第五十九話 休息日
「何か久しぶりだな」
「そうだな」
今日は久しぶりの一日休みで海に来ている。俺とシェリルはデッキのイスに座り、ベル達はセラピードルフィンの子供と楽しそうに水遊びをしていた。
「キュキュキュ」
ベルが俺の側に来て何か訴えかけている。どうやら魔法の絨毯を使いたいらしい。
魔法の絨毯を出すと、ベル達は乗り込んで皆で海中探索に出かけた。
「魔法の絨毯の利便性は高いな。海中のダンジョンや遺跡の探索も出来そうだな」
「遺跡なんてあるのか」
「ああ。リアス帝国に調査が進んでいない遺跡がある。皇帝が変わったお方で冒険者だろうが一般市民だろうが調査する事を許している」
「へー、そうなのか」
ここで俺は一つの疑問が浮かんだ。呆れられる気がするが聞いておかないと。
「なあシェリル」
「どうした? 真面目な顔をして」
「俺達の国って何て名前?」
その時のシェリルは今まで一番呆れた目をしていた。それでもキチンと答えてくれるシェリルはとても優しいと思う。
「ストンド王国だ。…衝撃的な質問で驚いたぞ」
「仕方がないだろ。気が付いたらこの世界にいたんだから。……ついでに主要な国を教えてくれると助かる」
「そうだな。勇者が召喚された“エルメシア聖王国”、魔王が統治している“魔国”、軍事に重きを置いており排他的な“イクス王国”、守護十天衆と呼ばれる部隊を従える“アマダス帝国”辺りだな。どこも一癖どころか二癖以上ある国だ。ここにストンド王国とリアス帝国が加わって六国で睨み合っているな」
こうして聞くと世界が変わっても共通している部分があるなと思ってしまう。
「まあ冒険者ならある程度どこの国も自由に行けるがな。ただ魔国とイクス王国は止めておいた方が良い。それから貴様は聖王国もダメだな。アマダス帝国とリアス帝国は比較的行きやすいぞ。アマダス帝国は美食の街と呼ばれているデリシャの街がある。リアス帝国は海底遺跡のあるウェブという街は観光スポットが多く人気が高いな」
どちらも興味があるな。美食の街は勿論、海底遺跡があるなら海の幸も豊富なのだろう。遊べる場所もあると考えればリアス帝国の方が良いかな。
「興味が出たようだな。顔に出ているぞ」
「そんなに分かりやすいのか。まあ当たっているけど」
シェリルと和やかに会話をしていると突然水飛沫が上がった。それと同時に魔法の絨毯に乗ったベル達とセラピードルフィンの子供が現れた。
皆の顔はとても晴れ晴れとしており、楽しかったのだと一目で分かる。
そしてベル達は俺達の側に、セラピードルフィンの子供は手を振りながら群れに帰っていった。
「楽しかったか?」
「キュキュー♪」
「たぬぬ、たぬー♪」
「ベアー♪」
「ピヨヨー♪」
皆から喜びの声が一斉に聞こえる。身振り手振りで楽しさを表現しており、見ているこっちも楽しくなってしまう。
「良かったな」
俺がそう言うと、今度は俺とシェリルを海に引っ張ってきた。シェリルと顔を見合わせると、シェリルは頷いていた。そのまま俺達は海へと入った。
潜ったりボートを出したりと、気がつけば俺もかなり楽しんでいた。さらに、魔法の絨毯に乗ってベル達の案内で海中を探索すると、満天の星空を思わせる場所もあり見惚れてしまった。
一通り遊んだ俺達はヴィラへと戻る。
「いやー、凄かったな。あの場所は教えてもらったのか?」
俺が聞くとベル達は頷いた。セラピードルフィン達は色んなスポットを知っているようで、次はまた別の場所を教えてもらうらしい。
「その時は俺も行こうかな。シェリルも行くだろ」
「……ああ。そうだな。私も気になるからな」
シェリルは一度俯くが、すぐに微笑みを浮かべていた。
それ以上はお互い何も言わず、昼食の準備に取り掛かる。
焼きそば・フランクフルト・ラムネを用意してデザートはかき氷だ。今更だが、海の家の定番メニューと縁日の屋台って共通する食べ物が多いと思ってしまう。
まあベル達が喜ぶならどうでもいいか。
「味は濃いが、運動した後だから丁度いいな」
「それなら良かった。案外こういう料理の方が美味しく感じる場所もあるんだよな」
ベル達も口周りを汚しながら勢いよく食べている。俺とシェリルはその度に口を拭いてやるが、それが嬉しいのかねだってきたりもする。
かき氷では予想をしていたが、食べると頭がキーンとなったようだ。それでもしっかりと完食している。
そして食事の後はお昼寝だ。俺とリッカはデッキのイスで、シェリルはコタロウを抱き締めながらソファーで、ベルとムギはプールにボートを置いてその上で寝ている。
心地よい風に吹かれながら体を休める。風や海の音、遠くのセラピードルフィン達の声が眠気を誘う。すると不意に胸の上に重みを感じる。
「あれ? どうしたんだ」
そこにはムギがいた。よく見るとリッカの上にはベルもいる。
「キュキュ~」
「ピヨ~」
ベル達の指し示す先にはボートがあった。ボートは風に揺られながらプールの壁に何度もぶつかっていた。
「なるほどな。ぶつかった時の振動で寝られなかったか」
俺が納得した時にはベル達は既に眠ってしまっていた。俺もそのまま眠ってしまった。
どれくらい時間が経ったか分からないが、胸の上の重さで目が覚める。
「いつの間に全員いたんだ?」
横ではシェリルがクスクス笑っていた。
「先程だ。ベル達の方が先に起きたからな。早く貴様と遊びたかったのだろう」
そう言われると嫌な気はしないよな。俺は皆を体に付けたまま体を起こす。
「それじゃあ。遊びに行くか」
そのまま皆を連れて砂浜に向かい、ボールを用意して皆で回す。初めの内は普通に高く上げて遊んでいるだけだったが、慣れてくると素晴らしい動きを見せ始める。
皆運動神経が良いためアクロバットな動きが多くなる。オーバヘッドは当たり前だし、コンビネーションプレーも見せてくれる。その内ビーチバレーをしたり、砂浜から海へと移動し泳ぎながらのボール遊びも行う。
そんな風に遊んでいると時間はあっという間に過ぎていった。気が付けば日も傾いて来ていた。
「そろそろ終わりにするか。温泉で汗を流すぞ」
ベル達は少し残念そうにしながらも俺と一緒に温泉へと向かう。そしてゆっくりと汗を流して俺達は一日の疲れを癒したのだった。
 




