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第七十二話 討伐の認定

 ウォーレン様に会ってから数日が経過した。その間にリア教についての会談が行われることが正式に発表された。しかもサクスム家で行われるらしく、街中でもその噂でもちきりだ。


 サクスム家の屋敷で行われる事に疑問があったが、ストンド王国自体がどの教会にも分け隔てない権利を認めており、サクスム家も王国でも有数の貴族という事で決まったらしい。


 それにツバキさんを移動させる方が危険があるというのも理由だった。エルメシア教は自分達の管轄でやりたいと主張したそうだが、国王から却下された上に「あまり我儘をいうなら国での活動を取り消すぞ。お前等はずっとギリギリの事をしているんだから調子に乗るんじゃねえぞ」と言うような内容をオブラートに包んで伝えられたらしい。


 俺達は今現在できることは無いので、以前のように森で狩りをして素材を納品する生活を送っている。そして今日も素材を納品するためにギルドに訪れた。


「ジュンさんお待ちしておりました。例の件を確認したいのですが、お時間はありますか? 今日が無理なら他の日でも大丈夫ですが」

「構いませんよ。早めの方がこちらとしてもありがたいですから」

「ありがとうございます。それではこちらに来てください」


 案内された場所は神殿のような雰囲気でキレイな場所だった。ただ恐ろしいのは隠れ家の方が神聖な空気が流れているという事だろう。


「ギルドにこんな場所があったんだな」

「ある程度の事は対応できなければいけないからな。大きい街ならこのくらいの設備は用意してある」


 もう少し準備があるという事で、セルシオさんは一度部屋を出て行った。戻ってくるまでの間、ベル達は探検を始めた。新しい場所はそれだけで楽しいようだ。


 そして部屋の中で待っていると、セルシオさんは大勢の人を連れて来た。その中には“歴戦の斧”や“大樹の祝福”、それにシモンさんの姿もあった。中にはエルメシア教の人間やギルドマスターまでいたが、今回は必要だから連れて来たのだろう。


「お待たせいたしました。それでは真ん中に出していただけますか」

「ちょっと待ちなさいセルジオ!」


 声を上げたのはギルドマスターだ。俺の方を不快そうに睨みつけてくる。


「コイツ等が邪竜を倒したと話しているの。そんなの嘘に決まっているじゃない!」

「嘘かどうかを今調べるのですよ」

「はぁ!? そんなの調べる必要がないでしょ。こんなダメな男に邪竜を倒せるはずがないじゃない。私の貴重な時間をこんな男に使うつもりなの!?」

「何を言っているんですか? 昼寝やティータイムばかりの貴女の時間が貴重な訳ないでしょう。とりあえず黙っていてください。時間の無駄です」


 バッサリとギルドマスターの言葉を切った事で、周りには動揺の声が広がる。それを無視して淡々とセルシオさんは進めていく。


「失礼いたしました。お願いいたします」


 促されるまま俺は邪竜の死体を出す。その瞬間に邪竜の周りには強力な結界が張られた。そして邪竜の呪いや瘴気がその結界の中で蠢いている。


 集まった高位の冒険者や教会関係者。それにギルドの幹部たちはその光景に驚愕の表情を見せていた。


「鑑定を使える方々は確認をお願いします。鑑定できなかった者と、邪竜以外を鑑定した者は私の前で宣誓をした後にお答えください」


 セルシオさんは天秤を持っていた。シェリルに尋ねてみると、あれは“真実の瞳”と似た効果を持った“審判の秤”というアイテムらしい。あのアイテムの前で嘘をつかない事を宣誓してその内容を告げると、真実かどうかを判定してくれる。そして嘘をついた者には天罰が下される。


 そんなアイテムまで出されているので嘘をつく者はいなかった。何名かは鑑定できなかったと話す者はいたが、邪竜ではないと話す者はいない。


「なるほど。ギルド並びに教会並びに冒険者の鑑定士達によりここにある死体は邪竜と確認されました。ではジュンさんが率いる“旅する風”は邪竜を討伐したと認定いたします」

「ちょっと待ちなさい!」


 …ウザ


「邪竜の死体ということは分かったわ。でもコイツ等が倒した証拠は無いでしょう。他の人の手柄を横取りしたんじゃないの」

「冒険者は討伐した死体もしくは証明部位を持って来てくれれば認定されることになっていますが」

「はぁ!? 横取りの可能性がある以上認められないわ」

「まあ言っている事は理解できますね。では他のいくつかのパーティーも怪しい部分がありますので、該当するパーティーもランクを一時戻しますね」

「……え?」


 呆気に取られているギルドマスターを無視してセルシオさんは俺に向き直る。


「ジュンさん。貴方達が倒したという証拠は何かございますか?」


 俺は残っている竜の素材をいくつも出す。結構な数と戦っていたのでセルシオさんに渡している物以外にも結構あるのだ。


 続々と出てくる竜の素材に冒険者達は目を輝かせる。竜の素材の武器や防具は強力なため需要が大きいのだ。そしてその後に俺は邪竜に近づいていく。結界は邪気を閉じ込める者の為人の出入りは自由なのだ。


 俺はその結界内に入って邪竜を触ってみせる。


 周囲からは悲鳴が聞こえるが俺の体は装備や、隠れ家での生活のおかげで死んでいる邪竜の呪いは通じない。俺は平然と戻ってみせる。


「とりあえずはこんな感じですかね。この竜の素材を全部盗んだ上に、邪竜の死体まで盗めるなら俺は冒険者じゃなく盗賊界隈でトップに立てますよ。それに邪竜の呪いが通じなかったのも大きいですね。単純な戦闘力なら邪竜より強い魔物はいるはずですよ。それとこの剣のお陰ですね」


 俺は竜奏剣を出して皆に見せる。


「ダンジョンで手に入れたアイテムです。竜に対して大ダメージを与えるものなんです。これがあったから竜の巣や邪竜を攻略できたでしょうね。運に恵まれた部分も大きいですが」


 実際に幸運の金貨の存在は大きかったからな。またあのアイテム欲しいんだよな。

 俺の発言に対して一人の冒険者が手を挙げた。


「ちょっと待ってくれ。今、竜の巣を攻略したと言ったか? それはつまり八十階を超えたという事か?」


 この質問に対して答えたのはセルシオさんだった。


「そうですね。ジュンさん達は八十一階まで進んでいます。ギルドカードにも記載されておりました。素材や話も不自然な部分がありませんでしたので、邪竜討伐と一緒に発表する予定でした」

「「「うぉぉぉっ! 凄え!」」」


 一部の冒険者は憎々しく俺を見ていたが、大多数の冒険者は称賛してくれた。


「おい。不可能とまで言われた七十八階をどうやってクリアしたんだよ」

「八十一階にはどんな魔物がいたんだ?」

「竜の素材を売ってくれないか」


 冒険者達がどんどん俺に話しかけてくるがセルシオさんが全員を止めてくれた。


「静かにしてください」


 言葉と共に流れ出す冷気に全員落ち着きを取り戻した。


「ダンジョンの情報についてはジュンさんに許可を貰っていますので後で公開いたします。素材の個人間の取り引きに関してはギルドの関わる事ではありませんが、今はお控えください」


 渋々引き下がる冒険者達だった。


「一度確認いたします。ジュンさん達の邪竜討伐を認められない方は挙手をお願いいたします」


 ギルドマスターは手を挙げなかった。だが一人だけ手を挙げた存在がいた。それはエルメシア教の司教だ。


「クーズ司教。理由をお聞かせください」

「至極簡単な理由ですよ。実はエルメシア教で邪竜討伐を考えていたのですよ。私ほどではありませんが、邪竜の呪いを跳ね返し倒せるくらいの聖魔法の使い手が選ばれて討伐に向かっておりました。その者達からの連絡が来なくなったと思ったらこれですよ。きっとこの者が手柄欲しさに殺したのでしょう。私は信徒たちの無念を晴らしたいのです」

「なるほど。ではクーズ司教。私の前で宣誓をしてからもう一度同じことを喋っていただけますか」


 クーズは表情を歪ませる。


「貴方はエルメシア教の司教である私の言葉が信じられないのですか?」

「誰であろうとやってもらいます。クーズ司教も事実を話しているのであれば問題ないはずです」

「不愉快ですな。私の言葉を信用して無い者の言う事には従う気はありませんな」


 クーズは動こうとせずに嫌味だけを放ってくる。


「しかしそれではクーズ司教の言い分は認められませんよ」

「つまりそれは教会の意向に逆らうという事でいいのですよね」


 教会関係者が盛り返したように、クーズに賛同するような声を送る。


「さすがクーズ司教ですね。セルシオ。意見が無いのならこの邪竜はエルメシア教が討伐という事でいいわね」


 さすがにここまで来ると黙らなくていいよな。


「それは出来ません。クーズ司教の言い分は筋が通りません」

「セルシオさん。もういいですよ」


 俺の言葉を聞いてセルシオさんだけでなくシェリル達も表情を変える。反対に教会関係者はニンマリだ。


「ジュンさん何を言っているんですか!」

「いやいや。少しは賢いようで良かったですよ。正直に話してくれたので嘘をついたことは不問にいたしますよ」

「何言ってんだ?」


 周囲の人全員が困惑の顔をした。

 俺はそんな雰囲気を気にせずにクーズへと近づく。


「おい。司教様の前で頭が高いぞ」


 そんな事を言う護衛を蹴飛ばしてクーズを掴む。

 周りが冒険者ではなく教会関係者ばかりで助かった。


「何をしているの!」


 ギルドマスターが怒号を上げるが、俺はクーズに蛇咬を突き付ける。


「ちょっと動かないでもらえますか? クズ司教の言っている事が本当か証明したいので」

「何をする気なのよ!?」

「え? だって邪竜の呪いを跳ね返し倒せるくらいの聖魔法の使い手を選んだんですよね。しかも司教はそいつらより優れているんでしょ。だから邪竜の死体に近づけるんですよ。それで呪われなければ、司教の言っている事の信憑性が上がるでしょ。俺って優しいな」

「は?」


 司教の顔が青ざめていく。俺はニンマリと笑顔を見せる。


「さあ行きますよ♪ 千の言葉よりも一つの行動ですよ。中心に放り込んであげますから安心してください。それと浄化も出来るならお願いします。今のままだと素材として使えないので」

「セルシオ! そのバカを止めなさい」

「いえ、司教は喋ってくれない以上、この方法は意義がありますので。ただジュンさんも自分で動かずに次からは私に提案してください。その方が円滑に進みますから」

「分かりました。すみません」

「コイツ等何言っているのよ」


 周囲の冒険者達は面白いと思ったのか“歴戦の斧”を筆頭に駆け寄ろうとする人たちを取り押さえている。


 そして邪竜に近づくにつれて司教の顔に恐怖が宿っていく。俺は近づくにつれて歩くスピードを落としていく。


 俺達は慣れているし、ベテランの冒険者達は魔物のプレッシャーに耐性があるが、教会で過ごしていた者達は違う。邪竜は死んでも尚、強烈なプレッシャーを放っているのだ。それに死体とはいえ迫力がある。クーズ程度なら近づくことも出来ないだろう。


 そんな邪竜の前に無理やり連れて行くのだから、クーズは平穏ではいられない。司教と言う立場も忘れて取り乱しながら命乞いをしている。


 どうしよう。楽しくなってきた♪


「止めろ! 止めろ! 止めてくれ! さっき言った事は噓なんだ!!」


 そこで一度俺は足を止める。


「……」


 そして何も言わずまた歩き出した。


「おい! 聞いているのか嘘だと言っただろ! ちょっとした冗談なんだよ!」


 そのまま邪竜の目の前まで来た。結界を超えたり、結界に不具合あれば司教は呪いを受けるだろう。


「さて司教。貴方は邪竜の呪いを跳ね返したり、邪竜を倒す力があるんですよね」

「違う違う! 冗談だったのだ! 私にそんな力は無い!」

「へー、司教が嘘をつくんですね。それじゃあ邪竜討伐に向かった人たちがいたというのは?」

「あれも嘘だ! そのちょっとした冗談なんだよ。君達が討伐したのが真実なのだろう」


 命がかかるとここまで発言が変わるのか。だけどその発言は悪手だよな。


「なら嘘や冗談で俺達を殺人犯にしようとしたんですか」

「ひっ」


 笑顔を崩さず司教を見つめると、アンモニア臭がした。この司教漏らしやがったな。


「…審判の秤の前で本当の事を告げて下さいね。それと冒険者同士の争いや進退に関して口を挟まないで下さいね。あまりにも酷いようなら、俺も覚悟を決めますからね」


 司教はただただ頷いている。そしてそのまま審判の秤の前で先程の発言が嘘であったことなどをしっかりと告げた。司教がこうなった事で教会関係者は何も言えなくなっている。


 ギルドマスターも俺から目を逸らす状況だ。そんな訳でこの日。俺達の邪竜討伐及びダンジョンの最高到達階層の更新が正式に認められた。

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