第二話 準備はしっかりと
「あのババアめ」
目が覚めた俺は女神に対する怒りに満ちていた。しかし、周りを見回してからそれどころではないと気持ちを一度切り替えた。
「森の中か。本当に適当に転生させたんだな。まずは無事に森を抜けなきゃな」
そのためには自分の状態を確認しないといけない。
「異世界といったらステータスだよな」
頭の中で念じてみると、突然透明なプレートが目の前に出現した。出る可能性はあると思っていたが、本当にでるとわな。
名前:ジュン
年齢:二十歳
種族:人間?
武術:体術 短剣術 棒術 針術
魔法:水 風 土 幻 感覚
特殊:ガチャ 通販 不撓不屈
喪失:槍術 雷 再生
「もう少し詳しく見れないのか?」
手を伸ばしてプレートを操作して見ると“説明”と書かれた欄があったのでタッチしてみる、すると簡単な説明が浮かび上がる。
"体術"
無手の武術と身体能力全般が向上。
"短剣術"
短剣を使った動きと速さが向上。
"棒術"
棒を使った動きと器用さが向上。
"針術"
針を使った動きと魔力感知が向上。
"水魔法"
水に関する魔法が使える。状態異常耐性向上。
"風魔法"
風に関する魔法が使える。速さが向上。
"土魔法"
土に関する魔法が使える。物理耐性向上。
"幻魔法"
幻に関する魔法が使える。精神異常耐性向上。
"感覚魔法"
感覚に関する魔法が使える。幸運が向上。
"ガチャ"
一日に一回だけ引ける。当たりかハズレしかない。当たりの場合は十のアイテムがランダムに手に入るが、ハズレは何も貰えない。初回のみ当たり確定。
"通販"
アイテムボックス、鑑定、解体、ゴミ箱の能力も併せ持つ。ポイントを消費して地球の品物を購入出来る。アイテムボックスに収納した物はポイントに変換可能。貨幣は変換不可能。
"不撓不屈"
逆境にも挫けない。相手が強いと一時的に力を引き出せる。
「何か思ったよりも良い能力ばかりだな」
俺は内心ホッと胸をなでおろした。
多分、喪失となっているものが女神に奪われたものだろう。確かにそれらは強力な力を秘めていたみたいだが、残っている能力も十分魅力的だ。何ならガチャや通販を奪われなくてよかったと思う。
「しかし本当に若返っているな。“人間?”なのは気になるが。……一回死んだから実はアンデットだったりするのか?」
少し考えてみたが、無駄だと思い早々に悩むのは止めにした。それよりも説明で見たガチャの方が千倍以上大事だ。
「えーと。ステータスプレートでガチャを選択するだけでいいんだよな」
ガチャをタッチすると、ステータスプレートにムービーが流れてカプセルから“当たり”と書かれた紙が出る。そして今回ゲットしたアイテムが並べられる。
“嵐舞(棒)”
嵐を制御する力を持つ。風と水の魔法の威力を上げる。
“快癒(針)”
聖なる力を秘めた針。特定の部分を刺すことで回復や解呪を行う。
“狂(針)”
悪しき力を秘めた針。特定の部分を刺すことで魔力の流れの妨害や機能の低下を促す。
“風鳥(短剣)”
風属性の鳥の魔物の素材で作られた短剣。風魔法と速さを上げる効果を持つ。
“ソウルイーター(大鎌)”
死を司る神が使ったとされる武器。霊体すら切り裂く切れ味が特徴。その気になれば切れぬ物無し。
“戦装束(男性用)”
物理・魔法への耐性が高い。呪いや状態異常に対しても強い抵抗力を持つ。どんな場所でも活動が可能。
“不死鳥の装束(女性用)”
不死鳥の力が宿った服。物理・魔法への耐性が高い。呪いや状態異常に対しても強い抵抗力を持つ。
装備することで常時体力が回復しケガも治っていく。
“清潔の指輪”
指輪を付けて魔力を込めると対象の汚れを落とすことができる。
“修復の指輪”
指輪を付けて魔力を込めると対象物を修復する。修復する物によって使用される魔力は変わってくる。
“隠れ家のオーブ(温泉宿)”
壊すことによって隠れ家の能力を得られる。自ら意思で隠れ家の入口の開閉ができる。
「これはやりすぎじゃないか?」
丁度良いアイテムが多すぎる。確かに使わない武器や防具も混ざっているが、性能が高く売っても高値がつくだろう。それに何より“隠れ家”が凄い気になる。
「…まあ、女神にあんな目に遭わされたからな。これでも足りないくらいだよな。早速、隠れ家の温泉宿とやらを拝むとしますか」
躊躇いも無くオーブを壊す。ドキドキしながら、隠れ家の入口が開くように念じてみると黒い渦が現れた。これが入口なのかと思い、覚悟を決めて中へと入った。
そして俺はしばらく固まっていた。
「凄え」
自分の語彙力の無さに呆れながらも、目の前の景色に見惚れていた。
二階建ての温泉宿の前にはキレイな桜の木が並んでおり、桜吹雪が見事に舞っているのだ。
地球でこの場所があれば春には人で満杯になるだろうな。もう少し見ていたい気持ちがあったが、宿も気になるので後ろ髪を引かれる思いで中へと入った。
館内の見取り図があったので確認する。
「一階は温泉・大広間・食堂・厨房に客室が四部屋か。二階は客室が六つでルーフバルコニーもあるのか」
俺は期待に胸がワクワクした。少し高級感を感じられる客室のドアを開けて中を確認する。
「…今どきの旅館ってこれが普通なのか?」
俺が今まで泊った部屋だと、ドアを開けると近くにトイレ、ホテルなら風呂もついていた。そして、正面に大きめな部屋が一つあるだけだ。もしくはベッドが置いてあるか、洋風の部屋の角が和室になっているタイプだった。
だが今俺の目の前に広がっている部屋は違う。同じなのは入り口近くにトイレがある事くらいだ。リビングがあったと思ったらダイニングキッチンもついている。そもそもリビングが広いしソファーやテーブルなんかも備え付けだ。ベッドルームにはクイーンサイズかキングサイズのベッドが二つ並んでいる。
「……俺、独り身なんだけど」
言ってて悲しくなった。気持ちを切り替えるために次に進もう。
他にも十畳くらいの部屋が二つあった。ここは自分の好きにできそうだな。そして一番凄いと思ったのが風呂だ。大きめの風呂があったと思ったら、奥に扉があり露天風呂にもなっていた。
「実際こんな場所に泊まったら一泊何万取られるんだろう?」
これがこれから俺の住まいになるのだと思うと得した気分になる。ウキウキした気分で俺は部屋から出て、他の場所の確認へと向かう。
「まずは大広間かな」
宴会場みたいな場所を想像しながら扉を開ける。そこには体育館位の広さの座敷があった。
「広いな。……でも使う事が無いよな。物置…いや、物は収納できるから意味ないか。後で使い道を考えよう」
嬉しいのか空しいのか分からない感情で次へと向かう。次は食堂だ。
「ここも広いなテーブルも多いけど、一人一人のスペースも大きいな。…でも俺一人」
やはり空しくなった。そして気を取り直して厨房に向かったが。
「うぉ!?家庭用じゃなく立派な業務用で本格的な物ばかりじゃん。……俺だと部屋のキッチンで十分なんだよな」
隠れ家の設備は凄いと思ったが、実際に使えるのは一部分だけだとすごく感じた。だが大丈夫だ。俺にはまだ温泉がある。
最後に残しておいた温泉へと向かう。そして俺は入口で躓きかけた。
「男湯と女湯に分けなくていいのに。ここに女なんていねえんだよ!俺一人きりだよ」
温泉はしっかりと男湯と女湯に分かれていた。これは、“隠れ家”を使って商売をしろという事なのか!?
「まあいいや。大事なのは内容だ」
脱衣所を通り浴室へと向かう。浴室の入口には効能が書かれている看板が立っていた。
「え~と。体力回復・魔力回復・治癒・病状全般改善・肌荒れ改善・美肌・リラックス・血行促進・解呪。…さすがファンタジーだ。おかしな効果もついているな。…うん?」
看板を読み終えた後に、ふと鏡が目に入った。
「誰だよこれは!?」
鏡に映っているのは若い頃の俺ではない。明らかに別人だ。
「でも特に問題ないか」
驚きはしたが、別に俺の人生に何の支障もない。むしろ、生前よりイケメンな気もするので嘆く必要も無いだろう。
「それよりも温泉だ♪」
浴室に入ると、そこにある温泉は俺の想像以上だった。まず内風呂だが、大浴場・ジャグジー風呂・檜風呂・水風呂・岩盤浴・砂湯。外風呂には、露天風呂・打たせ湯・寝湯・壺湯。それに外気浴用のイスも置かれている。
「無駄に種類が多いが、温泉好きだからこれは嬉しいな」
俺のテンションは上がっていく。このまま温泉に入って部屋で休みたいという欲望が出てくるが、俺はぐっとこらえる。
「…次は魔法を試さないとな。ここで欲望に負けたら俺はこのまま森からも出なくなりそうだしな」
俺は裏庭へと回る。そこであることに気が付いた。
「露天風呂が外から見ないな。…まあ魔法でマジックミラーのようになっているのかもな」
魔法はご都合主義だと本当に感じる。さらに言えば裏庭は果てが見えなかった。どこまで広がっているのだろうか?
「気にもなるけどそれよりも魔法か。…どうやって魔法を使うんだ?」
当たり前だが、生まれてこの方魔法を使った事などない。魔力どころか気だってよく分からない。
「ヤバイ。これは詰んだか?」
いや、そう言えば俺は魔力感知に優れているはずだ。
とりあえずその場に座り、リラックスしてから目を瞑り自分自身に集中してみる。
体の中心から何か力を感じる。これが魔力なのだろうか?さらに意識を集中してみると自在に動かせることが分かった。
次はそのまま地面に魔力を流して大きな壁をイメージしてみた。すると土の壁が出来上がっていく。
「なるほど。こんな感じか」
俺はそのまま風魔法や水魔法を試していく。魔法と言ったら球体が基本かと思ったが、土の壁にぶつけてもあまり威力が高いようには思えなかった。色々試してみたが、風魔法は鋭い刃物を飛ばすイメージ。水魔法は土魔法と混ぜてウォータージェットにするのが一番威力が高かった。後は水で顔を塞いだり、肺に水を送るのが一番強いと思う。
幻魔法は試せないのでまた今度だが、感覚魔法は五感を強化したり消したりできる。これが相手にも影響を及ぼせるようになればかなり使えると思う。
「魔法はこれくらいで次は武術かな」
軽く体を動かして突きや蹴りを放ってみる。
「体が普通に動くんだな。次は」
物は試しとばかりに、バク転やバク宙などアクロバットな動きも試してみた。そしたら思った以上にできるので嬉しくなってきた。
そのまま、短剣術や棒術も試してみる。どちらも自分の思った以上の動きが可能だった。
「でも、初めから相手を刺すのは自信が無いな。棒術の方が良いかもな」
しばらくは棒術をメインにしようと考えた。そして最後は針術だ。
“快癒”を手に持ってみると、自分の体のどこに刺せばいいのかが何となくわかる。
「こうか」
腕に針を刺して魔力を流してみる。
「うぉ!?」
痛みは無かったが、魔力を流した瞬間に何とも言えない衝撃に襲われた。だけど気持ちがいい。腕の調子も軽く感じてしまう。
そして針を抜くが魔力が針の形で刺さったままだった。少しすると溶けるように消えていったが、針は基本的に魔力で形作って体の各場所に刺す物だと感じた。
「凄いな。“狂”はこれと逆の効果だと思えばいいな。魔力で針を形成して飛ばして当てられるようになればな。練習あるのみか。さてと、そろそろ森の中の探索と行きますか」
少しだけ仮眠を取ると、俺は森へと出かけたのだった。