第七話 人は見かけによらない
翌日。通販で購入したカバンを携えて俺達はギルドの中へと入る。そして、素材買取のカウンターへと足を運んだ。
「査定をお願いします」
「かしこまりました。こちらの台に収まる量でしたらそのままお出しください。それとギルドカードの提出をお願いします」
担当してくれたのは不愛想な感じの男性だった。だが仕事をしてくれれば構わないので俺は気にせず素材を台の上に出す。オーク肉・薬草・毒草・弱い魔物の肉や皮・その他観賞用の花などがメインだ。さすがに“ダイナソークロコダイル” や“美味死草”などは出していない。
「これは…」
男性の表情が変わる。真剣な目つきで素材の一つ一つを確認していく。
俺はいくらになるか気になってしまう。
昨日街を歩いていて思ったが、銅貨が百円、大銅貨が千円、銀貨が一万円くらいの価値だった。多分だが、大銀貨が十万円で金貨が百万円とかだろう。大銀貨以上になれば嬉しいが、高望みはできないだろう。
「確認が終わりました。今回の売却価格はこのようになります」
男性は俺に紙を見せてくる。細かい内訳も書かれていたが、とりあえずは合計金額だ。
「大銀貨三枚と銀貨四枚!?」
約三十四万円だ。思わず驚いて声をあげてしまった。
「あの間違っていませんよね。こんなに高くなるんですか?」
「間違いありませんよ。草花が上手に採取されており、価値が下がることが無かったのが大きいですね。観賞用に欲しがる方は大勢おります。それにオークや他の魔物の解体が非常に上手ですね。皮などは最高品質です」
触って念じるだけで採取できるのが大きいな。それに解体も自動なのが大きい。…俺が頑張った要素は無いな。本当に通販の能力をとられなくて良かった。
「最近は強い魔物を倒せばいいと考える新人が多かったのですが、採取や獲物の状態を気にする新人も見れて喜ばしいですよ。これからも頑張って下さい」
男性は最後の方は機嫌が良かったと思う。微笑みを浮かべた男性に応援を受けて俺達は街へと出掛けた。
「今日は屋台の料理なんかも食べてみるか」
「キュキュ」
「たぬぬ」
両手を上げて喜ぶ二匹。ベルに至っては食べたい料理を探し始めているのか、キョロキョロと辺りを見回し始めている。
「ベル。しばらく街に滞在する予定だから焦るなって。気になる所は全部回ればいいだけだから」
「キュー♪」
機嫌を良くしたベル達と適当に歩いていると、二人組の男性に目がいった。
「さあ。冒険者の方々。この店の商品がお勧めですよ。ベテランが使う高価な装備から、初心者用のセットまで幅広く用意しております。武器・防具・アイテム・薬何でも手に入りますよ」
男性達が紹介している店は大きくて立派な店だ。この辺の大手の店かもしれないと思い、入ろうとすると突然肩を掴まれた。
振り向くと人相の悪い男が三人立っている。十字傷に火傷にアイパッチとそれぞれ特徴があるが、顔はよく似ているし。兄弟だろうか?
「おい兄ちゃん新人の冒険者かい?」
顔に十字傷のある男が問いかけてきた。威圧感があり、身構えながら俺は口を開く。
「そうですけど何か?」
「なら悪いことは言わねえ。この店は止めておけ。大手の店だが、見かけだけの武器しか置いてねえぞ。俺達がもっとお勧めの装備を見繕ってやるよ」
どう見ても絡まれているよな俺。
「分かりました」
ここだと迷惑になると思い場所を移す。いざとなればベルもいるし何とかなるだろう。そんな思いで移動を開始したのだが。
「キュキュ♪」
「たぬたぬ♪」
ベル達は男達の頭へと跳び移り、スキンヘッドの頭を機嫌よくペシペシと叩いて遊んでいた。
「がはは。この頭が気に入ったのか?」
男達も嫌な気はしていないようで、ベルとコタロウと遊んでくれていた。俺はすっかり毒気を抜かれた気分だった。
そして人通りの少ない場所に連れていかれると、男達は店を広げ始めた。
「武器は俺が担当だ。兄ちゃんはどんな武器を使うんだ?」
十字傷の男の問いに俺は正直に答える。
「短剣・棒・針だな。あるのか?」
「変わった武器を使うな。短剣はあるが、棒は一つだけだな。申し訳ないが針はさすがに無いな。大手でも武器用の針は中々無いと思うぞ」
十字傷は申し訳なさそうにしているが、短剣を俺に勧めてくる。
「短剣ならそれなりにあるぜ。一番安い奴はメインの武器には向かないが、投擲には使えるぜ。メインならこっちの短剣だな。魔力との馴染みもいいし、軽いが強度も高い。良い武器が揃えられるようになったらこっちを投擲用にしてもいいぜ」
値段は大銅貨八枚か。安い方は大銅貨一枚だから結構差があるな。他にも銀貨や大銀貨の物もあるみたいだが、俺の持っている武器の方が性能が良さそうだな。
「ちなみに棒はどんな物ですか?」
「これだ。"鎮魂"という銘だ。ソウルツリーという特殊な木から作られているんだが、攻撃性は低いな。アンデット系には効果があるようだが、本質は招魂だ。上手くいく可能性は低いがな」
そう言って笑っていたが、俺は少し興味があった。
「値段はいくらですか?」
「興味があるのか?棒系の武器は安いとはいえ、特殊な素材が使われたいるからな。…金貨二枚は必要だ」
あ、高い。
「まあ、防具やアイテムも見てから、予算と相談しな。興味があればしばらく取り置きはしといてやるよ」
「ありがとうございます」
そのまま俺は顔に火傷のある人の防具を見せてもらう。
防具は色々なタイプがあるが、ローブやレザーアーマーの方が俺としては好ましい。そして俺は一つの防具に目がいった。
「これは」
「お、良い物に目を付けたな。それは“トライデントディアの革鎧”だ。魔法にも物理にも強い上に軽い。さらに魔力と体力を少しずつだが回復させる効果を持っているんだ。値段は金貨七枚だ。他のは多少おまけできるが、コイツだけはこれ以上の値下げは無理だからな」
良い物は高い。気になるがしょうがないな。
「それは残念です」
「まあ頑張って買えるくらいに稼ぐんだな。だが、防具はいくつかあった方が良いから買うことを勧めるぜ。予算に余裕が無ければ“フォレストボアの革鎧”がいいぜ。値段以上の性能は保証する」
値段は銀貨三枚か。確かに他と比べれば安いな。
一旦保留にして俺は最後に眼帯をしている男のアイテムに目を向ける。だけど何が何だか分からないな。
「…お勧めを教えてもらえますか?」
「いいぜ。冒険に出かけるなら煙玉・爆音玉・閃光玉・簡易結界符は持っていた方が良い。煙玉は視界と臭いを遮って逃走しやすくなる。爆音玉は音でビビらせることができるし、閃光玉はタイミングが良ければしばらく視界を奪えるぞ。簡易結界符は野営の必需品だ」
どれも確かに効果的だな。でもどれくらいの効果があるか分からないから大量には買えないな。
「ほらよ」
そんな事を考えていると、眼帯の男は俺に一つずつアイテムを渡してきた。
「試供品だ。試すなら街の外の草原で人がいない時に使えよ。有用だと思ったら買いに来い。どれも大銅貨一枚から五枚で買える物だからよ」
「ありがとうございます」
一通り見たので俺は何を買おうか考える。悩んでいる間、ベルとコタロウは男達が相手をしてくれていた。
現実的に考えれば短剣と予備の防具を買っておくのが良いと思う。
しかし、手が届かないが“鎮魂”と“トライデントディアの革鎧”は欲しいな。……物々交換行けるか?
「すみません。素材で割り引いてもらう事は出来ますか?」
「物によるな。価値が高い物なら喜んで交換するぜ。だが、質が悪かったりすれば残念だが諦めてくれ」
俺は“ダイナソークロコダイル”の牙・爪・皮を三人の目の前に出した。牙と爪は十本ずつで皮は五枚だ。すると三人は目の色を変えた。
「コイツは凄えな」
「ああ。品質も最高のもんだ」
「武器にも防具にも良い素材だな。俺のアイテムには高級過ぎるのが残念だけどな」
三人は話し合いを続けている。ポイント的には“鎮魂”と交換位なら出来そうだけどどうなることやら。
「待たせたな。これらと交換でお願いしたい」
俺の目の前には“鎮魂”、“トライデントディアの革鎧”、それとテントが用意されていた。
「このテントは?」
「中に入ってみろ」
言われた通りに中に入ると、テントとは思えない広さがあった。しかも地面に寝ている感触ではなく、クッション性がある。
「そのテントは隠蔽と結界の効果もついている優れものだ。この三つと金貨三枚で交換してくれないか?」
「そんなに!?」
俺は驚いてしまったが三人は本気だった。
「売るところに売ればもっと高値がつくだろう。俺達だとこれが限界だ。無論、他の場所で売ってから商品を買いに来ても構わない」
そう言ってはいるが、欲しがっているのは目に見えて分かる。だが、この条件で交換すると彼らの生活がキツくなるようにも思える。俺としては"鎮魂"と"トライデントディアの皮鎧"と交換出来れば問題ないんだが。
「…それじゃあ金貨はいらないので、棒と針の武器を仕入れてくれませんか」
「そんな条件でいいのか?俺達としてはありがたいが」
「ええ。ベルとコタロウが貴方達を気に入っているみたいですからね。長いお付き合いをさせていただければと」
「恩に着るぜ。俺はクロスだ。武器で相談があったら来てくれ」
「俺はバーンだ。防具の相談に乗るぜ」
「俺はパッチ。アイテムが専門だ」
三人は俺にそう言った後にベル達の頭を撫でたりする。ベル達は楽しくなったようで、三人の頭へと登り頭をペチペチ叩き始める。そんなにスキンヘッドが気に入ったのか。
懐が何も痛むことなく、俺達は三人の店を後にした。ちなみに、オマケとしてベル達はスカーフを貰っていた。ハンカチよりも全然丈夫な素材で、僅かだが魔力や速さが上がるらしい。
ベル達は満足そうな表情で三人に抱きついていた。そして俺達はお礼を言って三人の店を離れる。
「いい買い物ができたな。ベルもコタロウもまた行こうな」
「キュキュ♪」
「たぬぬ♪」
ついでに大手の店の品揃えも気になったので先程の大きな店にも向かってみた。
だが入店の時点で問題が起こる。
「そのような貧相な従魔を連れての来店はお断りです」
決して従魔の来店がダメな訳ではない。狼や鳥系の従魔を連れて入店している人もいる。この差別の時点で思うところはあったが、少しベル達には隠れてもらってから一人で店の中に入ってみた。
そして思った。高いしギラギラしていると。品質はそんなに悪いとは思わないが、三人組の店と比べて値段が倍以上違っている。
俺自身がセンスが良いわけではないが、興味を惹かれる物もなく、無駄に豪華な装備が並んでいるスペースもある。少なくとも俺が買いたい物は無さそうだったので店を出た。
入店しようと思ったときに、三人に絡まれたときはチンピラと思ったがかなり善良な人達だったな。顔だけで判断しちゃダメだと心から思った。