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第二十一話 決闘

十九話と二十話を飛ばしておりました。訂正しましたので、見てない方は先にそちらをどうぞ

「それではルールを確認いたします。勝敗は意識を失うか負けを認めるかです。殺すのは厳禁ですよ。それから武器やアイテムには制限はありませんが従魔は無しとします。それではリリアンさん結界を頼みます」

「はい」


 ネネの言葉に従ってシスター服の女性が結界を張った。これは他の人達に迷惑が掛からないようにするのと、外部から援護をさせないための措置だ。…それはいのだが、審判がネネというのは気に食わない。


 決闘はギルドが間に入る必要があるという事でディランさんではなくネネになったのだ。ディランさんもかなりしぶしぶだった上に、横槍が入らないようにと遠ざけられた。


 そして何故か関係者は近くで見て良いという謎の措置までとられている。横槍を考えるなら逆だろう。


 本当に大丈夫かと心配しながらも、俺とシャイニーは互いに武器を構える。シャイニーは剣で俺は"鋼雲"だ。

 シャイニーの剣は戦う前から光を放っている。だけど魔力はあんまり感じない。今のところ見せかけだけのイメージだ。


「始め!」


 そう思っている内に戦いは始まった。


「この戦いで君に現実を教えてあげるよ」


 光で作られた剣を何本も飛ばしてきた。数は多いが当たりそうなのは二本くらいで避けるのは難しくない。俺は躱しながら水球を放っていく。


「遅いね。威力も中途半端だし、それで勝つつもりなのかい?」


 シャイニーは余裕の表情で避けている。

 そんなシャイニーの様子を見ながら“光の剣”のメンバーは何か喋っている。


「さすがシャイニーだな」

「カッコいいです」

「あんな素敵なリーダーの仲間になれるなんて最高」


 シャイニーが負けるとは少しも思っていない様子だ。

 だけど俺もベルに鍛えてもらっている。"ダイナソークロコダイル"を間近で見たし、ナイルさんとも戦った事がある。


 そしてシャイニーは俺を下に見ている。これなら"アーマーピッグ"の方が恐ろしい。


「キュキュキュー!」

「たぬたぬ!」


 さらに、よく知っている声が聞こえてくる。この声援を受けたら勝つしかないだろう。

 ただ、周りの冒険者の何人かは、戦っている俺達よりもベル達を見ているのは気のせいではないだろう。


「避けてばかりだね。攻撃してこないのかい?」


 魔法が全然当たらないことにしびれを切らしたシャイニーは接近戦を仕掛けてきた。


「はっ!」


 勢いよく剣を振るうがそれも躱す。そして刺激玉を使用する。


「ぐわっ!?」


 シャイニーは大きな隙を見せた。すかさず殴り飛ばすと地面に横たわる。


「負けを認めるか?」


 風で拘束し動けなくしたところに武器を突き出した。だが、シャイニーは負けを認めようとはしない。

 本当は負けを認めてくれればよかったんだが仕方がない。


 水球で顔を覆う。溺れた所で解除してやろう。

 

「おい!男らしくないぞ」

「酷い」

「この悪魔!」

「正々堂々戦えよ」


 外野が文句を言っているが気にしない。俺は常に本気で戦うが正々堂々戦うとは限らない。死んだら終わりなのだから、手段を選ぶつもりは無いんだよ。

 

 だが、もうすぐ意識を手放すだろうと思った瞬間に結界が一瞬だけ消えて誰かが侵入してきた。


「よくもシャイニー様を!!」


 それはシャイニーの従魔のアンリだった。リリアンがわざと中に入れたのだ。

 外部からの攻撃が無いと思っていた俺は反応が遅れていた。それは周りの冒険者も同じだった。


「死になさい!」


 俺に向かって光の槍が飛んでくる。装備的に死ぬことは無いと思うが重傷は免れないと思った。


「たぬぬ!!」


 コタロウの声が聞こえたかと思うとその槍は俺の近くで弾かれるのだった。これは結界か?


「バカな!?」


 アンリは驚いているが、そんな隙を見せてはいけなかった。


「キュキュ!!」


 リリアンの結界を食い破ったベルがアンリに迫っていた。アンリが気がついた時には草木がアンリを締め付けていた。


「な!?低級な魔物程度が私を」


 もがいたり魔法を放つが草木はほどけない。そして草木はアンリの魔力を吸っているようだった。

 アンリはベルに任せて、俺はシャイニーの意識を奪う。シャイニーの動きが止まると同時に、アンリの動きも止まった。俺は水だけは解除する。


 しかしネネは試合を終わらせる宣言をしない。呆然と立ち尽くしている。


「おい。俺の勝ちを告げろよ。もう意識ないぞ」


 俺の言葉でハッとしたようだが、それでも宣言をしない。そして、信じられない事を口にした。


「この試合はシャイニーさんの勝ちです。従魔は使ってはいけないと言ったはずです。貴方の反則負けです」


 俺は空いた口が塞がらなかった。ゆっくり周囲を見回すとまともな冒険者達は俺と同じリアクションだ。ただし“光の剣”関係者は当然だと言うように頷いている。 


 もうコイツも殴り飛ばしてもいいんじゃないかと“鋼雲”を持つ手に力が入る。


「いい加減にしなさい!!」


 怒気を含んだ男の声が辺りに響き、俺も周囲の冒険者達もそちらに視線が向かう。そしてネネはその男性を確認すると顔が青ざめていく。


「な、何でセルシオさんがここに?合流は夜だったのでは?」

「急いで準備をしたんですよ。そして合流してみればこの騒ぎ。先程ディランさんに何があったのか確認していたら、このような事になるとは」


 セルシオさんは軽蔑した表情でネネや“光の剣”の関係者を睨む。


「ジュンさんの戦い方には何の問題もありません。従魔の参加も先に破ったのはシャイニーさん側の方ですね。しかもリリアンさんは明らかに参加できるように結界を解除しましたよね。見てましたよ。それに、ベルさんもコタロウさんもシャイニーさんには何もしていません。よって勝負は有効として、“光の剣”は金貨三枚の支払いと“光の剣”とネネはディランさんの決定に従ってくださいね」

「そんなの認められません。…セルシオさんは確か彼を担当していますもんね。私情が入っているんじゃないですか」


 諦めないネネには本当にうんざりする。


「かなり貴方達に寄り添った提案でジュンさんには申し訳ない気持ちで一杯なのですがね。この条件を受けいられないなら、“光の剣”とネネは帰ってください。後、金貨三枚どころの話ではありませんからね。全員相応の処分は覚悟してください」

「え?」

「ちょっと待てよお前に何の権限があるんだよ!」


 セルシオさんの言葉にアークフットがキレて叫ぶが、セルシオさんは冷静だった。


「権限?今この場でギルドの代表者は私になりますよ。問題がある冒険者に罰を与える権利程度は持っています。…それで貴方達は何の権限でジュンさんを不適切だと判断したのですか?討伐隊のリーダーであるディランさんや高ランクの冒険者ならまだしも同じDランクですよね」


 その言葉に反応したのはネネだった。


「ディランさん。その考え方はおかしいですよ。ランクが低くても優れた冒険者はいます。ランクが低いという理由でその者の言葉に耳を傾けないのはいただけません。色んな声に私達は耳を傾けなければいけないと思いませんか」


 セルシオさんは大きくため息をついた。


「貴女は本当に話す事とやる事が乖離していますね。貴方はジュンさんの言葉に耳を傾けましたか?キチンと“光の剣”以外の冒険者の言葉を聞きましたか?」


 さすがにネネも黙り視線を逸らす。


「確かに貴女の言う通り、ランクの低い者の意見を聞くことも大切です。ですが今は非常事態ですよ。指揮系統が乱れるような行為は看過できません。“歴戦の斧”のディランさんをリーダーにしたのは実績と人柄を評価したからです。そのリーダーに対して我儘を言い続けるなら」


 その言葉と同時に周囲が凍る。


「切り捨てますよ」


 淡々と冷たい言葉が響き渡った。

 ネネや“光の剣”の関係者は腰を抜かしてひたすら頷いていた。あれほど偉そうにしていたアークフットも同じだ。


「さて、ここで揉めている時間は無駄ですね。休憩時間もそろそろ終わりですし。これが最後です。“光の剣”は先程の条件でよろしいですよね」

「わ、分かった」


 気を失っているシャイニーの代わりにアークフットが返答している。そしてセルシオさんとディランさんが仕切って冒険者達はそれぞれの馬車に戻っていく。ディランさんもセルシオさんが来てくれたおかげで色々やりやすくなったようだ。


 シャイニーとアンリも“光の剣”が回収していった。俺を睨むのは忘れていなかったが、それしかできずにすごすご戻っていく。


「ジュンさんお疲れ様です」


 一段落するとセルシオさんが俺の方に寄ってくる。


「セルシオさん。先程はありがとうございます」

「いいえ。ジュンさんにとっては利が少なかったと思います。勝手に進めてしまって申し訳ありません」


 そう言って頭を下げてくるが、関わる方が面倒だったので俺としてはあの条件で問題ない。やりすぎると逆恨みの危険も高いしな。まあ、現時点でも逆恨みで何か仕掛けてきそうな雰囲気はあるけど。


「気にしないで下さい。ところで俺は別の馬車に移動させてもらう事は出来ますか?」

「ええ問題ありません。あ席が空いている馬車もありますが、予備の馬車でゆっくりする方が良いでしょう。案内いたします」


 セルシオさんの厚意で誰もいない馬車に案内される。良くも悪くも目立ってしまった俺にはありがたい。

 席に座るとベルとコタロウを膝に乗せる。


「さっきはありがとうな。お前達のおかげで助かったよ」


 お礼を言うとベルもコタロウも腰に手を当てて胸を張っていた。


「本当にありがとうな。ベルにはいつも助けられるし、コタロウもしっかり成長しているな。俺も負けないように頑張らないと」


 今は周りを気にする必要が無いので、ご褒美で少し高めのチョコレートを購入して三人で食べる。


「キュキュ♪」

「たぬぬ♪」


 パクパクとチョコレートを食べていく。口に合ったようで安心だ。まあ大抵の物は美味しく食べてくれるからな。むしろ何が嫌いなのか知りたいくらいだ。


 馬車はそのまま順調に道を進んで行く。誰もいないのでトラブルになる事もない。広々とした席で横になりながら目的地に着くのをただ待っていた。

 そして馬車が止まり、ギルド職員の声で目を覚ました。俺は結構な時間眠っていたようだ。


「今日はここで野営をします。見張りの人員には既に声をかけておりますので、声がかかっていない方は休んで大丈夫です。それとテントが無い方は馬車の中で休んでも構いません」


 馬車から降りると、至る所で野営の準備が始まっていた。俺も適当な場所にテントを設置する。パッチさんが用意してくれたテントはその場に置くだけで自動的に設置された。外見は少し小さめのテントなのだが、中は十畳くらいの広さがある。


「確か隠蔽と結界の効果もあるんだよな。これはこれで便利だよな」


 ベルとコタロウはさっそくテントの中で走り回る。俺はその間に布団を購入して敷き始める。


「後は飯の準備か。テントの中で弁当を購入して食べても良いけど、せっかくだから外で作りたいよな。カレーが定番だけど匂いが強いからな。…他の人達の飯でも見てみるか」


 ベル達を誘って外へと出る。周囲ではスープを作っていた、パンや干し肉を齧っている者が多かった。そんな中、どこからかいい匂いが漂ってくる。すると周囲の冒険者は不機嫌になっていく。


「おい。どこのバカだよ。昼の休憩ならまだしも就寝前に食い物の匂いをまき散らしている奴は」

「向こうの方だな。少しくらいの匂いなら分かるが、これは度を越しているな」

「さっき、ギルド職員が向かったから何とかしてくれるだろ。…今日の見張りの仕事は増えるかもだけど」


 やはり匂いの強い物はダメなようだ。作るなら匂いが流れないようにしないとダメそうだな。

 そんな事を考えていると後ろから声をかけられた。


「おう、ジュン。ようやく見つけたぜ。一緒に飯でも食わねえか?」


 声をかけてくれたのはガンツさんだ。断る理由が何一つ無いので付いて行くことにした。


「ありがとうございます。何を食べようか考えていた所だったので」

「そいつは良かった。ああ、クロス達もいるけど構わないよな?」

「もちろんです」


 むしろベル達も遊んでくれる相手が増えて喜ぶだろうし。


 少し歩いたところでガンツさんは一つのテントを指さした。


「あそこだ。中に入るぞ」


 中に入るとクロスさん達がくつろいでいた。


「どうもこんばんは」

「ジュン。昼間の戦いは見せてもらったぜ。やるじゃねえか。スカッとしたぜ」


 入って一番に褒められて頭を撫でられた。まあ撫でるというよりは押し当てられたと言った方が正しいだろう。


「キュキュキュ♪」

「たぬたぬ♪」


 ベル達もバーンさんやパッチさんに構ってもらえて楽しそうな声を上げていた。


「しかしベル達もかなりやるな。ベルが倒したのは光の上位精霊だろ。それにコタロウは結界の中に結界を作るなんて技術を見せてくれたしよ。良いパートナーを見つけたな」

「自慢の相棒たちですから」


 ベルとコタロウが褒められたのは素直に嬉しい。


「話は飯を食いながらにしようぜ」


 ガンツさんがそう言いながら俺達の前に料理が置かれていく。よく見るとこのテントにはキッチンが付いていた。こんなテントもあるのかと感心してしまう。


 食事中は昼間の話でもちきりだった。ガンツさんは以前の店の出来事があるし、クロスさん達も商品に理不尽な文句をけられた事があるらしい。


 そのため俺達は褒められていた。


「だけど気を付けておけよ。アイツ等はしつこいからな。それに教会やギルドマスターとも繋がりがあるらしい。仕返ししてくるかもしれないから油断はするなよ」


 真剣な表情で忠告を受ける。俺は面倒だと思いながらも素直に頷いた。

 そして楽しい時間はあっという間に過ぎていく。食事も終わりベル達が眠そうになったので俺はお礼を言ってから自分のテントに戻る。

 馬車の中で寝ていたのだが、それでも慣れない環境の為か眠気が押し寄せてきた。俺はベル達を抱きしめながら眠りについた。

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