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第十四話 教会の噂

「今日は豚肉三昧だな」

「キュキュ♪」

「たぬぬ♪」


 俺達は上機嫌で“満腹亭”を目指している。理由はもちろん一昨日売った肉を食べるためだ。“光の剣”や“五色の花弁”には会いたくないが、さすがにいないだろう。


「こんばんわ」

「おう。よく来たな。例の物で良いんだよな?適当に座って待っていてくれ」

「お願いします」


 店の中に入るとガンツさんと少し話をしてから席を探す。するとベルとコタロウが駆けだした。


「キュキュー♪」

「たぬたぬー♪」


 向かった先には顔見知りの三人の姿がった。その三人にベル達は飛び乗って頭をペチペチと叩きだした。


「ベルにコタロウか。元気そうだな」

「相変わらずだな」

「ついでにジュンも元気そうじゃねえか。どうせなら一緒に飲もうぜ」


 クロスさん・バーンさん・パッチさんはベル達にされるがままだが機嫌が良い。

 ついでの扱いの俺ではあるが、せっかく誘ってくれたので席に座る。


「皆さんもここに来るんですね」

「飯は美味いし居心地がいいからな」


そう話すクロスさんはベルとコタロウにつまみを渡していた。ベル達は遠慮なく受け取りご機嫌な様子だ。


「そうだ。お前が以前言っていた臭いのするアイテムの試作品が出来たぜ。帰る前に渡してやるよ」

「本当ですか。ありがとうございます」

「感謝しろよ。結構な自信作だからな。だが、人の近くで使ったり自分で嗅いだりするなよ。マジでヤバいからな」


 パッチさん。どれだけの物を作ったんだよ。

 そう思っていると料理が運ばれてきた。角煮・ソーセージ・豚足・ベーコン・豚バラ串・トンカツ・ポークソテーなど、様々な豚肉料理が並べられた。


「お前らそんなに注文したのか!?」

「ええ。“アーマーピッグ”を運良く倒せたのでガンツさんに売ったんですよ」

「お前良く倒したな。まだEランクのはずだろ」


 バーンさんが感心したように俺を見ていた。


「ついていただけですよ。それより一緒に食べませんか?」

「いいのかよ?」

「ええ。ベルもコタロウも皆で食べる方が好きですしね」


 そんな訳でクロスさん達も交えて食事を始める。トロっとした角煮、噛むと肉汁が飛び出るソーセージコラーゲン豊富な豚足、厚切りのベーコン、焼きたての豚バラ串、サクッとした触感のトンカツ、ソースが良く絡んでいるポークソテー。どれも美味くて箸が止まらない。欲を言えば脳みそやきんつるなども食べたいが十分満足だ。


 そして周りのオッサン達もベルやコタロウが美味しそうに食べているのに触発されたのか、アーマーピックの料理を注文し始める。


 少し割高なのだが味は良いためどんどん注文は増えていく。ガンツさんは忙しそうだが嬉しそうにしていた。


 楽しく食事を続けていたが、近くで大きな音がして視線がそちらに集まった。どうやらグラスを強くテーブルに置いたようだ。中身がこぼれて酒がテーブルに飛んでいた。


「ちくしょう!加護があるのがそんなに偉いのかよ!」


 オッサンは悔しそうな表情を浮かべていた。


「すまんな。コイツ最近教会所属の冒険者と揉めたんだよ。本来は相手が悪い案件だったんだが、教会が出しゃばってきてコイツの方が悪い事にさせられたんだよ」


 同席しているオッサンが何があったかを話してくれた。周りは同情的な目で見ている。


「教会か。エルメシア教の奴等は面倒だからな。アイツも災難だな」

「そんなに面倒なんですか?」


 俺の問いにクロスさんは話し始める。


「ああ。エルメシア教は自分達こそ正しいと思っている奴等でな。人の話なんて聞きやしない。それに名目上は世のため人のためなんだが、どう見ても自分達のために動いている感じなんだよ。冒険者や街の人ともトラブルが多いんだ」

「教会がそれでいいんですかね?」

「アイツ等にとっては俺達が間違いだからな。ギルドの内部にも信仰している者はいるみたいで、不正が増えているって話だぜ」

「不正ですか?」


 クロスさんは一度酒を飲み干してから話を続ける。


「そうだ。例えば品質の悪い納品をしても、教会に所属していれば最高の評価をする。逆に教会に所属していなかったり、別の神や女神を崇める者には悪い評価をする。そんな事が起こり始めている」

「それって色々とマズいですよね」

「そうだ。実力が伴わない冒険者が増えたり、質の低い素材しか出回らなくなる可能性がある。問題なのはギルドマスターが無関心なところだ。教会とズブズブな関係ともいわれているな」


 そんな話を続けていると、周りのオッサン達も話に加わってくる。


「ジュン。お前はセルシオを知っているだろ。アイツがお前の担当をしてくれているのはお前を守るためでもあるんだぜ」

「え?」

「お前は素材の納品の評価が高いだろ。それにベルとコタロウの事もあって、お前は少し噂になっている部分があるんだよ。もちろん良い意味だぞ。だけど面白く思わない奴等もいる。教会は“光の剣”を期待の新人として売り込みたいが、お前が邪魔になっているんだよ」


 迷惑な話だな。

 俺は果実水を飲んでイライラも飲み込む。


「一度試しに他の受付に素材を出してみろ。教会所属の職員がやってきて微妙な評価にしてくるぞ。それと、教会から入信を誘われるだろうな。まあ入信はお前の自由だから好きにするといい」

「無理ですね。俺もあそことは確執があるで」


 あの駄女神を崇めるなんて死んでも御免だ。被害者が加害者をそう簡単に許すと思うなよ。


「お前も色々あるんだな」

「そういえばエルメシア教は聖王国に本部があったよな。最近勇者が召喚されたと聞いたが本当なのか?」


 バーンさんから興味深い話題が出てきた。


「本当らしいぜ。なんでも勇者は一人じゃなく仲間とともに来たとか。そして全員が強力な力を持っていると聞いたな。“渡り人”はズルいよな」


 流れからして“渡り人”は異世界人の事なのだろう。


「しかし、勇者が現れるという事は世界が荒れる前兆だったよな。何が起きるんだか」

「そんな話があるんですか?」

「何だ“勇者伝説”を知らねえのか?まあ面白い話じゃねえが、教会が広めているからな。図書館にも本が置いてあるから興味があれば見てみればいい」


 勇者か。異世界人の話かもしれないから後で見てみるか。


「いつまで辛気臭い話をしているんだ。そろそろ飯を食って酒を飲んで騒いで、嫌な事なんか忘れちまえ」


 ガンツさんの一言にオッサン達は賛同して再び騒ぎ出した。俺達のテーブルには豚しゃぶが用意された。確かに今は料理を楽しむべきだな。


 俺達は夜遅くまで騒いで過ごすのだった。

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