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第五十一話 対決 烏天狗

 俺の目の前にはこの状況を作り出した烏天狗が俺を見据えている。


「他の皆はどうした?」


 俺は嵐舞を構えながら聞くだけ聞いてみた。

 答えないと思っていたが、烏天狗はあっさりと答えてくれた。


「リスは大天狗様と、女は女天狗が相手をしている。他の者は元の場所で待機しているぞ。才能は素晴らしいがまだまだ未熟だからな。まあ貴様も似たようなものだがな」


 話し終えると同時に錫杖による鋭い突きが放たれた。俺は嵐舞で攻撃を逸らす。


「反応するか」

「これくらいはな」


 余裕の表情で答えたが、実はそんなに余裕は無い。一撃逸らしただけだが、その攻撃は重く手がしびれそうだった。


「そうか。まだまだ速く重くなるから捌いみろ」


 そして突きの嵐が放たれる。キーノとの戦いや、ベルの動きに慣れているためか何とか反応は出来ている。だが、明らかに俺より速い。結局は押し切られて俺は吹き飛ばされる。


「ぐぁっ」


 そして起き上がると目の前には烏天狗が迫っている。


「おらっ」


 とりあえず風魔法で迎撃を試みた。いつもの風の刃とは違って今回は竜巻のような魔法だ。少し避けた程度では巻き込めると思ったのだ。


「未熟」


 烏天狗は竜巻を切り裂いて俺の眼前へと迫ってきた。竜巻をあっさりと突破された俺は少なからず動揺してしてしまう。そして再び錫杖で吹き飛ばされた。


 意識も飛びかけたがそこは根性で堪える。

 そしてやられっぱなしではいられない。嵐舞で魔法を強化して嵐を巻き起こす。風と雨が烏天狗を襲いだす。


「苦し紛れの大技か。威力は中々だが拙すぎる」


 烏天狗が錫杖を打ち鳴らすと俺の出した嵐は一瞬で消されてしまった。

 だけどそれは予想している。あれで終わると思ってはいない。俺は嵐を目隠しに使い近づいていた。


「む」


 近づいていた俺に一瞬だけ驚くが、烏天狗はすぐに錫杖で打ち払ってくる。威力は相変わらず物凄いが来ると分かっている一撃は耐えられる。俺はそのまま手を伸ばして烏天狗の頭に触る。


「寝てろ」


 俺は悪夢を流してやった。キーノにやられてから廃墟の階層だけでなく色んな魔物で試してきた。直接手を触れて悪夢を流せば大抵の相手は戦闘不能になる。勝利を狙うならこちらの方が可能性があると思った。そしてたとえ破られても少なくないダメージを与えられるはずだ。


「喝!!」


 だが俺の期待は脆くも崩れた。烏天狗は気合で悪夢を打ち破ると何でもなかったように平然としている。俺の方が悪夢を見せられた気分だ。


「強力な魔法を目隠しに使い本命は精神攻撃か。自分より強い者を倒すなら心を責めるのも一つの手だな。良い一撃だったぞ」


 褒めるくらいならそのまま倒れてくれればいいのにな。

 だけど諦めるわけにはいかない。風鳥を取り出すと俺は思い切り魔力を込めて投げつける。燕の姿で高速で向かう風鳥。だが烏天狗は難なくそれを砕いてしまった。


「中々面白いな」


 あーあ。キーノもそうだったけど完全に見下されているよな俺。烏天狗にしても上から目線だしよ。


「ふむ。動かないがここまでか。まあ少しは楽しめたぞ。苦しまないように頭を割ってやろう。リスや女も待っているかもしれんし、狸達にもすぐに会わせてやろう」


 それは言っちゃダメだろ。

 ああ。頭が真っ赤に染まっていく。


『暴れろよ。我慢するな壊しちまえ』


 赤く甘美な声が頭に響く。


「あああああ!」


 だけどあの状態にはなりたくない。気合を入れて頭を狙ってきた錫杖に俺も嵐舞を合わせる。重いし腕が痺れるが関係ない。


「おら!」


 俺は嵐舞を振り抜いて錫杖を弾く。そして烏天狗の腹にウォータージェットを放つ。

 ギリギリのところで空に逃げられたが烏天狗の表情は今までと違う。


『お前じゃ無理だ。殺されるぞ』


 うるさいな。どのみちあの状態になったら俺は死んだも同然だ。それなら可能な限りあがいてやる。


 風の刃とウォータージェットを烏天狗に向けて放つ。


「ぐっ!?」


 すると破壊の衝動が強くなった気がした。


「隙だらけだな」


 攻撃を躱した烏天狗がすぐ側まで来ていた。錫杖を振るってきたので、反射的に土の壁で防いでしまった。土の壁は砕かれたが、俺には大したダメージは無かった。そして土魔法では破壊の衝動は強くならなかった。


 俺は疑問に思って幻魔法と感覚魔法も使用してみたがこの二つも大丈夫だ。

 そうすると風と水の魔法がダメか。メインで使っていた魔法なので使えないのは痛いが仕方がない。俺は武器を鋼雲に替える。


『壊せ。破壊に身をゆだねろ』


 頭に響く声を無視して烏天狗と打ち合う。そして何度目かの打ち合いで錫杖にひびが入る。


「小賢しい」


 錫杖を打ち鳴らすとひびは消える。


「幻覚を武器に使うか。だがその程度の技で我を欺けると思うなよ」


 少しでも動揺を誘えればと思ったがダメだったか。ついでに幻覚による炎や雷も試した見たけど見抜いていやがる。


「我は大天狗様の幻覚に慣れておる。その技で我を倒すことは出来んぞ」


 烏天狗は錫杖を俺に向けている。その程度なら次で終わらせるという事なのだろう。

 覚悟を決めて烏天狗に向き直る。


「ふむ」


 一直線に烏天狗は向かってくる。手にした鋼雲でカウンターの突きを放った。烏天狗は突きを避けたため、俺の腹に錫杖を突き刺した。


 錫杖は俺の装備を突き破り、そのまま腹に風穴を開けた。俺は力が抜けて烏天狗に倒れる格好になる


「…幻覚ではないな。これで終わりだ。それとも最期に悪夢でも流すのか?」


 俺の足元が真っ赤に染まる。だが痛覚は消してあるからまだ動ける。俺は“狂”を放ってやった。この距離で外すことは無い。


「ぐぁっ!?」


 初めて烏天狗が絶叫して地に倒れこむ。

 

「何だ!? 何をした!?」


 俺は烏天狗の言葉を無視して自分の腹に刺さっている錫杖を見る。不思議と“狂”を刺すポイントが見える。そのポイントに刺すと錫杖を壊れて消えてしまった。


 そしてすぐに月光水を使う。傷は瞬時に塞がったが、血を流しすぎたためかフラフラする。だけど烏天狗にとどめを刺さないと。


「我は負けん!!」


 烏天狗から強烈な魔力が放出された。それと同時に烏天狗は立ち上がる。だが“狂”は効いているようで動きがぎこちない。


 それでも俺の状態を考えれば分が悪い気がするけど。


「ここまでする気は無かったのだがな。貴様の勝ちへの執念に敬意を表しよう」


 この言葉に俺は嫌な予感がした。破壊の衝動など気にするべきではない。風の刃やウォータージェットで仕留めにかかる。


 魔法が当たる直前に鏡の様な盾が烏天狗の目の前に現れた。その盾が魔法を掻き消す。さらに首には勾玉の首飾り、手には剣を持っていた。そして烏天狗の体も魔力も癒されていく。


「ふん!」


 剣を振るうと衝撃波が大気を震わせながら襲ってきた。咄嗟に鋼雲で防ぐが鋼雲は粉々に砕けて俺はそのまま吹き飛ばされる。


 意識を失いかけた俺の頭に声が響く。


『さあ体を寄こせ』 

 嫌だ。

『そのままだと死ぬぞ』

 ベル達を残して死ねるか。

『あれはお前の手に負える相手じゃない』

 知った事か。どうにかして勝つだけだ。

『お前は弱いんだよ。諦めろ。その体じゃ何もできないだろ。お前は勇者じゃない。ただのその辺にいる一般人なんだよ』


 その言葉に苛立った。

 諦めてたまるか。一般人でもやる時はやるんだよ。俺の体は全然動くんだよ!何だってできるんだよ!


 その瞬間に体が軽くなった。目の前で止めを刺そうとしていた一撃を俺は躱していた。


「今の一撃を躱すだと」


 烏天狗も驚いているが一番驚いているのは多分俺だ。

 何だか体が面白い。今なら本当に何でもできる気がする。


 俺は烏天狗に向けて雷を放った。


「!?」


 盾で搔き消されたが俺は烏天狗の側に来ている。


「焼き鳥にしてやるよ」


 そのまま近距離で火を放つ。烏天狗を火に包まれるが風を起こして火を吹き飛ばした。だが俺の攻撃は終わらない。強烈な光を発光させて視界を奪う。そして氷で作った剣で腹に風穴を開けてやった。


「さっきのお返しだ」


 烏天狗は冷静に剣を引き抜く。腹の傷は塞がっていく。

 そして大声で笑いだした。


「ハハハハハハ! 貴様は不思議な男だな。貴様はどんな人生を送ってきたんだ? 我に見せろ。楽しませろ」


 烏天狗の目つきが変わり、口角も上がっている。


「変態かよ。お前に何て教えたくないね」

「教える必要はないぞ。見せてもらう!」


 剣による怒涛の攻撃。俺はそれを素手で防いでいる。


「ハハハ! 不思議だな普通は拳が潰れたり切れる物だぞ」

「俺の体は壊れない。そう決めている」


 そして俺の拳が盾に当たると盾にひびが入る。すると烏天狗は剣と盾を手放して俺の頭を一瞬掴んだ。何か吸い取られたような感覚があったが、すぐに蹴飛ばす。


 とりあえず体に異常は感じられない。だが烏天狗の方は違っていた。


「ハハハハハ。そうかそうなのか。貴様はそうだったのか」


 涙を流しながら笑う烏天狗。俺は少なからず戸惑ってしまう。そして烏天狗は俺に向かって話しかけてきた。


「ジュンよ。最高の一撃を放ってみよ」


 烏天狗の手には既に剣が戻っている。そしてかなりの魔力が込められている。

 俺は嵐舞を取り出す。


 大丈夫。俺は平気だと自分に言い聞かせて魔力を込める。


 嵐舞が軋む音がした。俺の魔力を溜めきれないのだろう。それでも退くわけにはいかない。

 俺は駆け出して全力で振るった。


 烏天狗は動くことなくその一撃を受け入れた。


「はぁ!?」


 意味が分からなかった。


「何やってんだよ!?」

「別に我は死ぬわけではない。ダンジョンに囚われているからな。我はまた復活する」


 烏天狗の体が消えていく。色々聞きたい気もするが、安心してしまった俺は体から力が抜ける。


「ああ。楽しませてくれた褒美に大切な事を教えてやろう。貴様の最後の状態は幻魔法によるドーピングだ。強い思い込みが体に影響を及ぼしている。まあ無理矢理強化しているから終わった後は下手をすれば死ぬぞ」


 …幻魔法にそんな使い方があったのか。他者にではなく自己暗示か。


「それともう一つ大事な力があるだろ。使いこなさないと貴様は殺されるぞ。まだ気づかれていないだろうがな」


 そう言って烏天狗は完全に消えた。何かもう頭が混乱する。一体誰に殺されるんだ俺は?…まあいいや。月光水を…いや月の雫を飲んで寝…よ……。


 俺は薄れゆく意識の中で月の雫を飲んでからその場で倒れた。

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