第七十一話 今後の展開
子供達との遊びが終わると皆で孤児院へと帰る。子供達は疲れたのか眠そうな子もちらほらいたりする。
孤児院の中に入ると、タイミング良くシモンさんが部屋から出てきた。ただし見慣れない男性と一緒だ。
男性は豪華な服を着たイケメンだ。ただし、クールな雰囲気を醸し出しており、取っつきにくそうだ。
シモンさんは俺に気が付くとすぐに挨拶をしてくれた。
「これはジュンさんにシェリルさん。来てくれていたのですね。挨拶せずに申し訳ありません」
「こちらが勝手に押し掛けてきただけですので、気にしないで下さい。それより昨日はすみませんでした」
そう言って俺とシェリルは頭を下げる。
「はて? 昨日何かありましたかな? それよりも紹介したい方がおるのですよ。こちらはサクスム家のご当主のウォーレン・サクスム殿です」
シモンさんは昨日の事にはあまり触れず、隣にいる男性を紹介してくれた。
男性はまさかの領主であった。そしてウォーレン様は俺達を観察するように見てきた。
「シモン。先程喋っていたが、この者達がジュンとシェリルなのか」
「ええ、そうですよ」
「そうか。シェリル殿の話は聞いたことがある。Aランクの中でもトップクラスの実力者に出会えるとは光栄だ」
シェリルを誉めているが、その表情は一切変わらなかった。そしてウォーレン様は俺をジッと見据える。
「君は小さな従魔二体と共に活動している冒険者で間違いないな」
「現在は倍に増えておりますが」
「ほう。どのような従魔か見せてくれないか」
意図がわからないが、とりあえずベル達を呼んでみた。並ぶように声をかけると胸を張ってビシッと整列をする。ウォーレン様はそんなベル達わ見つめていた。
「ずいぶん小さい者達ばかりだな。戦えるのか?」
「全員ダンジョンでも活躍してくれました。まあ戦えなくても問題はありませんけどね。側に居てくれるだけで心強いですから」
「そうか」
その時ウォーレン様が少しだけ笑ったように見えた。
「ところで彼らに触っても大丈夫か?」
思いがけない話だったが、ベル達は構わないようだったので許可を出した。するとウォーレン様はまずベルに手を伸ばした。
「可愛らしいな。元気なようだし、はだ艶や毛並みも良い。良い物を食べさせてもらっているのだな」
「キュー」
当たり前と言っているかのようにベルは頷いていた。そしてウォーレン様はベルを肩に乗せると今度はムギを手に乗せた。
「この子はラッキーバードか? 絶滅したと聞いていたがまだいるのだな。元気に育ってほしいものだ」
そう言いながらベルとは反対の肩に乗せる。そして両手でコタロウにとリッカを抱えた。
「至福の時間だな。…ふむ。この子の抱き心地は少し違うな。ぬいぐるみに近いな」
「リッカの方はリビングドールですからね」
「このようなリビングドールがいたのか。娘にせがまれてしまいそうだな」
ウォーレン様はしばらくの間ベル達を離さなかった。無表情だが喜んでいるのが伝わってくる。
そしてベル達を名残惜しそうに放すと俺へと向き直った。
「君にとって従魔はどんな存在だ?」
「う~ん。家族・仲間・相棒とかですね。少なくても使い捨てるなんて事は出来ませんね。ベル達は守りたくなるし、逆に俺を守ってもくれますからね」
そう言いながら寄ってくるベル達を今度は俺が抱き上げた。
「そうか。我が家にも大切な家族がいるんだ。君達を呼んでお喋りでもしたいものだな。シモンに聞いていた通りの人間で安心したよ」
意外と領主様からの好感度が高い事に驚きながらも、せっかくのチャンスなので俺は昨日の事を聞いてみる事にした。
「ありがとうございます。ところでリア教の巫女様の今後の動きを教えていただくことは可能でしょうか?」
「…そちらのシェリル殿はツバキ殿と懇意の仲とお聞きした。……良かろう。シモン、また部屋を借りるぞ」
部屋に入ると座るように促される。
「エルメシア教とリア教の間で何が起きたかは噂になっているから省かせてもらう。だがエルメシア教は本気でリア教を潰そうとしている。そのために巫女であるツバキ殿の事を引き渡せて言っている」
ウォーレン様も疲れているのかため息を一つついた。
「私はリア教が無くなってバランスが崩れる事を危惧している。それにエルメシア教から提出された証拠や証言は信憑性が低い。今の所ツバキ殿を引き渡すつもりはない。彼女は有能でストンド王国の各地で慈善活動を行ってくれていた恩もあるしな。個人的にも助けてもらったことがある」
少なくともウォーレン様の心情はこちら側なのだろう。だけど、疲れている事からも一筋縄ではいかないのだろうな。
「だが今回の件では他の教会にとっても見過ごせない。エルメシア・リア教以外にもロクサーヌ・ボルボガ・ヴィーネ・フート・トルメイク・ロイド教。八大教会全ての問題となっている。そこで後日各協会の代表者が集める事にした。そこでリア教及びツバキ殿の処遇が決まる」
ダメだ。教会の名前を覚えられる気がしない。そんなにいるのかよ。
「そして今現在、エルメシア教に賛同しているのがボルボガ教とロイド教だ。反対しているのがロクサーヌ教、中立状態がヴィーネ・フート・トルメイク教だ。ハッキリと言って分が悪いな。ヴィーネ教はどちらかと言えば反対派だが、それでも確実ではない」
隣に座っているシェリルが動揺したのが伝わってきた。
「原因は何かあるのですか?」
「今回はエルメシアの聖女が出てきている。巫女や司教はあくまで人が決めた者だが、聖女は女神に選ばれた存在だからな。女神の代弁者と言っていいだろう。その聖女がハッキリとリア教を批判したのだ」
沈黙が流れる。そこで口を開いたのはシモンさんだ。
「ロクサーヌ教では、巫女でありツバキ様の友人であるシズク様に来てもらう予定ですよ」
「シズクが来るのか」
「ええ。昔から貴女の事やツバキ様の事は伺っております。きっとお力になってくれると思います」
シェリルにとっては二人と再会できることは嬉しい事のはずだけど、こんな展開では嬉しさが半減だよな。
「不躾なお願いですが、集まりに参加させていただくことは可能ですか?」
「悪いがそれは難しい話だ。私個人としては参加したい気持ちは理解する。だが聖王国の事件の関係者ではない上に、何の地位も無い一介の冒険者だ。そんな者の参加を認めたら収拾がつかなくなる」
「では何か成果を上げたら参加を認めていただけますか? 例えば街のダンジョンの最高到達階の記録を塗り替えたり、邪竜を退治したり、それに匹敵するような魔物を倒すとか」
「ふむ。……本来ならば多大な報酬を与える成果だが、それを棒に振っても良いと言うのならば同席を認めよう」
「そうですか。…お時間を頂いてありがとうございます。こちらは時間を作っていただいたお礼になります。ダンジョンで見つけたお酒です」
少しでも印象を良くしておこうと思い俺は酒を二本渡すことにした。さすがに仙桃酒は無理なのでロイヤルハニーシロップで作ったミードとブドウとよく似た果物で作ったワインを渡しておいた。
「すまないな。難しい話だろうが、君達が私の予想を超えてくれることを祈っている。それでは私はそろそろ失礼させてもらう」
ウォーレン様はそう言うと部屋から出て行った。シモンさんも見送りのために部屋を出る。
「とりあえず、ウォーレン様はツバキさんの味方っぽいな。後は邪竜討伐の件はセルシオさんに認めてもらおう」
「こんな事をしなくても聖女と聖者という事を伝えれば良かったんじゃないか。その方が発言力が出ると思うぞ」
「まあな。だけどそれはタマモに確認してからの方が良いだろ。それに切り札として使った方が効果的だ。エルメシア教の優位を一気に覆すカードかもしれないしな」
話をしているとシモンさんが部屋に戻ってきた。
「すみません。昨日もですが急に押しかけてしまいまして」
「構いませんよ。それこそシズク様に話は聞いていますから、シェリル殿の気持ちは理解いたしますよ。それよりもご無事で戻ってきて何よりです」
「ありがとうございます。その節は助かりました」
少しの間シモンさんとは世間話をする。そして夕食に誘われたので一緒に頂くことにした。そのまま俺達は孤児院に一泊し翌日を迎えるのであった。




