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第六十六話 神域

「せっかく生き返ったというのにまた貴様の泣き顔とはな」

「…うるさい」


 俺は目を赤くしながら用意した仙桃をシェリルに渡していた。


「やはり美味いな」


 微笑みながら食べるシェリル。俺はすっかり力が抜けきってベッドに倒れこんでいた。


「ところでシェリルは体の方はどうなんだ? 違和感とかないのか?」

「ふむ。今の所問題ないな。一応ステータスも見ておくか」


 そう言ってシェリルはステータスを確認し始めた。


「すっかり呪いも解けているな。まあ違っているのは種族が人間から魔人に変わったくらいか」

「そうなのか。………え?」


 俺は跳び起きてシェリルを見た。


「それって大丈夫なのかよ!?」

「体に異常は感じられんし問題ないだろう」


 俺とは正反対に当の本人は落ち着いている。そしてタマモも口を挟んできた。


「実際に種族が代わっても大きな問題は無いぞ。魔人になった事での変化は不老長寿・身体能力の向上・魔力向上くらいじゃな」

「ならば良い事の方が多そうだな」

「実際に人より種族としては上じゃな」


 それならいいかと俺も思ってしまった。


「あー、これで本当にすべてが終わった気がする」

「ならば美味い食事を頼むぞ。最近はカップ麺しか食べていないのじゃ。たまにならいいが、毎日だと飽きてしまう」

「分かったよ。パーティーする予定だったし豪華に行こう」


 その言葉にはタマモだけでなくベル達も飛び上がって喜んだ。


「しかし色々終わったが暫くはダンジョンから出れそうも無いな。貴様も私も装備がボロボロだ」

「そうだな。武器は大丈夫だけど防具がもうボロボロなんだよな。予備の防具だと心許ないし。…最後の運試しでもするか」


 俺は幸運の金貨を取り出して使用した。これで使用回数を使い切ってしまったので金貨は消し炭のようにボロボロになって消えてしまった。


「何がでるかな」


 ガチャを回してアイテムの確認を行う。


 “鹿王の角”

 鹿系の魔物の素材で作られた武器や防具をパワーアップさせる。


 “冥竜の革鎧”

 冥竜の皮で作られた鎧。並大抵の攻撃ではダメージを与えられない。身体能力・魔力を上昇させる。


 “魔導船”

 空を飛び海中にも対応している。中は空間魔法で広くなっており色んな設備が整っている。外敵に対する攻撃手段もあるが、隠密機能の高さの方が目立つ。


 “隠れ家のオーブ(カスタム 花畑)”

 壊すことによって隠れ家の能力にカスタムできる。


 “隠れ家のオーブ(カスタム 果樹森林)”

 壊すことによって隠れ家の能力にカスタムできる。


 “隠れ家のオーブ(カスタム 発券機)”

 壊すことによって隠れ家の能力を得られる。発券機からは回数券とパスポートを発券できる。回数券は書かれている回数分隠れ家の能力を使える。パスポートは書かれている日数分隠れ家の能力を使える。どちらも書かれている名前の持ち主しか使用できない。


 “ミラージュハウス”

 魔力を流すと自身と指定した人物たちを蜃気楼が包み込み家の中に案内される。次元の隙間に隠れているため攻撃が当たらなくなる。


 “戦姫の闘衣”

 物理・魔法耐性を高め攻撃力も高める。隠密性にも優れ状態異常への耐性も高い。戦う場所も選ばない優れもの。


 “鬼姫のドレス”

 物理・魔法耐性を高め攻撃力も高める。戦闘時間が長引くほど効果が上がっていく。ただし限度があり、戦闘終了すると元に戻る。


 “酒造の大樽”

 樽に水と酒の素材を入れると自動的に酒を造ってくれる。入れた物によってできる酒の種類やランクが変わる。


「これは何というか」


 かなりの運を使った気がする。ミラージュハウスが被っているが、隠れ家のオーブが三つも出ているのはかなり大きい。武器があれば尚良かったが、防具がかなり充実したと思う。鹿王の角もトライデントティアの革鎧の強化に使える。


「どうだったのだ? 良い物が多く出たみたいだが」


 俺の表情を見たシェリルが笑いながら問いかけてきた。


「かなり良かったぞ。隠れ家も充実しそうだ。せっかくだから見に行くか?」


 聞いてみると皆乗り気だったので、隠れ家のオーブは三つとも壊しておいた。発券機は最後で良さそうなので、最初に花畑に行くことにした。


「おー、花の絨毯じゃな」


 タマモの言う通り花畑はキレイな花が咲き誇っていた。この光景は中々すごい。


「“沈静花”、“なごみ花”、“スマイルフラワー”。キレイなだけでなく癒しの効果を持つ花も多いな」


 俺は収納しないと分からないが、シェリルは次々と花を鑑定しているようだった。


「キュキュ」


 ベルが皆を呼ぶように声を上げる。ベルの示す先には大きいコテージが三棟と大きい樽がいくつも置いてある場所があった。


 気になってコテージの扉を開けると、そこには生活している生物が大勢おり、ガッツリと目が合った。

 その生物は片手を上げてこう言った。


「くま♪」


 メチャクチャ愛想良く挨拶をしてくれた。挨拶をしてくれたのは蜂のようなお尻と羽が生えている小柄なクマだった。


「どうも」


 俺も手を挙げて挨拶を返すと、他の仲間達もご機嫌で抱き着いてくる。正直抱き心地もかなりいい。


「ハニーベアじゃないか」


 後から入ってきたシェリルの目が輝いているように見えた。


「一応聞くけど友好的な魔物なんだよな」

「勿論だ。人懐っこい魔物だぞ。…まあ、乱獲されて絶滅した種族なのだがな。私も本でしか見た事がない魔物だ」


 シェリルは寄ってきたハニーベアをギュッと抱きしめている。ベル達もすぐに友達になったようで楽しそうに遊んでいた。


 そんな中タマモはイスに座ってハニーベアから貰った小瓶の中身を舐めていた。


「タマモは何を食べているんだ?」

「ロイヤルハニーシロップじゃ。かなり珍しい食材じゃぞ」


 興味を示すとハニーベアたちが俺達にも持って来てくれた。舐めてみるととても優しい甘さで後を引く味だった。


「これはいいな。…もしかして外にある大樽の中身だったりするのか?」

「くま♪」


 正解らしい。この家くらいの大きさがある樽の中身が蜂蜜だと思うと凄い事だな。

 このまま一日ここで生活できそうだが、もう一か所見る場所もあるのでハニーベア達と分かれて果樹森林へと向かう。


「しかし、果樹園ではなく果樹森林か」

「それほど大規模なのだろうな」


 期待して扉を上げると最初に見えたのは山小屋だった。そして次に四方に広がる多くの果物の樹だ。


「キュキュキュキュ♪」


 この光景に一番喜んでいるのはベルだった。周囲の樹に登り果物を沢山収穫している。


「見事なものじゃな。しかしこれだけ広いと遠くの樹の収穫は難しそうじゃな」

「確かにな」


 そう言いながら、俺はまた何か魔物がいないかと期待しながら山小屋の扉を開けた。


「ここはいないのか。…うん? この地図は何だ?」


 小屋の中には大きな地図があり、細かくどのエリアに何があるのかを書いてあった。


「便利だな」


 そう言いながら地図に触った瞬間、俺は別の場所に飛ばされていた。


「え? …帰れるの?」


 そんな心配をしたが近くにはまた小屋があり、中には先程と同じ地図があった。それを触ると最初の小屋へと戻る事ができた。

 その事を説明すると、ベルは色んな場所に飛び始めた。そしてコタロウ達も続くように飛び込んでいく。


「元気だな」

「そうだな。私達は少し待っているか」

「果物が沢山あるしの。先程貰ったシロップをかけて食べても良いかもな」


 ゆっくり山で待っているとベル達が慌ただしく戻ってきた。


「どうした?」

「キュキュキュキュ!」


 何やら引っ張ってくるのでベル達が示した場所へとワープする。


「うお!?」


 そこには大樹があった。月光樹や不老長樹とは違って地味な樹ではあるがどっしりと構えた迫力がある。


「これも凄いな。何の樹なんだろうな?」

「お主の空間は凄まじいの。これはライフツリーじゃ。命の樹とも言われておる。この樹からとれる素材は単体では意味が無いが、不老不死の薬の素材になるぞ。また、周囲の作物や水の質を向上させぞ」


 俺は流れている小川の水を汲んで飲んでみた。


「あ、美味い」


 月光水や祝福された水と違って、普通の水なのだろうがこれは飲みやすくスッキリしている。

 その後も周囲を探索してから俺達は元の場所へと戻った。


「後は発券機か。回数や日にちを選択できるんだな。名前は…シェリルとベル達、タマモの名前もあるな。中にいる人なのか俺が許可した人なのか後で検証してみるか」


 とりあえず全員に一年分のパスポートを発券した。


「これはアイテムボックスに入れていても効果はあるのか?」

「ちょっと実験してみよう」


 外に出たりして色々と試してみた。そこでいくつか分かったことがある。まずアイテムボックスに入れていても能力の使用は問題なかった。それとパスポートや回数券の持ち主が開いた入口は、開いた本人しか入る事はできない。出るときも本人が開けた入り口からしか出れなかった。


「これでどの出入り口も使えたら凄かったけどな」

「それができたら色々ヤバい事になるからな。これでも十分破格の能力だ」


 俺は発券機で年間パスポートを出して皆に渡すと部屋へと戻った。


「他にも魔導船とか気になる物があるけど後にするか」

「そうだな。また驚くのにも疲れそうだしな」


 そう言いながら休んでいるとタマモが俺達に声をかける。


「お主達に渡す物があるんじゃが、少々良いか?」


 タマモに声をかけられた俺達は何故か大広間へと連れて行かれる。


「ここで何かするのか?」

「うむ。儂はお主達とこの空間を気に入ったからの」


 大広間のステージにはいつの間にか社が出来ていた。すると隠れ家全体を清浄な空気が包み込む。

 そしてタマモは俺の手を取って口を開いた。


「神々が一柱であるタマモの名において、お主を聖者と認めよう」


 一瞬手の甲が熱くなった。よく見ると何か紋様が浮かび上がっている。次にタマモはシェリルの手を取った。


「神々が一柱であるタマモの名において、お主を聖女と認めよう」


 シェリルの手の甲にも同じように紋様が浮かび上がっていた。


「これは一体何なんだ?」


 俺がそう聞くとタマモは笑いながら答えてくれた。


「それは聖者の証じゃ。念じれば見えなくも出来るぞ。まあ簡単に言えば神に認められた者の事じゃな。お主達のバックには儂がおるという印じゃ。ちなみに魔物にも同じことを行えるぞ。その場合は聖獣と呼ばれたりしておるの」


 俺はふーんと言った感じだが、シェリルは驚きのあまり声が出ないといった感じだ。


「大丈夫か?」

「フフ。もう色々ありすぎて考えるのが疲れてきた。夢でも見ているかのようだ」


 そう言ってシェリルは俺にもたれかかってきた。


「仲が良いの。さて儂はベル達にも印を与えるとするか」


 タマモはベル達に手招きをしていた。だが説明を聞いていたベル達は皆で何か相談してから、代表してベルがタマモに何か話をしている。


「キュキュキュ」

「ふむ。いらないと申すか。じゃが儂の印を授かると何かと便利じゃぞ」

「キュキュー。キュキュキュ」

「ほほう。なるほどの。それなら無理強いはできんわな。じゃが印は無くとも儂はお主達の事を認めておるぞ。何かあったら遠慮なく相談するんじゃ」

「キュー」


 ベルがお辞儀をすると、後ろのコタロウ達もお辞儀をしていた。


「ベルは一体何を言っていたんだ?」

「自分達はお主の仲間じゃから、儂ではなくお主に認められたいそうじゃ。確かに他者の従魔に儂が印をつけると儂の聖獣と見られる可能性が高いからな。断る気持ちが理解できたぞ」


 俺はちょっと目頭が熱くなった。ベル達に恥じないようにしないとな。そして俺はある事を思いついた。


「それじゃあ何の意味も無いけど、さっきのタマモみたいなことを俺がベル達にやってみようか? ダンジョンで皆本当に頑張ったしな」


 そう言うとベル達はその場でジャンプして喜んだ。


「貴様は慕われているな」

「俺マジで泣きそうなんだけど」


 ベル達の反応が嬉しくて、涙がちょっとだけ出てしまった。そんな俺を見てシェリルは笑っていた。ただベル達は何か真剣に話し合いを始めている。


 タマモはそんなベル達を感心したように見ていた。


「お主の仲間達は本当に素晴らしいの。お主達の事をしっかりと考えておる」 


 話し合いが終わったのか、ベルがタマモの側にやって来て色々と喋り始めた。

 タマモはベルの話を聞くと俺に向き直る。


「ベル達の話し合いの結果を伝えるぞ。やはりベル達はお主にやってもらいたいらしい。だが全員が受けるのは違うと考えたそうじゃ。少なくともお主に守られる事が多いうちは受けられないと思っている」


 今でも結構俺の事を助けてくれる気がするけどな。


「じゃから今回はベルだけが受けるそうじゃ。まあ儀式自体はいつでもできるからの自分達で受けても良いと思った時にまたやればよい」


 そんな訳で俺は形だけだがタマモのようにやってみる事にした。

 俺の前に出てきたベルを全員が見つめている。


「それじゃあ行くぞ」

「キュ」


 ベルの頭にそっと手を置いた。


「渡り人であるジュンの名において、ベルを俺の聖獣と認める」

「キュー♪」


 元気な返事と共に儀式は終わった。シェリルは微笑ましく、コタロウ達は次は自分がと熱心に、そしてタマモはニヤニヤと笑っていた。


「ハハ。形だけとはいえ、何か緊張したな」

「まあそう感じてもおかしくないじゃろう。この隠れ家はもはや神域と同等じゃからな」

「……は?」


 タマモは何を言っているのだろうか?


「儂の社を置いたからな。これで下界に降りられない純正の神々すら呼ぶことが可能じゃぞ。それに作物や水の品質、温泉の効能がさらに上がったじゃろうな。仙桃の収穫量も格段に増えたと思うぞ」


 俺の隠れ家がどんどん凄い事になっている。その内タマモ以外の神々が遊びに来たりしないよな?


「ちなみに俺の許可なしに入ってこれたりするのか?」

「それは無理じゃ。隠れ家はお主のテリトリーじゃからな。優先はお主じゃから安心せい」


 今度は俺がシェリルにもたれかかる。


「何か疲れた」

「そうだな。部屋に戻ってご馳走を食べて英気を養おう」

「おお、それはいいの」


 元気に戻っていくタマモとベル達。俺とシェリルは苦笑いをしながら神域と化した隠れ家を歩くのだった。

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