第二十二話 ゴブリン討伐戦
目が覚めると、いつもと違う場所で一瞬戸惑いながらも体を起こす。
「キュキュキュ」
「たぬぬ」
「おはよう」
ベル達も起きていたので挨拶を交わし、軽く体操をして体をほぐす。
その後はゆっくり朝食を食べていたが、俺はある事を思い出した。
「今のうちにガチャでも引くか」
人前ではできないので今が丁度良いタイミングだ。まあ、全然当たりが出てくれないので惰性で引いているだけだが、それでも期待してしまう自分がいる。
「!?」
思わず叫びそうになった口を無理やり押えた。そして、自分の心臓の鼓動が早くなっていくのがよく分かる。
一度深呼吸をしてから再び画面を見つめる。当たりが出ている。演出は終わっていたようで、ゲットしたアイテムが表示されていた。
“舞姫(鉄扇)”
魔法の威力を上げる。また、他者の魔法に干渉できるようになる。ただし扱いは難しい。
“雷獣槍”
身体能力の向上に加え雷の魔法の威力が上がる。また、雷で動物を作ることができ作られた動物は主人の命令に従って動く。
“グレートアックス”
身体能力が上昇する。一日に一回だけ防御不可能の一撃を放てる。
“ミラーシールド”
高い防御性能を持っている。確率で魔法を反射させる。
“プロテクショングローブ”
物理・魔法耐性を高める。魔力を込めることで強固な魔法の盾を発生させる。
“魔獣の手甲”
物理・魔法耐性を高める。魔力を込めることで鉤爪が伸びる。攻撃力も高い。
“アサシンブーツ(男性用)”
気配が察知されにくくなり足音が出なくなる。また、移動速度が上昇し魔力を込めることで水の上や壁なども走る事ができる。
“神獣の靴(女性用)”
走る速さと魔力が上昇する。また、身に着けていると魔力が少しずつ回復していく。
“生命のペンダント”
魔力をため込む事ができる。ため込んだ魔力は、体力や魔力の回復に使える。
“宝石箱”
中には色んな種類の宝石が詰まっている。入っている宝石は魔力を増幅させたりため込む効果がある。
当たりが凄すぎる。これ売ったら遊んで暮らせるんじゃないかと思ってしまう。
「でも使わない物があるのはもったいないんだよな」
最初のアイテムを含めると舞姫・雷獣槍・グレートアックス・ミラーシールド・神獣の靴・ソウルイーター・不死鳥の装束だ。効果はかなりいいから持っておきたいけど使えないからな。
「まあ今は持っておくか。金もポイントも余裕はあるしな」
とりあえず俺は新しく魔獣の手甲とアサシンブーツを着用した。プロテクショングローブも悩んだが、鉤爪が出てくる所に惹かれて手甲の方にした。それにしても特殊効果付きの装備は自然とサイズが変わるのだろうか?問題無く体にフィットする。
ベルとコタロウは新しい装備を付けた俺を褒めるように拍手をしてくれた。照れくさいが嬉しく感じる。そんな良い気分で二日目は始まった。
二日目は終始順調だった。“光の剣”を一応警戒していたのだが、休憩中も絡まれることは無かった。まあ普通はこのような感じで進むのだろう。一日目がおかしかったんだよな。
結局何事もなく二日目は終わってくれた。
そして三日目。馬車に乗っていると昼でも夕方でもないのに止まった。
周りの馬車から人が降りているようなので俺達も馬車を降りる。
森から少し離れた場所に止まったようだった。
「全員集まれ」
降りるとすぐに集合がかかる。前にはディランさん達が立っていた。
「先行した偵察部隊からの情報が入っている。ゴブリン達の住処は洞窟なのだが、森を切り開いた村も確認された。よって村と洞窟の二か所を同時に攻めることにする。村の方は通常種とナイトやソルジャーが確認。洞窟の方ではキングやセージなどが確認されている。それと近隣の村や道で人が攫われた形跡はない」
洞窟が本命か。そこから溢れた集団が村に住んでいるのか。普通は逆のような気もするが、魔物は洞窟の方が住み慣れているのか?
「今回は想像以上の規模の討伐になる。念のために他の街のギルドにも救援依頼は送っているが、到着までは三日以上かかるだろう。可能な限り俺達で討伐を行う。捕まっている人がいない今がチャンスでもある。それぞれに役割を振り分けるから、指令を確認してから行動してくれ」
それじゃあ少し待っていればいいか。
他の人と同じように一度馬車へと戻る。
「ベル、コタロウ。ここからは強い魔物が沢山出てくるから無理だけはするなよ」
俺はベル達に声をかけて、指令が来るのを待つことにした。
「ジュンさんお疲れ様です。役割を伝えに来ました」
ギルド職員の一人が俺達の元にやってきて用件を話す。
「持ち場は村の東側です。通常のゴブリン達の討伐がメインです。ソルジャー・ナイト・ウィザードなら状況に応じて戦ってもいいそうですが、それ以上の上位種や変異種が出た場合は即時撤退だそうです」
「分かりました」
「作戦開始は今から三時間後です。食事を軽くとって所定の位置に移動して合図を待っていてください。各場所にはBランク以上のリーダーを配置しておりますので、指示に従って動いてください」
そう伝えると、職員は他の馬車に移動していく。
「さてと、あんまり食べない方が良いか。ベル、コタロウ。昼食は軽めにするからな」
通販からカロリーメイトとウィダーインゼリーを購入して配る。普段の食事と比べると質素になってしまうが、ゼリーの感触などが面白いらしく思ったよりも好評だった。
そして食事を済ませると、俺達は東側へと移動を開始する。
森は驚くほど静かだった。その静かさが逆に不安になり、俺は足早に集合場所を目指した。
既に数名が待機しており、俺もその場で指示があるまで待つことにした。
「よう、お前もこっちだったか」
「ガンツさん」
どうやらガンツさんも同じ場所だったみたいだ。大きめの斧を持っており、いかにも力で押す格好だった。もしかしたら三人組もいるかと思って見回すがこちらにはいないようだった。
「知っている人がいて安心しました」
「お前はその辺気にしるんだな。ま、洞窟の方が本命みたいだからあんまり固くなるなよ。油断はダメだけどよ」
「そうですね。ところでここで有名な人っていますか?」
もしいるなら、その人の戦い方を観察してみたいと思い聞いてみた。
ガンツさんは周囲を確認してから口を開く。
「…ここは重要度が低いから来てないみたいだな。見た感じDランクが多い。ただ、あそこにいる顔に痣がある女がいるだろ」
言われた方を見ると確かに顔に黒い痣がある女性がいた。
「あの大鎌を持っている女性ですよね」
「そうだ。アイツはシェリル。王都の方で元々はAランクで活躍していた凄腕の冒険者だ。見て学べる事はあると思うぜ」
「それは良いんですけど、元々って事は今は違うんですか?」
「俺も噂程度にしか知らねえが、邪竜に出くわして呪われたらしい。それ以来魔法が封印されたようで、Dランクまで降格になったらしいぜ」
呪いか。普通にしているって事は感染したりはしないんだろうな。ただ、皆距離を取っているな。
そんな事を考えていると時間は過ぎていく。
「全員行動開始だ」
リーダーの合図で俺達は戦闘を開始する。それにしても、音魔法で連絡を取っているらしいが便利だな。
「はぁっ!!」
リーダーが先陣を切り開き、大声と共に槍を繰り出し壁が崩れる。そこから中に入る道ができた。
「ギャギャ!?」
「ギャー!?」
突如現れた冒険者の集団に、ゴブリン達は驚き固まっていた。しかし、数はあちらの方が多い。今のうちに減らせるだけ減らさないと。
俺は"鋼雲"で近づいてくるゴブリンを仕留めていった。ベルは闇魔法をコタロウは光魔法で矢を作って援護をしてくれる。
最もベルの闇魔法をくらったゴブリンはそのままくたばっているけど。
「はは。ベルやコタロウも強いじゃねえか」
ガンツさんがベル達の戦いぶりを見て驚いていた。
「そりゃ優秀な仲間ですからね」
「見かけで判断はてきねえな」
そう言いながらガンツさんは斧を振り下ろし、ゴブリンは真っ二つになった。
俺なら受けれるかな?…いや無理だな。避けた方が絶対にいいな。
周りを見ると、今のところはこちらが押している。
「このままの調子でいければいいんだがな」
結構な数を倒しているつもりだが、一向に数は減らない。それくらいに大きい村ができているということだろうな。
さらにまだ上位種が出てきてない。それらが出始めてからが本番なのだろう。
「ぐぁっ!?」
近くの冒険者のやられた声が聞こえた。視線を向けると黒衣のローブを着たゴブリンが短剣で切りつけていた。
切りつけられた冒険者は傷が浅いようで、一度距離をとっている。
「変異種だな。アサシンタイプで速さ重視で攻撃して来るぞ!攻撃は軽いから焦るなよ!」
リーダーが叫び情報を伝達する。
本来であれば、Dランクの俺は変異種が出たら撤退の予定だったが、一体ではなく集団で現れたので応戦するしかない。
普通のゴブリンとの戦いに集中して、囲まれていたのに気が付かなかったのは失敗だった。
ゴブリンアサシンは冒険者達を狙って攻撃を始めた。普通のゴブリンとは違い、ヒットアンドアウェイで来るので仕留めるのに時間がかかってしまう。
それにゴブリンアサシンに気を取られている内に、普通のゴブリンの接近を許してしまう事もあった。
「なるべく二人一組になって互いの背中を守りながら戦え。それにゴブリンアサシンはゴブリンとしては速いが、対処できない速さじゃない。落ち着いて戦え」
リーダーの声で冒険者は落ち着きを取り戻していく。アサシンの存在で少し崩れかけたが、持ち直して対処できている。
そしてそのまま戦闘は続いていく。
「ギャギャー!!!」
物凄い雄叫びが聞こえると、ゴブリンの集団は森の中へと消えて行く。
「不味いな。…Cランクの冒険者は私と森の中のゴブリン達の討伐を行う。二人一組で行動して不意打ちに注意しろ。Dランクの冒険者はここで待機だ」
各々が行動に入る。撤退でないのは、ゴブリンアサシンも森に入ったからだろう。森の中の方がアサシンの力が活きてくる。スペースが広いこの場所の方が安全と判断したようだ。そして村の中は他の方面の冒険者にでも任せるのだろう。
しかし、比較的安全と考えられるだけで危険なのはどこも一緒だ。
「ギャギャギャ」
その証拠に重厚な鎧を着たゴブリンがソルジャーやナイト等を引き連れて俺達の方に向かってきた。
「ゴブリンジェネラルだ!」
誰かが叫ぶと、冒険者達は何組かに分かれて森へ入っていった。瞬時にアサシンを相手にする方が良いと判断したのだろう。パニックになっている人もいなかったし、逃げられそうだな。
俺は“鋼雲”を構える。
「ベル、コタロウサポートを頼む」
「キュ」
「たぬ」
俺は逃げずに戦う選択肢を取った。勝てると思ったから残ったわけではない。単純に他の冒険者のような瞬時の撤退ができなかっただけだ。この辺りの行動で俺の未熟さが浮き彫りになるな。
だけどベルもコタロウも気合十分だ。
先制攻撃で俺は水の弾丸を打ち出す。
「ギャギャ」
「「「ギャー!?」」」
ジェネラルは攻撃を防いでいたが、他のゴブリン達は対応できずハチの巣状態になった。
「ギャギャ!」
仲間を殺されてジェネラルは怒りの表情だ。
ジェネラルは大剣をこちらに向けて走ってくる。魔法で迎撃するが大剣でかきけされる。
俺は"鋼雲"を仕舞い"嵐舞"を装備する。さらに身体強化に風を纏わせて迎え撃った。
「ギ!?」
雷ほどではないが風もかなりのスピードがある。完全に意表をついたようで、カウンター気味の攻撃が当たった。
ジェネラルは勢いよく吹き飛び鎧が砕けた。
俺はジェネラルを追っていく。“風鳥”に持ち替えて起き上がろうとしている、ジェネラルの首を掻き切る。
「ギャー!?」
断末魔の悲鳴を上げてジェネラルは事切れた。
「見事だな。ゴブリンとは言えジェネラルを簡単に倒すのか」
褒めてくれたのはシェリルだった。彼女は逃げていなかったようで、俺の戦いを眺めていた。
「え~と。シェリルさんでしたよね」
「シェリルで構わん。年は同じくらいのようだし、ランクも私はDランクだ。敬語を使う必要などない」
「それじゃあ遠慮なく。シェリルは逃げなかったんだな」
「呪われた私と共に逃げようとする冒険者もいないだろう。森の中は今の私だと一人では危険だからな。それならば、ジェネラルを掻い潜って村の中にいる冒険者達と合流する方が良いと判断しただけだ」
俺と違って考えているな。
「貴様は勝てると思って残ったのか?」
「いや、単に逃げ遅れた」
俺の言葉を聞いて数秒間黙ったかと思うと、急に笑い出した。
「ククク。そんな事を臆面もなく喋れるのだな。貴様は変わっているな」
「笑っているところ悪いんだけど、この後はどうした方が良いんだ?一度撤退するか?俺は呪いも特に気にしないが」
「…そうするか。上位種も出始めているからな」
そんな訳で俺達はこの場を後にしようとした。
しかし、そう上手くは行かなかった。
嫌な気配がして俺達は村の方を振り向いた。そこには二体のゴブリンがいるのだが普通ではなかった。どちらも真っ黒なゴブリンで片方は大剣を、もう片方は槍を持っている。
俺達は顔を見合わせて、ゴブリンに向けて魔法や短剣を放つ。すると大剣を持っているゴブリンは全身から黒いオーラを放って魔法も短剣も掻き消した。だが槍を持つ方には当たり、そのまま倒れこむ。
だがすぐに立ち上がる。そして体中のケガが治っていく。腹の風穴・千切れた腕・欠けた頭。全てが問題なく元通りだ。
「…あんなゴブリンいるのか?」
「私も初めて見るな」
雑魚キャラ代表の魔物とは思えない能力だ。
「キキキ ヨクモ ヤッテクレタナ」
大剣使いが動き出す。大剣に黒いオーラを纏うと振るって剣閃を飛ばしてきた。
「たぬぬ!」
コタロウがすぐに結界を作る。だが。
「たぬ!?」
「ボサッとするな」
結界はあっさりと砕けた。幸い剣閃はそれほど早くは無かった上にシェリルが助けてくれたので、コタロウも無事だった。だが当たったらただでは済まないだろう。少なくともコタロウの結界は光の上位精霊の攻撃を一発は防げるレベルだからな。
「ケケケ ヨソミヲ スルナヨ」
近寄ってきていた槍の方の攻撃を防ぐ。すると体の芯まで響くような感覚があり体が硬直してしまう。
「キュキュ!」
ベルの闇魔法が槍使いを吹き飛ばしたので無事だったが、これだと攻撃を防ぐ事すらできない。
黒いゴブリン達はその能力を使って攻めてくる。今のところ有効な攻撃手段が見当たらない。
大剣使いは身体能力が高く、黒いオーラが攻撃にも防御にも強力に作用している。槍使いは足場を崩したり、こちらの動きを止める技がある上に、驚異的な再生能力を有している。
「ドウシタ ソノテイドカ」
「ソロソロ クオウゼ」
黒いゴブリン達は余裕を見せていた。そこに隙があったのだろう。シェリルは一気に近づき大鎌を振るった。
大鎌は槍使いの首を落とし、そのまま大剣使いの首にも向かう。意表をつかれたのか大剣使いは反応できていなかった。
だが、失敗に終わってしまう。大鎌は確かに首に当たったのだが、大剣使いはビクともせず、逆に大鎌の刃が砕けてしまった。
そして隙を見せてしまったシェリルは村の中へと殴り飛ばされた。黒いオーラで攻撃する暇は無かったようで、普通に殴られただけだが、勢いよく飛ばされてしまった。
「シェリルを追うぞ」
「キュキュ」
「たぬ」
俺は刺激玉を取り出し投げつける。
「「ギャー!?」」
警戒して黒いオーラは出ていたが、臭いは遮断出来ないようだった。そのまま足場を崩して、落とし穴に落とす。おまけに煙玉も投げ込んでおく。
そのまま俺達は村の中に入りシェリルと合流して、一度身を隠した。




