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第五十五話 進むために

「キュキュ♪」

「…まだ暗くね」


 翌日というか深夜十二時に俺はベルにたたき起こされた。俺は苦笑いしかできなかったが、嬉しそうなベルを見ると何も言えない。既にコタロウ達も出発する気満々だったので、少し眠いが皆で庭に向かう事にした。


 そして月光樹から少し離れた位置でベルは止まる。


「キュキュ」


 ここに植えたいらしい。俺達は穴を掘ってそこに“不老長樹の苗木”を入れる。

 そしてベルは“月光樹”の時のように集中する。


「キュ!!」


 苗木は光り輝いてどんどん大きくなっていく。“月光樹”は淡い青い光を放っていたが、“不老長樹”は優しいピンク色の輝きを放っている。そして花弁が舞っていた。


「美しいな」


 シェリルが自然と呟いて見入っている。“月光樹”も“不老長樹”も本当に素晴らしいと思う。


「キュキュ♪」


 ベルはいつの間にか“不老長樹”の実を人数分収穫していた。見かけは普通の桃なのだが俺は食べる前に収納して確認してみる。


 “仙桃”

 不老長樹の実。栄養満点で一つ食べれば体が元気になる。香りには心を落ち着かせる効果がある。仙桃で作る仙桃酒は世界中の酒飲みが憧れる逸品。不老不死の効能があると言い伝えられているが正しくは不老長寿の効果である。ただし一ヵ月に一個の摂取が必要になる。食べ過ぎても効果が上がるわけではないが、悪影響は何もない。エリクサーの材料の一つ。


「へー。不老長寿になるのか」

「本当だったのか!?」


 シェリルの反応が凄かった。


「あ、ああ。一ヵ月に一個は食べる必要があるみたいだけど。…ベル。この実はどれくらいの頻度で何個実るんだ?」


 ベルは樹を眺めてから考え込んで指を三本立てる。


「三日か」


 頷くと次は俺の肩に乗り、三十回程軽く叩いた。


「三日に三十個か」

「キュキュ」


 そうすると一ヵ月で三百個程か。十分な量だな。


「問題なさそうだな。少しなら売れるくらいの量だけど、売ったら大問題だよな」

「当たり前だ」


 シェリルは呆れたようにため息をつく。


「言ってみただけだ」


 そして俺達は仙桃を食べる事にした。まず匂いを嗅いでみると、甘くどこか落ち着く香りだった。そして一口齧るとやはり甘く果汁もたっぷたりだ。普通に美味しい。そして体中が元気になっていく感覚がある。


「これは美味いけどそれよりも凄いな。体が喜ぶって表現がぴったりだ」

「そうだな。素晴らしい果実だと思うぞ」


 ベル達も香りを嗅いで安らいだ表情を見せたり、食べては喜ぶ姿を見せてくれた。皆色んな不安を抱えていたはずだが、少しだけそれが和らいだと思う。


「ベル。ありがとうな。このために早く植えたかったんだな」

「キュ?………キュー!」


 今「え?」っていう表情だったよな。間が長かったし。俺は思わず笑ってしまった。シェリル達も今のやり取りを見ていたのでつられて笑い出す。


「キュ~///」


 ちょっと恥ずかしそうだがベルも笑顔だ。俺達は名残惜しかったが部屋に戻ってもう一度寝ることにした。皆で一つのベッドに横になる。ベルも満足したのかぐっすりとした寝顔だ。


「こんな状況でも笑えるものなのだな」


 まだ眠っていないシェリルがベル達を撫でながら俺にそう言ってきた。


「それは良かった。シェリルは笑ってる姿の方が良いぞ」

「口説き文句か?」

「いや、単なる本音。ここで口説いて成功しても死亡フラグじゃん。それに口説くなら邪竜を倒した直後の方が成功率が高そうだし」

「バカが。私はもう寝るぞ」


 そのままシェリルは本当に眠りに入った。俺も眠くなったし寝るかな。


 そしてすぐに朝になる。“仙桃”の効果なのか睡眠時間は短かったが、頭も体もスッキリしている。シェリル達も起きており、朝食の準備をしながら今日の予定を話す。


「貴様は今日はどうするんだ?ベル達は修練場を使いたがっている。私は助言などをしようと思うが」

「俺も修練場には行こうかな。見ているだけでも勉強になるし」


 そんな訳で今日は修練場に向かう事に決まった。


「ところで昨日から気になっている事があるんだけど」

「何だ?」

「ナイルさんってキーノ達並に強いの?」


 シェリルは考えるように少し黙ってから口を開いた。


「そこは私も気になっていた。ただ以前、ナイルは能力を使えていないという話を聞いていたからな。そこに関係があるのかもな」

「頼めば再現してくれるとは思うけど、あんまり気が進まないよな」

「勝手に覗き見るようなものだからな。どのみち邪竜との戦いには関係がないから今見る必要は無いだろう」

「そうだな」


 そんな会話をしながら朝食を食べ終えてから修練場へと向かう。


「たぬぬ!」

「ベア!」

「ピヨ!」


 コタロウ達は気合十分だ。一目散に箱の中に入っていった。対戦相手はシェリルが相応しい相手を選んでいる。


 初めはゴブリンなどの魔物からスタートだ。俺は強い魔物とだけ戦えばいいのではと思っていたが、それではダメらしい。


 強い魔物との戦いはどうしても慎重になってしまう。それ自体は悪いことではないが、あまりにもそれが続くと縮こまってしまい攻める場面でも守りに入る可能性があるらしい。


 また、強い相手には負ける可能性が高い。負け続けると負けぐせがつくので、それを回避するためにも弱い相手とも戦うらしい。


 そんな感じでコタロウ達は色んな相手と戦い続けた。格下には問題なく勝てるが、やはり高ランクの魔物に歯が立たない。シェリルは個別にどうすればいいかを教えており、コタロウ達は真剣な表情で助言を聞いていた。


 そして助言が終わるとコタロウ達はまた箱の中に入ろうとしたが、それはシェリルが引き留める。


「午前中はここまでだ。頑張りたい気持ちは分かるが、適度に体を休めないと体を壊すぞ。一度休んで午後からまたやるぞ」


 シェリルの言葉に素直に頷いている。その後は何名かの戦いを再現してもらっての勉強だ。俺はやはりキーノの動きや技が参考にしやすい。それと邪竜(分身)も再現してもらったので、どう戦えばいいかを話し合ったりもしている。


 午後も同じ様に過ごして一日が終わった。翌日は俺も動けるようになったので、午後からはベルと一緒にダンジョンを進んで行く予定だ。だけどその前に試しておきたいことがある。


 俺達は皆で修練場の箱の中へと足を踏み入れた。


「それで何を試すのだ?」

「新しい武器だな。まずは“竜喰らい”から」


 取り出して持ってみると、手には案外馴染む。刀身の部分には薄っすらと竜の絵が描かれているのが見れる。

 

 その場で振ってみるが問題は無さそうだ。


「使えそうか?」

「大丈夫。重さも問題ないし普通に使えそうだ」


 その次に出すのは“マジックステッキ”だ。どんな形にもなるらしいがどこまでできるのだろうか?


 剣・短剣・槍・弓・棒・斧・薙刀。イメージするだけで確かに形は変わる。だけどイメージがハッキリしないと微妙な形になるようなので、そこは気を付けないといけない。他にも盾・鎖・ロープ・鎧などにも変化できるようなので使いどころは多いのかもしれないな。


 試しにオーガを出してもらって戦ってみたが、耐久力には問題がなさそうだった。


「オーガの一撃でも問題ないか。武器にも防具にも使えるが、一番はロープとして使うのが良いのかもな」

「俺も思った。凄い能力ではないけど十分だよな」


 そして次はある意味一番楽しみにしていたアイテムだ。俺は“魔法の絨毯”を取り出した。


「六畳くらいの大きさか。まあこの人数なら問題ないな」


 そう言いながらも、もう少し大きくても良かったなと思いながら触ると絨毯はどんどん大きくなった。


「大きさもある程度自由なのか」


 結局学校などの小ホールくらいの大きさまで広がったところでストップした。


「何十名と乗れそうだな」

「これで商売したら儲かりそう」


 興味津々なベル達と一緒に絨毯に乗ってみるとかなりフカフカして乗り心地が良かった。


「操縦はこの場所か」


 模様が違う場所が一か所だけあり、そこが操縦席になっているらしい。そして絨毯にも結界は張られているが、操縦席にはもう一つ結界があるようだ。ただしこれは任意みたいだな。


 とりあえず動かしてみると絨毯は思った以上のスピードが出て操作も簡単だった。ゲーム感覚での操作程度だろう。さらにスピードを出したり一回転させても結界の効果か俺達には影響がない。逆さまや横向きでも操作できる。


「これは楽しいな」


 するとベル達から視線を感じる。自分達も操作したいようなので交代しながら皆で操縦してみた。


「キュキュー♪」


 ベルはとにかくスピードを出し。


「たぬぬ♪」


 コタロウはアクロバットな飛行で。


「ベアー♪」


 リッカは回りながら。


「ピヨー♪」


 ムギは垂直落下からの急上昇など、各々遊園地のアトラクションの様な動きで楽しんでいた。まあそれだけ自由に操縦できるという事なのだろう。


「そう言えば水の中でも平気なんだよな」


 俺はフィールドを海に変更してもらって、“魔法の絨毯”で潜ってみた。


「濡れることも無いんだな。スピードもほとんど変わらないし」


 どうやら海中でも変化は無いようだ。このアイテムはどこでも重宝できそうだな。


 陸に上がると次はいよいよ“暴風鴉”と“狂嵐舞”の出番だ。まず“暴風鴉”を手にしてみる。


「…いいなこれ」


 “竜喰らい”も手に馴染むが、こちらは体の一部であるかのような感覚だ。そして速さが今までより段違いだ。握っているだけで強化した時並みの速さを出せる。それでいて威力の方も上がっている。


「問題なさそうだな」


 シェリルの言葉に俺は頷く。そして“暴風鴉”に魔力を込める。

 今までは燕だったが、今度は鳳だ。それでも燕以上の速さと精度が可能となっている。


「これ乗れるんじゃないか?」


 物は試しで飛び乗ってみると本当に乗る事ができた。“魔法の絨毯”のような乗り心地は無いが、操作自体は難しくなく体当たりだけでもかなりの威力になる。


「これは“狂嵐舞”も楽しみだな」


 そう思って握ってみるが違和感を感じる。

 とりあえず使ってみることにした。すると使い勝手は以前までと特に変わらない。問題なく動かすことが出来て威力が上がっている事も実感できた。だが魔力を大目に込めた瞬間だった。


「うわ!」


 手に痛みを感じて放してしまった。


「大丈夫か」

「一応な」


 そう言ってみたが、掌はズタズタに切り裂かれている。月光水ですぐに治療はしたがこれはいったい何なのだろう?


「どうやらとんだじゃじゃ馬になったみたいだな。強力になったが、その分制御が難しくなったのだろう」


 …そい言えば未熟な者は武器に食われるっていう分があったな。そういうことか。


「まあ今までくらいには使えるか。少しずつコイツを扱えるようにしていくしかないか」

「無理はし過ぎるなよ」

「分かっているさ」


 確認はこれくらいで俺達は一度休むことにした。

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