えんぴつくん(4)
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大きなベッド、えんぴつくんと二人。あたしは下着姿だけれど、えんぴつくんはパジャマを着てる。なんだかおかしくて、えんぴつくんの背筋に人差し指を這わせてやった。えんぴつくんが「ひゃぁっ」と声を上げて寝返りを打ってこちらを向く。「せ、先輩、やめてください」と目を白黒させる。あたしは「脱ぎなよ、服。気持ちよくしてあげるからさ」と教えた。するとえんぴつくん、今度は向こうへと寝返りを打ち「そんなの要りません」と固辞した。
「どうしてぇ? あたしは気持ちよくなりたいんですけどぉ?」
「ぼくはぼくです。ぼくだからぼくなんです」
「意味がわかんないよぉ」
「いいから寝てください。明日からまた激務が待っているんですから」
「きみと組むようになってから、仕事に恵まれていないんですけれど?」
「気のせいです」
「事実だってば」
「気のせいです」
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「今回もまたカワウソ君らしいね。どこから出向ているんだろう」
「いきなり現れるあたりが、『異形』っぽいです。今度こそ、仕留めます」
「あたしは動物愛好家なんだけど、しゃあなしかぁ」
えんぴつくんは今日も刀で戦う。相手の懐に飛び込んで、腹をザシュザシュ斬って、真っ赤な返り血を浴びながら戦う。私はロケットランチャーを使って援護する。ロケラン食らってもダメージを負った感はないけれど、えんぴつくんの刀は効いているように見える。えんぴつくんはそれくらい達者なのだろう。
えんぴつくんが明らかに深追いする。「待て!」と叫ぶだけの権利も力量もない。えんぴつくんはあたしよりずっと上の人物だ。ここで仕留め損ねたら厄介なことになる。それがわかっての追撃だろう。
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えんぴつくんが駆け足で帰ってきた。顔は返り血で真っ赤。「『異形』の血はなんだかしょっぱいです」などと笑って軽口を叩く。あたしはあたしで、「なんの役にも立てないなぁ」と嘆き節。
「前から言おうと思ってました」
「なんの話?」
「刀、教えてさしあげます」
「馬鹿なのかな。私にはそんな才能は――」
「努力もしないで、才能を否定するんですか?」
えんぴつくん、キツいことを言う。
「わかった。教えてよ。お荷物にならないで済むなら、そうしたいんだ」
「いろいろと、理解しました」えんぴつくんは笑った。「がんばってできないことなんて、この世にはないんですよ」
えんぴつくんは楽観的で積極的だ。
だからこそ、荒んだ心を抱えるあたしのバディにふさわしい。