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第六十二話 邪竜討伐に向けて

「面白い力じゃな」


 俺達はリッカの偵察人形を使って七十九階の探索を行っている。その様子をタマモは後ろから見ていたのだ。


「神なら千里眼とか使えるんじゃないのか?」

「勿論使えるぞ。じゃがこの能力も良いものじゃぞ。大勢で情報を共有し、必要であれば作業も可能ときておる。本当に面白い者しかおらんの」


 タマモは感心したように何度も頷いていた。


「しかし、七十九階は変な靄が立ち込めているな」

「瘴気じゃな。弱い者ならすぐに死ぬ。お主等なら心配ないじゃろうが、それでも三時間じゃな。それを過ぎれば蝕まれていくぞ」


 戦いに制限時間があるのはシェリルだけじゃないんだな。邪竜その者以外にも環境が敵になるのか。


「そうすると尚更邪竜の位置を書くんんしておかないとな」


 するとシェリルが話しかけてきた。


「ジュン。そろそろ訓練を始めたらどうだ。邪竜を探すのは私がやっておく。神が相手をしてくれる機会など普通は無いのだからな」


 シェリルの言う通り、タマモが俺達の訓練に付き合ってくれるのだ。と言っても内容はタマモのプレッシャーを受けるだけだ。だがこれだけでも大分違うだろう。


 なので俺達は急いで箱の中に入る。


「では耐えてみせよ」


 タマモは大きな狐の姿に変わると、あの時の様な強烈なプレッシャーを放ってきた。分かっててはいてもこのプレッシャーはキツイ。タマモとの五分間の遊びを思い出してしまう。


「たぬぬ」

「ベア」


 初体験のコタロウとリッカは立っている事すらできない。それでも必死にコタロウ達は立とうとしている。


「ふむ。根性はあるようじゃな。それにジュン達はこれくらいなら立っていられるか。それなら少し強くするぞ」


 少し基準が分からない。俺もベルもムギもその場に座り込んでしまう。


「さあまずはこの状況で立ってみるんじゃ。そこからが訓練じゃぞ」


 俺達は立ち上がることも出来ずに時間だけが過ぎていく。


「ふむ。お主達はシェリルのために邪竜と戦うのじゃろ。動くことも出来なければ邪竜に勝つことなどできんじゃろうな。目の前で仲間が死ぬ姿を見たいのか? シェリルだけでなく隣にいる者達が気が付けば骸となるぞ」


 その言葉で俺達は立ち上がる。単純だとは思うがこの中の誰かが死ぬのは見たくない。


「ククク。お主等は互いに思いやっているようじゃな。それでは修行を開始するぞ」


 タマモの周りに紙の人形が数体舞っている。そしてその人形が光ったかと思うと武器を持ったマネキンへと変わった。


「最初はゴブリン程度の力じゃ。普段であれば楽に倒せるが今はどうかの?」


 タマモの言う通り、今の俺達はゴブリンにも負ける程度だ。魔力を上手く練る事ができず、碌な魔法が使えない。


 動くのもやっとで、攻撃に対する反応も遅れてしまう。


「負荷のかかる状況でいつもの動きをできるようにするのじゃ。最高のコンディションで戦いに挑むのは大事じゃが、それが出来ない事もある。邪竜は正にそんな相手じゃ。最高と最低の差を極限まで減らせ」


 タマモの特訓は倒れるまで続いた。

 何時間もタマモのプレッシャーに耐え続けていた俺達の精神はボロボロだ。


 何とか部屋までは戻ったがベッドに倒れ込むと夢の世界に直行だ。誰かに頭を撫でられた気がしたが、夢か現実か区別がつかない。まあいいか。



(三人称視点)


 シェリルはベッドで眠っているジュン達の頭を優しく撫でていた。その時のシェリルの表情は色んな思いがあるようで複雑な表情だった。


「なんじゃ浮かない顔じゃな」


 そんなシェリルの側にはいつの間にかタマモが立っていた。タマモは冷蔵庫に入っていたお茶をゴクゴクと飲んでいる所だ。


「タマモ様」

「様付けはいらんと言っておるじゃろ」

「…タマモ殿」

「まあ妥協するか。それよりも少し休憩しようではないか。お主も細かい作業で疲れているだろ」


 シェリルも実際に目の疲れや不安の蓄積などがあったので、タマモに促されるまま寝室から移動して、リビングでソファーに座る。


「それでその複雑な表情の原因は何じゃ?」


 タマモは単刀直入にシェリルに尋ねる。シェリルは黙っていたが、神であるタマモの前では黙秘も長くは続かず口を開いたのだ。


「私がいなければジュン達は今も楽しく冒険出来ていたのではないかと思ってしまったのだ」

「それは何でじゃ? お主がおったからこそ今のあ奴等がいるのではないか? 逆もまた然りじゃがな」


 タマモの返答にシェリルは首を横に振る。


「いや、私の代わりなどいくらでもいる。むしろ別の女でも見つけた方がジュン達は危険な目に遭うことも無かっただろう。このダンジョンで私の目的のせいで何回もジュン達は死にかけたのだ。ジュン達は気にしないと言っていたが、やはり別の道もあったのではないかと思うのだ」

「結構お主もアホじゃな」


 シェリル悲痛な顔で話す中、タマモは煎餅とお茶を頂きながらバッサリと話を切った。


「起きてしまった出来事を変える事などできん。過去を振り返って反省する事は大事じゃが今する事は違うじゃろ」


 そう言いながらタマモはもう一枚煎餅を頂く。


「それに何が幸せで何が不幸かは本人が決める事じゃ。ジュン達が気にしてないというならその言葉を信じてやれ」


 視線が寝室に向かう。


「…そうだな。今の私がするのは邪竜の位置の特定や周辺の環境の把握だな。ジュン達が頑張っているのに私が後ろ向きでいるわけにはいかんな」

「そうじゃな。まあ今はキチンと休むんじゃぞ。疲れた状態での作業は見落としがあるかもしれんからの」

「ああ。分かっている」


 シェリルはそのまま寝室へと向かう。


「先程よりはよい顔になったの。さて、儂は温泉にでも入るとするかの」


 いつの間にか煎餅を食べ終えたタマモは一人温泉へと向かった。タマモはタマモでこの隠れ家を満喫しているのであった。

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