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第十話 孤児院での一時

 満腹亭の依頼を終えた翌朝。俺達は簡単に食事を済ませると孤児院へと向かっていた。あまり店は無く緑が多い場所だ。


「この辺は少し静かなんだな」

「キュキュ」

「たぬー」


 のんびりと俺達は歩いていた。そんな中、周りの雰囲気と似合わないような豪華な建物が目に入った。そこには見知った顔の純金製の像も建てられている。


「エルメシアか」


 怒りや憎しみがこみ上げてくる。外観などからして教会なのだろう。だが出入りしている人間や神父やシスター達は清貧とはかけ離れた者達ばかりだ。この女神の教えは一体何なんだろうな。


「キュキュ?」

「たぬぬ?」


 俺が足を止めていたのでベル達が不思議がっていた。


「悪いな。早く依頼の場所に行かないとな」


 笑顔を作って足を動かす。この場所には居たくないという思いもあり、先程までより足早になっていた。そして十分くらい歩くと目的の孤児院が見えてきた。


「結構大きいな」


 少し古い建物だが満腹亭のように手入れが行き届いている。庭では畑も行っているようで野菜が実っているのが見えた。


 そのまま俺は扉をノックする。すると、シスター服の女性が出てきてくれた。教会のシスターとは違って変な装飾などはつけていない。


「おはようございます。なにかご用事でしょうか?」

「ギルドの依頼で来たジュンと言います。こちらはベルとコタロウです」

「キュキュ♪」

「たぬぬ♪」


 ベル達が挨拶をするとシスターは顔がほころんだ。


「よろしくお願いしますね。院長の元にご案内しますので付いて来てください」


 部屋に通されると好々爺という言葉が似合う老人がイスに座っていた。


「よく来てくださいました。私はこの孤児院の院長をしているシモンと申します」

「ジュンです。それとベルとコタロウです」

「キュキュ♪」

「たぬぬ♪」

「これは可愛らしい従魔ですな。子供達も喜びそうです」

「ハハハ。従魔というより相棒や家族と言った方が正しいかもしれませんね」

「なるほど。貴方達を見ていると確かにその表現の方が正しそうですな」


 シモンさんはニコニコとベル達を見つめている。


「そうなってくれればいいと思います。それとこちらが依頼書です」

「はい。確かにお預かりしました。それでは早速子供達と遊んでいただいてもよろしいでしょうか?」

「ええ。大丈夫です」

「それでは彼女と一緒に行動してください」


 先程俺達を案内してくれたシスターが頭を下げる。


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。ミーファと申します」

「よろしくお願いします」


 ミーファさんに先導されて子供達のいる部屋へと向かう。今は自由時間で子供達は遊んでいるらしい。そして扉が開かれた荒れ達は部屋の中に入る。


「皆さん。今日は冒険者のジュンさんとその従魔のベルさんとコタロウさんが来てくれましたよ」


 ミーファさんが俺達の紹介をすると子供達は元気に駆け寄ってきた。


「お兄ちゃん遊ぼう」

「抱っこして」

「どっちがベルちゃんでどっちがコタロウちゃんなの?」

「触らせて」


 子供は元気だなと思いながら相手をしていく。まあ俺よりもベルとコタロウの方が人気なので俺の負担は少ない。ベルとコタロウは子供達と遊ぶのが楽しいらしく元気に走り回っている。


 いつの間にか来たシモンさんも子供達の楽しそうな姿を見て嬉しそうにしていた。そして声がかかる。


「さて。楽しい時間じゃが、そろそろ掃除の時間じゃ。ピカピカにするぞ」

「「「はーい」」」


 子供達は素直にシモンさんの言葉に元気よく返事をする。俺達も一緒に掃除の手伝いをしているが、ふざけたりサボったりすることなく孤児院の隅から隅まで掃除をしている。


 そして掃除が終わると今度は庭で畑作業だ。野菜の収穫や雑草を抜いたりと中々の重労働だが、子供達は楽しそうにこなしている。


「キュキュ」

「たぬぬ」


 ベルとコタロウも畑の世話を楽しんでいる。どんな事でも楽しんで協力してくれるベル達には感謝だな。


 作業が終わると今度はお昼だ。俺達も食べられるという事で子供達の隣に座る。ちなみに昼食はミーファさんが用意しているらしい。


「いただきます」


 子供達は好き嫌いせずに料理を食べていく。俺の小さい頃は偏食が凄かったので、それだけで偉いなと感じてしまう。


 そして食事を終えると子供達はお昼寝の時間だ。掃除や畑仕事をしているので疲れもあるためかぐっすりと眠りだす。ベルとコタロウも子供たちに交じってお昼寝中だ。人気のある二匹は、誰が隣で寝るかでジャンケン大会が開かれて負けた子供の中には本気で泣きだす子供達がいるほどだった。


 そんな子供達を宥めてから寝かしつけると、俺は最初に通された部屋でシモンさんとお茶を飲んでいる。


「子供達は元気ですね」

「これもジュンさん達のおかげですよ。ありがとうございます」

「いえいえ。そんな事はありませんよ。それにしても毎日大変ですよね。これだけ子供が多いと体がいくらあっても足りませんよね」

「そうですな。しかし子供達の笑顔に元気を貰えますからな。頑張っていけるのですよ」


 そう言うシモンさんはニコニコしていた。

 穏やかに世間話を続けていたのだが、部屋の外からミーファさんと男の声が聞こえてきた。


「お待ちください。院長はお客様の相手をしているのです」

「ふん。エルメシア教の司教である私よりも優先させる客などこんな場所に来るはずがないでしょう」


 そんな言葉が聞こえたかと思うと恰幅の良すぎる男が乱暴に入ってきた。そして側には武器を持った男が二人ほどいる。俺は“狂”を手に持った。


「一体何の用ですかな?」


 シモンさんはこんな雰囲気にも関わらず、ニコニコと対応している。


「決まっているだろ。この土地を私達に譲渡する話だ。お前達の教会はもう街には無いのだから必要ないだろう」

「その話は教会が撤退する時に話が付いているではありませんか。この孤児院は残して私達が運営を続けるという条件でロクサーヌ教の教会は街から撤退したのですよ」

「何年も前の話を蒸し返すな!お前達は言う事を聞けばいいだろう!!」


 この男の声が大きくうるさかったからか、子供達の泣き出す声が聞こえ始めた。


「ミーファ。子供達の所へ」

「畏まりました」


 ミーファさんは子供達の所へ走って行く。向こうにはベルとコタロウがいるから何かあっても大丈夫だと思い。俺はいつでも動けるようにしていた。

 シモンさんは少し雰囲気を変えて話し出す。


「ここは子供達が安心して暮らすための家ですよ。大声はご遠慮いただきたい。子供達の中にはトラウマを抱えている者もおりますので」

「身寄りのないガキの事など知った事か!!そんな事より土地の話の方が大事だろうが!!」


 一向に話を聞く気がなさそうだ。


「それに孤児院なら私達が新しく運営をしてやろう。それなら問題が無いだろう」

「いいえ。こればかりは譲れません。失礼ながら司教である貴方の態度は子供達にとってよろしいとは言えませんからな」


 シモンさんはハッキリと言い切った。


「この私をバカにしているのか!!」


 部下のような男達が武器を抜いたので俺は針を飛ばそうとした。しかしその前に、強烈な怒気で動けなくなる。


「この場で戦事などもってのほかじゃ。仕舞いなさい」


 声の主はシモンさんだ。静かだが重い怒りを感じる。

 武器を抜いた男達などは、手から武器を落として冷や汗をかいている。


「司教殿。貴方達の教会で王国で一番と言っていいほど大きいでしょう。しかしながら私達も譲れぬ物はあるのですよ。例え何を相手にしても子供達を守るためならば命くらい賭けましょう。もちろん貴方もその覚悟があるからこそ、ここで暴れようとしているのですよね」

「は?いや」


 完全に役者が違う。好々爺にしか見えなかったシモンさんが今だけは鬼神に見える。


「この事はロクサーヌ教の本部を通して抗議させていただきます。今日はお帰り下さい。これ以上子供達の楽しい時間は奪われたくないのでね」

「ふざけおってジジイが!」


 それだけ言うと司教は帰っていった。そしてシモンさんは俺に頭を下げてきた。


「申し訳ありません。恥ずかしい所を見せてしまいました」

「そんな事はありません。それよりも子供達の様子を見に行きませんか?」

「そうですな」


 俺とシモンさんは子供達の所へと向かった。するとそこでは、皆で楽しそうに踊っている光景があった。


「これはいったい?」

「ベルさんとコタロウさんのおかげです。泣いている子供達をあやしていたら、二人が子供達を誘って楽しそうに踊りを始めまして。そしたら子供達もだんだんと泣き止んで笑顔が戻ってきたんです」


 後でガンツさんの店で好きな物を食べさせてやろうと思った。


「ありがとうございます。ジュンさん」

「お礼ならベルとコタロウに言ってあげて下さい。…しかし聖職者が子供を泣かせて、ベル達が笑顔に変えるなんて、どっちが魔物なのか分かりませんね」

「全くですな」

「同感です」


 その後は起きた子供達と時間いっぱい遊ぶことにした。本当は夕方には帰る予定だったのだが、子供達にせがまれて一泊する事になる。子供達も懐いているので、仕事抜きでもたまに訪れてみようかな。

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