第三話 始まりの観光部
【主な人物紹介(観光部部員)】
〔早坂 睦月高校2年生〕
明るく元気な普通の女子高校生。行動力は人一倍あるが向こう見ずな性格のため失敗も多い。幼馴染の美嶺とは昔からの親友。
〔鷲尾 美嶺高校2年生〕
穏やかで少しだけ物静かな普通の女子高生。色白の美人で男子からの人気も高いが、ネガティブで自信が無いため気づいていない。幼馴染の睦月とは昔からの親友。
〔北大路 都古高校2年生〕
京都からやって来た美人転校生。観光への思いは人一倍強いらしく少々意地っ張り。けれど努力家で観光に関する本を練る間も惜しまず読み漁っている。
〔その他)
〔梶谷 五郎理科(生物)教師・睦月らのクラス担任〕
〔吾妻 みかげ(あずま みかげ)国語教師〕
〔早坂 弥生睦月の姉・生徒会長〕
〔嶋 あずさ(しま あずさ)弥生の親友・生徒会副会長〕
第三話 始まりの観光部
「お前ら本当に集めやがったのか」
あのやる気ゼロの梶谷が驚きながらそう言った。
職員室に先生はあまり居らず、見えている範囲では梶谷とその隣でいつも寝ている教師しかいなかった。顔ははっきりとは見えないが、きっちりとしたお団子ヘアをしているのでおそらく女の先生だろう。
「はい、弥生姉と嶋先輩の名前も借りましたが、とにかく無事に集められました!」
「はぁ、これでまた厄介ごとが一つ増える……」
聞こえないように彼は呟いていたようだが、三人にはよく聞こえている。まぁ聞こえたところでどうしようといった話ではないのだが。
梶谷は、持っていた入部届から目線を上げて都古の顔をじっと見た。都古は少し眠たそうな様子で、夜更かしでもしていたのか目の下には薄っすらとクマができていた。
「しかし仲が良い鷲尾はともかく、よく北大路はオーケーを言ったな。コイツは一度関わるとかなり面倒臭いヤツだぞ」
「ええ、この数日身に染みて感じました」
澄ました顔でそう話す都古に対し、梶谷は悪そうな顔でこちらを眺めていた。その顔を見ていると素直に殴りたい、そう思えるほど無性に腹が立った。
前座のようなたわいもない話をしていると、梶谷は思い出したかのように一つだけ訊いてきた。
「であれだ、顧問の先生はどうするんだ?」
「あー、そういえばそれ考えてなかった……。じゃ、梶谷で!」
「じゃ、梶谷で!じゃねぇよ……。俺はあれだ、他の部活もあって忙しいんだよ」
頭を掻きながら呟く梶谷に、睦月は悪だくみをしたような顔をして言った。
「えーでも、この前テニス部の長谷部が梶谷がパチンコ屋に入るの見たって」
「はぁ、俺には休日の一つや二つもないのか……。まぁいい。顧問の先生はこっちで探しとくからあとはお前らにはあれだ、」
梶谷が次に言うことは睦月には分かっていた。
「厄介ごとだけは起こすな、ですよね。分かってますよ」
「一番にして唯一の不安要素なのがお前なんだよ……」
一通りの話を終えて彼女らが職員室を出ようとすると、梶谷は呼び止めるように言った。まったく、一度でまとめて話してほしいものだと思いつつ仕方なく振り向いた。
「あ、あと最後にお前らに言っとかなきゃいけないことがある」
「はい何でしょう?」
「今ちょうど使ってない生物準備室って部屋があってな、狭くて汚いんだがちゃんと掃除さえすれば部室として使えるくらいのサイズがあるらしいんだ。どうだ、お前ら使うか?」
それを聞いた睦月と美嶺と都古は目を合わせ、喜びを隠せず「やったぁ!」とハイタッチを交わした。都古は相変わらず不愛想な顔ではあったものの、やってくれただけ成長である。
「失礼しました!」
ガタンッ 勢いよくドアは閉められた。
そしてようやく、待ち望んだ観光部が始まろうとしていた————————
睦月らが職員室を出たちょうどその頃、梶谷の隣で寝ていたあの女教師はようやく目が覚めたようで、重たそうな瞼の底から瞳を見せて眠たい声で梶谷に話し掛けた。
「梶谷先生って本当にお人よしですよね~。わざわざ教頭先生や校長先生に頼み込んでまで事前に部室を用意しておくなんて」
「何のことやらさっぱりですよ、みかげ先生」
梶谷は熱々のコーヒーを一杯、目を瞑りながらそっと口に含んだ。
「あっつ、あっつ!」
「相も変わらず猫舌なのにコーヒーお好きですね~」
「まぁそういう性分なのでね」
ということで放課後、睦月ら観光部一行は梶谷が言っていたその部室へと足を運んだ。場所は東校舎三階と中央校舎の付け根の辺り。彼女らにしてみれば立地はさほど悪くは無かった。
「あれ、こんなところにまず部屋なんてあったんだ」
あまりにもこじんまりとしたドアだったので、普通に学校生活を送っているだけでは気にならないし気付くことのない部屋だろう。
「梶谷先生の話だともう五年は開けてないらしいよ。何やら昔事件があったっていう話で……」
「えっ、何それ七不思議とかそういうやつ?面白そう!」
「睦月ちゃんはそういうの好きだね。蜘蛛とか虫が出ないと良いのだけれど……」
入口の上には薄汚れた「生物準備室」の文字が刻まれていて、あまり使われていない部屋であるというのが外からでも一目で分かる。睦月はオカルトチックな話が好きなので興奮している一方で、大の虫嫌いの美嶺はかなり怯えているようだった。そして都古はというと、ただ何も言わず武士のようにそこに立っていた。
「よし、じゃあ美嶺開けて!」
「う、うん」
美嶺はやはり少しばかり怖がっているように見えた。手は震えて鍵穴に上手く鍵が入らない。一方で目線を都古の方に移すと、彼女も同様に手のひらを握りしめてプルプルと震えていたもので、美嶺がカギを開けるのに戸惑っている間、睦月は囁くようにして訊いた。
「ねぇみゃーこ、もしかしたら中にお化けとか死体とか転がってるかもよ」
「ふ、ふーん、別に怖くなんかないわよ」
「本当は怖いんでしょ」
「そそそそそそ、そんなことないわ‼ ————ってか『みゃーこ』って何よ⁉」
「いやだってさ、これまでずっと『北大路さん』だったでしょ。だけどそれじゃあ親しみにくいし呼びづらいから、『みゃーこ』ってことで」
「ってことでじゃないわよ……私のイメージが崩れるじゃない」
「まぁまぁ大丈夫だよ。美嶺はまだこれからも『北大路さん』って呼ぶみたいだし」
このように北大路都古の呼称が決定したところで、苦戦を強いられていた美嶺は、
「あっ開いたよ」
と声を漏らした。そして当然一番乗りにその部室へと足を踏み入れるのはこの女。
「よっしゃあ。いっちば~ん!」
早坂睦月であった。残る二人は後ろから恐る恐ると入って来た。
「ここって本当に部室なのかな……?」
一方で美嶺はもじもじ手を動かしながら訝しげに言った。睦月も辺りを見回した。
言われてみて気が付いたが、そこは廃墟同然の部屋だった。蜘蛛の巣があちらこちらに見えると思えば、ハエや見たことのない黒い虫の死骸が落ちていたり、ガラスが張られた棚は見事にすべて割られ、『劇薬』と書かれた薬品が散らかった状態で放置されている。さらには生物実験室ということもあり、人体模型や骨格標本、鳥や虫などのはく製も置かれていて気味が悪かった。
「たしかにカビ臭いしお化けとか出てきそうな雰囲気」
梶谷のやつ、もっといい部屋は無かったのか?と心の中では思いつつ、そのお化け屋敷然とした部屋に身体は疼いていた。本心としては好奇心の方が大きかったのだろう。
「あれ、そういえばみゃーこは?」
「それが……その…………」
美嶺はそう呟くと、自身の足元に視線を落とした。
「お化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていないお化けなんていない…………」
蹲りながらガクガクと震えて頭を抱えるその姿、いつもの孤高とした面持ちの都古とは随分とかけ離れていた。都古にもこういう一面があるのかと思いつつ睦月は訊いた。
「もしかしてみゃーこ幽霊苦手?」
「だだだだだから、苦手なわけないだしゃおが‼」
動揺しているのは明らかだった。震えた声と甘噛みが何よりの証拠だろう。おそらく彼女は京都人としては珍しい感情を裏に隠せないタイプである。
「あ、みゃーこ、後ろの人体模型が動いた」
「ひぃ~‼」
ずっとこのままでいてくれれば都古も可愛げがあるのに————。
しかしこの薄気味悪い部屋がずっと部室というのも嫌なので、睦月は一つ提案した。
「まぁでも私としてもこのままじゃ居心地が悪いし、まずは掃除でもしようか」
対する二人の答えはもちろんオーケーで静かに頷いた。
部室掃除は数時間にも及んだ。途中薬品から謎の煙が出てきたり、巨大な蜘蛛が現れて大騒ぎと、てんやわんやの放課後だったが愉快なひと時を過ごせたと思う。
都古は無口寡黙と平常運転であったが、それでも時折見せる怯臆な表情は彼女の奥底の心が映し出しているのだと思った。
「はぁ、やっと終わったぁ~もうヘトヘト」
「三時間も掛けて掃除したからね」
時刻は下校時間の七時をとっくに過ぎていた。達成感に満ちあふれた睦月と美嶺はピカピカになったフローリングの床に泥のように座り込む。
気味の悪かった人体模型と骨格標本は部屋の片隅へと移動させ、鳥や虫のはく製は目立たない棚の下へと置いた。こうして綺麗にしてみると部屋は案外広く、あの汚かった状態では気が付かなかった黒板やカーテン付きの窓がしっかりと見えるようになった。三人で時間をかけてやった分かなりの上出来である。
開けられた窓からは暖かな春の風がスーッと流れ込みシルクのカーテンを靡かせた。
「まぁ今日は帰るとしようか、疲れたし」
「そうだね。————あれ、でもそういえば北大路さんは……?」
「たしかに言われてみれば。人体模型とかかなり怖がってたしもう帰ったのかな?」
「あなたたち!」
後ろから響き渡ったその声に、二人は反射的に振り返った。
「あ、みゃーこ。もう時間だから帰ろうよ」
都古は左手に何かを握りしめ、ドアの向こうに颯爽と立っていた。白く輝く蛍光灯の光が彼女の顔だけを微かに照らしている。
「いいえ、まだ帰らないわよ」
したり顔で話す彼女の表情はやる気に満ちあふれていた。おそらく彼女をとめることは誰もできやしないだろう、本能的にそう覚悟した。
「え、どうして?」
「これから観光部の方針ついて大事な話をするからよ」
「え…………?」
開けられた窓からは暖かな春の風がスーッと流れ込みシルクのカーテンを靡かせた。
「ではさっそく話を始めるわよ。これまで私が積み上げてきた『Tourism』ノートがようやく役に立つ日が来たのね」
その話というのはどうも長引きそうだった。その握りしめたノートから、都古の観光に対する熱い思いがひしひしと伝わってくる。
丹精込めて磨き上げた黒板も、彼女が左手に持っていた白チョークによって堂々と『観光部必修講義』と書かれてしまい、睦月と美嶺は置かれていたパイプ椅子にまるで説教を受けているように座り、都古は黒板の前に教師然とした様子でそこに立っている。
「まず『観光』という言葉は中国の四書五経の数えられる『易経』の一文、『観国之光』が語源であるとされるわ。意味としてはその国の誇れるもの・優れたものを見る、もしくは示すという感じね。さらに観光の英語訳であるツーリズムは『基盤』や『ろくろ』という意味を持つラテン語の『Tornus』から発した『巡回旅行』という意味の『Tour』に『主義・主張』を表す『ism』を付けた————————」
何やら堅苦しい講義が始まってしまったようで、ウィキペディアの長文を読んでいる感覚に近かった。都古自身ははつらつと楽しそうに話しているのだが、睦月の耳には一向に入ってこない。しかし彼女は本当に観光について好きなんだろう。そう思えるほど今の彼女は金星のように美しく輝いて見えた。
しかし聞いているだけで眠くなってしまうのは本当で、睦月は頭の半分を今日の晩ご飯に使うことで気を紛らわせていた。一方で美嶺の方を見てみると、一見真面目そうに聞いては見えるが、彼女も同様に瞼は重くまどろんでいた。
そうして時計の針はゆっくりと過ぎてゆく————————
「まぁ基礎知識としてはこんな感じね」
それを言った時、時計の短針は既に八を指していた。集中力というものはとうの昔に切れており、残された忍耐と根気だけで僅かに意識を保てている状態だ。とにかく腰が痛い。そしてそれは美嶺も等しく、目が合った二人は固唾を呑んでから深く頷いた。
「よし、じゃあ今日はもう遅いし帰ろうかみゃーこ」
「そうだね、夜道は危ないし下校の時間も過ぎてるしね……」
諫める言動は極力ひた隠しにしつつ、あくまで苦笑いをしながら帰ることを促す感じで。これが今の彼女らにできる最高のパフォーマンスだった。
「それもそうね。話したいことはたくさんあるけれど明日にするわ」
案外彼女は話せば分かる人だ。二人はそっと胸を撫で下ろす。しかし……
「でも最後に一つだけ話したいことがあるのだけれど良いかしら?」
これまで彼女が熱心に睦月たちのために話していたところを見ていると、ここで「いいえ、ムリです」とは到底言えなかった。「はい閣下、どうぞ御心のままに」と意気消沈した後ろ姿で恭順する他ないだろう。
「さっきも話したと思うけれど、観光には成功・失敗を分ける要素が大きく三つあるわ。観光部必修講義を受けたあなたたちなら答えられるでしょうね」
分かるはずもなかった。北大路必修講義の八割を聞き流していたのだから。
「え、ええと…………努力・友情・勝利!」
彼女は一言も話さずただじっと眉をひそめながら睨みつけてきた。
おそらくハズレなので睦月は自ら小声で「すいません」と言った。
「じゃあ鷲尾さんは答えられる?」
美嶺も答えられるはずが無かった。急に訊かれたので焦り顔で困った様子だ。
「え、ええと…………持たず・作らず・持ち込ませず……?」
それ、今日公民の時間にやった非核三原則だから! と内心ツッコミを入れながら都古の表情を見てみると、彼女の堪忍袋の緒は明らかにプツンと切れていた。
「あなたたち…………まぁいいわ、また順に今度は噛み砕いて説明していくから」
彼女は近くに置かれていた棒のきれはしを持って黒板の前に立った。
「もう一度言うけれど観光の勝敗を分ける重要な要素は主に三つあるわ。それが黒板に書いてあるこれ、魅力・人・運よ」
「はい、みゃーこに質問!どうしてその三つの要素は重要なの?」
「いい質問ね」
あんたは池上彰か、とここでもツッコミを入れたくなったがとりあえずは我慢した。今度こそ彼女の話を真剣な眼差しで聞くことにした。
「一つ目の『魅力』の要素は理解しやすいと思うけれど、まずどうして人が観光をするのかと問われれば、その地域に観光名所や名産品など、行きたいと思える『魅力』が存在するからよね」
睦月は「うん」と首を振った。
「基本的に観光はこの『魅力』の大小で決定するわ。比較的魅力度の高い京都にはやはりそれなりに観光客は来るし、一方で比較的魅力度の低い泉市にはやはりそれ相応に観光客は来ない。もちろんこの魅力を測るものさしは人によって異なるわけだけれど、観光においては絶対に不可欠な要素ね」
「なるほど~」
「けれど、魅力だけで観光が成り立たないのも分かる?」
その問いに次は美嶺が答えた。
「観光地の清潔を保つ清掃員さんや現地の観光地で魅力をアピールするガイドさん、あとは自治体の職員さんとか、様々な『人』の力が必要ってことですか?」
「そう、その通りよ鷲尾さん。私たちはどうしてもその地域の観光名所や名産品などの『魅力』に目が行きがちだけれど、まず『人』の力無くして観光は始まらないわ。例えるとするなら人は観光という刀を磨く研磨剤。人はその観光の持つ魅力を引き出す力を持っているってワケ」
「ってことは私たちも頑張って故郷の魅力を磨いていけば……?」
「そう、泉市のような観光資源の少ないところでも、努力次第である程度の観光地することはできるわ。現にある村では使われていない空家を古民家に再利用して、観光地化を成功させた事例はあるし、PR動画によって観光客を数十倍に増やした町だってあるわ」
「おお、なんか希望が見えてきた!」
睦月は美嶺を見ながらガッツポーズをした。美嶺もにこやかに笑顔を見せる。
「けれど一つ言っておかなければならないこともあるわ。それは『人』が頑張って魅力を磨いたところで成功の確率はゼロからイチに変わるだけ。『人』がいなければ観光という分野が成り立たないのはたしかだけれど、それでも『人』が観光に及ぼす力はかなり限定的だということは忘れないで」
初めからこのくらい噛み砕いて分かりやすく説明してほしいとも思うが、言える空気ではなかったので黙っておくことにした。彼女の『観光』に対する熱意には並々ならぬ思いがあるのだと感じたので、ここで口を挟むわけにはいかないだろう。
睦月は訊いてみた。
「それじゃあ最後の要素の運ってのは?」
「そのままの意味と言えばそのままの意味ね。どれだけ『人』と『魅力』の揃った観光地であったとしてもメディアなど人の目に触れてもらう機会が無ければ、満足に成果を得られないわけだし、逆にそれこそ人気アニメの聖地や人気ドラマのロケ地ともなれば、どんなに魅力の無い場所でもそこは賑わいを見せる観光地になる。運も大切ってわけね」
「なるほどねぇ」
気付いた時には腕を組みながら感心していた。都古はさらに話し始める。
「こう長々と話したのだけれど、私が一番言いたいのはあなたたちは何を目標にこの観光部で活動していくのかってこと。はっきり言って泉市という範囲だけでは運があったとしても日本一の観光地にするのは厳しいところがあるわ。突然リゾート施設とか世界的遊園地ができないかぎりね」
その言葉に睦月は顔をしかめた。
現実は分かってはいた。泉市が日本一の観光地になるなんてことがどれほど馬鹿げた夢物語であるかなんて、先日食堂で都古に言われた時からすでに分かり切っていた話だった。
しかしだからこそ現実という名の槍は睦月の胸の奥にまで深く突き刺さる。
だからこそ理想を見続けていたいと、そう深く願ってしまうのだ。
だがその夢はもうおしまい。睦月は覚悟を決め、最後の審判の時を静かに待つ。
「けれど、」
都古はそう言った。
「けれど宮城県一位の観光地なら頑張って目指すことはできるわ」
現実的な話、できたとしてもそれが精いっぱいなところだろう。非の打ち所がない彼女の提案は、睦月の夢の死亡診断書であり、理想を断ち切る晩鐘であった。しかしだ、
理性はもう諦めろと語りかけているのに、そんな代替え案を受け入れる心は睦月には決してなかった。耐えられず口を挟む。
「でも宮城県一位は所詮宮城県一位でしょ。私たちが初めに打ち立てた目標は日本一。一度決めた目標をこんな簡単に変えていいものなの⁉」
強い口調でそう言い切ると、彼女は笑って言った。
それも薄ら笑いの悪魔のような不気味顔で。
「誰が目標を変えるって言った?宮城県一位というのはあくまで通過点よ。泉市でその目標が叶わないなら故郷の範囲を広げればいい。つまり宮城県全体で日本一を取ればいいってことよ。そうすれば————」
「日本一の観光地宮城県の中で一番人気の観光地泉市が実質日本一になるということでしょうか……?」
「そう、その通り鷲尾さん。どこぞの和尚が唱える突拍子も無い頓智のような話かもしれないけれど、それが私たちに残された唯一の道よ」
笑顔でそう話す都古。彼女のその表情はこれまでとは異なる、希望に満ち満ちたたいそう嬉しげな表情だった。
そして彼女は二枚の大きな紙を取り出して黒板へと貼り付ける。それは
『地元宮城の行くべき観光地ランキング』
『観光で行きたい都道府県ランキング』
と書かれたポスターだった。
「これは……?」
「私たちがこれから目指す二つの目標よ。日本一の観光地にするなんて漠然とした目標、向かったところでただ迷走するだけだからね。私が前もって考えておいたわ」
「でもみゃーこ、こういうランキングってやっぱり宮城県だと松島とか、全国で言えば京都のような初めから魅力のある地域が選ばれるんじゃ……?」
「ふふ、いつもは能天気なあなたが今日は随分と弱気のようね。これを見なさい」
『地元宮城の行くべき観光地ランキング 一位南三陸町 悲願の一位、復興の想い』
『観光で行きたい都道府県ランキング 一位熊本県 県民・県知事の軌跡』
「この二つのランキングはとある出版社が様々な観点から調査を行ったうえで評価をしているらしいの。それを証拠に去年選ばれたこれらの地域は決して観光資源の多い地域とは言えないわ。しかし現に観光に携わる人々の努力で一位を取っている————」
「つまり私たちの故郷でも一位を取れるチャンスはまだあるってこと……?」
「そう。現状では泉市も宮城県もランキング圏外とはなっているけれど、あなたたちの故郷が日本一の観光地になるチャンスはまだ残っているはず。感謝しなさいよね、昨晩これ調べるの大変だったんだから」
だから今朝職員室で梶谷と話している時、都古は目の下にうっすらとクマができていたのか。ようやくここでそれを知った。
都古は話を続けた。
「当然これでも限りなくゼロに近い目標だわ。他人が見たら何を絵空事をとバカにする人も多いと思う。けれどそんな考えを変えるのは昔から『若者・よそ者・馬鹿者』ってね。私たちは高校生という若者であるし、この部活には私のようなよそ者も入っている。さらには早坂睦月という名前の大馬鹿者のオマケつき。目指さない理由は無いはずよ」
「ちょっ、大馬鹿者って」
都古はそう言って私のことを励ましてくれているのだろうか。それともただ貶しているだけなのだろうか。真相は分からないが、ただ彼女は澄ました顔をしてそこに立っていた。
「で、部長はどうなの?方針はこれで良いワケ?」
答えは既に決まっていた。
「もちろんっ!こういうバカなことにチャレンジするのが私なんだから!」
美嶺も都古も納得した様子で頷き、睦月の差し出した手の甲にそれぞれが手を乗せる。
「じゃあ目標も決まったことだし、明日から目指して頑張るぞー‼」
「お~‼」
開けられた窓からは暖かな春の風がスーッと流れ込みシルクのカーテンを靡かせた。
ちょうどその時、ドンドンとドアを叩く音がして、
「おい何時だと思ってんだ早く下校しなさい!」
と男の怒鳴り声がドアを破って聞こえてきた。
「警備員さんだ、早く逃げよう!」
その夜、彼女らは一目散に校舎を出た。
夜空には三つの大きな星が輝き、細長い三日月が叢雲に隠れながらも足元を照らした。
そして次の日、観光部は創設後初めての休日を迎えることとなった。
集合場所はもちろん生物準備室こと我らが観光部部室である。ちなみに睦月は美嶺と一緒に登校した。
鍵担当の美嶺がドアを開けて、丸一日の部活動がスタートする。二人は入るやいなや昨日座っていたパイプ椅子へと腰かけた。
「あー、昨日は疲れたなぁ」
「私も筋肉痛だよぉ~」
二人は疲れ切っていたためか、どちらも話そうとはしなかった。グラウンドには野球部のバットの金属音やテニス部の掛け声が響いているが、部室にはだらけきった静寂だけが流れていた。
ガチャン ドアの開く音がした。
「お、おはよう」
都古は未だに照れ臭いのか、言葉を詰まらせながらそう言った。
「おはようみゃーこ」
「おはようございます、北大路さん」
「…………………………………………」
「…………………………………………」
「…………………………………………」
外ではちゅんちゅんとスズメが鳴いていた。鳶が空高くを回っている。
数日前までは満開だった桜は新緑を見せて、土色の花壇には柔らかな芽が生えていた。
睦月は飛んでいるハエを目で追って、美嶺は疲れた様子でパイプ椅子に腰かけて、都古は難しそうな本を読んで、それぞれ時間を思い思いに潰していた。
そしてある時、睦月は口を開いた。
「で、観光部って何をすればいいの?」
陸上部が「いちにさんし」と体操をする声、サッカーボールがゴールに入り高らかに鳴る笛、ドリブルとシューズの擦れる音、演劇部の発声練習…………。
この部屋だけ時が止まってしまったかのように、誰も声を出そうとはしなかった。
「え、本当に何もすることない感じ……? ガイドしてみたりとかツアー立てたりだとか、何か観光部っぽいことしないのみゃーこ⁉」
都古は持っていた難しそうな本を置いてから答えた。
「まぁ、もしも手始めに活動するとしたらそれが無難ね。結局今の私たちにできることは、小さな実績を積み重ねて大きな仕事を得ることだから」
「じゃあさ、さっそくウェブサイトとか立ち上げて参加者募ってみようよ!『我ら北高観光部、ツアー企画からボランティアガイドまで何でも承ります』ってさ」
そんな睦月の提案を聞くと、都古はため息を吐きながら言った。
「ったく、そんなすぐに始められるわけ無いでしょう……。いい?ツアーやガイドには何といってもその観光地の知識が必須なの。特に私なんて宮城県のことすらろくに知らないのに、泉市のガイドやツアーを企画できるワケないでしょう」
「そんなぁ~」
言われてみれば彼女は最近宮城にやって来た転校生だった。いつも標準語で話しているので完全にその設定は忘れていた。
「まぁでも何をするにしても普通、始めにすることといえば調べることよ。実際にその観光地に行って調査してみたり、泉市の有識者にインタビューしてみるのが良いかもしれないわ。けれど……」
「けれど……?」
「何も下調べもせずに泉市を歩き回るのはあまりにも非効率だし、アポなしですぐに話を聞けるような有識者なんているはずもないわ」
「え~ってことは今日は始められないってこと? せっかくの土日なのに?」
「とは言われても無理なものは無理ね。もし学校の図書室でも空いていれば話は違ったのだけれど、土日はやっていないらしいし、今日は大人しくこの部室でできることをやるしかないわ……」
「そんなぁ~」
二人が困りきったそんな状況の中、一人美嶺だけは自信がなさそうな様子で、けれど僅かな希望を持ちながら言った。
「そ、それじゃあ、あそこに行くのはどう……ですか?」
「あそこ?」
近未来的な楕円形の屋根は白銀に輝き、青々とした森の自然と見事に調和している。その姿はまさに大会を泳ぐ白鯨そのもので、数度訪れたことのある睦月でも息を呑む。
「ここは……?」
ガラス張りの入口には二重に扉が敷かれていて、体内へ入れば二階まで広がる吹き抜けの天井が広がっていた。
「宮城県図書館、街の皆は県図書って呼んでいる県立図書館です」
美嶺は都古にそう説明した。
「久しぶりだな~県図書。子ども図書館以来かも」
「近くにこんな施設があったのね。良いところじゃない」
土曜日ということもあり来館者は高齢者と受験生を中心に多かったと思う。エスカレーターは決まった時間にしか動かないらしく今の時間は停止いていた。
「でも美嶺、こんなところに来てお目当ての泉市の本なんてあるの?小説とか新書とかが置いてあるイメージなんだけど」
そんな睦月の質問に答えたのは、美嶺ではなく都古であった。
「何言ってるのよ。県の図書館なら必ずあるのが郷土資料室。泉市の資料だって多かれ少なかれ置いてあるはずよ」
嫌味っぽくも聞こえる都古の返答の後、髪で左目が隠れた美嶺は小声で言った。
「みやぎ資料室は一番奥にあるから、まずはそこへ行ってみよう」
一般図書と呼ばれるだだっ広い空間を抜けて、テラス脇の短い廊下を通ると、そのこじんまりとした資料室は見えてくる。
「着いたよ」
美嶺は手を前にさし出した。
本棚には夥しい量の分厚い本が並べられ、奥には地図が収納された棚が置かれていた。カウンターには二人ほどの司書さんがいて黙々と仕事をしていた。
見渡してみればいくつかのテーブルと椅子が置かれてはいるのだが、一般図書と比べて人はあまりいなかった。どうやら故郷に関心がある人はあまりいないらしい。心なしかそう思った。
「資料はかなりあるみたいだし、これなら泉市も満足に調べられそうね」
「さすが私の美嶺! 期待通り!」
「どうしてあんたが偉そうなのよ……」
「ここの本は借りられないから、席に座って読むしかないみたい。私、受付で席借りてくるから、北大路さんと睦月ちゃんは本を探していいよ」
「よし、じゃあさっそく調べるとしよう!」
本を探すといえど探し方に個性というものは現れるようで、睦月は歩きながら闇雲に、都古はパソコンで検索してから確実に、美嶺は案内図を見ながら順番に、とそれぞれ思い思いに本を探していた。
そうして数十分、睦月は言った。
「ええっと……泉市に関わる本はこんなもん……なのかな?」
『泉ヶ岳のレジャー』『食べ歩き泉』『行ってみよう泉』『泉観光パンフレット』
四つの本は無造作にテーブルに置かれ、その場に立っている三人はじっとその四つの本を俯瞰して眺めていた。
「ねぇ、本当にこれしかないの?」
口を開いたのはまた睦月だった。これに対して都古は苦い顔をして言った。
「これしかないのって、あなた一つも見つけて来なかったじゃない」
「んなこと言ったって無いものは無いんだもん。みゃーこだってこのパンフレット一枚でしょ。ほとんど美嶺の手柄じゃん!」
「ゼロよりは断然マシよ! 掛けても割ってもゼロのやつに言われたくないわ!」
「なにぃ!」
火花を散らす二人に美嶺は声を出す。今にも消えそうな微かな声ではあるが……
「ちょ、ちょっと、二人ともここは図書館だよ~」
だがしかし彼女の言葉など今の二人には届くはずもなかった。
「みゃーこのバーカ!このいかれポンチ!」
煽りのレベルは最底辺の小学生レベルだったが、そんな小学生レベルの煽りに乗るのが都古である。彼女は拳を握り締めながら額の血管を浮き立たせ怒鳴り散らした。
「やかましいやっちゃな!さっきからしゃっちもないことばっか言いおって!たいがいにしいや、いつかアホみるで!」
「きょ、京都弁……?」
はっきり言って睦月には本場の京都弁は理解できなかったのだが、頭に血が上った彼女はここで引き下がるわけにもいかず、指を差しながら怒鳴り返した。
「し、しずねぇ!ごしばらやげる野郎が。わげわがんねぇことばっが言ってっどおめぇのこと、しょっぴどぐど‼」
「……………………?」
「……………………?」
二人は互いに相手の怒りの内容が分からず困惑していた。腕を組んで首を傾げる。
「と、とにかくこれしか本が無いのだから読むしかないわよ……」
「そ、そうだね……」
そしていつの間にか仲直りをしていた。美嶺が一番困惑した表情でこちらをガクガク震えながら見つめていたのは言うまでもないだろう。
「それにしても泉市の観光に関する本がこれだけって、どれだけ私らの街って魅力無いんだ……?」
「まぁ普通どこの市町村も大概そんなものよ。泉市にかぎった話じゃないわ。それよりも重要なのは数よりも質。たとえ誇れる観光地が一か所だけであっても、その観光地に魅力が詰まっていれば人は遠くからでもやって来るものよ」
「なるほど、じゃあ手分けして読んで書いてある観光地や名産品をまとめてみようか」
「そうね」
「そうだね」
おおよそ作業は二時間、文字に弱い睦月は途中何度も眠気に襲われたが、その度に後ろから都古の叱咤のお言葉を貰い受けた。一方で美嶺は割り振られた二冊の本は既に全て読み終えて、いつの間にか他の本に目を移していた。
「まぁこんなところね」
睦月が持ってきたノートには箇条書きでいくつか観光地が書かれていた。滝やら商店街やら神社やらと、大小様々ではあるものの、それでも泉市が誇る魅力がそこには記されている。
「これといった名産品こそ無かったけれど、案外観光地は多いじゃん。もっと少ないもんかと思ってた」
「たしかに量としては多いけれど…………」
美嶺は呟くと視線をノートへと落とし、箇条書きで記された観光地をそっと眺めた。
「でもやっぱり史跡とか神社とか、そういうのが多くなっちゃうね…………」
言われてみればたしかにそうかもしれない。一瞥しただけでも四つぐらいは○○神社と目に入るぐらい多かった。それもどれも似たような…………。
「まぁそれは考えても仕方がないことよ。受け入れて次のステップへ進むしかないわ」
都古はそう言うと目線を顔の高さまで持ち上げた。
「それでみゃーこ、このまとめたノートでこれから何するの?」
「そうね、朝部室でも言ったように、実際に観光地へ足を運んでみるというのはどうかしら?」
「実際に足を運ぶ?」
「ええ、たしかにこうして本を通じて調べてきたワケだけれど、これらの本は年代もかなり古いものばかりだし、そもそも観光というのは本来五感を使って楽しむもの。実際に足を運ばなければ分からないことはたくさんあるし、行くことで何か新しい発見を得られるかもしれないわ。だから実際に足を運ぶということは非常に大切なことなの」
「そうなんだ。じゃあさっそく行こうか」
睦月は席を立とうとした。だが都古は「待って!」と言って彼女の足を止める。
「無計画で行くものほど非効率的なことは無いわって、似たようなこと朝にも言ったわよね……。いい?今日はしっかりと計画を立てて明日行きましょう」
「えーそんなぁ~!」
いつも感覚だけで突っ走る睦月にしてみれば、その計画という作業は億劫でじれったい作業であった。泉市の地図を広げて線を結んでいく作業、本音を言えば退屈だった。しかし都古はそれは楽しそうな様子で計画を立てている。
睦月は小声で呟いた。
「やっぱりみゃーこ、入ってくれてよかった」
「ん、何か言った?」
「ううん、何でもない」
時間はあっという間に過ぎて夕方を迎えた。昨日の掃除の疲れもあってか、睦月と美嶺の二人はヘトヘトになりながらオレンジ色の空の下に顔を出す。
「では明日は泉市役所前集合で、二人とも遅れないように。特にあなたは……」
ジト目で睨みつけられた睦月は背筋をビクンと動かした。
「わ、分かってるよ~。美嶺もいることだし大丈夫!」
「本当でしょうね……。では私はこれで失礼するわ」
「バイバイみゃーこ」
「さようなら、北大路さん」
都古は自転車に乗って坂を駆け下りていった。
「じゃあ私たちも帰ろうか。明日も早いことだし」
「そうだね」
泉ヶ岳の中腹に真っ赤な太陽が今まさに落ちようとしていたちょうどその頃、二人は自転車を押しながら歩いていく。街路樹はさーさーと音を立て、遠いカラスの鳴き声はどこからともなく聞こえてきた。
ふと、睦月は口を開いた。
「昨日今日とみゃーこと関わって思ったけど、みゃーこって本当に観光について詳しかったんだね」
この言葉は、想像を超える彼女の観光に対する熱意から生まれたものだろう。言い換えればストイックさと表しても良いかもしれない。彼女にはそれがあった。
「思ったことは何でも言ってくれるし、観光部には必要不可欠な人かもね」
美嶺は笑みを浮かべながらそう返したものの、睦月の心の中には他に痞えのような違和感も残っていた。
「うん…………。でもみゃーこってどうして観光部に入ってくれたんだろう。はじめはあんなに嫌がってたのにさ。不思議じゃない?」
都古が観光部一員として頑張る姿を見ている時、睦月はいつもあの言葉が引っ掛かっていた。
『観光地観光地観光地って、私そういう京都を貪る連中大嫌いだから‼』
どのような想いで彼女は観光部に入部してくれたのか、なぜ彼女は観光について詳しいのか、どうして彼女は————————。
「何か、言えない事情でもあるのかな」
いまひとつ理屈だけでは説明できない『何か』がそこにはあった。その『何か』が睦月の歯痒さの原因であり、それが睦月の思う違和感の正体なのだ。
「…………」
知らないうちに睦月は眉を寄せて黙り込んでいた。
「睦月ちゃん、睦月ちゃん……?」
そんな思い悩んだ表情を見てか、美嶺はそっと話し掛ける。
夕焼け色に染まった彼女を、睦月はいつの間にか夢中になって眺めていたのだ。
「いつか言ってくれるその時まで、待ってあげても良いんじゃないかな。だって睦月ちゃんにとって北大路さんは、同じ目標へ進む大切な仲間でしょう」
その美嶺の言葉には深く頷ける力があった。
たしかにそうだ。そうかもしれない。
もう少し、待ってあげても良いかもしれない。
もう少し、信じても良いかもしれない。
もう少し、時間をかけてゆっくりと。
もう少しだけ美嶺のことも…………
そう思った睦月は美嶺に言った。
「美嶺、美嶺も欠かせない大切な仲間の一人だよ」
美嶺は頬を上げながら静かに頷いて、また自転車を押しながら二人寄り添って歩き始める。
オレンジ色の太陽は緩やかに泉ヶ岳へと落ちていった。
【教えて!キジえもん!! 第四回】
「やぁみんな、おばんですぅ~!またまた教えてキジえもんのコーナーだよ。総支配人を務めるのはこの僕、泉市非公式キャラクターのキジえもんだよ~よろしくねぇ!」
「ということで第四回はコォチラ!!」
『宮城県図書館!!(パフパフ!)』
「宮城県図書館は宮城県が誇る東北最大級の図書館だよ。外見は銀色で近未来的な造りをしているんだけど、森のすぐそばに建てられていて自然も豊かなんだ。まぁキジえもんは本読まないからそんな興味は無いんだけどね~」
「それよりも『花より団子、本より飯』ということわざもあるように(ありません)、僕は館内にあるカフェの方が好きかな~!どの料理もシャレオツで美味しんだ。ま、あくまで僕の意見だけどね!」
「そんなこと話してたらお腹減ってきちゃったよ~ってことで今回はこのくらいにして飯でも行こうか。ほんでまずさようなら!」