第三十一話 息抜きも大切
目を覚ますと皆はまだ眠っていた。今日はベルもコタロウも俺を挟むような形で眠っていた。腹の上にはリッカも置いてある。
スヤスヤと寝ている姿を見ているだけで癒される気がする。自然とベルとコタロウに手が伸びて撫でてしまう。
「…しかし、俺は何者なんだろうな」
今までは気にしていなかった不安が大きくなっていく。ベルのお陰で俺は正気に戻ったが、あのままだと俺はどうなっていたんだろうか?
自分が自分じゃなくなるような予感がしてしまう。あの時の俺は破壊を心の底から楽しんでいたからな。
「キュキュ?」
俺が撫でていたため、不安が伝わってしまったのかベルが目を覚ました。
「ごめん。起こしてしまったな」
「キュキュ」
謝る俺の頭に登ると、そのまま俺の頭をベルが撫でてくる。小さな手なのにとても大きく暖かく感じる。
「ありがとうなベル」
「キュー」
一声鳴くと、ベルは俺の頭から降りてすぐ横で大の字で仰向けになる。まるで全身を撫でろと言っているようだ。
可愛らしくてお腹を撫でたりすると、くすぐったそうに笑っている。
「キュキュ、キュキュー♪」
そうしていると反対側から引っ張られる感覚があった。そこには目を輝かせているコタロウがいた。
俺はベルとコタロウを並べて、お腹をくすぐった。
「キュキュ、キュー♪」
「たぬたぬたぬ♪」
手足をバタつかせながら笑っている。
「朝から楽しそうだな」
するとシェリルが目を覚ましてこちらを見てきた。俺はすぐに謝った。
「すまん。朝からうるさかったよな。申し訳ない」
「別に今日は休みなのだから気になどしない。むしろ楽しそうな声は聞いていて心地が良い」
そう話すシェリルの側にベルとコタロウは近寄っていき、先程のように大の字で仰向けになる。
「何だ私もやっていいのか」
「キュキュ♪」
「たぬたぬ♪」
シェリルがベルとコタロウのお腹を撫でると両名とも身をよじらせる。その姿にシェリルも笑みを浮かべていた。
俺もその光景が微笑ましくて笑ってしまう。
「こうしていると、ベルとコタロウは従魔としては珍しい性格をしていることが分かるな」
「キュー?」
「たぬ?」
話題に出たベル達は首を傾げているが、俺も同じ気持ちだった。
「どういうことだ?」
「普通の従魔は主人以外には懐かない事が多いのだ。触ろうとしたら威嚇どころか攻撃してくる場合もある。だが、ベルとコタロウは全然違うだろ」
確かにタカミの街では人気者だったからな。人懐っこい性格で赤ん坊から老人まで触れ合っていたしな。
「まあ、基本的には誰に触られても怒らなかったな。相手の態度が悪ければ別だけど」
「だろう。ちなみにだが、従魔は従魔同士の仲も微妙だったりするぞ。同種の場合は上下関係が厳しく、種族が異なると互いに牽制し合うことが殆どだ」
俺はベルとコタロウに目を向ける。
「…うん。見たこと無いな。ベルの方が上という感じはあるけど、ベルはコタロウを弟のように接している気がするし、コタロウもベルを兄のように慕っている感じだな」
「私もそう思うな」
仲良く遊んでいる姿は何とも微笑ましく思う。
「さて、それじゃあ今日は何をするかな?」
俺はベッドから体を起こす。この時には不安が大分払拭していた。ベル達のお陰だな。
「キュキュ」
「たぬぬ」
ベルとコタロウはいつも通りに月光樹の世話をしてくるようだ。それならまずは朝食を作るかな。
「私も手伝おう。使い方は覚えておきたいからな」
シェリルも朝食を手伝ってくれる。なので俺は炊飯器やコンロの使い方なども教えてみた。シェリルは物覚えが良いのですぐにやり方を覚えてくれた。すると肉野菜炒めをパパっと作ってくれた。味見させてもらったが普通に美味い。
「シェリルも料理とかしていたのか?」
「まあな。私はソロの冒険者だったからな。大抵の事は一人でできないとダメだからな。特にダンジョンだと同じ保存食を食べ続けると精神的に疲労が溜まってくるぞ。アイテムボックスが無ければ、保存食も不味くなってくるからな。現地で手に入れた物で料理をしないと泣けてくるぞ」
「なるほど。料理は育ての親が教えてくれたのか?」
俺が聞くとシェリルは何かを思い出したかのように笑う。
「いや。アイツは面倒くさがりであまり作らなかったな。だが、そのおかげで私は料理を作るようにはなった。たまに作ってくれたが焦げている事が多かったな」
「でもいい人みたいだな」
「まあな感謝はしている」
育ての親との関係が良好なのがわかるな。
「ところで貴様も料理はするのだな。アイテムボックスに近い能力があるなら商品を買っておくだけでも良かっただろうに」
話をしながら料理を作っていく。ベル達が戻ってきた頃には大量の料理が出来ていた。
「キュキュー♪」
ベルは大量の料理を見てご機嫌だ。
「今日はシェリルも一緒に作ってくれたからな」
「キュー」
「たぬー」
元気よく返事をして俺達は食べ始める。量は多かったが、最終的にはベルが全部食べてくれた。
「ごちそうさま」
片づけはベルとコタロウも手伝ってくれる。面倒な片付けもベルとコタロウにとっては遊びの一環のように楽しんでいる。どこまできれいになるかを競っているようだった。
「何でも楽しめるのは才能だよな」
「そうだな。羨ましく思うぞ」
片づけが終わるとベルやコタロウを膝に乗せてまったりとした時間を過ごす。
するとシェリルが思い出したかのように話し出した。
「そういえば互いの能力を把握していなかったな」
そう言うとステータスプレートを出現させて俺に見せてくれた。
「他の人のを見るのは初めてだな」
「そうなのか。ちなみに見ていい人を念じないと、名前や能力は隠れて見えないぞ」
「へー」
俺はシェリルのステータスを見る。
名前:シェリル
年齢:二十歳
種族:人間
武術:体術 鉄扇術 大鎌術
魔法:火 水 風 土 雷 氷 闇 光 毒
特殊:鑑定 アイテムボックス 探知
「…何この能力!?魔法の数とか多くないか」
「運良く才能には恵まれたみたいでな。ただ研鑽を怠れば中途半端にしかならん。それに呪いによって制限がかかっているしな。鑑定は今も使えんしな」
それでも凄いよな。
「ところで貴様はどんな能力なんだ?」
俺はシェリルと同じようにステータスプレートを出してシェリルに見せた。ベルとコタロウの許可もとったので二人の分もシェリルに見せる。するとシェリルが首を傾げる。
「ベルとコタロウの種族は聞いたことが無いな。…念のためにバレないようにしておいた方が良いかもしれん。まあベルの場合は隠形が付いているから大丈夫だとは思うが」
少々不安が残るがダンジョンの中ではあまり気にすることは無いと言われて安心した。でも今後は何らかの対策も必要だな。
「しかし休みと言ってもやる事が無いな。…外でも行くか」
「おい」
シェリルがキッと睨んできたので、俺は慌てて説明する。
「外と言っても庭の事だよ」
「それならいいがな」
外に出るとベルとコタロウがすぐに追いかけっこを始める。
「元気な事だな」
その光景にシェリルの表情が柔らかくなる。
「俺達は座っているか」
桜の木の下でブルーシートを広げる。
俺が座るとすぐ隣にシェリルも座ってきた。
「座って休むだけなら部屋の中でも良かったんじゃないか?」
「外の空気も吸いたかったし、景色も良いじゃん。普段はこんな風にゆっくりできないだろうし」
「まあ確かにな」
しかし、やはり少しくらいは体を動かしたいな。
何かないかと思って俺は通販を開いた。
「何を探しているのだ?」
隣に座っているシェリルがのぞき込んできた。距離が近くてちょっとドキドキしてしまう。
そんな中で面白そうな物を見つけた。
「へ、家庭用の子供プールって今はこんなものが出ていたのか。ベルとコタロウが楽しめそうだな」
滑り台やトランポリンが付いているプールを購入して目の前に出してみた。
隣に居たシェリルだけでなく、遊んでいたベル達も側に寄ってくる。
「これは何なのだ?」
「子供用の遊び場だな」
俺は風魔法で空気を入れて膨らませて、水魔法で温めの水を入れいていく。ついでに水鉄砲やボールも入れておいた。
そしてベルとコタロウを持ち上げて滑り台の上に置く。
「ここから滑ってみな」
声をかけると最初にベルが滑り台を滑りプールへと突っ込んだ。
「キュー♪」
楽しかったようでベルは泳いでから滑り台に登りだす。
それを見ていたコタロウも同じ様に滑ってプールへと突っ込んだ。
「たぬぬー♪」
コタロウも楽しんでくれている。コタロウの方は今度はトランポリンに目を付けたようで、ポンポンその場で跳んでいた。
「喜んでくれたようで何よりだ」
「貴様よりもベルとコタロウの方がリフレッシュしてないか?」
「ベル達が喜んでいる姿を見るのが癒しだからな」
「まあ、気持ちは分かるな」
そう言ってベル達へと視線を向ける。
「さて、俺達も少し参加するか」
「楽しそうだが、私達が上に登ったら危ないのでは?」
「下の水の所なら大丈夫だ。それにこれがある」
俺は水鉄砲を一つ拾って説明してみせた。着物を捲り上げてプールに入る。そして近くに居たベルに対して発射した。
「キュ!?……キュー♪」
一瞬驚いたようだったが、俺を確認すると滑り台の上からプールへとダイブし、魔法を使って同じように水鉄砲を使いだした。
「やったな」
俺とベルは水鉄砲を撃ちあう。俺は下にしかいられないが、ベルは色んな所から俺を狙ってくる。
そしてコタロウも参戦してきた。
「たぬぬー♪」
「キュキュキュ」
「たぬぬ」
ベルとコタロウは結託して俺を狙ってきた。
二対一はさすがにキツイ。
「シェリルも手伝ってくれ」
「そうだな」
軽く笑いながらシェリルも着物を捲り上げて縛ってからプールへと入ってくる。
そして俺に向かって水鉄砲を撃ってきた。
「シェリル!?」
「どちらの味方に付くかは私の勝手だろ」
状況が悪化してしまった。俺は三対一で戦う事になってしまった。
まあ勝てるはずもなく俺は全身がぐっしょり濡れた。着物を捲る意味は無かったな。
「たまにはこのような遊びも面白いものだな」
「そうだよ…な」
シェリルの方を向くと、当たり前だが濡れていた。そして、部屋に置いてある着物はそんなに厚めの物ではない。必然的に透けて見えていた。さらに動いた事もありはだけている。
「どうした?」
シェリルは気がついて無いようで不思議そうに俺を見てくる。
「いや、その……見えている」
「見えてる?……///」
急いで胸元を隠すと赤い顔でキッと俺を睨んでくる。
「変態が/// これを狙っていたのか」
「いや、不可抗力だって」
「凝視しながらの言葉に説得力は無いぞ」
「ごめんなさい」
さすがに言い返せない。
俺は素直に謝るしかなかった。
「まあいい。油断していた私も悪い。夕食に美味い物を出してくれたらそれでいい」
「イエス マイ レディ」
「何だそれは」
呆れられたが、シェリルがサッパリとしたせいかくで助かった。
「へくちっ」
すると可愛らしいくしゃみがシェリルから聞こえた。
「水遊びしたから体が冷えたよな。温泉にでも入るか」
「一緒には入ってやらんぞ」
「男女別だっただろ。安心してくれよ」
「キュー」
「たぬー」
何故かベルとコタロウはシェリル側で、俺をジト目で見てくる。
「勘弁してくれよ」
お手上げとばかりに両手を上げると三人はクスクスと笑い出す。そして、俺達は温泉に入ってゆっくりと体を暖めた。
そして温泉から上がると疲れが出てきたのか、全員でお昼寝だ。
心地よく眠ることができて、目が覚めた時にはかなりスッキリした気分になった。
そして俺が起きるとシェリルやベル達も起き出してきた。
「起きていたのか?」
「俺も今起きたところだ。ところで夕飯は何が食べたい?昼食食べてなかったし、時間的にもそろそろ食べてよさそうだしな」
「甘い物が食べたい」
「キュキュキュ」
「たぬぬ」
ベルは量が沢山なら良いようで、コタロウは皆で食べられるなら何でもよいとの事だった。
「それならオードブル・サンドイッチ・お寿司にでもするか。デザートはミニスイーツの盛り合わせが良さそうだな」
デザート以外は注文してテーブルの上に置く。
それに合わせて皆は飲み物やお皿などを準備してくれた。
「それじゃあ食べるか」
皆で少し早めに夕食を摂る。
「どれも美味いな。ただ昨日も気になったが、貴様は生の魚を食べるのだな」
「ああ。俺の故郷だと普通だぞ。苦手な人もいるけどな。シェリルはどうだ?」
「私は好きかもしれんな。酒とよく合うしな」
「それなら良かった。ただ、酒によっては生臭さが広がるから気を付けろよ」
そんな会話をしながら食べ進めていく。
ベルもコタロウもどんどん食べていくので、料理はすぐに無くなっていく。何度か追加で注文したがそろそろデザートに移る。
「それじゃあ今日のデザートはこれだ」
皆の前にスイーツの盛り合わせを置いていく。この時だけはシェリルが一番うれしそうにしていた。
なのでついシェリルが食べるのを眺めてしまった。
食べ方はキレイなのだが、デザートはすぐに無くなってしまう。そして食べ終わった皿を少し寂しそうに見ていた。正直、可愛らしいと思ってしまった。
「……もう一皿食べるか?」
「良いのか!?」
物凄い反応だった。
「明日からもデザートはつけるから今日はこれくらいにしなよ」
「分かっている///」
気恥ずかしくなったのか若干顔が赤かった。
「キュキュキュ」
「たぬぬ」
ベルとコタロウから声がかかりそちらを向くと、キレイになったお皿を俺に差し出している。
「了解。もう一皿だけだからな」
「キュキュー♪」
「たぬぬー♪」
あーもう、こっちも可愛いな。
俺はベル達にもお代わりを渡すと、自分のデザートをゆっくり食べた。ちなみに俺は一皿だけだ。




