第二章
第二章
そして1ヶ月後、僕たちは別れた。別になんてことない、当然の帰結。羽休めをした渡り鳥が本来の越冬地を目指すように彼女は僕の元を飛び去って行った。ひと時ののブームが過ぎ去るように、僕には本来の孤独が舞い戻ってきたのだった。
いつも曇りだった。厚い雲がいつも僕の頭の上にずっしりとただ何をするわけでもなく居座っていた。僕の生まれ育ったのは海辺の廃れた町。曇りの日ばかりが多くて日の光を遮るその雲は、まるで僕達に降り注ぐはずだった幸せをも遮ってしまうようであった。
父はいつもタバコを吸っていた。リビングには常にタバコの煙が立ち込めており、いつも目に染みてよく涙目になるのだった。けれどそれは不幸による涙ではなくて、温かな家庭でただ幸せに包まれるからこその涙であった。そしてその煙はいつしか僕らの頭上を埋める雲が幸せを遮るように、隕石で舞い上がられた煙が太陽の光を遮り遂には恐竜を絶滅させたように僕らの幸せも遮るのだった。
母のヒステリックな声、殴打する音、悲鳴、怒号、悲鳴、血の匂い、そしてタバコの匂い。煙は目に染みない。ただ涙は出た。
愛は世界を救う。障がい者を見せものにする番組の決め台詞。
酒は人類の友。酒浸りのアルコール中毒者の言い訳。
煙草。
20歳未満の喫煙は、法律で禁じられています。喫煙は、肺がんをはじめ、あなたが様々ながんになる危険性を高めます。散々タバコで金儲けするJTの決め台詞だ。
偽善も何も無い。忠告。
地元の不良達との夜遊びが1番楽しいように、その命を削る税金の塊。その不健康さを隠そうともしないその太々しさ。それこそが煙草だ。先の2つのような偽善はそこには無い。死刑囚が進んで自分の首に縄をかけるような、この不可解な行動は夜遊びと同じなのだ。ただ生きることはこんなにも辛いのなら進んで首に縄をかける。真綿で首を絞めるやうに少しずつ、少しずつ寿命を削り、人生の快楽を貪る。ただその真絹の縄は着古した木綿の服のように、使い古したタオルケットの様に肌を傷つける。その傷が愛おしい。その心地よさに抱かれながら人生が短くなる。
長すぎる。人生百年時代など長すぎる。
愛されたい。ただ、それだけ。
愛されない人、愛を欲する人。彼らを徐々に徐々に苦しまぬように殺してくれる。快楽とともに苦しみの時をも減らしてくれる。彼女を愛す以外に生きる道はあるのだろうか。
それからの僕の日々は怠惰で淫らで心地よいものだった。
講義も受けず、飯もまともに食べず、眠りもしない。ただアルバイトに励み、その金で女を買い、タバコを吸い、酒を飲み、またアルバイトをする。最初にガスが止まり、次に電気、最後に水。家賃を払えという通告も無視しタバコを吸う。終いには家もなくなり女の家に上がり込む。綺麗に染められていた髪は最初少し根本が黒くなっていたが終いには半分ほどが黒くなる。
気づけば僕は旅に出ていた。




