表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/99

第一話 異世界転生は女神の謀略

 ……ここは一体どこなんだ?

 

 気がついたら何も無い空間に俺は座っていた。周りには俺と同じように不思議そうに周囲を見回している人が十人程いる。下は高校生で上は四十代くらいか? 三十歳の俺も上の方だな。

 

 ところで一体俺に何があった? こんな場所に見覚えなんてない。

 え~と、朝は六時に起床して弁当と朝飯を作ったな。それから準備を終わらせたらニュースを聞きながらスマホをいじって七時半に家を出たはずだ。


 会社には八時過ぎには着いたな。うるさい上司の事を心の中で毒づきながら仕事をして、五時半には退社して六時過ぎに帰宅したよな。それから夕飯を食べてパソコンで動画を見たな。


 …そうだ。その後に週末だから晩酌をしようと思って、つまみを買いにコンビニに出かけたはずだ。豚の角煮は作った方が美味いけど買った方が楽だからな。

 そして。………ああ、猛スピードで暴走した車に轢かれたんだ。


「だけどあの車おかしかったんだよな」


 死を覚悟した時にスローモーションになるというが、俺は本当にそうだった。その時に俺は車がハッキリ見えたのだが、運転手の姿は見えなかったのだ。中の人が倒れていて見えなかった可能性もある。だが、俺を轢いた後に急停止して他の物を傷つけなかったのはおかしいだろう。


 もしかしたら他にも何かあったかもしれないが、俺の意識は途切れて今に至る。


「結局よく分からなかったな。ここはあの世か何かか?」


 パニックになりかけている人達を眺めながらそんな事を考えていた。自分よりパニックになっている人を見ると落ち着くと聞いたことがあるが本当だな。


 俺がそんな風に眺めていると、急に女性の声が辺りに響いた。


「皆様お待たせいたしました」


 そう言って現れたのは金髪のキレイな女性だった。後光もさしており、どこか人間でないと思わせるような雰囲気がある。つーか人間じゃないな。


「私はエルメシア。“愛”と“正義”と“美”と“光”の女神です。私は貴方達にある事を伝えに来ました」


 俺を含めてこの空間にいる人たちは自称女神に視線を集めている。


「皆様。目の前の本を見て下さい」


 本?

 頭にクエスチョンマークが浮かんだが、一瞬にして何も無い空間が、図書館のように本で一杯の世界に変わっていった。


 そして俺の目の前には一冊の本が浮いていた。題名は書いていないが作者の名前は“北村(きたむら) (じゅん)”となっていた。…俺の名前だ。恐る恐る本を開いて中身を確認する。そこには俺の人生が細かく書かれていた。


「何だよこれは」

「その本は貴方達の人生が書かれています。そしてここにいる皆様の最後のページは事故で死んで終わりになっています」


 最後のページを見ると確かにそのように書かれていた。集められた人たちの目には絶望が浮かんでいるようだった。


「ですが安心してください。私は皆様にチャンスを与えに来ました」


 女神がそう言うと、空から光が降り注ぎ俺達の体に吸収されていく。そして不思議な力が湧いてくる感覚がある。


「今のは異世界に転生する者だけが貰える"能力の種"です。皆様に特別な力を与えてくれます。そしてこれは私からです」


 今度は大きな光の玉が胸の中へと吸い込まれていく。だけど、先程とは違い何かが変わった感じがしない。


「今のは何ですか?」


 俺と同じく特徴が無い平凡な男性が女神に質問をした。女神は軽く微笑みながら答える。


「もうすぐ分かります。少しお待ちください」

「はぁ」


 女神に逆らえるはずもなく、俺達はその場で待たされる。

 暇だし自分の人生でも振り返ってみるか。俺は自分の本を読み始める。今更だが俺は結構恵まれている方だったのかもしれない。


 健康に生まれ、スポーツは色々と習わせてもらえた。結果には結び付かなかったが、大抵の事は出来るようになっていた。


 塾などは通わなくても、程々の成績で友人と遊ぶ時間だってあった。美味いものも食べさせてもらっていたし、大学まで通わせてくれたのだ。家族仲も良かったと思う。一人暮らしした後も米とか野菜を送ってくれたし、十年ほど前に亡くなった曾祖母もかなり可愛がってくれた。


「それなのにこんな終わり方か」


 申し訳ない気持ちと共に何となく最後のページを捲った。その時に突然苦しみに襲われた。


「がっ!?」


 胸が痛い。苦しみと痛みで呼吸もままならない。すると、先程より大きな光の玉が体から出ていき、女神の側に吸い寄せられる。


「中々の豊作ですね。これで貴方達は用済みです」


 キレイな笑顔で女神は俺達に宣告した。


「何言ってんだ」


 意味を完全に理解した訳ではないが、この女神が俺達を利用した事だけは何となく分かった。そして自分の中で何かがキレていた。普段なら人任せの俺だが、女神に怒気を含んで声を発していた。


「愚かですね。用済みと言ったでしょう。貴方達は勇者となる転移者のための養分なのです。"能力の種"は転移者・転生者にしか渡せませんからね。一度渡してから回収するしかないのですよ。そうすれば、勇者様の力はもっと強大になりますから」


 その言葉を聞きながら俺は自分の本の文章が変化していた事に気がついた。


 『コンビニに向かう途中で、車に轢かれて命を落とした』と書かれていたのが『女神エルメシアの思惑に巻き込まれ、事故に見せかけて殺された』となっていた。


 怒りしか湧いてこないが、女神は俺の事など気にもかけずに話続ける。


「貴方達も勇者様や私の役に立てるなら光栄なことでしょう。ああ、転生はさせてあげますよ。まあ適当なのでどんな容姿でどこに行くかは知りませんけど。年齢は二十歳なら文句ないでしょう」


 そして、俺達の体が分解されていく。周りからは泣き声や助けを求める声が聞こえる。だけど俺は怒りのまま女神に吼える。


「この自称女神のババアが!お前は絶対ぶん殴ってやる!」

「何を言っているのですかね。貴方の最期は『出来もしない事を願いながら、何も出来ずに無念のまま生涯を終えた』となりそうですね」

「お前が俺の人生を決めんじゃねえよ。『自称女神をぶっ潰して、楽しく暮らし続けた』と書かれる人生を送ってやるよ!」


 女神は俺の言葉を聞いてもどこ吹く風だ。


「負け犬の遠吠えを実際に見られるとは思えませんでしたよ」

「は、負け犬の餌にでもしてやるよ。ババア」


 俺はそこで意識を手放した。あの女神は絶対に許さん。



「さてと、私は勇者を作りに行きますか。この計画が上手く行けば、私の信徒が増えて力が増す上に邪魔な他の神々を消せるかもしれない」


 エルメシアは怪しい笑みを浮かべて消えていった。そして、入れ替わるように二柱の神が現れた。

 

「何かとんでもない事をやってくれたみたいだな。ルードは“運命神”としてどう動くんだ?」

「神の力で運命を捻じ曲げるなんて言語道断だよ。しかも完全に私利私欲だしね。これ以上被害が出ないように釘は刺さないと」


 子供のような姿の運命神ルードはエルメシアに対して怒りを露にしている。その外見からは想像がつかない程の圧力を放っている。


「ダーガスはどうするんだい?“生命の神"としてやることがあるんじゃないの。つーか働きなよ」

「まあ面倒だけど、今回の件で死ぬ奴がいたら元の世界に生まれ変わらせておくさ。それと他の犠牲者を探して同じようにやっとくぜ」


 生命神であるダーガスはダルそうに話すが、仕事はキッチリとするのだろう。ルードはこれ以上言うことは無かった。


「しかし、最後に執念を見せた奴がいたな。美の女神にババアとはな。平静を装っていたけどキレてるな」

「でも間違ってないね。耄碌して失態をおかしているし」

「どんなだ?」


 ダーガスの問いにルードはニヤッと笑って答える。


「ババアは転生を適当に行い過ぎたんだよね。ババアの適当は“相応しい”ではなく“いい加減”って意味だからね」

「……なる程。そういう事か」


 ダーガスも納得したように頷いている。


「転生は然るべき手順で行わないといけない。何故ならば転生する過程でどんな能力を得てどんな生き物になるかが分からなくなるからな。その転生を適当に行った事で思わぬことが起きたかもしれないと」

「そうだね。時に人間は考えられない事を起こすからね。ババアはそれさえも分かっていない」

「だな。じゃあしばらく観察させてもらうか」

「うん。彼もババアも要観察だね」


 そして二柱の神は消えていった。そしてルードの手には“北村 純”と書かれた本が持たれていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] うーん 雑 大体 【駄女神】ってなんだよ、このスバか? なんで愛称で使われる駄女神なんだよ 糞女神とかもっと心から罵る言葉あるでしょ、最初から言葉選び間違えてるって終わってるよ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ