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第十三話 "光の剣"との邂逅

 Eランクになってから早くも数日が過ぎた。討伐の依頼もこなしていき、収納の解体能力のおかげでギルドからの評価も上々だ。

 

 そんな俺だが、今はベルによってしごかれている真っ最中だ。初心者用の森の中にいるのだがベルがどんどん魔物を引き連れてくるのだ。


 ゴブリン・フォレストウルフ・ドリルバード・ジャイアントフロッグ・スモールホース・ダンシングラビットと本当に引っ切り無しに戦い続けている。ちなみにコタロウも同じ様にベルに用意された魔物と戦って特訓中だ。


 だけどそのおかげで大分戦いには慣れてきた。ベルとの組手もありがたいが実戦はやはり雰囲気が違う。それにベルが相手だとボコボコにされるだけで負け癖が付きそうな気もしていたので、今の訓練はありがたい物だった。


 でも。…もうちょっと連れてくる魔物は厳選して欲しいな。


「キュキュー♪」


 ベルがご機嫌で連れてきている魔物は巨大な豚だ。角や牙も生えており目つきも悪い。


「ブモー!!」


 そんな豚がベルの分身に誘導されて、俺目掛けて涎を垂らしながら突進して来ているのだ。そして俺は思ったんだ。この豚はEランクなのだろうかと。

 まあ、Eランクでもそうじゃなくても突っ立ているわけにはいかない。“嵐舞”を手に持って風の刃を放つ。


「ブモッ!」


 豚はその巨体を振るって魔法を弾いて見せた。足なども狙ったのだが傷付いている様子がない。全力ではないと言え、今までの魔物だったら真っ二つだったはずだ。


「やっぱりコイツはEランクの魔物じゃないよな」


 嘆いてもしょうがないので、豚の突進を横に躱す。そこで先程よりも魔力を込めて風の刃を放とうと思ったのだが、予想外の事が起きた。


「ブモ!」

「マジかよ!?」


 俺が横に飛んで躱した瞬間に、豚も方向を変えて弾丸のように跳んできた。


 俺は避けきれずに吹き飛ばされた。武器のガードが間に合い、良い装備を着けているのでダメージは殆ど無かったが危なかった。


 そして豚は今度こそ俺を仕留めようと再び突進してくる。避けたところでさっきの二の舞になるのは分かっている。なのでまずは、地面を崩す事にした。


 豚は柔らかくなった地面に足をとられた。しかし豚もただではやられない。脚に力を込めると、不安定な態勢からでも無理矢理跳んできた。


 俺はその一撃を横に避けた。さすがに先程のように方向を変えることはできずに木へとぶつかる。すかさず俺は"狂"を豚に向かって投げつけた。


「ブモ?」


 針は当たるが豚は平然としている。そして俺を見てニヤッと笑う。


「ブモッ!」


 突進してくる豚。俺は軽く風の刃を放つ。


「…?」


 豚は巨体を振るって魔法を弾こうとしたのだが、弾くことは出来ず体は真っ二つになった。


「針でどう戦うんだよと思ったけど結構便利だな」


 針で仕留める事も可能だが、それは難易度が高い。だが動きを鈍くさせたり、今のように防御力を落とすことも出来るので、他の武器や魔法と組み合わせると使い勝手が良いことが分かってきた。


「え~と、コイツは」


 "アーマーピッグ"

 鎧を着ているように硬い豚。角・牙・皮・肉と余すことなく使える。肉の味は上質。


「美味いのか。…豚肉なら角煮や豚足が食いたいな。…"満腹亭"に持ち込んだら作ってくれないかな」


 そして日本酒と一緒に頂く。 

 想像しただけで涎が出そうになるな。


「キュキュキュ♪」


 ベルがコタロウと一緒に近づいてきた。ベルの様子的に今日はもう終わりのようだ。

 疲れたしヤバイ場面もあったが今日も良い稼ぎだと思う。俺の場合は解体の能力のおかげで、依頼料以外にも素材の値段がかなりプラスになっているのでEランクでも結構贅沢な暮らしができるほど稼げているのだ。


「いいお土産も出来たしガンツさんにさっきの豚を料理してもらおうか」

「キュキュ♪」

「たぬ♪」


 ベル達も賛成のようで上機嫌に踊りだす。俺はそんな二匹を抱き上げてまずはギルドを目指した。


「お願いします」

「畏まりました。今日も大量ですね」


 素材の買取と依頼の確認をしてくれるのは、以前俺が提出した素材を褒めてくれた男性だ。名前はセルシオさんだ。何故か俺が来ると毎回担当してくれる。仕事も丁寧で早い上に俺に対して好意的な態度だ。ベル達の事も可愛がってくれており、ベル達もセルシオさんの事を気に入っている。とても良い人なのは分かるのだが、たまには女性に対応してもらいたいと思ってしまう自分がいる。


 そんな時に近くの受付から声が聞こえた。その声を聞いたセルシオさんが一瞬不機嫌な顔をしたのを見逃さなかった。


「凄いでね。さすが“光の剣”の皆さんですね。専属の担当にしてもらえて私とても幸せです」


 声のした方を見ると、美人な受付嬢とイケメン四人の集団がいた。

 それにしても“光の剣”ってどこかで聞いたことがあるような?


「ネネさんにそう言ってもらえると僕達も嬉しいよ。ネネさんが良い依頼を見つけてくれるからこそ僕たちは活躍できるんだ」

「そんな。皆さんが本当にお強いから依頼を斡旋できるだけですよ。Eランクなのにワイバーンを倒せるなんて本当にすごいです。きっとすぐにAランクまで上がれますよ」


 とりあえず見てるだけ胸焼けを起こしそうなやり取りが始まったので見なかったことにしよう。しかしワイバーンか。……美味いのかな。ワイバーンの討伐には興味が無いが肉には興味がある。


「お待たせいたしました。今回の報酬と素材の代金になります」

「ありがとうございます」


 受け取った袋には銀貨がだくさん入っていて顔がにやけてしまう。


「しかしジュンさんは本当に良い素材を卸してくれますね。植物系もそうですが、魔物も外傷がほとんど無かったり、肉や皮なども丁寧に分けていたりとありがたいですよ」

「ハハハ。ありがとうございます」


 能力のおかげとは言えないので愛想笑いで誤魔化している。


「それにしても植物系は丁寧に行ったりコツを知っていればできるとは思うのですが、魔物の場合は何かやり方があるのですか?この微塵鳥なんて外傷が見当たらないのですが」

「ああ、水で窒息死させただけです。呼吸ができなければその内死にますからね。微塵鳥くらいの大きさなら全身を水に浸けれますし、大きい魔物も顔を覆って動きを拘束すれば何とかなります」

「……」


 セルシオさんが笑顔のまま固まった。そして別の話題へと切り替えてきた。


「そういえばジュンさんはDランクへの昇級試験を受ける事ができますよ。いかがなさいますか?」


 俺はベルを見てから口を開いた。


「もう少ししてから受けることにします」

「そうですか。まあ地固めも大事ですしね。昇級試験を受けたくなった時は声をかけて下さい」

「ええ、その時はお願いします」


 ちなみに断った理由は簡単だ。ベルが両手でバツを作ったからだ。

 ベルに認めてもらえるようにもう少し頑張らないとな。

 そう思いながら俺達は“満腹亭”に向かった。中に入ると冒険者で溢れていたが、まだ座れる席はあった。


「こんばんわ」

「ジュンじゃねえか。ベルもコタロウも元気そうだな。今日は夕食を食っていくのか?」

「ええ。後相談なんですけど、これを調理できますか?」


 俺はアーマーピッグの肉を一部取り出してガンツさんに見せる。ガンツさんは肉をジッと見ている。


「…アーマーピッグの肉か?」

「ええ」


 見ただけで分かるのが普通に凄いと思ってしまった。


「コイツを倒したのか?アーマーピッグはDランクでも上位の魔物だぞ。…まあいい。コイツは美味いからな。ただ下処理何かも必要だから今日は無理だな」

「それは残念」

「ちなみに何キロ持っている?あるだけ買わせてくれ」

「百キロはありますけど」


 本当はもっとあるけど一度に全部出すのはマズいよな。


「全部買おう」

「いいですよ。ちなみにいつお店に出す予定ですか?」

「明後日には出す予定だな」

「それじゃあ明後日も来ますね。今日は他の料理を食べていきます」

「おう。腕によりをかけて作るぜ」


 俺達は適当な席について料理を選ぶ。昼には無い料理なども結構ある。酒もあるがベル達の手前、果実水を飲むことが多い。


「とりあえず煮込み料理・サラダ・ソーセージの盛り合わせ・厚切りベーコンの炙り焼き・パスタ・ミートボール・焼き魚に果実水でいいか?」

「キュ♪」

「たぬ♪」


 俺達は料理を注文してテーブルの上に並べられた料理を食べ始める。

 しかしベル達はここでも人気だった。


「おう。ベルにコタロウじゃねえか。ほれ肉でも食うか?」

「そんなオッサンより俺達との席で一緒に食おうぜ」

「だれがオッサンだ。お前も似たようなものだろうが」


 こんなやり取りが毎回のように起きている。そんなベル達は遠慮なくおっさん達のテーブルに向かい料理を貰っていた。そして、俺の座っているテーブルにも、別のオッサン達がやってきて一緒に飯を食ったりしている。


 俺の注文した料理も食われるが、向こうが俺に奢ってくれる料理の方が圧倒的に多い。こういう物だと受け入れると結構楽しい。


「どうだジュン、調子の方は?」

「ぼちぼちですよ。一応Dランクの昇級試験を受けられるくらいにはなりました。それにコタロウもEランクの魔物なら問題なく倒せるようになりましたよ」

「おう、良かったじゃねえか。乾杯だ。そしてコタロウとベルに料理を追加だ」

「「「乾杯」」」


 何かと理由をつけて乾杯したがる人が多い。周りのテーブルも巻き込んで賑やかな状態だ。そしてベルとコタロウはオッサン達にモテモテだな。


「だけど気を付けろよ。冒険者はDランクからが本番だ。実入りの良い仕事も増えるが危険度も増してくる」

「そうそう。時には人を相手にすることだってある。魔物とは違う技術も必要になってくるぞ」

「後は環境に慣れる事も大事だな。Eランクは森や草原で済むが、Dランクからは劣悪な環境も増えてくるぞ」

「野営も慣れておけよ。俺達はそれで苦労したぜ、見張りもただ起きていれば良いわけじゃないからな」

「心配ならもう少しEランクで鍛えるのも大事だな。命あっての物種だ」


 こんな感じでアドバイスが飛び交ってくれる。満腹亭に集まる冒険者は面倒見が良いのか色んな事を教えてくれてありがたい。


 周囲の冒険者と交流を深めていると、扉が開く音がした。ふと視線を向けると、"光の剣"と呼ばれていた男達と数名の女性が入ってきた。


「ここが最近噂になっているお店か」

「汚ねえ店だな。本当に美味いのか?」


 入店始めに失礼な事を言ってきやがった。外観こそ少し古いが、店内は決して汚くない事だけは確かだ。そして、失礼な台詞はまだ続く。


「確かにね。シャイニー、僕達だけならともかく"五色(ごしき)花弁(はなびら)"の皆さんに失礼になるよ」

「あら、私達は気にしませんよ」

「そうそう。たまにはこんな店で飲むのも話のネタになるだろうし」


 まず店に失礼な事を話していると自覚してほしい。好みは個人差があるから雰囲気が合わない事はあるだろうが、好んで来ている人も大勢いるのだから批判は身内だけでやっておけ。


 俺も周りのオッサン達も気分を害された。そのまま帰ればいいと思ったが、普通に席に座っていた。


 まあ気にしすぎても仕方がないので、席に戻ってきたベル達や居座っているオッサン達と談笑を続ける事にした。


 しかし、一度気になるとどうしても声が耳に入ってしまう。


「うぇ、不味い」

「美味しいと聞いていたんだけどね。やっぱり僕達の舌には合わないようだね」

「酒も二級品だな。こんなので満足する奴等がいるなんて信じられないぜ」


 店や俺達を蔑む発言が聞こえてくる。俺以外も聞こえているようで、先程までの楽しい雰囲気が変わってきている。


 腹も膨れてきたし居ても不愉快になる気がしたので、ベル達を連れて店を出ることにした。


「すみません。俺達は先に帰りますね」

「気をつけて帰れよ。またベルとコタロウを連れて店に来るんだぞ」


 飲んでいるおっさん達に挨拶をしてから店を出た。

 もうアイツ等には会いたくないと願う。だが近いうちにアイツ等とトラブルが起きる事になるとはこの時の俺は知る由も無かった。

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