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第8話

完全版更新できました。

楽しんでいただければ幸いです。

「何をニヤニヤしているのあなたは?」


馬上で思い出し笑いをしていた為だろうか、

少し不機嫌そうに華琳が聞いてくる。


今俺の部下を含め華琳の軍は、

有事の際に必要なある程度の兵を残し、

反董卓連合軍に参加する為に顔良と文醜が伝えてきた合流地点に向かっている。


「いや何…出発前の春蘭の反応を思い出してな…」


嘘です。


実は会議で結論は出たが、

駆け引きの為に3日程顔良と文醜の2人の接待をしていた時の事を思い出していた。


-会議の翌日


「おはよう」


城の中庭を歩いている2人を見付けて近付く。


「あ、おはようございます」


「おはよう兄貴!」


ここで客人に出会ったのは偶然じゃない、

結論を伝えるまで俺と季衣が2人の面倒をみるように、

と、昨日の会議の最後に指示を出されたからだ。


「おはよ2人共」


前日フランクに話す事は許可されてたのでタメ口で挨拶を返す。


「ん~!久々のまともな寝床だった!」


「先を急ぐのに野宿続きだったもんね」


「んじゃぐっすりだな」


朝の軽い挨拶をしてから改めて自己紹介をする。


「昨日の謁見に立ち会っていた事で気付いていると思うけど、

一応改めて名乗るよ。

華琳の所で将軍をやってる神北隼人、

破山剣の神北隼人の方が有名かな?」


腰の破山剣を叩きながら名乗る。


「やっぱり!」


「昨日は知らなかったとはいえ失礼しました」


反応がかなり違う。


文醜は手を叩いていて納得し、

顔良は頭を下げている。


「いやいや顔良さん頭を上げて。

どちらかと言うならば正式な名乗りを後回しにした俺が悪いんだから…」


「いえ、それでもこういった事はけじめを…」


儀礼的に話をする俺達を無視するように文醜が爆弾を落とす。


「や~…良かったな斗詩?

あの時変な所へ連れて行かれたらはっ倒そうって言ってたけど、

ちゃんと飯屋に連れて行ってくれたから問題起こさずにすんだな!」


隠す事無くニコニコと無邪気に話す文醜。


「「……」」


微妙な空気の中目線を逸らしあう俺達。


「…ま~怪しいと言えば怪しかったからな俺」


「そりゃそうだよ!

初対面の人にあそこまで親切にしてくれる警備兵なんてそうそう居ないぜ?

思わず何か裏があるんじゃないかと疑っちゃったよ」


「も~文ちゃんそこまで言わなくてもいいんだよ~」


かなり失礼な事をあっけらかんと言う文醜に、

顔良は涙眼で止めに入る。


「まあでもそのおかげで美味い飯にありつけたし、

キョッチーとも仲良くなれたかんな♪

だから…」


一瞬の早業で顔良のバックをとる。


「お礼の意味を込めて…」


あ~何か素敵な予感。


「え!?きゃ~!」


「アタイの斗詩の胸を見る権利を与えよう♪」


予感的中!バックをとった文醜は下からすくい上げるように顔良の胸を持ち上げ、

柔らかそうなその胸を揉み始める。


「文ちゃん止めて~!」


「何だよ斗詩~?

いつもやってる事じゃん?

あ!当然だけど触るのは無しだかんな?

斗詩の胸を触れるのはアタイと麗羽さまだけなんだから」


「え?袁紹さんも良いのか?」


「当然!

麗羽さまは私達の拾い主だかんな!」


拾い主って…。


「もう!文ちゃんいい加減にして!」


そこで堪忍袋の緒が切れたのか、

顔良が手足を振り回し文醜を弾き飛ばす。


「何だよ斗詩~?

少し位兄貴に良い物見せてやろうぜ~?」


「うむ!かなりの眼福ではあるわな」


同調はするけどその手のワキワキは止めた方が良いぞ。


「神北将軍!文ちゃん!」


ほら怒られた。


-回想終了


「ほら春蘭が決定を聞かされた時のあの表情!

今思い出しても笑えるじゃんか?」


まあこれも本当。


賊退治を終えて帰って来た春蘭に決定を聞かせたら、

何故そんな重要な案件の時に自分は居なかったんだと小一時間一目もはばからず嘆いていた。


「泣き出してからは可愛かったけど、

その前のあの驚いた顔は…目がこんな円くなっ…」


「何の話かな隼人~?」


いつの間にやら俺の馬の裏に見覚えのある馬が…。


「誰の目が何だって?」


「いやほら…春蘭の瞳は何時も奇麗だなと…」


冷や汗を流しながら必死で誤魔化そうとするが、


「おや私の耳が悪いのかな?

先程とは違う事を言っているように思うんだが?」


「誰にだって聞き間違いはあるさ!」


「ふむ…何て事になるか!」


誤魔化しきれず突っ込まれ、

しかもあろう事か春蘭は俺の馬の尻を、


バシィーン!


ブヒヒヒ~ン!


思い切り叩きやがった!


「どぅわ~!?」


乗馬の訓練を積みある程度以上の腕になっているとはいえ、

なんぼなんでもこんなんされたら慌てますよ。


「どう!どう!…止まりませ~ん!」


何とか止めようと試みるも、

元々臆病な動物である馬が春蘭の馬鹿力でひっぱたかれたんだからそうそう止まる訳もなく、

かなり走りながら飛んだり跳ねたり-落馬すれば死ぬ勢いで-した後何とか制御を取り戻す事に成功した。


「ぜぇ~ぜぇ~……春蘭、わかっていた事だが、

あいつはかなり無茶する奴だ。

一歩間違えば…間違わんでも死ぬっちゅ~ねん!」


愚痴をこぼしながら周りを見渡して見る…が、

かなりの距離を暴走した為我等が軍は見えなくなっていた。


と、言うか先程まで平原だったのに目の前には森が広がっている。


「……は~…馬も休ませないといけないし入るか」


無駄な言い訳をした為に面倒臭い事になったと溜め息を吐きながら森を散策する。


すると程なく小さな池を見付ける事が出来たので、

馬を池の畔の木に繋ぎ体を布で丹念に拭う。


そこでふと気付く、

森の何処かから視線を感じるのだ。


殺気が無いので気付くのが遅れたが何者かが居るのは確かだ。


(暗殺者…にしては殺気がない。

しかし俺に居所を掴ませない程の実力者か…)


態度には出さずにしばし黙考した後結論を出す。


「馬泥棒なら他をあたりな」


馬の首筋を軽く叩きながら独り言のように喋る。


「俺は強いよ?」


何処に居るのかはわからないので馬を見ながら続ける。


(あら?こんな見え見えのかまかけに引っかかっちゃうんだ)


流石に衣擦れの音まではしないが、

気配が乱れた事で居場所はわれた。


「出て来ないなら此方から行くが?」


剣の柄を掴み今度は気配の場所に向き直り詰問する。


1秒2秒3秒…7秒待った時に変化は現れた。


「何故…お気付きになりましたか?」


幼い…予想よりかなり幼い感じの声が聞こえたと同時に、

木の葉の擦れる音すらさせずに少女が現れる。


「こんなに近くに来るまで気付かない方が恥なんだがね」


隠れていた木は常緑樹とはいえ、

所々隙間があり小さいとはいえ人間が隠れるには難が有るはずだが、

この少女は気配だけで姿は見えなかった。


幼い外見ではあるがやはりかなりの腕なのだろう。


「気配は完全に断っていたと思うのですが…」


ここらで少女の見た目の説明を挿もう、

身長は俺の頭1個半位低く丁度季衣達位だろうか、

髪は足元辺りまである黒髪、

瞳はアメジストを想わせる紫色、

そして衣服は…チャイナドレスが原型なのはわかるんだが、

何というか和風な感じが所々見てとれる。


腰の鎧部分であったり額当てであったり、

そして背中に固定されている刀であったり。


この世界の何でもありさ-季衣の巨大剣玉や流々の巨大ヨーヨーなんて最たる物-には慣れたので、

ついに来たかとは思うし間違い無いだろう。


少女の身長と同じ位の刃は絶妙な反りがあり、

格子模様の柄の飾りと鍔の紋様、

間違い無く日本刀だろう。


そして説明はもう不要だろうが一応書いておく、

少女はかなり可愛い。


今は警戒の為だろう無表情だが、

顔の造作が整っているのである種の人形のようだ。


季衣と同じ位の年齢だとは思うが、

警戒の仕方や体捌きは様になっていて、

少女忍者と言った感じのかなりの美少女である。


「まあかなり巧妙に気配を消してはいたけど、

さっきも言ったが此処まで近付いて気付かないのは恥だぜ?」


肩をすくめながら愚痴る。


「…そうですか」


無表情なので納得したのかは不明だ。


「そうなんだ。

そんで君は此処で何を?

因みに俺は一寸休憩に寄っただけで、

荒事関係は遠慮したいんだが」


と、話しながらも双方共に自然に剣の柄に手をかける。


「此方も修練の為に偶然居ただけですが…」


そして無言で見つめ合う。


「「………」」


此方に殺気が無いからか少女も殺気は纏っていないが、

警戒感はバリバリだ。


一種独特の緊張感が場に張り詰め、

指の1本たりとも迂闊には動かせない。


(仕方ないか…)


内心で独り言て、

相手の呼吸を予測する。


呼吸は戦闘の中で凄く重要な部分だから、

この少女レベルだと簡単には読めない為経験と勘で予測するしかないのだ。


緊張の糸の軋みがキリキリと聞こえそうな空間を壊せたのは実に1分後位、

呼吸の合間と思われるタイミングで思い切りバックジャンプ。


「!?」


かなり少女は驚いているが、

俺は上手く間合いを外せたので柄から手を離し声をかける。


「ふ~…だから荒事は勘弁だって言ってるだろ?」


此方が柄から手を離した為一応少女も構えを解く。


「それにもしかしたら味方かもなんだから、

せめて名乗り合おうや」


少女の無表情は変わらない、

良き修練を積んでいるようだ。


「まずこちらから、

曹操軍客将、神北隼人…そちらは?」


「…袁術軍、客将、孫策さまが配下、周泰」


此方が名乗った為か律儀に返してくれる、

素直な奴だな~。


「孫策殿の所の方か」


「知っているので?」


「当然、江東の小覇王たる孫策殿の名前を知らない筈が無い!」


この頃の孫策はまだ名家たる袁家の干渉から抜け出せないが、

反乱軍討伐や盗賊討伐等で名が売れ、

江東の小覇王として中央にも名が知られる程になっていた。


「それに以前会ったしね」


「ではやはり…」


「破山剣のと言う事ならそうだ」


「握手して下さい!」


いきなり警戒が霧散し近付いてくる。


「ああ良いよ。

なんなら破山剣も触ってみる?」


「良いんですか!?」


何か瞳に星が散っているんですが、

ここまで喜ばれるとはお兄さんビックリだ。


警戒感が無くなり表情が現れると途端に幼い印象が強くなる、

まあぶっちゃけかなり可愛い。


握手をしてから1歩下がり、

破山剣を抜き地面に浅く突き刺す。


「ほれ噂を確認してみな」


「はい!」


春蘭を大型犬としたらこの娘は小型犬、

実は小型犬は五月蠅くてあんまり好きじゃないんだが、

ここまで慕われると悪い気はしないな。


「…ん!」


喜びながらも少し警戒して、

まずは軽く柄を掴み持ち上げようと力を込める。


そして持ち上がらないとみると、

何故か顔を笑みで満面に輝かせて全力で持ち上げようとする。


「ん~!!」


まあ当然持ち上がらないんだが、


「持ち上がりません!」


やはり満面の笑みで振り返る周泰。


「何故そんなに嬉しそうなんだ君は?」


本気でわからないんで率直に聞いてみる。


「え!?だって破山剣ですよ!

お祖母ちゃんの昔話で聞かされていた、

伝説の剣の実物ですよ!」


「ふむ…」


日本で言う所の草薙の剣みたいな物か?


「うわ~♪本当に持ち上がりません♪」


まあ喜んでくれてるんだから良いか。


しかしこれが俺に本物の気配を感じさせた人物かね?


「あの…」


何か言い辛そうにモジモジしているがどうしたんだ。


「抜いてみて下さいませんか?」


「なんだそんな事か」


破山剣に近付き軽く持ち上げる。


「わ~♪重く無いんですか?」


両手を胸の前で合わせて憧れの目で聞いてくる。


「いや、俺にとって破山剣は重くないから、

重さで言うなら太目の木の枝位かな?」


じゃなきゃ集団戦で有利とは言え俺が持ち歩く筈が無い。


「そうなんですか!?」


予想通りの驚きだがその純真さに吃驚。


「あの…」


「今度はどした?」


「腕を触らせてもらえますか!」


何だろ、ヒーローにでもなった気分だ。


「…どうぞ」


「うわ~♪うわ~♪…でも筋肉はそんなに無いんですね?」


いきなり真顔になるな。


「そうだね。

俺は力より速さを武器にするから、

筋肉は纏うと言うよりは最低限付ける感じだからね」


内心吃驚したが表には出さずにすまして答える。


そして俺の腕を上げ下げ、


「うわ~♪あんなに重かった破山剣が持ち上がられる~♪」


可愛いから許す!

おっちゃん君の為なら何でも許す。


ひとしきり相手をした後此方からも提案してみる。


「あのさ、悪いんだが…」


「はい!何でしょう?」


そんなキラキラした瞳で見ないで!

俺は薄汚れた奴なんだ。


「…頼みが2つあるんだ」


「はい!」


キラキラが痛い。


「1つは…実は事情があって本隊とはぐれていたんだ。

だから反董卓連合軍の駐屯地まで案内してほしいのと、

2つは背中の剣を見せてもらえないだろうか?」


「え?これですか?良いですよ」


周泰が背中からその身長以上に長い得物を外し渡してくれる。


「ありがとう。

では抜かせてもらうよ…」


そう言ってから鯉口をきる。


やはり予想は正しかった。


刀身は片刃で鋭く叩き切るのでは無く切り裂く用に整えられ、

腕を一杯まで広げると刃の反りと刃紋が確認出来る。


「変わった刀剣でしょう?

青竜刀のように刃の部分が幅広でも無く、

剣のように両刃でも無く…」


説明を聞きながらも更に刀身部分を見るため、

腰の回転を利用して抜き放つ。


「…1回で抜けた?」


「刃紋は乱れなく直線、

反り、こしらえ共に見事だ。

かなりの業物だな」


呆けた顔をしている周泰を置いといて、

しっかりと刀を見聞する。


「えと…あの…何か知っているんですか!?」


意気込んで聞いてくる周泰に何でもない事のように返答する。


「ああ、俺は南の島国出身なんだが、

そこで使われていた刀と言われる武器だと思う。

しかしこれだけの業物は滅多に見られないがな」


刀身の美しさに感心しながら説明する。


「刀…刀と言うんですか…」


驚きの連続にまだ呆けながらも、

刀と言う単語を刻み込むように繰り返す。


「但し、刀にしては刀身部分が長過ぎるから変わり種だな」


その長過ぎる刀身を鞘に納刀する。


「ほい、見せてくれてありがとう」


「いえ!こちらこそありがとうございます!

家に代々受け継がれた物なんですが、

由来やいわれ等は消失していたんです!」


またもや感動した感の周泰と共に、

馬を引きながら連合軍の駐屯地に案内してもらう。


-森を出てから10分


「あそこが連合軍の駐屯地になります。

中央に布陣するのが袁紹軍、

左に見えますのが西凉軍、

右が公孫讃軍と劉備軍、

手前が袁術軍でその中に我々孫策さまの軍も入っています」


遠目に見ても袁紹と袁術の陣地が群を抜いて広い、

やはり名家の強みで兵数だけは凄いらしい。


「別れた時からの時間を考えて、

まだ華琳達が着いていないとは思えない。

奥側にでも居るのかな?」


袁紹軍の6割位の規模とは言え、

あの規模の軍が見えないなんて事はそうある事ではないからそうなんだろう。


「ならお礼も兼ねて孫策殿に挨拶しておこう。

案内してくれるかな?」


「はい!」


癖なのかな?

胸の前で手を合わせて元気に答えてくれる。


-孫策軍の陣地


「申し訳ありません…雪蓮さまと瞑琳さまは全体の会議に出ているようで…」


凄くシュンと肩を落とした周泰が、

陣営の外苑近くの天幕から出て来て言ったのが5分前。


「いやいや面会の約束も無くいきなり押しかけた俺が悪いんだから」


気の毒になる位責任を感じている-実際には何一つ周泰は悪くないのに-周泰をフォローしながら、

今は孫策軍の陣営を歩いている。


結局挨拶は間が悪く出来なかったが、

恐らく袁紹軍の先に有るだろう華琳軍の陣地へは、

諸々の陣地を突っ切った方が速いと言う結論から歩いている。


「今回は本当に申し訳ありません。

今度機会を改めて是非!」


「あ~ま~その時は宜しく…」


何故かフォローしたらいきなり元気を取り戻した周泰に少し退きながら歩いていると、


「あら明命?そちらの男性は?」


美少女と遭遇した。


これだけ書くと頭が悪そうだが、

もうそう書くしか無いじゃないか!


「あ!蓮華さま!御1人なんですか?」


(やっぱりか)


髪の色が孫策と一緒なので大体予想はしていたが、

真名からしてバッチリ当たっていたらしい。


「ええ思春は兵達の調練をしているわ。

それで…」


胡乱な者を見る目で俺を見る-と言うより睨む-恐らく孫権。


「此方の方は曹操殿の軍の…」


「客将をしている神北隼人と言います。

お初にお目にかかれて光栄です」


紹介を引き継ぐと、


「私はまだ名乗っていないと思うのだが?」


益々胡散臭そうに此方を睨む。


「孫策軍の武将たる周泰殿がさまをつけて呼び、

そして真名と容姿から孫策殿の身内と見ましたが、

間違っておりましたでしょうか?」


「…そうか、以前姉上がおっしゃっていたのはあなたか」


若干睨みが弱くなる。


「孫策殿には黄巾賊討伐の際に御挨拶して以来なので、

偶然周泰殿と遭遇して連合軍まで案内して頂いたお礼も兼ねて、

御挨拶しようと思ったのですが…」


「それは丁寧に、

しかし姉上は…」


「はい、会議で出ているそうで」


「ならば何故?」


「あの…私が陣地を通っていただいた方が、

曹操軍まで近いからと…」


「その御好意に甘えて近道させていただいている途中でして」


表情も柔らかくなったここらで容姿の説明を入れよう。


まず目につくのは俺の目線より少し位下の身長とは思えない程のその胸!

南方は何かあるんだろうか?

孫策には若干負けるだろうがそれでもはちきれんばかりの爆乳!

しかもチャイナをアレンジしたのだろう衣服には、

丁度下乳からお臍の辺りまで穴が開いていて、

豊満な胸の綺麗な下乳がバッチリ見えている。


そして胸だけじゃなく容貌も素晴らしい、

孫策と同じ色のストレートの髪を横は肩で切り揃え、

裏は腰辺りまで伸ばし、

頭には不思議な三角形の髪飾り、

そして南方特有の小麦色の肌に映えるこれまた孫策と同じスカイブルーの瞳、

だがそれだけ似た瞳の色をしているのに、

決定的に違うのはそこに浮かぶ意志だろう。


片や無邪気な中に野生を感じさせる孫策に対して、

この娘の瞳には自らを戒める厳しさと、

他の何者にも犯せない強い意志の光がある。


「そう、明命…今回は仕方ないけど、

此処は曲がりなりにも戦場よ。

部外者を立ち入らせるのは謹みなさい」


うむ、この娘は委員長タイプだな。


「はい!申し訳御座いません!」


そして周泰は優等生タイプだな、

本気で謝ってるのがわかるよ。


「わかってくれれば良いわ明命。

そう言えば正式には名乗っていなかったな、

私はあなたの予想通り孫白符の妹、

孫仲謀、皆には孫権と呼ばれている」


「孫権殿ですね。

以後お見知り置きを…」


と、名を教えてもらっている所に裏から、


「あ~!隼人じゃない!」


聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら、


ポニョン♪


振り返るより早く右腕に柔らかい感触を感じる。


「どうしたの?

やっぱりうちの軍に来る気になった?」


柔らかな胸を押し付けながらしたから見上げて来るのは孫策。


もう会議は終わったのだろうか、

てかいきなりなんばしよっとですかこの人は!


「色んな意味で魅力的なお誘いだが、

以前言った通り華琳が華琳である限り他に行く気は無いよ孫策殿」


「孫策なんて他人行儀な呼び方しないの♪

雪蓮て呼んで?」


無邪気に小首を傾げる孫策だが、

意味をわかる者が見たら思わず身震いするだろう。


「断る!呼んだらその瞬間殺すだろ?

おふざけでもそんな冗談は言うな」


ようはこの無邪気な顔で、

真名を呼んだ瞬間必殺の一撃を繰り出せるんだ。


「あら!ばれちゃった?」


何でも無い事のように言って舌をチョッピリ出す。


「姉さま!」


そこで孫策の登場から呆気にとられていた孫権が騒ぎ出す。


「姉さまは我が軍の大将なんですよ!

それが破廉恥にもこんな所で…」


「あ~あ~蓮華は相変わらず堅いわね~。

隼人がこんな事でうちの軍に来てくれるなら安い物じゃない」


激昂する孫権に悪びれずに返す。


「こんな男にそんな価値があるんですか!」


売り言葉に買い言葉なんだろうが酷いな。


「あるじゃない。

まず破山剣を持ってるし、

攻城戦の時に見せた武勇を蓮華は見てないけど、

その後の報告にあった黄巾賊相手の防衛戦は貴女も聞いたでしょう?」


真面目な顔になって指摘する。


「それは…」


「その前に隼人に謝りなさい」


「いや大丈夫だ。

それよりそろそろ腕を解放してくれないか?

嬉しいんだが困る」


実は孫策が動く度に気持ち良すぎて愚息が困った事に。


「嫌なの?」


またもや胸を押し付けながら見上げてくる。


「ぐ…嫌な訳は無いんだが…」


助けを求めて視線をそらすと、


「お久しぶり周瑜殿」


発言しないので視界に入らなかったが、

背後に周瑜が居た。


「お久しぶりね神北将軍」


「助けてくれないか?」


「無理ね」


即答されたよ。


「雪蓮姉さま!

お話はわかりましたがそれでもいい加減にして下さい!」


「ぶ~!わかったわよ!

うちの軍に来れば何時でも触らせてあげるからね♪」


嬉しいんだが思わず苦笑してしまう。


「姉さま!」


「はいはい…」


益々激昂する孫権に手をひらひらと振って受け流す。


「申し訳無いがそれでも約束を破る気は無いんだ」


本当はかなりグラッと来たが-孫策の胸の感触はそれだけの威力があった-、

契約は制約、華琳が覇者として道を歩む限り裏切る事は出来ない。


「そう?まあそんな簡単に裏切るような人間は要らないかな、

益々欲しくなったわ♪」


ニッコリ笑顔で宣言される。


「それではそろそろ真面目な話を良いかしら?」


ここでやっと周瑜が話に入って来る。


「私は真面目だったわよ?」


「そうね雪蓮、貴女は真面目だろうけど、

傍目から見たら真面目に見えないし話は進まないのよ」


噛んで含めるように注意する。


「は~い」


「それで神北将軍、

曹操軍の貴方が我等が陣営で何を?」


やっと話が進んだので、

これまでの経過を斯く斯く云々と説明。


「それじゃあ私に会いに来てくれたのね?」


「そう言う事だね。

此方でも江東の小覇王の勇名は轟いていたから、

機会があれば挨拶に来る気は元々あったんだ」


正直丁度良いタイミングだとは思っていた。


「それはご丁寧に、

それにしても偶然明命と会うなんて運命なんじゃない?」


いきなり何を言うんだこの女は?


「明命、抱いてもらえた?」


いきなりこんな振りをされた周泰には同情を禁じ得ない。


「え?抱いて?抱いて!?」


目を白黒させる周泰は可愛いが、

何でそんなに真面目な顔で言ってんだ孫策。


「姉さまいきなり何を!」


たまらずフォローに入る孫権。


「何をって、

明命が抱いてもらっていたら、

この後隼人がうちに来てくれる可能性が上がるじゃない?」


当然の事のように言われても。


「何を言っているんですか姉さま!

明命は我が軍の重要な将なんですよ!

それを他国の者に…」


「えらい言われようだが、

周泰殿とはそう言った関係にはなっていないよ。

機会があればお相手願いたいがね」


本音を交えたらそれが余計だったらしい、

孫権のジト目が痛い。


「私なんかで良いんですか?」


なのに周泰は吃驚したように答える。


「私なんかって…。

少し幼い感はあるが十分魅力的だよ君は、

逆に俺みたいな器量の男じゃ釣り合わないよ」


真面目な話顔の美醜からしたら100人並み1,000人並みの俺ですんで、

但し男としての魅力ならそうそう負けない自信は有る。


「それじゃあくっついちゃいなさいよ」


「雪蓮姉さま!」


「五月蠅いわね蓮華は…。

良いじゃない双方共に相手を憎からず思ってるんだし」


本人達を無視して口喧嘩を始める孫姉妹。


「それで結局どうなの?」


姉妹のフォローでは無く話を進める周瑜。


「私は…」


言葉を濁す周泰、

だが俺ははっきりと断る。


「周泰殿が相手なら願ってもないが、

今は遠慮しとくよ。

周泰殿は俺に好意は抱いてくれてるかもしれないが、

恋愛関係になる種類じゃない」


もしかしたらもう少し時間があれば落とせるかもしれないが、

今回はまだそこまでは行っていない。


「体だけ抱いても仕方ないしね?」


周泰に言うのは流石にKYだから、

周瑜に促しておく。


「そんでな、

そろそろ華琳の所に戻ろうかと思うんだが…」


ちろっと姉妹の方を見るが、


「姉さまは大雑把過ぎます!」


「蓮華が細かい事を気にし過ぎるだけよ!」


喧嘩は終わりそうに無い。


「神北将軍、あなたが気にする必要はないわ。

雪蓮には後で私から言っておく、

周泰を案内につけるからあなたは帰りなさい」


「悪いがそうしてくれるか?

俺にも直属の部下が出来たんで、

天幕の設置や何やら監督しなけりゃいけないんだ」


その後の事は周瑜に頼み気付かれない内に撤退する。


-袁術軍と袁紹軍の境目


「孫策軍所属、周幼平です。

我が軍の客人を通したいので、

許可を頂きたいのですが」


流石は雑多な軍が参加している連合軍、

大きな軍の駐屯地の境目には簡易の関所が出来ている。


「…孫策軍、周泰将軍…確認致しました」


責任者らしき兵が対応してくれるが態度が気に入らない、

周泰を侮ってる様子が見え見えだ。


「ですが申し訳ありませんがお通し出来ませんな」


慇懃無礼とはこの事だろう、

言い方がムカつく。


「何故でしょうか?

他軍とは言え味方です。

今回の連合軍の規約にも連絡を入れれば交通に問題なしと規定されていた筈です」


「そうですな。

ですが連絡とは事前に入れる物です。

此方も将軍に報告して許可を頂かねばいけませんので…。

ですから今はお通し出来ませんな」


言っている事はわかるんだが言い方が問題だと思う。


「ならば今連絡して何時許可が頂けるのでしょう?」


「さて…我が軍の将軍はお忙しいので、

外苑を回った方が速いかも知れませんな?」


「そんな!?」


結局難癖つけて通さないんじゃねえか。


「周泰、もう良いよ。

迂回して曹操軍に向かうから」


周泰の肩に手を置く。


「曹操軍は既に到着しているかな?」


「到着しておりますな。

只此処からだと我が軍の正反対に陣営を築いておりますからな、

迂回して行くと随分時間がかかりますな」


「そうか…」


駄目だ我慢が出来ん。


「しかし先程からの物言いは問題だと思うんだが?」


「は!袁術軍の方ならいざ知らず、

客将のお抱えの将など我等には関係ありませんな」


本音が出たな。


しかし周泰の予想武力ならこんな奴10人集まっても問題にならないのに、

此処まで侮られるのは見た目も関係するんだろう、

女の子って損だよな。


「…申し訳ありません。

私がもう少ししっかりしていれば…」


「君に非は無いだろう。

問題があるのはあちらだよ」


自分を責める周泰をフォローしながら心を決める。


「流石に我慢できんな」


トラブルは起こしたく無かったが仕方ない。


「君の発言は失礼だ。

我が友に謝罪を求める」


「…ふっ…お断りしますよ。

何故弱小軍相手に謝罪等しなければならないんです?」


「…謝罪しないなら…。

私は私の責任にて、

無理矢理にでも謝罪させよう」


破山剣の柄に手をかける。


「…何をする気です」


責任者だけでなく関所に居た兵全員が抜剣する。


「今言った…。

謝罪しないなら実力を持って謝罪していただく」


「神北将軍!」


「周泰、悪いな。

だが、俺は此処まで友を侮辱されて黙っている事は出来ないんだ」


制止しようとする周泰へ視線を向けずに答え、

此方からも1歩前へ出る。


関所の兵も広がり、

此方を包囲しようとしている。


「こんな事をしてただで済むと思っているのか?」


「………」


緊張が高まる。


だが一触即発の空気はすぐに霧散した。


「あれ?兄貴じゃん!」


この声は…。


「…文醜か…」


柄から手を放す。


「あれ?でも何でこっちに?

曹操軍は反対側だよな?」


「色々事情があってな。

それよりお前の方がこんな所で何してんだ?」


ギクッと聞こえそうな程気配が揺らぐ。


「…袁紹軍のアタイが此処に居るのは普通だよ?」


挙動不審だぞお前。


「まあな、だが袁紹殿の側近であるお前が、

自陣の外周まで、しかも1人で来るなんて珍しい事なんじゃないか?」


ジト目で詰問する。


「それは…」


冷や汗が止め処なく流れる。


「そんで顔良は?」


ギクッと再度気配が動揺する。


「斗詩は…」


「顔良は?」


「アタイの書類仕事代わりにやってると思う…」


遂にゲロったか、

まあそんな事だろうと思ったが。


「そんでお前は?」


益々ジト目にして聞く。


「見付からないように逃げてる最中だったり!」


勢いで誤魔化す気なんだろう、

いきなり大声を出す。


「だったりじゃね~!」


拳骨一発!


「痛~!何だよ兄貴暴力反対だぜ!」


「じゃかしい!

そんな苦労をかけて顔良の綺麗な肌に皺でもよったらどうすんだ!」


涙目の文醜を許さず追撃する。


「え~!毎度の事だから気にしてないと思うけどな~」


文句たらたらだがその内容ときたら、


「そう言う問題か~!」


卓袱台返し級のふざけた事を。


「だってよ~…アタイがやるより早いし正確なんだもんよ~」


と、ぶ~たれる文醜だが思い出したように別の事を聞いてくる。


「それはともかく、

兄貴は此処で何してたんだ?

かなり剣呑な感じだったけど」


既に青い顔なのに、

此処で関所の奴等が更に青い顔になる。


「ああお前の所の奴等が俺の友を侮辱しやがったんでな。

謝罪しないなら実力で謝罪させんぞってな」


隠す気は全然無いから包み隠さず伝える。


「は~?何やってんのお前ら?」


「ぶ、文醜将軍のお知り合いで?」


拳骨食らわせる仲で知り合いじゃ無かったら笑うな。


「兄貴は破山剣の神北隼人だぞ?

お前らが勝てる訳無いだろ」


「「「げ!?」」」


今更気付いたか。


「は~…兄貴、此処はアタイの顔に免じて許しといてもらえないかな?」


文醜にそう言われると、


「周泰?」


目で周泰に確認をとってみる、


「私は別に気にしてませんから」


争いが起こらなくて安心したように返事が返ってくる。


「それにしても神北将軍の事を兄貴と?」


「ああそれはな。

俺の許緒って言う妹分が曹操軍に居て、

そいつと文醜が義姉妹になったから…」


「だからアタイにとっても兄貴って言う事さ!」


まあ悪い気はしないわな。


「そうだったんですか!?

御兄弟にしてはあまり似ていないと…」


「そりゃそうだよ!

所であんた誰?」


紹介忘れてた。


「も、申し訳ありません!

私は袁術軍客将、孫策殿の下で将をしております周泰と申します」


「んで、俺の恩人兼友人」


俺からも補足する。


「しかも文醜、

こう見えて周泰はかなりの腕なんだぜ」


「へぇ~」


「俺だって自分の腕には自信があるが、

その俺に気配を読ませないでかなり接近されたからな」


「そんな私なんて…」


謙遜する周泰だが、

お世辞じゃなくかなりの腕なのは確かだ。


「孫策の所にそんな有能な将が居たんだ?

こっちこそ宜しく、

アタイは袁紹軍の文醜ってんだ」


「存じております。

袁紹殿の最側近にして将軍筆頭、

文醜殿と顔良殿の名前は有名ですので」


これは少しお世辞が入っている。


この時期の2人はまだそこまで有名ではない。


まだ袁紹軍の中で腕に覚えがある者と言った程度、

2人が有名になるのはこの後北部四州を纏める際の公孫讃戦での活躍でだ。


「知ってんのか?

アタイも有名になったもんだな~♪」


お世辞に気付かないならそれはそれで良いか、

実力はあるんだからな。


「所で文醜、悪いんだが陣内を通過させてもらって良いか?」


「当然♪あ、そうだ!

麗羽さまに紹介するよ!」


快諾頂けたが、


「袁紹殿か…早めに帰らんと何言われるかわからんが、

連合軍の発起人たる袁紹殿は会いたいな…」


帰った時の華琳達&部下の冷たい目線を想像するが…。


「…興味が勝つな。

よし、文醜紹介を頼む」


「お~、んじゃ麗羽さまの天幕に案内するよ」


「それでは私は此処で…」


「ああ周泰殿、色々お世話になりました。

次に会うのは戦場かな…」


「はい!その時は兵を率いての強さをお見せします!」


純真さが溢れ出して、


「楽しみにしてる」


思わず握手ではなく頭をグリグリと撫でてしまう。


猫のように目を細めた周泰に別れを告げ、

今度は文醜について袁紹軍の陣地を歩む。


(しかし…周泰、孫権、孫策、周楡、文醜、

今日は他の軍の美女、美少女に随分会ったな)


そしてこれから袁紹に会う。


どんな女性なのか、

既に美しい事は疑っていない。


「そう言えば兄貴。

改めて聞くけど何で孫策軍の方から現れたんだ?

曹操軍到着の時に会いに行ったら居ないって言われたんだけど?」


「うむ、実はな…」


まあ文醜になら良いか。


「あれだ…この前うちの城で顔良の胸を揉むの見せてもらったじゃないか?」


「お~お礼替わりにな」


「それ思い出してたら顔に出ちまったんだろうな、

華琳に怒られて、誤魔化す為に春蘭の事を思い出してたんだと答えたら…」


此処で頭をピシャリと叩き、


「裏に春蘭居るでやんの!」


大袈裟に嘆く。


「あっはっはっ!

そんでそんで?」


受け過ぎだお前。


「此方も誤魔化そうとしたんだがあえなく失敗。

あの馬鹿力の腕力で馬の尻を叩かれてな…」


文醜、大爆笑継続中。


因みに馬は孫策軍に置いてきた。


かなり無理させたし、

他の軍の中を通るのに要らん注目を集めたく無かったから-華琳の軍の馬だけにかなりの名馬の為-、

只それは無駄な配慮だったようだが。


「そんで何処をどお通ったのか2キロ位先の森に着いてな、

休憩の為に寄ったんだが其処で修練中の周泰に出会ったと言う訳」


「ひ~ひ~!暴れ馬に乗って?

兄貴~よく生きてたな」


「本気で死ぬかと思ったぜ!」


今思い出しても身震いする、

まあ生きてるんだから笑い話だが。


「そりゃそうだよな~!

落馬したらどんな腕っ節でも関係ないからな~」


遠くを見て何かを思い出すように真顔になる。


「実感こもってるな。

何か思い出す事でもあるのか?」


あまり楽しい話ではなさそうだが、

好奇心に勝てなかった。


「ん?あ~…隠す気は無いから良いか。

兄貴、前にアタイが麗羽さまを拾い主と呼んだの覚えてるか?」


「ああ…」


「あれは何かの例えじゃなくそのままの意味なんだ。

アタイと斗詩は元々下級士族の出で、

はっきり言って貧乏だった。

それを拾い上げてくれたのが麗羽さま、

麗羽さまは一通りの教育を受けさせてくれたけど、

なんせ貧乏士族の出だから馬なんて高級品扱った事無いだろ?

最初は何回も落馬したもんさ」


こんな事を笑顔で話す。


不幸自慢なら内心ムカつくが此処まで淡々と、

むしろ笑顔混じりで言われると逆に感嘆してしまう。


「それに今は麗羽さまがいて斗詩がいて…。

義兄弟と義理の兄貴まで出来て幸せ過ぎる位だしな♪」


ニシシと笑う文醜。


「俺も幸せだよ」


本当に幸せだ。


そんな話をして歩き、

一際大きな天幕に辿り着く。


「麗羽さま~!お客連れてきました~!」


何時もの事なんだろう、

天幕の入り口で歩哨をしている兵は表情すら変わらない。


「麗羽さま~!」


「何です猪々子さん!

名家の将たる者もう少し礼儀を…。

誰ですのそのぱっとしない男は?」


ずんずん進む文醜について行ったら、

礼儀とか聞こえたのに失礼な事言われた。


別に反論はしないがな。


「麗羽さまの方が失礼じゃないですか?」


「お~ほっほっほ!私は良いのですわ。

何と行っても私は袁家当主、

何事も正直に率直に言わなければ下々の者が困るでしょう?」


あ~初めてだな高笑いがこんなに似合う女性は。


だが容姿は素晴らしい。


実は文醜も今は装着しているんだが-一般兵まで着ているのは無駄遣いだと思う-、

金地に銀の装飾の豪奢な鎧が良く似合うゴージャス美女だ。


華琳も髪を縦ロール気味にしているが、

この女性は完全に縦ロールで、

顔の横に2房、背に腰まであるのを2房の4房を持ち-ストレートにしたら地面につくぞ-、

容姿は名家だけに癇が強そう-要は短気そう-な尖った雰囲気のある整った顔に、

額の金地のサークレットがアクセントになっている。


また気になるのは先程までの話があったので手の平、

何の苦労もした事の無いような綺麗な手の平。


まあ実際かなりのボリュームのある胸も気になっているんだけどな。


「全く麗羽さまは…悪いな兄貴、

麗羽さまはこんな方だから」


諦めているのだろう、

苦笑いしながら代わりに俺に謝罪してくる。


「俺は気にしてないよ。

さっきも言ったが自分の容姿には自信はないから気にすんな」


「何を私の目の前で陰口を叩いているんです猪々子さん!」


やっぱり短気なのかそれ如きで怒んなよ。


「残~念で~した!

麗羽さまの前で言っていたんで陰口にはなりません~♪」


おい、何故火に油を注ぐ。


「猪々子さ~ん!」


ほら怒らせた。


そして一応客の俺を無視して追いかけっこを始める。


「久々だぜ…俺が対応に困るなんてな…」


そこに救世主光臨!


「何やってるんですか麗羽さま!

それに文ちゃん、やっと見付けた。

文ちゃんの分の書類まだ残ってるんだからね!」


おお突っ込みに迷いがない。


「だって斗詩さん…」


「悪かったよ斗詩~。

でもな…」


「言い訳は良いからほら…」


あっ文醜の襟を引き摺って行こうとしていた顔良と目が合った。


「……」


「この前振り、以外と強いな顔良」


いきなりの俺の出現に呆けた感の顔良だが、

俺が話しかけると氷が溶けたように動き始める。


「神北将軍!あの、これは…」


しどろもどろになる顔良だが、


「何だよ斗詩~。

何時もの事だろう何時もの」


バラすな文醜。


「文ちゃん!バラさないでよ~」


ああ泣いてる顔良は可愛いな、

薄幸そうな所が特に。


「斗詩さん何をそんなに慌てているんです?

猪々子さんが言う通り何時もの事じゃないですの」


「麗羽さままで~」


誰かフォローしてやれよ、

俺がしたら逆効果だと思うし。


「う~ともかく…」


それでも話を進めるのは顔良なのか、

泣けるぜ。


「あの、神北将軍が何故此処に?」


「ああ…色々とあったんだが、

文醜の好意に甘えさせてもらって、

連合軍の発起人たる袁紹殿に挨拶をとね」


「あら随分殊勝な考えです事。

まあ当然と言えば当然の事ですけど、

お~ほっほっほ!」


話の腰を折るのが好きだな~。


「まあ文醜と顔良の主としても興味があったし…。

しかし2人に負けない美女で吃驚したよ」


当たり障り無いように袁紹を持ち上げておくと、


「当然ですわ♪

あなたは中々わかっているようではありませんこと♪」


簡単に乗ってくれた。


「なんだよ兄貴~アタイは~?」


「可愛いなと思ってるよ。

只、美しさの質が違うだろ?

袁紹殿は綺麗で文醜は可愛いかな?

顔良はまた別の可愛いさがあると思うけど…」


何だこの自由過ぎる軍は…。


「あらあら猪々子さん可愛いですってよ?

私は美しいであなたは可愛い…良くわかってらっしゃるみたいですわね♪

お~ほっほっほ♪」


またもや高笑い。


「何だよ麗羽さまなんて実年齢より老けて見えるから美しいなんて言い訳されてるだけなんだかんな!」


だから何で主に対してそんな事言えるんだと?


「何ですって~!」


「何だよ~!」


あ~あ~あ~どうすれば?


「神北将軍…」


おう常識人が残ってた。


「申し訳ありませんが当分収まらないと思いますので…」


「任せちゃって良いかな?」


「はい…慣れてますから…」


悟り開いちゃってるよ。


「でも…」


「ん?」


「あの…可愛いって…言って下さって…。

ありがとうございます」


くう!可愛い。


「今度愚痴でも何でも聞いたるから、

2人で一献傾けよう?」


「機会がありましたら是非…」


にこりと笑顔を見せてから、


「それでは…」


そう言ってしっかり俺の案内人まで手配して場の収集にかかる顔良、

あの娘は本当に苦労性だわな。


そして案内人に先導されてやっと懐かしき曹操軍に帰還する。


「よっ!華琳達は中央かい?」


顔良がつけてくれた案内役の兵を労ってから帰し、

関所の兵に声をかける。


「これは神北将軍!

曹操さま達は中央大天幕にて会議中であります!」


「了解、んじゃ行くとしますか」


そして軽く部下の説教-曰わく春蘭を弄るのは良いが行軍に支障を出すなだと-を聞き、

会議中だと教えられた中央の大天幕に向かう。


しかし着いてみると何時も会議の時に感じる緊張感が天幕から感じられない。


今天幕から感じられるのは色濃い怒りの感情。


「何かあったのか?」


歩哨に立っている顔見知りの親衛隊員に問い掛ける。


「これは神北将軍。

…実は曹操さまと荀イク殿が全体会議に出席後、

お戻りになるなり主だった将を集めたのですが…」


「…怒ってたか?」


「恐ろしい程に…」


だわな、天幕の外からわかる位だからな。


「原因は?」


「私にはわかりかねます」


軽く首を振る。


まあそりゃそうだよな。


「何とかなりませんか?」


「俺に言うのかよ!?」


「曹操さまのお怒りです。

他の将では難しいかと…」


「春蘭、桂花は無理。

秋蘭も難しい、季衣には荷が重いし流々はまだ新参で無理。

だとすると…俺か~?」


消去法でいくと俺しか残らないな。


「神北将軍…」


んな期待の目で見んなよ。


「…仕方ね~か。

万一の備えに薬と包帯を用意しておいてくれ」


「手配しておきます。

御武運を!」


拳を突き上げる事で返答とし、

気分からすると正反対な軽い足取りで天幕に入る。


「只今戻りました~」


「…遅いわ…」


「道草一杯したからな~」


精一杯空気に圧されないよう軽い調子で答える。


「何処で道草くってたのかしら?」


声は優しいのに目が笑ってない。


「春蘭のせいで死ぬかと思ったが、

そのおかげで面白い女の子に会えたんだ…」


原因を探るより今は空気を変えよう。


「2キロ位南に森があるんだが、

そこで孫策の所の周泰って女の子に会ったんだ」


「…それで?」


「凄いぜ?俺も気配を読む事にかけては自信があるが、

その俺に居場所を読ませない程の腕だ」


「周泰…孫策の軍にそんな将が居たかしら?」


お、興味を持ったな。


「恐れながら…私の記憶が間違い無ければ、

妹の孫権の元に周幼平と言う将が居たと記憶しております」


空気を変える好機と見たのだろう、

桂花が疑問に答える。


「聞いた事が無いわね…。

どんな活躍をした将なのかしら?」


「特にめぼしい活躍は…。

しかし未確認情報ですが隠密系の元締めのような役割ではないかと」


良く調べてるな、

俺の情報網にあたりはない。


「…ふん…隼人の話とも符合するわね…」


「有り得るな。

まあその娘に案内されて孫策軍に行って挨拶しようと思ったんだが…」


「その位の時間ならあのくだらない会議の最中じゃないかしら…」


不味い、華琳の笑みの黒さが増した。


「まあまあ…そんでそれなら仕方無いと、

孫策軍の中を通って帰って来ようとしたらそこで孫権殿と会ってな」


何とか話を続ける。


「華琳…」


「何よ?」


「あれは逸材だ」


先程までの表情から一転真面目な顔で告げる。


「…それ程なの?」


華琳も俺の声音に何かを感じたのだろう表情を改める。


「孫策の影に隠れてそれ程有名では無いが、

会えばわかる。

今はまだ幼く融通が利かないが、

成長すれば孫策を越える大器に育つ片鱗が垣間見えた」


歴史でもそうだが会えた事で確信出来た。


あの瞳の力、今はまだ孫策には及ばない、

だが時たま見せる輝きは油断できない成長の伸びしろを感じさせる。


「あなたに其処まで言わせるのね…。

ふふふ…面白いわ」


不適に笑う華琳。


やはり華琳はこちらの笑みの方が美しい。


「楽しそうだな華琳?」


「あなたこそ…自分が笑っている自覚があるのかしら?」


「ん?笑ってたか俺」


「ええ、本当に楽しそうにね」


全然自覚無かった。


「ならそうなんだろうな」


正直楽しみだしな。


あの孫策が簡単にくたばるとは思えないが、

戦争中なら何時何処で何があっても不思議じゃない。


「そうなのよ。

…それにしてもあなた随分楽しい時間を過ごしたようね」


「まあ実は孫策にも会えて美女に美少女選り取り見取り状態だぜ」


「あら孫権と周泰も美形なの?」


此処にも食いつくか?

…食いつくわな。


「孫権殿は孫策と良く似てるけど、

孫策の野性味を気品に変えた感じの美少女。

周泰は季衣と同じ位の子で、

何て言ったら良いんだろ?

あえて言うと黒髪の人形みたいな美少女だよ」


「へ~?」


うわ!肉食動物の目をしてる。


「あの…華琳さま?」


「華琳さま~…」


危機感を覚えたんだろう春蘭と桂花が悲しげな声をあげる。


「何て声をあげているのあなた達は?

心配しないでも今夜はこの怒りを鎮める為にも寝かさないわよ」


良いな~どっちとは言わないが。


「…さあ、気分は少し落ち着いた?」


頃合い良しと問い掛ける。


「…そうね、少しは気が晴れたわ」


良かった良かった。


季衣や流々だけでなく秋蘭までほっとしてるのがわかる。


「そんで何があってそんなに怒ってたんだ?」


「何かがあったんじゃないわ…。

逆に何にも無かったから怒ってたのよ!」


いきなり怒鳴るが、

先程の暗い怒りよりこちらの方がまだ良い。


「何も無かったから?」


「そうよ!私達の到着が最後になったのはわかっているわね!」


「ああ先ず外堀埋めてから話を持って来られたからな」


「それは良いわ!

でもね…私達が到着するまで何の段取りも出来てない!

あまつさえ今日の会議で何も決まらないなんて!」


あ~そう言う事か。


「は~?と言いたいが、

あの袁紹殿見たら納得だわ」


「あら?会ったの?」


「まあね。

先程の話の続きになるが、

孫策の所で勧誘等された後…」


華琳や春蘭の眉がピクリと反応する。


「あ~当然断ったぞ。

俺は華琳と契約してるからな…」


意味有り気に華琳を見る。


「…ふっ…私が私である限り…ね?」


華琳がニヤリと笑う。


「ああ…俺は華琳がその契約を破らない限り裏切る事は無い」


俺もニヤリと応えるが、

俺は更に続ける。


「但し、華琳の覇道が変質した時は…」


もしもの話だが、


「俺が止めを刺そう。

華琳だって腐る位なら死んだ方がましだろ?」


こんな事を他の軍で言おうものなら即刻首が飛ぶ。


だが華琳は、


「…あなたの言う通りね。

只、私が私の覇道をそれる事は有り得ないわ」


はっきりと肯定し、

さらに自信を見せる。


「なら俺は裏切らない。

まあ少し孫策の胸には揺れてしまったがな」


最後は茶目っ気で締める。


微妙に冷たい視線が混じるが無視して本筋に戻る。


「そんなこんなで孫策軍を抜けて、

帰って来るには袁紹軍を抜けるのが近道だろ?」


「そうね、孫策軍は袁紹軍を挟んで真向かいだものね」


「そうなんだよ。

そこでまたもや偶然に文醜に会って…」


「イッチーに?

イッチーボク達が到着した時に来てくれたよ?」


思わずといった感じで季衣が口を挟む。


「おお言ってたな。

そんで俺が居ないんでどうしたのかと思ったとも言ってた。

で、ともかくその文醜に誘われて袁紹に会ったんだ」


脱線しそうになったがギリギリで本筋に残す。


「そう…文醜に誘われて会ったのね」


「そうだな。

俺が言うのも何なんだが、

あそこの主従もかなり変わってるな。

俺の目の前で本気の口喧嘩してたぞ」


「…そう言う奴よ麗羽は…」


沈痛そうな表情で答える華琳。


「まあ顔良のおかげで挨拶だけは出来たが…」


しかしきちんと聞いていたかは定かでは無い。


俺の喋り方で大体の事情がわかったのだろう、


「恐らく麗羽の事だから挨拶された事を忘れてるわよ」


断言された。


「俺も実はそんな気はしてる」


薄々は感じてたんだ。


「しかし華琳、

何も決まってないなら董卓軍と戦うどころじゃないな?」


「当たり前でしょう。

なのに今日の会議でも何も決まらず、

明日また集まると言うのよ!」


怒りがぶり返して言葉が荒れる。


「う~むそれは困るわな。

桂花、うちの兵糧はどの位保つんだ?」


実質的な問題があるので桂花に問う。


「かなり余裕を持って準備したから、

直ぐに問題になるような事は無いけど…」


「長くかかるときついか?」


華琳の手前明言は避けたがきついんだろう。


「他の…特に南方から来ている袁術と孫策の所はきついだろうに…」


袁術の所は金持ちだからある程度は良いが孫策はかなりきついな。


「先ずは連合軍の盟主を決めなきゃな?」


「そうね…順当に行けば麗羽なんだろうけど…」


「だろうな~…」


発起人だし家柄からいっても順当だ。


「私からは推薦したくないわ!」


あらあら流石の華琳も我が儘が出てしまうか。


「桂花、華琳は会議でも?」


こそこそと同伴したらしい桂花に話を向ける。


「華琳さまがそんな事するわけないでしょ。

只不機嫌そうに黙っていただけよ」


それもどうなんだ?


「桂花はその時?」


「華琳さまが黙っているのに私がでしゃばる訳にはいかないわよ」


さもありなん。


「なら…」


言いたい事を言ってブスッと黙り込んだ華琳に向き直る。


「なあ華琳?」


「何よ…」


大体言いたい事はわかってもらえたらしい。


まあその位の洞察力が無ければ主足りえないが。


「明日の会議には俺を連れて行ってくれ」


「…任せて良いのかしら?」


「今日会った感じなら問題無い。

一応確認しておくが袁紹が盟主になるのには反対しないんだな?」


念には念をいれないとな。


「しょうがないわね。

私から見てもそれが順当なんだから…」


言いたい事はあるんだろうが、

これ以上譲歩させようとすれば連合軍が瓦解する事がわかるだけに我慢してくれる。


「なら、桂花他の軍の面々は?」


「袁紹が事ある毎に目立とうとして、

それに袁術が噛み付き公孫賛が仲を取り持ち…と、時間を浪費する感じだったわ。

馬超は興味無さそうに黙り、

孫策は発言しないけど苛立っていたわね」


流石軍師、良く観察してるな。


「あれ?一刀の所は出てないのか?」


「規模が小さ過ぎるわ。

劉備、北郷の弱小軍は公孫賛の随行軍扱いよ」


数は力だ仕方ないか。


「なら話の持って行き方で簡単に決まるだろ。

後で孫策の所と公孫賛殿の所には俺から連絡しておくわ」


段取りは決まった。


後は明日会議の席で上手く立ち回るだけ。


「それじゃあ華琳、

今日の所は解散で良いのかな?」


一応お伺いをたてて、


「良いわよ」


許可を頂く。


そして軍師の桂花以外の将軍は揃って天幕から出る。


「隼人兄ちゃ~ん!」


「隼人兄さま~!」


「「怖かったよ~(です~)」」


開口一番泣きつく季衣と流々。


「隼人、今程お前が居てくれて良かったと思った事は無い…」


「姉者に同じく…」


あら春蘭と秋蘭まで、

俺の株鰻登りね。


まあ俺が来た時の空気を思い返すと納得だけど。


「私達は華琳さまの怒りを受け止める事は出来ても、

華琳さまが八つ当たりするのを止める事は出来ない」


八つ当たりだって事はわかっているんだよな。


「我々はそれでも構わないが、

八つ当たりをした後の華琳さまの気分を考えると…」


本当に苦労性だな秋蘭。


顔良と呑む時は秋蘭も誘おう。


「俺は本当の意味で華琳の部下じゃないから…。

華琳も皆も好きだが故あれば離反する人間だ…」


もし華琳が覇道から外れたとしても、

此処に居る皆は軌道修正しようとはしても華琳の下からは離れないだろう。


「だから華琳にも色々言える。

俺には俺の、皆には皆の支え方ってだけだけどな」


「それでもだ。

今居てくれて…華琳さまの心の一部を救ってくれて感謝してる」


頭まで下げられるとどうしたら良いかわからんから、


「そんなに感謝してくれんならお礼は接吻で良いぜ?

唇とは言わないから頬にでも…」


少しふざけていなそうとすると、


「隼人!きさま調子に乗りすぎ…」


「秋蘭将軍!」


春蘭と流々が過剰反応。


「???」


季衣だけは何を問題にしてるのかわからないようだが。


「何だそんな事で良いのか?」


「一発此処に…って!?」


一瞬の柔らかい感触が頬に触れて離れる。


「これで良いか?」


照れも無く聞いてくる。


「「秋蘭さま!」」


俺が呆然としているとまたもや春蘭と流々が悲鳴をあげる。


「どうした姉者?

華琳さまのお役に立った者に、

私達の出来る事で褒美が出せるなら迷う必要はないだろう?」


ああそう言う事か。


「それはそうだが!」


「それに…」


吃驚した自分に苦笑している俺をちらりと見て、


「隼人なら私の気持ちとしても問題無いしな」


爆弾を落とす。


「何!?」


「え!?」


「お♪」


「ボクもボクも~♪」


驚愕の2人と嬉しい評価の俺が思わず声をあげた時、

またもや頬に柔らかい感触。


「「季衣!?」」


「…どうした季衣!?」


悲鳴を三度あげる2人を構う事も出来ない程動揺する。


「え?兄ちゃん嬉しくない?」


「いや嬉しいが…いきなりだったからな」


「それじゃあもう1回…」


笑顔で近付いてくる季衣をどうしよう。


「季衣!お前はそんな事せんで良い!」


なんて考えていたら春蘭が止める。


「春蘭さま!?何で止めるんですか?」


本当に不思議そうに質問する。


「何故って…接吻と言う物は好き合った者同士がだな…」


「ボク兄ちゃんの事好きだよ?兄ちゃんは?」


「俺も季衣の事好きだよ。

だからほら…」


季衣に向かって手を差し出す。


「うん♪」


季衣が飛びついて来てまた頬にキス。


「嬉しい?」


純真に無邪気に聞いてくる季衣に、


「ああ嬉しいなありがとう♪

だけど季衣、

唇への接吻は駄目だぞ?」


感謝と注意を伝える。


「何で頬は良くて唇は駄目なの?」


「頬だって好きな人以外は駄目だけど、

唇は愛した人…結婚しても良いと思う人以外にはしちゃいけないんだ」


噛んで含めるように説明。


「そうなの?」


「そうなの」


「でも春蘭さまが前に華琳さまとしてたよ?」


季衣の見てる所で何してんだ。


「み、見られてた!?

何処でした時…」


気付いてなかったんか。


「そうだよ。

だって春蘭は華琳と結婚しても良いと思ってるだろ?」


「…そうだよね!」


納得させたぜ。


「私の接吻も嬉しかったかな?」


「当然!こんな美人2人から接吻貰えて、

俺は国一番の幸せ者だな♪」


かけねなく本当の事だ。


「ならば姉者もしてやれば良いではないか?」


秋蘭、悪い顔になってる悪い顔になってる。


「な、何故そんな事を私がしなければ…」


「何故ってこの前姉者が言っていたんじゃないか」


何を言っていたんだろう。


「隼人は男の中ではましな奴だと」


「何を言っているんだ秋蘭!

あれは武術の腕を言っていたんであってな!」


「そうか春蘭がな~…」


そこで少し春蘭をからかっていると、


「隊長~!」


聞き覚えのある、

と言うより毎日聞いてる声が…。


「あれ真桜?」


会議の席には出られない下級将軍の李典が走ってくる。


因みに軍の主要な者のみの会議に出られるのは、

華琳の両腕たる春蘭、秋蘭、

親衛隊の隊長である季衣とその補佐である流々、

-流々は実は出席するにはまだ位的に足りないんだが、華琳が既に親衛隊の2人目の隊長に内定させた為出席している-

そして客将とはいえ能力を認められている俺、

そして将軍では無いが華琳のもう1つの頭脳たる桂花、

そして全てを纏める主君たる華琳。


以上7名で行う。


名前は出ないが、

俺の所に凪達が部下としてつけられたように、

春蘭や秋蘭の下にも下級将軍が何人も従っている。


まあ軍を1人で動かすのなんて無理なんで当然だが。


「どうした?」


「皆さんお揃いの所五月蝿くして申し訳ないんですけど、

隊長に孫策軍の孫権殿が面会を希望されてます~。

実はもう到着されてたり」


「あに~?もう居るのか?何処に?」


流石に吃驚だぜ。


「今は隊長の天幕の近くで待っていただいてます」


「何だ天幕に入ってもらって…」


「言いました~!

でも主が居ない天幕に入る訳にはいかないって言われて~」


く、融通の利かない。


「そんじゃ案内してくれ!

…どした流々?」


走り出しそうになった時、

目の端に何か言いたそうな流々が見えた。


「何でも!?何でも無いですから!」


まさか振られるとは思わなかったんだろう慌てて手を振る流々。


「何だよ流々~。

流々も接吻したいならしたら良いのに~?」


「な!?そんな事…少ししか考えてないわ…よ…」


恥ずかしそうに真っ赤になる流々。


「…今度良かったら頂戴な?」


微笑ましい事に頬を緩めて優しく声をかける。


「は…はい…」


満更でもないように下を見てしまう流々。


恥ずかしがり屋だな…いや恥ずかしいわな。


「隊長~!」


じれて-それだけじゃ無さそうだとは自惚れ過ぎ?-声を荒げる。


「わかってる。

季衣、華琳にその旨伝えておいてくれ」


「わかった!」


「じゃあ行くぞ!

真桜は後から付いて来い!」


止まった状況からいきなりトップスピードにギアを上げて、

教えられた自分の天幕に走り出す。


「道筋に沙和が居ますんで迷わないで下さいね~」


手回しが良いな真桜…だが走る気が無いのがまるわかりだ。


これ以上待たせちゃ悪いので全力で走り、

途中沙和から詳しい場所を聞いて-予想とほぼ同じ場所だった-かなりの速度で天幕に到着する。


「ふ~…お待たせしましたかな?」


そこまでの距離ではないので一息で呼吸を整える。


「急がせてしまったようで申し訳ない」


今日初めて会った俺に対して、

軽くとはいえ頭を下げてくれる孫権。


「いやいや此方こそお待たせしてしまったようで…」


「会議中と聞いていたのでお気になさらず。

椅子まで用意していただいて恐縮の至りだ」


凪が気を回したんだろうナイス。


「そう言っていただけると…。

しかし本日挨拶はさせて頂いたと思うのですが、

華琳…曹操ではなく私に用だとか?」


「曹操殿にはこの後挨拶させて頂こうと思っている。

…しかし本当の用事は…」


言い難そうに言葉を濁す。


「何か失礼な事しましたっけ?」


本気で心当たりが無い。


「いや神北殿に落ち度は無い。

それ所か丁寧な挨拶を頂きながら、

茶の一杯すら出せずこちらが申し訳ない程だ」


本当に恐縮する孫権。


「あの時は此方も時間が無かったので…」


「しかしあれだけの時間引き留めたのだからせめて…」


このままでは話が進まない、


「蓮華さま…」


「何かしら思春?」


「お話しがそれております…」


と思っていたら孫権の随伴護衛が声をかけてくれる。


孫権と微妙に被って見え難かったが良く見るとかなりの美人だ。


「孫権殿、そちらの女性は?」


呉で後主要な人物とすると、

呉の宿将黄蓋、同じく程普、鈴の甘寧、名将陸遜、異貌と伝えられる陳武、

主要な将だけでもこれだけ居る-他に何人も居るが省略-。


「ああ申し訳ない紹介が遅れた。

思春は普段主に私の護衛を勤めてくれている甘寧と言う」


「我が名は甘興覇。甘寧とお呼び下さい…」


慇懃だが冷たい雰囲気。


そして容姿は言葉通りのクールビューティー。


紫色の髪をショートボブ-で良いのか?-に揃え、

後ろ髪は団子に纏めて赤の細い髪紐でとめている。


服装は黒い布のマフラーに朱色の…ミニ!のチャイナ服、

袖は暗めのグレイの落ち着いた色が手首近くまで隠している。


そして俺的に注目なのは…褌!

この世界何故かミニスカート履いてる娘は多いが、

此処まで下着が丸見えなのは初めてだ。


実は周泰も褌かと思うが見て確認する訳にもいかず。


しかしこの娘が褌なら周泰も恐らく…。


ともかく、

そして容姿は…美しい!綺麗な瞳、

つり目気味ではなく完全につり目の綺麗なアメジストのような瞳-周泰の瞳の色と似た-。


全体の印象は刃、

周泰と会った時も同じように感じたんだが、

周泰を刃とするなら甘寧は剃刀の如き鋭さがある。


「はじめまして甘寧殿、

神北隼人です宜しく」


此方からの挨拶には首肯しただけで答える。


普通なら失礼ともとれるが動きに無駄が無いので気にならない。


「思春…失礼でしょう」


「は…宜しくお願いいたします」


促されて挨拶されても。


「気にしないで良いですよ。

何か相通ずる物を感じるしな…」


動きや気配、目線の配り方を見るともしかしたらこの娘も暗殺系の出かな。


「そう…なのか?

いや、また話がそれる」


気を取り直して要件を述べる。


「私が今回伺ったのは…その…今日お会いした時の事なのだ」


今日?孫権殿と?挨拶以外に何かあったっけ?


「悪いのですが…心当たりが無いのですが?」


「え!?あんなに失礼な事を言ったのにか!?」


いや吃驚されても…。


失礼な事…失礼な事…あ~もしかしたらあれか。


「まさかこんな男とか言われた事かな?」


まさかね~?


「ぐ!…やはり覚えておられるではないか」


ビンゴかよ!


「その事ならお気になさるな。

俺は今の今まで忘れていた」


「そんな訳にはいきません。

あの時は雪蓮姉さまの言葉に返す形で暴言を吐いてしまい、

誠に申し訳ないと思っていたのですが…」


「まあその後にな…」


口喧嘩始めたから周瑜に後を任せて帰って来ちゃったからな。


「いつの間にかいらっしゃらないので…」


「わざわざ来てくれたと?」


孫権は頷く。


「はぁ~義理堅い人だね~」


此処までくると感心しちゃう。


「そんな事は無い。

人として当然の事をしているとだけだと思うが…」


「…孫権殿の言う当然は難しそうだ」


おちょくるのではなく只の感想ね。


「まあそう言う事なら此方も受け入れましょう」


「許して頂けるか?」


「ええ許します。

それに丁度良い時に来ていただけたし」


「丁度良い時?」


少し甘寧が動く。


反応するような動きではなく、

只動いただけと言う感じの自然な動き。


周泰より手強いかもしれない。


「ええそんなんです。

後程孫策殿の所に伝令を出そうと思っておりまして」


「姉さまに?」


「そうです…提案があるのです」


話を切り替える。


「軍としての事なら私に決定権は無いのだけど?」


「承知しております。

只、孫策殿にも益がある話ですので、

私の勝手な予想ですが間違い無く頷いていただけると思います」


そして話の概要を伝える。


「…そうね。

その話を姉さまに必ず伝えましょう」


手応え良し。


「お願い致します」


「それでは私は曹操殿に挨拶があるので…」


辞去の挨拶をする孫権だが俺から一言だけ。


「お待ち下さい」


「何か他にも?」


まさか引き留められるとは思ってなかったんだろう、

疑問のありありとわかる顔。


「僭越ですが助言を1つ…。

今回は孫権殿に来ていただいて私は嬉しかったのですが、

一般の者に対しては対応を変えた方が宜しいかと…とね」


「どう言う意味です?」


眉をしかめて詰問される。


「私は華琳の客将であり自分の性格としても気になりませんが、

一般の者からしたならあなたは雲の上の方だ…。

それが悪いとは思いませんが、

場合によっては今回のような事は、

相手の負担になる場合があると思いますよ」


俺の忠告の意味を考えているのだろう、

目を閉じて黙っている。


「つまり私の心遣いが重いと…」


「私は嬉しかったですよ?

ですが例えば天の神々、大地の精霊が少しの事で現れたら吃驚するでしょう?」


例えが難しい。


「ふむ…」


「それが自分の為なら更に恐縮する事もあると思います」


「…そうね…」


想像しているのだろう頷いてくれる。


「ですから相手によっては、

自らではなく部下に任せるのも1つの手段と考えた方が良いかと」


俺の忠告はこれで終わり。


「神北殿の説明はわかり易いな。

ご忠告ありがたくいただきます」


納得してくれたか。


もしかしたら忠言耳に逆らうを地でいかれるかと思ったが、

しっかりと吸収してくれたようだ。


「そう言っていただけると幸いです。

それでは華琳が待っていると思いますので、

我が部下の案内を付けさせていただきますので…」


「神北殿…良ければなのだが…」


今度は孫権から話し掛けられる。


「何でしょう?」


「良ければなのだが…姉さまの時のように話してはくれないだろうか?」


「孫策殿と同じように?」


少し吃驚する。


孫権はそこの所厳しそうかと思ったんだが…。


でも、


「孫権殿が良いなら俺は構わないよ。

ならば俺の事は隼人と呼んでくれ」


何か信頼されているようで嬉しい。


「…ありがとう。

此方こそ宜しく隼人殿…」


「隼人…だよ。

殿は要らない」


「…宜しく…隼…人………殿」


あら?無理かな。


「今度会うまでに慣れておく!

今日は勘弁して欲しい…」


慌てたように言い募る。


「なら会うのを楽しみにさせてもらう。

じゃあまた会おう」


「んむ、また今度、

会いましょう」


華の、可憐な華のような笑みを残して去って行く孫権。


「…感謝します…」


去り際、甘寧が小さな声でお礼を言って去る。


やはり甘寧も同じような心配をしていたようだ。


ならば言ってやればとは素人考えだ。


恐らくその生真面目さも孫権の魅力なんだろう、

それを甘寧が忠言してはその美徳が消えてしまう、

だからあえて孫権に忠言しなかったんだ。


それだけ孫権に対しての影響力があると、

自信が持てる程の信頼関係…やはり手強そうだ。


「ともかく、後の根回しもしておくか」


近くの部下に指示を出して使者を2人用立てさせる。


「え~と西涼軍には明日の朝に面会したい旨、

公孫賛軍にはこれから面会したい旨を伝えてくれ。

公孫賛は挨拶した事あるから俺の名で、

西涼は面識無いから華琳の名で接触しろ」


「「は!」」


華琳から許可を貰ってないけどバレなきゃ良いんだ。


-30分後


「只今戻りました」


公孫賛に向かわせた使者が戻って来た。


「今夜の再会を楽しみにしている…との事です」


「なら直ぐに向かう。

西涼に向かわせた奴が戻ったら直ぐに知らせろ」


「は!」


言うが早いが正装-生地が高級な-を整え会談場所に向かう。


アポイントメントは取ってあるので関所等はさくさく進め、

公孫賛軍でも一際大きな天幕到着する。


「お会いする約束をしている神北隼人だ。

公孫賛殿に取次を頼む」


天幕の歩哨に取次を頼むと、


「公孫賛さまからお聞き致しております!

御到着されたら中に通すようにと指示が御座いますのでどうぞ!」


きびきびと良い動きだ。


良く訓練されている。


「お邪魔させていただきます」


入り口の垂れ幕を兵に上げてもらい中に入る。


「お~久しぶりだな♪」


するとそこには公孫賛がリラックスしたように椅子に座っていた。


「お久しぶりです。

今回の面会の許可をいただき…」


「良い良いそんなに堅くならないで。

以前挨拶したんだからもっと砕けてくれよ」


「なら言わせてもらうが…」


さっきから気になっていたんだ。


「何でそんなに警戒心が無いんだ?」


天幕に入るまでは普通なのに、

主だけが警戒心無いとかどうなのよ?


「?…何故警戒しなければいけない?

だって今曹操軍は味方だろ?」


当たり前の事言われても…。


「そうじゃなくてな…例えば俺が個人的に公孫賛殿の事を害する可能性だってあるだろう?」


「害する気があるのか?」


「今は無いけど…」


「なら大丈夫じゃないか!」


だ~か~ら~!


「……まあ良いか!

その話は後にして…」


「後で又話すのか?」


「…頼むから話の腰を折らねーでくれよ」


思わず脱力して公孫賛の対面の席に崩れ落ちる。


「ハッハッハッ…いや悪い…何時もは私が遊ばれるんでな。

たまには誰かで遊びたかったんだ」


悪気無く言われたら怒るに怒れない。


「勘弁してくれよ…」


「わかったわかった。

それでは用向きを聞こうか?」


居住まいを正すと…流石は1州を取り仕切る武将、

威厳と気品が各段に増す。


「今回持ってきた話は双方益になる話だと思う」


此処は正直行こう。


「ふむ…聞くと言っておいて悪いが、

盟主を決める時に曹操の味方につけと言う話なら聞けないぞ?」


ふむ、軽いジャブだな。


「…何故話題がそうだと?」


「この時に曹操軍の将が会談を申し込んで来る…。

これで予想出来ないなら政治を志すのは諦めた方が良い。

違うか?」


少し得意そうにしている公孫賛には悪いが、


「そうだな…だが俺の用向きは実は違う…」


「違う?」


此方の思惑は違うんだ。


「着眼点は良いが俺の提案は逆だ」


「…曹操を盟主にしたいんではなく逆?」


「そうだ。

単刀直入に言えば、

袁紹を盟主にするのに協力してくれと要請しに来た」


公孫賛の瞳を真っ直ぐ見て提案する。


「…少し驚ろいている。

…何故曹操ではなく袁紹なんだ?」


考えを纏めようとしているのだろう、

目を閉じたままで質問してくる。


「説明させてもらうよ。

まず、何故華琳を盟主に推さないか?

これは公孫賛が断った事でもわかる通り、

盟主に推しても成功する可能性が薄いからだ…」


公孫賛は説明に頷くだけで口は挟まない。


「何故なら我が軍は連合軍への到着が1番遅く、

それまでの会議に出られなかった事が響いている」


此処までで一度言葉を切り、

皮肉気に続ける。


「恐らく袁紹軍の参謀達の作戦なんだろうが効果的だ。

家の格、財力、兵力、そしてそんな面倒臭い役をやろうとする意思から言っても、

盟主になる可能性は袁紹、袁術、華琳の3人だろう…」


「…私を目の前にして随分な内容だな」


苦笑しながら愚痴るが、

理解はしているのだろう怒りはしない。


「悪いが仕方ないだろうさ。

袁家は三公を多数輩出した名門、

曹家は先々代が三公だった名門なんだ。

これに対抗出来るとしたら、

西涼を実質的に取り仕切る馬騰位のもんだ」


「娘の錦馬超では力不足か?」


「不足だろうな。

西涼は独立心の強い土地柄と聞く。

それを纏めているから対抗出来るのであって、

娘では本当の意味で従わない可能性があるんじゃな」


「ふむ…そうだな…」


納得したんだろうまた目を瞑り熟考の構えだ。


「…続けるよ。

そしてこの3人の中で袁家は2人居るが、

本筋なのは袁紹だし格的には1段上だ。

となると華琳との一騎打ちだが、

我等の軍を最後に誘う事で戦わずして退けられた」


「…そうだろうな。

私だって最後に到着した軍が盟主になったらいい気はしない」


「ああ、だからほぼ可能性の無い華琳では無く、

袁紹をさっさと盟主にして行動を開始したい」


「なら何故今日の会議で曹操はそうしなかったんだ?」


ふと思い出したように疑問をぶつける。


「…公孫賛…お前ならあの袁紹を盟主に推したいか?」


げんなりした顔で聞き返す。


「…うわ!むかつく!絶対やだ!」


想像したのだろうがえらい言われようだ。


「それも華琳は袁紹と同じ場所で学んだ竹馬の友だ。

かなりの対抗意識があるから、

自分からは絶対推薦なんて出来ないよ。

うちの女王様は自尊心が山より高いから…」


「そんな感じはするな~…」


2人して遠くを見る目になり頷く。


「だから俺が動いてる訳さ。

公孫賛だって早く盟主でも何でも決めて動きたいだろ?」


「そりゃそうだ。

此処に居るだけだって兵糧は着実に減ってるんだ」


そう言って渋い顔になる。


「…公孫賛に関しては、

他の軍にも増してきついだろ?」


「…わかるか?」


「評判は聞いてるからな…」


別に兵糧が集められないと言う情けない評判じゃない、


「北方の騎馬民族相手に大活躍と聞いているよ」


そう、馬に乗らせたら下手な狐狸妖怪より質が悪いと評判の、

北方に巨大な支配地域を持つ異民族が居る。


過去にも何度となく漢王朝の領地に侵攻して来て酷い被害を生んでいるらしい。


「騎馬民族だけに馬の扱いには目を見張る物があるのに、

公孫賛の白馬陣はそれを凌駕したと聞いてるよ」


俺の情報網からの報告でもべた褒めだったからな。


「…くぅ…あんまり褒めんなよ!

こっぱずかしいじゃね~か!」


真っ赤になってテーブルをバシバシ叩く。


「何が恥ずかしいんだよ!

これは遠慮する必要もなく誇って良い功績だ!」


「…そう…かな?」


「そうだよ!」


本当に遠慮深い性格だなこの女性は。


「そうか~♪」


凄い照れてる照れてる。


「な~?だけどその活躍があったからこそ兵糧厳しいんだろ?」


「ぐ!」


痛い所を突いた。


「なんぼ快勝した所で被害が無い訳が無い筈だからな?」


具体的な規模はわからないが、

強敵だったようだから悪ければ2割、

良くて1割弱は兵力を削っただろうし、

兵糧もかなりの量を使ったろう。


「…実はそうなんだ。

正直に告白すると、

桃香と一刀が連れてきた奴らの分も少し負担してるから…。

今の速度で兵糧を使うと後一週間が良い所だろう」


何で義勇軍の分まで負担してんだよ。


「…お人好しだな」


「親友が困ってんだ仕方ないだろ!」


自覚はあるらしい。


「まあ、なら問題はないかな?」


「ああ、正直渡りに船の提案だ。

告白すると、

曹操を支持してくれと先に言われたら折れてしまいそうだったんでな…」


最初に釘を刺した…か。


「それじゃ明日は頼む」


用件は終わったので席を立つ。


「何だ、もう帰るのか?」


「まだ報告は無いが、

もしかしたら西涼も今夜中に話が出来るかもしれないからな」


「良く働くな~!?

どうだ、私の所に来ないか?」


また勧誘されちったよ。


「…今は華琳の所が居心地良いんだ。

悪いな」


冗談じゃ無いようなんで正式に断る。


「…そうか…下らない事を言った。

忘れてくれ…」


少し残念そうだ。


「…公孫賛、まだ時間は大丈夫か?」


俺のなけなしの良心が騒ぐ。


「どうした?

私はまあ今日の所は時間があるが…」


「なら1つだけ忠告だ。

もっと人を疑え…」


親切心と言うよりは良い女が死ぬのが嫌なだけなんだが。


「疑え?」


怪訝な顔をされる。


「人を信じられるのは美徳だが、

州を治める者にとっては両刃の剣。

同じ国の者なんだからと信じていたら、

攻め滅ぼされたじゃ領民が可哀想だ」


「何~!」


失礼な物言いに立ち上がる公孫賛。


「ちなみにうちの軍には袁紹軍の間者が、

俺の知る限り8人潜り込んでいる」


「へ?」


毒気を抜かれたように怒気が霧散する。


「へ?じゃなくて、

普通にその位の腹の探り合いをしているのさ。

なのに公孫賛の所は偵察はしているが間者等は放たない…」


戦国の世でも…いや、だからこそ情報は武器だ。


「そのままだと近い内に攻め込まれるぞ?」


「…ならお前も何人か他の軍に?」


衝撃がでかかったんだろう、

答えられる筈が無い事を聞く。


「…詳しい数は教えられないが、

相当数放っているとだけ答えよう」


しょうがないから放っている事だけ教える。


「なら、もしや私の軍にも!?」


やっとそこに考えが至ったか。


「当然だろう?

俺のが居るかはともかくとして、

間者が混じるのは当たり前の事だ。

その中から真に信頼に足る者を見つけ出すのが難しいんじゃないか」


何をわかりきった事を…。


「皆やっているのか?

そんな面倒な事を?」


「面倒だけど…足下を掬われるよりは良いだろう?」


奥の手や弱点等を知られたら泣くに泣けない。


「そりゃそうなんだが…」


何故か納得しない公孫賛。


「まあそんなんだから…もし、もしだ、

危機に陥ったら…」


「嫌な預言だな」


「まあ聞けって。

もし危機に陥ったら、

自分の命を大切にしろ。

助けに行けるようなら命だけは救えるようにがんばるから」


俺が冗談を言っているのでは無いことがわかったのだろう、

気を引き締めて質問を返して来る。


「…そんな危惧される程、

我が州を狙っている者が居るのか?」


危機感がやはり足りないな。


だが俺はこれ以上サービスする気は無いので、


「…その情報が欲しいなら…」


意地の悪い顔になり、


「今夜公孫賛殿が、

閨の共をしてくれるなら教えよう」


優しく囁く。


理解に3秒程の時間を使い、

公孫賛は意味を理解する。


怪訝な顔、考える顔、真っ赤な顔と、

1人百面相を見せてくれた公孫賛が叫ぶ。


「わ、私は身持ちが堅いんだ!

そんな事を言うなら帰れ~!」


会談場所に置いてあった鎧や何かを投げつけられながら天幕を飛び出す。


「んじゃな~公孫賛!

明日は頼むぜ~!」


捨て台詞を残して華琳の下に戻る。


すると丁度華琳から呼び出しが掛かったので、

部隊の事を沙和に任せて華琳の天幕に向かう。


「呼び出されたから来たよ…」


華琳の天幕へは顔パスなのでなんの気兼ねも無く入ったら、


「良く来たわね♪」


華琳の顔しか見えない。


顔から下は薄いベールで隠されシルエットしか見えない。


だが、そこには華琳以外の影が…。


「お楽しみ中に悪いと言いたいが…なら呼ぶなよと言っておく」


シルエットから恐らく春蘭と…桂花までいるのだろう、

精力絶倫だな華琳。


「楽しみと仕事、

どちら共蔑ろにする気は無いわ。

それに隼人なら春蘭達を見られても構わないわよ♪」


「そんな評価は要らん!

見るなら自分で脱がせて見る!」


畜生~良い女ばかり囲いやがって。


「あらそう?

春蘭辺りは見て欲しそうだけど…」


「華琳…さま…そん…な…」


抗弁と言うより色っぽい喘ぎ声、

だが深く抉られたんだろう一際大きな嬌声を上げて静かになる。


「…人の情事を覗く趣味は持ち合わせて無いんだが?」


「あら?あなたの方に用事があるんだと思うんだけど?」


耳が早いな。


「…華琳の名前で西涼に面会を求めてる。

事後承諾になったのは悪いと思ってる」


実は全然悪いなんて思ってないが、

これもお約束と言う奴だろう。


「…ふふ…許しましょう…」


華琳が動く度、

喘ぎ声が聞こえるのがムカつくんですが。


「それで…用件は他にもあるんだろ?」


無いとか言われたら怒っても良いと思う。


「孫権に会ったわ…」


「…」


話が見えない。


「なかなかの人物と見たわ…」


まさか…!?


「何とかうちに引き抜けないかしら?」


危惧通りか~!


その動揺を表に出さないようにたしなめる。


「無理言うな。

相手は孫策の妹だぞ?

本人も融通が利かなそうだから難しいんじゃないか」


「…そうね」


同じような印象を受けていたのだろう、

華琳も反論しない。


「そして孫策軍は袁術の客将だ。

武力で引き抜こうとしたら袁術が出て来るのは必至」


兵の練度はともかくとして、

兵の数なら袁紹軍とどっこいどっこいの規模だ。


そんな相手に横槍入れられたら、

精強でなる曹操軍と言えども苦戦…悪ければ壊滅となる。


「そうよね?

ならば手強い相手に成長する可能性が高いわね♪」


そこは笑顔になる所じゃね~。


「話がそれだけなら休ませてもらえるか?

流石に今日は色々あって疲れた」


話の区切りがついた所で辞去の許可を求める。


「本当に交ざらないのかしら?」


「…止めておく。

明日軍を纏める将軍が、

全員使い物にならないのは困るだろ」


「春蘭は事の次の日の方が調子が良いわよ?」


春蘭、お前の体はどうなってんだ!?


「俺には無理。

こんな布陣だからな夜の警戒も大切だし」


最後に着いたからか、それとも袁紹の意地悪か、

我が軍の陣地は一番汜水関に近い場所にある。


だからこそ今夜の警備を秋蘭にしたんだろうが、

安全に万全なんて物は無い。


警戒しておく事にこした事はないだろう。


「なら、退出を許可するわ。

おやすみなさい」


「では、また明日…」


踵を返し天幕を出ようとする所でふと思いつく。


「…そうだ華琳。

今日忙しかったから賞与をくれ」


「…いきなりね?

話は聞いてあげましょう」


不躾なおねだりだが、

今の華琳は上機嫌なので聞いてくれる。


「簡単だ。

そこの林檎を1つ頂戴したい」


流石は華琳の天幕、

果物が山と積まれた籠が用意されている。


「そんな事?

葡萄以外なら持って行って良いわよ」


「なら2つ頂く。

改めて失礼するよ」


今度こそ天幕を出ると、

既に日は暮れ、宵闇が広がる中に凪が待っていた。


「隊長、お疲れさまです」


「迎えに来てくれたか」


良い部下に恵まれているな俺は。


「はい、それに早めに報告をと思いまして…」


雰囲気から西涼は明日かな。


「申し訳ありません。

西涼軍は明日の会談としてくれと…」


「ご苦労様。

俺も今日は疲れた…明日で良いならそちらの方がありがたい」


何故か気落ちした感じで報告する凪を慰めながら自分の天幕へ戻ると、


隊長なのぉ


真桜と沙和が待っていた。


「報告は中で聞こう」


正直マジで疲れた。


せめて緊張を解せる所で話を聞きたい。


「わ~い♪」


「やっぱ隊長は話せるわ♪」


「こら、2人共!」


3人集まれば姦しいとはこの事だ。


1人は止めようとしてるんだがね。


「良いから入って適当に座れ。

そんで今茶を煎れるから待ってろ」


「「わ~い♪」」


「…いただきます」


何故こんなに喜ぶかと言うと、

考えて欲しい、茶を煎れるには湯が必要だ。


湯を沸かすには燃料-この時代では薪-が必要だし、

勿論水も必要だ。


そしてその全部が消耗品で、

軍では兵糧と呼ばれる貴重品だ。


だから戦場でのお茶がどれだけ高級品かがわかるだろう。


「湯が沸くまでに報告を聞こうか?」


「なら、まず沙和から報告するのぉ」


沙和が挙手して報告を始める。


「干禁隊、楽進隊共に夜営の準備は完了なのぉ♪」


「なら次はウチや」


沙和の真似なのか真桜も挙手する。


「ウチの李典隊と隊長の神北隊の夜営準備も完了しとります。

後、指示通り神北隊の雑務はうちで代行しときましたけど…」


歯切れの悪い報告、

大体原因の予想は出来るが。


「不満爆発したろ?」


当たり前だ。


隊長の隊だからと言って雑務免除なんてやり過ぎとしか思えない。


「まあ、隊長の予想通りです。

ウチは隊長に何か考えがあるんやとわかるんですが、

一般兵には…」


「ああ、しょうがないさ。

ほら、茶がはいったから飲んでくれ」


簡素な急須で4人分の茶を煎れて手渡す。


「そうだ…ついでに華琳から林檎をいただいた。

皆で食おう」


2つの林檎を半分に割り、

1人半分づつ分ける。


「随分豪華なお茶になりましたね」


凪の言う通りだ。


だが、それだけの役割は担っているので気にしない。


「今回俺の隊を休ませたのは他でもない、

今夜の事を警戒してだ…」


話の途中で一口お茶を飲み続ける。


「俺の予想が正しければ今夜夜襲がある」


予想が外れると不満が残るから勘弁なんだが。


「何か情報が!?」


「いや、只の勘だ!」


力一杯断言する。


「ただし、俺の悪い勘は良く当たるんだ。

3人の隊はゆっくり休ませろ、

夜襲があった場合は秋蘭隊と神北隊で対処する」


「ですが!?」


「凪、来ると決まった訳じゃないんだ」


思わずと言った感じで反論しようとする凪を制止して追加で指示を出す。


「もし、もしもだ…。

お前達が気付いた時に周りが五月蝿かったら、

隊を纏めて華琳の所に急げ。

しかし五月蝿くなかったら…」


一同を見回して指示を出す。


「俺が気付いてから1分待つ。

それまでに集まれ。

俺が居なかったら既に秋蘭隊に合流してるからそちらに来い」


「「「はい!」」」


特別な待遇を受ける者にはそれ相応の責任が付いてまわる。


隊員は休ませてもこの3人は俺と共に来させる。


「堅い話はこれでおしまい。

温かいうちにお茶を飲みな」


その後は和気藹々と席を囲む。


-深夜3時頃


「…来たか?」


「汜水関より多数の兵の出撃を確認…」


今の今まで寝ていたが、

子飼いとは言え他人が近付いて来て寝ている訳にはいかない。


「ご苦労。

気付かれないうちに隊に復帰しろ」


「は…」


隊員のうちに飼っていた蜂を回収し、

宣言通り1分待つ。


「……行くか」


待ってから天幕を出れば、


「「「……」」」


しっかりと3人が集まっている。


「皆は神北隊を率いて秋蘭隊の左翼につけ、

俺は一足先に秋蘭と合流する。

その先は後程通達する」


3人は首肯のみで応えて散る。


そして俺は言葉通り一陣の風となり天幕の間を疾走、

暗闇の中で息を殺して待機する秋蘭に近付く。


「…秋蘭…」


「隼人か?」


昔とった杵柄、

秋蘭の周りには護衛の兵が多数居たが、

声を掛けるまでは気付かれていない。


「汜水関から出て来たようだな?」


蜂からの報告を伝えようとするが、


「面白い者を飼っているな?

わざわざ私の所にも報告していったぞ」


そう言えば奴は秋蘭のファンだったっけ。


「なら話は早いな…どうする?」


後でグチグチ苛める事を決意しながら話を進める。


「奇襲は気付かれていないからこそ奇襲となる…」


「…だな…」


流石は秋蘭、

既に策は決まっているようだ。


「なら、神北隊は左翼につくよう指示をだした。

秋蘭隊に比べれば練度が足りない、

秋蘭隊が動いてから動かさせてもらう」


ギリギリまで引き付けた方が良いだろう。


「そうしてくれるとありがたい…」


「機を見て俺が突っ込む…」


「…1人でか?」


若干迷ったように返答が遅れる。


「…気配を消して奇襲する。

纏まると気付かれる可能性があるからな」


はっきり言って足手まといだ。


「わかった。

相手を引き付けた後一斉射、

隙があればもう一斉射後突撃する」


「わかった。

しかし見事だな…」


「ん?」


「此処まで統制のとれた隊は珍しい。

そして既に間近に来ている筈なのに気配を…来たな」


闇夜の先、1キロ程先だろうか?

多数の人間が息を殺して行軍している気配がある。


「だな…通達急げ」


何人かの伝令が走る。


「凄いな…此処まで接近を許したか…」


流石は漢王朝きっての武将2人、

事用兵に限っては勝てる気がしない。


「張遼はかなりの指揮能力と聞いていたが、

華雄もかなりやるな…」


「そうだな…かなりの猪突猛進だと聞いていたんだが…」


秋蘭も認めるか…。


「だが此処まで良く辛抱している…。

まあ俺達にはバレちまったがな」


普通なら…春蘭みたいな攻め主体の将なら察知は無理だっただろう-もしかしたら野生の勘で気付くか?-。


「そうだな…」


そこで話は終わる。


そこからは待ち伏せの為に気配を絶つ。


そして待つ事数分…闇夜に蠢く敵兵が確認出来る所まで引き付け、


「今だ!秋蘭隊!今こそ修練の証を見せつけろ!」


秋蘭の号令で弓隊が一斉射!


びびびびびん!


軽い音だが一発一発が命を奪う事の出来る凶器だ。


秋蘭の指示だろうが、

20本に1本位の割合で火矢が混じる。


「阿鼻叫喚だね~」


待ち伏せに遭うとは思ってもいなかったんだろう、

敵兵は見てわかる位浮き足立っている。


「続けて2射目!

火矢で敵の位置が見えただろう!

集中して撃て!」


先程に増して矢が雨霰と降りしきる。


そして俺も2射目が放たれたのと同時に走り出す。


体を寝かせ全速力で走りながら気配を完全に絶つのは無理だが、

この混乱の中で1人の気配を読むのは難しいだろう。


闇夜に所々灯る火矢の灯りで、

先頭を進んでいた銀色の髪の娘を確認する。


(あれか!)


集団戦なので破山剣を抜き放ち、

間合いに入るまでに袖口に仕込んだ投げ針を3本同時に投擲!

の、後暗闇を利用しての跳躍攻撃!


「何奴!」


投げ針は黒く塗られ、

火矢程度の灯りでは見えない筈なのに全て弾かれる。


だが、それでも流石に体勢は崩れた。


そこに跳躍のエネルギーを利用した大上段からの一撃!


(ここからの受けは無理だ!)


「もらった!」


そう思った瞬間、以前なら絶対にしなかった、

『声を発する』という事をしてしまう。


「何!」


推定華雄が俺を見る。


だが既に対処のしようが無い事がわかったのだろうに、

目を爛々と輝かせながらそれでも体を捻ろうとする。


そして正に今、

華雄?の体に刃が埋まるという瞬間、


「…ちっ!」


首筋をチリチリ灼く殺気に俺は剣を引き、

華雄?の肩を蹴り飛ばして宙返り、

間合いの外に着地する。


そして俺の奇襲を防いだ女が吼える。


「大丈夫かいな銀華!」


「助かったぞ霞…」


完璧なタイミングでの攻撃だった。


だが、そのまま振り切ったなら、

華雄の置き土産の一撃と相まってこの女の攻撃を防ぐのは難しかっただろう。


そうなのだ、

華雄は防御が間に合わないと判断するや、

自分の命を諦め敵である俺を道連れにしようとしたんだ。


(洒落にならんな…)


それでもそのままなら華雄を斬って反撃も避けられたと思うが、

そこに割り込んで来たのが、


「…張遼将軍かな?」


一応聞いてみる。


「銀華!退くで!」


「何を言う霞!相手にこれだけやられて退けと言うのか!」


無視されちゃった。


「しょうがないやろ!

奇襲が失敗した時点で退くてゆーとったやろが!」


「だが!」


無視されているのでこの機会に2人を描写してみよう。


まず銀華と呼ばれている推定華雄から、

真名の通りの美しい銀の髪-暗闇でもわかる美しさだが日の光を浴びたらキラキラと更に美しいだろう-をショートで纏め、

不思議な…ボディコン風味?の服装をしている。


鎧がこう…露出度が高く、

そして首もとから伸びるリボンのような装飾、

そして深いスリットから覗くオーバーニーソックスとスカートの間-絶対領域-が眩しい。


要望は多分何時もは冷たい感じの美人なんだろうが、

今は熱くなっているのかブラウンの切れ長の瞳が爛々と輝いている。


「だがも案山子もあるか~い!

退くて言うたら退くんや!

もう張遼隊は退き始めてるかんな!

遅れたら見捨てたるからな!」


次に張遼?だが、

紫の艶やかな髪を後ろで纏め-何故か鋲のついた鉄輪のような物で-ている。


容貌は深緑の瞳に知性の光が見える。


だが奥底には猫科を思わせる悪戯っ気と狩猟者の力強さを併せ持つ。


そして服装は…こちらも華雄?に負けずに奇抜だ。


羽織のような着物を肩に引っ掛け下は袴、

足下は下駄と日本風の出で立ちなのに、

羽織の中は……裸だ。


一応豊かな胸はサラシで隠してはいるが、

美しい鎖骨や可愛いお臍は丸見え!

さらにサラシの幅もそんなに無いので上乳下乳が見放題!


「ぐぅ~!?貴様!」


そんな感想を抱いていると、

やっと俺に話が向く。


「ほいほい…」


「名を聞いておく!名乗れ!」


実はそれなら自分から名乗れとも思うが、

そんな戯れ言を言っている時間も無さそうだ。


「破山剣の神北隼人」


「貴様が!?」


「ほ~?」


ほっほ~♪俺有名人じゃ~ん?


「嘘を言うな!」


だと思ったら嘘吐き呼ばわりか。


「破山剣の神北と言えば、

身の丈3メートルに丸太のような腕!足は巨木の如し!

そしてその眼は千里を見通すと言う!」


あ~そんな噂もありましたな。


「だと言うのに破山剣の神北を名乗る貴様は、

背は私と変わらず腕も足も細い!

先程の一撃に免じて武力はそこそこあるようだが、

破山剣の神北を名乗るには力不足だと言えよう!」


自信満々に断言する華雄?だが、


「別に信じてくれなんて言ってないだろ?

まあそれはともかくそちらの名前は?」


あっさりと受け流す。


「一応言っておくと、

名乗らないなら奇襲を失敗して逃げ帰った将と呼ばせてもらうから」


「何だと~!」


すぐ激昂する華雄?、

春蘭に相通ずる物を感じるな。


「やめい銀華!ウチの名は張遼。

今回はウチの負けにしといたるわ」


ちっ張遼は冷静なままか。


「…やはりあんたが張遼か…。

俺が突っ込んで来たのに気付いたのか?」


「何が来てんのかまではわからんかったが、

何や危ないもんが銀華に突っ込んで来るのはわかった。

きといて良かったわ」


あれだけ気配を消してたのに気付かれたか…。


待ち伏せが成功した事から考えて、

戦いが始まると神経が鋭敏になる闘いの申し子タイプか。


「ほら銀華行くで!

これ以上話しとると撤退の時期を逸するで!」


これ以上の時間稼ぎは無理か。


「待ってくれ霞…」


と、その時華雄?が張遼を呼び止める。


「何や?戦いたいなら後にし~!」


「違う!私が名乗っていない!」


そう言えば聞いていないな、

さっきから華雄?と心の中で推定で呼んでいた。


「私は華雄!この名を覚えておけ!

次に見えた時にきさまの首をはねる者の名だ!」


先程の一撃を見るとあながち冗談にもならない。


「…殺されるつもりは無いが…。

猛将華雄の名前は覚えておこう」


ニヤリと笑い返答する。


「「「うぉ~~!!」」」


そんな話をしていると後方から鬨の声が聞こえる。


「銀華もうええやろ!退くで!」


「おお!華雄隊退くぞ!撤退!撤退~!」


既に準備が終了していたようだ、

負傷者は2、3人で抱えてスムーズに撤退していく。


「…さっ!この程度じゃ無理だな…」


撤退中の部隊を追撃するのは兵法的にも正しいが、

今回は止めた方が良いだろう。


奇襲部隊がある程度離れた後大喝する。


「秋蘭隊止まれ!!」


力有る言葉に一瞬秋蘭隊の足が鈍った。


「神北だ!秋蘭少し相談がある!」


闇夜なので敵で無いことを声高に主張する。


すると、やはり隊の先頭付近で指揮をとっていたのだろう、

すぐに秋蘭が前に出て来る。


「無事だったか隼人」


「ああ…秋蘭、華雄と張遼に会ったぞ」


簡単に経緯を話す。


「取り逃がす事にはなったが、

話の途中でポロッと出ちまったんだろう。

張遼隊は先に撤退したと言っていた。

と言う事は…」


「待ち伏せの可能性…いや、張遼の騎馬隊ならば迂回して横から…か…」


秋蘭もわかってくれたらしい。


「提案なんだが、

今日の所は夜襲を防いだ事で良しとしないか?」


「…そうだな…こちらの被害は無し、

相手は…200は削れたか?」


暗闇なのでよくわからないが恐らくその位はいっただろう。


「ああ、この位の暗闇なら俺は問題無いが、

騎馬隊に強襲されたら兵達は浮き足立っちまうだろう」


だからここで止めておこうと言うのだ。


「…そうだな…ここまででも快勝だ。

今回はそれで良しとするか」


秋蘭はやはり話がわかる。


これが春蘭だと話を聞く所か、

行軍に押し潰されかねない。


「秋蘭隊の兵達よ聞け!

我々は敵の夜襲を防ぎ!更には打ち破った!

だが、我々は華琳さまの盾!

これ以上の追撃は禁止とする!

4番隊は斥候として周辺の索敵!

他の隊は4番隊の索敵が終わるまで全周警戒!」


早速指示を出してくれる。


そして指示を驚く程の早さで実行する隊員、

うちの隊の動きと比べると迅速さが際立つ。


「「「隊長!」」」


と、眺めていたら、

警戒態勢を整えた神北隊から3人が飛び出して来る。


「おう!ご苦労さん!」


労いの言葉を贈ったのに、


「ご苦労じゃないですよ!」


「そやそや!」


凪と真桜に怒られる。


かなり怒っているようで、


「隊長!独りで突出したって本当なのぉ?」


沙和に至っては涙ぐんどる。


「まあ…だってそれが一番効率の良い作戦だったから…」


何で俺が言い訳しないといけないんだ?


「そういう事を言ってるんじゃありません!」


凪には怒られるし、


「なんぼなんでも無茶が過ぎまっせ?」


真桜にもたしなめられるし、


「隊長~!」


沙和には泣かれるしで困ったな。


「どうした隼人?」


「おお!秋蘭!」


困った時には居てくれるな秋蘭!

偶に更にややこしい事にしてくれるが。


「おやおや…随分慕われているな?」


「それはありがたいんだが…」


流石に秋蘭の前では静かな3人をチラリと見て、


「今回の作戦が無茶過ぎだと怒られてな」


助けを求める為に事情を説明する。


「ぶむふむ…それは隼人が悪いな」


あっさり頼みの綱は切断された。


「私だって危険が大きいとは思っていたんだ。

但し私の場合は一軍の将だからな、

有効だと思えば反対出来ない」


まあ将たる者、

情より利を求めなくてはいけないのはわかる。


「すなわち3人は将としてでは無く、

人としての心配をしてくれているのだ、

ありがたく聞いておけ」


3人も頷いているしそうなんだろうけど。


「いや、それはありがたいんだが…」


「凪、許可を出した手前私は何も言えないからな、

私の分も併せて言っておいてくれ」


俺の言葉を遮って秋蘭が余計な事を言う。


「お任せ下さい!」


力一杯元気に請け負った凪達のお説教が終わったのは、

空も白みだした明け方になってからだった。


「……なんですよ?」


「はい…反省しております」


外で説教を聞くのは辛いので、

場所を自分の天幕に移動して。


「無茶も程々にし~な?」


「おっしゃる通りです」


「二度とこんな危険な事しちゃダメなのぉ」


「肝に銘じます」


既に俺は真っ白に燃え尽きてます。


「ならば結構です。

本当に心配したのですからね?」


う~ん、ここでデレられると文句も言えない。


「すまなかった」


「そ~やそ~や!

凪は青い顔で固まるし、

沙和は泣き出すしで大変やったんやで?」


他の者を引き合いに出しているが、

真桜もかなり心配してくれたのだろう。


「すまなかった」


「どんなに強くっても無茶しちゃ駄目なのぉ」


やっと乾いた瞳に、

また涙が盛り上がる。


「すまなかった」


こんな可愛い娘達にここまで心配される、

オイラは果報者だね~。


「反省はしている…。

だが、今は戦国の世だ。

有効な作戦だと思えばまた同じ事をするだろう」


別に死にたい訳ではない。


只、成功の確率と自分の生存率を秤にかけて、

やっても良いと思える比率なら実行するだけだ。


「だから3人共もっと強くなれ。

凪は能力的には問題無いのに、

自分の体の事には無頓着過ぎだ。

賊の討伐如きで、

一般人を守る為とは言えだ、

傷をこさえたりするな。

一般人を守って、

尚且つ無傷で帰れる能力を養え」


良い機会なので、

各々の評価と注意点をアドバイスする。


「は、はい!」


凪はとにかく優等生で、

個人の武力、指揮能力、用兵の知識、全てにおいて問題無い。


只、出撃する度細かい傷が増えていくのが不満だ。


「次に沙和」


「はい…なのぉ」


「慎重と及び腰はまったく違うぞ。

お前の計算能力と指揮能力は高いんだ、

もっと自信を持って采配を振るえ」


沙和は言った通り計算能力も指揮能力も高いのに、

自分に自信が持てないせいか思いっきりが足りない。


「はい!なのぉ」


「最後に真桜」


「最後がウチやな!」


「特に言う事は無い!」


ズコ~~!


おお流石は関西弁を喋るだけはある、

素晴らしい転げ方だ。


「なんなん?2人と違い過ぎやおまへん?」


「いやいや、やはり3人目で落とすのは基本だろ?」


「そりゃそうですけど…。

こんな真面目な空気でボケんとって下さい」


「悪い悪い。

んで真桜だが、

真桜に関して言いたいのは戦場でよりも平時だな。

既に華琳には打診しているが、

工兵隊を任せようと思っている」


今も真桜には工兵隊のアドバイザーとして参加させてるが、

既に頭角も現しているし隊長に抜擢しても文句は出ないだろう。


「ほんまでっか!?」


「本当だ。

しかし真桜隊も引き続き存続させるから、

忙しさは倍になるからな、

覚悟しておくように」


一応釘を刺してはおくが、


「そんなん全然構いませんわ♪」


抑制になっているのかどうか。


「まあ3人共そんな感じで精進しな」


「「「了解や・なのぉ」」」


俺が了解と言い続けたせいでうちの部隊で流行っちまった。


「なら…次の話だ」


ちゃんと理解できたようなので話を切り換える。


「今回の夜襲で華雄、張遼と見える事が出来た」


短い邂逅だがある程度の腕の予想はつく。


「結論から言うと、

今のお前達じゃ相手にならないから防衛に徹しろ。

うちの隊は他の隊の援護が主任務だからそんなに遭遇する確率は無いが、

会っちまったら仕方無い、

防衛に徹して援軍を待て」


「…それは…」


何かを言おうとした凪を遮り、続ける。


「皆の力を過小評価する気は無い。

現に昨日までの俺の作戦では、

俺の隊と干禁隊、楽進隊と李典隊の2部隊で連携して動こうと思っていたんだが、

華雄にしろ張遼にしろ予想以上の腕だ。

3人の部隊は一塊で行動して、

壊滅しても支障の少ない俺の部隊は単独行動とする」


「な!」


「反論は許さん。

反論したいなら俺より強くなってからなら聞こう」


現時点では無理な事を条件に出す。


「そんな!?それにその御命令は!」


「さっき無茶は自重するて言ってたやないですか!」


「話が違うのぉ!」


苦情爆発!まあ仕方ないか。


「だが、皆の隊と俺の隊では立場が違う…」


そうなのだ、

実は俺の部隊員は一般兵ではない。


「皆の部隊は華琳の軍の正規兵だが、

俺のはそこからあぶれたはみ出し者や犯罪者が中心だ」


何処にでも必ず居る協調性の無い奴等、

その中には当然犯罪者も含まれる。


「その中でも素質のありそうな者を選抜しているが、

正規兵と比べればどっちが重要かはわかるだろ?」


協調性が無い者、攻撃性が強過ぎる者等の中から、

この位なら御せる、使い物になる連中を集めたのが神北隊。


それなので他の隊には良く思われていないが。


「それにまだ曹操軍が先鋒と決まった訳じゃない。

一応皆に報告までに命令しただけだ」


実は頭の中にある策が浮かんでいるのだが、

今は何でも無い事のように話す。


が、凪達は許してくれない。


「ですが私達が先鋒になった場合は…」


「俺の指示通りに動いてもらう」


ここは譲れないのでハッキリと念押ししておく。


「んな無茶苦茶な!?」


「断固抗議なのぉ!」


反対意見が多数だろうな。


だが、


「3人共…さっきも言ったが、

俺の命令を覆したいなら俺より強くなれ、

それが軍隊と言う物だ。

それか華琳にでも頼め」


華琳の言葉なら聞かなきゃいかないが、


「まあ華琳の事だ…。

俺の策の有効性を認める事はあれ、

反対する事は考え難いがな」


(華琳は一般兵の扱いが上手いから…)


ここで言う扱いが上手いと言うのは、

一般兵の人気が高いとか-実際かなりの人気だが-ではなく、

兵の殺し方が上手いと言う事だ。


戦争しているのだから人死には仕方がない、

少ないに越した事はないがどうやっても流れる血という物はある。


ならば精々有効に殺すのがせめてもの手向けだろう、

俺も同意見だ。


「とにかく命令は下した。

張遼はかなりの強敵だと聞いていたが、

まさか華雄まであれ程の腕とは…」


かなり強引だが話を換える。


「…それ程ですか?」


このままでは話が進まない事がわかるから、

真っ先に凪が乗ってくる。


「ああ…コイツを見てみな」


切り裂かれた脛当てを見せる。


「コイツは真桜に特注して作ってもらった脛当てだ。

重量は1割減、強度は2割増しと言う触れ込みだが…」


「触れ込みやなく事実です!

しかしコレをこんな切り口で斬れるやなんて…」


流石は作者、

これがどれだけの事なのかを理解したようだ。


「うむ、俺が確かめた時にも、ともすれば触れ込み以上の性能があった。

それを華雄は…」


衝撃の事実の為の溜め。


「態勢が崩れながらコイツを斬ったんだ」


「「「………」」」


まあ目がまん丸になって、

俺の予想通りの驚きようだ。


「普通の脛当てだってこんなに綺麗な切り口にするのは難しい。

更にコイツは真桜作の特注品だ」


思わずといった感じで脛当てを手に取る真桜。


「…コレを…態勢を崩しながら…」


開発者の目になって具に観察する。


「只斬るだけなら春蘭辺りでも斬れるだろう、

切り口も同じように綺麗にな。

しかし態勢を崩してとなると…」


難しいだろうな。


春蘭は力任せに斬っているようで、

幾万回もの反復練習した基本が根底にある。


「…この切り口…この切り口からすると隊長は斬られた瞬間…」


「わかるか?

実はこの天幕に入るまで気付かなかった」


これは本当、

華雄との交戦時、その後の移動時も夜なので気付かなかったが、

余りに説教がきつかったから目をキョロキョロしていた時に見つけた。


「ウチの製鉄技術は華琳さまの資金援助もあって、

他より頭1つ飛び抜けてる自信があります。

それをコレだけ切り口を乱さずに斬るやなんて…」


もはや感嘆の響きが混じる。


「そうだよな、

普通刃物を使用するにしろこの切り口を再現するには、

得物の切れ味、重量、それよりも何より技量が必要だ。

だが補足しておくが、

コレが真桜の特注品でなかった場合、

もっと深く…もしかしたら骨の1本位もっていかれたかもな」


「そやろ!?

ウチのやなかったら酷かったで…」


謙遜しね~のか…しね~よな事実実績も持ってんだから。


「そして張遼はあの闇夜の中、

気配を消した状態の俺の接近に気付いた…」


「…あの突撃に気付いていたと言んですか?」


凪が懐疑的に漏らす。


「因みに俺の突撃に気付いた者は居るかな?」


一同を見回して質問。


「弓の一斉射が2回あったやろ?」


「そこから槍隊の突撃に若干の時間があったのぉ」


真桜と沙和は推理するつもりのようだが、

俺が聞いているのはそういう事では無い。


「真桜、沙和、隊長が言っているのは気付いたかだ。

隊長、私は未熟者な為気付きませんでした」


俺の気持ちを凪が代弁してくれた。


「真桜と沙和は?」


「…わからんかったです」


「わからなかったのぉ」


素直に認める2人、

戦場で誤魔化しを行う事がどんな悲劇を引き起こすのかを知っているだけはある。


何時もは何だかんだと理由をつけては誤魔化すけど…。


「だろうな…あれだけ気配を殺して、

なお気付かれたら俺の立つ瀬がない。

秋蘭隊の奴等だって接近に気付かなかったんだからな」


少し自慢気になってしまうのはご愛嬌という事で。


「その俺の接近に気付いて、

危険な物と判断した瞬間に華雄を助けに来たんだ。

じゃなければ間に合う訳が無い」


「…危険察知能力と…」


「判断力やな…」


「後、行動力も凄いって事なのぉ…」


理解が早くて助かる。


この3人の良い所は、

互いに意見を出し合う事で1人よりも早く、そして深く、

情報を吸収出来る事だろう。


「そう言う事。

んで、当然武力も中々の物だったからな。

あそこらの相手は…今は!…無理だから、

春蘭や俺、後は秋蘭辺りに任せておけ」


「…将来的にはどうなのでしょうか?」


「んなの知らん。

知らんが…期待は出来ると思ってるぞ?」


その瞬間の笑顔は言葉に尽くせない。


元々武力に関しては興味の無い真桜と沙和までそれはもう、


嬉しそうに!満面の!笑顔~!!


てな感じです。


実際には花畑を見ているような可愛い感じなんだが、

俺の衝撃的に表してみた。


「…う、うむ。

それではこれで話しは終わりだな」


確認の意味も込めて宣言する。


「それではそろそろ西凉軍へ行く時間だ。

日中は事前の用意通りにこなしてくれ。

桂花を含む上からの要請は基本的に受けろ、

他からのは何時も通り俺が戻るまで保留。

又は3人が合意した場合に限り受けろ」


「「「了解や・なのぉ!」」」


小隊長3人に指示を出し解散する。


「…もう一眠りしたかったな~…」


天幕から出てみると地平線に日が昇り始めていた。


「自業自得とは言え…何で女性はあんなに喋り続けられるんだ?」


帰って来た時は真っ暗だったのに、

一通り説教を聞いて話をした位で夜が明ける。


まあ愚痴を言っていても仕方ないから西凉へ先触れを出す。


(錦馬超か~…。

後世蜀の五虎将軍の一角…やっぱり可愛いんだろうな♪)


顔がニヤけるぜ!


そして西凉軍へ向かう途中、

一応華琳の天幕の前を通り、


「おはよう、華琳は?」


「これは神北将軍。

曹操さまはお休み中です」


歩哨に立つ親衛隊員に起床確認をする。


「何か伝言がありましたら承りますが?」


「そうだな…頼む」


出来れば今約束を取り付けておきたかったが、

寝てるのでは仕方無い。


「華琳が起きたらで良いから、

会議の前に時間をさいてくれと俺が言っていたと。

後、そこに桂花も同席させてくれと伝えてくれ」


「承りました」


伝言を残して華琳の天幕の前を通り過ぎ、

西凉軍との境目まで到着。


「曹操軍の神北隼人だ。

昨日会談の約束をしたんだが?」


西凉側の責任者だと思われる兵に取り次ぎを頼む。


「ああ!あなたが破山剣の?」


「まあな…んで、通っていいのかな?」


いい加減これだけ言われれば慣れる。


「話は聞いてますんで通行出来ますよ。

馬超さまは中央の天幕におります。

天幕には馬の牙門旗が翻ってますんで間違う事は無いかと」


「ありがと」


親切な奴だ。


伝法な喋りだが粗雑には感じない、

良い意味で慣れているんだろう。


(しかし案内人も付けないのか…。

油断しているのかそれとも……?)


陣営の規模的にこちらが中央だろうと思われる方向に進むと、

道すがら多数の騎馬兵が調練している。


またその動きが素晴らしく、

流石は荒野と馬の土地だと感心してしまう。


そんな光景の中数分歩くと、


「あそこか…」


話通りの天幕が見えてきた。


特に他の天幕と大きさは変わらないが、

一際目立つ馬の牙門旗は見間違えようがない。


そして近付いていくと不意に中から槍を片手に女が…美女が出て来た。


「ん?…誰だお前?」


恒例の美女描写開始!


栗毛の馬のような艶やかな茶色の髪をポニーテールにして-西凉の女性兵は大体ポニーなんだが?-、

それを額当てとお揃いの金の縁取りの紫色のリボンで纏めている。


服装は上体のみの金の縁取りの緑のチャイナみたいな服にプリーツスカートを併せ、

胸元にはアクセントの黒のリボン。


そしてそのリボンを押し上げる豊かな胸!

春蘭と同じかそれ以上の良い型だ-巨乳が多過ぎてインフレ気味だが-。


容姿で特に目を惹くのは大粒のアメジストのような瞳の上の凛々しい眉、

うちの沙和とは正反対のボーイッシュなタイプである。


黙ったままだと不審者確定なので、


「先触れは出した筈なんですが?」


内心の喝采を隠して返答する。


「おお!?それじゃ~あんたがあの?」


「あのなのかはわかりかねますが、

破山剣の神北隼人と申します」


深々と一礼。


「こちらこそよろしく、

私は馬孟起、母上…馬騰の名代として来ている」


やはりこの娘が馬超か。


おのれ一刀!何とも羨ましい奴だな!


「やはりあなたが馬超殿でしたか」


「やはり?」


「馬の牙門旗を掲げる天幕から出て来た美女、

馬超殿は錦馬超の名ばかりではなく、

その美しい容姿…特にその後ろ髪の美しさが知られていますからな」


お世辞が多少入っているが、

正直何故この世界では美女や美少女等の噂がここまで広がり難いのか…?


「う、美しい!?いきなり何だよ!?」


「お会いしてみて、

噂以上の綺麗な方なので吃驚してしまいました」


慌てる馬超が面白いし、

本当の事なので益々誉める。


「き、き、綺麗!?

誰の事を言っているんだあんたは!?」


軽いパニックに陥る馬超だが攻勢の手は緩めない。


「勿論あなたの事ですよ馬超殿♪」


「………(ボ!)」


あ、処理出来ずに固まった。


頬を真っ赤に染めて…可愛いな~。


「お姉ちゃん外で何騒いでるの?」


フリーズ状態の馬超を愛でていると、

天幕から新しい人物…美少女が現れた。


「…何この状況?」


俺は神妙に見えるようにしながら黙っている。


「翠お姉さまは固まってて…その前に見知らぬ男の人…。

お邪魔しちゃったかな♪」


おお素敵な勘違い。


少女は口をグーで隠して、

ニシシと擬音が聞こえるような悪い顔で言った。


「そんな訳ないだろ~!!」


あ、復活した。


「蒲公英!この人とは何でもなくてだな!」


と思ったら言い訳がマシンガン状態で飛び出す。


「そんなのわかってるよ~♪」


笑顔の後に、


「奥手な翠お姉さまにそんなすぐ男が出来る訳ないじゃない」


真顔でバッサリか…。


この少女はかなり裏表が激しいらしいな。


「それで?何でお姉さまは固まっていたの?」


「…いや…この人が…」


馬超が俺を指差し、

顔を真っ赤にさせながらモジモジする。


ここが陳留ならそのままお持ち帰りしちまうんだが…。


「?…告白でもされた?」


「な!?馬鹿!?こ、告白~!?

今日会ったばかりだぞ!」


中々面白い推理だな。


「会ったばかりでも告白位すると思うけど…。

じゃあ何があったの?」


馬超クラスの美人ならな~。


「…それは…その…」


またもや顔を真っ赤にさせながらモジモジし始める馬超。


「何?美人だとでも言われた?」


あ、おしいな。


馬超は首を小さく振りながら、


「……美女って……(ボン♪)」


頑張ったが、

そこまでで更に真っ赤になって口を噤む。


「…それだけ?」


呆れてる呆れてる。


「…後……綺麗だって…(ボン♪)」


そろそろヤバいんじゃないか?

と、思われる位顔が紅潮してる。


「…は~…」


少女は脱力してため息を吐く。


「だから翠お姉さまは綺麗なんだって何回も言ってるでしょ?」


何回も言ってるのか!?


「そんな…私なんて…」


「またお姉さまはそうやって…。

琥珀叔母様の娘で、

良く体を動かして伸び伸びと生きてる姉さんが綺麗じゃない訳ないでしょ!」


納得しない馬超にじれたのか語気が強くなる。


「そりゃ母上は綺麗だと思うけど…」


「その叔母様にそっくりなのが翠お姉さまなんじゃない…」


馬超でこんなに綺麗なんだから、

そっくりな馬騰もかなりの美人なんだろうな。


「それでこちらの方はどなたなの?」


やっと俺に話が向いたか。


「ああ、こちらがあの破山剣の神北殿らしい…」


「……」


今度は少女が固まった。


「曹孟徳の名代として参りました、

神北隼人と申します。

宜しければお名前をお聞かせ願えればと思いますが?」


外面を良くして挨拶する。


そろそろ話も一段落した事だし少女の描写もしよう。


馬超を姉と呼ぶだけあって髪や瞳、

凛々しい眉もそっくり。


印象もかなり似ているがあえて違う所を探すと、

勿論姉と呼ぶだけあって全体的に年齢が下がっている事、

リボンが金の縁取りの若草色だと言う事、

額当てがやはり金の縁取りの鉄の額当てだと言う事、

服がお揃いなのか黒の縁取りで蜜柑色のチャイナに南瓜パンツ風味だと言う事、

そして馬超がアクセントにしているリボンが水色のネクタイになっている所だろうか。


意外と違う所が多いのに印象が似ているのは姉妹?だからだろう。


「…曹操軍の?」


呆気にとられたような顔をする少女だが、

俺はそんな変な事を言っただろうか?


「何か変な事を言ったでしょうか?」


一応聞いてみるが、


「……翠お姉~さま~!」


少女はクルリと馬超に向き直る。


「ん?何だよ蒲公英!?」


気配の変化に気付いたんだろう焦る馬超。


「何だじゃないでしょ~!」


「ひゃ!?」


おお錦馬超に一喝を…。


「昨日の会議で決めたでしょ!

今日曹操軍から使者が来たら歓待の用意をした天幕にお通ししようって!」


噛んで含めるように言いたいんだろうが失敗してまっせ。


「………あ!?」


思い当たったか馬超。


「思い出した翠お姉さま?」


呆れ気味の少女が肩を落とす。


「あ~あ~…今からご案内しようと…」


「それじゃあ遅いの!」


無駄な言い訳ならしない方が良いと言う事の典型だな。


「お姉さまが失礼しました。

あちらの天幕に軽くですが朝食を用意しておりますので…」


俺は只の使者なんだが凄い対応だな。


「そうですか?

それではお呼ばれしていきましょう」


断る理由も無いし-朝飯食い逃したし-ありがたいな。


「しかし歓待とは…何かあるんですかな?」


一応探りは入れとこう。


「そんなの無いですよ~♪」


言葉通りには受け取れないが…。


「あ、ちょっと待ってくれ神北殿」


天幕へと移動しようとしたその時、

馬超が俺は呼び止める。


「何か?」


「少し時間良いか?」


「構いませんよ」


何か話があるのかな?


「そうか…それでは失礼!」


言葉と同時に槍が霞む!


(速い!)


馬超は一瞬で構えた槍を突き出して来る。


(殺気は無いが刺す気はあるのか…だがこれなら…)


俺も超反応でバックステップ!


「まだ!」


そこで一段と伸びる切っ先!


「うお!?」


間一髪の所で後ろに倒れ込むように避ける!


「ほ!」


避けがてら倒れる前に伸びきった槍の柄を掴み、


「邪!」


回し蹴りを繰り出せば、


「なんの!」


馬超も反応してそのまま槍を地面に斜めに突き刺し、


「おっと!?」


俺の蹴りのインパクトを外すと共に-一応当たったが踏ん張りが利かないのでダメージは無いだろう-、


「よっと!」


突き刺した槍を棒高跳びのように使い飛び上がる。


「ありゃ!?」


俺は槍を掴んだままだと危ないんで離し、

その反動を横にかけて若干の間合いをとる。


そして予想通り馬超は着地と同時に槍を翻し追撃してくる、


「破!」


が、


「ほいっと!」


俺も四つん這いで着地と同時に全力で避け、

完全に間合いの外に飛び離れる。


「流石は破山剣の神北殿…良い動きをするじゃないか!」


楽しそうな馬超。


「馬超殿も錦馬超の名に恥じぬ槍捌き…」


最初の突きもさることながら意表をつく機動等参考になる。


「何々まだまださ…」


話しながら少し腰を落とした所で、


「お姉さま!」


少女の止めが入った。


「…どした蒲公英?」


「どしたじゃないよ!何をしてんの!」


お~お~怒ってるな~…当たり前だけど。


「何って腕試しさ!何時もの事だろう?」


悪びれる-いや、問題に気付いていないんだな-事無く気楽に返す馬超。


「そうだよね…何時もの事だもんね…」


先に倍して疲れた顔。


「そうだろ何時もの事だろう?

新しい武将や腕自慢の兵士に何時もしている事だ」


自信満々の笑顔だね馬超。


「…お姉さま…例えば、例えばだよ?

叔母様が和平の使者で出掛けてね…」


「いきなり何だ?急ぎじゃないなら後に…」


「良いから聞いて!」


口を挟まれた事で堰が少し崩れる。


「う、うん!?」


目を白黒させて押し黙る馬超。


「…それでね…叔母様が使者にたって、

相手の陣営は歓待するよね?」


「…母上なら当たり前だよな」


「そうだね…。

それで相手の主の息子が例えば…叔母様の力を試したいからって叔母様に斬りかかったら?」


「和平なんて話は破棄だ!

母上に斬りつけるような奴は馬に括り付けて西凉中引き回しても足りない!」


おお引き回し!でも荒野を引き回したらすぐに死ぬよな。


「そうだよねお姉さま♪

では今お姉さまが神北殿にした事は?」


「神北殿に…あ!?」


やっと気付いたらしい。


「えっと~?」


脂汗をかき始める馬超。


「神北将軍…お姉さまの不始末は…」


「いきなりだったしね~?」


ちょっと意地悪をしておく、

流石にいきなり斬りつけられたのには気分を害している。


(まあ実は何時も春蘭にやられてるから少しだけなんだけど)


「あうあうあう!?」


馬超は混乱している。


「お姉さま~」


少女は動揺している。


(ここで総攻撃すればダメージ2倍だな)


「西凉は曹操軍に対して宣戦布告の用意あり。

曹操軍は連合軍を脱し、

西凉軍を迎え撃つ準備を始めなきゃならんな」


顎を撫でながらしたり顔で言えば、


「ど~するよ!?

琥珀母さまに殺されちゃうよ!」


「お姉さま~短い命でした~!」


ウィークポイントにヒット!


「ぷっ…くっくっくっ……うっそ~♪」


一頻り遊んだ後助け舟を出す。


「「……え?」」


だってこのままでは話が進まないし。


「今後の抑止力の為に対応させてもらったけど、

今回は大目に見ましょう」


「本当か!?」


「助かったよお姉さま~!」


2人は抱き合って泣いている。


(許す代わりに抱かせろって言ったら抱けたか…惜しいな)


そんなしょーもない事を考えながらも話を進める。


「許すにしても悪いが口調は崩させてもらうぞ?」


「そんなのこっちだってその方が…」


「お姉さま!」


「…え?痛~~!」


かなりの勢いで少女が馬超の足を踏む。


「何するんだ蒲公英!」


「お姉さま、相手がそれを譲歩と取ってるんだから黙ってればいいの…」


一応声は抑えているつもりなんだろうがバッチリ聞こえる。


「それで良いよ♪

それでは用意して頂いたようなので、

食事をとりながら話をしようか?」


それまでの空気を一新して天幕に移動する。


「簡単な物だけど…」


献立は焼きたてパンに山羊のチーズ-意外と好きで見ただけでわかる-、

搾りたての山羊のミルクに肉が少々、

戦地ではこれ以上を望むのは贅沢過ぎる位に贅沢だ。


「ありがたく、いただきます!」


山羊のチーズをパンに重ねてガブリと、


「美味い!」


新鮮さの為だけでなくパンもチーズも味が濃く美味しい。


「だろ~?うちの饅頭も山羊の乳も一級品だからな♪」


嬉しそうに薦めて来る馬超。


「おう、ありがと」


ありがたく腹を満たしてから会談が始まる。


「改めてご挨拶。

曹操軍客将神北隼人、

破山剣の神北隼人とも呼ばれる」


「私は西凉太守馬騰の1人娘にして連合軍への名代、

馬孟起、錦馬超とも呼ばれている」


「私は馬超お姉さまの従姉妹にしてお姉さまのお目付役、

馬岱と言います」


やっと名前がわかったな、

まあ大体の予想は出来ていたがこの娘が後世魏延の反乱を、


『ここに居るぞ~!』


の言葉と共に阻止した娘か。


「私の顔に何か付いてますか?」


注視したため怪訝に思われたようだ。


「馬超殿に似て綺麗な後ろ髪だなと思ってな♪」


「そんな~♪本当の事言っても何も出ませんよ♪」


うむ、誤魔化せた事にしておこう。


「それでお話なんですが…」


「そうだね。

それでは…」


斯く斯く云々と説明。


「…お話はわかりました」


「つまり、どうなんだ蒲公英?」


やっぱり春蘭属性だな。


「つまりねお姉さま。

こんな所で駐軍し続けても無駄だから、

とりあえず袁紹に盟主の名を与えて進軍しようって事。

そうですよね?」


良く理解してくれてるな、

恐らく裏の意味まで。


「要約するとそうだな。

実際我々がここで駐軍し続けると、

董卓軍はそれだけ有利になる。

なら盟主なんて名誉は袁紹にさっさと押し付けて、

我々は武功を挙げるのが合理的だろう」


馬岱は頷いてくれているし、


「そうだよな!

こんな所でまごまごしてるより戦いたいぜ!」


馬超にも概ね好評だ。


「なら協力してくれるって事で良いのかな?」


「私は問題無いと思うよお姉さま」


「なら私も賛成だ。

それじゃあ今日の会議でよろしく♪」


途中馬超の暴走にどうしようかとも思ったが、

最終的には協力をとりつけられた。


「感謝、それでは他にも詰めておきたい事があるので、

今日の所は失礼させてもらうよ」


言うが早いがさっさと席を立つ。


「引き留めるのも悪いか…それでは又会議の席で…」


「会議の席で…」


応えて西凉を後にする。


そして曹操軍に戻ると、


「神北将軍!曹操さまがお呼びです!」


伝令兵が待っていた。


「わかったすぐ行く」


また随分忙しいな俺は。


伝令兵に連れられ華琳の天幕…でなく、

脇の一回り小さい天幕に通される。


「おはよう兄ちゃん♪」


「おはよう季衣。

華琳は中かな?」


親衛隊隊長として歩哨に立っていた季衣に来意を告げると、


「うん♪

華琳さま~!隼人兄ちゃん到着しました~!」


「…入りなさい」


中から華琳の声、


「神北隼人、入るぞ」


季衣に天幕の入口を開けてもらい中に入る。


「おはよう華琳…と桂花」


「おはよう隼人」


「ついでなら挨拶するんじゃないわよ…」


親衛隊員はちゃんと伝言してくれたようだ、

桂花も同席している。


「まあそう言うなよ桂花。

そうだ華琳、西凉軍も協力してくれるってさ」


「私の所にも孫策軍から連絡があったわ。

今日の会議ではよろしくとね」


根回し成功。


「それで、お忙しい華琳さまに何の用があるって言うのよ?」


棘があるな桂花。


この頃悪くない関係構築出来ていたと思うのだが。


「うむ…今日の会議なんだがな…」


襟を正して相談する。


「汜水関の先鋒を買って出ようかと思うんだが…」


「…理由があるのかしら?」


一考はしてくれるらしい。


「昨夜の夜襲の報告は聞いてるよな?」


「ええ、秋蘭が気を利かせてくれたらしいわね」


その頃華琳はお楽しみの後の睡眠中だったろうからな。


「らしいな…そんでそこで華雄と張遼にあった訳だ…」


「…それで?」


「場合によったら汜水関を簡単に攻略出来るかもしれない」


不確定要素が多いので若干ぼかして言う。


「…汜水関を攻略する事の利は?」


華琳自身がわかっているのに質問する。


華琳はよくこういった試し方をしてくる。


「まず1つに風評が得られるだろう。

最後に到着した軍が先陣をきって武功を挙げればかなりの風評を得られる。

2つ、あの飛将軍呂布との会戦を避けられる可能性がある。

こんな茶番の戦で徒に兵を消費する必要は無いだろう」


俺は事前に用意しておいた答えを述べる。


「…桂花、あなたはどう思う?」


「はい!薄汚い男の考えた策ではありますが、

聞く限り問題は無いかと…」


端々に気になる所はあるが桂花も賛成のようだ。


「呂布とはそこまでの将なのかしら?」


引っかかってるのはそこかい!?


「…役満姉妹からの聞き取りではそうなっています。

特に信憑性の高い人和からの報告で、

呂布1人に3万からの黄巾兵が止められたと…」


桂花の事だ、他のルートからも情報を取得し、

裏付けをとっているだろうに歯切れが悪い。


まあ話が話だけにな…。


「3万…それはどれだけの兵を使ってなのかしら?」


「華琳、俺の方でも確認しているんだが…。

兵は500は居たらしいんだが、

ほぼ…いや、完全に1人で戦ったらしい」


賊軍とはいえ数が数だ。


俺達だって2万からの黄巾兵に秋蘭、現俺の所の小隊長3人、

そして街の人々の協力もあって何とかなったというのに、

+1万の兵を相手に1人で立ち向かい負ける所か互角以上なんて…。


俺だってこの報告を聞いた時には耳を疑った。


「…その話が本当なら…欲しいわね」


ニヤリと笑いながら華琳が呟く。


「華琳さまの悪い病気が…」


病気って言っても良いわな、

華琳の才能への貪欲さは。


「そこらの話は後にしてくれ華琳。

今は俺の提案をどうするのかを話し合ってるんだからな」


肩を竦め呆れ気味に諫める。


「それで?俺の提案は受理していただけるのかな?」


「そうね…良いのではないかしら。

麗羽への対応は隼人に一任する事にするわ」


言質頂きました。


「了解♪それじゃあ会議が始まるまで休ませてもらうか…。

昨日の夜から働き詰めだからな」


こんな真面目に働く俺、

華琳もキス位してくれても罰は当たらんぞよ。


「許可しましょう。

桂花は先鋒を任された場合を想定した布陣への円滑な変化が出来るよう手配。

隼人には休憩をあげるから休んでなさい、

会議の時間が決定したら使いを寄越すわ」


「は!お任せ下さい!」


「ういうい~♪」


華琳からのお許しも出たし休ませていただきましょう。


ここまでの仕込みは上々、

後は仕上げをご覧じろってな♪


(一刀、今回はこちらが一歩先に行かせてもらうぜ!)

毎度拙い文章、見難い構成にも拘らず読んで戴いてありがとうございます。


さて、執筆していて突っ込みが来そうだと思っていたので先に釘を刺しておきます。

華雄が強過ぎると疑問に思った方がいるでしょうが直す気はありません!

だってお気に入りキャラなんですもん(笑)


事実華雄は董卓軍中呂布に次ぐ猛将だった筈なんです。

恋姫無双の中では雑魚武将扱いですが某三国志○戦というゲームではかなり強いんですよ!


以上、昔は覇者だったのに今ではゲームに触っていない君主の主張でした。


3/16 追記


活動報告を見ている方は知っていると思いますが、

携帯が本日まで停止しておりまして更新を漫画喫茶でおこなっておりました。


それが本日やっと復帰しまして久々にアクセス数を見てみたら…50,000件を突破しておりました!

これも偏に読者様のおかげです。

これよりも完結に向けて頑張っていきますのでお時間と気力のある方は是非ともお付き合い下さいませ。


内心はヒャッホ~!だけど真面目に感謝してみたりして(笑)

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