第十一話 三つ目の依頼。そして昇級
「それじゃあ失礼します」
「是非また来てください。いつでもお待ちしております」
俺はシモンさんと握手をしてから依頼書を受け取る。そしてシモンさんと子供達の方に目を向ける。
「バイバイまた来てね」
「もっと遊ぼうよ」
「行っちゃヤダ」
「待ってるからね」
子供達は泣きながらベル達とお別れをしている。中には駄々をこねる子供もおりミーファさんが慰めていた。
「キュキュキュ」
「たぬぬ」
ベル達も懸命に手を振ったり頭を撫でたりしながら子供達とお別れをしている。
後ろ髪を引かれる思いだが、孤児院を後にして次の依頼先へと向かう。
「ベル、コタロウありがとうな。お前達のおかげで子供達が喜んでくれたみたいだ。今度満腹亭で腹一杯飯でも食おうな」
「キュー♪」
「たぬ♪」
喜ぶベル達の姿を見ている内に目的地へとたどり着いた。農業の手伝いという事で畑仕事かなと思ったが、果樹園などもありかなり広い場所だった。
「もしかしてお前が手伝いの冒険者か?」
俺が畑や果樹園を眺めていると筋肉質の男に声をかけられた。
「はい。ジュンと言います。それとベルとコタロウです」
「俺はグランドだ。この畑の責任者だ。よろしく頼むぞ」
握手を交わすと早速仕事に取り掛かる事になった。俺とコタロウは畑の作業でベルは果樹園だ。ベルだけ場所が違うのはベルが熱望したためだ。グランドさんに熱弁しており、グランドさんにも何かが通じたようだった。
まあやる気があるなら良いだろうと思い俺もコタロウも自分の作業に集中する。
俺は土を耕す作業なので土魔法を使っている。思わぬところで魔法の訓練になっている気がするな。コタロウの方は雑草刈りだ。地味な作業だが手を抜かずに頑張っているのが見える。そしてベルだが、果実や樹の様子を確認しているようだった。
長時間の単純作業だが、あまり嫌いではない。外で体を動かす作業は疲れるが、時間が進むのも早いからだ。
「おー、凄えな!」
突然大きな声が聞こえたかと思うと、ベルが高速で果実や野菜の選別を行っていた。周りの人から見ても選別が的確で早いようで驚かれている。
それを見て俺も頑張るかと思い気合を入れるが、それはコタロウもだったようだ。ただコタロウはベルの作業と自分の作業を見て、一度俯いてから先程よりもペースを上げている。
少し無理をしているように感じて俺は近づこうと思ったのだが、先に毛むくじゃらのおっさんがコタロウに声をかけていた。
「おー、小さいのに頑張っているな」
そう言ってコタロウの頭をポンポンと叩いている。
「でもな頑張るのはいいが無理はするなよ」
「たぬ?」
コタロウは首を傾げて意味を考えているようだった。
「自分の出来る仕事をまずはやり遂げるってことだ。人と比べる必要は無いからな」
「たぬ~」
それでもコタロウは俯いている。
「ハハハ。まあ言うほど簡単なことじゃねえよな。優秀な存在が近くにいると自分が役に立ってるか不安になるよな。でもな、お前はキチンと役に立っているんだぜ」
「たぬぬ」
「本当だ。雑草を刈るのは地味だし面倒だが必要なんだ。下手に残しておくと作物の栄養が持っていかれたり、虫や病気が発生するからな。それをしっかりやってくれる存在は大事だぜ」
「たぬ!」
男性の言葉で少し元気を取り戻したのか、コタロウはいつもの笑顔で作業に取りかかった。
「ありがとうございます」
俺は男性に近寄りお礼を述べる。男性は照れたように笑っていた。
「ああ気にするな。俺は本当の事を話しただけだ。礼を言われる程の事はしてねえよ」
そう言って元の持ち場に戻っていくが、その後もコタロウの事を気にかけてくれている。
俺も自分が任された場所は頑張らないとな。
ベルもコタロウも作業に集中しており、時間はあっという間に流れて休憩時間となる。
そして休んでいるのだが。
「いやー、ベルは優秀だな。果実や野菜の仕分けも一級品だし、病気の樹を教えてくれて大助かりだ」
「コタロウも根性あるぜ。地味な作業なのに真剣にずっと取り組んでいるんだ、中途半端な奴には出来ねえよ」
ベルとコタロウはここでも人気だった。頑張っている姿がおっさん達の心を射止めたらしい。ベル達も取れたての野菜や果物を貰えてご機嫌だった。
たまにおっさん達の髭を引っ張ったり、力こぶにぶら下がったりして遊んでいるが、全員が笑って受け止めている。
「ジュンの従魔達は人気者だな」
俺の隣に座ったグランドさんの言葉に俺は頷いた。
「どこに行っても人気者でちょっと妬けちゃいますね。でも本当に頼りになる仲間なので褒められるのは嬉しいですね」
「ハハハ。この後もその調子で頑張ってくれよ。ああ、もちろんお前にも期待しているからな」
「ええ、頑張りますよ」
俺達は昼過ぎまで農業の手伝いを続けた。そして帰るときには果物や野菜を大量に頂いた。……少し自分でも料理をするか。
その後は冒険者ギルドへと向かう。この三日間の依頼書を提出するためだ。
「お願いします」
受付に書類とギルドカードを提出すると、係のお姉さんが書類の確認を行う。そして、確認を終えるとこちらを見て微笑んできた。
「おめでとうございます。Fランクにランクアップです。これ自体は普通のことですが、どの依頼者からも最高の満足度となっております。今後の活躍も期待しております」
「ありがとうございます」
俺は意気揚々とギルドを出た。
「まだ時間があるな。…少し外にでも出てみるか。貰ったアイテムも使ってみたいしな」
ベルとコタロウも賛成なようで外へと出かける。
街の近くは人が多くいるが、道から外れた草原だと人の数は減っている。
「この辺でいいかな」
俺は試供品として渡されたアイテムを取りだした。
「凄い光ると思うから直視するなよ。目を瞑ったり後ろを向いているんだぞ」
ベルとコタロウに注意をしてから閃光玉を投げつけて地面を見る。直視はしていないが強烈な光を感じた。
「キュー!?」
「たぬー!?」
「え?」
ベル達を見ると目を押さえてバタバタしている。俺はついつい月光水を取り出して二匹に振りかけた。
「何やってんだ!?」
「キュ~」
「たぬ~」
落ち着いた二匹が身振り手振りで何が起きたかを教えてくれた。どうやら興味があったらしく。手で目を覆いながらもバッチリ隙間を開けて見ていたらしい。
そしたら思った以上の光で驚いたとの事だ。
「下手すれば目が見えなくなったりするんだから、今度は言う事を聞いてくれよ」
ベル達は黙ってうなずいた。基本的には人懐っこくて良い子なんだが、好奇心旺盛な部分も多大にあったようだ。俺も気をつけないとな。
「次は大きな音が鳴るから耳を塞いでいろよ」
コクコクと何度も頷き、耳を塞いだのを確認してから遠くに爆音玉を投げてみる。「バーン!!」と強烈な音が鳴り響く。離れた位置でも結構聞こえるくらいだから至近距離で食らったらたまらないだろうな。
「最後は煙玉か。これは他の二つよりは危険性が低いがそれでも注意しろよ」
そして煙玉を投げてみた。俺はもくもくと煙が広がるものだと思っていたが、瞬時に煙が視界を覆っていた。そして煙独特の臭いが広がる。
「これも使えそうだな。パッチさんの所にでも行って買ってくるか。…しかし、聴覚や視覚に影響する物はかなり効果的だよな。感覚魔法も上手く使えば格上にも通用しそうだな。臭いなんかも使えるかもな」
俺はそんな事を考えながらベルとコタロウを抱き上げて街へと戻る。そしてそのまま三人組の露店へと向かった。
「どうも」
「キュキュキュ」
「たぬぬ」
「お、ジュン達じゃねえか。ベルとコタロウも元気そうだな」
店に出向くとパッチさんしかいなかったが、挨拶をすると笑いながら返事をしてくれた。
「今日はどうしたんだ?」
「以前貰ったアイテムを使ってみたんですが、使い勝手が良かったので購入しようと思ったんですよ」
「おお、そうか。買ってけ買ってけ」
パッチさんは上機嫌に商品を用意してくれる。ついでなので俺はパッチさんに聞いてみた。
「ところで臭いを出すアイテムは無いんですか?異臭・悪臭・刺激臭何でもいいですけど」
「あるのは煙玉の臭いくらいだな。……だがそれも面白いかもな。動物系の魔物には効果がありそうだ。今度試作品を作っておくから試してくれ」
「ありがとうございます」
「気にすんな。礼を言いたいのはこっちだからな。お前が持ち込んでくれた素材のおかげで兄貴たちは大作を作れそうだしな。もちろん武器の仕入れも忘れちゃいないから安心しな」
パッチさんはベルとコタロウの相手をしながら良い笑顔を俺に向ける。
「期待させてもらいますから。それではまた来ますね」
「おう。体には気をつけろよ」
本当に顔以外はいい人だ。さて次はEランクを目標に頑張ってみるか。




