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第二十九話 森の中

 ダンジョン生活の二日目。目を覚ますと辺りはまだ暗かった。時計を確認するとまだ三時だ。だけども頭もスッキリしていたので起きることにした。


「朝風呂でも入るかな」


 皆を起こさなようにそっとベッドから体を起こす。

 テーブルの上に書き置きをしてから温泉に向かう。


「あー、気持ちい」


 広い温泉を一人で満喫する。

 初めの頃は夜中の温泉は恐怖心があったが、今はもう慣れてしまった。

 だから遠慮なく寛ぐことができる。


 そんな中で俺は水魔法の訓練を行う。

 周りが水だらけだから少ない魔力で練習できるのでたまに行っているのだ。


 意識を集中させて温泉のお湯で魔物を作っていく。初めはベル。次はコタロウ。それから適当な魔物を思い出しながら形成していく。


「大分細かく作れるようになったよな」


 自分で作成した水の作品を眺めながらそう思った。初めは大まかな形だけだったが、今は細かいところまで精巧に作っている。

 そして作った魔物達を自由に動かす。


「それじゃあ次はいよいよ本番だな」


 作った魔物達をお湯に戻すと今度は自分自身を作ってみる。

 実戦でも使うことを想定しているので速さも大切だ。


「作るだけならできるけど。実戦には向かないな。まだまだ練習が必要か」


 出来上がった分身は一目で水と分かるような物だ。一瞬なら騙せるかもしれないがすぐにバレるだろう。操作性もいまいちだし、簡単な動きしかさせられない。


「う~ん。漫画みたいには上手くできないか。ま、要練習だな」


 俺は現状を確認してから分身をお湯に戻した。何だか一気に静かになった気がする。

 訓練はここまでで後はゆっくりと温泉を楽しもう。賑やかな温泉もいいが、まったりできるのも嫌いじゃない。


 暫く温泉に浸かると体も温まったきた。

 湯上りにコーヒー牛乳を飲んでから部屋へと戻る。


 部屋に戻るとシェリルはまだ寝ているようだったが、ベルとコタロウは月光樹の世話のために起きていた。

 

「おはよう。毎朝ありがとうな。戻ってくる時には朝食を食べられるようにしておくからな」

「キュキュ」

「たぬぬ」


 ベル達は笑顔で月光樹に向かって行った。


「さて、飯を作るかな」


 ハムエッグトースト・サラダ・スープでも用意するかな。トーストとスープは暖かい方が良いからベル達が戻る頃に作った方が良いだろうから、サラダでも作るか。


 俺がサラダを作っていると欠伸をしながらシェリルが起きてきた。


「まだ五時だというのに全員早いな」

「昨日は思い切り動いたからか早めに眠ったからな。でもしっかり眠れたから体力的には問題ないぞ」

「そうか。私は温泉に入ってくるがいいか?」

「ああ。ゆっくり温まってきてくれ」

「すまんな。すぐに上がってくる」


 シェリルはそのまま温泉へと向かった。

 その間に俺は料理の準備を終えた。


「…しかしベル達も遅いな」


 そう思いながら待っているとシェリルがベル達と一緒に戻ってきた。


「丁度一緒になったのか?」

「いや、私が温泉に行くときに外から戻ってきていた。せっかくだから一緒に温泉に入ってきたんだ」


 確かにベル達も気持ちよさそうな表情をしていた。…シェリルと一緒に入ったのか。素直に羨ましいな。そう思いながらも俺は朝食を準備する。


「座ってくれ。いま料理を出すから」

「出すのは私も手伝おう」


 そう言ってシェリルが料理を運んでくれる。

 皆が座ったところで食事を始める。するとシェリルが感慨深そうに口を開いた。


「何度かダンジョンに潜った事はあるが、こんなに楽しい探索は初めてだな」

「それならここのダンジョンが終わったら別のダンジョンの完全攻略でもやってみるか」

「…ああ、それもいいな。貴様の隠れ家なら飽きずに過ごせそうだしな」


 そう言ってシェリルは微笑んでいた。

 だけどどこか寂しそうな眼をしている気がする。

 平気そうにしているが余命の事が頭にあるのだろうな。…軽率な発言をしてしまったな。反省しなければ。


 俺は違う話題に変える。


「ところで今度は森の階層が続くんだよな」

「ああ魔物も身を隠しやすい上に、毒を持った魔物も多くいる。注意して進むんだ」

「火の魔法で全部焼き払わないか?俺達は隠れ家に戻れば安全だぞ」


 俺の提案にシェリルは呆れた目で俺を見てくる。


「他の冒険者がいるのかもしれんのだぞ。確実に指名手配になるだろうな」


 じゃあ出来ないな。いい考えだと思ったんだけどな。


「地道に進むしかないか」

「当たり前だ」


 朝食を終えた俺達は森の階層の攻略を開始する。

 

 森の階層はベルが先頭に立ち歩いていく。森で暮らしていたベルにとっては、歩くのに何も問題がないようだ。むしろ楽しそうにしている。

 俺にとってはたまにぬかるんだ場所があったり絡みつくような草があるから大変なんだけどな。


「草原に比べると歩くのも一苦労だよな」

「まあな。これからは魔物だけでなく環境にも対応する必要がある。森なら沼地等もあるしな。だが、この装備は体温調整をしてくれるようだな」


 そんな機能書いていてなかったが、確かに常に適温になっている気がする。説明だけじゃなく、自分で確かめる事も必要か。


 しかし、食料とアイテムを揃えればいいと思っていたけど、そんな単純な話じゃないなこれは。

 そんな事を考えて、草木を掻き分けながら道なき道を進んでいく。


「キュ」


 先頭を進んでいるベルが注意を促す。少し先には体の大きい狼が十頭ほどいた。


「アーミーウルフか。一体ではDランク程度だが集団ではCランクの危険度があるぞ」

「…俺にやらせてくれないか」


 自分の成長のためにシェリルに頼んでみる。


「構わんが何かあるのか?」

「俺は結構目の前の一体だけに集中しやすいんだよな。だから集団戦が強い魔物と戦って経験を積んでおきたいんだよ。シャイニーとの決闘の時もアイツの従魔に気がつくのが遅れたからな」


 そんなことを話してから思ったが、シェリルは先に進みたいよな。こんなこと言っている場合じゃないかも。そう思っていたが、シェリルはすんなりと許可してくれた。


「構わんぞ。やってみたらどうだ」

「いいのか?」

「貴様がどこまで進むかは知らんが確かに必要になる事だからな。それと私の事は気にするな。貴様の“隠れ家”のお陰で進むペースはかなり早くなりそうだからな。可能な限り貴様を鍛えてやる」

「ありがとな。それならちょっと戦ってくる」

「危なくなったら私達も加勢するからな。安心して戦ってこい」

「ああ」


 シェリル達に見送られた俺は身体強化をしてアーミーウルフに駆け出していく。


「グル?」


 一番近いアーミーウルフが俺の方を向く。そいつが何かする前に短剣で切り伏せる。

 思ったよりも簡単に切ることができた。


「ガォー!!」


 俺が現れた事を確認すると群れのボスが吠えて指示を出し始めた。アーミーウルフ達は四方に散らばりどこからでも俺を襲えるようにしている。


 それに対して俺は感覚を強化する。目の前の一体を倒しながらも周囲に神経を張り巡らせる。音や気配。それから魔力の流れに気を掛けながら戦ってみた。


 最後の一体になるまで時間はかからなかった。そして最後の一体を倒そうとする時に面白い現象が起きた。


 アーミーウルフの動きが手に取るようにわかった。


「何だコレ?」


 しばらく観察するがアーミーウルフは予想通りの行動しかとっていない。

 これは相手の攻撃が分かるようになったのだろうか?そして倒れている一体が演技している事も感じられた。

 よく分からないがこれはチャンスだ。動きを読んでカウンターを入れて倒した時にあえて隙を見せた。


 そして背後から音もなく飛びかかってきた一体の攻撃を躱して、無防備なところに攻撃をして止めを刺す。


「お疲れさま。体の調子はどうだ?」

「問題ないよ。むしろ最後は相手の動きが手に取るようにわかったくらいだ」

「ふむ。貴様は感覚が優れているようだからそれが関係しているのかもな。周囲にも注意を向ける事によって全体の動きを把握できるようになったのかもしれん。…ところで本当に大丈夫か?」

「大丈夫だって…あれ?」


 俺は何故か尻餅をついていた。


「慣れない動きに頭や体が思った以上に疲弊したのだろう。一旦休むぞ」

「…面目ない」

「気にするな。ドロップアイテムは私が集めておく」


 シェリルがアイテムを回収してくれたところで一度隠れ家に戻る事になった。


「飲み物はこの箱にあるのだったな」


 俺はソファーに座っていると、シェリルを中心として皆が色々と物を用意してくれた。


「すまないな」

「あまり気にする必要はないぞ。今の内に自分の力を把握する方が大事だからな」

「ありがとうな。…しかしこれだと長くは戦えないな。早く慣れないと、シャイニーとの決闘の時のようになるな」

「私もあの時は見ていたが、あの中位精霊の乱入は無粋だったな」


 俺はこの言葉に違和感を感じた。


「中位精霊?」

「そうだぞ。アレは中位精霊だ」

「シャイニーは上位精霊と言っていたけど」

「嘘だな。上位精霊だったら今のコタロウの結界では防げん」


 …って事は俺黒いゴブリンの時にもコタロウの結界の力を勘違いしていたな。相手の力量を見極めるようにならないとマジでヤバいかもな。


「その顔はシャイニーの説明を鵜呑みにしていたようだな。過小評価して油断するよりはマシだが、過大評価も自分の動きを鈍らせる。今後の課題だな」

「そうだな。…そういえばドロップアイテムは何があったんだ?」

「こんな感じだな」


 シェリルがドロップアイテムを広げてくれた。そこには魔石・毛皮・肉・牙・爪などがあった。


「何か小さくないか」


 毛皮や肉が大きさに比べて小さい気がする。それに牙も爪も数が少ない。


「これが普通だぞ」

「そっか。地上で倒すより減るもんなんだな」

「…貴様はどんな倒し方をしているんだ?地上で倒した場合はボロボロになって素材にできない部分も多いだろう」


 確かに倒し方が悪い時は質や量は低かったな。基本的に真っ二つか溺死が多かったし解体機能が有能だったんだな。


「ダンジョンはどんな倒し方をしても一定の質と量が手に入るのが旨味なんだがな。貴様は地上の方が稼げそうだな」

「でもレアなアイテムはダンジョンにしかないんだろ」

「まあな」


 適当に話をしていると徐々に体が動くようになってきた。


「大分落ち着いてきたな。そろそろ向かうか」

「構わないが無理はするなよ」


 俺達は再びダンジョンの中を進み始める。草原の階層よりも強い魔物が出るが、その分稼ぎは良くなっている。だがやはり一つの階層を降りるのには時間がかかってしまう。草原の階層は一日で十階行けたが、今日は一日で六階が限度だった。


 十七階に降りたところで隠れ家に戻る事になった。


「やっぱりペースが落ちるもんだな」

「一日で六階進めるなら上出来だ。数日かけて一階しか移動できないこともあるからな」

「地図でもあればな」

「地図は役に立たん。ダンジョンの中は常に変化し続けている。その場での対応が求められる」


 そんな簡単にはいかないのか。まあ確実に進んでいけばいいか。無茶して足踏みする事態になる方が問題だからな。


 部屋に戻ると、ベルとコタロウは冷蔵庫や棚からお菓子や飲み物を取り出していた。

 食べ過ぎないようにだけ注意しておかないとな。


「あんまり食べ過ぎるなよ。それからベッドでは食べるなよ」

「キュー」

「たぬー」


 きちんとテーブルに置いて食べ始めている。


「ダンジョン探索中にこんなにゆっくり過ごせるとはな。これを商売にしても一財産を築けるだろうな。シェルパとして人気になるぞ」


 シェリルはそんな事を言いながらイスに座ってベル達を眺めていた。


「人に使われ続けるのは御免だな。必ず変な奴に当たるだろうしな」

「違いないな。それこそ“光の剣”が無理難題を言ってくるだろうな」

「考えたくないな。そんな話より軽くつまんで休もうぜ」


 冷蔵庫からグレープジュースと炭酸水を取り出してコップに注ぐ。それとクラッカーにクリームチーズのみそ漬けをのせる。


「結構美味いぞ。酒に合うけど酒は止めといた方が良いだろうからグレープジュースだ」

「頂こう」


 シェリルはクラッカーを一つ口に運んでいく。


「中々美味いな。この飲み物も悪くは無いが、確かにこれは酒が欲しくなる味だな」

「ワインにも合うと思うけど日本酒って言う酒にも凄い合うんだぜ。今度一緒に飲もうぜ」

「そうだな。私も酒は好きだから色々用意してくれよ」


 ベル達の隣で食べていると、ベルとコタロウも食べたそうにじっと見つめている。


「お前達も食べるか」

「キュ」

「たぬ」


 二匹とも俺達の真似をして、クリームチーズを口に運んでから飲み物を飲んで満足そうな表情をしていた。


 その様子が可愛らしくてシェリルと目を合わせて笑ってしまう。


 それから温泉に入ったり夕食を食べたりと体を休ませていた。

 夕食は美味しい物をたくさん食べた。と言いたいが、あまり食べ過ぎると明日に響くので程々の量で終わらせている。


 そして夜。コタロウはシェリルの隣で寝ているので、俺は側で寝ているベルを軽く撫でる。

 相変わらず撫で心地がいいな。


「さて、そろそろ電気を消すぞ」


 枕元の電気スタンドを消すと一気に暗闇に包まれる。ベルとコタロウの寝息が聞こえる始める。少しするとシェリルからも寝息が聞こえる。徐々に俺も夢の世界に誘われていく。

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