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第五十七話 竜の巣

「それじゃあベル。ヤバい時は助けてくれ」

「キュ」


 情けないセリフであるが仕方がない。見栄を張って死んだら元も子もないからな。

 俺はそのまま青い竜に向かって行く。


「でかいな」


 体が大きいのもそうだが威厳があり存在が大きい。

 そんな竜にとっては俺はちっぽけな存在なのだろう。その瞳に映る俺はただの餌か玩具としか見られていない。

 まあ今は色んな竜と戦う事と早く七十九階まで進む事が大事だからありがたい話だ。一度戦えば修練場で安全に何回も経験を詰めるしな。


 俺は竜喰らいで切りかかる。

 竜の体に竜喰らいが食い込むが、レッサードラゴン達に比べて抵抗が大きい。


「ギャオーン!!」


 竜は体を振り回して俺を吹き飛ばす。

 力も段違いだな本当に。


 俺は上手く着地して竜を見ると、竜も俺を見ていた。そして大きな口を開いて大量の水が放たれた。すぐに攻撃を避けるが、先程まで俺がいた場所には大きな穴が出来ている。そして一発では終わらない。水のブレスを何度も放ちながら俺と一定の距離を取るようにしていた。


「竜喰らいの脅威を感じ取られているな」


 この辺りもレッサードラゴン達とは違うのだろう。レッサードラゴンは目の前で同族が一撃で切り裂かれても、気にせずに俺に突っ込んできたからな。


 俺は竜の攻撃を避けながら攻める方法を考える。


「やっぱりこれかな」


 暴風鴉をもう片方の手に握る。そして攻撃を避けながら魔力を込めて鳳を作り上げる。


「頼むぞ」


 鳳は猛スピードで竜へと突っ込んでいく。竜喰らい程の効果は無いだろうが、それでも無視できない威力だ。竜は俺から鳳へと意識を移した。その隙に俺は竜に近づいていく。


 そして鳳に気を取られている内に竜喰らいを突き刺した。先程は切り裂く前に吹き飛ばされたが、今度はそうはいかない。先程よりも多く魔力を込めて思い切り振るった。竜は暴れようとしたが、鳳の一撃を受けて力が緩んでしまい、そのまま首を落とされた。


「疲れた」


 俺はその場で座り込む。すると魔法の絨毯に乗ったベルが近づいてきて、満面の笑みで拍手をくれた。


「ありがとうな」


 だが落ち着く暇は無かった。戦闘音に引き寄せられたのか何体もの竜が引き寄せられた。


「ヤバ。これは一旦隠れ家に戻るか」

「キュキュ」


 ベルが任せろと言うように俺の前に出る。

 何だろうな。ベルは小さいのにこういう時は誰よりも大きく見えるのは。


「キュキュ!」


 ベルは声を上げて周りの草を成長させる。草は俺の身長を超すくらいの大きさになりながらも、真っすぐに立っていた。


「キュー!」


 ベルの声に合わせて、成長した草は竜達へ飛んでいく。そして竜の体を穴だらけにした。

 複数の竜は一瞬のうちにドロップアイテムに変わってしまったのだ。


「……」


 もう何も言えない。俺も頑張っていたとは思うけど、まだまだベルの足元にも及ばないな。


「キュー♪」


 喜ぶベルはドロップアテムを回収して来てくれた。“水竜の牙”、“雷竜の爪”、“地竜の鱗”、“風竜の肉”、“光竜の鱗”、“火竜の肉”だ。俺が倒したのは水竜らしい。


 ベルは竜の肉を見ては涎を垂らしている。今日の晩飯は決まったな。


「やっぱり凄いなベルは。それじゃあこの後も頼むぜ」

「キュキュ」


 俺達は魔法の絨毯に乗って再び進み始めた。結構な種類と戦ったので、いくらかは無視して突き進むつもりだ。だがそう上手くはいかなかった。竜達は警戒心が強いのかベルの隠形にも気付く奴もいる。そして執念深く追ってくる上に無視をすると他の竜を引き連れてくるので、いちいち戦わないといけないのだ。


 そのため思ったよりも進むことが出来ずに隠れ家に戻る事になった。


「ただいま」

「おかえり。…あまり表情が良くないな。どうしたんだ?」


 シェリルは俺を心配そうに見てくる。


「今日は普通の竜が相手だったんだが、手古摺ってあまり進めなかったんだよな。全部ベルに任せればもっと早く進められるだろうけど、それは何か違うしな」

「当たり前だ。一人だけ強いパーティーはいざという時に瓦解してしまう。どうしてもその一人に頼ってしまうからな。貴様の成長も大事なのだ。それに時間はかかっても竜を倒したのだろう。それなら落ち込む必要はない」


 そう言ってシェリルは軽く微笑んだ。


「まあ俺の場合は装備の力が殆どだけどな」


 俺は竜喰らいと暴風鴉を取り出して眺めてみる。すると些細な変化に気が付いた。


「あれ?」

「どうしたんだ?」

「キュキュ?」


 シェリルとベルも俺の様子に首を傾げる。


「いや、竜喰らい何だけど、刀身の竜の絵が濃くなっているような気がして」

「確かにな。以前は近づいて目を凝らさないと見えなかったはずだからな」

「力が増している証か?」

「かもしれんな。また明日以降に試してみろ」

「そうだな」

 

 どのみち今日は試せないので武器を仕舞って夕飯の準備をしようと台所に向かう。そこでシェリルに声をかけられた。


「今日は夕飯の準備はしなくて大丈夫だぞ」

「え?」


 台所やテーブルには何も無いがソファーにには眠っているコタロウ達の姿がある。


「今日は少し早めに訓練を切り上げたからな。空いている時間で料理を作らせてもらった。今はアイテムボックスに入れてある」

「そうか、ありがとうな」


 竜の肉くらいは焼こうかなと思ってベルと視線を合わせるが、ベルは黙って首を横に振った。

 そうだな。今日はコタロウ達の手料理をありがたく食べるとしよう。


 それから少しするとコタロウ達は起き出した。そして俺達に気が付くと嬉しそうに俺達をソファーに座らせた。


 並べられる料理の数々。おにぎり・焼きおにぎり・いなり寿司・かっぱ巻き・肉野菜炒め・たこ焼き・焼き魚・卵焼き・ソーセージ・味噌汁・フルーツヨーグルト・プチケーキなどだ。


 腹が減っているので早速料理を頂く。コタロウ達は俺達の反応が気になるのか、俺とベルをジーっと見ている。俺は焼きおにぎりに手を伸ばした。味噌の香ばしさが食欲を刺激する。少し味が濃いが俺には丁度良い。

 他にも甘い卵焼きや味噌汁などを頂いた。


「美味いな」

「キュー♪」


 俺達が美味しそうに食べているのを見てコタロウ達は嬉しそうにしていた。それからはコタロウ達も一緒に食べ始めた。


「このたこ焼きはチーズとベーコンか」

「ああ。冷蔵庫の中の物は色々使わせてもらったぞ」

「皆で食べる物だし別にいいよ。後で補充しておくな」


 おにぎりだけでなく、たこ焼きの具材も様々だったので結構楽しい。たこ焼きから刻んだ梅干しが出てきたのは驚いたが、そこまで悪くは無かった。


「皆ありがとうな」


 お礼を言うとコタロウ達はニコニコだ。あー。本当に可愛い奴等ばかりだな。癒される。ついつい撫でたり抱きしめたくなる。シェリルはそんな俺の様子を見て笑っていた。

 俺は機嫌よく食事を済ませて、皆と一緒に眠りについた。


 そして翌日。


 俺とベルは今日も七十三階を探索している。検証のために、午前中は竜喰らいで竜を倒し続けた。ベルにも手伝ってもらったが、午前中だけで五体を仕留めることに成功した。


 ちなみにベルは俺が休憩している間に三体の竜を仕留めていた。だけどかなり落ち込んでいる。理由はドロップアイテムに肉が出なかったからだ。竜の肉はレッサードラゴンの肉より美味しいと聞いたので、さらに獲得しようと張り切っていたのだ。


 俺はそんなベルを慰めながら隠れ家に一度戻って昼休憩をとる。シェリル達も同じく休憩中だったらしく一緒に昼食をとる事にした。


「せっかくだから、昨日手に入れた竜の肉を焼いて食べてみるか?」

「キュキュキュ!」


 ベルがピーンと手を伸ばしており、それを見たコタロウ達も真似をしている。


「皆食べてみたいようだぞ。勿論私もな」

「それじゃあ焼くとするか。え~と、風竜と火竜の肉があるな。全部焼いてしまおう」


 竜の肉は焼くと良い匂いを撒き散らした。特に火竜の肉はただ焼くだけでスパイシーな香りが混ざっていたので塩コショウすらしていない。


「味見をするか」


 火竜と風竜の肉を一枚ずつ焼いてナイフで人数分に切り分ける。ナイフを当てると火竜の肉は少し硬めで、風竜はスッと切れる。そして皆で味見だ。


 俺はまず風竜の肉から頂いた。


 風竜の肉は柔らかく軽い味わいだ。気が付くとスッと喉を通過している。これは歯の弱った人でも食べられるだろう。続いて火竜の肉を頂く。こちらは風竜とは対照的でピリ辛な刺激がある。だけどこれも後を引く味だ。どちらも美味いが火竜の肉の方が好みだな。


「キュキュキュキュ」


 味わって食べているとベルから早く焼くように急かされてしまった。どうやら美味しかったらしい。

 すべて焼き上げると切り分けながら大皿に乗せる。そしてテーブルに置くと各自皿にのせて食べ始める。


「レッサードラゴンやワイバーンの肉も美味かったけど、竜の肉はさらに美味いな」

「竜の肉は栄養も豊富だしな。ダンジョンではまず手に入らないが、内臓も美味いらしいぞ。まあ薬の価値の方が高いため、食べる者は滅多にいないらしいがな」

「内臓か。俺は結構好きだから食べたいな。焼き肉も良いけど竜のもつ鍋とかも食べたいな。…ダンジョンじゃ竜の内臓は出てこないのか?」


 考えると食べたくなってきたのでシェリルに問いかけてみる。


「出ないわけではないな。一応レアドロップの一つだ。ただ、竜のレアドロップだと武器や防具も出てくるからな。それらに比べるとハズレと言われているな」

「装備は一通りあるからな。俺としては内臓の方が嬉しいけどな」

「そんな変わり者は少ないだろうがな」


 若干呆れた表情だが、俺達は楽しく食事をすることが出来た。


「それで竜喰らいはどうだ?」

「若干変わってきているな。ほら、爪に色が付き始めている」


 竜喰らいは俺の言葉通り色が付き始めていた。威力はまだ実感が無いが、この絵が完成した時には強力な武器になる可能性は十分にある。シェリルと話し合った結果、一日数体は竜を倒すことに決まった。


 そして午後の探索だが、恐ろしい敵だと思えた竜が不思議な事に食材に見えてくる。そのためか竜との戦いが少しだけスムーズになったような気がした。ベルの事を何も言えないよな。


 俺達は竜を倒しながら七十四階に到達していた。その過程でベルと共に大量の肉をゲットしたが、残念ながら内臓は手に入らなかったので次に期待しよう。

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