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第五話 二匹目の従魔は甘えん坊

 森を出て一週間が経過した。急ぐ必要がないと開き直った俺は森の中で魔物狩りをしたり、ベルとの戦闘訓練を行っていた。おかげで、集団との戦いも多少はできるようになった。


「そろそろ街を探すかな」


 この生活も案外楽しいが、情報も欲しいので街に向かって出発する事に決めた。


「ベルもいいか? 森から離れてしまうけど」

「キュキュ」


 問題ないという表情だ。そんなベルと一緒に外に出る。


「何日くらいで見つかるかな」


 とりあえず適当にまっすぐ歩きだす。ただ、周囲はずっと草原が続いている。魔物が出れば見つけられるが、相手からも丸見えだ。一応警戒しながら進んで行く。


「ベルは何か違和感を感じたりするか?」

「キューキュ」


 今の所は何もない。ただただ草原をひたすら歩いて行くだけだ。魔物と戦うよりもある意味では辛いかもしれないな。だが、ベルがいるので飽きたり油断しすぎることなく進めている。


「馬車が欲しいな。いずれは馬の従魔もありかもな」


 そうすれば移動が楽になるだろうなと考えてしまう。


 そして三日ほどベルと草原を歩き続けた。俺に隠れ家が無ければキツイ旅だったと思う。


「ようやく景色が変わってきたな」

 

 今度は右手の方に森が見えてきた。入ろうとは思わないが、景色が変わるだけで精神的に違う。


「少し休憩するか。…うん?」

「キュ?」


 俺とベルはほぼ同時に森の方に目を向けた。何か声が聞こえた気がしたからだ。森の方に近づいていくと声が大きくなる。そして声の主はすぐに森から出てきた。


「たぬ~!!」


 走って出てきたのは仔狸だった。泣きながら二足歩行で全力疾走だ。


「「「ブモー!!」」」


 その後ろからはオークが三体程襲い掛かってきている。仔狸は俺達とオークに挟まれる形となる。


「たぬ!? たぬ!? たぬ~」


 俺達とオークを交互に見て、もうダメだと思ったのかその場に崩れて震えている。


「ベル。あの子を頼む」

「キュ」


 見ていられなくなった俺は仔狸をベルに任せてオークへと向かう。

 オークとは森で戦い慣れたし、何よりベルとの訓練をしてきた俺にとっては怖じ気づく必要は無くなった。


「「「ブモ!!」」」


 オークは俺の方が大きい獲物だと思ったようで狙いを俺へと変えた。俺は風の刃とウォータージェットをオークに向けて飛ばす。

 以前より俺は成長しているのだろう。前は一撃では倒せなかったが、今は一撃で首を刎ねる事ができた。ウォータジェットも頭を貫く事ができて一撃だった。


「ブモ!!」


 残った一体は逃げる事はせずに俺に怒りの表情を向けている。俺は“狂”を取り出して、接近戦を試みる。オークは足こそ遅めだが、腕を振り回すのは中々早い。俺はそれを搔い潜りながら針を刺していく。


「ブ……モ」


 体が動かなくなったオークに最期の一撃を加える。オークはそのまま倒れて動かなくなる。三体のオークを収納してから俺は仔狸の方へと向かう。

 震えている仔狸の側にはベルが立っており、優しく仔狸の頭や背中を撫でていた。仔狸はそんなベルに身を寄せている。


「ベル。こっちは終わったけど、その子は大丈夫そうか?」


 ベルは仔狸に優しく声をかける。


「キュキュキュ」

「たぬ。たぬ~」

「キューキュキュ」

「たぬぬ」

「キュキュー」

「たぬ~」


 ベルが俺の事も説明してくれたようで、恐る恐るだが仔狸は俺の方にも近づいてくる。


「たぬぬ」


 ペコリと仔狸はお辞儀をする。

 俺はしゃがんでなるべく視線を合わせて、仔狸に話しかける。


「ケガはないか?」

「たぬ」

「それなら良かった」


 仔狸はコクリと頷く。だが、ケガは確かに無いようだが疲労感が見られる。満足に食べていないのか足取りもおぼつかない。


「…ベル。この子も連れて隠れ家に戻って昼飯にするぞ」

「キュー♪」


 ベルも賛成らしい。


「たぬぬ?」

「キュキュ、キュー」


 仔狸は首を傾げていたがベルが説明をしてくれた。俺は入口を開けるとベルと仔狸を抱えて中に入る。


 仔狸は驚いていたが、すぐに大人しくしていた。


『“隠れ家”に種族“天狸”が一体入ろうとしています。許可しますか?』


 もちろん許可する。つーか“天狸”って何かカッコいい種族名だな。天狐の狸バージョンかな?


「たぬ!?」


 仔狸は中に入ると驚きのあまり固まっていた。そんな子狸を部屋へと連れて行く。“清潔の指輪”でキレイにするとソファーに座らせて果物を置いておく。


 そこでやっと動き始めたが、果物と俺を見ては困惑した表情を浮かべていた。


「今食事を用意するから、それまで果物を摘まんでいてくれ」


 声をかけるが、遠慮てしているのか中々食べようとしない。


「キュキュ」


 するとベルが果物を美味しそうに食べ始める。そして、仔狸に一つ果物を渡す。


「たぬぬ」

 

 ベルから渡されると仔狸も一緒に食べ始める。俺はその間に卵粥を用意する。まあ、レトルトの食品だけどな。


 俺は食事を用意しながらベルと仔狸を見ていた。ベルは結構世話焼きのようで、仔狸を気にかけてくれている。


 仔狸の方もそんなベルを頼りにしている感じがある。仲の良い光景に微笑んでいると料理が出来上がった。


「出来たぞ」


 テーブルの上に持っていき茶碗によそって渡す。しばらくジーっと見ていたが俺とベルが食べるのを見て、スプーンで美味しそうに食べ始めた。


「お代わりもあるからゆっくり食べなよ」

「たぬ」

「キュキュ!」


 頷く仔狸とすぐにお代わりを要求するベル。俺は笑いながらお代わりを渡して自分も食事を続ける。

 大量に作ったと思ったが、全部空になるのには時間がかからなかった。大半はベルの腹へと消えている。


「た…ぬ」


 仔狸も満足したようで、今は眠そうになっている。俺は仔狸を抱き上げで寝室へ移動する。ベッドに寝かせると小さな手が俺の服を掴んで離さなかった。


「俺達も寝るか」

「キュー♪」


 仔狸を挟むような形で横になる。そんな子狸の頭を撫でながらベルに小さな声で声をかけた。


「なあベル。コイツは親や群れからはぐれたのか?」


 もしそうなら、探す手伝いをしようと俺は考えていた。


「キュキュ」


 ベルは悲しそうな顔で首を横に振る。


「もしかして群は全滅でもしたのか」


 この質問にも首を横に振った。俺は少し考えてからまた質問する。


「…仲間がいなくて一人で暮らしていたのか?」

「キュ」


 今度は首を縦に振った。理由はよく分からないが、長い間一人だったのだろう。


「そうか。…コイツが望むならだけど一緒に連れて行くか?」

「キュ♪」

「その時は俺の時みたいに戦い方を教えたりサポートしてやってくれ」

「キュキュ」


 満足そうな笑顔で頷くベル。


「それじゃあ起きたら話をするか」


 俺は仔狸もベルも包み込むような形で眠りについた。


………

……


 顔の横がくすぐったくて目が覚めた。ベルと仔狸が俺のすぐ隣まで寄ってきたからだ。


「ハハ。二人とも起きるの早いな」


 二匹を抱き上げてリビングへと戻る。仔狸も俺に慣れてくれたようで体を擦りつけたりしてくる。丁度いいので、ソファーに座って仔狸とベルを膝に乗せて話しかける。


「なあ、良ければお前も俺達と一緒に行動しないか?とりあえず今は人のいる場所に向かっているけど、食事と休む場所には困らせないぞ。まあ、念のために戦い方は訓練してもらうけど」

「……」


 仔狸はジッと俺を見つめていたかと思うと突然飛びついてきた。


「たぬ~」


 俺の胸に顔をうずめながら何度も首を縦に振っている。顔からは涙がポロポロと零れており、手は俺の服を力強くつかんでいた。


「キュキュー」


 ベルも仔狸の頭を撫でる。しばらくそんな時間が続いたが仔狸もスッキリした顔に変わっていく。


「たぬ」


 改めて俺とベルにお辞儀をしてくる。


「よろしくな。えーと、名前が必要だよな。…“コタロウ”でどうだ?」

「たぬ♪」


 先程までの様子とは変わって元気よく飛び跳ねている。そしてベルの時と同じように光り輝いた。


「やっぱりこれが契約の証なんだな」


 ステータスプレートを見ると“従魔”の欄に“コタロウ”の名前が増えていた。


「なあコタロウ。能力を見せてもらっても構わないか?」

「たぬ」


 返事をするとコタロウはベルに連れられて寝室のベッドの上で飛び跳ねて遊び始める。元気だなと思いながら俺は能力の確認をする。


 名前:コタロウ

 種族:天狸

 主人:ジュン

 武術:刀術

 魔法:光魔法 聖魔法

 特殊:変化 結界 念力 硬質化 幸運 奪取 神通力


 …え~と。絶対コタロウ普通じゃない。

 聖魔法なんてものや神通力もあるのか。


 “聖魔法”

 聖属性の魔法を使用する事ができる。主に回復や支援がメイン。魔法耐性・状態異常耐性が向上する。


 “神通力”

 魔法とは異なる力。使用するには才能だけでなく修行が必要になる。


「見る限りは後方支援タイプだな。結界も使えるみたいだし将来有望だな。ただ、神通力に関しては説明をみても分からないな。言葉は聞いたことあるけど詳しい内容は知らないしな」


 考えても仕方がないと思い、遊んでいる二匹に視線を向ける。元気いっぱいで見ているこちらも楽しくなる。


「さあ、風呂にでも入るぞ」

「キュー♪」

「たぬ?」


 分かっていないコタロウだが、俺とベルが楽しそうにしているのを見て興味を覚えたようだった。ベルとコタロウを肩や頭に乗せて浴室へと向かう。


「たぬー」


 ポカーンと眺めているコタロウの体をまずは洗いに行く。


「たぬぬ。たぬぬ」


 くすぐったいようで身を捩じらせる。だが嫌な訳ではないようだ。そしてベルが思い切り泡立てると歓喜の声を上げる。


「たぬぬ♪」


 泡に体を覆われるとブルブルと体を震わせて泡を飛ばす。ベル達はこれが楽しいらしい。そしてやはり泡を水で流すと今度は水を飛ばす。


「今度はいよいよ風呂だぞ」


 楽しむならこっちだろうと思ってジャグジー風呂に浸かる。予想通りベルとコタロウはボコボコ湧いてくる泡で楽しんでくれている。


 ひとしきり遊ぶと休憩なのか普通の風呂でプカプカ浮いている。

 

「器用な事をするよな。俺もお前らに習ってみるか」


 俺は外風呂の寝湯に向かう。俺が動くとベルとコタロウも後ろを付いてくる。そして一緒に寝湯で三人で横になる。まあ二匹は浮いているのだけれど。


「気持ちが良いな」

「キュー」

「たぬー」


 のんびりと時間が過ぎていく。ベルとコタロウはいつの間にか打たせ湯で遊び始めていた。


「キュキュー」

「たぬぬー」


 二匹でお湯を掛け合ったり、打たせ湯を滝に見立てて下に立ったりしている。

 外風呂での遊びも満足したらしく再び俺の所へと戻ってきた。そんな二匹を抱えて風呂から上がる。ドライヤーで乾かし櫛で毛並みを整えるのはコタロウも好きなようだった。


 夕食も豪勢に色々用意した。コタロウは目を輝かせていたが、ベルの方がその数倍喜んでいるように見えた。すき焼きも結構豪勢に用意したつもりなんだけどな。


 食事は楽しくいただいた。食べ終わると昼間と同じくコタロウはウトウトし始めた。そんなコタロウを抱き上げて寝室へと向かう。


 この世界に飛ばされた時は色々不安だったが、ベルやコタロウと出会えたのは僥倖だったな。さあ、明日は街でも見つかればいいな。

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