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第7話

遅れて申し訳ございません。


活動報告に書いておりました通り既に11月の半ばには書き上がっていたのですが、

UPする手段が無かったのでこの時期の更新となりました。


少しでも楽しんで頂ければ嬉しいなと思います。

-街角


「ほい!気を付けて帰りなよ婆さん!」


「ありがとうね。

少ないけどこれ…」


「婆さん何度も言うがそんな気遣いはいらんて、

俺達は仕事でやってんだから」


「でもね~…」


「んな金あんなら帰ってから孫に菓子でも作ってやりな」


今俺は仕事中だ、

将軍じゃなく警備隊隊長としてのな。


「…そうかい?そんなら御言葉に甘えさせてもらうかね」


「甘えとけ甘えとけ」


婆さんが道端で座り込んでその脇には大荷物、

かなりこの婆さんにはベタな出会い方をした。


聞いたら案の定こっそり田舎から出て来て、

息子に孫にと土産を買ったら重くて身動き出来なくなったらしい、

そんなら荷物持ちを雇えば良いようなものだが、

信用出来なかったとの事だ。


「ありがとうね~」


「達者でな~」


仕方ないから荷物持ちをしてあげて-最初は泥棒だの何だの言われたが無視した-、

乗合馬車が集まる所まで送ってあげた。


「最近多いなこんな事…」


見えなくなるまで馬車を見送ってから独りごちる。


(まあここらの治安の良さなら…)


「…い兄ちゃん!」


「やめなよ文ちゃん」


(しかしあまりこんな事が増えられてもな~)


「警備の兄ちゃん!

お~い聞こえてるか!」


「文ちゃ~ん」


(何とかせん…)


「無視すん…な~!」


「文ちゃん!?」


バチーン!


「あふゅりえいと~!?」


飛びます飛びま~す!


「ぐぎぎぎ…背中が!背中が焼け付くように痛い!」


軽い浮遊感を伴った衝撃で現実に引き戻される。


「あたいの言葉聞こえてるかい?」


「すいませんすいません!文ちゃんも謝ってよ!」


いつの間にか居たのだろう、

先程まで俺が立っていた場所に2人の美女。


「だってよ~斗詩~」


子供のように唇を突き出してるのは、

萌葱色の髪をショートカットにしバンダナのような布で纏めて、

今は叱られているのでしかめられているが美しいスカイブルーの瞳、

そして傍目から見ても仕立てが良いのがわかる衣服の美女。


「無視されたからって叩く事はないでしょ!」


叱っているのは、

濃紺の髪をおかっぱにしていて瞳の色は紫、

そして相方?と同じ物だろう仕立ての良い衣服、

だが相方と違うのはその衣服を盛り上げている2つの膨らみ、

春蘭等よりは控え目だがツンと盛り上がった膨らみは美○である事を予感させる。


「あ~てめ~斗詩の胸見てやがんな!

斗詩の胸はあたいんだ!見るな!」


「私の話を聞いてよ~。

それに私の胸は私のだよ~」


叱っていた筈なのにいつの間にやら抜け出されていますよお嬢さん。


「あ~申し訳ない。

無視した事も胸を凝視した事も両方謝罪しておくよ」


「まったく困ったもんだぜ。

な~斗詩?」


「もう何でも良いよ~」


あらあら結局話題逸らし…違うな、

ごり押しで叱るのは終わっちゃうのね。


「それはともかく、

俺に何の用でしょう?」


見た所身なりは上々、

だが服にある程度砂埃が付いている事と、

こんなに可愛い人が2人も居れば俺が知らない筈は無い事から旅人だろう。


「いや~……。

何だったっけ?」


「は?」


「文ちゃ~ん!?

文ちゃんが街に着いたから何か食べようって言ったんじゃない!」


やはり旅人か。


「そうだそうだ!

いや~あんたが無視すっから、

それをどうにかしようと思ったら目的忘れちったよ」


照れたように笑う顔が何か季衣を思い出させるなこの娘さん。


「そう言った事なら喜んで、

予算はいか程でしょうか?」


道案内は警備隊の仕事の内の1つなので快く請け負う。


「あまり高級なのは…」


「え~斗詩~こんな時位豪勢にさ~」


「そんな事言って使う時にパ~っと使っちゃうから私がお金の管理をしてるんでしょう!」


「なら…宜しければ私も休憩時間になりますんで、

安めで美味いと評判のお店がありますからご一緒しませんか?」


誤魔化さずに言おう!ナンパであると!


「勿論美味くなければ御代は此方で持ちますし」


「何!奢ってくれんの!?」


「え~悪いですよ!」


「いえいえ綺麗なお嬢さんと食べる御飯の為ならその位」


「でも…」


かなりの常識人なのだろうおかっぱちゃんは、

これだけ誘っても迷うが、


「な~斗詩~?

こんだけ言ってくれてんだから受けない方が失礼だぜ?

それに……」


元気印の方は行く気満々、

しかし最後が聞き取れなかったな。


「う~ん…そうだね、

なら御願いしても良いですか?」


待たされたがナンパ成功!


「では此方へどうぞ…」


実は先程の会話が気にはなるが、

別に騙すつもりもないから大丈夫だろうと自己完結しておく。


「因みに私警備隊隊長の神北と申しますが、

お嬢さん達は?」


ただ歩くだけでは間が保たないので軽く話を振る。


「あたいは文醜!」


「私は顔良と言います」


「!…良い名前ですね~」


(あらま袁紹の両翼かよ)


昔とった杵柄、

表情を変えずに受け答えを行えた。


「だろ~♪」


「ありがとうございます」


そんな-俺にとっては-衝撃的な自己紹介を交わした時に、

見覚えのあるピンクの髪が近付いて来た。


「兄ちゃん!良い所で会えた!

お昼まだなら一緒に食べない?」


まあ季衣だよね~。


「…良い所で会えた?」


「うん!良い所で会えた!」


てへへと笑っている。


「まあいいか、

文醜さん顔良さん、1人増えても宜しいでしょうか?」


食事時に会えての言葉に引っ掛かる所はあるが、

この笑顔の前では弱い俺だ、

無駄な問答は省略して案内する2人に了解をとる。


「ええ勿論良いですよ。

みんなで食べた方が美味しいでしょうし」


「ありがとうございます。

いや~こいつは妹分なんですが良く食うんで…、

たまにこんな風にたかられるんですよ」


「え~!ボクたかってなんかないよ~!」


「なら払いは自分でするか?」


ちょっと意地悪して聞いてみる。


「う…ん…でも、

出来れば…食べさせて欲しいな、

昨日村に仕送りしたばかりで…」


ぷぷぷ予想通りもじもじしてるよ。


「手持ちがないんだろう?わかってるよ、

季衣が可愛いからいじりたくなっただけだ」


ネタバラシしたら、


「な、何だよ兄ちゃん!

わかってるなら意地悪しないでよ!」


俺の腹をぽかぽか-一般人なら一撃で悶絶だろうが-叩くという素晴らしい反応を返してくれた。


「仲が宜しいんですね」


じゃれあいを笑顔で見ていた顔良が声をかけてきた。


「まあ何故か慕ってきてくれるので、

別に顔が良い訳じゃないんですけどね?」


この頃季衣や凪等慕ってくれる可愛い女性が出て来たので勘違いしそうになるが、

俺自身別に男性的な魅力はそれ程でもない、

あえて言えば武力があるからそれが魅力と言えば魅力か。


「そんな事は…」


嘘が下手だな顔良ちゃん。


「それに真名まで許すんですから、

随分仲が宜しいんだと」


は!ロリだと思われてる?


「いやいや少し込み入った事情がありまして…」


恐らく城でこの後事情はわかるとは思うが、

サプライズとして今は黙っておく、

それに袁紹の両翼と言ってもそれ程の知名度でもない2人を俺が知ってるのもまずいし。


「季衣!いい加減に…って、あら?」


振り向くまでうるさかった2人が今は肩を組んで、


「わかってるじゃんキョッチー!」


「イッチーこそわかってるじゃん!」


和解と言うか気が通じ合ってると言うか真名まで許してるって言うか。


「あ~いや…」


雷の落としどころがなくなって隼人はまごまごしている。


顔良と話している間も口喧嘩の声がうるさかったから、

断片的に言い合いの内容は聞こえていたんだが、

確かガキンチョとかボサボサ頭とか言って今の今までいがみ合っていたのに…。


その肩を顔良が優しく叩き、


「文ちゃんはああいった娘なんで…」


どこか悟りきった顔で慰めてくれる。


「そんで兄ちゃん、

今日は何処で食べるの?

近くなら今話題の定食屋があるんだけど」


「キョッチーその定食屋って美味いのか?」


「勿論!と言いたい所なんだけど、

実は新しく話題になってからはまだ食べに行って無いんだ。

何でも腕の良い料理人が新しく入ったらしくて、

元々安くて美味くての人気店だったから今はかなりの入りだ!って、

食べ歩き仲間の話なんだ!」


叱るタイミングを逸した-と言うより完全に恥をかいた-俺の微妙な精神状態を察すことなく、

季衣は凄く可愛い笑顔で文醜に説明する。


「…は~…まあいいか!

季衣もそこで良いのなら、

元々その話題の店に案内する気だったから付いて来な」


そんな季衣達の様子に諦めのため息で答え、

本当に行く気でいた話題の定食屋に向かって歩き出す。


「やった~!」


「やり~!」


笑顔全開で応える2人と、

微妙にご愁傷様です的な表情の1人と共に件の定食屋に向かう、

場所は大通りから一本外れた地元民向けのメインストリート-本当のメインストリートは土地代が高過ぎて定食屋なんか開けない-。


「いらっしゃいませ~!

空いている席にどうぞ~!」


流石は流行りのお店、

昼飯には遅い時間にも関わらず席は8割方埋まっている。


「お~とりあえず冷水4つ!」


景気良く怒鳴ってくる給仕の女の子-春蘭に少し似た気っ風の良さ気な娘-に、

まずは一息つく用の水を頼んで-この時代お冷やのサービスはまだないから注文しなければいけないし勿論有料-、

品書きをそれぞれ見回す。


「お待ちどうさま!

水4丁!」


「俺、麻婆豆腐定食」


「ボクも!それと餃子定食!どっちも大盛で!」


「アタイも麻婆豆腐定食と担々麺!どっちも大盛!」


「私はチンジャオロース定食で、

後肉まんを…」


「アタイは5個!」


「ボクも5個!」


「じゃあ12個」


給仕の女の子が水を持って来たタイミングでついでに注文。


「あいよ!」


威勢良く答えて厨房に向かう女の子を見送り一息つく。


「ぷは~!生き返るね~!」


「文ちゃんそれじゃ親父だよ~」


うむ、雑把さでいけば春蘭以上か文醜。


「しかし周り見てもかなり美味そうだね」


「うんうん♪待ち遠しいね兄ちゃん♪」


あら、季衣の目が爛々と輝き過ぎてはっきり言って眩しい、

これは香りと先客の表情で期待のボルテージが上がり過ぎてるわ。


「お待たせしました~!

まずは麻婆豆腐定食3つからです!」


「「うわ~♪」」


2人が歓声を上げたその麻婆豆腐は輝いていた。


餡はトロトロで豆腐は艶々!

香りは食欲を刺激し唾液が自然に出てくる!

そしてご飯!正直言ってこの時代のご飯は美味くない、

何故なら品種改良がまだされてないから現代の物より甘さや香りが弱いのだ、

だと言うのにこのご飯から立ち上る湯気の馨しい事!


「こいつはまた…」


かなり美味そう。


「うひょ~♪いただきま~す♪」


「いただきま~す♪」


手を合わせると同時に大盛の2人はがっつき始る、

一応取り皿も一緒に出されてるが大皿から直で。


「良く味わって食べろよ…」


「そう言う神北さんはまだ食べないんですか?」


文醜の満面の笑顔を見ていた顔良がふと聞いてきた。


「まあ紹介した人間が連れて来た人より先に食うのはね?」


エチケットとして自粛です。


「そんなお気になさらないで下さい」


「いやいやそこは…」


「いえいえそんな…」


常識人同士の遠慮合戦、

隣では食いしん坊同士の大食い合戦。


「お後チンジャオロース定食と餃子定食大盛ね!」


くるくると席の間を巡っていた給仕が、

早くも次の料理を運んでくる。


「おお早いな。

此方も美味そうだ、

それでは改めていただきましょう」


「そうですね…ありがとうございます。

いただきます!」


美味そうな料理を前に恐縮し続けるのは難しいので、

今回は顔良が笑顔で折れてくれた。


「ほぉ…美味い!」


「美味しい!」


大盛コンビが一心不乱に食っているので、

美味いのはわかっていたがまさかこれ程とは。


「挽き肉のぷりぷり感と豆腐の柔らかさが相乗効果を生んで口一杯に広がる!」


「薄切りのお肉にしっかりした味付けがされていてピーマンの苦さがそれを高める、

そして二種の食感が食欲をそそる」


俺らは何処の料理漫画だって感じ。


しかしそれ程美味い、

ご飯は元が元だけに俺の世界の味にはかなわないが、

この世界に来て一番の味なのは疑いようが無い。


「はい!担々麺と肉まんね!

肉まんはお先のお客さんがいたんだ遅くてごめんね!」


予想以上に美味い料理に集中していると、

注文した料理の残りが運ばれてきて大盛コンビがいざ本格的に食事というタイミングでそれは来た。


「いらっしゃいませ~!」


「典韋を呼んでもらえるかしら」


「後、麻婆豆腐を2つと肉まんを4つ」


聞いた事のある声。


「華琳?」


同席の皆が食事中なので入り口に移動しながら声をかける。


「あら隼人じゃない?」


俺の居た卓をチラ見してから、


「仕事の合間に女性を口説くのは感心しないわ」


と、のたまってくれた。


「あの豪快な食いっぷりを見てから言われてもな~」


最初は正直ナンパ目的が多少はあったから強くは否定しない。


「あの、お呼びでしょうか曹操さま…」


そんな微妙にギスギスした空気に入り難そうに少女、

季衣と同じ位の年齢だろうか?

若葉色のショートの髪を大きなレース地のリボンで纏め、

見た目の年齢らしい凹凸の少ない体型、

顔はかなり整っていてチャイドルと言われたら納得してしまうような華がある。


「こんにちわ典韋、

忙しい所を呼び出して悪いとは思うわ、

それでもあなたの料理人としての腕が欲しいの」


驚き桃の木山椒の木!

華琳は才能のある者は好きだが、

自ら城下町まで出て来てスカウトするなんて…。


「申し訳ありません…。

曹操さまのお話はありがたいのですが、

私は親友からの手紙で街に来たので…」


伏し目がちだった目を上げると綺麗なブラウンの瞳が現れる。


「なあ秋蘭、華琳は以前にも勧誘に来たのか?」


華琳の話を邪魔しないよう小声で聞いてみる。


「ああ3日前の昼に姉者とこの店に来てな、

美味だったのでお土産に肉まんを数個買っていったらその日の内にな…」


口元を隠して含み笑いをしながら説明してくれる。


「へ~華琳らしいと言えばらしいが…」


顛末を聞いている間も華琳の勧誘は続いている。


「わかったわ、

ならばあなたの親友が見付かれば良いのね?」


「はい…ただ私も休みの時間は色々と見て回っているんですが見つからず」


「それなら丁度良い人材が居るわ」


そう言ってから華琳の体がクルリと俺に向く。


「良い所に居たわね」


「今日2回目だなその台詞…」


逃げる訳無いのに肩をガシッと掴まれ捕捉される。


「まあ警備隊の通常業務だから断る理由も無いけど」


当然快諾。


「それじゃその友達の名前と特徴、

まずは大体で良いから教えてくれるかな?」


「はい、名前は許緒と言って、

同い年で身長も同じ位、

力持ちなので何処か土木関係の所で働いてるか、

村で狩りをする時には活躍していたので狩人をしてるかもしれません。

街で良い仕事に着いたから私もって誘われたんですけど、

元々手紙なんて書く娘じゃないんで何処に居るのか書いてなくて…」


華琳の知り合いだからだろうか直ぐに答えてくれたが、


「「「………」」」


内容に聞き覚えのある俺達は無言のまま目で話をする。


(許緒?)


(そう言いましたね?)


(特徴も符合するな)


(確認なさい)


(了解)


「あ~もしかしてその許緒って言うのは女の子で、

桃色の髪を2つに纏めてない?」


「え!知ってるんですか!?」


やはりドンピシャらしい。


「まあ知り合いだわな?」


「そうね」


「だな…」


「え、え、え!?

皆さん知ってらっしゃるんですか!?」


いきなりの事態に驚き慌てる典韋。


「こりゃ!」


一心不乱に定食を掻っこんでいた季衣の服の襟を抓み上げ、

猫のように片手で吊り下げる。


ガツガツ!モグモグ!


それでも餃子が盛られた-本当に餃子が山になっている-皿を持ち食い続ける。


「君のお探しの人物はコレではないですかな?」


季衣の顔は餃子の山に阻まれ見えないが、

典韋からも季衣の髪型は見えてるだろう。


「…その食べっぷり…その髪型。

季衣?季衣なの?」


「(モグモグ)……!……(モグモグゴックン)流々!?」


やっと餃子の山が崩され-一息に9~10個食ってる-、

典韋が見えるようになると同時に季衣は反応するが、

いかんせん季衣の口の中には餃子がたっぷり詰まっている、

我々の教育の賜物か飲み込んでから驚きの声をあげる。


「兄ちゃん持ってて…。

流々遅~い!

随分前に手紙書いたのに全然華琳さまのお城に来ないんだもん、

心配したんだよ!?」


季衣は餃子の皿を俺に押し付け、

典韋に向き直って文句とも安堵とも取れる台詞をぶつける。


「季衣こそ!

手紙くれたのはありがたいけど、

せめて今何処に居るか位書きなさいよ!」


「城って書いたじゃん!」


「季衣がまさか本当に城に居るなんて思わないわよ!

季衣の事だからでっかい建物の事だろうと思うじゃない!」


「流々が勝手に勘違いしたんじゃんか!」


あらあら売り言葉に買い言葉で段々険悪なムードになってきましたよ。


「流々の分からず屋!」


「季衣の馬鹿!」


言葉と同時に両手を相手と組み力比べの形に。


「(モグモグ…ゴックン)隼人止めなさい」


「華琳…何故君はこの状況で悠長に座って食してるのかな?」


俺に命令を下す華琳は、

丁度配膳されたんだろう肉まんを食しながらである。


「あら?こんな美味しい物を冷めてから食せと言うの?

この美食家である私に?」


「悪かった」


ちょっとした疑問を問い掛けただけなのに突っ込みが厳しい。


「なら秋蘭手を…」


「華琳さま、この麻婆豆腐は至極美味ですね」


「そうね、やはり手元に置きたいわ」


じゃなくて。


「あの~秋蘭?

流石にあの2人を俺1人で引き剥がすのは無理なんだが、

手伝ってもらえないかな?」


「残念ながら隼人、

私は食事中だ」


いや見ればわかりますがな。


「そこを曲げて!」


「ふむ…貸し1つだぞ?」


何故華琳の命令をこなすために手を貸すのが俺への貸しなのか?

は、考えない事にしよう。


「助かる」


と言って喧嘩を止めようとした時だった。


「キョッチー…いや季衣、

飯屋で暴れちゃ駄目だろ?」


「あなたも店内での喧嘩は駄目よ?」


いつの間に近付いたのか、

先程まで食事をしていた顔良と文醜が、

ひょいと背後から簡単そうに季衣と典偉の2人を引き離した。


どんなに喧嘩をしていようとも季衣は親衛隊を任されてる一軍の将、

それと正面から喧嘩出来る典韋だってかなりの腕だろう、

その2人を難無く仲裁出来る、

流石は袁紹軍の2枚看板。


そしてまだじたばた暴れる2人を引き離して、

改まって華琳に向き直る2人。


「我が名は文醜」


「私は顔良、

曹孟徳さまであらせられますね?

このような場所ではありますが、

接見のお許しを下さいますよう御願い申し上げます」


名前を聞いていたので予想通りの展開だが、

少し予想外の事も、


「神北隊長はいらっしゃいますか?」


場違いな-下町の定食屋なのだから本当ならピッタリなんだが-兵士が1人。


「ん?どした桐?」


こいつは楽進隊所属の警備隊員。


「やっといらっしゃいました!

捜しましたよ………!?」


かなり走り回ってくれたんだろう、

一息ついてから店内を見回してみれば、


「夏侯淵将軍!曹操さま!?」


憧れの将軍だけでなく、

自分の陣営の大将がこんな下町にいたら吃驚するわな。


「隼人?」


邪魔よと目線で叱責。


「わかってる、

桐、話は外で聞く」


華琳に促され、

邪魔にならないよう緊張で直立不動になっている桐を連れて外に出る。


「で、どした?」


店先で固まったままの桐に張り手を一発入れてから聞く。


「は!私は何を?」


「それは良いから要件を先に話せ」


解凍に成功したようなので先を促す。


「は、はい。

南の大手門を楽進隊長達と巡回中子供から手紙を貰いまして、

中を楽進隊長が確認した所至急神北隊長に知らせるようにと…」


そこで懐から竹巻を取り出す。


「…ふむふむ…」


内容はこうだ。


『危険度赤・男・暗殺者と思われる。雲』


危険度は青・黄・赤・黒の順で深刻度を、

次は男女の別でわからなければ白、

最後の雲は蜘蛛の意で、

俺が飼っている不正規の手下の中で、

拠点を構えそこで得た情報を報告して来る者の総称だ。


因みに動的に情報を報告する者-俗に言うスパイとか-は八、

蜂の意で働き蜂の意味をもって名付けている、

天和達-現数え役満シスターズ-を捜索した時の手柄で、

華琳から予算を付けて貰えたので数を増やせた。


文の中に全ての記述が無ければ偽情報として扱う、

そしてこの文には全ての記述があるので確かに手下からの報告だろう。


「わかった。

…凪には警戒を厳に、

陽動があるかもしれないから今日の内は喧嘩や掻っ払いの奴らは全員牢に入れて、

時間をかけずに解決しろと言っといてくれ。

後、沙和と真桜の隊にも連絡して同様の対処をするようにと伝言頼む」


「はい!確かに伝えます!」


細やかに指示を出し、

桐を伝令として送り出してから考える。


(華琳への暗殺者なら前兆が報告される筈だ、

人員も金もかなり使ってんだから少しは自信を持っても良いだろう。

なら誰に?春蘭?秋蘭?

いや、華琳程じゃないがそこら辺りにも力を入れている、

前兆位は報告されるだろう。

なら……そうか!?)


暗殺者が雇われる位の重要人物で、

俺の警戒網に入っていない者、

その両方に当てはまる人物が今この定食屋に居る。


それは…定食屋のオヤジ!

んな訳なく袁紹配下の2人だろう。


「隼人?どうした?」


このタイミングで秋蘭が店から出て来る。


「…秋蘭、暗殺者が入り込んだようだ…」


「………」


いきなりの告白にも冷静な対応が出来るのは秋蘭の長所だ。


「こちらの情報からは華琳が標的では無いと判断できるが、

保険はかけておいた方が良いだろう。

秋蘭は華琳に付いてくれ。

一応俺の推理では目標は文醜と顔良だと思うがな」


「…わかった」


これで華琳は安心して良いだろう。


なんと言っても俺が華琳を暗殺しようと思った時、

一番会いたくないのが秋蘭なのだから。


1対1の戦いで秋蘭と春蘭どちらが勝つとなれば春蘭だろうが、

護衛としてどちらが優秀かと問われれば間違い無く秋蘭と答える。


言わば春蘭は矛、

全てを砕き前へと進む矛、

対して春蘭はバランス型、

矛にも盾にも成る事が出来、

しかも冷静な判断能力を持っている。


(俺の予想が正しければ、

既にかなりの距離まで詰めている…)


元暗殺者としての知識では目標の近くで-目視が望ましい-動向を探るのは必須事項、

そして気配や痕跡を消すのが得意な暗殺者とはいえ、

元同業者の俺に感づかせない事からかなりの腕利きだとわかる。


(だが、警戒をあからさまにすると逃がす可能性が高いな、

かなりの腕なら後顧の憂いを断つ為にも潰しておきたい。

さてあの2人で釣れるかな?)


正直袁紹配下の将がこの街で殺された場合かなり外聞的に不味いんだが、

それ以上にここで暗殺者を逃す方が不味いので、

文醜と顔良には囮になってもらう。


(仕掛けるなら城につく前、

街中以外にチャンスはほぼ無い)


この時代の城は、

元々が為政者が長期滞在する為の物-出城とかは別だが-、

そして為政者は暗殺の心配をする必要の高い職業だから、

城には警備をし易くする為の間取りや仕掛けが多い、

しかもそれに-暗殺者だった-俺のアイデアでさらに幾つかの仕掛けを増やした、

調べが済んでるとしたら城まで行った場合諦められる可能性が高い。


(それもこれも狙う相手が合ってるかに関わるんだけど…)


ここまでの悩みも実はそこにかかっている、

暗殺者の情報もただ暗殺者がこの街に入っただろうというだけだ、

もしかしたら商家の誰かが目的かもしれない、

警備隊からしたらそちらも問題だけど、

それより袁紹との戦争の引き金に成りえるこの2人の方が重要だ。


そんな打算を考えていると秋蘭が店から出てきて、


「隼人、華琳さまが2人を城に迎える事にした」


「了解…」


秋蘭の後に暖簾をくぐりまず華琳、

その後に文醜、顔良、最後に季衣が出てくる。


典韋は定食屋の仕事があるのだろう、

出て来る気配は無い。


「では改めて顔良殿、文醜殿を城まで御案内致しましょう」


公式な自己紹介を聞いたので言葉遣いを改めるが、


「神北の兄ちゃん、

そんなに改まらなくても良いぜ?

最低でもアタイは気にしない!」


力一杯断言された。


「そうですよ、

私も気にしませんから普通に話して下さい」


顔良もこう言ってくれた。


「なら遠慮無く。

そんでは城まで行きましょうか」


高確率で暗殺の危険があるなんて事はおくびにも出さず、

和気あいあいと城へエスコートする。


(しかし来るならどんな手かな?

直接?飛び道具?それとも騒ぎを起こしてどさくさに?)


俺が言うのもなんなんだが、

実際暗殺を防ぐ側になってみるとこれは大変な事なのだ。


なんと言っても手段が多過ぎる、

前にあげた例以外にもやろうと思えば無数の殺し方がある、

護衛の側は目標を護る為にはその無数の手段の内から幾つかにヤマを張るしか無い、

分が悪いのは当然だろう。


俺は相手の情報が少ないのに歯噛みしながらも、

仕方がないのでオーソドックスに飛び道具と直接の危険にヤマを張り、

2人と一緒に城へと向かう。


「しかし袁紹殿の領地からの旅となるとかなりの距離だよね?

危ない事とか無かったの?」


「それはまあ…」


世間話の中で少し技量の探りを入れると言葉を濁される、

まあ危険が多いなんて言えば、

通って来た領地の統治が成されて無いと言うような物だから仕方ないのだが。


「何言ってんだよ兄貴~。

アタイ等麗羽さまの下で将軍職を任されてるんだぜ?

盗賊やら暗殺者やらが来たって…」


と、文醜が顔良の考えを無視して、

笑いながら説明してくれると思ったら、


「こんな風に撃退するさ!」


いきなりの抜き打ち!


目標は裏通りなら珍しくない着流し姿の男、

俺はかなり警戒していたというに一般人だと思ってた。


だがそんな訳は無い、

今の抜き打ちはかなりの鋭さだったのにこの男は寸前で避けた、

一般人なら斬られた事がわからない位の太刀筋を避けられた事から、

こいつが件の暗殺者であるのがわかる。


「………」


「何処の奴だい?

…なんて言うわけ無いわな。

まあアタイ等を狙ったのが運の尽きと思いな!」


文醜が切りかかりながら吼える!


一瞬呆然としてしまった俺だが遅ればせながら抜剣、

顔良はいつの間にやら-さっき話してる時には横に居たのに-文醜の対面で男を挟み撃ちにしている。


文醜が袈裟懸けに切りかかるのを男は、

髪一重…いや皮膚一枚と服を犠牲に避ける。


「そこです!」


そこに顔良の突きが襲い掛かる!

よけられるタイミングではない。


「そこ!」


一目見てこの場は2人に任せて間違い無い事がわかった俺は伏兵の警戒に回っていて、

丁度顔良が突きかかるタイミングで吹き矢を飛ばそうとする男を見付け、

袖口に仕込んだ小刀を手裏剣投げ-一般に考えられているような物ではなく、

刃部分を持ち投擲から刀が一回転半して飛ぶ-で妨害する。


投げてから猛ダッシュ!

相手は20メートル先の曲がり角、

失敗を悟った奴は身を翻して逃げようとしたが、

見つけてしまえばこちらの物、

難無く追い付き自害対策に後頭部を打ち気絶させる。


20メートルから吹き矢で仕掛けられるのはかなりの腕だが、

体術的には平均以上位だったのだろう、

接敵してしまえば俺の敵では無い。


結局こちらの暗殺者も男だったんだが、

その男を肩に担ぎ上げ皆の所に戻る。


「隼人、説明……、

城に着いてから説明なさい」


「了解。

ならまずはこの騒ぎを収めなきゃな。

秋蘭そいつは?」


文醜と顔良の2人が戦っていた男が倒れている。


「駄目だな、

口に毒を仕込んでいたようだ。

既に事切れている」


「まあこちらで1人確保出来たから良いでしょう」


逃げられない布陣を見た時点で予想していたのでそれはいいとして、


「早く城へ向かいたいし他の呼んじゃうね」


おもむろに懐から笛を取り出し2回思い切り吹き鳴らす、

すると応えるように3回の笛の音、

音の響きはかなり近いようだ。


数分待つと大通りから真桜を先頭に警備隊の一団がやってくる。


「大事なかったですか?」


開口一番心配してくれる真桜に事の経緯をざっくり伝え、


「死体の処理とこいつの監視を頼む。

取り調べは俺がやるから自害しないようにだけしていてくれ、

俺が行くまでは他の仕事は免除するからこれに直接ついていてくれな。

後、喧嘩やらの規制は戻して良い、

かなり苦情は来ただろうから後で俺が直接事情は発表するとだけ伝えてくれ」


後始末指示だけは細かく出す。


「それ聞いて安心しましたわ。

王桃屋の夫婦がまた派手に喧嘩してたんで仕方なしに牢屋入れといたんですが、

牢屋の中でまで喧嘩してるんですわ。

身元がしっかりしてる者は…?」


「悪い、出しちゃって良いわ。

夫婦には俺が謝ってたと伝えてくれ」


王桃屋は今俺が一番ハマっている菓子屋だ。


この店には名物が2つある、

1つは屋号にもなっている王桃で、

着色した特殊な餡を桃の形に成形した物でかなり!美味~い!

この店の名物と言って間違いないのだが、

前述の通り他にもう1つ名物があり、

それが店主と女将さんの喧嘩だ。


仲が悪いんだか何なんだかわからないが、

小さな事ですぐ喧嘩をするのでいつからか名物と化している。


だが時に得物を持った喧嘩にまで発展するのでこれまでも何回か牢に入れた事もあるが、

身元もしっかりしていて他の人に危害を加えない事から頭を冷やしたら釈放していた。


しかし今回は俺の指示で、

騒ぎを起こした者は身分や知己の別なく牢に突っ込んで出さないように、

と伝えたので出せなかったんだな。


あの美味い王桃を買いに行くのに気まずいのは嫌なのでフォローを頼んで送り出す。


「まあええですけど、

出来るだけ早く説明してあげて下さいね?」


「勿論!」


力強く請け負い現場を真桜に任せて華琳に合流、

皆で城へと向かう。


-謁見の間


「改めて名乗らせて頂きます。

私は袁紹軍が将、

性は顔、名は良、字はありませんので顔良とお呼び下さい」


「アタイも改めて、

性は文、名は醜、字は同じく無いので文醜と呼んで下さい」


一段高い玉座に座った華琳とその脇を固める軍の主だった人物、

それに対しても2人は緊張の雰囲気も無く片膝をつき名乗りをあげる。


「…そう…、

あまり聞きたくはない名だから間違いであって欲しかったけど、

やはり麗羽の所の将なのね…」


珍しい、華琳が本気で脱力してる。


「それで、麗羽の所の将軍がわざわざ伝令としてくるなんて、

要件はかなりの物ね?」


「は!私達が麗羽さまより承った任は、

反董卓連合軍への勧誘でございます」


(ふむ、ついにか…)


俺はこの話の大筋を知っている。


これは三国志の序盤の山場、

悪逆非道な董卓を討つべく各地の群雄が一同に会する董卓討伐戦だ。


だが俺の知る歴史ではこの大戦は1年位後だし、

実はこの世界の董卓の統治はそんなに悪くはないのだ。


実際税は上がり治安は悪くなったが、

それは黄巾賊が暴れている時からの政情不安の為だし、

正直都の税率はかなり優遇されていたから是正されただけとも言える。


しかし事実は今必要とされていないから、

そんな話は今ここではしない。


「麗羽さまは竹馬の友であらせられる曹操さまにも、

一軍を率いて参加して頂きたいとおおせです」


「…噂には聞いていたけど…。

今現在でいいわ、

誰が参加を決めているのかしら?」


「はい…まずは出兵を決めて頂いたのは馬騰殿、袁術殿、

その客将の孫策殿に白馬陣の公孫賛殿、

また小規模ですが天の御遣いと呼ばれる者が率いる義勇軍、

そして他にも兵だけですが提供を約束して頂けている方も多数いらっしゃいます」


(一刀も参加するのか…。

まあそうだよな)


「錚々たる面々ね!?

袁術辺りはわかるけど、

まさか馬騰殿まで参加なさるの?」


(食いつくな~)


まあ以前から馬騰の事を才人としても将としても評価してるからな。


「はい、馬騰殿は都の荒廃に心を痛めておられ、

全面的な協力を約束して下さいました。

只、北西の守りを空けるわけにはいきませんので、

名代として錦馬超を派遣して頂くと…」


補足と併せて情報を提供してくれた所で、

一旦答えを保留して2人を部屋へと案内する。


こんな重大事の答えをすぐに貰える筈がない事はわかっていたのだろう、

快く了解してもらい謁見の間には華琳の側近だけになる。


「どうかしら?」


「恐れながら…」


華琳が促せば、

まずは桂花が進言する。


「私の情報ですと、

都はそこまでの荒廃ではなく、

また流民の話を聞いても董卓の兵の悪い話は聞きません」


「俺の方も同じだ」


どうせ聞かれるので先に補足する。


「じゃ~董卓って人は悪くないの?」


「まあそうかな?

ただ都を統括するのには力不足だな」


「う~ん?」


あらあら季衣が頭抱えてる。


「季衣にわかりやすく言うと、

都は山で董卓は狩りの集団の新しい頭だ。

その山は獲物が一杯居るから手下は裕福だった、

しかし新しい頭は獲物の内何割かを税で納めろと言ってきた」


「?…狩りの後獲物を納めるのは普通だよ?」


俺の話を遮るように季衣は疑問をぶつけてくる。


「そうだな普通だな。

しかし都…その山では獲物が多すぎたから今までは無かったんだ」


「なにそれ!?狡いよ!」


「まあそうだけど、

今までそうだったんだから不満を言う人も多かったんだ」


「そんなのおかしい!」


「まあ聞けって」


例えの話なのに季衣はかなりヒートアップしている。


「そんでな、

それだけならみんなと同じになるんだから良い事だろ?」


「…うん」


「だけどその新しい頭の統率力が不足してるんだか誤魔化す方が頭が良いんだかはわからんが、

前の頭の幹部だった奴らは賄賂を取り放題でその手下は好き勝手に暴れてるんだ」


「う~!ボクならそんな奴等ぶっ飛ばしてやるのに~!」


「だけどこの頭は悪い奴かな?」


「…え?え~と…。

そうだね、下の者の統率は出来てないかもしれないけど、

その人自体は悪くないんじゃないかな?」


「それが今の董卓さ…ん?」


説明が終わってから気付く、

随分話し込んでたのに茶々や新しい議論の声がしない。


「隼人…」


そんな中華琳がニヤニヤと意地の悪い笑顔で声をかけてくる。


「塾でも始める?」


「嫌だよ!季衣みたいな可愛い娘ならともかく、

他人の子供なんて預かったら全員ぶちのめすぞ!」


「いやいや隼人、

今の講釈を聞くとかなり有望だぞ」


「秋蘭まで…俺は将軍職と警備隊隊長の職務で忙しいんだ。

他の事をやる時間があるなら休みたいぞ」


おちょくる感じで言った華琳には適当に返事出来るけど、

本気で言ってるのがわかる秋蘭には真面目に返事するしかないわな。


「兎も角理解出来たか季衣?」


「うん!

でもそれなら何で董卓さんが悪い人と間違われてるのかな?」


新たなる疑問が出てきたか、

季衣はわからない事はわからないとちゃんと言える良い娘だな、

誰とは言わないがわからんでも知ったか振りする人も居るからな。


「それはな、

獲物の多い山なら誰だって欲しいだろ?」


「そりゃそうだよ!」


「でもそこにはもう持ち主が居るんだ」


「うんうん…」


「何の落ち度も無いのに奪おうとすれば?」


「凄い戦いになるだろうし、

奪っても周りから嫌われるよ!」


「そうだな、

だから悪い噂を立てて評判を落とすんだ」


「そっか!」


おお、ここまでで理解できたか。


「理解できたか?」


「うん!ならボクたちは董卓さんを助けなくちゃ!」


季衣は何の気兼ねもなく思った事をそのまま言っているのだろう、

それは当然の事だが世界はそんなに単純には出来ていない。


「そうもいかないんだ。

季衣の言いたい事はわかるんだけどな」


「え!何で?」


「それは後で説明するから今は待ってくれ。

これ以上会議を止められないし、

今は話を決めなくちゃいけないからな」


「う~う~…わかった」


「偉いぞ季衣」


頭をワシャワシャと掻き回せば、

気持ち良いのか猫のように目を細めた。


「それでは結論から言いましょう。

私は以下の理由から出兵を提案致します」


話が一段落した事を察した桂花が発言する。


「1つに民意は既に朝廷から離れ、

各諸侯は独自の自治を始めております。

2つに我が軍は数は袁紹軍程ではありませんが、

練度は他の軍の追随を許さず必ずや第一の功を物に出来るでしょう。

3つに今回の袁紹軍の連合軍結成の檄文が成った事で、

朝廷の力が無くなった事が決定的となりました。

この時を逃せば雄飛の時を逸し、

他の国に我等は吸収される事でしょう」


桂花は現在の状況を冷静に表している、

だが流石に今回の発言は度を越している。


「桂花?あなたは命がいらないようね?」


危惧した通り華琳はお冠だ、

体中から覇気を噴き出させる。


「同じ事を袁紹へと進言したならば私の命は無いでしょう!

ですが華琳さまなら…、

我等が主さまならばわかっていただけるだろうと進言致しました。

お気に障りましたならば我が首をどうぞお持ち下さい…」


桂花の覚悟は本物だ。


口だけの半端な覚悟では無く、

落とすなら落とせと気迫が伝わってくる。


「…麗羽と同じと思われるのは業腹ね?

ならば許さない訳にはいけないけど、

只許すのも面白くないわ」


桂花の覚悟も話の正当性も全部わかってるんだろうに、

もったいぶって話す華琳。


「今夜の私の閨の相手を命じるわ。

生意気な口をきけないように思いっきり鳴かせてあげるわ♪」


「…はい!」


あ~はいはい勝手にして下さい。


「それでは結論は出兵するで良いんだな?」


一応の確認の為に聞いておく。


「ええ、では会議はこれで終了とします。

各自用意を始めておきなさい」


「「「は!」」」


「了解」


華琳の号令で会議は終了した。


その後季衣への説明が夜までかかったのは秘密だ、

そして完全に納得させられなかったのも秘密だ。


-深夜


中庭の一角の東屋に俺は居た。


夜の闇は俺の障害にはなりえず、

逆に俺はこういった闇の中にこそ自分の本質があると思っている。


「しかしなんだな…」


片手に酒がなみなみと注がれた杯を持ち、

その中に三日月を写し取りながら独白する。


「やはり、

俺の知る歴史からは徐々にだがずれてきている」


それが顕著なのが蜀の陣営だろう。


既に諸葛亮と鳳統が仲間になっているのもそうだし、

自らの領土を持つのもこの大戦後の筈だ。


呉もまだ反董卓連合軍の結成時は孫堅が指揮していた筈だし、

我等が魏も季衣と典偉の仲間になる順番が反対だ。


「まあそれを言ったら一刀や俺が此処に居るのが1番の相違点だろうがな…」


自嘲して杯を呷り、

またなみなみと酒を注ぐ。


「一刀…俺は何が有ろうと華琳を覇者へと押し上げるぞ!」


杯を月へと掲げ決意を口に出す。


何かに宣言するように、

何かがそこにいるかのように…。



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