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第四十四話 孵化

「さて今度は何が出る事やら」


 目の前には試練の扉がある。勘を取り戻しながら慎重に進んだが、割と早く着くことが出来た。

 扉の中に入ると、魔法陣が輝きだして二体のデュラハンが現れた。 


 一体のデュラハンは炎を纏って剣と盾を持ち、もう一体は槍を持っていた。


「すまないが私にやらせてくれ」

「キュー、キュキュー!」

「訂正する。私とベルにやらせてくれ」


 そう言って二人が前に出る。

 シェリルとベルはキーノとの戦いを気にしているのだろう。コタロウとリッカもそれを感じているようだった。俺達はそのまま下がって二人に任せることにした。


「感謝するぞ」


 炎のデュラハンの相手はシェリルがするようだ。シェリルが大鎌を向けると、呼応するように剣と盾を構えだす。

 そして互いに駆け出すと武器がぶつかり合う。デュラハンは剣と盾で上手に攻めているが、それをシェリルは大鎌一つで捌いている。


 武器だけ見るとシェリルの方が不利な気がするがそれを補うくらいに技量が高いのだろう。デュラハンもこのままではマズイと思ったのか距離を取った。


 遠距離からの魔法攻撃かと思ったがデュラハンは何と炎の馬を作り乗り出した。


「器用な事をするものだな」


 馬は空を駆ける事もできるようだった。馬の機動力とデュラハンの剣技が合わさると中々厄介に見えるのだが、シェリルは焦る様子がない。


 デュラハンは勝負を決めようと思ったのか、剣に炎を纏わせて馬と共に突進して渾身の一撃を放つ。だがシェリルはその攻撃を大鎌で器用に逸らした。


 炎の勢いは一気に弱くなる。その瞬間にシェリルは水の魔力を大鎌に流してデュラハンを馬ごと切り裂き勝負は決まった。


 そして一方のベルだが、こちらの相手も特徴的だった。ただのデュラハンかと思ったが体が砂になりベルの後ろに回り込み突きを放ってきた。


「キュキュ!」


 ベルは落ち着いて槍を躱すと闇魔法を撃ちこんだ。だがデュラハンは体を再び砂にして攻撃をやり過ごした。


 そして今度は砂でいくつもの武器を作ってベルに飛ばしていく。

 ベルも負けじと闇魔法で相殺していくが、壊れても再びが砂が集まり再生されていく。


 このままだと無理だと思ったベルは距離を取る。自分の優位を疑わないデュラハンは何も気にせず、砂で形成された武器と共にベルに突っ込んでいく。


 ベルの周りには黒い触手のような物体が現れた。触手は突っ込んでくるデュラハンや武器に向かって行く。

 デュラハンは手にした槍や砂で作られた武器で触手を切ろうとするが、触手に触れた部分から黒く変色していく。そして触手がデュラハンに触れるとデュラハンは力が抜けたように崩れ落ちる。そのまま姿が見えなくなるほど巻き付けられてしまう。


 そして触手が消えるとそこにはデュラハンの姿は無くドロップアイテムが落ちているだけだった。


 戦いを終えた二人はドロップアイテムを持ってこちらへと戻ってきた。


「たぬ♪」

「ベア♪」


 戻って来る二人を労うようにコタロウ達が駆け寄っていく。二人とも満更じゃなさそうだな。


「お疲れ様」

「あの程度なら問題ない」

「キュ」


 シェリルの言葉にベルも乗っかる。俺は二人に通販で買った飲み物を渡した。


「それにしてもシェリルは制限があっても勝てるんだな」

「当たり前だ。と言いたいが、その辺りは貴様が渡してくれた装備の存在が大きい。今の装備でなければあんな戦い方などできんだろうな。まあ、そんな事よりドロップアイテムと宝箱を確認するぞ」


 促されるままアイテムを受け取り宝箱をリッカに開けてもらう。宝箱の中にはキレイに装飾された小箱があり小箱には宝石がいくつも入っていた。


 宝石は何故かカットされている状態であり価値は高そうだった。そのままシェリルとベルが渡してくれたドロップアイテムと共に収納する。


 名前:宝石箱(観賞用)

 効果:中には多種多様な宝石が入っている。特別な効果は無いが価値は高い。


 名前:炎の甲冑

 効果:物理・魔法耐性を高める。火を操る事が可能になり慣れると火を使って空を飛ぶことも可能。


 名前:砂塵の槍

 効果:砂を操る事が可能。


「…なあ。今更だけどダンジョンの宝箱ってここまで実入りが良い物なのか?」

「いや。属性効果付きの装備はよく出るが、ここまで出ることは無いな。まあ、試練の部屋の魔物のレベルも違っているがな」


 この日の探索はここまでにして隠れ家に戻る。


 そして翌日。俺達は四十一階層の雪原にいる。


「ベア♪」


「たぬ♪」


「キュ♪」


 ベル達は一面の銀世界に大はしゃぎだった。特にリッカが喜んでいる。人形とはいえシロクマだからだろうか?


 始めこそ雪原を楽しんでいたが、進むにつれてそうも言ってられなくなってきた。吹雪が強まり積雪量が多くなる。歩くのすらやっとだ。


「魔物はそこまで強くは無いが環境がきついな」

「あまり離れない方が良いな。近づいてくる魔物だけを相手にしろよ」


 魔物はこの吹雪をものともせずに攻めてくる。戦闘と環境で思った以上に体力が消費されるので、俺達は何度も休憩を取りながらゆっくり進んでいる。


 そして数日が過ぎて、ようやく雪原を抜けることができた。


「案外きつかったな。視界が悪いし足場も不安定で歩きにくいし」

「確かにな。天気が良い時はキレイだと思ったのだがな」


 そのまま隠れ家に入ると皆で温泉に浸かる。装備のおかげで寒くは無いけど、やっぱり気分的には生き返った感じがする。


「キュキュー♪」

「たぬぬー♪」

「ベアー♪」


 開放感からかベル達は温泉に飛び込んでいく。そしてそのまま気持ちよさそうにプカプカ浮かんでまったりしている。


「相変わらずだな」


 口調は呆れているがシェリルの目はとても優しい感じがした。

 俺も隣でベル達を目で追ってしまう。

 

「しかし、最近はベル達も温泉に入る時間が伸びたな」

「雪原だったからな。良い装備を付けている私達でも長く入るから仕方ないだろうな」

「う~ん。ベル達の装備も充実させたいな」


 この後の階層でドロップアイテムや宝箱で出てくれればいいんだけどな。


「魔獣用の装備を作ってくれる店も少ないからな」

「バーンさんにでも相談してみるかな」


 その後は色んな温泉を楽しんでから部屋へと戻る。

 夕食は皆でおでんを食べた。やっぱり寒い時は鍋とかおでんみたいな温かい物が最高だよな。


「たぬたぬ」


 夕食の後は日課の卵への魔力供給だ。

 いつも通りに皆で魔力を送っているとパリパリという音が聞こえた。


「何の音だ?」

「おい、卵にひびが入っているぞ!」


 シェリルの言う通りに卵が動いてひびが入ってきている。ベル達も卵に目が釘付けだ。

 しばらく見守っていると光と共に卵が割れた。


「眩し!?」

「ピヨ♪」


 …何か可愛らしい声が聞こえた気がするぞ。

 恐る恐る目を開けると、俺の目の前にはつぶらな瞳の両手サイズのヒヨコがいた。


「…」

「ピヨ?」


 見つめ合っているとヒヨコは首を傾げる。

 ヤバイ。可愛い。

 撫でたくなって手を伸ばすとヒヨコの方から俺の手に体をこすりつけてくる。


 それを見た他の皆もヒヨコを代わる代わる撫で始める。


「ピヨ~///」


 ヒヨコも気持ち良さそうに目を細めていた。


「可愛いな。ところでコイツは何て言う魔物なんだ?」

「ラッキーバードだ。既に絶滅したと聞いていたのだがな」


 幸せの青い鳥じゃないけどそんな感じかな。

 幸運の能力でも持っているのか?


「縁起が良い魔物なんだな」

「いや。子供でも倒せる程弱く警戒心も薄い。さらに、ラッキーバードの魔石は素材に使うと特殊効果が付くということで乱獲されたのだ」


 え!?想像と全く違う。悪意のこもった名前だな、誰が考えたんだよ。


「何か可哀想だな。ところでシェリルが従魔にするか?」


 シェリルが見つけた卵だし、可愛い動物が好きだからな。

 だけどシェリルは首を横に振った。


「いや。私は呪われている状態だ。そんな中で契約をしたら万が一が起きるかもしれん。それに従魔契約は相性が悪いみたいでな。貴様が良ければ契約してくれ」

「俺は構わないけどな。ベル達も問題ないみたいだし」


 遊んでいるベル達の方を向くとヒヨコと目が合う。


「ピヨピヨ♪」


 嬉しそうな鳴き声が響く。そんなヒヨコを両手に乗せて声をかける。


「なあ良ければ俺と契約しないか?」

「ピヨ♪」


 飛び跳ねて喜びを表している。

 これなら問題ないだろう。


「そしたら名前が必要だな」


 ヒヨコの頭を撫でながら考える。

 子供に倒される程弱い魔物。だけど負けずに頑張って生きてほしいよな。


「…ムギ。お前はムギだ」


 名前を決めるとヒヨコの体が光った。問題なく成功したようだ。早速能力を確認しよう。


 名前:ムギ

 種族:ラッキーバード

 主人:ジュン

 状態:普通

 魔法適性:風魔法 音魔法

 その他:隠形 再生 探知 結界 念力 擬態 アイテムボックス 幸運 直感 魅了の声


 普通に強くないか?少なくとも子供には勝てるよなこれ。


「なあ、この能力って普通なのか?」


 恐る恐るシェリルに聞いてみると、シェリルはため息をつく。


「そんなわけ無いだろ。多分、私達の能力も受け継いでいるな」


 確かにほとんどの能力が俺達と被っているもんな。

 上手く育てば戦力としても凄くなりそうだぞ。


「ピヨ♪」


 褒められているのが分かったのかムギは上機嫌だった。

 うん。とりあえず元気に育ってくれればそれでいいか。


 その後は各自自由に過ごす。リッカは遊び終えると最近は人形を手作りしている。少しずつしか進めてないみたいだが、どんな人形ができるのかな。


―翌日


「これが氷床の階層か。氷の洞窟って感じだな」

「雪も風も最小限だから雪原よりは暖かく感じるな」


 氷床の階層は周囲が氷に覆われているため、冷たい風を受けない分温かく感じられた。ただし、床がツルツルと滑るのでそこだけは気を付けないといけない。


「それじゃあ出発するか」


 ベル達は出発するまでは滑って遊んでいたが、出発すると俺達の肩や頭に登り一緒に進みだす。ちなみにムギも一緒に同行している。


 魔物が出るとムギは隠形で隠れながら音魔法や風魔法を使って相手の邪魔をしていた。

 直接的な攻撃力は足りないが、音魔法によるバフやデバフはそれなりに有効だ。

 卵から産まれたからかは知らないが、子供に倒せるほど弱い魔物とは思えないな。


 雪原の階層よりは進みやすく、またムギも戦力として十分だったので四日目には五十階の試練の扉にたどり着けた。


「今回はどんな魔物がでるか」


 扉を開けて中に入る。そして魔法陣からボスが現れる。


「ピェー!!」


 上空を悠然と舞うキレイな鳥が現れた。大きさはでかいけど。


「クリスタルバードか。また珍しい魔物だな。強いが見つける方が難しいタイプだからBランクの魔物としては戦闘力は低い方だな」


「それならいいけど。大きさもあるよな。結構危なくないか?」


 普通の人より少し大きいくらいか。嘴も鋭いしあれだけでも危険だよな。


「同ランクの魔物と比べてだからな。速いし魔法も使える。だが戦闘力なら四十階のボスの方が上だ」

「ピェー」


 クリスタルバードは勢いよく急降下してきた。俺達は避けたが氷魔法で追撃してくる。

 シェリルが火魔法で相殺し一度距離を取る。

 

 前衛は俺とシェリルで勤め、コタロウ・リッカ・ムギは後ろでサポートに回り、ベルは状況を見て臨機応変に動いてもらう形で戦っていく。


 クリスタルバードは空に逃げたりするため少し時間はかかったが倒すことはできた。


「さてドロップアイテムは…うぉ!?これはキレイだな」


 ドロップアイテムは羽毛だった。名前通りクリスタルでできている。


「貴族の女性が欲しがるから高く売れるぞ」

「シェリルは欲しくないのか?」

「私なら何を着ても似合うから特別欲しいとは思わん」

「相変わらず凄い自信だな。それじゃあ次は宝箱を開けるか。リッカには四十階で開けてもらったしな。ムギ、開けてみるか?」


「ピヨ♪」


 ムギだけでは無理だろうと思い手伝おうとしたのだが、宝箱はひとりでに開いていく。そういえば念力の能力があったもんな。


 宝箱をのぞき込むとティアドロップ型の宝石のような物がポツンと入っていた。

 明らかに宝箱の大きさに対して小さすぎる。


 価値が高ければ良いなと思い収納し鑑定する。


 名前:豊穣の雫

 どんな大地でも緑の溢れる地へと復活させる。その土地で作物を育てると品質も収穫量も別格の物になる。


 これで俺に何をしろと言うんだろうか?いや、素晴らしいレベルのアイテムだけどさ。どこの街や国でも欲しがるくらいの物だ。でも何だろうこのモヤモヤは。


「どうしたんだ?」


「ピヨ?


 ムギは少し不安そうな表情で俺を見ていた。

 いかんいかん。凄いアイテムを手に入れたから誉めてやらなければ。


「ムギ、凄いアイテムだったぞ」

「ピヨ///」


 頭を撫でながら褒めるとムギは嬉しそうな表情へと変化していく。

 俺の言葉を聞いたベル達もムギを褒め始めている。


「どんな効果があるんだ?」

「豊穣の鍬とセットで使ったらとんでもないことになるアイテムだ。どんな大地でも緑豊かにして作物のレベルを上げるらしい」

「…冒険者を引退したら農家でもやるか?」

「従業員をかなり雇うことになりそうだな。規模が予想できないぞ」


 とりあえず今日は休むことにした。いつか使い道があるだろう…多分。

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