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ようこそ私の故郷へ  作者: 早宮 翠星
ふるさと泉編
2/9

第二話 ナメんなよ パート1

【主な人物紹介(観光部部員)】


早坂はやさか 睦月むつき高校2年生〕

明るく元気な普通の女子高校生。行動力は人一倍あるが向こう見ずな性格のため失敗も多い。幼馴染の美嶺とは昔からの親友。


鷲尾わしお 美嶺みれい高校2年生〕

穏やかで少しだけ物静かな普通の女子高生。色白の美人で男子からの人気も高いが、ネガティブで自信が無いため気づいていない。幼馴染の睦月とは昔からの親友。


北大路きたおおじ 都古みやこ高校2年生〕

京都からやって来た美人転校生。観光への思いは人一倍強いらしく少々意地っ張り。けれど努力家で観光に関する本を練る間も惜しまず読み漁っている。


〔その他)


梶谷かじたに 五郎ごろう理科(生物)教師・睦月らのクラス担任〕

〔吾妻 みかげ(あずま みかげ)国語教師〕

早坂はやさか 弥生やよい睦月の姉・生徒会長〕

〔嶋 あずさ(しま あずさ)弥生の親友・生徒会副会長〕

第二話 ナメんなよ パート1


「どうしてダメなんですか⁉」

朝の職員室にそんな言葉が響いたのは、あの松森城で高らかに宣言した日の次の日のことだった。声を発したのはもちろん、この物語の主人公早坂睦月である。

「だから早坂、さっきも言ったろう。部員は最低でも五人から。三人だけじゃ立てられないんだって」

終始気だるげな様子で話す彼の名は梶谷。睦月の担任である。やる気のない姿は相変わらずのことで、理系教師のためかいつも白衣を着ている。

「でも自然科学部とか百人一首研究部とかは三人しかいませんよ?」

「早坂、本当にお前は人の話を聞かないな。五人揃えなければいけないのは部の創設時のみだ。自然科学部だって百人一首研究部だって元々は五人はいたはずだぞ」

「五人って、集まりそうで集まらないような……」

「分かったならさっさと行って出直して来い」

「いやでも、私たちこんなにやる気があるんですよ!昨日だって松森城見たし……。そんな生徒の意欲ある気持ちを、あたかも道端に生えた雑草同然に踏みにじるなんて……」

睦月としては完璧な嘘泣きだった。声のトーン、目の濡れ具合、低いテンションどれを取っても一級品だった。これならばあのやる気のない梶谷ぐらい簡単に騙されて靡いてくれるはずだ。と、この時の睦月はそう楽観的に思っていた。

一方で当の本人梶谷は後ろ髪を掻きながらこれまた怠そうに話す。

「るせぇなぁ。そんな分かりやすい嘘泣きされて騙される奴がいるか」

「えっ⁉バレてたの!」

睦月は片足を後ろに一歩下げ、目を見開きながら驚いた。「無気力」という言葉が最も似合う梶谷の教員としての能力を低く見過ぎていたのかもしれない。睦月は心の中で猛省した。

梶谷は一度「はぁ」ため息をついてから話し始める。

「たりめぇだ。お前の嘘はすぐに分かる。それより部員メンバーのところに『北大路都古』って書いてあるが、お前ちゃんと本人に許可は貰ったのか? 昨日の様子を見ている限りそうは思えねぇが」

「え、えぇと……」

尋常じゃない汗が穴という穴から出てくる。そんな今の睦月が誤魔化せるはずもなく、梶谷はまたため息を吐いて言った。

「はぁ、じゃあ見つけるのは三人だな。分かったならさっさと教室に戻れ」

しっしっと手の甲を向けて追い払われた睦月と美嶺は職員室を出るために足を進めた。だがその道中、梶谷の呼び止める声が聞こえたので、二人は足を止め梶谷の方を振り返ることにした。

「あ、あと今日は北大路休むみたいだから誘うなら明日だな」

「え~そんなぁ~!」

「おい、疲れて寝てる先生もいるんだから静かに戻れ」

梶谷に言われると睦月たちは追い出されるような形で職員室を出た。そもそも勤務中に寝てる教師はいかがなものかと思いつつ、教育現場の悲惨な現状を知ってしまったような気がした。


教室に帰る途中、睦月と美嶺は話をしていた。話の中身はもちろん昨日勢いで決めた観光部について。コツコツと廊下には音が鳴り響いていた。

「もう。さっそく始めようと思ったのに梶谷のヤツ、だからいつまでたっても学年主任を任せられないんだよ」

「仕方ないよ。ちゃんと創設の規定を見てなかった私たちが悪いわけだし。それよりもどうして昨日はあんなに嫌がってた北大路さんを入れようと? 怖い人だって噂でも聞くし……」

「嫌がってはいないよ。ただ苦手だっただけ」

「それを嫌がるっていうんじゃ……」

「まぁそれはそうかもしれないけど、でも————————」

睦月はガラガラっと廊下の窓を開けた。暖かい春の微風がふわっと舞い上がり二人の髪を緩やかに靡かせた。睦月は言った。吹き荒れる風と共に。

「北大路さんとなら私たちの故郷を変えられるって、今は何となくそう思えるんだ」

美嶺は静かに訊いた。

「それってやっぱりあのノートを見たから?」


『私が故郷を変えてやるんだ‼』


「うんその通り。彼女にどんな背景があるのかは全然知らないけど、あの言葉には嘘はないと思ったんだ。だから私たちも気持ちを見せて頼んだら必ずオーケーって言ってくれるはずだよ!」

「ちょっと強引なような気もするけど……。それじゃあどうして観光部なの?他にも故郷を変える手段はいっぱいあると思うけれど……」

「うーん…………」

 深々と考える睦月の頭は段々重力に負けて落ちて言った。そしてある瞬間、まるで水が湧き出るように言葉は口から飛び出した。

「そこは勘!」

意気揚々とそう言い放つ睦月に美嶺は俄然肩を落とした。

だが睦月は話を続ける。

「まぁ、たしかにあの時は勢いで言っちゃったかもしれないけど。それにね、昨日のノートの表紙に書いてた『Tourism』って言葉スマホで調べてみたら、あれって『観光学』って意味なんだって。これって運命じゃない?」

「運命ね。はははは、睦月ちゃんらしいや」

その「睦月らしさ」というのは当の本人には伝わりづらいもので、睦月は首を傾げてそれを聞き流していた。美嶺は笑顔で言っていたので、きっと悪い意味ではないのだろう。それだけで睦月は良かった。

「でも、北大路さんを揃えたとしても二人足らないよ。それはどうするの……?」

「フッフッフ、そこは安心してくれ美嶺。こういう不測の事態を備えて、実はもうすでに目星をつけている人がいるのだよ」

「本当に?」

「うん、目指すは一階の教室なり~!」


結局朝は時間が無かったため昼休み。二人は階段を一つ下って一階へ向かった。

睦月らが通うこの仙台北高校は三階が一年生、二階が二年生、そして一階が三年生と学年が上がるごとに階数が下がる仕組みになっている。つまりここは三年生の階。上級生の教室である。

「ねぇ睦月ちゃん、やっぱり戻らない?」

美嶺は足をびくびくと震わせ、怖がるウサギのように怯えながら言った。

「どうして?」

「どうしてってやっぱり怖いよ、三年生の教室は。さっきから先輩にジロジロ見られてる気がするしさ」

「大丈夫だよ、気のせいだって。美嶺は人目気にしすぎなんだって」

「そ、そうかな……?」

励ますようには言ったものの、実際に美嶺に関しては、三年男子生徒からの視線は熱かったような気がする。風の噂によると彼女は学年を超えた人気があるそうな……。

そんなこんなで、とりとめのない話をしていると、突然後ろから

「あれ、もしかして睦月ちゃんと美嶺ちゃん?」

と聞き馴染みのある声がした。

睦月と美嶺は後ろを振り向いて

「あっ、嶋先輩!」

「あずさ先輩お久しぶりです」

とそれぞれ言った。

「やぁ久しぶり。二人とも元気にしてた?」

「うんっ」

「はい」

彼女の名前は嶋あずさ。高校三年生。睦月と美嶺が幼いころからよく遊んでくれていた近所の面倒見が良いお姉さん。成績も優秀で運動神経も抜群、その上生徒会副会長も務めている優等生のため、二人が最も尊敬する憧れの先輩の一人でもある。

「ところで二人は何の用?三年生の教室に来るなんて珍しいね」

「はい、実は嶋先輩と弥生姉に話したいことがあって」

「私と弥生?分かった。ちょっと呼んでくるから待っててね」

 そう話すと嶋先輩は一組の教室に入って行った。

「ねぇ睦月ちゃん。もしかして目星をつけてる人って……」

何かを察したかのように美嶺は話し掛けてきた。彼女の予感は当たっているだろう。そう思った睦月は首をこくりと頷かせて言葉を返した。

「そうだよ。嶋先輩と弥生姉だったら絶対に入部してくれるからね。本当はその気はなかったんだけど、まぁこの際だし仕方ないよね」

「いや、でも嶋先輩も弥生さんも受験生でしょ……?誘ってもいいの?」

「うん、たぶん大丈夫だと思うよ。嶋先輩は推薦だし弥生姉は訊いてないけどたぶん大丈夫だと思う」

楽天的な笑顔を見せながら話す睦月を見たためか、美嶺は「はぁ」とため息を吐いて頭を抱えていた。一方でその様子を見ていた睦月はなぜ彼女が頭を抱えたのか分かっていなかった。

ガララララ 扉が開いて最初に出てきたのは弥生姉だった。嶋先輩は後ろに控える形で立っていた。睦月は今朝早く家を出ていたので、弥生姉と会うのは今日初めてということになる。手始めに「やっほー弥生姉」と声を掛け、美嶺はその後ろで軽く会釈をして早坂姉妹水入らずの会話が始まる。

「で、用事って何?」

生真面目でしっかり者の弥生姉はそっけなく訊いてきた。どうやら昼休み中も欠かさず勉強をしているらしく、片手には英単語帳を持っていた。

「実は私と美嶺でこれから部活を作りたいんだけど、どうしても人が集まらなくて、弥生姉と嶋先輩にも参加してくれないかなって思って」

「部活?何か運動部でも作るの?」

「うんっ。観光部っていう部活」

「観光部?」

「そう。泉とか宮城とか、私たちの故郷の魅力を世界に発信していく部活だよ。名前だけでも良いから貸して欲しいんだ」

そう話すと、弥生姉は相変わらずの冷たい声で

「へぇ、そんなのやってるのね」

と言った。一方の嶋先輩はにこやかで温かい笑顔を見せながら

「睦月ちゃんたち面白そうなことやってるんだね~。私はバイトも生徒会もあるから行けないけど名前だけなら貸すよ」

と言ってくれた。

「ありがとう嶋先輩!」

何にでも前向きな嶋先輩がこう言ってくれるのは予想通りだった。これまでも誘いを断られたことは一度も無い気がする。

問題は弥生姉だ。弥生姉の薄味な反応は今日に限った話ではなくいつもこれだ。だがしかし今回はとりわけ薄かったような気がする。興味はすでに失っているようで、単語帳にばかり目を向けていたので、追い込まれた睦月としては、足幅一歩の険しい稜線を歩いている気分だった。

「それで……弥生姉はどう?」

恐る恐る睦月が訪ねると、案外返答はあっけなく返ってきた。冷たそうな目つきを睦月に向けて笑顔を作りながら言うのだ。

「いいよ、名前だけなら貸してあげる」

「えっ?」

予想外の返事が耳に入った睦月は呆気に取られていた。口を開けたままぽかんとしている。美嶺もそうだ。声にならない声を放ち、口を押えて驚いているようだった。

「何?私が断るとでも思ったの?」

「えははは、まぁははは」

睦月のにたにたした笑顔は正直気持ち悪かったと思う。誤魔化すのが下手なので頭を掻きながらそうするしか他になかったのだ。そういう睦月の様子を見てか、弥生姉はため息を吐いてから彼女を諭すように話し始めた。

「睦月、観光部作るのは勝手だし止めはしないけど、美嶺ちゃんとか他人に迷惑をかけるようなことはしないようにね」

「分かってるよ」

「美嶺ちゃんも嫌になったらすぐに辞めていいからね」

「あ、えっと…………」

美嶺はどう返すのが正解なのか戸惑っているように見えた。

「ちょっと弥生姉、それどういう意味?」

「そのまんまの意味よ。あんたは人に迷惑をかけることしかしないからね」

「むっ、弥生姉だってよくその不愛想な顔と強い口調で人を怖がらせてるじゃん」

「こ、これは仕方ないことじゃない。生まれつきよ!」

「あははは、相変わらずここの姉妹喧嘩は見てて面白いな~」

嶋先輩は喜んでいるように見えた。ある意味で彼女も少し変人気質なところがあるのかもしれない。


一通りの話を終え、入部届にも名前を書いてもらった睦月と美嶺は教室へと戻って行く。睦月は両手を頭の後ろに組ませながら、美嶺は入部手続きに関する用紙を持ちながら両手を前に組んでいた。

「弥生さんって一つ学年が上なこともあって少し怖い時もあるけれど、いつも睦月ちゃんのことを一番に考えてる良いお姉さんだよね」

珍しく最初に口を開いたのは美嶺の方だった。

「そうかぁ。それだったら最後にあんなこと言わないと思うけど」

頬を膨らませながら言う睦月は傍から見ればフグ同然の顔だっただろう。美嶺はそれを見てか笑いながら言った。

「あははは、絶対そうだよ。だってさ————あっ、いや何でもない」

「え、何?その話気になっちゃうじゃん」

「また今度話すね」

美嶺はすたすたと睦月の前を歩いていた。

睦月は彼女のはにかんだ笑顔に数秒見惚れていた。

 

その日、観光部がそれ以上活動することは無かった。六時間の授業を終えた睦月はいつものように美嶺とともに家へと帰り、色々と済ませた後ベッドで一休みをした。

身内に名前を書かせたとはいえ、ともかく必要最低限の四人は揃った。そして残るはあと一人、扇を広げたように滴り落ちる髪を揺らし、颯爽と現れる純白の大和撫子。北大路都古こそ、この観光部設立のカギであり扉である。睦月には作戦という作戦は無かったが、なぜか彼女を入部させることができるという自信だけはあった。

ピッ

『住まい探しなら宮城不動産で検索!住みたい家が必ず見つかる』

ピッ

『見てください。六甲から眺めるこの神戸の街並み!綺麗ですねぇ~』

ピッ

『宮城県明日の天気は晴れ時々曇り。夜には東の空に流れ星が見えるかもしれません』

ピッ

『なんでそうなるねん。そりゃあちゃうやろ』


睦月は呟いた。


「私たちの故郷を感じられるところってどこだろう……」


普段は勉強机になど向き合わない睦月は、今日この日だけその机と向き合った。

片手にはシャーペン、片手にはスマートフォンを持ちながら。






【教えて!キジえもん!! 第二回】

「やぁみんな、おばんですぅ~!教えてキジえもんのコーナーだよ。総支配人を務めるのはこの僕、泉市非公式キャラクターのキジえもんだよ~よろしくねぇ!」

「ということで今回は第二回だからね、またまた解説をしていくよ。今回のお話はコォチラ!!」

『泉市の歴史について~!!(パフパフ!)』

「泉市ってのはもともと泉村という名前で、その泉村は大きく分けて二つの村が合併してできたんだ。それが今でも田園風景の残っている西側の根白石村と、今では中心街となっている東の七北田村。どちらもそれぞれ特色があって面白い場所となっているよ」

「え?じゃあどうして合併するときに『泉』って名前が付いたのかって?それはね、僕たち泉市民が崇拝してやまない山が関係あるんだ」

「ちょっとそこの君、今のところ『山』と『やまない』で笑うところ。え?つまらないって?あとお前プール裏来いな」

「まぁいいや。とにかくその山がコォチラ!!」

『い~ず~み~が~た~け~(泉ヶ岳)』

「泉ヶ岳は泉市でも西の端っこの方に位置するまぁまぁ大きな山なんだけど、ここには二つの村に流れる川の源流があってねぇ。古くから信仰の対象として大切にされていたんだ。だから合併の時もそんな二つの村の象徴である泉ヶ岳の『泉』を取って泉村にしたんだって。面白いねぇ!」

「おっとっと、カンペ出すディレクターが見えないことを良いことに『早く終わらせろ』ってせかしてきやがる。これ以上話しちゃうとキジえもんの首が飛んじゃうから今回はこのくらいで。ほんでまずさようなら!」

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