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第十八話 ある日の一幕

「キュキュ♪」

「たぬぬ♪」


 頬っぺたに違和感を感じる。目を開いて横を見るとベルとコタロウが楽しそうに俺の頬っぺたを突いていた。


 そんな二匹を抱き上げると再び楽しそうな声を上げる。


「おはよう。ベル、コタロウ」

「キュキュキュ」

「たぬぬ」


 朝から元気いっぱいだな。まだ少し眠たいが体を起こす。

 体を伸ばすと欠伸が出てしまう。


「温泉にでも入ってさっぱりしてくるか」

「キュー♪」

「たぬー♪」


 内風呂も良いがやはり大きな温泉の方が好ましい。ベル達を肩や頭に乗せて温泉へと向かう。

 そして温泉に着くと俺よりも先にベル達は温泉へと入り元気よく泳ぎ出す。


「可能ならプールにでも連れて行ってやりたいよな。…海なら可能か。浮き輪やボートを用意したりバーベキューも良いかもしれない」


 いつか海辺の町にでも行こうと心に決めながら温泉へと入る。

 あー、やっぱり気持ちがいい。心も体も癒される気分だ。


 ベル達の楽しむ姿を眺めながら、俺はしばらく温泉に浸かる事にした。


 そして温泉から上がり部屋に戻ると頭を悩ませる。


「今日は何するかな?」


 依頼も受けたくないし、たまには体を休ませたい。だけど、ゴロゴロした生活も送りたくないし、ベル達が楽しめるような事もしたい。


「よし!料理でもするか」


 決して得意な訳ではないができない事もない。通販の料理やガンツさんの料理は美味しいが、たまには平凡な味も懐かしくなるのだ。


「炊き込みご飯でも作るかな。材料は通販で購入してと」


 鳥ごぼうとアサリの炊き込みご飯で迷ったが、今回はアサリに決めた。冷凍の物を使えば難しい行程は無いので、準備はすぐに終わる。


「でも、これだけだとなあ。…いっそ御膳でも作るか。蕎麦・天ぷら・刺身・茶碗蒸しにデザートも付ければそれっぽく見えるよな」


 蕎麦は一から作った経験はないので既製品を購入して茹でよう。刺身も購入した方が種類を食べられるな。天ぷらと茶碗蒸しとデザートは頑張るか。味は落ちるだろうが仕方がないな。


「天ぷらは最後に揚げたてを食べるか。そうなると他の物から準備をするか」


 道具や食材を出すと、ベル達は興味深ければ深々に見学を始める。まあベルはこっそりつまみ食いをしようとしているがな。


 久し振りの料理は良い気分転換になった。ベルもコタロウも一緒に手伝ってくれて中々楽しい。ただ、最後の方は面倒にもなってきたので、デザートはフルーツポンチにすることにした。


 一通り準備を終えて、揚げたての天ぷらを皿に盛り完成だ。テーブルに置くとベル達は待ちきれない様子だった。


「いただきます」

「キュキュ」

「たぬたぬ」


 味だけで言えば毎日食べている物の方が美味かった。たが今日の料理も悪くない。それに楽しかったしな。


 出来上がった料理をベルに食べられたり、コタロウが分量を間違えるアクシデントもあったが、それはそれだ。


 今日の休みも有意義だったな。こんな日が続いてほしいものだ。



「それで彼の魂は回収出来たんだよね」

「もちろんだ。いくら俺でもこの件で失敗はしねえよ」


 二柱の神、ルードとダーガスが疲れた顔を見せながら会話をしていた。


「やっぱりエルメシアが適当に転生させたせいで、亡くなる者が多いね」

「だが今回の奴はもった方だったな。幸せではなかったけどよ」

「それでも彼のおかげで死に方だけはマシだったね。幸せな夢の中で痛みも感じる事がなかったしね」

「まあな。後は俺の仕事だな」


 ダーガスの後ろには幾つもの人魂が浮かび上がる。その人魂の正体は、ジュンと同じく女神によって不幸な目に合わされた人達だ。


「しかし、彼女は本当に録な事をしないよね。あの後調べたら沢山出てくるんだから」

「どれも適当なやっつけ転生だったしな。現世で生きていた者を無理矢理殺した癖に、能力を奪ったら用済みはやりすぎだ」

「新しい人生も魔物に転生して狩られて終了。貧しい家に産まれて病死や餓死。悪徳貴族に産まれて革命で殺される。商人になっても強盗にあって殺される。そんな人がわんさかだったね。一時の幸せも感じられなかった者がどれだけいたことか」


 ルードは人魂を悲しそうな目で見つめている。


「こちらの都合で人生を奪ったなら、最低限の環境は整えろよと思うよな。まあ、コイツらの次の人生は少しはマシになるようにするけどな」

「それでも彼らは無念だろうね。本来の世界で幸せになれた保証はないけど、幸せに暮らしていた人は多いからね」


 ルードもダーガスもため息しか出てこない。エルメシアのせいで、余計な仕事や気苦労が増えているからだ。


 放っておくこともできるのだが、ルード達は放っておくと自分達にも影響が出る予感がするので介入せざるを得ない。


 しかし面倒なのが、今の時点ではエルメシアの罪は大した物にはならない事だ。やっている事はアウトなのだが、部下に罪を押し付ける事ができる範囲だ。


 下手をすればもっと狡猾に何かを企むかもしれないので、ルード達も慎重になってしまう。


「ところであの男はどうなっているんだ?」


 ダーガスは気分を変えたくなったのか、話題を少し変えた。


「彼は中々面白い事になっているよ。あんな能力は滅多に見られないし、良くも悪くも出会いの縁があるね」

「悪いのもあるんだな」

「まあそれが彼の目的に繋がるかもしれないしね」

「アイツが目的を果たしてくれたら俺達も楽なんだがな」

「そうだね。でも途中で自分の幸せのために生きても良いと思うけどね」

「だな。さて、もう一仕事といきますか」


 ダーガスはそう言うと人魂を連れてどこかに消えていく。ルードもそれを見てからその場から姿を消した。

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