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第五十六話 竜の巣もどき

「それじゃあ行ってくる。…ああそうそう。リッカにはこれを渡しておくよ」

「ベア?」


 リッカには渡したのはアイテムボックスだ。これがあればリッカも戦いやすくなるだろう。


「ベア♪」


 リングを付けて嬉しそうにするリッカ。ムギが羨ましそうに見ているが、ムギはアイテムボックスの能力があるので別に必要はない。だけどベル達もお揃いのリングを付けているので欲しくなってしまったのだろう。


「次に見つけたらムギにも渡すから少しだけ待っていてくれ」

「ピヨ」


 素直に頷いてくれるムギの頭を軽く撫でてから。俺とベルは七十一階へと向かった。


「一階から十階の草原に雰囲気は似ているな」

「キュキュ」


 七十一階は見渡す限り草が生い茂っている。ただ、一階との大きな違いとしては現れる魔物だろう。少し離れたところに数体の竜の姿が見える。

 

 凄い大きいというわけではなかったが、やはり迫力が違う。


「自信なくなってくるな」


 そんな弱気な台詞が口から出ると、肩に乗っているベルがバシッと気合を注入してきた。


「…そうだな。ベルもいるんだし行けるに決まっているか。それじゃあ進むのも大事だけど、まずは見えているあの竜と戦ってみるか」

「キュ!」


 竜喰らいを握りしめて魔法の絨毯に乗りベルの隠形で近づく。


「どれくらいの威力が出るかな」


 操縦をベルと交代して俺は絨毯から飛び降りて竜の目の前に現れる。竜は気が付いていなかったようで、不意打ちは成功する。首に刺した竜くらいはそのまま竜の首を切断した。


「……うん?」


 俺は風魔法でゆっくりと地面に降りる。すると、遠くから何体か同じ竜が襲い掛かってきた。


「ベル。何体か頼む」

「キュー♪」


 ベルは絨毯を操作しながら竜達に近づくと闇魔法を放って倒していった。あまりにも見事な手際に俺は茫然としてしまう。


「キュキュキュー」


 そして竜達を引き連れて俺の方にやってきた。本当に仕事ができる奴だよ。


「負けてられないな」


 竜喰らいを使って俺は竜達を倒していった。悔やまれるのは首を切り落としているので、ダンジョンでなければ凄い量の素材が入ったのに、ここでは一部しか手に入らない事だな。


 しばらく俺が戦い続けると周りに竜はいなくなった。そこで俺は素材を回収する。


「えーと。“レッサードラゴンの肉”か。なるほど。レッサーだから倒しやすかったのか」


 イメージより弱かった理由に一人納得する。だけど本物の竜と戦う前哨戦と思えば丁度良いかもしれない。俺達は魔法の絨毯に乗って七十一階を猛スピードで進んで行く。


「うん? ベルちょっと止まるぞ」

「キュ?」


 俺は見慣れない竜がいたので少し眺めてみる事にした。


「翼と手が一体化しているな。ワイバーンか? ベル。ちょっと戦ってみていいか?」

「キュ」


 再び操縦を交代してもらい、俺はワイバーンに攻撃を仕掛ける。こちらも竜喰らいで一撃だった。


「“ワイバーンの肉”か。予想通りだったな。今の所この階層は何とかなりそうだな」


 俺達はこの後も何体かの“レッサードラゴン”と“ワイバーン”を倒しながら、この日の内に七十二階に辿り着くことが出来た。


「今日はここまでにするぞ」


 俺達が部屋に戻ると、コタロウ達はぐっすりと眠っていた。


「お疲れ様。大きなケガは無いようだな」

「レッサードラゴンとワイバーンだけだったからな。竜喰らいで一撃倒せる上に、ベルの隠形で奇襲もできたし」

「そうか。それでも大したものだぞ」

「ありがとうな。ところでコタロウ達は特訓の疲れか?」

「ああ。今日も頑張っていたぞ」


 そう言ってシェリルはコタロウ達を優しく撫でる。


「俺は夕飯の準備をしてくるよ」


 さっぱりと食べやすい物を準備しようと思い台所へ向かう。


「何にするかな?」


 考えた結果、ご飯は海鮮出汁のお茶漬けに決めた。そして、せっかくなのでレッサードラゴンやワイバーンの肉を焼いておこう。


 二百から三百グラムにカットして、一枚一枚フライパンで焼いておく。すると食欲を刺激する匂いが漂ってくる。


「キュキュ!」


 匂いにいち速く反応したベルは、焼けて積み重ねている肉をジーッと見ていた。お預けもかわいそうなので声をかける。


「ベル。味見で一枚食べてみてくれ」

「キュ!」


 それはそれは見事な敬礼をして一瞬のうちに食べ尽くした。そして俺の方を向いて親指を立てた。


「キュキュー♪」


 とても美味しかったようだ。すると匂いとベルの声で起きたのか、コタロウ達がシェリルに抱えられて近づいてきた。俺は一度火を止めてからコタロウ達に向き合う。


「たぬぬ~」

「ベア~」

「ピヨ~」


 シェリルの腕からジャンプして俺の方へとやって来たので抱き止める。


「お疲れ様」

「キュキュキュ」


 ベルと一緒にコタロウ達を撫でると、和らいだ表情を見せる。


「もう少ししたらご飯にするからシェリルと待っていてくれ。…それとも皆一枚ずつ味見するか?」

「たぬ」

「ベア」

「ピヨ」

「私も貰おう」

「キュ!」


 俺の問いに素直に頷く。先程食べたベルが一番いい返事なのは気になったが、頑張っているのも事実なので渡すことにした。ついでに俺も食べてみる。


「これはかなり好きな味だな」


 塩コショウでの味付けしかしていないが、肉が良いのか十分に美味い。シェリルやコタロウ達も良い表情だった。


 その後ももう一つだけとねだってくるベルを躱しながら肉を焼き続けて夕飯の準備を終わらせる。後はサラダと果物の盛り合わせを通販で購入しておいた。


 そして皆での夕食だ。疲れや不安が見える事もあるが、美味しい物や温かい物を食べると少しだけホッとする。


「貴様は度々この料理を出しているな」

「食べやすいし酒の〆にもいいからな。苦手だったか?」

「いや、そんなことは無いぞ。私も結構好きだぞ」


 そう言いながらシェリルは出汁茶漬けを食べる。


「でもシェリルの一番は甘い物か」

「そうだな。今の所はプリンパフェやハニートーストが好きだな」


 ハニートースト何かは一人で食べると結構な量なんだけどな。シェリルは一人で二つくらいは普通に食べるもんな。


 そんな事を考えているとベルが俺を引っ張ってきて通販を見せろとせがんでくる。どうやら好物を教えてくれるらしい。

 ベルに言われるまま通販を操作すると、一つの弁当でストップがかかった。


「キュキュ♪」

「…この弁当は」


 俺はつい笑ってしまった。


「どうしたんだ急に笑って」

「いや、ベルが選んだ好きな物が俺から奪った弁当なんだよな」


 俺がベルとの出会いを皆に話すと笑いが起きる。ついでに弁当を一つ購入して分けて食べることにした。


 あー。この弁当を持って行って花見でもしたいな。

 そんな思いが頭をよぎった。ちなみにコタロウ達は好きな物が多すぎて決められないらしい。悩んで転がる姿は可愛らしくて笑えたな。


 夕食の後は皆で温泉だ。ここの温泉は本当に疲れが取れる。ベル達も至福の表情でゆっくり浸かっている。さすがに今日はいつもみたいに遊ぶ余裕は無いようだった。


 温泉から上がるとベッドに直行だった。

 今日はすぐ隣でコタロウが眠っている。俺はコタロウを抱きしめながら夢の世界に旅立った。


 そして翌日。今日は午前中からダンジョンを進む予定だ。準備を終えると七十二階の探索を開始する。すると早速昨日とは違う竜を発見した。


「レッサードラゴンに似ているけどかなり赤いな。火属性とかか?」


 ベルに指示を出して俺はその竜に近づいてみた。すると俺を発見した途端に口から火を吹いてきた。


「熱っ」


 すぐに水魔法を放ち相手の火を相殺する。それから少しの間観察してみたが、基本的にはレッサードラゴンと大差がない。違いは体の色と熱気や火を吹いてくる程度の物だ。


「そろそろ仕留めるか」


 この竜には水魔法も効果的なので水で動きを制限しながら竜喰らいで仕留める。ドロップアイテムである肉を収納すると"ファイヤーレッサードラゴンの肉"と表示された。


「この階層は属性持ちのレッサードラゴンがいそうだな」


 そう予想しながら進んでいくと、本当にいろんな属性のレッサードラゴン達がいた。基本性能は変わらないが、特化している部分があると少し戦いにくい。


 それでも一日かけて七十三階にはたどり着けた。七十三階はしっかりと見ていないが、今までよりも大きい竜が飛んでいるのが見えた。明らかにレッサードラゴンやワイバーンと比べて風格があるように感じられた。


「…ここからが本番かな」


 俺とベルは隠れ家に戻り、昨日のようにシェリル達との時間を楽しんだ。

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