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第9話

拠点フェイズ書き上げたらのりでこちらまで書けちゃった。


相変わらず会話主体のグダグダ展開だけど許してね?


しかしあれだけ動かなかった華雄が綺麗にうごいてくれたな~。

-袁紹軍 大天幕


「それでは…反董卓連合軍、

盟主は袁紹殿で決定で宜しいですな?」


俺は再確認の意味を込めて一同に話を振る。


「良いんじゃないか~」


そっぽを向いて馬超。


「私はそれで構わないぞ」


どうでもよさそうに公孫賛。


「良いんじゃな~い?」


興味無さそうにしているが絶対心の中では冷笑している孫策。


「順当と言った所かしら…」


仕方がないという風な華琳。


「…仕方ないのじゃ」


下唇を噛みながら悔しそうに袁術。


結論から言うと、

俺の仕込みは9割方成功している。


袁紹は煽てれば扱いやすい事この上ないし、

袁術以外の者には協力を約束してもらっているから話はとんとん拍子に進む、

袁術も他の軍の主達が賛成しているのに主家に刃向かうような事はしないようだ。


「ならば盟主は袁紹殿で決まりですな」


そこで気持ち振り返り気味に袁紹を見る。


「お~ほっほっほっ♪

皆さまがそこまで言って下さるのならば、

この、袁本初!名家として!その大役謹んで承ろうでは御座いません事!

お~ほっほっほっ♪」


全然謹んで無いとは思うが…。


後、ウザイ。


「それでは問題無ければ、

シ水関の攻略に関しての議題に移りたいと思いますが?」


一応名前だけとは言え盟主-実際盟主の言う事を聞く軍がどれだけいるか-である袁紹にお伺いをたてる。


「ええ、構わなくってよ♪」


盟主になるってそんなに嬉しいか?


「それでは便宜上私が説明させていただきます…」


話の流れからいってかなり自然にアドバンテージをとる。


(このまま先鋒を任されればミッションコンプリート!)


心の中で次の掛け合いまで予想して、

最終的な落としどころを策定。


後はそれに沿って発言するだけという時にそれは起きた…。


「只今全体会議中につきお通し出来ません!?」


「それはわかっている!

だがこのままでは徒に時が経つだけなのだ!

せめて桃香さまだけでも…」


何か入口の方が騒がしい。


しかも聞き覚えのある真名が…。


「あの〜…」


入口の所に予想通りの娘が、


「桃香!?」


公孫賛が驚きの声をあげれば、


「何なのです!

この会議は主要軍の主のみが出席出来る高貴な会議なのですよ!」


袁紹は自慢とも注意とも取れる微妙な事を叫ぶ。


「すいません!」


劉備がまずは頭を下げる。


「でも、もうこの地に着いてからかなりの時が経ちました…。

このままでは駄目だと思うんです!

洛陽の民の為にも一刻も早い決議をお願いします!」


民の事を想っているのがありありとわかる発言、

そして更に深く頭を下げる劉備。


(……なんてこったい…)


「そんな事は私達も十分に承知していますわ!」


まあ聞き方によってはサボってたように聞こえないでもないが、

曲解し過ぎだと思う。


「…そこまで言うのでしたら…」


(マズい!それはマズいって!)


「この連合軍盟主たる袁本初が命令します!

あなたの軍をシ水関戦の先鋒に命じます!」


(終わた……終わったよ…。

俺の2日間の根回しの結果がこれかい…)


「え!?でも私達の軍は…」


「言い訳は結構ですわ!

連合軍盟主たるわ・た・く・し!が、

あなたに命令、間違えないでいただきたいのですけど命令ですことよ?

お願いしているわけではないのですからね!」


不安そうな顔で何かを言おうとした劉備を遮って、

袁紹はキンキン声でまくしたてる。


(んな声出さないでも……じゃなくて!)


あまりの気の落ち込みに、

取り留めのない思考に陥ってしまったが、

今はそんな時ではないだろう。


(今は一刻も早い事態の収拾が寛容…ここは仕方がないか)


「袁紹殿、発言しても宜しいか?」


「何ですの!命令を覆せと言う諫言なら聞きません事よ!」


だから興奮し過ぎだってばよ、

隣の顔良がピヨり始めてんぞ。


「いやいや、盟主たる袁紹殿の命令を覆すなんて恐れ多い」


「…そうでしょうともそうでありましょうとも、

お〜ほっほっほっ♪」


高笑いしないと話せんのか君は。


「ですが正直劉備軍をそのまま先鋒にするのは如何なものかと…」


「何故ですの?」


「それは劉備軍の規模に問題があります。

この連合軍中で最小級規模の劉備軍にそのまま先鋒を任せれば、

場合によっては盟主たる袁紹殿の指揮能力の欠如、

または冷酷無比と言う悪い風評がたつでしょう」


「それは…マズいですわね…」


食い付いた食い付いた。


「ですから袁紹殿、

そんな事を言われないように偉大で!規模の大きい!名家たる!袁紹殿!…」


区切って誉める度袁紹の耳と言わず胸と言わず、

ピクリピクリと反応する。


「…の軍から少し兵糧と兵を分け与えてはどうでしょう?」


「お〜ほっほっほっ♪

あなたは随分わかってらっしゃるようではありません事♪」


予想通り簡単に操れるな袁紹は。


「そうですわね…偉大で!規模の大きい!名家たる!私の軍!

ならば、少し位の兵を貸し与える事など雑作もありません事よ♪」


フレーズが気に入ったのか俺の言葉を繰り返す袁紹。


「それでいかほど必要なのです?」


「そうだな…兵5,000に兵糧1ヶ月分位?」


ケロリとかなりの規模の数字を出す。


「5、5,000!?それは流石に…」


「偉大な!規模の大きい!名家たる!袁紹殿!の軍ならば容易いでしょう?」


に・が・さ・ん!


「お、お〜ほっほっほっ♪

当然ではありません事!宜しいでしょう。

兵5,000!兵糧1ヶ月分!どちらも唸る程ある中の一部でしかないのですからね!」


「お〜流石は袁紹殿!寛大な御采配に感謝致します…」


これで劉備軍も少しは格好もつくだろう。


「あのあのあの…」


劉備が何かを言おうとしているが、


(今は黙ってなさい!)


眼力のみで黙らせる。


「あうぅ〜…」


「それでは細かい事は顔良殿と詰めておきますので…。

本日の議題は以上ですかね?」


もう煽てるのもいい加減面倒臭いので、

会議の収拾に向かう。


「そうですわね…宜しいんではなくて?」


鷹揚に頷く袁紹。


「他に発言する方はいらっしゃいませんか?」


一同を見回し確認する。


「「「「………」」」」


「それでは本日の会議は終了としますわ。

軍律等は後程伝令に届けさせます。

それでは皆さん!盟主であるこの私!の名を、

貶める事のないよう奮起なさい!

お〜ほっほっほっ♪」


最後までこれかい!


それでも袁紹の終了宣言を皮切りに、

皆は三々五々散って行く。


おれも華琳について天幕から出ると、


「あの〜隼人さん?」


憎可愛い−としか言えない−劉備が声をかけてくる。


「…劉備殿、何か用かな?」


心持ち冷たい声になるのは仕方無いと思うが、


「神北殿!弱小とはいえ桃香さまは…」


「愛紗ちゃん私はいいから〜」


そんなこちらの内情を知らないなら関羽が怒るのもまた仕方無し。


「申し訳なかった…。

改めて用件を聞かせていただこう」


素直に謝罪して先を促す。


「いえいえ!?そんなに改まらないで下さいよ〜」


本当にこの娘は癒し系だな。


俺の2日ががりの仕込みをおじゃんにされたというに、

話をしていると怒りを持続させるのが困難だ。


「わかった…なら劉備ちゃんが俺に何の用かな?」


「はい♪まずは先程のお話の中で助けていただいてありがとうって事です♪」


ニコニコと心からの感謝の気持ちが窺える。


「どういたしまして。

まあ義理とはいえ弟の軍がなぶられるのを、

黙って見ているのもなんだしね」


本音は劉備軍には早めに潰れてもらった方が後々良いのだが、

華琳の手前何も言えないしやらない。


「そんな、本当に感謝しています。

それとお話にありましたけど、

御主人様の義兄さまに御挨拶をと思って」


「こいつは御丁寧に…。

そうだ、一刀に会いたいんだが面会出来るかな?」


「勿論大丈夫ですよ♪

御主人様も喜ぶと思います♪」


癒されるな〜。


「と、いう事で華琳、

行ってきて良いか?」


そこで話に入って来なかった華琳にお伺いをたてる。


「…だからあなたのは聞いているのではなく確認でしょう!」


怒られた!


「まあ良いわ…桂花に伝言はあるかしら?

特別に聞いてあげるわよ♪」


出来れば振ってほしくない話題を、


「…は〜…気持ちだけいただくよ。

今回は言い訳のしようもないから、

素直に桂花の嫌みを聞く事にする」


な〜、先鋒を念頭にとお願いしたのは俺だからな。


「聞くまでもなかったわね。

それでは早めに戻るのよ」


「ああ、それじゃあ何時もの別れの接吻を…」


両手を広げて迫って…ふざけてみたり。


「えぇ〜!?」


「な!?」


真に受ける劉備と関羽だが、


「…何時私がしたと言うの!」


どふ!


「ぐぁ!…モロに腹を…」


流石は華琳、鋭い一撃だ。


「冗談はともかく、

さっさと行ってらっしゃい」


「…はい…」


腹を押さえながら呻くように答える。


「あ!居た居た!華琳さま〜♪」


近くの天幕で待機していた季衣が会議の終わりを見越してやってきた。


「ほら、季衣も迎えに来てくれたから私は大丈夫よ」


「お帰りなさい華琳さま♪…兄ちゃんどっか行くの?」


話が見えていない季衣−当たり前だが−。


「…ああ、後少し下を殴られていたら…」


ダメージがやっと回復してきたので、

いきなりガバッと季衣の肩に手をかけ、


「女の子の世界に行っていたかも!」


ふざけて脅かしてみたり!


「わひゃあ!?」


ビターン!


「あべし!」


錐揉み4回転クワドラプル!後、背中から着地(撃沈)。


ズザ〜〜〜。


「…俺は…俺は既に死んでいる…byケン○ロウ…」


ガク!


最後の力を振り絞りネタを一発。


「兄ちゃん!?ごめん吃驚して思いっきり振り切っちゃった!」


おお、頬が燃えるように熱いぜ!


「自業自得よほおっておきなさい」


冷淡だな華琳、

もう少し優しくしてくれよ。


「行くわよ季衣」


吹き飛ばされた格好から動けない−季衣の手加減抜きの一撃は洒落にならん−が、

華琳の気配が遠ざかるのがわかる。


「え!?華琳さま〜!

…兄ちゃんごめん!待って下さいよ華琳さま〜!」


そして季衣まで…。


冷たい風が頬に滲みるぜ。


「あの〜…大丈夫ですか〜?」


「いけません桃香さま!何か悪い病気でも持っていたら危険です!」


おいおいそれは言い過ぎ…でもないか。


「駄目だよ〜愛紗ちゃん。

隼人さんは御主人様の義兄さんなんだから、

愛紗ちゃんにとっても義兄さんになるんだよ?」


「な!?」


ナイスカウンターパンチ!


「いきなり何を言っておられるのですか!

御主人様とは…」


「そんなに照れないでもいいのに〜♪」


「人の話を聞いて下さい桃香さま〜!」


何か楽しそうなのでゆっくり立ち上がる。


「いちちち…まだ頭がクラクラしやがる…」


季衣の馬鹿力を再確認、

それでも季衣への悪戯を止めようとは思わないのは、

既に病気クラスなのかもしれないな。


「あ!?大丈夫でしたか隼人さん?」


いち早く俺の復帰に気付く劉備、


「桃香さま!そんな事より私の話を聞いて下さい!?」


そんな事って…酷いよ関羽。


「無問題だ劉備ちゃん。

流石に季衣の張り手は効いたが、

それで完全に沈む程柔な鍛え方はしていない」


決してその為に鍛錬しているわけではないが。


「ほぇ〜凄いんですね〜」


「そんな事が出来ようになる為に鍛錬するなど…軽蔑します」


対称的だなこの娘達は。


「まあそう言うなよ。

俺だってその為に鍛えている訳じゃないが、

うちの娘達の相手をしようとすると結果的にある程度の武力がいるんだ。

一刀だって苦労しているだろう?」


「御主人様に限って…」


「あ〜そう言えば愛紗ちゃんや鈴々ちゃんに吹き飛ばされる度に、

もう少し体鍛えた方が良いかなって言ってますね♪」


関羽のコメカミに一筋の汗が…。


「ある程度の武力は…必要なのかもしれません!」


前言撤回早すぎでしょ。


「そうだよね〜♪

愛紗ちゃんだって御主人様と遊びたいもんね〜♪」


「そ、そんな理由で言った訳じゃありません!」


関羽ってツンデレだよな〜。


「素直になりなよ関羽殿〜?」


「そうだよ愛紗ちゃん♪

愛紗ちゃんが御主人様の事好き好き〜なのは周知の事実なんだから♪」


「だ…だれが好き好き〜ですって!?」


「「愛紗(関羽)ちゃん!」」


声を揃えて告げてあげる。


「な、な、な、な…」


おお凄い赤さだ、

公孫賛に匹敵するな。


「とま〜それはともかく、

そろそろ一刀の所に行こうや」


何か堰をきったように関羽が騒いでるが無視。


「そうですね♪それでは御案内します♪」


先に立って案内してくれる劉備と、


「無視しないで聞きなさ〜い!」


取り残されて慌てて追い掛けてくる関羽、

中々興味深い新ジャンルだな。


−劉備軍天幕


話は飛んで天幕の側に、

劉備や関羽と楽しく−主に劉備と−話をしながら到着。


「お帰りなさいませ劉備さま!」


「ただいま〜♪御主人様いるかな?」


天幕の歩哨に確認すると、


「はい!北郷さまは只今、

張飛将軍、趙雲将軍、諸葛亮さま、鳳統さまと会談中です!」


要は女の子達とダベってるんだな。


「ずる〜い!私も混ざる〜!」


走り出そうとした劉備に先駆けて、

歩哨に止められない程の速さで俺が天幕へと突っ込む!


バサ!


「一刀!」


天幕の入口を勢いよく開けると中には8人がけのテーブル、

上座に−入口から一番遠い席−一刀、その右側に見知らぬ美女、その脇に張飛が居て、

一刀を挟んで反対側に張飛と同じ位の背の美少女が2人。


「隼人さん!?どうしてここ…」


最後まで言わせない!


一刀の位置を確認したので無言でダッシュ!


「!…曲者!」


歩哨の言葉が正しいなら一刀の横に居た美女が趙雲なんだろう。


「隼人兄ちゃん!?…!…何を!」


張飛は俺と一刀の関係を知っているので初動が遅れる。


そしてその美女が趙雲だと判断したのは、

張飛と違ってそんな事を知らないだろう趙雲は一刀を庇い、


「主!お下がりを!」


「え!?え?え?」


混乱する一刀を無視して無言で接近する俺に、


「破!」


美女は迷い無く槍を繰り出す!が、


「ひゅ…!」


突き出された槍を回転しながら籠手でいなし、

槍の柄をなぞるように回転しながら接近する。


「く!?」


接近を許さぬように槍を突き出した状態から無理矢理横に凪ぐ!


しかし、


「惜しい!」


狭い天幕の中では槍のリーチが邪魔をして、

無手の俺の方が自由度が高い。


回転しながらしゃがみ、

その回転力をいかして足払い気味に下段蹴り!


「しまった!?」


と見せかけて当たる瞬間に蹴りの打撃力を回転力に再変換し、

ダメージでは無く趙雲を移動の支点にしてしまう。


「な!?」


足首を趙雲の足に引っ掛けそのまま引っ張る事で、

趙雲が転ばないよう踏ん張るから相対的に回転している俺は趙雲の裏まで滑って…。


「主!お逃げ下さい!」


滑る途中机の脚に頭を擦りながらも立ち上がる。


「やは!義弟!」


趙雲と背中合わせになれば、

当然庇われている一刀は目の前。


「やは…義兄さん」


面食らいながらも律儀に返事をしてくれる一刀。


だけど、


「こ〜ん〜の〜」


そんな律儀な一刀の襟と腕を取り、

合気術の抜きで力みを取ったらば、


「馬鹿ちんが〜!」


変則の大外刈り!


「え!?何故金八!?」


生来のものなのか突っ込みを忘れない一刀、

大外刈りを食らって視界が回っている最中だろうに…。


「「御主人様!?」」


「主!?」


「お兄ちゃん!?」


「あわわ!?」


「はわわ!?」


天幕の中に居た人だけでなく劉備と関羽まで悲鳴をあげる。


そのままならば一刀の頭を西瓜のようにパックリ割っただろうが、

今回のは変則の大外刈りだから、


「ほい♪」


刈り取った足が跳ね上がるのを襟を持っていた手で加速させる。


「うわ〜!?」


すると一刀の頭が地面に着くよりも早く回転して人為的バク宙状態に、

更に重量に負けないように−慣性の法則と言うやつだ−タイミングよく回してあげれば、


「秘技!人間風車!」


の完成です。


この技は下手に武術の心得があると失敗して頭を割るのだが、

一刀の弱さが+に働いた好例だろう。


「目が回る〜!?」


6回転程させた後、


「最後♪」


合いの手のベクトルを横に変えて、


「ぶわ!?」


少しスピードを緩めながら−それでも結構なスピードで−机の上に尻から…、


ドスン!


「いてぇ〜!」


目が回るわ尻は痛いわで踏んだり蹴ったりな一刀、

加害者は俺だが哀れだとも思う。


「「「御主人様〜!?」」」


非戦闘員系の3人−劉備と美少女2人−が急いで駆け寄る。


「神北殿!これはいったいどういう事か!」


「ほう…あなたがあの…」


激昂する関羽と一刀の無事を確認して俺に興味を持った風な趙雲。


「一刀兄ちゃんを虐めたら駄目なのだ〜!」


可愛らしく−武力を考えると…だが−怒る張飛、

次のターゲットは君だ!


「違うんだ張飛ちゃん!」


張飛に向き直り腕をばっと広げて捕獲の準備。


「え?」


いきなりの事に戸惑う張飛。


「一刀の奴が酷いんだよ!」


ガバッと抱きしめて耳元に泣きつく。


「うひゃあ!?」


耳に息がかかったのか可愛い悲鳴をあげる張飛。


「やめるのだ!鈴々はお兄ちゃんを虐めるような奴は許さないのだ!」


ジタバタ暴れる張飛だが攻撃はしてこない、

優しい子だよこの娘は。


「誤解だよ張飛ちゃん♪

酷いのは一刀の方なのさ!」


抱きしめから逃れようとする張飛を、

捕縛術の応用−人間の関節の効率の良い固め方−で優しく抱きしめながら説得。


「お兄ちゃんが?

何かお兄ちゃんがしたのか?」


俺の説得に暴れるのを止める素直な張飛。


「いや一刀自体は何にもしてないんだが、

一刀が悪いんだ!」


ギューッと抱きしめる。


「お兄ちゃんは何もしてないのにお兄ちゃんが悪い?」


張飛は抱きしめられながら考え込む。


「…訳がわからないのだ〜!」


が、理解できなかったんだろう−俺も一言では説明出来ない−、

再度ジタバタと暴れ始める。


「は!?」


と、その時背後に濃密な殺気が!


「妹を…離せ〜!」


関羽が仁王立ちから流れるように動き掴みかかってくる。


「んならば…はい♪」


離せと言われたから張飛を離し、

代わりに掴みかかって来た関羽に抱き付く。


「張飛ちゃんの抱き心地も良かったが、

関羽殿はまた…素晴らしい弾力です♪」


抱きしめると胸の巨大な膨らみがまた…ふふふ♪


「!…きゃ〜〜!!」


意表をつかれて固まっていた関羽が、

状況に気付いて暴れ始める。


張飛より派手に暴れるので−本気で抜け出そうとしているし−手を離すと、


「この破廉恥男〜!」


パ〜ン!


「ヒデブ!」


今度はビンタで3回転半トリプルアクセル−力だけなら季衣に軍配か−飛んで顔面から、


ズドン!


地面にキッス−少しめり込んでいるのは御愛嬌−。


「は〜…は〜…」


避けられない程ではないがこんな時の一撃を避けるのは野暮だろう。


「良い一撃だったぜ関羽…」


やり遂げた感で起き上がる。


「何を格好良くきめようとしているのですかこの変態!」


関羽には罵られるが、


「愛紗は過激なのだ〜」


張飛ちゃんだって呆れられてるぞ。


「それで隼人兄ちゃん、

何で一刀兄ちゃんが悪いのだ?」


まだ引っかかっているか。


「ならば説明しよう!」


バネ仕掛けのように飛び跳ねてサタデーナイトフィーバーの構えを取る−何人がわかるのかなこのネタ−。


「ふえ!?」


初見ではかなり奇抜な格好なので張飛が吃驚する。


「ほら一刀も何時まで突っ伏しているんだ?」


尻の痛みに地面に突っ伏している一刀、

その背中をポンポン叩いてあげている劉備。


「…もう少し待ってくれ…尻が割れる…」


呻くように一刀、


「尻は最初から割れている」


古典的ボケにお約束の突っ込みをいれておく。


「そんならお茶でもいただきたいな♪

お構いなく〜」


「言っている内容が矛盾しているではないですか…」


聞こえない聞こえない♪


−10分後


「それで…何で俺はこんな仕打ちを?」


まだ少し尻を庇いながらも席に座って会談の空気になる。


「お答えしよう!」


今度はわざわざ席から立ち上がってまでサタデーナイトフィーバーの構え!


「何でダンスマン!?」


「の、前に…」


一刀の突っ込みを無視して視線を移す。


「こちらの綺麗なお嬢さんと、

そちらの可愛い娘さんを紹介してくれ」


「あ〜そう言えば星達とは初めてだったっけ?」


そこでやっと気付いた風の一刀。


「こちらの星が…」


「性は趙、名は雲、字は子龍、

常山の登り龍とは私の事を言うのです♪」


蠱惑的な流し目で名乗ってくれる趙雲、

俺の股間にズンと来るぜ。


身長は俺より若干低い位、

髪は灰色に近い艶のあるスカイブルー、

その髪をショートにして赤い飾り紐の付いた大きな髪飾りをしている。


服装は…ミニの振り袖?のような感じで、

振り袖部分には蝶をイメージしたのだろう刺繍がされていて、

又、髪飾りとお揃いの飾り紐が両袖にワンポイントのアクセントになっている。


只、普通の振り袖と違うのは大胆に切り取られている胸!

けしからんボリュームの胸が覗く胸部分が大きく切り取られている。


そして容姿は…病的なまでに白い肌に、

妖艶な艶を放つアメジストの瞳、

冷たいと言うより妖艶な雰囲気のある美女だ。


「宜しく趙雲殿」


しっかりとこちらも頭を下げて挨拶する。


「それでこちらが朱里と雛里です」


「はわわ…はじまして!性は諸葛、名は亮、字は孔明でしょ!」


「あわわ…私は性は鳳、名は統、字は士元と言いましゅ!」


緊張したのかカミカミの2人は…まず諸葛亮。


背は張飛と同じ位、

薄いブラウンの髪をショートにして、

大きな薄い青緑のリボンの付いた−鳳統も同じようなの付けてるから何かの制服なんだろう−ブラウンのシックな感じのベレー帽?を被っている。


服装も鳳統とかなり似通っていて恐らく何かの制服、

金の縁取りのブラウンのベスト−丈は短いが袖は長く手首まである−を首元で鈴のアクセサリーで留めていて、

その鈴の裏からは朱い飾り紐、

そして腰にも帽子と同じ色のリボンを巻いている。


容姿はかなり幼さを感じるが知性の光を感じる大粒のアメジスト、

全体的に幼い感じでロリコンなら一発KOだろう。


次に鳳統は、

帽子で隠れているのでわかり難いが薄いマリンブルーの髪をツインテールにしてサイドに垂らし、

前述の紺の魔法使いが被るような帽子に諸葛亮とお揃いのリボンを付けている。


そして服装は諸葛亮と色違いの紺色のベストを、

鈴ではなくピンクのふわふわしたアクセサリーで留め、

やはり諸葛亮とお揃いのリボンを腰に巻いている。


容姿は諸葛亮を活発とするなら温和な感じの美少女、

諸葛亮と一緒にいるとお人形が2つあるみたいだ。


「宜しく諸葛亮殿、鳳統殿」


2人にも頭を下げて挨拶する。


礼を尽くして挨拶されたんだ、

せめてこの位の返礼はしなくてはな。


「はわわわ!?頭を上げて下さい〜!?」


「あわわわ!?恐れ多いです〜!?」


少女2人が軽くパニックになっているので頭を上げる。


「そうか?なら俺からも名乗るな。

俺は曹操軍客将、神北隼人、

一刀とは黄巾賊討伐の際に義兄弟の契りを結んだ。

一応俺が兄貴分だな」


「存じ上げておりましゅ!」


あ、また噛んだ。


「朱里ちゃん私達カミ過ぎだよ〜」


いや、泣かないでね?しかし、


「なあ一刀?」


「何ですか?」


「この娘達可愛いな!貰って行って良いか?」


思わず手をニギニギしながら聞いてみる。


「!…はわわわ雛里ちゃん!?」


「あわわわ朱里ちゃん!?」


俺のいきなりの提案にパニックが激しくなる2人。


「駄目に決まっているでしょ!

朱里も雛里も劉備軍の大切な軍師です。

それに俺の大切な仲間なんですから、

欲しいと言われて、はいと言えますか!」


「怒るなよ一刀〜ちょっとした冗談じゃないか」


そうそう冗談…でも、


「でも、諸葛亮殿と鳳統殿が良ければ何時でも歓迎しますよ?」


ここだけは真面目な顔になって言っておく。


「だから義兄さん!」


つられて激昂する一刀だが、


「お待ち下さい御主人様…」


今回は諸葛亮が止めてくれる。


「ん?朱里?雛里も?」


鳳統も一刀の服の裾を掴み首を振る。


「御主人様、今回の提案は正式な物です。

ならば私達がお答えしなければいけません」


鳳統もコクコク頷く。


「ですから私達は…」


そこで2人はクルリと俺に向き直り、


「正式にお断りします…」


キッパリと断られる。


「何故だい?冷静に見て君達みたいな経歴の人間が、

こんな弱小軍に居る方がおかしいと思うが?」


「な!?」


関羽を筆頭に張飛、一刀の気配に怒気が混じる。


「…神北殿、私達を試すためとはいえ御言葉が過ぎます」


その中で冷静だった軍師2人が窘める。


「気付かれた?」


「はい」


ありゃりゃ…流石は伏龍と謳われた諸葛亮。


「え?」


そして背後の怒気が戸惑いに変わる。


「事実ではあるんだよ?」


ケロッと悪びれずに続ける。


「…それでも…そんな事を正面から…言う方ではないと…」


鳳統にも見抜かれていたか…。


「…どゆ事?」


わからん同盟から代表して一刀が聞いてくる。


「つまりは私と雛里ちゃんが試されたんです…」


律儀に説明を始める諸葛亮。


「劉備軍を悪く言う事で私達の反応を見る…そう言う事ですよね?」


首を傾げて聞いてくる諸葛亮、

そんな仕草は可愛らしいのに洞察力は…。


「だが、言っている事は事実だよ?

水鏡塾…司馬徽殿の直弟子ならば、

大国…袁紹の所は言うに及ばず朝廷にだって引っ張りだこだろうに…」


司馬徽はこの世界でもかなりの有名人だ。


朝廷を辞した後も各地に発言力を持ち、

自らが教鞭をとる私塾は数々の有能な官吏を輩出する事でも有名、

そしてその著書は華琳が新刊が出る度にチェックする程の内容だ−俺は読まないけど−。


「はわわわ!?そう言えば何故それを!?」


「あわわわ!?そう言えばそうだよ朱里ちゃん!?」


沈静化したパニックが再燃。


俺は何処かから出した−服には暗器しか仕込んでない−扇子を広げ、


「俺の密偵は三国一〜♪」


胸を張り片手を腰に、

扇子を持った手は横に広げる。


「何で餓狼の舞ちゃんなんですか!」


突っ込み属性全開の一刀。


「でも水鏡塾はその俺の密偵をもってしても完全に把握出来ないからな…」


言わば難攻不落の堅城の如くだろう。


「あわわ…水鏡先生はその辺りの事には厳しいですから…」


パニックのくせにしっかりフォローするあわわ軍師。


「だとしても勧誘位させてくれてもさ…」


一刀に獲得される位ならばと白眉の馬良を勧誘しようとしたんだが、


−水鏡塾の外門


「お帰り下さい…」


−数ヶ月前俺の部屋


「門前払いされました」


「粘らんのか貴様」


「いや、断る時の司馬徽殿の目がパネ~す!」


「う~みゅ…」


−回想終了


「基本的に…外部の方は中に入れません…から…」


鳳統が補足してくれる。


「そんな感じだったらしいな〜」


報告にあった−俺が出向くには遠方過ぎる−水鏡先生の応対の報告を思い出す。


「まあ、そんなこんなで君達の経歴は調べがついている」


俺の言葉の意味が完全に把握出来たのだろう、

パニックだった2人の気配が引き締まる。


「…それでも私達は劉備軍が良いんです」


俺の提案に対して諸葛亮が答えれば、


「曹操軍よりも?」


「はい…」


鳳統も答えを返す。


この2人は一心同体なんだろうな。


「華琳だって仕えてみれば良い君主だぜ?」


「…お噂は聞いていますし事実有能な方だとは思います…」


「ですけど…理想の到達点は同じでも…その手段と道筋は…」


違うだろうな。


「だから劉備なのか?」


「「はい♪」」


参ったな…そんな純粋な瞳で言われちゃこれ以上試すのは無粋の極み。


「そうか…良い軍師を手に入れたな一刀」


「自慢の2人です♪」


うわ、一刀が言うとムカつく!


そんで一刀の言葉で真っ赤になっている2人が可愛くて悔しい。


「話は終わりましたかな?」


そして話に入ってきていなかった趙雲が声をかけてくる。


「ちょっと待ってくれ…少し一刀を虐める!」


ムカついたんで腕を回しながら一刀に向かおうとするが、


「主を虐めんでくだされ」


趙雲に止められた。


「それにしても、

やはりあなたが破山剣の神北殿か…通りで私の槍をかわせた筈だ」


口調は冷静ながらも悔しそうだ。


「いやいや槍の特性からして天幕内ではね…」


天幕の被害を考えず、

しかも一刀の被害も考えなければまた結果は違うかもしれないが−負ける気はさらさら無いがな−。


「それに張飛ちゃんの声で槍の動きに乱れが出来た。

あれが無ければ俺だって踏み込まなかったさ」


乱れが無ければ幾ら何でも飛び退いていた。


「それでもですな…我が槍の一撃をあそこまで見事にかわされると…な」


腕に覚えがあるだけになんだろうな。


「まあ俺だって曹操軍の中でもかなりの腕だし、

一刀の義兄としても義弟の女にそうそう遅れはとれないしな」


はっきり言って論法的にも無理があるが、


「ふむ…そう言う事なら仕方ないですな」


納得してくれた。


「なら話を戻そう。

時間も大事だしな」


何だかんだで−原因は主に俺−既に俺が来てから1時間弱の時が過ぎている。


「そうですね〜♪私からもみんなにお話があるし…」


最後の方が小声なのは何でかな〜♪


「桃香もあるの?なら…」


「まあ待て一刀。

俺の話が劉備ちゃんの話に繋がるから、

まずは俺の話を聞いてくれ」


俺の話が長くなりそうな為だろう、

一応客である俺の前に劉備の話を聞こうとする一刀を押し止める。


「え?…はあ…わかりました」


まさか案内されて一緒に来たとはいえ、

俺の話と劉備の話が繋がるとは思わなかったのだろう、

一刀からの返事の歯切れが悪い。


「(ズズズ〜…)…ほ♪

…さあでは説明しようかな」


お茶を一口飲んでから説明を始める。


「俺の可愛い義弟である一刀にお仕置きした理由を、

諸々の話をすっ飛ばして要約すると…」


一度話を切り一同を見回す。


「要約すると?」


「劉備ちゃんと関羽殿のせいになる」


俺の発言の後………沈黙が続き、

その後、


「「え!?」」


一刀と劉備は顔を見合わせ、


「何故私達のせいなのですか!?」


関羽は怒り、


「桃香姉ちゃんと愛紗、

何をしたのだ〜?」


「ふむ…何やら面白い事になりそうだ…」


張飛ちゃんと趙雲は中立、


「………」


諸葛亮と鳳統は沈黙を保つ。


「何故かと言えばな…劉備ちゃんが話そうとした内容はこれだろうけど、

君達がシ水関の先鋒に決まったからさ」


爆弾投下……カウントダウン開始、

5…4…3…2…1…、


「「「えぇ〜!?」」」


「なんと!?」


「腕が鳴るのだ〜♪」


沈黙を保っていた2人と一刀が叫び趙雲も流石に吃驚、

張飛だけは意味が完全に理解出来ていないのか楽しそうだ。


「先鋒って!?無理でしょう!」


「兵力差を鑑みるに…私が言うのもなんだが、

無謀と言わざるをえまいな」


声を荒げる一刀と冷静な趙雲、

同じなのはどちらも否定的意見だという事だ。


「……厳しいですね…」


「…何とか…でも…」


目を瞑って思考する軍師2人。


「そんな事俺に言われても仕方なかんべや〜?」


俺の責任ではないと訛ってみたりして。


「そんじゃーやっぱり劉備ちゃんが会議に乱入した事も知らないんだな?」


先程の劉備の小声で大体予想はつくけど、


「会議に乱入!?」


やはり知らなかったか。


思わずといった感じで一刀が劉備を見れば、


「えへへへ♪」


可愛く笑って誤魔化す。


「ほ…本当なのか桃香?」


「えへへへ♪…実はそうなの御主人様…」


まあ誤魔化すのは無理だよね。


「ですがそれは桃香さまのせいでは!」


「無いわけが無いだろう…」


無駄な庇いたてをしようとする関羽の言葉を遮る。


「何!?」


「大元凶は袁紹だとしても、

劉備ちゃんや君が会議に乱入しなければ今の状況に無いのは明白…」


冷たいようだが冷静に事実だけを認識するならそうだ。


「しかし桃香さまは!?」


「良いんだよ愛紗ちゃん」


なおも食い下がろうとする関羽を劉備が止める。


「隼人さんの言う事は正しいもの。

それに隼人さんは私達を助けてくれたんだよ?

そんな恩人にそんな言い方しちゃ駄目だよ」


なんだ意外と状況が見えてるんだな。


「恩人って…何かあったのか?」


恩人と言う言葉が引っ掛かったのか、

一刀が劉備に質問する。


「そんなんです御主人様♪

シ水関の先鋒に指名されちゃって困ってた時に、

隼人さんが袁紹さんに掛け合ってくれて…なんと!兵5,000の貸し出しと兵糧1ヶ月分を貰える事になったんです♪」


「な!?」


一刀さっきからそればっかりね。


「それは本当ですか桃香さま!?」


「…5,000増えれば…何とか…」


うお!?わからんでもないが諸葛亮と鳳統が凄い食いつきを見せる。


「本当だよ〜♪ね!隼人さん♪」


「ああ事実だ…俺だって弟分の居る軍が捨て駒として見捨てられるのを見るのはな…」


「隼人義兄さん!?」


感極まって俺に抱きつく一刀。


「泣くなよ一刀…」


「だって義兄さんがそんなに俺の事を心配してくれてるなんて…」


瞳に綺麗な液体が盛り上がる一刀。


「そう言うなよ…だってここからが本題なんだから!」


「…え?」


「俺の話はまだ終わってないんじゃ〜!」


呆けた顔の一刀に本気のデコピンを一発!


「くが!?…うぉ〜た〜痛〜!」


悶絶アゲイン。


「まったく…俺の話の腰を折る所か粉砕しおってからに」


発砲後の銃口を真似て息を吹きかけ、


「またつまらぬ者を殺めてしまった…」


「まだ死んでね〜!」


かなりの痛みだろうに…性には逆らえんか。


「改めて俺の話の続きだ」


悶絶する一刀を無視して話を続ける。


「要約すれば2人のせいなんだが…俺の苦労話を聞け!」


血涙を流しながら昨日からの一連の根回しを説明する。


「ほへ〜…じゃあ袁紹さんが盟主になって軍が動けるようになったのは?」


「客観的に見て…神北将軍のおかげと言っても過言でもありませんね」


諸葛亮からの御墨付きいただきました!


「そ〜だよ!そ〜なんだよ!

それでな、俺の苦労が実ったから実りを収穫…今回で言えば先鋒をいただこうとしたら!」


ここで劉備を指差して、


「鳶に油揚げ持って行かれたんだよ!」


号泣しながら机を叩く。


「…鳶に?」


「油揚げ?」


あ、諺言ってもわからないか。


「要は良い所持って行かれたんだよ…」


わかるように言い直し。


「…えへへへ♪」


照れ笑いをする劉備。


「それはまた…」


「酷いですね…」


「…酷い…」


「お姉ちゃん達酷いのだ!」


皆わかってくれたか。


「ならば曹操軍に先鋒を譲れば…」


関羽も意見を出すが、


「ああそれ無理!袁紹に会えばわかるけど、

あの娘は一度言った事を撤回出来るような器用な娘じゃないから」


手を振って却下する。


「袁紹自身も言ってたしな〜」


「そうでしたね〜♪」


頭痛がするぞ。


「だから劉備軍に助け舟を出したのも、

せめて俺の根回しの結果を出したいという気持ちも多少はあったんだよ」


冗談だけでなく本音も交える。


「だから一刀には貸しの分痛い目にあってもらったわけだ!」


そして冗談も混ぜるのが俺だ!


「…お釣りが多過ぎですよ義兄さん」


「そうかな?」


「そうですよ」


「ならそうなんだろうな」


気にしない気にしない。


「まあ一刀を虐めて気持ちも晴れたし、

勿体ないから俺の策を劉備軍に提供しよう♪」


「え!?まだあるんですか?」


「そりゃそうだろう?

俺の根回しの最終目的がシ水関の先鋒だったんだから、

それ用の策なり何なりとが無いとそこに向かわないだろう」


本当にそんなんじゃあ華琳の許可も出ないよ。


「…お聞かせ願えますか神北将軍…」


「朱里!?これ以上の借りを作るのは…」


「ですが…今はどんな力でも必要なんです。

兵力5,000の増強は好材料ですけど、

それでもまだシ水関の予想戦力を上回る数ではありません」


「そう言う事…シ水関の予想戦力は40,000〜50,000。

対して劉備軍は5,000足しても20,000に届かないだろう?

そして相手は難攻不落と名高いシ水関を擁するとなれば…どんな材料だろうと欲しいのが軍師としての本音だろうさ」


劉備軍としてもよくぞ一地方の相でこれ程の動員が出来たとは思うが、

これには今のこの国を如実に表す絡繰りがある。


今、この国は完全に真っ二つに分かれており、

片や帝を擁する親董卓軍、片や各地の諸侯が集まった反董卓連合軍、

国が真っ二つになっているからこそ他の諸侯からの侵略の心配をしないでよいので思い切った動員が出来る。


因みに連合軍全体では約300,000超程の兵力があり、

中核は袁紹、袁術の名家コンビで各80,000弱、

次いで我が曹操軍50,000強、

後主要な軍は孫策軍、公孫賛軍が共に20,000超、

西涼軍20,000弱となっていて、

後は団栗の背比べだが一応主君が出張って来ている軍の中では劉備軍が一番兵数が少ない。


「はい…こちらの密偵からの報告でもおおよそ、その位の兵力だと」


「…しかも関を守る将は…猛将の呼び声高い華雄と…神出鬼没…疾風迅雷の2つ名を持つ張遼…」


「藁だろうが何だろうが掴めるなら何でも掴みたいよな〜」


俺だって同じ状況になれば恥も外聞も無くどんな手でも使うだろう。


それか華琳を攫って逃げる!

そうすれば最低華琳の名声は惰弱と失墜するかもしれないが再起の機会は手に入る−実際にやったら華琳が憤死するかもだけど−。


「実際砦を攻めるには守備の3倍の寄せ手が必要と言うのが通説だ。

だがそれは基本の話なだけで、

劉備軍には関羽を筆頭に趙雲、張飛、諸葛亮、鳳統と有能な将が数多く居る…」


「何で愛紗が筆頭なのだ?」


少し不満なんだろう張飛が口を挟む。


「胸の大きさ順だ」


「…なら…仕方ないのだ」


納得してくれたか、

だが俺は小さな胸も好きだぜ。


「何を言って!?」


「続けよう!」


これ以上の遅滞は華琳に怒られそうだから−なら弄るな?何のことやら♪−関羽の抗議は却下。


「これだけの将が居るならば、

野戦に持ち込む事さえ出来れば…何とかなるかもしれない」


「…そうですね…でもどうやってシ水関程の堅固な砦から誘き出すんです?」


それが普通なら問題なんだが、


「実はな…」


ここで俺の考えていた策を披露する。


「と言うわけでこれなら野戦に引っ張り出せる可能性がある」


そして劉備軍の軍師である2人の反応を見れば、


「…華雄将軍を見た事が無いので確たる事は言えませんが…」


「…神北将軍の見立てが…正しければ…」


頭の中では色々なシチュエーションを検討しているのだろう。


「…いけると思います…いえ、これ以上の策は考えられないでしょう」


諸葛亮が劉備と一刀に断言する。


「う〜ん…雛里ちゃんは?」


「…朱里ちゃんと同じです…これ以上の策は…私にも考えつきません…」


鳳統もその言葉を補足する。


「なら決まりだね♪」


「だな!」


劉備が一刀に確認して一刀も了承する。


「なら明日は一時的に俺は劉備軍に同行しよう」


「でも…本当に良いんですか義兄さん?」


今更何を言っているんだか。


「大丈夫だよ。

華琳には話がほぼ通ってるから」


「…え?」


阿呆顔だな一刀は〜♪


「華琳との別れ際軽く匂わせておいたからな。

華琳ならわかってくれてる筈だ」


自信満々に断言する。


「ふえ〜…曹操さんの事信じてるんですね〜」


「当ったりっ前〜♪華琳の能力には全幅の信頼を寄せているとも」


これも何も考えずに断言出来る。


「それにそんな華琳を愛しているからな〜♪」


アイラブ・ユーラブ・アイラブユー!


「わあ〜♪隼人さんはやっぱり曹操さんの事が好きなんですね♪」


「そうなんだよ〜♪華琳は可愛いし頭が良いし…」


ニヤニヤした顔から一転凄惨な顔になり、


「俺の使い方が上手いしな…」


ククっと嗤いながら言葉を紡ぐ。


「…使い方?」


怪訝そうに関羽が聞いてくる。


「そう使い方…俺は外面が良いし頭もそこそこ回るからな、

手綱を引き締めるよりある程度緩めてくれた方が使い勝手が良い。

しかし俺は天の邪鬼なんでな、

時に手綱を噛み千切る真似をするんだが、

華琳はしっかりとわかってくれるからな♪」


俺だって時に刃向かう時、我が儘を言う時もあるが、

華琳はしっかりと受け止めてくれる。


「受け止めてくれないのは俺の愛だけさ〜♪」


お手上げだと言うように手を広げて首を振る。


「義兄さんが少し頭が回るんだったらみんな頭が悪い事になるよ…」


「何を言うんだ一刀!俺なんか全然さ!

現にここに居る諸葛亮、鳳統、

我が軍の華琳に荀イク、他の国は知らないがうちの文官達、

戦ならともかく頭の回転では相手にならん」


お世辞でもなんでもなく厳然たる事実だ。


「そりゃ朱里や雛里は頭良いけど…」


「軍師だから仕方ない?いやいやそんなのは言い訳だ。

俺は俺より優れた能力を持つ人間が好きだ!

例えば義弟であるお前とかな」


「俺!?」


「そうだぞ一刀。

俺は自らの能力、ここに居る皆も大体が習得した技能で身分を手に入れている」


例えば武将ならその武、軍師なら知、劉備は理想と人望。


「だがお前は違う。

関羽達に匹敵する武があるわけでなく、

諸葛亮達のような知があるわけでもない、

ましてや理想や人望…人望と言っても良いのかもしれんが…。

ともかく、お前の能力は人を惹きつける魅力にある」


指を突きつけ笑うセールスマン状態。


「でもそれは…俺が天の御使いと言われてるからで…」


「一刀の馬鹿〜!」


納得しないでふざけた事を言う一刀へニ発目のデコピン(弱)。


「お前な〜…お前に魅力がなければ天の御使いなんて言われててもこんなに慕われるか?」


俺が劉備達を指し示せば、


「そうだよ御主人様!

私達はそりゃ、御主人様の天の御使いって肩書きも大切だとは思ってるけど…。

そんな物より!御主人様が好きだから一緒に居るんだよ!」


皆を代表して劉備が気持ちを代弁する。


「桃香…」


「主殿、桃香さまの言う通り…私達も主殿が好きだからここにおります」


感動する一刀に趙雲達も賛同の意を表し、

関羽達は頷きで意を表す。


「みんな!」


感極まる一刀、


「俺も大好きだ〜!」


そして俺はふざけて一刀に飛びつく。


「義兄さん!」


流れで何の疑問も無く受け入れようとするので、


「気持ち悪いわ阿呆!」


「3度目の正直!?」


自分から飛びつこうとしたのにデコピン(中)とは酷いな俺。


「それじゃあ少し話がズレたが明日はよろしく♪」


劉備達に介抱される一刀をほっぽって話を切り上げる。


「隼人さん、もうお戻りに?

時間があればお茶をもう一杯位…」


「嬉しいお誘いだが、

俺にも部下がいるから監督せにゃならん。

それに…」


顔に縦線を刻んで愚痴る。


「先鋒を前提にとお願いした、

桂花からの嫌みを聞かなきゃいけないからな…」


実際指示を出したのは華琳だけど、

それは俺の交渉の成功が前提だった訳で…覚悟を決めるか。


「そうだ!諸葛亮殿と鳳統殿に話があるんだ。

ちょっと出て来れる?」


さも今思いついたかのように2人に聞く。


「私達ですか?」


頭に?マークの2人。


「どんな御用でしょうか?

答えによっては承諾致しかねますが…」


さっきからの悪ふざけが祟って警戒する関羽。


「ちょっとした内緒話だよ」


別に捕って食いやしないって。


「…内容は?」


「言ったら内緒話じゃないだろう?

んで、どうだい?」


再度2人を促す。


「わかりました、お付き合いします」


鳳統もコクンと頷く。


「…しかしこんな可愛い娘達にお付き合いしますなんて言われると、

違うとわかっていてもドキッとするな♪」


「え!?…はわわわ違います〜」


「あわわわ!?」


今更気付くのか。


「ハッハッハッ…冗談だよ冗談!

そんならちょっとそこまで付き合ってな?」


顔を真っ赤にしている名軍師2人を連れて天幕を出…、


「ついて来るなよみんな?

見付けたら劉備軍は助平の巣窟って噂流すからな♪」


る。


「誰がついて行きますか!」


俺の背中に関羽の怒声がぶつかるが軽く受け流す。


そして天幕の間の気持ちスペースが空いている所へ移動した。


「さあそれじゃ話そうか?」


振り返り改めて話をする空気を作る…が、


「…の前に…そこのお前出てこい?」


俺は大きさから類推するに多分物資保管用の物だろう天幕に声をかける。


「出て来ないなら…殺すぞ…」


声の調子は変えずに、

殺気を地の底からジワジワと染み出すように強めていく。


「気配が漏れてんぞ…それじゃあ俺にとっては隠れている事にならん」


それでも出て来ないので仕方無く破山剣の柄に手をかける。


「3つ数える…それでも出て来ないなら…殺す」


言葉に本気の意志を込めてぶつける!


「1つ…2つ…」


「…お待ち下さい」


俺の警戒していた天幕の中から声がする、

男性系の声で思ったより声の感じが老けている。


「はわわ!その声は!?」


聞き覚えがあるんだろう諸葛亮が吃驚している。


「声だけじゃあわからんだろ?

何か符合のような物は無いのか?」


「ですがそれは…」


難色を示す諸葛亮だが、


「…大陸に咲き誇る…」


「雛里ちゃん!?」


「朱里ちゃん、このままじゃ殺されちゃうよ…」


鳳統は良くわかっているようだ。


「…大陸に咲き誇る…」


「…桃の花…」


再度鳳統が符合を促せば、

天幕からも答えが返ってくる。


「…申し訳ありません…この者は我が軍の密偵…御容赦下さい…」


「大陸に咲き誇る桃の花…中々詩的だな鳳統殿♪」


謝罪する鳳統だが気にはしていない。


「だが、もう少し精進させた方が良いかもしれないぞ?

俺が陣地に入ってからずっと周りを彷徨いていたようだが…」


まさか気付かれていないとでも思ったのかな?

天幕の気配が動揺したのがわかる。


「…お気付きになっていましたか…」


「当然!俺は曹操軍随一の感知能力の持ち主だぞ?」


自慢じゃないとは言わない、自慢だ!


「まあ味方なら問題無い。

そんで話なんだが…」


諸葛亮と鳳統の気配が引き締まる。


「…大体の予想はついているようだが…一応聞いておこう。

ズバリ!董卓軍の現状をどう見る?」


2人は質問の内容をしっかり吟味しアイコンタクトで相談、

その後初めて口を開く。


「董卓軍は帝を十常侍より簒奪、

自らを相国の位につけ専横の限りを尽くす…」


「…それが庶人の捉え方です…」


「そうだな…」


実際直接話してみると、袁紹、公孫賛、太守の馬騰は知らないが西涼、

少なくともここら辺り−袁紹は只、気に入らないだけかもだけど−はそんな見方なんだろう−袁術は繋ぎを取ってないので知らん−。


そして我が曹操軍と孫策軍は裏の事情までわかって連合軍に参加している。


そして…劉備軍は…。


「なら…実際は?」


「被害者と言えるでしょう…」


「…十常侍からの要請に従い都に入ってみれば…」


「内部は権力闘争の嵐が吹き荒れ…」


「自らの身を守る為には…武力で権力を奪う事しか解決策が無い…」


「…そして今も水面下では十常侍の干渉が断ち切れていない…」


目を瞑ったまま独白のように答える2人…だがここで2人は同時に目を徐々に開く。


「ですけど…それでも董卓を倒さねばなりません!」


「…桃香さまの…御主人様の理想を実現する為に!」


見た目の幼さに似合わない力強さで断言する2人。


「…その為に董卓を生贄にする事になっても?」


意地が悪い質問だな…。


「…例え生贄と言われても…」


「「私達は私達の主に天下を穫らせる為!」」


苛め過ぎたか涙目になりながらも、

その瞳の奧には確固たる決意をもって!


「…それだけの決意があるなら良いんだ…」


劉備の善人ぶりを見ているだけにあのテンション−悪人と断じる事の難しい董卓を倒す事に対しての−はおかしいとは思っていたが、

やはりこの2人が泥を被る気でいたか。


「…なあ?…」


「…何でしょうか?」


「やっぱり曹操軍に来ないか?

…かなりの好待遇で迎えられると思うんだ」


その決意と気概が俺の琴線に触れまくり!


思わず無理とわかっていても勧誘してしまう。


「…申し訳ございませんが」


「…私達の主は桃香さまと一刀さま…」


「他の方に仕えるつもりはありません」


再度キッパリと断られる。


「だよな〜…なら、華琳は関係無く俺の女にならんか?」


ちと幼いが十分射程圏だ。


「………!」


「………?」


鳳統は気付いたようで顔が真っ赤に紅潮していく、

諸葛亮は俺の発言の内容が理解出来ないようだ。


そして諸葛亮が相談しようと横を見れば…。


「あわわわわわわわわわ!?」


「どうしたの雛里ちゃん!?」


「初だね〜♪

別に肉体関係持とうって言ってる訳じゃないのに」


「………!?」


あっ…諸葛亮も気付いたらしい。


「はわわわわわわ…雛里ちゃん!?」


「あわわわわわわ…朱里ちゃん!?」


今日最大のパニック到来!


「そこまで慌てんでも…冗談としても傷つくわ〜」


やれやれと首を振る。


「はわわわ…冗…談?」


「あわわわ…?」


あ〜止まった。


「2人を見てれば一刀の事好きなのはすぐわかるさ、

略奪愛も興味無いでは無いが…既に心の底から好いた者が居る女を奪うのはあかんわな」


いや、時には良いんだが…この2人の場合はな〜。


「…御主人様には内緒でお願いします!」


鳳統も真っ赤な顔でコクコク頷く。


「んな野暮な事はしね〜よ」


しかし、こんな所で孫策の気持ちがわかるなんてな…。


本当に欲しい人材だと、

無理だとわかっていても勧誘してしまう…。


(孫策もこんな気持ちだったのかな?)


「しかし、流石は人の和を持つ劉備軍。

主の為に汚れ仕事を請け負う気概を持つ良い軍師が2人…一刀は果報者だ」


この後の戦国乱世を透かし見ながらも感心する。


「そんな…」


「…私達なんて…」


照れたさまも可愛らしい♪


「謙遜するな♪

…そして遠慮もするな」


そろそろ話を切り上げる為に真面目な話しに繋げる。


「今、連合軍を構成する各陣営を鑑みるに、

5…いや3年後まで生き残る可能性があるのは、

先代の残した地盤を引き継ぎ、今は袁術の下雌伏の時を過ごす孫策軍」


あそこの軍の底力はかなりの物、

後は袁術の支配を抜け出すだけの兵力…天の時を得るだけで飛躍出来るだろう。


「次に義勇軍から平原の相に下剋上を果たした天の時を持つ劉備軍…」


一介の浪人から旗揚げ、

天の御使い等の好材料があったとはいえ、

平原の相などと言う王朝が認める役職、領土を持つなど天の時が無ければ無理だろう。


「そして我が曹操軍…天の時を見る目、地の利を磨く力を併せ持つ華琳がいるからな」


実際華琳が後2人位居れば天下取りなんか簡単だろう−協力し合えばなんだが−。


「そしてこの3つの陣営全てに言える事だが…人の和が凄い!

曹操軍は夏侯惇を筆頭に夏侯淵、許緒、典偉…数々の武将と荀イク等の軍師と文官」


手前味噌だけど一番人材が充実しているのは我が軍だろう−華琳の病気のお蔭もあるんだが−。


「孫策軍は主将である孫策を筆頭に宿将である黄蓋、甘寧、周泰…軍師として周瑜、陸遜と言った鬼才」


まだ黄蓋と陸遜には会った事は無いが、

密偵からの報告からかなりの才だと聞いていて、

特に黄蓋に関しては昔の逸話を加味するとかなりの腕だと予想出来る。


「そして劉備軍には関羽を筆頭に張飛、趙雲…そして軍師として君達2人…まだ弱小軍ながら良い人材に恵まれている」


立ち会った事は無いが関羽は神となる程の武将−中華街にある関帝廟がそれだ−、

燕人の異名を持つ張飛、常山の昇り龍趙雲、

水鏡塾出身で伏龍の異名を持つ諸葛亮と鳳雛の異名を持つ鳳統、

何処の軍に行っても主力になれるだけの能力を持つ人材。


「残るならこの3陣営だろうな」


歴史がどうとかでは無くて−これだけ色々時系列が違うんだから−客観的に見てそう思う。


「…我々も残るとお考えですか?」


「そりゃ乱世に絶対は無いが…俺はかなり警戒してるんだよ?」


実際弱小軍に対する密偵の数としては破格、

袁紹軍に対する密偵の数とほぼ同数を放っている。


「…ありがとう…ございます…でも袁紹軍は?」


「地の利、人の和はあれども天の時を読む力が無い。

と言うか袁紹に読む力が無くて、

読む力を持つ人材が居るのに耳を貸さないと言う方が正しいな」


袁家は名家だけに兵の数も将の数も軍師の数も凄い物があるが、

−華琳を最後に勧誘する等素晴らしい策を行ってるのに−袁紹軍の情報を確認するとかなり軍師の待遇が酷いらしい。


(あの袁紹の性格じゃな〜)


策を出しても採用してくれず機嫌が悪ければ投獄、

そして一番質が悪いのがそれでも勝ててしまう大兵力!

どんな袁紹のハチャメチャな策だろうが最終的に兵力差で勝ててしまうのが勘違いの元、

益々袁紹は軍師を軽視して待遇が悪くなるのデススパイラル!−それでもついて行く軍師達には頭が下がる−


「…漢王朝の下肥え太った龍…いや、大蛇に負ける華琳じゃないさ」


袁紹に負ける如き器ならそこまでの女だっただけの事、

その時は身の回りの人間だけは何とか助けて逃げるだけだ−主に自分の女性嗜好の為に−。


「でも…袁紹軍には離間工作が…」


「そ〜なんだよな〜…あんななのに領地と部下の掌握は上手いとかどうなのよ?」


密偵からの報告でも裏付けられているのだが、

袁紹はその潤沢な財と名家と言う地盤でかなり民から慕われているらしく扇動や懐柔工作が難しい。


「本人はあんななのにな〜…」


人生わからんもんだ。


「まあ、それでも負けないのが強さだからな。

そんじゃまだ話したい事は一杯あるが、

そろそろ戻らなきゃ怒られるだろう」


何だかんだと色々話してしまった…癖なんで仕方無しと思おう。


「はわわわ!お引き留めして申し訳ございません!」


「ません!」


「謝る必要は無いよ。

元々俺が誘ったんだし話せて楽しかったからね」


癒やしと権謀術数が混ざり合う会談、

かなり珍しく、そして目にも楽しかった。


諸葛亮達の計らいで通行手形として兵を1人つけてもらい、


「そんじゃまた明日〜♪」


色々な事があった−主に俺の悪ふざけ−劉備軍を後にする。


−曹操軍 会議用天幕


「その汚らしい液しか詰まってない頭でも、

私が何を言いたいかはわかっているわよね〜?」


華琳の前ではMなくせに他にはSだな桂花。


「重々承知しております…」


一応俺が悪いから素直に頭を下げる。


「大体あんたは…」


ここからの罵詈雑言は割愛…要は今回の責任は俺にあるというのが1つ−申し訳ないとは思う−、

男が考えたような策が上手くいく筈が無いと言うのが2つ−おいおい−、

華琳の視界に入るなと言うのが3つ−関係無くなってきた−、

勿論桂花の視界にも入るなと言うより死ねが4つ−只男が嫌いなだけだろう−。


流石は軍師、こんな内容を遠回しにかつ語彙を尽くして喚き立てる。


−1時間後


「…わかったわね!」


「ワカリマシタ…ソウソウサマバンザーイ…」


「ならあんたはこれからどうするの!」


「ウスギタナイワタクシハスグニデモシニ……て、何でやねん!?」


いかん!素直に説教を聞き過ぎてマインドコントロールされる所だった、

いつの間にか正座させられてるし。


「ちっ!気付いたわね」


舌打ちすんなやお前。


「ふ〜危ない危ない、

まさか桂花にこんな特技があるなんてな」


「そのまま死ねば良かったのに…」


心の底から言ってやがるなてめ〜。


「悪かったとは思ってるんだよ?

只そろそろ明日に備えてだな…」


「その意見は却下よ。

華琳さまから好きなだけ時間をかけて良いとお許しをもらっているわ♪」


華琳の奴め〜!


「…ならば…」


俺はすっくと立ち上がり、


「何よ!逃げるつもり!」


「そんな事をしたら華琳からのお仕置きが怖い…」


徐々に桂花に近付いていく。


「なら何で立ち上がるのよ!」


喚きながらも警戒を強める桂花。


「逃げられないし、かと言ってこれ以上説教は厳しい…だから…」


顔を俯き加減にして近付いて一旦立ち止まり、


「体でお詫びするよ桂花ちゅわ〜ん!」


何の前触れも無くルパンダイブ!


「きゃ〜〜〜〜!?」


文官である桂花に俺の動きが読める筈も無く、

ルパンダイブからの−裸にはなってないよ?−抱き付きで動きを止める。


「いや〜!犯される〜!」


「犯すなんて…愛すると言ってくれ♪」


本気で嫌がる桂花だが腕力で俺に勝てる訳が無い。


「桂花…体で払うんだ…今夜は寝かさないぞ♪」


抱きしめたまま耳の横で囁けば、


「!!…いや〜!穢らわしい声が耳に!

止めなさい!離しなさい!何処かへ行っちゃいなさい!」


ニヤ〜リ♪

その言葉が聞きたかった。


「そうか♪そんなら何処かに去るとしよう♪」


言葉と同時に桂花を離して天幕を脱出するため入口にダッシュ!


「あっ!待ちなさい!」


「なんだ?やっぱり抱いて欲しいのか?」


「死んでも嫌!」


即答だよな〜。


「なら俺は去るのみだ〜♪」


入口を通過して脱出完了♪

背後で桂花が何か喚いているが無視無視♪


ある程度天幕から離れた所でダッシュのスピードを緩める。


「いや〜娑婆の空気は美味いね〜♪」


1時間説教なんてされていたから空気すら美味く感じちまう。


「さて…これからどうするか?」


今の時刻は大体4時過ぎ位、

会議が正午過ぎ−と言うより1時弱−から始まり何やかんやで1時間、

劉備軍へ移動したり話をしたりで1時間、

帰ってきてから桂花の説教が1時間で今の時刻になった。


「う〜む…」


選択肢は幾つかある。


1・自分の天幕に戻り休憩。


2・華琳の所に行って愛を語る。


3・陣営内の人間をナンパしてムフフ♪


4・他の陣営に行ってナンパしてムフフ♪


「どれも魅力的過ぎて選べねーな♪」


自由な時間がやっと出来たので妄想が広がるが、


「隊長!」


俺が出て来るのを待っていたのか凪が声をかけてくる。


「凪〜♪」


声は嬉しそうにしているが、

嫌なよっか〜ん!


「暇?暇だよな?俺と茶でもしばかんか?」


ここは勢いで!


「え?え、え?…って暇な訳無いでしょう!」


くそ!真面目な凪には効果が薄いか。


「なんだよ凪〜。

俺はやっと桂花の精神的拷問を抜け出してきて疲弊してるんだぞ?」


「…それはわかっていますが…何と言っても秋蘭さまが漏れ聞こえてくるお説教を聞いて、

男性の付近の通行を制限されましたから…」


聞いていたなら助けてくれよ秋蘭!


「なら…」


「駄目です!隊長が連合軍に到着されてからどれだけしか御自分の隊に居ないと思っているんですか!」


「だってよ〜」


泣いちゃうぞ俺。


「だってじゃありません!

まずは隊に戻っていただきます!」


「わかったよ〜…真桜か沙和辺りなら煙に巻けたか…」


ボソッと呟いたら、


「何か言いましたか?」


地獄耳か凪よ。


「いやいや何でもない!」


しかしこのまま隊に戻ったらまた休みが無くなってしまう。


(それは…仕方無いか…。

でも活力が湧かないな〜………そうだ!)


良い事思いついた!


「凪〜?」


「何ですか?」


「きをつけ〜い!」


いきなり号令!


「は!」


素直な凪ならやってくれると思っていたぜ♪


「逃げないから体勢を崩すなよ?」


「はい!」


逃げないと言う言葉で安心したのか元気良く答える。


「ならば凪に問う!」


「はい!」


調練のような掛け声で問えば元気の良い返答。


「凪は俺の事が好きか?」


「はい!……はい?」


引っかかったか凪よ♪


「そんならば…」


凪の正面に回り手を大きく広げてハグハグ♪


「回復〜♪」


抱きつくだけで首筋にキスもしないし耳元で囁きもしない、

胸の感触を楽しみもしないし−戦場なだけに鉄の胸当てで感触も何も無いのだが−尻を揉みしだきもしない、

正真正銘抱きしめるだけ。


「た、隊長!?」


「体勢を崩すなと言っただろう?」


甘く囁くのでは無く悪戯っぽく囁く。


「ですが…」


うむうむ♪真っ赤になっちゃって可愛ゆいな〜♪


「凪は俺が嫌いか?」


「…嫌いなんてそんな!…ですけど…」


真面目な凪だけにこんな所でのスキンシップは抵抗があるらしい。


「…大丈夫…秋蘭のお陰でここらに一般兵は近付かないさ…」


只抱きしめただけでわかる柔らかさ、

どんなに鍛えていてもやっぱり女の子だな。


「隊長首筋に息が!?」


「凪…可愛い♪

それにやっぱり女の子だな〜柔らかい♪」


少し腕に力を込める。


「た、隊長〜…」


顔を真っ赤に染めながらも困ったように眉を八の字にする。


「…よし!」


凪の限界が近いようなので解放する。


「凪分補給完了!

これで我が軍は後3年戦える!」


ウラガン壺を持て!


「…3年ですか?」


まだ真っ赤な顔色の凪が呟く。


「気にすんな♪俺の郷の慣用句みたいな物だ♪」


byガ○ダム。


「元気が出てきたぞ〜!

今なら呂布だろうが何だろうが一発で沈めたるで!」


かなりのドーピング効果だ。


「…それでしたら…良かったです…」


ボソボソと口の中で呟く凪。


「そんじゃ我が部隊に行くか!」


思い切り背伸びをして勢いをつけて歩き出す。


「あっ!隊長待って下さい!」


慌てて追って来る凪の声を背中に受けて、

面倒臭さを隠して颯爽と歩いて行く。


部隊についてみれば流石は問題児の集合体である神北隊、

楽進隊や干禁隊等といらんトラブルを起こしたり、

天幕の張り方が悪かったんだか一部の天幕が倒壊したり、

思わずトラブル起こした奴だけでも殺したろかとも思ったが、

何とか我慢して−真桜分と沙和分の補給によってね!ムフフ♪−対処したらば何時の間にか日は落ちて就寝の時間。


「疲れたび〜…朝から働き詰めじゃね〜か…」


華雄と張遼の朝駆け−時間的に夜襲よりこちらだろう−を迎撃して、

休もうとしたら三羽烏に説教されて、

そのまま西涼に根回しに行った後華琳と作戦会議、

それからは会議、劉備軍へ、そして自分の部隊の対処したら今の時間。


「俺はこんな真面目なキャラじゃないのに…」


凪分、沙和分、真桜分を補給しなければ途中で潰れていただろう。


今日の夜警は先鋒を逃した−すまん!−春蘭と親衛隊の半分を使って季衣がしてくれるから安心出来るので、

心置きなく休もうとしていると、


「失礼致します!」


しっかりと入室の挨拶をして、


「神北将軍!曹操さまがお呼びであります!」


ビシッと綺麗に敬礼する親衛隊員。


「………ダバダ〜」


地面に突っ伏しながら意味不明の声が漏れてしまう。


「……神北将軍?」


返事が来ないので−俺の格好を見て?−戸惑い気味に声をかけて来る。


「…はいはい…すぐ行くと伝えてくれ…」


俺の休憩時間〜!


「は、は〜…申し訳ないのですが、

曹操さまからお連れするようにと…」


(…華琳のヤロー!)


逃げ道が塞がれているじゃありませんか!


「…直接連れて来いと?」


「は!曹操さまより直接御指示を賜りました!」


語尾に♪がつきそうな位嬉しそうにする親衛隊員。


(まあ華琳の傍に居る時間は長くても、

華琳から直接指示をもらうなんて事は珍しいだろうからな)


何と言っても華琳はカリスマだから…何でもない事でも直接頼まれたら誇りになっちゃうんだよな。


華琳自身もそこらを重々承知しているから、

指示を出す時には基本的に秋蘭なり桂花なり−春蘭は…−を通すのに…。


(ち!凪辺りに用件を代わりに聞いておいてもらおうと思ってたのに)


俺の癒やしの休憩計画がパーじゃね〜か。


「…嫌だ〜!動きたくな〜い!」


この年になって駄々をこねてみる。


「か、神北将軍!?」


何時も華琳相手にポンポンやっている俺だけに、

かなり面食らったように硬直する。


「だってよ〜…聞いてくれよ!

昨日の夜襲からこっち休憩無しで頑張ったんだぜ?

内1時間は華琳のせいで潰れたような物だし!」


いきなり立ち上がって詰め寄る。


「うわ!?お止め・下・さ・い〜!?」


襟元を掴んで前後に揺さぶると面白い声が聞けたので少し溜飲がさがったから、

とりあえず親衛隊員を放してあげる。


「それに華琳の呼び出しの内容は大体見当つくし」


「ゲホ!ゲホ!…そうなんですか?」


咳はすれども非難はしない、

良い教育を受けてるな〜。


「大方昨日の夜襲時の警戒網が良かったから今日も使わせろって話だと思うし…」


「素晴らしいではないですか!」


華琳に評価されているだけで素晴らしいんだろうな君達的には。


「何が素晴らしいもんかよ…元々今回の警戒網は子飼いの密偵を使っていて、

誰かに顔でも見られたらそいつを切らなきゃいけないんだぞ?

初日は危険度が高いから慎重の上にも慎重を重ねて使ったが、

今日の夜警は主軍である春蘭の所だろう?

あの野生の勘なら夜襲察知も高確率で出来るだろうし、

俺が手塩にかけた密偵をこれ以上危険に晒したくない。

だから華琳の所に行っても仕方無い」


密偵の教育に金も時間もかなりかけてやっと満足いく能力を養ったのに、

こんな密偵的には土俵違いの所で馘首にしなければいけなくなったら悲し過ぎる。


「曹操さまの御提案を断るのですか!?」


「断るさ、俺が今理由を言ったろ?」


まあ君や春蘭、桂花辺りにはほぼ考えられない事だろう−桂花はたまに命を賭して反論したりするが−。


「そんでも行かなきゃいけないんだよな〜…」


行かなかったらこの親衛隊員に迷惑かかるし、

何より明日華琳に会った時に何を言われてどんな罰が待っている事か!


「あっ!そうだった!?

…申し訳ないのですがご足労をお願いします」


俺の空気に呑まれて用件を忘れていたようだ。


「しゃ〜ね〜な〜…わかった〜…なら着替えるから外出ててな」


今の俺の服装は西涼に会談に行った時と同じ、

着替える時間が無かったからかなり汗臭い。


「かしこまりました!

それでは入口脇に待機しておりますので、

着替えが終わりましたらお声をおかけ下さい!」


「ほいほ〜い…」


少し仕立ての良い上着を脱ぎ捨て軽く汗を拭った後、

肌触りは若干悪いが藍色の丈夫な上着に着替え、

華琳からの直接の呼び出しだから支給された髑髏の肩当て−春蘭、秋蘭とデザインが細部で異なる物−を装着して天幕から出る。


「お待たせ。

それでは先導を頼む」


正装した事で少し気持ちも引き締まったからきびきびと指示を出す。


「は!かしこまりました!」


内心かなり面倒臭いが足を運び華琳の天幕に到着する。


「報告致します!神北将軍をお連れしました!」


「御苦労様です」


そこで待っていたのは、


「ここからは私がお連れしますので、

あなたは隊に復帰して下さい」


「は!」


「…お待ちしていました兄さま」


親衛隊第二隊−まだ存在しないが−隊長に内定している流々だった。


「今日の護衛は流々か。

そうだよな、季衣は春蘭と夜警だもんな」


「はい…まだ親衛隊の方々に指示を出すのは慣れないんですが…」


そりゃ今まで村で何かの役職についていたかもしれないが、

こんな高度に組織化された軍の、それも親衛隊なんて言うエリート部隊−やはり主に成人男性−に指示を出さなければいけないんだからな。


「実力はあるんだからすぐに慣れるさ。

季衣だって最初は緊張していたけど、

今では慣れた感じだし流々だってその内慣れていくさ」


「…そんな物でしょうか?」


「そんな物さ、なんて言ったって俺でも出来てんだからな、流々ならもっと上手くやれるようになるって」


色々気付くし心配りも自然に出来るし良い隊長になるだろう。


「ありがとうございます!

兄さまにそう言ってもらえると心強いです」


頬を微かに朱に染めながらキラキラした瞳を向ける流々、

俺は汚い男なんだからそんな目で見ないでくれ。


「…可愛いな〜流々♪」


でも可愛いんだよな〜♪


「!いきなり何ですか兄さま!?」


「いやいやいきなりじゃないだろ?

何時も可愛いって言ってるじゃないか、

俺は本当の事しか言ってないんだからそろそろ慣れな」


「…慣れませんよ〜…も〜…」


恥ずかしがる様も可愛いな〜♪

食っちゃいたいけど華琳と協定結んでるしな〜。


「…華琳さまがお待ちですからどうぞ」


それでも職務を忘れないのが流々の良い所だな。


流々が天幕の入口を開けてくれたので感謝しながら天幕へと入る。


「神北隼人、思し召しによりまかりこしました」


中に華琳以外いないのは気配でわかるが、

一応外聞もあるから天幕に入り頭を下げて正式な挨拶をする。


「待っていたわよ隼人。

流々、あなたも話に混ざるかしら?」


華琳は鷹揚に頷いて俺を迎え、

流々にも水を向ける。


「いえ、今夜の私は華琳さまの天幕の歩哨ですから」


「そう?あなた達なら中に居ても十分周囲を警戒出来ると思うのだけれど?」


「それでも万が一がありますから。

それでは私は失礼します」


しっかりと自身の職務を自覚して実行する、

将たる者に求められる最初にして最大の能力、

だから流々は良い隊長…将になると思う。


「「………」」


そして流々が外に出るのを2人で見送る。


「…流々は…流々も逸材だな」


「…そうね…季衣だけでも良い拾い物だと思ったものだけど、

その親友まで逸材とはね…」


季衣との出会いを考えれば…拾い物と言う言い方も仕方無いか。


「ああ…可愛いしな…」


「そうね…可愛いわね…。

…抜け駆けしたら馘首じゃ済まないわよ?」


キラリ…いや、ギラリと瞳を煌めかせて牽制してくる。


「華琳こそ…立場を利用して物にしたら許さんからな?」


俺も負けずに牽制する。


「ふふふ…」


「ははは…」


狩猟者の目で見つめ合う2人。


「自分から促すのでは無く…」


「相手から求められるまで…」


「「抜け駆け禁止!」」


それでも俺がいただく!

当然華琳も狙っているがそれとこれとは話が別だ!


「…んで、用件を聞こうかな?」


牽制しあっていても話が進まない−休憩時間が無くなる−ので俺から切り出す。


「そうね、ならば話を始めましょう」


華琳も居住まいを正して空気を変える。


「昨日の夜襲時の早期警戒、報告、

素晴らしかったわ…」


「………」


やっぱりな。


「だけれども今日はその警戒態勢が敷かれていないようなのだけれど?」


「…そうだな…華琳の言う通り警戒態勢を解除している」


白を切っても仕方が無いので正直に告白する。


「理由を述べてもらえるかしら?」


冷笑を浮かべながら表面上穏やかに聞いてくる。


「何故ってな〜…昨日が特別なだけだっただけだしな〜」


しっかりと断らないと有耶無耶の内に了承した事にされるからな。


「特別だろうと何だろうと、

素晴らしい警戒態勢なら常態化した方が良いのではないの?」


「…昨日の警戒態勢は密偵を多数利用した警戒網だ。

あれを常態化するなら1年から2年はみてほしいな」


「…何故そんなに待たなければいけないのかしら?」


わかっているくせに〜!


「今居る密偵使ったら俺の情報網がズタズタになるだろうが。

今居る密偵を使いながら新しく密偵を育ててなんてしたら最短で1年半、

長くて2年はみてもらわないと困るがな」


それでなくても色々役職が増えて忙しいんだ、

ここに密偵の量産−軍の早期警戒用だとしても−なんてやっていたら体壊すわ!


「どうしても駄目なのね?」


「どうしても駄目だ」


「なら予算は減額ね」


「どうぞどうぞ…納得のいかない使われ方する位なら情報網自体潰した方がマシだ」


一切の妥協をしないからこそ信頼が生まれるんだ、

妥協する位なら最初から情報網なんて構築しない。


「それにそんなに言うなら桂花の所の使えばいいじゃんか?」


「桂花の密偵は既に使っているわ。

私は完璧を期したいと言っているの!」


「俺は無理だと言っている!」


またもや睨み合いの様相を呈す−さっきとは問題のレベルが違うが−。


「俺の所の密偵は桂花の所と違って少数精鋭なんだ!

1人でも削られたら大打撃なんだぞ!」


「そんな事は報告書と予算の使い方でわかっているわ!

そこを曲げて完璧を期したいと言っているの!」


「だから無理だと言ってるだろう!」


「そこをどうにかしなさいと言っているの!」


雰囲気がどんどん険悪化していく。


「無理だ!」


「どうにかしなさい!」


話は堂々巡りに陥り、そのまま数分の睨み合いが続く。


「どうしても譲れないの?」


「どうしても譲れないんだ」


「……仕方無いわね…なら、予算をつけてあげるから教育を急ぎなさい」


「え〜!面倒臭〜い!」


「なんですっ…」


華琳は俺の頬を掴んで思いっきり!


「…て!」


引っ張る!


「いひゃひゃひゃひゃ!」


これはあえてやらせているのであって、

逃げられなかったわけでは無い…本当だぞ?


「今何をほざいたのかしら?」


「いひゃいいひゃい!」


華琳の手をとり捻りは止めたが、

かなりの力で摘まれているので非常に痛い。


「手を離ひぇてくれひゃいと話ひぇ無い!」


涙目になりながらも−あえてやらせているとしても痛い物は痛い…本当だぞ?−何とか反論する。


「…発言を許しましょう」


やっと手を離してくれる。


「華琳!話し合いに暴力を使うのは反則だぞ!」


頬をさすりながら華琳を非難する俺。


「何か文句があって?」


「すいません華琳さま」


イッツ・ア・ジャパニーズ土下座!


「ですが私は既に自分の部隊と警備隊と情報網の管理で一杯一杯なんでごぜ〜ます」


「なら警備隊を免除しましょうか?」


「…後々は凪辺りに引き継ぐつもりだけど、

今はまだ無茶なんじゃないか?」


今はまだ融通がきかない凪だが、

何時かもう少し丸くなったら王李辺りを呼び戻して補佐につければ良い警備隊隊長になるだろう。


「ならあなたの隊を誰かに任せる?」


「あいつらは灰汁が強過ぎるからな〜。

春蘭に任せたら斬られそうだし、

秋蘭なら任せられそうだけど春蘭のお守りと併せては可哀想だし、

桂花辺り文官だと舐められて言う事聞かなそうだし。

これはやはり沙和辺りが成長したら任せようと思う」


何だかんだ言って沙和の人心掌握術は伸びしろが残っている、

それを引き出せれば十分任せられるだろう。


「なら情報網の管理は?」


「これこそ俺以外には勤まらないだろう。

桂花に任せたら…毛色がかなり違うからな…能率逆に下がるんじゃないか?」


俺の使っている密偵は別に曹操派の人間ではなく、

金と俺の考えに付いてきている奴等だから、

場合によっては反曹操を公言している奴だってかなり居る、

そんな奴等が華琳命の桂花の下についたら?

想像したくも無いな…。


「なら?」


「…これに関してはかなり時間がかかるが真桜に任せようと思っている。

当然1人じゃ厳しそうだから主な所を真桜に、

補佐に凪と沙和を充てるつもりだけど…今ははっきりと力不足だ」


真桜の実力は絡繰りの知識に裏付けられた効率的な考え方、

それは時に冷酷な判断を下す事であり利を持って人を使う事でもある。


そして何より必要なのは密偵達を掌握する術を見付ける事−金では動かない相手だってかなり居る−、

部下の三羽烏の中でこの能力が飛び抜けているのが真桜なんだ。


「…ならやはりあなたに暇は無いわね」


無情にも華琳が断言する。


「勘弁しろよ〜。

今だって遊廓に行く為にかなり無理な仕事してんだぜ?」


陰桃屋の桃姫ちゃんに雲雀屋の雀中ちゃんとか、

常連にならないと相手をしてくれない女もかなり居る。


「…話には聞いていたけど…」


微妙な顔になる華琳。


「これを削るのも無理だぞ!

たまに女と肌を合わせないと能率が下がるからな♪」


自分男なんで!


「…仕方無いわね…」


ここらは寛容だよな華琳…自分に照らし合わせれば…だよなぁ〜。


「ならばどうしろと言うのかしら?」


「諦めて今の警戒態勢の能力底上げをした方が良いと思う」


正直それが一番現実的で俺にも負担が少ない。


「…昨日の警戒態勢を見ると…惜しいわね…」


口惜しそうに眉をしかめる華琳だが、


「何時までも拘っても仕方が無いわね、

あなたの言う通りにしましょう。

でも警戒態勢の底上げにはあなたも参加するのよ?」


聞き方は疑問型だが実質命令だな、でも、


「その位なら譲歩しよう」


ここらが落とし所だろうさ。


「それでは帰ったら詳しく詰める事にしましょう。

話は以上よ、下がって良いわ」


お許しが出たか…だが、


「了解…なあ華琳?」


俺からも用件がある。


「何かしら?」


「今日俺は休憩無しで頑張った…だから賞与が欲しい…」


「果物なら今日は全部持って行って良いわよ」


それもかなり心惹かれるんだが…。


「今日はそれより…」


元々かなり近くで話をしていたので一歩で近付き、


「こっちが良いな♪」


不意打ちの頬にフレンチキッス。


「賞与いただきました♪

それじゃ俺は寝るわ!ア〜バヨ♪」


呆気にとられる華琳を残して天幕から逃げ出る!


「待ちなさい!」


丁度天幕を出た所で制止の声が聞こえるが、

止まったら何をされるかわからんのに止まりますかっての。


「兄さま!?」


「流々お休み〜♪」


いきなり飛び出して来た俺に驚きの声をあげる流々に挨拶を残し無事脱出成功!


その後俺は天幕に戻って熟睡した事を追記しておこう…至福の時〜♪


−次の日


「おはよ〜♪」


爽やかな朝の日の中!しっかりと睡眠をとり元気一杯の俺!


「おはよう隼人」


「遅いわ馬鹿者!」


朝のプチ会議の為に大天幕−華琳の天幕の隣−へと向かう途中春蘭、秋蘭姉妹と会ったので合流する。


「春蘭は夜警でほぼ起きていただけだろうが」


「そうだがそれがどうしたと言うのだ?」


とぼけている訳じゃないのかお前は。


「起き続けたお前に遅いと言われても困るだろ!」


「そんなのは知らん!」


言葉の通じん奴やな!


「なら秋蘭はどうなんだよ?秋蘭だって昨夜は寝ていたんだろ?」


「ああ…流石に夜警の次の日はぐっすり眠りたいのでな」


クスリと含み笑いをしながら答える。


「ほらほら秋蘭だって寝てたんじゃないか」


「秋蘭は良いのだ。

だがきさまは駄目だ」


「何故だよ?」


「理由など無い!

気に入らないから気に入らないのだ!」


論理になってね〜。


「…何でこんなに機嫌悪いの?」


何時もならもう少し…ほんのちょっぴり話がわかるんだが、

今日の春蘭には通じないので秋蘭にこっそり聞いてみる。


「…昨日の夜襲を覚えているよな?」


「当然だろ」


「それが原因だ」


…まさか。


「夜襲が無かったから?」


「そうだ」


アホか春蘭!


「何をこそこそ話しているんだ!」


「何でもないよ姉者」


「そう、少し料理に関して話していただけだ」


普通なら戦場で料理の話などしないが、


「ふむぅ…料理の事はわからん」


春蘭なら誤魔化せる。


「この前姉者にと餃子を作っただろう?」


「ああ!あれは美味しかったな♪」


「ふふ…満足してくれたなら嬉しいな。

だが、あれでも十分美味しいとは思うのだが後一工夫しようと思ってな」


そして止めの秋蘭からの援護射撃!


「お前にか〜?」


「なんだよ春蘭?前に作ってやった肉饅頭は美味しい美味しいと食っていたろ?」


「………」


まさか忘れたのか貴様。


「姉者、先日の遠征から帰って来た時の…」


見かねて秋蘭がフォローに入る。


「おお!あの饅頭は美味かったな〜♪」


「あれは隼人が作ってくれたのだろう?」


「そうだったか?」


美味そうに食ってくれるのは嬉しいんだが、

春蘭はこれだから困る…季衣なら間違っても忘れたりしないのに。


「そうだったんだ」


秋蘭、その顔はそんな姉者も可愛いな〜って顔だな。


「………」


でも藪は突っつきたくないので黙っておこう。


そんな話をしていると大天幕に到着する−俺の天幕は外苑近くだが2人の天幕はすぐそこだからな−。


「おっはよう流々♪」


「おはよう流々」


「うむ、おはよう流々」


「おはようございます秋蘭さま春蘭。

兄さまもおはようございます」


昨日の夜から歩哨に立っていた流々に朝の挨拶。


「しっかり休憩取ってるか?」


「はい!親衛隊員の皆さんと交代で仮眠を取りました」


うむゅうむゅ元気な応答が気持ち良いぜ。


「流々がここに居るという事は、

華琳さまは既に中にいらっしゃるのか?」


「はい、朝一番に到着されております」


「そうか…華琳さま〜♪夏侯元譲参りました〜♪」


朝からテンション高!?


「…夏侯妙才参りました」


「神北入るよ〜♪」


俺は秋蘭と一緒に天幕へと入る。


「皆おはよう…」


天幕の中には上座に華琳が座り脇に桂花、

他の席には−簡素な座布団があるだけだが−誰も居ないから季衣はまだ到着していないのだろう。


「おはようございます華琳さま♪」


「おはようございます華琳さま」


「おはよう華琳、桂花」


さあどれが誰の発言かわかるかな?

難易度は破格の0だ!


「春蘭…」


「はい!」


そんなに身を乗り出すなよ、

別に華琳が何処かに逃げる訳でなし。


「隼人を一発殴りなさい」


「はい!」


「…は?」


今何て言っ…、


「覚悟!」


バキョ!


「フェブ!…ラリーステークス…」


左の頬を思い切り殴り飛ばされる!


不意打ちなのでかなり痛いし、


ゴグリュ!


ロクな受け身もとれましぇん。


「…いひゃ…い…」


何とか声を絞り出す。


「春蘭止めも刺しちゃいなさいよ♪」


「おお!」


てめえらな〜好き勝手言いやがって。


「お止めなさい!

…春蘭、私は一発と言ったわよ?」


華琳の鶴の一声でピヨリ中の俺に止めを刺そうと躍り掛かる寸前で停止する春蘭。


「は、はい!申し訳ございません!」


「はぁい…命拾いしたわね!」


桂花、後で苛めてやるからな!


「隼人、何故殴られたのかはわかるわね?」


「…少し待ってくれ…頭がまだ…クラクラする…」


春蘭めしっかりと脳味噌揺らしやがって。


「…ふ〜…何とか回復したかな」


十数秒呼吸を整えてやっと回復した。


「で?」


「…昨日の賞与の件だろう?

あの位…」


「春蘭、追加で一撃入れなさい」


「はい♪」


なんで嬉しそうなんだお前は!


「華琳さまの御命令だ!

潔く一撃を食らうが良い!」


「ふざけろ!不意打ちじゃなければ…」


辛くも必殺の意志を込めた−おい!−一撃をかわすがそこは大きいとはいえ天幕の中、

かわし続けるには無理がある。


「ちょこまかと!」


「うりぇ!?」


熊位なら一撃の下に沈められるパンチをかわしたと同時に春蘭が飛びかかって来る!


「なんの!」


固められる前に春蘭の手の平を捕まえてがっぷり四つに組み合う。


「力で私に勝つつもりか!」


「勝たなくても負けなければいいんだよ!」


曹操軍中季衣と流々に次いで力持ちの春蘭相手に、

組み合うのは遠慮したかったがこうなってはどうしようもない。


「ぬぐぐぐぐぐ!」


「にぎぎぎぎぎ!」


それでも最初は何とか拮抗させる。


「おおおおおお!」


「ぐぬぬぬぬぬ!?」


しかし力の継続率では勝てる訳もなく、

どんどん押し込まれていく。


(ぐぬぬ!ある程度押し込まれたら投げ飛ばしてやる!)


かなり苦しいが逆転の一手は俺の手の…、


「秋蘭、手伝いなさい」


「は!…悪いな隼人」


中から飛び出した…って待て秋蘭!


「ふっ!」


秋蘭の体が沈んだ瞬間、


「のわ!?」


俺の足に軽い衝撃があったと感じたと同時に、

接地感が無くなると共に浮遊感。


「秋蘭!でかした!」


春蘭が抵抗が無くなったので一気に押し倒してくる。


ドスン!


「ぐえ!」


春蘭め全体重をかけて押し潰しやがって、

蛙が潰れたような声を出してしまう程の衝撃だ!


「さて隼人…何か言い残す事はあるか?」


馬乗りになり調子にも乗る春蘭。


「…春蘭に押し倒されるなんて…優しくしてね?」


ぶりっ子ポーズでおちょくるがかなりのピンチ!


「誰が優しくするか!するか!するか!」


直線的なパンチの連続なので何とか首を振り、手でそらして防御する。


「ふい!ほい!そいや!…絶景かな絶景かな♪」


下から見上げると春蘭の胸が一層美しく見えるぜ♪


「何処を…」


何発目かのパンチをかわした時に、

春蘭が拳を引かないので疑問に思うと、


「見て…」


そのまま拳を引かずに俺の髪をガシッと掴み、


「おい!?そりゃ反則だろう!?」


「いるか!」


俺の抗議も虚しく右頬にキツい一撃!


「ぶべら!」


顔の形が変わるかと思える程の一撃、

しかも力の逃がしようもないマウントポジションでだ。


「華琳さま♪御命令を遂行致しました♪」


「御苦労様春蘭。

隼人?生きているかしら?」


ピクリとも動かない俺を心配した訳では無い、

只、儀礼的に聞いただけだ。


「……死んだ〜…」


手加減と言う物を知らない春蘭の一撃は流石の俺でもかなり辛い。


「そう…なら本日の会議を始めましょう」


酷いよ華琳〜。


「あら?そう言えば季衣はどうしたのかしら?

流々は外で警備をしているのだけれど…春蘭?」


「はぁ…夜警の終わりに肌着だけでも替えてくると言っていたのですが…」


その後はわからないと言葉を濁す。


と、噂をすれば影ではないが、


「季衣!もう会議始まっちゃうよ!」


「ゴメ〜ン!着替え何処に入れたか忘れちゃって…」


「だから荷物の一番下なんかに入れない方がいいって言ったじゃない!」


「ゴメンてば〜…ってボクが最後?」


「そうだよ!早く入ろ!」


丸聞こえだよ2人共。


そして天幕の入口が捲られ2人が入って来る。


「遅くなりました!許緒入りま〜す!」


「同じく典韋入ります!」


2人が天幕に入って見た物は…春蘭の足下で両方の頬を腫れ上がらせた俺の姿。


「遅いわよ季衣」


「すいませ〜ん!実は…」


「理由はいいわ、外の会話が中まで聞こえていたもの」


クスリと笑う華琳、

あれだけデカい声で話せばそりゃな〜。


「え?…えへへ…」


「もう…季衣のせいで笑われちゃったじゃない…」


照れ笑いを浮かべる季衣を流々がこっそり小突く。


「それにしても兄ちゃんどうかしたの?」


良い子だな季衣は、

しっかり俺を心配してくれる。


「…うううう…春蘭に殴られた…」


優しい季衣の言葉に涙が溢れるぜ。


「駄目じゃないですか春蘭さま〜」


もっと言ってやれ季衣!


「ぬ?…私は華琳さまの御命令を遂行したまでだ」


「あっそれなら仕方が無いですね〜♪

兄ちゃん華琳さまを怒らせちゃ駄目だよ?」


この世には神も仏もいやしないんだ。


「…なんで俺が悪いって決めつけるんだよ?

もしかしたら華琳の方が悪いかもしれないじゃんか…」


「それは無いよ〜♪」


「無いですね♪」


「無いな」


「無いわね…て言うか何で死なないのよ」


「あるわけ無かろう!」


一斉に否定された…グレるぞ俺。


「はいはいそうですよ私が悪いんですよ〜だ!」


ほらグレた。


「反省していないようね…春蘭…」


「いや待たれい!」


これ以上殴られたら身が出ちゃう!


「私が悪うございました…十分反省しましたのでお許し下さい」


これ以上ふざけると命の危機を迎える可能性が出てくる。


「最初から素直にそう言いなさい」


「すいませんっした!」


何で会議が始まる前にこんなに疲れないといけないのか?

それは自分のせい以外の何物でもない!


「それでは華琳さま、全員集まったようですので…」


一段落ついた時を見計らって秋蘭が話を進める。


「そうね、ならば始めましょう」


「ほら!さっさと席につきなさい!」


華琳の号令で各自適当に席につく。


「それでは今回の議題を説明します。

宜しいでしょうか華琳さま?」


「任せるわ」


その後は軽いディスカッションを移動開始時刻の1時間前まで行った。


−数十分後


「…紹軍からの全体的な作戦方針等は、まだ連絡が無いので入り次第順次連絡を入れます」


昨日の今日だしね。


「それでは以上で会議を終了としたいと思います。

諸将においては本日のシ水関への攻勢に向けての準備等、

怠り無いよう確認を行うように…以上です華琳さま」


身内の会議とはいえ公の場なので畏まって話を振る桂花。


「御苦労様、桂花。

では、秋蘭…」


「は!会議は以上を以て終了とする、解散!」


秋蘭の締めの言葉で会議は終了、

華琳と護衛の流々を残して各自の分担された仕事をこなしに散っていく。


俺も隊の移動準備の為に自分の天幕に向かう。


「おはようございます隊長」


「隊長おはよー♪なのぉ♪」


「おはよーさん隊長」


天幕に戻ってみると我が愛しの三羽烏が待っていた。


「皆おはよう。

しかし沙和、何でそんなに元気なんだ?」


「昨日は隊長ががんばってくれたから、

沙和は凄い早く寝られたのぉ♪

美容は睡眠から♪今日の沙和のお肌は艶々なのぉ♪」


うむ、気付いていたが今日の沙和の肌は何時にも増して艶々だ。


「どれどれ…」


沙和の顎を摘みクイっと引き寄せる。


「あ…」


「ふむ…相変わらず可愛いが…今日は一段と可愛いな♪」


良い睡眠をとった証の艶やかな卵肌、

昨日がんばって良かったぜ。


「…隊長…」


おや?どうした沙和そんなに潤んだ瞳をして−確信犯が居ますよ〜!−。


そこで甘い雰囲気になるかと思いきや、


「あ〜!?ずるいで沙和〜!

隊長うちもお肌ツルツルでっせ♪」


「………」


真桜が茶々をいれて来て珍しく凪も不満そうだな。


…やはり2人きりの時じゃないと強引な誘いは成功しないか。


「もぉ〜!真桜ちゃん達うるさいのぉ〜!

せっかく隊長がその気になりかけたのに、

邪魔しないでなのぉ!」


「何を言うてるんや沙和!

それを言ったら抜け駆け無しって言うてたのに、

簡単に約束を破ろうとした自分が悪いんやろ?」


「…ずるは良くない」


ニヤニヤ♪俺を中心に3人が言い争う、

男冥利につきるってもんだぜ。


「だけど…」


俺は手をパンパンと2回叩いて注目を集める。


「話はそこまでだ。

続きは戦が終わってからにして、

真面目な話するから聞いてくれ」


自業自得だが話が進まないのが玉に瑕。


「はい!」


良いお返事だ凪。


「「え〜!」」


悪いお返事だ真桜、沙和。


「…それじゃあ2人は馘首にして凪だけに話をしような?」


「へ?…でも…それは…」


曹操軍に入る前からの仲間のまさかの馘首宣言に戸惑う凪。


「な!?待って〜な隊長〜…」


「そうなのぉ!ちょっとした冗談なのぉ!」


必死の表情で食い下がる2人。


「冗談〜?…俺も冗談〜♪」


逆に辞めたいと言ってもそう簡単には辞めさせないよ。


「…勘弁して〜な〜隊長〜…」


「沙和の心臓が止まるかと思ったのぉ…」


「なら、しっかり冗談を言っても良い雰囲気なのかを確認して発言するように。

特にここは一応戦場なんだから、

指示を聞き漏らしたなんて言っても言い訳にはならんからな」


安心して一息つく2人に訓戒を垂れて頭を突き合わせる。


「昨日の指示と同じく本日のシ水関への攻勢の時には神北隊は凪に預ける。

俺は劉備軍に協力して華雄を誘い出す餌になりに行くから、

他の雑務に関しても基本的に凪に任せる…」


「は!」


「…沙和と真桜は凪を補佐を頼む…」


「はい!なのぉ」


「了解や!」


「…今回曹操軍は後詰めだから戦闘は無いとは思うが、

何かあれば3人で相談するか桂花辺りにでも指示を仰げ…」


ここらは何時も通りなので首肯で応じる3人。


「…一応3人共ちゃんとした軍同士の戦闘は初めてなんだ、

緊張するなとは言わないから戦場を良く観察して次に生かせ!」


「は!」


「わかったのぉ!」


「任せてんか!」


自分で何と言おうとやっぱりこの娘達は武人だ、

何故なら初めての戦場でも物怖じしない胆力を持っている。


その後、各隊の元に向かい天幕の解体作業等を監督して、

曹操軍の全部隊が作業を終えた−神北隊が一番遅かったのは秘密だ−と同時に行軍の銅鑼の音、

遂にシ水関への行軍が始まる。


−30分後


「あれがシ水関か…」


流石は難攻不落!驚天動地!一撃必殺シ水関!

遠くからでも攻め落とす事の難しさが見て取れる。


まずは外見からわかる砦としての機能は、

正面に見える門は数百人単位での出入りを想定された巨大な物だというに、

扉自体が恐らく鋳つぶした巨大な鉄を削りだした物なのだろう、

継ぎ目が一切無いし力で破るのは難しいだろう。


そして壁面は石を四角く小さく切り出した物を根気良く積み上げた努力の塊、

凹凸が完全に無いとは言わないがかなり滑らかで、

一応俺は登るだけなら簡単かもしれないが1人で出来る事には限りがある。


そしてこのシ水関の1番の嫌な所は立地だ。


前面に堅固な城壁を持ち、

サイドは岩山とは名ばかりの錐の様に研ぎ澄まされた巨岩が峰を形成し、

また、その峰はシ水関をから放射状に広がって言わばシ水関は蟻地獄の底に蓋がされている、

又は漏斗の先が詰まっているような形なのだ。


そしてそんな立地だけに関の前の空間は狭く、

多くても20,000の兵を展開出来るかどうかという狭さ、

これでは連合軍の強味の1つである大兵力は封じられたようなものだ。


「…正面から切り崩そうとしたら一週間じゃ足りんな…」


成功するかはわからないが策があって本当に良かった。


「それじゃあ俺は劉備軍に行く前に、

華琳の所に寄るから後は任せた」


「「「了解!(なのぉ)」」」


部隊を3人に任せて出発しようとした所で思い立つ、


「…と、思ったが、

沙和、少し一緒に来てくれ」


振り返って沙和を呼ぶ。


「私〜?」


いきなりの指名に吃驚する沙和だが、


「了解なのぉ♪」


一瞬後には笑顔で駆け寄ってくる。


「悪いな凪、真桜、

沙和には伝令役を頼みたいんで連れて行く。

干禁隊は2人で纏めてくれ」


「は!」


「え〜!沙和だけかいな?

ウチじゃあかんのですのん?」


聞き分けてくれる凪と不満タラタラの真桜。


「悪いとは言わないが、

今回は沙和が適任なんだ。

悪いが時間が惜しい、

不満は後で聞いてやるから今は聞き分けてくれ」


「ほんなら後で理由を説明してな?」


「おう!約束するよ。

んじゃ、沙和!出発するぞ!」


「はい!なのぉ♪」


元気の良い返事を聞くと共に、

まず華琳の元に向かう。


−曹操軍の先頭部


「御苦労さん、華琳に会いたいんで通してくれ」


行軍が止まる寸前だった事もあり先頭部まではすぐに到着する事が出来たので、

華琳を十重二十重に囲んで護衛している親衛隊に声をかけて通してもらう。


「おす!華琳、朝振り♪」


朗らかに華琳に挨拶したら、


「何が朝振りよ!ってか華琳さまに対する言葉使いをどうにかしなさい!」


華琳からの返事の前に桂花に噛みつかれる。


「何だよ桂花〜…何時もの事じゃん?」


「その何時もの事をどうにかしなさいと…!」


「桂花やめなさい、隼人もよ」


さらに噛みつこうとする桂花を華琳が止めてくれる。


「ですが華琳さま…」


それでも不満そうに華琳を見る桂花。


「桂花、私は同じ事を2度話すのは好きでは無いわ」


声を荒げるでもなく静かな調子で話す華琳だが、

その言葉で桂花は完全に口を噤む。


「それで隼人、私に何か用があるのではなくて?」


「ああ、今から劉備軍に行くんだが、

あちらの詳しい策を聞いたら沙和を伝令に出す、

後の動きは好きにしてくれ」


ポンと沙和の肩を叩いて連絡。


「わかったわ。

沙和、頼むわね」


「は、はい!」


まさか直接報告する事になろうとは思っていなかったのか沙和は一瞬口ごもるが、

華琳の前なのでハッキリと返事をする。


「んじゃ、改めて行ってくるよ」


華琳が良い具合に鼓舞してくれたので沙和のテンションも良い感じ、

この時を逃さずさっさと出発する。


「…ねえねえ隊長〜♪」


劉備軍までの道すがら沙和が話を振ってくる。


「御機嫌だな沙和」


「だって華琳さまに頼むって言われたんだよ〜?」


華琳は自国のファッションリーダーとして確固たる地位を確立している−普段着は春蘭や秋蘭が用意しているが当然本人のセンスも◎−、

言わば沙和にとっては神に値する人物なのだ。


「それじゃあしっかり頑張らなきゃな?」


「当たり前なのぉ♪」


いつもこの位のやる気を見せてくれたら…いや、無い物ねだりはよそう。


−劉備軍本陣


「よっ!昨日振り」


昨日の内に話が決まっていたので問題無く一刀の居る本陣に到着。


「「「「………」」」」


「ぬぉ!?どしたのみんな?」


明るく挨拶したのに一刀達−将は基本配置についているので劉備ちゃんと諸葛亮と鳳統−からは呆然とした視線。


「ぬ?ぬ?ぬ?…別におかしな格好はしていないと思うが?」


今日の俺は一応戦場に立つと言う事で、

藍色の体のラインが出る位ピッタリとした上下、

それに何時もの籠手と華琳から支給された銀の髑髏を象った肩当て−春蘭の物と似ているが細かい造作が劣る−、

そして腰には破山剣と軽装は何時もの事なのでおかしい程の所は無いと思う。


フルフル…


俺の言葉に一刀が首を振り、

この時代では高級品である本物の紙−竹簡等の代用品でなく−を一枚差し出してくる。


「その紙切れがどうした?」


聞いても首を振るだけで答えは返って来ない。


仕方無いので紙切れを受け取り何が書かれているか確認する。


「…雄々しく、勇ましく、華麗に前進!連合軍盟主・袁本初。

…なんだこれは?」


いきなりスローガンなんて見せられても困る。


ってかこんなの書いてる暇があればさっさと戦闘方針の概要を決定しろよ、

もうシ水関に到着しちまったんだぞ。


「…方…針…」


「あ?もちっとしゃんと喋れや一刀」


やっと言葉を発したと思ったら掠れていてよく聞こえない。


「…それが…」


「おう、これが?」


「…方針の概要だそうです…」


搾り出すように説明してくれた。


「……まさか〜?」


一刀の一流の冗談だよねと周りを見回すが、


「…袁紹軍の兵が…」


「…紙に書いている通りに口上を述べていって…」


「…以上が袁紹さんからの御指示だって言って…」


そりゃこんなふざけた作戦−と、言って良いのか?−を聞かされたら呆然ともするわな。


「…袁紹を盟主にしたの失敗だったか?

いや!戦局を進める為には最善だった筈!

俺は間違って無い!そうだ間違って無い!」


思わず自問自答してしまう俺。


しかし袁紹よ…どこまで天然阿呆を晒すつもりなんだ?


「…さて、呆然としている理由はわかったが、

このまま何もしない訳にもいかないんださっさと回復して話を進めよう!」


仕方無いので神北隼人の一喝発動!


「…そうですね…あまりの事に不覚にも思考が停止してしまいました。

雛里ちゃん…」


「うん、そうだね朱里ちゃん…」


俺の喝に最初に反応したのはやはり二大軍師からだった。


「2人の事だ何かしら方策は決まっているんだろう?」


「はい、一応シ水関に到着した時に敵が打って出て来る可能性もありましたから」


猪突猛進型の華雄でも流石にそんな下の下の下策は執らなかったか。


「なら俺の出番だな?」


「はい、神北将軍に…」


「めんどいから隼人だけで将軍もつけなくて良いよ。

何て言ったって義弟の懐刀2人だしね」


正直可愛い娘に将軍と呼ばれるより名前で呼ばれた方が嬉しいし。


「え!?…御主人様?」


そんなに驚かなくてもいいと思うが、

一応御主人様である一刀にお伺いをたてる。


「隼人さんがこう言ってくれてるんだ、

良いんじゃないか?」


「は、はい」


改めて諸葛飾亮は俺に向き直り、


「それでは隼人さん」


しっかり名前で呼んでくれる。


やはり一刀にぞっこんなので俺の名前を呼ぶ如きでは照れないか。


「今回の作戦はこうです。

まず、砦に向かい一度攻勢をかけて様子を見ます」


「そして…反応が芳しくなかった場合…隼人さんに華雄を挑発していただきたいと思います」


相変わらず交互に説明してくれる2人、

でも鳳統ちゃんも少しは俺に慣れたのか沈黙が少なくなっている。


「わかった。

ならば一当てして相手が出て来たら…」


「…来ていただいて恐縮ですが、

そのままこちらの策を実行させていただきたいと思います」


「ですが、その可能性は薄いと…思います」


まあそりゃそうだ。


「なら、挑発した後出て来なければ普通に戻って来るけど、

成功して追いかけられた場合は?」


「その場合布陣出来るギリギリの所に愛紗さんと星さんの部隊を待機させますので」


「申し訳無いのですが…そこまで自力で辿り着いていただきたいと…」


本当に申し訳無さそうに言う鳳統だが、


「俺の事は気にしないで良いよ。

非常に合理的だし俺も足には自信があるからね」


俺は全然気にしていない。


「そこまではわかった。

それでその後は?」


まさか正面から当たる訳じゃないだろう?


「隼人さんの挑発が成功した場合は…」


ここでチラッと俺の後ろに視線を移す。


「ああ、そう言えば紹介がまだだったな。

彼女は干禁、俺の下で部隊長を務めてくれている」


「よろしくお願いしま〜す♪」


他の軍に来ても何時もと変わらない沙和−俺の様子から遠慮の必要無しと判断した可能性は否定しない−。


「そんで俺の女候補。

だから一刀は近付かないように!」


ついでに牽制も入れておく。


「俺を何だと思ってるんですか隼人さん!」


「チンコ大魔神!性欲絶倫王!劉備軍のスケコマシ!」


「ううぅ……」


ツッコミは良かったがクロスカウンターツッコミの俺の勝ち!


「まあ仕方無いっちゃ〜仕方無いんだがな」


マジで苦悩し始める一刀がうざ…かわいそうなのでフォローを入れる。


「近くにこんな魅力的な娘達が居て、

しかも好意を持ってくれている!

これで手を出さないなんて男じゃね〜!」


拳を握り締めての力説!


「しかも!嫉妬はするかもしれないが、

一刀位の立場なら風習として一夫多妻が認められている!

悩むな一刀!何と言われようと想う娘が居る限り!

口説いて口説いて口説き続けるんだ!」


力無く膝をついた一刀の肩に手を置いて空を指差す。


これぞ一発ネタ巨○の星!


「…隼人さん!」


俺を潤んだ瞳で見上げる一刀。


「…なんてどうでも良い事は後回しにして!」


ズベシャ!


顔から突っ伏す一刀、

相変わらず良いリアクションをする奴だ。


「時間も勿体ないし一刀は無視して。

今回の策では俺がかなり重要な役回りを担うんだ、

策が成功した場合の動き位うちに教えてくれてもよかろう?」


勿論こちらの要求が呑めないなら協力はしない、

と言外に匂わせる。


「……桃香さま?」


「どうしたの朱里ちゃん?」


いや、アイコンタクトでわかりなさい。


「作戦の概要が曹操軍の方々に筒抜けになってしまいますがよろしいでしょうか?」


めげずに−何時もの事なのかもしれんが−お伺いをたてる。


「当然大丈夫だよ♪袁紹さんの軍には悪いから言えないけど、

曹操さんの所には迷惑かけないでしょ?」


…もう少し隠さないで良いのか?

今の言葉だけでも袁紹に報告したらヤバいと思うんだが。


「はわわ!?桃香さま!それは秘密ですよ〜!」


「秘密です〜…」


苦労するな2人。


「え?何で何で?」


本気でわかってないな劉備ちゃん。


「劉備ちゃんももう少し腹芸出来ないと……すまん、忘れてくれ。

腹芸が出来る劉備ちゃん想像したら怖くなった…」


ホンワカした満点の笑顔の裏で策謀を巡らす劉備ちゃん、

ありだとは思うが恐ろしい!


「どうしたんですか?」


「いや、何でもないから気にしないで。

それより許可が出た事だしその後の策を聞こうか」


気をとりなおして諸葛亮に先を促す。


「…わかりました。

では、今回の策の立案者である雛里ちゃんに説明してもらいます」


「…それでは説明します…」


そしてその後の策の概要−全てが上手く行く訳では無いからファジーな部分もかなりあるが−を説明してもらい、

大体の流れを理解した上で沙和と共に一言。


「えげつないのぉ」


「えげつないな」


作戦の概要はこうだ。


まず俺が挑発して華雄か張遼−まず出て来るとしたら華雄だが−を誘い出し、

全軍が関から出る前に関羽隊、趙雲隊で1当て−これで張遼が出て来ても機動力を一時封じられる−、

次に2隊を下がらせる事で追撃させ関から引き離す、

そこから逃げに逃げて袁紹軍の手前まで引っ張り出し、

そしてそこに張飛隊を援護に向かわせて足を鈍らせた所で全軍を2つに割る、

するとあら大変!華雄軍の目の前には袁紹軍の大軍が現れる。


軍隊なんてのは前に進むのは得意でも横や後ろに進むのは難しい物だから、

華雄軍はそのままの勢いで袁紹軍に突っ込むだろう、

最後に盛大な泥仕合をしている華雄の首級を挙げれば終了。


この作戦のえげつない所は、

劉備軍の作戦なのに被害の出る所の大半を袁紹軍になすりつけている所だ。


勿論軍がぶつかり合うのだから劉備軍にも多数の被害は出るだろうが、

袁紹軍の予想される被害から比べると微々たる物だろう−猛将華雄の軍が相手だからな−。


「しかしそれだけに効果は期待出来る」


えげつないのは言わば誉め言葉だ。


「しかし相手が出て来てすぐ1当てすると退却されちまうんじゃないか?」


「…可能性は…ありますが、

張遼将軍の騎馬隊を警戒するなら仕方無いんです…。

…後は愛紗さん達を信じるしかないかと…」


そこは関羽と趙雲の腕の見せ所か。


「ふむふむ…作戦はわかった。

それじゃあ決行時間まで俺は待機させてもらう。

沙和、行くぞ」


話は終わりのようなので沙和を連れて本陣から離れる。


「さて、沙和?華琳への報告は大丈夫そうか?」


ある程度離れて周りに劉備軍の兵が少なくなった場所で話を始める。


「任せてなのぉ♪

劉備軍の作戦内容は細大漏らさず報告してみせるのぉ!」


華琳の鼓舞してくれた効果がまだ続いていたのか沙和のテンションはかなり高い。


「よし!その意気だ!

…そんでな、ついでに伝言も頼む」


「伝言?」


「ああ、沙和にとってもかなり重要な伝言だ…」


俺の前置きに沙和は居住まいを正して聞く姿勢を整える。


「…恐らく、恐らくだが…沙和が報告に行く時に華琳はかなり怒っている筈だ…」


理由は述べる必要も無いが袁紹のあのお馬鹿作戦のせいだ。


「えぇ〜!?何で怒ってるの〜?」


…そう言えばあの場に3人は居なかったんだっけ。


「…華琳は頭悪いの嫌いだろ?」


仕方無いので軽く流れを説明、


「うん…」


しようとしたら反応が悪い、

理由は何となく予想はつくが。


「沙和〜?春蘭は馬鹿だけど頭はそこまで悪くないんだぞ〜?」


「な、何なのぉ!?沙和は何にも言って無いのぉ!」


「それに、季衣にも言える事だけど、

春蘭達は将軍としての能力はかなり高い、

比べて袁紹は将軍では無く君主だからな。

求められる能力も責任も段違いだ」


何か沙和が言い訳しているが聞く耳持たん。


「華琳が出来る君主だけにな〜…今回の袁紹の方針は許せんのだろうな」


全体会議が進展しなかった時もそんな所に怒っていたのだろうし。


「ほぇ〜なのぉ…」


「だから沙和には劉備軍の作戦と併せて伝言も頼む。

かなりの重要任務だ。

何てったって春蘭や秋蘭、季衣に流々、桂花に果ては親衛隊のみんなの精神の安寧がかかっているんだ!」


多分またピリピリモードになっているだろうからな。


「はい!なのぉ!」


「うむ、良い返事だ。

それでは、伝言の内容はこうだ…」


まず、袁紹の戯言は一先ず置いておけと言うのが1つ、

劉備軍の軍師はやはり侮れないと言うのが1つ、

最後にこちらの作戦が成功した場合思うところがあるので合流するのが遅れると言うのが1つ。


「…これを作戦内容の報告の前に伝えるんだ」


「前に?ってそれより思うところって何なのぉ?」


「それは可愛い俺の沙和にも教えられないな〜。

まあ、夜までには必ず軍に合流するから安心しな」


俺の答えになっていない返答にむくれる沙和の頭をポンポンと叩き宥め、

時間もそれ程余裕が無いので華琳の元に送り出す事にする。


「そんじゃあ報告と伝言頼むぞ。

くれぐれも伝言を先にな?」


「…ぶ〜☆わかったのぉ」


完全に納得はしてくれていないのだろうが、

何とか引き下がってくれたので今度こそ本当に送り出し俺も一刀達の元に戻る。


「よっ一刀、部隊の展開速度からいってそろそろ頃合いか?」


「隼人さん…そうですね、俺にはよくわからないけど、

朱里や雛里が忙しくなってきたからそろそろだと思います…」


何だか一刀が暗い気がする。


「…何かあったのか?

他軍の俺で良いなら話位聞くぞ?」


「…ありがとう隼人義兄さん。

…これからまた…戦争が始まるんですよね?」


「だな…まだ慣れないか?」


まさかとは思ったがまだ踏ん切りがついていないんだな。


「…俺にとって戦争って言うのは何処か遠い国の出来事でした…。

…でも…この世界に来て、

桃香や愛紗、鈴々や沢山の仲間を守るため、

俺を信じてくれた民のために…そして自分が生き残るために人を殺す…。

それも自分の手を汚さずあんな優しい娘達に……そう考えちゃうと…何て言うか…」


「卑怯に思える?」


言い難そうなんで俺が言ってやる。


「…そうです…凄く…卑怯に思えて……。

俺に力があれば……いや、駄目ですね、

俺にはとても人を殺す事なんて出来ない…」


苦しそうに、悲しそうに心情を吐露する、

それに対して俺は、


「…一刀…お前はそれで良い…」


「え?」


「俺が野郎相手に真面目に話すなんて珍しいんだ、

だから良く聞いておけよ?」


しっかり前置きをしてから俺の考えを口にする。


「俺は元居た世界でも人を殺していたし、

はっきり言ってしまえば命が尊い物だなんて思っていない。

俺は自分と周りにいる大切な人達が生きていれば、

その他の人間が死のうが生きようが興味を持てない。

そしてそこまででは無くともこんな時代に武人なんてやっているんだ、

お前の所の娘達だって人の死を覚悟し…受け入れている…」


そうでなくてはあれ程の腕にはなれない。


才能があろうがゲーム感覚で腕を磨く者なんぞ怖くも何とも無い、

逆に覚悟を決めた人間程手に負えない物も無い。


「…だからお前はそのままで良い。

場合によっては両刃の剣になろうとも、

そんなお前だからみんなが集まってる、

お前達の理想に共感してくれている。

だからお前はそのままで良いんだ」


「義兄さん…」


一刀は恵まれた世界に生まれたんだろう、

何の下心も無く人に優しく出来る。


それは人によっては嫌みに感じられる事もあるが、

一刀の良い所で優しい人柄−まあ優柔不断とも言うが−からか嫌みに感じない。


それは持って生まれた天性で真似しようとしても真似出来ない物だ。


「お前はお前らしくみんなを支えれば良いんだ」


一刀の肩に手を置き諭す。


「…ありがとうございます…何か心が少し軽くなりました」


心なしか一刀の顔色も回復したようだ。


ならば、


「…とま〜それも本当に思ってる事なんだが、

曹操軍の将軍としてはさっさと劉備ちゃん達には降伏してもらって、

三国体制にならない方がありがたいんだよね。

て事で連合軍が解散したら纏めてうちの軍に来ない?」


あまりにもマジでクサい台詞を言い過ぎたので中和中和。


「…それは出来ません。

義兄さんに曹操さんが居るように俺には桃香が居ます。

俺に何が出来るかわからないけど、

桃香の理想を助けたいと強く想うから」


今度こそ吹っ切れたのかな?良い笑顔で答えを返してくる。


「…やっぱりクサい台詞は一刀の方が似合うな。

俺は喋ってる間中蕁麻疹が出るかと思っていたが、

主人公体質の一刀は真顔でクサい台詞を吐けるもんな〜」


うんうんと頷き確信する。


「なっ!?そこで落とすの!?」


「当たり前だろうが。

俺とお前が話していて真面目一辺倒で終わる筈があろうか?いや、無い!」


即答&断言のコンボで一刀を撃破していると、

兵達に指示を出していた劉備ちゃんと諸葛亮が戻ってきた。


「戻っていらしたんですね隼人さん。

そろそろ作戦を開始するので呼びに行こうと思っていた所です」


流石に諸葛亮は大きな戦の前なので若干緊張気味だ。


逆に、


「御主人様どうしたの?」


劉備ちゃんはそんなに緊張していないようだ。


まあ流石は後の蜀王劉備と言った所か。


「一刀の事なら気にするな。

またじめじめと暗かったから精神に喝を入れてやっただけだ。

それより鳳統は?」


ヘタレの一刀は置いといて、

何時もは諸葛亮とセットで登場する鳳統が今は居ない。


「雛里ちゃんなら愛紗さんの部隊に居ます。

何かあった時にすぐに対応しなければいけませんから」


「関羽の部隊か…最前線だな…」


身を守る術の無い女の子が行くには辛い場所だろうに。


「大丈夫ですよ。

愛紗さんならきっと雛里ちゃんを守ってくれます…」


掌をギュッと握り、

自分に言い聞かせるように話す諸葛亮。


「ふ〜ん…なら俺も前線に向かおうかな?

全軍の配置はどの位で完了するんだ?」


「後5分以内には完了します」


兵の数が少ないとはいえそこそこ早いな、

劉備軍の練度は低くないか。


「そんなら俺は関羽隊の裏で待たせてもらう。

確認なんだが俺は攻めには加わらないし、

挑発後は安全な所まで退いて高みの見物をさせてもらうぞ?」


「承知しています。

桃香さまもそれで良いですよね?」


総大将たる劉備に最終確認をとる諸葛亮。


「それで大丈夫です。

それより退却の際に怪我とかしないようにきをつけて下さいね?」


…そんな心配そうな目で見られると、

一刀を愛しているのはわかっちゃいるんだが…勘違いしてしまいそうになる。


「…ありがとさん。

んじゃ行くとしますか!」


気合いを一発入れて前線えと向かう。


ここで簡単に今の状況を説明しよう。


まずシ水関を拠点に防衛戦力が華雄30,000、張遼20,000の計50,000。


一昨日の夜襲時の兵力と密偵から受け取った報告からの概算なんで大体合っている筈だ。


それに対して我等が連合軍は総数300,000!

数の上でなら楽勝なんだが、

地形が地形なので袁紹率いる本隊−袁紹軍を中核に各諸侯から派遣された兵達を併せた−100,000超がシ水関から伸びる岩壁に蓋をするように布陣し、

その脇を固めるように曹操軍と孫策軍が配置され、

西涼軍と公孫賛軍は遊撃隊として騎馬隊を指揮し、

袁術軍は後方で兵站を担っている−会議の際の雰囲気から少し不安があるが−。


そして劉備軍15,000と借り物の兵5,000が丁度シ水関と連合軍本隊との中間に位置し、

さらに劉備軍本隊から前方に関羽隊と趙雲隊が突出し前線を構築している。


ちなみに張飛隊は劉備軍本隊の直衛、

先程一刀達の所に居なかったのは部下に指示でも出していたのだろう。


「しかし近くで見ると…」


前線に到着してシ水関を見上げる。


「益々手を出したく無くなるな〜…」


砦自体の押し潰されそうな圧迫感と、

董卓軍の来るなら来てみろとばかりの気合いの充実ぶり。


普通だったら間違っても手を出したくないが、

ここを通らずに迂回しようとするとえらい遠回りな上道が悪く、

下手をすると洛陽に着くまでに1ヶ月をみなければならない。


そんな期間国を空ければ今は様子見の態勢の中立の諸侯達が、

何時留守中の国に牙を剥かないとも限らない。


この戦は最長で10日、

出来る事なら1週間以内に終わらせたい。


「神北殿お待ちしておりました」


「…おお関羽殿」


少し思考の海に沈んでいる内に関羽隊に到着していたらしい。


「どうかなさいましたか?」


「いや何…少し考え事をな。

それより間近で汜水関を見上げると…」


「「やる気が無くなるな?・気持ちが奮い立つますな!」」


どっちが俺の台詞かわかるよね?


「何を言われますか神北殿!?

この関を越えなければ苦しむ民を助けられないのですぞ!」


「別に民なんてど〜でもいいし〜。

悪いんだが俺にそういった義やら愛やらを押し付けないでな?

俺は自分の決めた決まり事−掟−以外は表面上しか従わないから」


続けて熱く語ろうとする関羽を制して釘を刺す。


「なっ!?」


関羽は一刀の最も近くに居る女性の内の1人だ、

誤魔化すのではなくハッキリと宣言しておいた方が何かと良かろう。


「理解してくれなんて言わない。

でも勘違いしないでほしいんだが、

俺は君達の考え方を否定する訳でなく、君達が君達の考えを持つように俺も俺の考えを持っているだけだから」


「ですが!あなたは常人には無い力を持っている!

ならばその力の一端なりとも…」


「そこまで!」


またもや更に熱く語り出そうとする関羽を再度、

今度は強く制止する。


「俺から言い出した事で悪いが、

この話はここまでにしよう。

それでも尚何か言いたいなら戦闘の後に時間を作るからそこで、ね?」


「…わかりました。

今は目の前の戦に集中しましょう。

ですが戦闘の後、しっかりと話は聞かせていただきます」


固いね〜…でもまあ、


「それで良いよ。

そんで鳳統殿は?」


「今は趙雲隊の方に行っております。

ですがそろそろ…」


そこで図ったように鳳統が戻って来た。


「雛里、御苦労様。

神北殿が到着されたぞ」


関羽は労いの言葉をかけると共に俺の到着を告げる。


「…お待たせ…しましたか?」


「今来た所だ気にすんな」


申し訳なさそうに帽子を押さえる鳳統に優しい言葉−下心あり!−をかける。


「それじゃあ用意も整ったようだし始めますか!」


「…そうですね…それでは愛紗さん…お願いします」


「承った!…諸君!出陣の時は来た!

我等の力!董卓軍の兵だけでなく!連合軍の面々にも見せ付けようぞ!」


「「「「「「「おぉ〜!!」」」」」」」


関羽の号令一下気合い十分の関羽隊と趙雲隊がシ水関へ突撃する。


そこからの攻城戦は一方的な展開となった。


どちらがとかいうまでもなく勿論こちらが負ける側でのだ。


やはり数で負けてる上に相手は砦に篭もり、

そしてその砦自体も高性能では勝てる道理も無いし、

しかも策の為に攻城側が防御主体で攻めていては流れを押し戻せるわけがない−防御主体でなくとも攻め落とすのは無理だっただろうが−。


ちなみに関羽隊は定石通り城門主体に攻め、

趙雲隊は陽動と共に城壁に梯子をかけようとしている。


−30分後


「破城鎚が壊れたぞ〜!!」


幾度も幾度も城門に叩きつけられた破城鎚−極太の丸太の先を尖らせて鉄でコーティングした物−が遂に折れた。


そしてそれを機に関羽達は退却命令を出す。


「一時退却する!退却の銅鑼を鳴らせ〜!!」


ジャ〜ン!ジャ〜ン!ジャ〜ン!


銅鑼の音と共に関羽隊と趙雲隊が退却を始め、

シ水関の城壁の上からは董卓軍の歓声が聞こえる。


「策は順調に進行中…次は俺の出番か…」


1人戦場で独白する。


そして関羽隊と趙雲隊が退却する途中で合流し、

俺の居る出撃地点に戻って来た。


「おかえり鳳統殿」


先頭に居る鳳統を出迎える。


「ただいまです…」


「関羽殿と趙雲殿は?」


兵を率いている筈の2人が見えないので一応確認する。


「お2人とも殿を勤めて下さってます…。

退却する事で華雄が釣れればとも考えたのですが…」


釣れた時には殿の2人が先頭になってか、

良い判断だが、まあ張遼辺りが華雄を抑えてるんだろうから出て来ないわな。


「なら、俺の出番で良いのかな?」


一応確認は取っておく。


「お願い致します…」


「ほいほい♪」


確認終了。


やっと出番なのでスキップで部隊の中を突っ切る。


関羽隊も趙雲隊も土埃で真っ白だが酷い怪我をしている者はいないようだ。


「よっ!関羽殿、趙雲殿」


部隊を突っ切ると話通り2人が殿部分にいた。


「神北殿か…」


「おお!いらっしゃいましたな神北殿」


少し沈んだ感じの関羽と対象的に明るい趙雲。


「見ていましたかな我等が攻め?」


「ああ勿論、しかしあの砦は反則級の堅さだな」


「ええ、正直我等が軍だけでは攻略するのは難しいでしょうな」


あっけらかんと弱音を吐く趙雲。


「星!?何と弱気な事を言うのだ!」


「ならば愛紗はあれをどう攻略すると言うのだ?」


「それは…」


勢いで発言したものの後が続かない関羽。


無理もないだろう、

今実際に自らで攻めてみてシ水関の堅牢さを実感したんだろうに、

それを破る策をすぐには…、


「き、気合いで!」


「「………」」


思い付く筈がないよな。


「愛紗…流石にそれは…」


「いや、俺もあまり言いたくないんだが…」


しょうもない事を言った自覚はあるのだろう-春蘭よりかはマシだな-、

関羽の頬が次第に赤みを帯びていく。


「な…なんだと言うのだ!?気合いで上回ればあのような…あのよぅ…あの…」


お~逆ギレで押し通そうとしたけど理性が邪魔したか。


「ま~いいけどね。

んじゃ、俺が行ってみますか」


「ご助力傷み入る」


「…お気をつけて」


美女2人に見送られてシ水関へと歩を進める。


遠目に見ても巨大だったシ水関は近付くと更に巨大に見え、

正直現実味が薄くすら感じる。


(流石に人が1人近付いた如きなら騒ぎにならないな)


それでも一応普通の弓では狙いがつけ辛い100メートル手前-秋蘭辺りだと十分射程圏なんだけど-で立ち止まる。


(何人か気付いているがスルーされてんな…仕方ないな…)


「我が名は隼人!破山剣の神北隼人なり!!」


挑発するためにも存在に気付いてもらわないと、

なので大声で名乗りをあげる。


「董卓軍の将!華雄は居るか!」


俺の名乗りにざわめきだす敵軍から、

勢い良く-あわや城壁から落ちるかと思える程の勢いで-銀の髪が飛び出して来る。


「神北だと!」


「ちょ、待ち~銀華!?」


城壁の縁から身を乗り出して来たのは予想通り華雄、

そして華雄の服の裾を掴んで落ちないように支える張遼。


「きさま~!そこを動くな!!今、そのそっ首叩き落としてくれる!!」


お~ヒートアップしてくれてんな、

これなら労せずして出て来てくれるか、


「アホ言いな銀華!今は我慢の時や!将軍ならそれ位わかるやろ!!」


「ぐ!?ぐぐ~!!」


ですよね~?


華雄だけならともかく張遼もいるとそう簡単に出て来てくれんか。


「あら?出て来ないのか?

流石は闇に紛れての不意打ちしか出来ない腰抜けだ!!

猛将の噂は勘違いだったようだな!!」


いや心にもないですよ?

武力だけなら春蘭に匹敵すると本気で思ってますよ?


「な・ん・だ・と~~~!!」


お~お~頭から湯気が。


「ちょちょ!銀華落ちる落ちる~!」


縁から身を乗り出し過ぎてほぼ全身が城壁から出てしまっている華雄、

既に1人では支えきれずに数人の兵士と共に支える苦労性の張遼。


「きさま!きさま~!!」


更にヒートアップする華雄にとどめとばかりに、


「くっくっくっ……所詮暴虐の将董卓に従うだけはある。

どうせ董卓怖さに尻尾を丸めて従っているのだろうさ!!」


挑発の言葉を重ねたんだが、


カチ~~~ン!!


空気が固まる。


城壁の上部は華雄のヒートアップと張遼達の働きで空気が熱いくらいになっていたんだが、

今の俺の言葉でいきなり氷点下まで一気に下がる。


(うお?NGワードか?だがここで終わらせては策が失敗してしまう)


内心冷や汗を流しながらも表面上冷笑して続ける。


「図星か?そうだよな!都の治安は最悪!人々は口々に怨叉の声をあげていると聞く!」


言葉を重ねれば重ねる程空気が固まるんですが!?


「………霞……」


「……なんや……」


俺を無視するのかい。


「私の事ならばいくら言われても我慢出来よう……」


それはどうかな?と思うのは俺だけか?


「だが!我が主を侮辱されているのを我慢する事は出来ん!!」

城壁上部に戻った華雄が雄叫びをあげる。


「……やけどな銀華……」


「くどい!!華雄隊出撃準備!!」


言い募ろうとする張遼を一喝して走り出す華雄。


「待ち~銀華!!」


そして2人が城壁内部に消える。


(……成功で良いのかな?)


と思う暇もなく城門が開き始める。


「いや、ちょ!今指示だしてなら開くの早過ぎだろ!?」


そんな事を言っている間にも城門は開ききって、


「神北~そこを動くな!!華雄隊突撃突撃突撃!!」


華雄を先頭に数千の兵が突撃してくる。


(騎馬隊…張遼隊は出て来てないようだな、ならば)


「あばよとっつぁ~ん!」


ここは脱兎と化すのが正解だろう。


「逃げるか神北~!!」


「はっはっはっ!捕まえてごらんなさいな」


いや、何か華雄を挑発するのが楽しくなってきちゃって。


そんな事を言いながらも全力で走る走る!

華雄達もかなり足が速いが俺には及ばず少しずつだが差が広がっていく。


そうしていけば、


「ご苦労さまでした神北殿!」


「感謝しますぞ神北殿」


劉備陣営が見えてくる。


そしてやはり先頭をきって援護に来てくれた関羽と趙雲の脇を抜けて、


「んじゃ約束通り俺は退却するわ!じゃな~!!」


そのまま劉備陣営を迂回して華琳陣営に戻る…と見せかけて近くの森に向かう。


(張遼隊が来たなら華琳の所戻るつもりだったけど、

来ないなら漁夫の利作戦発動だな)


この森はシ水関からある程度離れている為に戦術的価値があまりないんだが、

俺は一応保険のために手勢を配置し罠を用意しておいた。


その森まで走りきった所で、


「…隼人さま……」


「は~は~……ご苦労役順やくじゅん


部下-不正気の-から声がかかる。


「…手筈は?」


「指示通りに完了いたしております」


「ありがと、ならお前等の顔が割れると困るから潜んどけ」


「は!」


うむ、良く訓練された部隊だ、

一体何処の部隊だ?あ、俺の部隊か。


そして戦況を観察するために近くの一番高い木によじ登る。


「ほっはっとっ…おりゃ!」


枝伝いに飛び回り最後に逆上がりの要領で飛び上がり、

幹に抱きつきそこからは枝が細いので芋虫のようによじ登る。


「到着!」


久々に木登りなんかしたので少し達成感がある。


「ふふふ、猿と呼ばれた腕は錆び付いていないな。

ってなんでやねん!」


1人ボケツッコミしてしまいました。


「んで、戦況は……」


誰もつっこんでくれないのはわかっているから真面目に観察。


戦場は策が作戦通り進んだらしく本隊を巻き込んで乱戦の用を呈して、

その隙に孫策軍がシ水関を押さえに走り我が華琳軍は本隊の援護へ。


「華琳は実より名声をとったか」


ここまでいけば形成は決まったな、

いくら突撃力の高い華雄の隊もこれだけ乱戦になれば足を止めざるをえない、

そうなれば後は数の勝負になる。


数の勝負ならば袁紹軍と袁術軍を含む連合軍に分がある。


そのまま観察を続けると予想通り華雄隊の兵がどんどん削られていく、

そして三分の一程が削られた時劉備軍が突撃し華雄隊の隊列が壊滅的に崩れる。


「ありゃりゃ?まさか華雄討ち取られたか?」


だが、壊滅したと思われた華雄隊の隊列が回復する、

そして退却開始。


「??……何があったんだ?」


隊列が崩れたのは恐らく華雄が討ち取られたからだろう、

史実でも華雄はシ水関で関羽に討ち取られている。


「だが、それなら壊走するのが普通なんだが…」


今見ている退却戦は大将を失ったそれではないように思える。


「まあ、ならそれはそれで…」


作戦開始だ。


退却する華雄隊は命からがら袁紹軍を突破するが、

それを追って騎馬隊が追撃する。


「旗印は…公…公孫賛軍か…」


追撃部隊としては適任だろう。


堅実に無理をせず削り続ける公孫賛軍、

華雄隊は我慢に我慢を重ね俺の罠の待つ森へと向かってくる。


馬相手に退却戦を行うなら森に向かうのは常道、

馬の扱いに長ける公孫賛軍も森の中で騎馬戦をするのはきつかろう。


そんな感想を覚えていると華雄軍が森へと到達する。


「入った!」


ピューーーー!!


華雄軍が森に入りきる瞬間口笛で合図を送る。


バサバサバサバサ!!


合図を契機に森の外苑の木の上から俺の手の者が網の下端を持って飛び降りる、

網の上端は木に括ってあるので、


「!……止まれ全軍停止!!」


公孫賛軍の邪魔になる。


そしてこちらは一目散に退却。


華雄隊に動揺が広がるも、


「何をしている!皆退却の好機だ!後ろを振り向かず走れ!!」


流石は華雄、一喝と共に退却を再開させる。


公孫賛軍は何とか網を除去しようとするので、


ピュピューー!!


再度の口笛により森の中から弓の斉射!

だが間違っても当てるなと厳命してあるので矢は外苑の木や地面に刺さる。


「伏兵!?…くっ…全軍退却!こんな所で死んでも名誉はないぞ!!全軍退却だ!!」


ほ、何とか退却してくれたか。


公孫賛軍の退却を確認後木から降りて華雄隊を追跡する。


そして雰囲気から追撃の心配がなくなったのを悟ったのか、

地面に倒れ込む華雄隊の面々を確認してその中から華雄を探す。


(殿に居なかった事からしてここらに…いた!)


負傷したのだろう自慢の戦斧を部下に預け、

肩を押さえながら自身は警戒を怠らず周りに視線を飛ばす。


気配を隠して近付くが、


「何奴!!」


あらま、気付かれた。


木の枝を伝って近付いていたので姿を表すために地面に降りる。


「俺だよ」


「きさま!?」


周りの華雄隊の面々も色めき立つ、

しかし向かってくる気配がないのでほおっておく。


「退却戦後だ無理すんな」


無理やり立ち上がろうとする華雄を諫める。


「きさまを前にして座っている道理はない!」


いや、良いけどね。


「我が首を狙ってきたか!」


「それならわざわざ近付かなくてもいいだろう?」


今にも飛びかかってきそうな華雄を押しとどめ話の雰囲気を作る。


「取引しないか?」


「取引…だと?」


一応自分の立場はわかっているようだ、

今俺に向かって来ても返り討ちにあうだろうし-この状況で負けたら笑うわな-、

まさか俺が何の策もなく1人で姿を表すわけもない。


「ああ取引だ。

華雄……俺の物になれ」


単刀直入こちらの要件を切り出す。


「なっ!?いきなり何を!血迷ったか!?」

自分の体をかき抱き頬を染める華雄。


意外とうぶなんですなうひょひょ。


「勘違いするな、お前自身も欲しいがそれ以上に華雄隊を含めて俺の物になれと言っているんだ」


今の彼女を見ると体でも良いんだが…いやいやあかん。


「……こちらの利は?」


少し考えてから質問してくる。


「今殲滅されない事以上に何かあるのか?」


そう言って右手をあげると、


ビン!………ド!!


俺の側の木の幹に一本の矢が刺さる。


「包囲は完了している」


「くっ!!」


気配を隠す必要がなくなったので俺の手の者達の気配が現れる。


「まあ、それだけでは降る気にもならんだろうから、

更に兵糧と負傷した者の手当てでどうだ?」


ざわ!?決死の覚悟を決めていた華雄隊の兵士に動揺が走る。


「……その条件に相違はないな?」


「騙す理由がない」


華雄にもそれはわかっているのだろう深く考え込む。


「……皆聞け!今死ぬは犬死に!我等を生かすため散った者達のためにも今は生きる!良いな!!」


うむ、良い決断だ。


「華雄将軍!」


「くっ!我等が不甲斐ないばかりに!」


口々に兵から嘆きの言葉が漏れる。


(人望あるんだな)


そんな事を考えながら華雄に近付き、


「懸命な判断だな」


手を差し出す。


握手を求めたんだが、


「きさまと馴れ合う気はない」


けんもほろろにかわされちった。


「それで、我等をどうしようと言うのだ?

曹操軍に寝返るとしても董卓さまに刃を向ける気はないぞ」


「そんな気はないよ。

さっきも言ったが君等が欲しいのは俺なんだ、

華琳…曹操は今関係ない」


そう、俺が欲しいのは華琳の息がかかっていない兵力、

もしかした時のための対抗全力なんだから。


「この森を抜けた所に医療品と道案内を用意してある。

追撃防止の罠が多数あるからそこまでの道案内を役順!」


虚空に向かって呼び掛ければ、


「御意」


森の奥から返答が返ってくる。


「後、華雄の心配の元である董卓は俺が保護してみせるから安心しな」


付け足しのように核心を抉る。


「なっ!?」


「彼女が悪いわけではない事はわかっている。

挑発のためとはいえ貶めた事には謝罪しよう」


素直に頭を下げる俺、

返答があるまで下げ続けるつもりだったが、


「…神北…隼人……」


華雄の手が俺の肩にかかり、


ボグドリュ!!


「びればらーす!!」


人類史上発!六回転半の錐揉み着地!!


「暴言の件はこれで許そう」


拳を振り切った姿勢のまま華雄は言った。


言ったと言うのは流石の俺もまともに振り切った打撃-季衣級の-だと気絶するらしいからだ。


何はともあれこうしてシ水関での戦いは幕をおろしたのだった。

次回から投稿形式を変えます。


自分グダグダを長く書くので1話が何万文字と膨らみ、

誤字の訂正等が困難なためです。


お付き合い下さる方々はご了承下さい。


後、感想は随時募集なんでどしどし送って下さいね。

特に苦言提言大募集ですm(_ _)m

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