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第六話 タカミの街

「今日は何か見つかるかな?」

「キュキュ」

「たぬたぬ」


 今日も気の向くまま草原を進んで行く。ベルもコタロウもしっかりと周囲を見回してくれている。


「キュキュ!」


 ベルが反応した方向を見るとゴブリンが三体程いた。無視しても良いが、コタロウの相手に丁度良いかもしれない。


「俺が二体倒すから、コタロウも一対一で戦ってみるか?」

「たぬ!」


 コタロウはやる気満々だった。ベルもコタロウの背中を叩いて応援をしている。それならやってみるか。

 俺は二体のゴブリン目掛けて風の刃を放った。


「「ギャ!?」」


 ゴブリンは真っ二つだ。残った一体は何が起きたか分からないような感じだったが、こちらを見ると怒りを露にする。


「たぬ!」


 すかさずコタロウが光の矢を放った。


「ギャ」


 ゴブリンは光の矢を避けてコタロウに向かってくる。


「た、たぬ」

「キュ!」


 その迫力に押されたコタロウであったが、ベルの声で気持ちを立て直したようだ。そして逆にコタロウはゴブリンに向かって走り出す。すかさずベルもすぐに助けられるように近づいていく。


「…コタロウ結構足が速いな」


 俺はそんな事を思った。まだ小さいがかなり身軽な感じだ。そして、ゴブリンの攻撃をサッと躱して後ろを取る。そして放たれた光の矢はゴブリンに命中する。そのまま数発叩き込むとゴブリンは動かなくなる。


「たぬ♪」


 勝ったとばかりにジャンプして喜びを体全体で表す。俺とベルは笑顔で拍手を送る。


「やったな」

「キュキュ♪」


 褒められたコタロウは照れながらも嬉しそうだった。そのまま魔物をを見つけるたびに俺やコタロウは経験を積んでいく。


「お、あれは微塵鳥じゃん。しかも三羽もいる」


 あれを捕まえるのは俺が一番適している。呼吸を整えて集中して水の大玉を飛ばす。微塵鳥達は水の中に囚われて動けなくなる。


「コイツ等も三キロの肉か。これでポイントは十分あるから今日の晩飯にでもしてみようかな」

「キュー///」


 いい獲物を捕まえられて俺は嬉しくなってしまう。ベルも恍惚とした表情だ。コタロウはそんな俺達をジッと見ていた。


「たぬ」


 コタロウはズボンを引っ張ってそろそろ行こうと合図してくる。


「ハハハ。スマンスマン」


 俺達は改めて進み始める。

 そして、それから二時間くらい経った頃だ。


「あれは」


 まだ遠くて小さいが街らしき物が見えた。人や馬車なども歩いているのも確認できる。


「やったー。見つかったぞ」


 思わずガッツポーズをしてしまう。隣ではそんな俺の真似をするベルとコタロウがいる。そんな二匹を抱えて街を目指して走っていく。


 少しずつ近づいていく街並み。徐々に聞こえ始める人の声。それらが俺の胸を掻き立てる。


 そして、俺は人の波と合流を果たした。正直言って興奮した。漫画やゲームのように、獣人やエルフなどの種族もいるからだ。


 それに冒険者らしき格好の人達もいる。…さすがにビキニアーマーは意味があるのかと思ってしまうけど。そんな感じで周りに興味を示しながらも街の中へと足を踏み入れた。


「賑わっているな」


 人通りは多く、色んな建物が並んでいる。場所によっては屋台も数多く出ており、食料品から日曜雑貨まで揃いそうな感じだ。


 そして俺は一際大きく豪華な建物に目がいった。そこには見覚えある姿の像も建てられていた。


「駄女神が」


 一気に気分が害された。無駄に豪華な装飾。"愛"や"正義"を謳っていた気がするが"自己愛"と"盲目的な正義"にしか感じられない。

 中から出てくる人々は裕福そうな人間や着飾った協会関係者といった感じだ。


「キュキュ!」

「痛っ」


 突然ベルに頭を叩かれてしまう。驚きながら擦っていると、コタロウが心配そうな顔をしてズボンを引っ張っていた。


「たぬ、たぬ」

「…悪かったな。ちょっと別の場所にいこう」


 二匹の頭を撫でて、教会から移動する。

 先程の俺はどんな顔をしていたのだろうか。ベルとコタロウには感謝だな。駄女神への恨みを忘れるつもりはないが、そのために今ある楽しさを忘れるのは勿体ない。

 

 でも仕返しは絶対にしてやるから首を洗って待っていろよ。人の人生を適当に扱った事は忘れるものか。


「さてと、せっかくだから屋台で何か買って…」


 気を取り直して、街を満喫しようと思ったが俺には金が無いことに気がついた。どこかに売らないといけないが、やはり冒険者ギルドがあればそこがいいのだろうか?


「適当に探してみるか」


 冒険者風の人達の波に沿って歩いてみると大きな建物に向かって行く。そこには“冒険者ギルド タカミの街支部”と書かれていた。何で文字が読めるんだ?とも思ったが気にしないことにした。


「ちょっと入ってみてもいいか?」

「キュキュ」

「たぬぬ」


 ベル達も興味があるようだったので、そのまま建物の中に入る。入口には“冒険者募集中”の文字や案内図もあった。さらに勧誘のためなのか"誰でも登録可能"、"登録無料"、"身分の証明"、"素材の売却"、"一部施設の割引"等とも書かれている。


 せっかくなので新規登録者の受付へと足を進めた。そこには列が出来ており、すぐには順番が来そうにない。


「少し待つことになりそうだな。二人とも大丈夫か?」

「キュー」

「たぬー」


 ベル達は「大丈夫」とでも言っているように、笑いながら片手を挙げていた。

 そして待つこと数十分。ようやく俺の順番になった。


「お待たせいたしました。新規のご登録でよろしいでしょうか?」

「はい。誰でも登録できると聞きましたので」

「犯罪者で無い限りは大丈夫ですよ。それではこちらの用紙に名前と質問に対する回答をお書きください」


 受付は兎耳の獣人のお姉さんだった。お姉さんから渡された書類を書き進めていき提出する。


「確認いたします」

 

 お姉さんは書類の確認を進めていく。これで終わりなのかと思ったが、突然小刀を渡される。


「それでは用紙のこの部分に血をつけて下さい」


 当たり前のように言われたが、俺としては内心驚きだ。それでも必要ならばと、嫌々ながらも小刀で指を軽く切る。そして拇印のように紙に血をつけた。


 すると血が紙に吸い込まれて、一瞬輝いた。


「これで終了です。そしてこちらがカードになります。初回は無料ですが、無くすと再発行には銀貨一枚かかりますのでご注意下さい」


 渡されたカードをベル達と一緒に覗き込む。そこには俺の名前と何故か写真もついており、Gランクと書かれていた。


「ランクについての説明をいたします。傭兵や騎士団など戦闘経験がある場合はEランクから始まり、それ以外の場合はGランクからスタートいたします」


 質問に傭兵の経験があるか書かれていたのはそのためか。


「Gランクはお試し期間。ギルドが指定した街の依頼を一週間以内に三つこなさなければ除名となります。逆に三つこなせばFランクへと昇格いたします」


 それだけでランクアップするなら簡単だな。本当にやる気があるか見る感じか。


「Fランクも街の依頼を十以上こなした上に採取系の依頼を三回以上こなせば、Eランクに昇格する資格が与えられます」

「資格ですか?」


 俺の返答にお姉さんはニッコリ笑いながら答える。


「はい。Fランクまでは討伐の依頼はありません。採取系の依頼では強くてもゴブリンレベルの魔物しかでることはありません。しかし、Eランクになりますともっと強い魔物が出る場所に行くこともあります。そのため、最低限の力がある事を証明するためにギルドに所属している冒険者と戦ってもらい、合格を貰う必要があるのです」

「それって勝たなきゃダメだったりしますか?」

「勝てば文句がありませんが、認められればいいのです。それにゴブリンに勝てるくらいの実力があれば合格できますのでEランクまでは簡単に上がれますよ」


 お姉さんは俺を安心させるように柔らかい笑みを浮かべていた。ただ俺はその言葉に引っかかっていた。


「Eランクまではですか」

「はい。Eランクまではです」

「……」


 お姉さんは笑顔で"は"の部分を強調していた。


「続けますね。Eランクは簡単な討伐依頼も増えてきます。既定の回数をこなしますとDランクに上がる資格を得られます。試験の内容は犯罪者をその手で裁く事です。Dランクからは魔物以外にも護衛の依頼や犯罪者の討伐もありますからね。ここで辞めていく人たちも少なからずおります」


 お姉さんは一呼吸おいてからさらに話を続ける。


「Dランクは先程も話したように魔物の討伐以外にも、商人の護衛や犯罪者の討伐などもあります。Cランク以降も同じような内容ですが難易度はどんどん上がっていきます。ランクアップの試験はこれ以降はありませんが、実績を積んでいく必要があります。そしてBランク以上に上がれるのは一部の冒険者のみです。その分色んな所で重宝されます。Sランクであれば大国の王でも無下にできない存在です」


 俺は口をポカーンと開けていたと思う。思った以上にSランクの権力が凄かったからだ。


「以上になりますが何かご質問はありますか?」


 俺は顔に手を当てて少し考えてから口を開いた。


「ランクとは関係ないですけど、コイツ等って街の中で自由にさせていても問題ないですか?」

「大丈夫ですが、従魔の証明として何か身に付けさせておいた方が良いですね。そのままですと討伐されても文句は言えません。それと従魔が問題を起こした場合は主人の責任になります」


 俺はポケットからハンカチを出してベルとコタロウの首にスカーフのように付けておく。ベル達は満更でもないようなのでホッとした。


「素材を売る場所はどこになりますか?」

「後ろの地図に詳しい場所が書いております。赤い丸が現在地です。それと今は必要ないと思いますが、採取依頼を受けるようになってからは“収納カバン”を購入する事をお勧めします。アイテムボックスのように時間を止める効果はありませんが、小さい部屋位の量が入りますし値段も銀貨一枚程度ですので持っていても損はありません」


 露店でも置いてある店があったな。だけど買う必要はないけど通販でダミー用のカバンを購入してから売りに行くか。今日は素材を売るのは止めておこう。


「ありがとうございます」

「ご活躍をお祈りいたします。ところでGランクの依頼は受けていかれますか?ご希望でしたら明日から受けられる依頼をご用意いたします」

「お願いします」


 お姉さんはいくつかの書類を持って来て俺の前に出す。俺は内容を読んで三つを選んだ。


「これでお願いします」

「“満腹亭の開店手伝い”、“孤児院の手伝い”、“農業の手伝い”ですね。“満腹亭の開店手伝い”は明後日になりますので遅れないようにお願いします」


 依頼を決めたところで俺達はギルドを後にして隠れ家へと戻った。冒険者としての生活が始まると思うと少しワクワクしてしまった。

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