「大騒ぎだったな」

「貴様があんな事をするからだろ。まあスカッとしたがな」

「儂もここから見ておったが、中々迫力があったぞ」


 タマモが笑いながら近づいてきた。酒を飲んでいない姿を久しぶりに見た。今ならお願いができるかな。


「それはどうも。あ、タマモにお願いがあるんだけどちょっといいか?」

「何じゃ?」


 俺はエルメシア教とリア教の事について説明をした。そして俺達がその集まりに参加できた場合、必要に応じてタマモの名前を出しても良いかと聞いてみた。


「構わんぞ。エルメシア教の聖女が出しゃばったら遠慮なく儂の名前を使うのじゃ。お、そうじゃ良い事を考えたぞ」

「何だ?」

「秘密じゃ♡」


 いたずらっ子のような笑みを浮かべていた。少し不安になるが、俺達の邪魔をすることは無いだろう。


「ところで今日の夕飯は何じゃ? ワシはガッツリと食いたいぞ」

「う~ん。串カツでもどうだ?」

「美味しければ何でもいいのじゃ」

「シェリルやベル達は」

「私は何でも構わんぞ」

「キュキュー♪」

「たぬぬー♪」

「ベアー♪」

「ピヨー♪」


 賛成のようだ。ご飯を炊いたら用意するかな。それと今日は日本酒にしようかな。俺は飲まないがタマモが飲むかしれないからビールも出しておこう。

 ご飯を炊いている間、温泉に入っているのだが当たり前のようにタマモも一緒にいる。しかも人の姿で。


「隣の方がゆっくり入れるぞ」

「人がいた方が楽しいじゃろ。儂等の仲ではないか」


 俺は半分諦めた。ベル達が嬉しそうだし強くは言えないんだよな。

 タマモは途中でベル達と共にサウナへと向かった。今は俺とシェリルしかいない。


「神と混浴って何だろうな」

「最初から貴様の隠れ家は不思議だったが、もう何が起きてもおかしくないな。その内神々が宴会でもし始めるんじゃないか」

「まさか」


 そう言って俺達は笑いあったが本当にそんな日が来そうな気もした。


 温泉から上がって一休みした後は夕飯だ。大きな皿をいくつも出して色んな種類の串カツを置いた。


「これは酒に合うの」


 タマモは上機嫌だし、ベル達も仙桃ジュースと一緒に食べている。仙桃も神域となった効果か収穫量が格段に上がったため、酒やジュースも思い切り作れるのだ。


 久しぶりの串カツを堪能した後は皆でベッドで就寝だ。今日はコタロウが俺の布団に入ってくる。今日も色々あったが、こんな瞬間に幸せを感じるな。


 そして翌日。ギルドに顔を出すと大騒ぎになっていた。昨日帰る時にセルシオさんに声をかけられなかったら絶対に来なかっただろうな。

 邪竜討伐と最高到達階層の更新。何十年と達成できなかった事を同一の冒険者が成し遂げたという事で、新人からベテランまで全ての人達が話題にしていた。


「これは凄いな」

「仕方が無いだろう。まあ一ヵ月もすれば少しは落ち着くだろう」


 一応、ベルとムギの隠形を使っているのでそうそう見つかることは無いと願いたい。

 何とかセルシオさんの所に辿り着くが、疲れてしまった。


「あの、セルシオさん」

「ジュンさん。こちらの部屋にどうぞ」


 俺達に気が付いたセルシオさんはすぐに別室に通してくれた。


「凄い騒ぎですね」

「仕方がありませんよ。それにジュンさん達はこれからの方が大変になりますよ」

「やっぱり色々ありますか?」

「ええ。まずはサクスム家から呼び出しがかかっております」


 普段なら面倒だと思うが、今回に関しては良かったと思う。


「いつ向かえばいいですか?」

「早い方が良いでしょうね。明日か明後日にでも行けるならその方が良いでしょう」


 セルシオさんに言われて礼服も作っていたから、明日にでも行くことは可能だな。


「それでは明日でお願いします」

「分かりました。すぐに連絡を入れておきます。念のため夕方にもう一度来ていただけますか」

「はい」


 そう言って帰ろうとしたのだが、セルシオさんに引き留められた。


「あ、すみませんもう一つ用事があるんです。お二人のランクについてご相談があります」


 ランクか。確かに今回の実績なら上がってもおかしくないよな。


「まずシェリルさんは元々Aランクでしたので、希望すればAランクに戻れます。降格の理由も邪竜の呪いで力が発揮できなかった事が理由ですからね。呪いが解けた以上降格のままにする必要はありません」


 確かにな。それに今のシェリルは新しい力も手に入れているしな。


「そしてジュンさんなのですが、今回の実績を考えれば昇級試験なしにAランクも可能です。ですが私はお勧めいたしません」

「俺もAランクは遠慮しておきます。Cランクでお願いします」


 俺の返答にセルシオさんは目を丸くしていた。


「いいのですか? お勧めしないと言った私が言うのもなんですが、Aランクにもなれるんですよ」

「ランクにはあんまり興味が無いんですよね。それに俺は実績は出したかもしれませんが、経験は足りていません。それこそ対人戦闘や護衛の経験なんて無いですからね。Aランクになって要人の護衛や一流の賊の退治の依頼があっても受けられませんよ」


 セルシオさんは納得したように頷いていた。


「ジュンさんはしっかりと先の事も考えているのですね。それではCランクにしておきましょう。ただし、一定の依頼をこなすことで試験なしでBランクに上がれるようにしておきます。混乱を避けるためにも理由を合わせてジュンさんのランクアップは発表させていただきます」


 そして今度はシェリルの方に目を向ける。


「シェリルさんはどういたしますか?」

「私もCランクで構わん。呪われたのは私の失態だからな。また鍛えていくさ。ジュンと同じ条件にしてくれれば問題ない」

「分かりました。そのようにしておきます」


 話が終わりギルドから出る。ギルド内がごった返していたから解放された気分だ。


「ところでシェリルはCランクからで良かったのか?」

「まあな。今はまだ新しい力を持て余している状態だからな、あまり難しい依頼を頼まれる立場にはいたくないのだ」


 魔人となったシェリルは俺の思う以上に力を使うのが難しいらしい。


 話をしながら歩いていると広場へとたどり着いた。


 ついあの時の仔猫がいないか探してしまう。それを察しているシェリルは笑っていた。


「貴様も好きだな」

「会ったときはケガもしていたしやっぱり気になるんだよ」


 そんな事を話していると、ベルが突然茂みの中に入る。


「キュキュ!」


 俺達を呼ぶように叫んでいたので、茂みを掻き分ける。するとそこには血を流して倒れている仔猫がいた。


「これは危ないぞ」

「分かってる」


 すぐに月光水を使用してから、幻魔法と隠形で身を隠し、隠れ家へと移動した。


 そして医療施設に直行だ。診察の結果は気絶と栄養失調だった。ケガは大したことは無いのだが、栄養状態が悪いのが一番の問題だった。目が覚めたら栄養のある物を食べさせて、安静にする必要がある。


「良かった。ベル、良く見つけてくれたな」「キュー」


 実際にこのタイミングで見つからなかったら死んでたかもしれないしな。


 寝ている仔猫を撫でながら部屋へと戻る。

 ベッドに寝かせるとベル達も心配なのか交代しながら仔猫の様子を見に来ている。


「しかし何があったんだろうな? キズは一回治したはずなんだけど」

「誰かに石でもぶつけられたんだろう。見かけは可愛らしいが、魔物だからな。それに黒猫は忌み嫌われている」

「そうなのか?」


 俺は少し驚いたが、考えてみれば地球でも同じような話はあったしな。


「ああ。黒猫は魔物の中でも強力な力を持つと言われている。そのため人だけでなく、同族からも煙たがられている」

「少なくとも見かけは可愛らしいけどな」

「さらに言えばエルメシアは白猫を従えている。そしてエルメシアに敵対した魔女が黒猫を従えていた事も原因だな」


 まさかエルメシア教の奴らじゃないよな? まあ、この件に関しては普段魔物を殺している俺は強く言えないけどな。


 仔猫を撫でていると体がピクッと動き出した。そしてゆっくり目を開ける。


「シャー!」


 俺達に気が付くと飛び跳ねて部屋の隅へと移動する。そのまま俺達に向かって威嚇を続ける。


「おい。あんまり動くと倒れるぞ」


 声をかけると俺に気が付いたのか、少しだけ威嚇が弱くなる。それでも知らない場所と知らない人や魔物がいるのは仔猫にとっては恐怖でしかないらしい。


「私達は少し離れていよう」


 シェリルはそう言いながらベル達と一緒に出て行こうとしたのだが、珍しくコタロウが声をかけられても動かなかった。そしてコタロウは仔猫に近づいていく。


「たぬぬ?」

「シャー!」

「たぬ、たぬぬ」

「シャー!」

「たぬー」


 暫くの間コタロウが話をしていたのだが、仔猫の前に座り込み頭を撫で始める。すると仔猫はコタロウの胸に飛び込んだ。


「ニャー」


 するとベル達も側に集まり出して、ムギに至っては優しい声で歌いだす。仔猫はどんどん表情が安らいでいった。そして皆で仔猫に何かを語りかけて俺達の方を見る。そしてシェリルに毛繕いを頼むような仕草をした。


「承知した。ジュン新しいブラシを頼む」


 通販を開くとシェリルが真剣な目で一つのブラシを購入した。そして仔猫を膝に乗せてブラッシングを始める。


「ニャ~」


 仔猫は気持ちよさそうな声を出していた。

 その間に俺は仔猫用のエサと仙桃ジュースを用意しておいた。


 毛繕いが終わると仔猫は勢いよく食事を始めた。


「出会いは俺だったけど、コタロウ達の力の方が大きいな」

「そんな事は無い。貴様の気持ち通じたから皆動いてくれたのだろう」


 頑張ってくれたベル達にも仙桃ジュースとケーキを用意した。


 そして皆の食事が終わるのを俺とシェリルは見守っていた。ベル達と仔猫の交流は見ていて微笑ましい。


 ベルが仔猫の餌に興味を示すと、仔猫はおずおずと食べている物を差し出した。ベルはお返しにケーキを仔猫の口へと運ぶ。


「ニャーン」


 美味しいと言っているのか、コタロウ達も一口ずつあげていた。

 今度は全員分用意すれば良いか。


 仔猫は食べ終わると俺の方に寄ってきて膝に飛び乗ってそのまま眠りにつく。


「やはり貴様にも懐いているな」

「それならいいけどな」


 ベル達はお互いに顔を見合わせていた。そして仔猫と同じように俺とシェリルの膝に乗ってきてお昼寝タイムに入りだした。


 二人で顔を見合わせて笑ってしまった。


「ところで仔猫はこの後どうするんだ? 契約するのか?」

「本人次第かな。契約しなくてもここで暮らすことはできるし。とりあえず楽しんでもらえればそれでいいんじゃないか」

「そうだな」


 ベル達を起こさないように俺達も静かに休みだす。

 するといつの間にか時間が過ぎていたようで、ベル達に起こされるのだった。


「おっと、そろそろギルドに行かないとな」


 俺の言葉の意味をベルが仔猫に教えていた。


「外に行きたくなかったらこの部屋で待っていてもいいからな。俺達もそんな遅くならない内に戻ってくるし」


 声をかけると悩んでいるようでウロウロしている。だが覚悟を決めたように俺を真っすぐに見て「ニャー」と鳴いた。


「一緒に行くのか?」


 仔猫は頷いている。そこでまたベル達が仔猫と何かを話し始める。すると仔猫は俺の前に出てくる。そしてベル達が俺に何かを訴えてきている。これは恐らく、名前を付けて契約をするという事だろう。


「いいのか? 別に契約しなくてもここで暮らして構わないんだぞ」

「ニャー」


 それでも名前が欲しいようだ。

 皆やる気があるなと思いながら俺は名前を付ける事にした。


「名前が悩むんだよな」

「そんなに悩むな。直感で決めてやれ」

「それが出来たらいいけどな。……それじゃあメアだ」

「ニャー」


 返事と共にメアの体が光った。これで契約は終了だ。俺はメアに許可を貰って能力を確認させてもらう。


 名前:メア

 種族:夢猫

 主人:ジュン

 武術:睡拳

 魔法:闇 夢

 特殊:視線誘導 幸運 軽業 危険察知 隠形 猫縛り 神通力 ジェラシー・ハイ


「……俺って特殊な仲間を呼び寄せる体質なのかな?」

「否定はしないが嫌なのか?」

「むしろもっと増えても構わないと思っている。可愛いし強いし良い子だし」

「ほう。また神獣が増えたか。お主は凄いの」


 急に現れたタマモに驚きながらも質問をする。


「やっぱり神獣なのか?」

「うむ。以前も言ったが神獣は先天的に“神通力”を持っている者、もしくは一定以上の力に達した者じゃ。前者は案外数は多いのじゃが、大抵は同族にも嫌われる存在の上に力の使い方が分からず討伐されている事が多い。たまにダンジョン以外でも倒すと強力なアイテムを落とす魔物がいるが、それらは神獣じゃろうな」


 神獣って結構身近にいるのかよ。


「こ奴も一人でいたからお主が連れて来たんじゃろ。まだ小さいが苦労したじゃろうな」


 タマモが撫でるとメアは「ニャー」と嬉しそうに鳴いていた。

 俺達は新しい家族と共にギルドに向かうのであった。

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