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第六十三話 邪竜と対峙

「大分慣れたようじゃな」


 タマモの修行を毎日続けてお陰で、今くらいのプレッシャーなら問題無く動けるようになってきた。途中からは普通の訓練も行ってきたので、自分達の動きの変化を実感することが出来た。


「訓練はここまでじゃな。後は必要最低限にして体を整える事じゃ」

「ありがとうタマモ。恩に着るよ」

「礼の言葉などいらん。美味い酒と食事を用意してくれればそれでいい。後は儂の部屋の模様替えも頼むぞ。儂の部屋にも冷蔵庫や電子レンジが欲しいしの。それから海にある家も一つ貰うぞ」


 …俺の隠れ家がタマモに侵食されていく。まあ仕方がないか。


「分かったよ。世話になっているしな。模様替えは後でだけど、酒と食事は希望はあるのか?」

「酒はこの前の米の酒が良いの。食事はいなり寿司とキツネうどんじゃ。他にも油揚げの料理があったら頼むぞ」

「探してみるよ。とりあえずはいなり寿司とキツネうどんを出しておくな」


 タマモの前に大量の酒と料理を用意する。するとタマモは酒瓶にキスをしながら上機嫌で収納していった。


「そろそろ戦いが始まるじゃろうが死ぬでないぞ」

「もちろん。シェリルやベル達とまだまだ遊びたいからな」

「確かに大事な事じゃな。それでは儂は海を眺めながら一杯飲むとするかの」


 そう言いながらタマモは海へと向かった。それと入れ替わるようにシェリルが声をかけてきた。


「少し良いか?」

「ああ大丈夫だ」

「それなら良かった。ようやく邪竜の居場所が判明したぞ」


 シェリルの言葉にベル達も反応して近寄ってきた。そして映像を映し出すと、黒く禍々しい竜がそこにいた。


「これが邪竜の本体か。分身よりもデカいな」

「そうだな。それ以外にも爪や牙も鋭くなっている。何より映像越しでも瘴気の濃さが伺えるな」


 俺達は静かに映像を見続ける。


「動かないな。寝てるのか」

「恐らくな。元々人を殺す事にしか興味の無い奴だからな。人のいないこの場所だと寝て力を溜めるしかすることがないのだろう」


 少しの間、偵察人形が映し出し邪竜をいろんな角度から眺めていた。


「たぬぬ~?」


 そこでコタロウは首を傾げながら映像のある部分を指さした。

 俺達はそこをジッと見る。


「何かタカミの街が見えないか? 見覚えある気がするんだが」


 俺が見たのはタカミの街の入り口だ。廃墟のような景色の中に薄っすらと浮かんでいるのだ。他にも色々な景色が見えるし。


「…邪竜は突然現れて破壊を終えるとすぐに消えていく。私の時も急に村の近くに現れた。どうやら空間を移動しているようだな」

「つまり急がないとタカミの街が狙われる可能性があるのか」

「可能性は高いだろうな。まだ景色が薄いが濃くなってくれば分身を送れるだろう。しかもそう遠くない内にな」

「……仕方がない。明後日には攻撃を仕掛けるか」


 タカミの街に出現すると決まった訳ではないが、万が一出現したら甚大な被害が予想できる。ギルドマスターや"光の剣"などはどうでもいいが、親しい人達も大勢いる。見殺しにするのは無理な話だ。


「…ところで人形が近くにいても寝ているなら、竜喰らいを持たせて奇襲しかけてみるか?」


 それでダメージが入るなら卑怯と言われようと実行するけど。


「無理だろうな。人形に気が付いてないのではなく無視しているだけだろう。竜喰らいのような脅威が近づいてくれば行動を起こすはずだ」


 残念。いい考えだと思ったけどそう上手くはいかないか。


「それだと集団で近づくのも危険か?」

「どちらとも言えん。バラバラの方が邪竜の注意を逸らせるが、少数で狙われた者の危険度は増すな」


 俺は悩んだ末に全員で行動する事に決めた。バラバラに行動するメリットは、注意を逸らしている間に他の者が奇襲を仕掛けられる事だが、距離があれば難しくなる。


 それなら全員で行動して、いざという時は隠れ家に逃げた方がいいだろう。


 そして俺達は周辺の環境なども共有して、いくつかの作戦を立てた。


「よし。久しぶりに遊ぶとするか」

「いきなり何言っているんだ?」

「気分転換も必要だろう。戦う日にちも決まったんだ。少しはリフレッシュしないとな」


 俺の提案にベル達が喜び俺の体によじ登りもみくちゃにしてくる。俺はそのままの状態で部屋へと向かう。

 

 部屋に戻ると皆でトランプやボードゲームををすることになった。

 久しぶりのゆっくりとした時間。ベル・コタロウ・リッカ・ムギ。全員が楽しそうにはしゃいでいる。


「ふふ。皆はしゃいでいるな」

「ずっと訓練ばかりだったからな。…ちょっと詰め込み過ぎちまったな」


 こんなに楽しそうにしているのは、最近構わなかったからだよな。理由があるとはいえ、もう少し気にかける必要があったな。


 内心反省しながら一緒に遊ぶ。相変わらずこの手のゲームはシェリルとベルが強いが、コタロウ達は負けても楽しんでいる。むしろ、シェリルやベルを褒め称えている。


「相変わらず強いな」

「カードゲームの類いは得意だからな。それでも勝てない人もいるがな」

「それ強すぎじゃないか。本当に人間か?」

「ツバキ姉さんだ。あの人は駆け引きが上手いのだ」


 シェリルはどこか自慢気に話をしてくる。


「それは凄いな。…ところで知り合いなら呪いの件を手伝ってくれたんじゃ」

「シズクもだが二人とも巫女をしていて忙しいのだ。二年ほど二人には会えていないからな」


 そう話すシェリルはどこか寂しそうだ。それを察したのか、ベル達はシェリルの体によじ登っていく。そして頭をポンポンと優しく叩いたり、抱きついたりしている。


「ふふ。くすぐったいな」


 シェリルの顔は一気に笑顔に戻る。そして遊びは切り上げて温泉に入ることにした。温泉から上がると食事なのだが、部屋には当たり前のようにタマモが入り浸っていた。


「遅かったの。今日の食事は何じゃ?」


 神を餌付けしているような気がするが、すっかりベル達と仲良くなっているから何も言えなくなる。気がついたら皆は座っており、料理が出てくるのを待っている。


 験担ぎのカツ丼は明日にするとして、今日は何にするかな。作るのは面倒だから通販で買うのは確定だけど。


 ……最近はタマモに合わせてキツネうどんといなり寿司が多かったから、たぬきそばとたぬきむすびにするか。


 料理を出して皆で食べ始める。どうしてもコタロウが気になってしまうが、コタロウの反応はいつもと同じだ。特別好きという訳ではなさそうだ。


 そして食事が終わると後は寝るだけなのだが、ベッドに横になるとベル達が体をくっ付けてきた。


 今日は全員同じベッドがいいらしい。


「儂も混ざるかの」


 狐の姿のタマモまで入ってきた。タマモには部屋を用意しているのだが、俺達と一緒に寝ることもある。その際はベル達の誰かが一緒に寝ることが多いのだが、今日は全員俺とシェリルと一緒のためタマモもこちらのベッドに入ってきた。


 皆が一緒で楽しくなったのか、布団の中で遊んだりしたため寝るのには時間がかかった。だけど寝る直前まで楽しい気分でいられたのは良かったと思う。

 

 翌日は体の調子を確かめるだけにして、ゆっくりと過ごしていた。そして、決戦の日の朝を迎える。


 邪竜に挑むという事もあり、どこかいつもとは違う気分になってしまう。それはベル達も同じだ。


 だから俺は気持ちを変えるために皆にこんな話をしてみた。


「さてと、早く終わらせて明日はパーティーでもするか。食べたい物を考えておけよ。何でも好きなだけ注文するからな」

「キュキュキュキュ!!」


 全員嬉しそうだったがベルが一番凄かった。さすがにポイントがゼロになるまでは食わないよな?…大丈夫だよな?


「痛い出費になりそうだな」

「大丈夫だ。ポイントはかなりあるからな」

「冷や汗が出ているぞ。ああ、私は貴様の世界の色んなデザートを出してくれ。余っても問題ないのだろう」

「たぬぬ、たぬぬ」

「ベアベアベア」

「ピヨヨヨヨ」

「儂はやはりキツネうどんといなり寿司じゃな」


 次々とリクエストが増えていく。皆本当に遠慮がない。しかもまだベルは内容を決めていないのだ。

 邪竜を倒した後にゆっくりと決めるらしい。


 …竜の素材をポイント変換しないとな。


「それじゃあ出発するか」

「そうだな。…あ、ちょっと待ってくれ」


 俺は皆を呼び止めて幸運の金貨を出す。


「一人ずつこれに魔力流してくれ。ここまで来たら運も味方につけようぜ」


 俺達は一人ずつ魔力を流す。これで残りの回数は二回か。勿体ないけど必要なことだから仕方がないな。


「儂は直接の手助けはできんが祈っておこう。無事に戻ってくるんじゃぞ」

「ああ。タマモの訓練を受けたんだ。大丈夫だ」


 俺達は準備を終えると邪竜のいる場所に向かっていく。この階層に邪竜以外の魔物がいないのは確認済みだ。

 なので空飛ぶ絨毯で高速で移動する。これで邪竜がいなければ快適な空の旅なんだけどな。


「見えてきたな」


 シェリルの視線の先には黒い塊が見えた。邪竜は他の竜よりも大きいらしい。

 レッサードラゴンは二階建ての家。他の竜は三~四階建ての家という感じだ。邪竜はその倍くらいの大きさがある。


 俺達がもう少し近づこうとすると、邪竜も俺達に気が付いたのか飛んできた。


「うわ~、到着するまで待ってくれればいいのにな」

「案外ずっと一人だったから寂しかったのかもしれんぞ」

「この距離でも殺気を感じるんだぞ。寂しかったら殺気なんか振り撒かないだろ」

「照れているだけだったりしてな」

「そんな照れ隠し面倒すぎて俺には無理だ」

「同感だ」


 互いに冗談を喋りながら向かってくる邪竜に備える。


「キュキュ」


 ベルがアイテムボックスから何かの種や苗木を取り出して邪竜に向かって投げつけた。


 すると花や木に成長して邪竜に向かう。


 邪竜も口から光線を出すが木に阻まれて、花が邪竜の体に傷をつける。


 邪竜には一撃で決めるつもりだったのか驚愕の表情を浮かべて、その場で俺達を睨み付けた。いや、俺達ではなくベルだろう。


『やっぱり邪魔しに来たんだね』


 あの幼い声が周囲に響き渡った。それと同時に瘴気が濃くなっていく。

 怒りや殺気も感じるが、タマモの訓練の成果か誰も怯える事無く向き合えている。


『お姉ちゃんももうすぐ僕(私)(俺)の仲間になるのに、拒もうとするんだね。お仕置きをしないと』


 邪竜の言葉と共にシェリルは少し苦痛の表情を浮かべる。

 コタロウがすぐに聖魔法を使い、俺達は邪竜に魔法を放ち続ける。


『ああ本当にムカつくな。何でそんなに僕(私)(俺)の邪魔をするの』


 邪竜は俺達に怒りの表情を見せると空に向かって黒い光線を放った。

 すると空から黒い雨が降ってくる。


「避けろ。この雨に当たると体に穴が空くぞ」


 シェリルの声で俺とムギが風を操り雨を逸らす。遮るものがない空中は危ないと思い、絨毯はコタロウに仕舞ってもらい地上へと降りる。


 それを見届けた邪竜が俺達の側に降り立った。


『あーあ。早くお姉ちゃんと遊びたいのに邪魔だよ。雑魚のくせに粋がってさ。そんなに小さいのに何ができるの? 言っておくけど分身や呪いとは比べ物にならないくらい強いからね』


 邪竜は見下した目で見る。

 余裕を見せている邪竜に対して俺達は魔法を放つ。シェリルも遠距離魔法を放った。


 だが邪竜は俺達の攻撃は歯牙にもかけない。ベルの闇魔法やコタロウの光魔法や聖魔法が当たるが気にしてもいない。


「眼中に無いみたいだな」

「分身も同じだったな。危険な攻撃は避けるが、それ以外はどうとでもなると思っているのだろう」

「さすがに癪だな」


 俺は風を操作して空を飛び邪竜の背中に乗る。


「ここまで近づいても完全に無視するのかよ」


 遠慮をする必要はない。竜喰らいを取り出して背中をに思い切り刺す。


『ギャアアアア』


 叫び声をあげて体を揺らす。さすがに背中に乗ったままは無理なので地上へと降りる。


『酷い! 酷い! 酷い!』


 どうやら俺は邪竜の怒りを買ってしまったらしい。邪竜の視線が俺へと向かう。

 

「たぬ」

『ギャ!?』


 コタロウは子供の姿に変化して、白夜を使って邪竜の足を刺していた。これに対しては痛みを感じるようだ。


「♪」


 ムギが音魔法で澄み切った心地よい音楽を流し出す。俺達にとっては精神安定の効果があるようだが、邪竜にとっては逆の効果になるようで苛立ちが見て取れる。


「ベア!」


 畳みかけるようにリッカも爆弾人形を邪竜の目の前に飛ばす。


『バカじゃないの。こんな低級な技が効くと思っているの』


 爆弾人形は邪竜の目の前で爆発した。

 邪竜は堪えていない様子だったが、一瞬のうちに絶叫する。


『ギャアアアアアア!?』


 邪竜の巨体がひっくり返る。実は爆弾人形には悪臭玉を持たせていたのだ。

 キーノにも効いたから邪竜にも効くと思ったが予想は当たっていた。


「ここまでのダメージを邪竜に与えるとは、悪臭玉恐るべしだな」

「何をしている、今のうちに叩くぞ」


 シェリルに促されて俺達は魔法で攻撃する。だが邪竜は翼で風を起こして攻撃を防ぎ上空へと逃げる。


『…さな…。……やる』


 何か言ってないか?


『許さない! 殺してやる!』


 邪竜が怒りの言葉を吐くと、体から黒い塊が飛び出して小さめの邪竜が十体現れた。

 そして邪竜達は怒りの表情と共に俺達を襲い始める。


 出だしは好調だったけどここからが本番かな。

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