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第二十三話 やられっぱなしではいられない

「大丈夫か?」

「少し痛むが問題ない。それよりも武器が壊れた方が辛いな」


 そう言ってシェリルは壊れた大鎌を見る。


「予備の武器は無いのか?」

「大鎌はあまり売ってないのだ。邪竜のせいで装備が壊れた上に、買い直す金も取り出せなくなってしまったからな。まあ、短剣なら何本か用意しているがな」


 短剣を取り出すが、あの黒いゴブリン相手では心許なさそうだ。シェリルもそれが分かっているため、複雑な表情だ。


 ……あ。俺、大鎌持ってるじゃん。他にも槍や斧もあるし、使えるなら防具も貸すか。準備しないと勝てない気がするしな。

 

「なあ。シェリルが使える武器は大鎌だけなのか?」

「後は鉄扇を使える。どのみち珍しい武器だから中々見つからないがな」


 鉄扇なら丁度いいな。

 俺は舞姫・ソウルイーター・神獣の靴・不死鳥の装束・プロテクショングローブを取り出す。


「これを使ってくれ。防具も今着けている物より性能がいいぞ」


 俺の言葉にシェリルは驚いた表情に変わる。


「ありがたいが、いいのか?私が持ち逃げする可能性があるぞ」

「どのみち一つを除いて俺には使えない装備だからな。それに、出し惜しみをして黒いゴブリンを倒せるとは思えないし」

「そうか。…感謝する。ああ、着替えるから後ろを向いていろ」


 俺は言われた通りに後ろを向く。


「これでいいか?」

「大丈夫だ。分かっているとは思うが、振り向いたらゴブリンではなく私に殺されると思えよ」


 背中から強烈な圧力を感じた。正直"ダイナソークロコダイル"よりも恐かった。


 俺はシェリルが着替えている間に"嵐舞"を取り出して持ち替える。"鋼雲"も良いのだが、物理攻撃が難しそうなので、"嵐舞"の方が効果的だろう。


「終わったぞ」


 声をかけられたので振り返る。そこには着替えたシェリルがいたのだが、驚いた事に黒い痣が消えていた。元々美人だとは思っていたが、痣が消えると見惚れてしまう。


 だけどシェリルは不愉快そうだった。


「おい。ジロジロ見るな。これでも顔の痣は気にしているのだぞ」


 俺は首を傾げてしまう。


「痣が消えているぞ」

「何!?」


 驚くシェリルに手鏡を渡す。シェリルは覗き込むと何度も顔を触っていた。


「どういうことだ?」

「確かその服には呪いに対する高い抵抗力が備わっていたからそのお陰かな」

「邪竜の呪いを抑えるレベルの防具なのか。……確かに体が軽くなった気がするが」

 

 するとシェリルは地面に軽く魔法を放った。威力は抑えたのだろう。軽く地面がへこんだ程度だ。だが、シェリルの目には涙が浮かんでいた。


「お、おいどうした?」


 焦る俺をベルとコタロウがジト目で見てくる。いや、俺のせいじゃないよな。


「気にするな。だがこれで少しは戦える。殴られた仕返しができそうだ」


 シェリルは涙を拭いて軽く笑った。


「キュキュ」

「たぬぬ」


 先程涙を見せたため、ベルとコタロウが心配そうにシェリルに声をかけた。


「心配してくれているのか?お前達は優しいな。私は大丈夫だ」


 そう言ってベル達の頭を撫でていた。何だか機嫌が良さそうに見えるな。


「ところでどう戦う?」

「一つ思ったのだが武器を攻撃した方が良いかもしれんな」

「武器を?」


 シェリルは頷く。


「ああ。あのゴブリンは外見がそっくりなのに能力が違いすぎる。それに槍使いだが、たまに槍を庇って攻撃を受けていたようにも見えた」


 言われると確かにそんな事が何回かあった気がする。


「言われるまで気がつかなかったな。さすがだな」

「感心してないで貴様も気がついた事は無いのか?」

「そう言われても。……あ。そういえば撤退する時に足場を崩して落とし穴に落としたんだけど、黒いオーラが体勢を崩した瞬間に消えていたような。それと臭いは黒いオーラでは遮断出来ないみたいだな」


 シェリルは俺の言葉に考え込んだ。


「大剣使いは防御中は一歩も動いていなかったな。もしかすると、動くと黒いオーラを維持できないのかもしれん」


 何だか勝機が見えてきた気がした。もちろん推測なので確定ではないが、試す価値はあるだろう。


 だが、相談はここまでだった。


「ミツケタゾ オレサマヲ コケニシヤガッテ」

「ヒキョウナ オトコメ」


 黒いゴブリンはどちらも俺を睨んでいた。先程の事を根に持っているようだな。


 俺はニッコリ笑ってボールを手に持つ。


「そんなに気に入ったならくれてやるよ」


 投げつけるとどちらもその場から離れた。ちなみに今のはただのボールだ。ベルやコタロウと遊ぶための物でしかない。


 距離が出来たので風の刃を二体に放つ。大剣使いは黒いオーラで防ぎ、槍使いの方は予想通り槍を庇うようにその身で受けていた。


 そして、ベルとコタロウは黒いオーラが消えないように攻撃を続けてくれている。


「私がやってみるか」


 シェリルが土魔法を使って足場を崩すと、そのまま転んでしまう。


「クソ!」


 こちらも黒いオーラが消えた。だが体は普通に頑丈なようで、コタロウの攻撃は通じず、ベルの攻撃は大剣にオーラを纏わせて捌いている。


 大剣に纏った場合は、体勢は関係しないようだな。

 しかし、普段から防御は黒いオーラ任せだったためか動きが拙い。


 もう一度風の刃を放つと、腕を切りつけた。

 すると大剣使いは激昂する。


「ギャギャギャギャ!!」


 言葉を忘れる程お怒りのようだ。多少の傷は気にせず俺に真っ直ぐ向かってくるので、いつも通り落とし穴を作っておく。


「ギャ!?」


 意表をついたと思ったが、その高い身体能力で高くジャンプして躱してみせた。

 だが、空中では黒いオーラは出せないようだ。俺は魔法を放とうとしたが、それよりも早くシェリルが同じように高く跳び背後を取っていた。


「死ね」


 ソウルイーターを振るう。すると豆腐を切るように簡単に体を切り裂いた。

 そのまま今度は大剣を狙う。


「クソガ!」


 だが大剣使いは最後の力を振り絞って、大剣を投げつけた。投げつけた先は槍使いの方向だ。 


「ヨクモ キョウダイヲ」


 槍使いはそのまま大剣に手を触れた。すると、大剣が槍に吸収されて、禍々しい姿に変わる。


「なあ。俺は幻でも見ているのかな。槍から黒いオーラが見えるんだけど」

「奇遇だな。私も同じ物を見ているぞ。案外相性がいいのかもな」

「ハハ、なら結婚でもするか」


 現実逃避でそんな事を話したのだが、シェリルは話に乗ってきた。


「構わんぞ。ただし結納金は白金貨十枚だ。もしくは解呪の手伝いでもいいぞ。それで私のような美人が手に入るなら安い買い物だぞ」


 この世界にも結納金があるんだなと、変なところで感心してしまった。


「嘘じゃないだろうな」

「私は噓などつかんぞ」

「それじゃあ、頑張って役に立つというアピールでもしようかな」

「そうか。私のために頑張ってくれ」


 さて、あれだと逃げても追ってくるからここで何とかしないとな。

 槍使いは再生能力と強靭な肉体があるためか、黒いオーラを武器に纏わせている。攻撃力も格段に上がっているんだろうな。


「仕掛けてみるか」


 足元を崩してから風の刃と水ん弾丸を放つ。


「キカン」


 言葉通り俺の魔法は命中するが効いている様子は無い。防御力も対上に傷ついてもすぐに再生してしまう。“嵐舞”で強化してこれだと少し厳しいな。


「もはやゴブリンとは言えんな」


 シェリルやベル達も魔法を放つが意に介さない。そして黒いゴブリンが槍をその場で突くと、黒いオーラが大気を震わしながら飛んできた。


 俺達は慌てて避けるが、その衝撃だけで飛ばされてしまう。


「もはや反則だろあれは。“嵐舞”も通用しないし“風鳥”も今更だしな。…ワンチャン“狂”が行けるか?」


 再生能力も魔力が関係しているならどうにかできるかもしれない。そう思って俺は黒いゴブリンを集中して観察する。

 

 黒いゴブリンは仲間を殺したシェリルに向かうが、ベルとコタロウが魔法を放って牽制してくれている。シェリル自身も適度に距離を保ちながら戦っていた。


 激高して不安定な状態のためか魔力の流れが良く見える。黒く変な魔力だがポイントなる場所は感じ取れた。後はそこに打ち込むだけだ。幸い自分の能力を過信しているため、ベル以外の攻撃に対しては防御もしていない。


 やるなら今だな。

 俺は“狂”を持ち、魔力で針を何本も作って黒いゴブリンに飛ばす。


 予想通り黒いゴブリンは俺の攻撃を無視している。だが俺の放った針の一本がポイントを貫いたようだ。


「ナンダ?…グァ!?」


 魔力が乱れた事で能力が弱体化したようだ。黒いオーラもかなり小さくなっている。


「サッキノ ハリカ!?」


 気が付いたようだが人数の差がある。三人が魔法でゴブリンの動きを牽制し、バランスを崩したところを俺は狙う。そして気が付いたのだが槍自体にも打ち込めそうなポイントを感じ取れた。


「ギャ!?」


 タイミングよくシェリルが足場を崩してくれた。動きが止まったところで針を槍のポイントに打ち込む。すると「パリンッ」という音と共にう槍は砕け散った。黒かったゴブリンの姿が緑色に戻っていく。


「ギャ。ギャー!!」


 ゴブリンは一目散に逃げだすが許すはずがない。最後はシェリルによって真っ二つにされていた。


 これで黒いゴブリンの退治は終わったが、強かった割には実入りが無いから残念だ。

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