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第6話

−張3姉妹加入から半月後


黄巾の乱は終わった、

はずだったのだが。


「隼人!あなたちゃんと聞いてるの!」


「ああ桂花聞いてるよ…」


只今絶賛軍議中。


「く!まあいいわ、

では改めて報告を確認するわよ」


兵士に目で発言を促す。


「は!頓丘から南に80キロの所にあります街が黄巾賊に襲われようとしております!」


「今は?」


「私が伝令に出される時にはまだ小競り合いでしたが…攻めてくるのは時間の問題かと思われます!」


「それは何故?」


「は!黄巾賊の連中は傍目にも空腹なようで、

食料を渡せば襲わないと言っておりましたがいつ我慢の限界にくるかは…」


「敵の数は目算で一万でいいのね?」


「は!間違いございません!」


先程聞いた事の繰り返しだ、

何故こんな事をしているかと言えば、


「だから今すぐに、

この頓丘の全兵力をもって打って出ねば無辜の民を見殺しにする事になると!」


「私も先程から言っているでしょ!

全兵力なんてすぐには出せないのよ!」


この2人−主に春蘭と桂花−の意見の食い違いによるものだ。


「ならば出せるだけでいいと!」


「少数では数に押しつぶされるわ!」


「我等がそんな簡単にやられるものか!」


話は平行線を辿っている。


「華琳はどう思ってるんだ?」


春蘭達は置いといて気付かれないように聞いてみる。


「私が発言すれば場が固まってしまうわ。

この問題は答えの無い問題よ」


「まあな…」


春蘭の感情論もわかるしもしかしたら今出せるだけの兵を出せば解決するかもしれない。


だが桂花の言う慎重論も大切で、

もしかしたら少数で出撃する事で大切な兵だけではなく替えのきかない将が危険に晒される事になる。


公平に理がどちらにあるかと考えれば桂花にあるだろうが−それが軍師という物だ−、

理だけで話がつくなら世界はもっと簡単だ。


「逆にあなたの意見はどうなのかしら?」


「俺か?俺はどちらでもいいな…、

正直俺はこの世界の知り合い少ないし、

俺の知らない人が何人死のうと気にはならんな」


これは本心から言える事だ、

俺は自分の守れる範囲でしか大切な物を作る気がしない。


それが暗殺者をしていた俺の考え方だ。


「あら随分淡泊なのね?

でもあの街の警備隊には知り合いがいる筈でしょ?」


「まあな…でもそれの為に無理な動員をして多数を危険に晒すのはな…」


「自信が無い?」


「まあな、

任せられれば出来るだけはやるが…正直兵を殺されないように立ち回るので精一杯なんじゃね〜かな?」


「ふむ…」


そうこうしていると春蘭等の話も佳境に入っていた。


「すぐに用意出来るのは騎兵で1,000よ!

一万に対して1,000で何をすると言うのよ!」


「1,000あれば十分だ!

我が突撃で烏合の衆など蹴散らしてくれる!」


「現実的な話をしなさいよ!」


「私は真面目に話しているではないか!」


「だからあんたは馬鹿だと言うのよ!

真面目に非現実的な事言ってんじゃないわよ!」


今にも取っ組み合いを始めそうな2人、

秋蘭は沈黙を守り季衣は春蘭を応援したいようだが現実問題を考えてマゴマゴしている。


「なんだと〜!」


「なによ!」


「やめなさい…」


「「はい!」」


静かに華琳が声をかければ反射的なんだろう、

2人は直立不動となり争いをやめる。


「話は出尽くしたかしら?」


「そのようです…」


ここで始めて秋蘭が口を開く。


「ならば結論を出すわ」


全員が注目する中華琳が指示を出す。


「私は州牧として、

漢王朝の一員として、

そして覇道を歩む者として我が庇護下の民を見捨てる事は出来ないわ!

それと共に我が兵を悪戯に損なう気も無い!」


大筋は兵を派遣する事で決まりだな。


「秋蘭、あなたを主将として騎馬1,000をもて先行して街の防衛にあたりなさい」


「御意!」


「副将として隼人」


「了解」


「敵を撃破する事が目的ではないわ、

兵も民も損なわないよう防衛に専念なさい」


「は!」


「桂花は歩兵を中心とした兵を明日までに3、

いえ4,000用意なさい」


「華琳さま!それは…」


「あなたなら出来ると思うから任せるの…、

出来るわね?」


「!一命に換えましても!」


「春蘭、季衣は部下を纏めすぐにでも出られるように用意なさい」


「「は!」」


「桂花の手配が終わり次第出撃するわ、

到着まで保たせるのよ2人共」


「承りました!」


「出来るだけはやるよ」


「ならば始めるわよ!

私の民に牙を剥けばどうなるか思い知らせてやりなさい!」


「「「御意!」」」


全員が頭を垂れてから動き出す。


「秋蘭、兵は30分後に街の入り口に集めるわ」


「ならば我が部下も集めよう」


「ええ騎馬のみを纏めて連れて行って、

歩兵と弓兵は私達の方で纏めるわ」


「任せる」


秋蘭は早足で歩きながら協議する、

桂花に関しては歩幅の関係で走っているけど。


「それじゃ俺の部下はほぼ桂花に任せるな…」


「…ふん!」


こんな時までツンツンすんなよ。


「後数日なら警備隊の半分は連れて行けると思う、

以前から想定して指示を出しておいたから指令だけ出せば良いから」


「あんたにしては良い判断ね」


「ありがとう?」


端々に反論したい所はあるけど時間が惜しい。


「隼人、悪いんだがお前の部下はこちらで纏める。

我等に先行して街まで行ってくれないか?」


「1人で?」


「そうだ…」


「わかった」


「馬は潰れてもいい…街の人や警備隊に我等が向かっている事を伝えてくれ」


「わかってるよ。

そうすれば士気も上がるだろう」


「そうだ」


やはり秋蘭は春蘭の妹だな、

心の中では春蘭と同じ気持ちだったのだろう。


「んじゃ任せる」


そう言ってから2人を置き去りに飛燕の速度で馬の厩舎まで走る。


「ふ〜…んじゃ行きますか!」


たずなを掴み馬に足をあてる。


−2時間後


「は〜は〜着いたか…」


2時間も休みなく走り続けた馬は息も絶え絶えだ。


「は〜は〜しんどい!」


当然俺だって息が続かない。


見詰める街の様子は所々から煙がたなびき荒れた感じ、

だがまだ本格的に壊滅した訳じゃないようで郊外に黄巾賊の集団が居座っていた。


「よし!」


もう馬は限界だろう、

馬から降りてたずなを引いて走り出す、

こうすれば馬の疲労もある程度軽減出来るだろう。


街の黄巾賊の居るのとは逆の入り口に到着すれば、


「止まれ!」


華琳の兵の証の黒を基調とした鎧を纏った男が、

机を積み上げたバリケードから怒鳴ってくる。


「誰だ!」


「我が名は神北隼人!

救出部隊に先行して参った!

警備隊隊長王李おうりは居るか!」


俺の名前と話の内容に慌ただしくなる内部。


「神北将軍!」


「無事か王李!」


王李は筋骨隆々で筋肉達磨と言う言葉がぴったりの体と、

禿げ上がった頭を持つこの街の警備隊隊長、

頓丘では1部隊を任せていた元俺の部下だ。


今は綻んだ笑顔を見せるが元々は無表情で怖い印象が強い男、

それから笑顔が出る位厳しい戦闘が続いていたのだろう見れば体の各所には真新しい傷跡が多数。


街に入り潰れる寸前の馬を厩舎に繋げ街の中心部にある警備隊詰め所に向かう。


「今救出部隊、

秋蘭を主将とした騎馬1,000が向かっている…」


「おお夏侯淵様が!」


「ああそれを先行部隊に後続4,000が明日明後日中に到着するだろう」


「助かり…助かります!」


巌のような顔を歪め王李は目を潤ませる。


「ああ…だがかなり無理な編成で来る筈だからな…、

皆には明後日に着く筈と言っておくぞ?

早ければ明日着くがな」


「わかりました…」


気を引き締めるように顔をしかめる。


そんな話をしている間に詰め所に到着する、

王李の話では街の主要な者はここに集まっているそうだ。


「初めてお目にかかる者が多いと思う、

神北将軍…通り名の破山剣の隼人の方が知る者は多いかな?」


「おおあの!」


「話は聞いた事が…」


「神北将軍は頓丘の街の警備隊隊長も兼任なさっている。

元は私の直属の上司にあたり当然私より強い」


王李が補足までしてくれる。


「王李さんより!」


「助かる!」


「さらに俺の後にまずは先行部隊として夏侯淵将軍を主将とした騎馬1,000が向かっている」


「おぉ!」


一同からどよめきの声があがる。


「恐らく俺はこの事を伝える為に馬を潰す気で走らせていたから、

夏侯淵将軍達が着くのは後3時間程後になるだろう」


80キロという距離は車なら2時間ちょいで到着できる、

高速を使えば1時間だ。


だが馬は休みをとらなければ使えない、

今回の俺のように潰す気で走らせれば話は違うが馬は高価な物だから毎回は無理だろう、

したがって急いで向かってくるとしても休憩を何回もとらなければいけない。


「それで今のこの街の状況を教えてもらえるか?」


「はい…一度奴等が襲って来てからは今は小競り合い程度の争いがある位で静かなものです…」


代表して説明してくれたのはこの街の刺史だった。


「では黄巾賊の残党は約束を守っていると?」


「いえ…一度目の襲撃で街の南側5分の1が被害にあい、

その時奪われた食料を奴等は食ってるんだと思います」


「ならば食い終わったら?」


「また襲って来るかと思います…今度は人を攫いに…」


目を伏せ沈んだ様子で答えた。


「そう言えばまず聞かなければいけなかったな、

今の被害者数はどの位出ているんだ?」


「は!軽傷者等は数え切れませんが重傷者はほぼ出ておりません、

重傷者は黄巾賊との集団戦時の被害が主で女子供に関しては軽傷者のみです」


「どういう事なんだ?」


「は!奴等はまず食料を確保するのを優先した為我々は人の避難が間に合った形です。

中には襲われた人もいますが義勇兵の働きもあり大事には至っておりません」


「ほ〜?」


「そう言えばまだ紹介しておりませんでした。

こちらの女性が義勇兵を纏めてくれております、

左から干禁殿楽進殿李典殿の3人です」


紹介された3人は改めて自己紹介してくれる。


「うちの名前は李典や、

よろしゅう頼んます」


まず率先して自己紹介してくれた李典は、

セミロング位のラベンダー色の髪を両サイドで花のように纏め、

服は関西弁とのコラボレーションによりある野球チームを連想させるパターンをしたビキニの上−下は机で見えない−に、

はちきれそうな巨乳を詰め込んだ青い瞳の女性だ。


「私の名前は干禁なのぉ〜、

よろしくなのぉ〜」


次に自己紹介してくれたのは若干舌足らずな感じの、

茶髪を高い位置で三つ編みにして一本垂らして、

李典程ではないが巨乳気味の乳の下乳が丸見えな服装の緑の瞳のメガネっ娘。


「お噂はかねがね伺っております、

楽進と申します」


最後は白髪をやはり三つ編みにして一本垂らした切れ長の濃紫の瞳をした女性、

だがこの女性は前述の2人とは違い服装が厳めしく控えめな胸は完全に覆われ、

腕には肘までの鉄甲、

そして目を惹くのは服の隙間と言わず顔と言わず所々に刻まれた傷跡だ、

見たところ最近の傷ではないようだが…。


「宜しく、

聞けば義勇兵との事だが?」


「はい、黄巾賊の横暴が目にあまり過ぎた為、

武術を少しカジっていたもので義勇兵として戦わせていただきました」


「ウチはどちらかと言えば技術屋なんやけど、

助けを求める声を聞いたら黙ってもおれんかったさかい…」


「そ〜そ〜そ〜なのぉ〜!

あいつら食料ばかりか女の人にまで手を出そうとしていたから許せなくて〜!」


「隼人将軍、

彼女達は義勇兵ですが戦闘能力は私以上です。

特に楽進殿は無手ですが気を操るのが巧く防衛の際は助かりました」


「無手?それは手合わせしてみたいが場合が場合だ、

あの賊共を撃退してから機会があれば…。

それで今南の5分の1が襲われたのは聞いたがそこは今?」


「はい、賊共が跋扈しておりますのでそこに繋がる道を机等の障害物で塞いでおります」


「なら少数なら今のままで大丈夫だろう…何としても夏侯淵将軍が到着するまで保たすぞ!」


「「「お〜!」」」


それからは一通りの人間に挨拶した後防衛計画の立案と資材や人材の手配、

散発的な襲撃への対処等で瞬く間に時間が過ぎていく。


「破!」


「ぐぁ!」


今も10人程の黄巾賊がバリケードを抜けて来たので斬っている最中だ。


(一人一人の腕は問題にならんが…)


そんな事を考えながらも手は止めない。


「くそ〜!」


やけっぱちになって突っ込んで来た最後の1人を、


「ふ!」


ピキーン!


構えた剣ごと叩き斬ってから指示を出す。


「大きな怪我をした者はいないな?

悪いがまだ襲撃を警戒しなければいけないんで休ませられん、

夏侯淵将軍が到着するまで我慢してくれ」


「はい!」


天秤棒や木鎚等の粗末な武器を持った町人達は疲れているだろうに精一杯の空元気で応えてくれる。


(士気はまずまず…しかし秋蘭達はまだだろうか?

そろそろ到着してもおかしくないんだが…)


「……られたぞ〜!」


その時だ!

切羽詰まった叫び声が聞こえたのは!


「…し門が破られたぞ〜!」


みなまで聞かずに走り出す!


(西門への最短ルートは!)


今俺が居るのが南門の近くのバリケード、

西門に行くには大通りを街の中央まで進み左に曲がるか家や店の密集した路地を斜めに突っ切るか…、

俺は悩まず路地に飛び込む!


だが流石にすべての路地を確認した訳ではないからある程度進むと袋小路に迷い込む、

前3方を土壁に塞がれ屋根は高く登れそうもない、

が引き返した場合タイムロスはかなりの物になる。


「悪い!」


聞く人のいない謝罪をのべてから腰の破山剣を抜きざまに突き当たりの家の壁を叩き斬る!


「ぜい!」


土壁を思い切り斬りつけ5回目位で通れる大きさに崩す、

抜き身の剣を持ったまま屋内に入り内装を見るとかなり裕福らしい、


(弁償はしなきゃだけど、

交渉によってはかなり安くできるかも?)


そんな事を考えながら引き続き走り抜ける。


その後は板塀等はあったが飛び越えられる、

登れる程度の障害が幾つか位で大幅に時間を短縮して西門に到着した。


そこでは…、


「予想より悪くない…」


義勇兵達が善戦していた。


俺は大通りを中央に向けて進撃していた賊の集団の横っ腹に出たみたいなのだが、

進行方向を見れば既に簡単なバリケードが設置されている。


「なんだお前?」


抜き身の剣を持って路地から飛び出したので味方と思ったのか賊が話しかけてきた。


「俺は…敵だよ!」


言ってからひしめき合う敵の間をバリケードに向かって走りながら当たるを幸いに斬り殺し始める。


統制もとれていないような賊共だけにこの混乱は致命的だった、

集団の中央辺りの混乱はバリケードを攻めていた先頭の者達まで伝染し始めた。


そこへ、


「挟み撃ちだ!皆行くぞ!」


先頭の方でも逆襲が始まったようだ。


「ふ!が!おら!死にさらせ!」


俺はバリケードに向かうのを取り止め路地に入っては近くの路地からまた現れるゲリラ戦法に切り替える。


「なんだあいつは!」


「どこから出てきやがる!」


「どけ!俺がブチ殺してやる!」


「助けてくれ〜!」


混乱は混乱を呼び元々隊列等無かった集団の中で、

逃げる者戦おうと俺を追う者バリケードを突破しようと進撃する者で大混乱になる。


俺は混乱がこの大きさになると樽や何かを積んだ足場を使い家の屋根の上に上がる。


(バリケードは大丈夫そうだな…路地に入った奴らが危険と言えば危険だが、

本隊の戦力を削れたと考えれば悪くないか?)


その時北門の方から歓声が聞こえて来た。


(来たか!)


その歓声が聞こえてくる中北門の方向から砂塵がやってくる。


「官軍だ〜!官軍が来たぞ〜!」


西門から中に侵入して来ていた賊は多くて1,000、

それも混乱していては踏みとどまれる訳がない。


「退け〜!本隊まで退け〜!」


(それを待ってた!)


この位の集団ならある程度のまとめ役がいるだろう、

まあまとめきれない辺り能力は低いだろうが。


「そりゃ!」


隠れていた屋根から姿を表し破山剣をそいつに投げつける。


「ガ!」


クリーンヒット!

退却命令を出していた髭面の親父に刀身が埋まる。


「頭目!」


「頭!野郎よくも!」


姿を表した俺に汚い言葉が投げかけられるが馬耳東風と聞き流す。


そうこうしている内に撃退された賊共が押し寄せ大通りは大渋滞になってしまう。


「覚えてやがれ〜!」


「やだよ〜ん♪」


つまらん捨て台詞を残して賊共は門外まで追い散らされて行く。


そうこうしている内に撃退された賊共が押し寄せ大通りは大渋滞になってしまい、


「覚えてやがれ〜!」


「やだよ〜ん♪」


つまらん捨て台詞を残して賊共は門外まで追い散らされて行く。


「門外まで出したら追い討ち無用!

門が使えるようなら使用して1部隊は警戒を!

使えないようなら2部隊でそのまま警戒態勢!」


「は!」


「待たせたか?」


そこで初めて声をかけてくる秋蘭。


「そうだな少し…!」


屋根から飛び降りて着地と同時に前転。


「だけど来て欲しい時に来てくれたから構わないよ」


俺の姿は返り血に汚れてぐちゃぐちゃだが秋蘭も負けてない、

急いで向かって来てくれたのだろう砂埃にまみれいつもは綺麗な顔が見る影もない。


「それで他の皆は?」


ここに来た兵は大体300人位だった。


「南門に300派遣した。

後は交代要員に休ませている」


「了解」


手短に情報を交換した後剣を回収する、

破山剣は首魁の胸を真っすぐ貫いていたので手下達は死体すら連れて行けなかったようだ。


「こいつが今回の襲撃の首謀者だと思ったんだが…」


「違うのか?」


「違いはしないと思うんだが…」


「だが?」


先を促す秋蘭だが俺は、


「いや今はよそう、

それより秋蘭も疲れただろう?

汚れを落として皆が集まってから話そうや。

今のままだと秋蘭と話してる気がしないし」


「そんなに酷いか?」


「俺が親なら…、

風呂に駆け足!

と怒鳴る位には酷いな」


「ふふふ…怒られるのは大変だから御言葉に甘えさせてもらうとする」


−10分後路地裏


「以上が今の所の状況です…」


「わかった…お前はこのまま探れ。

襲撃時は直前に離脱しろ」


「御意」


「行け…」



路地の奥の暗闇に消える男…、

彼は俺がこの世界にやってきてから構築した情報網の構成員の1人だ、

彼等はこういった争い事のある所に積極的に関与して俺に情報を送るのが仕事、

今回も初期の頃に残党共に合流したのだが報告する隙が無かったらしい。


「しかし報告したらしたでキツい内容だ事…、

禍福はあざなえる縄の如しとは良く言ったもんだ…」


愚痴りながら秋蘭達の待つ警備隊詰め所に向かって歩き出す、

この情報をどう伝えるべきかを考えながら…。


−警備隊詰め所


「みんな待たせて悪い…」


詰め所の中には主要な人物が全員集まっていて俺が最後に席につく。


「それでは皆既に知っていると思うが援軍が来た!

かの夏侯淵将軍だ!」


士気を高める為だろうこの街の刺史が大声で秋蘭を紹介する。


「州牧曹孟徳揮下夏侯淵、

宜しく頼む」


秋蘭が手短に自己紹介をすれば、


「おぉ…夏侯淵さまだ!」


「助かるぞ俺達!」


「黄巾賊等何程の事もない!」


集まった者達の士気は否が応に盛り上がる、

俺はそれを見て決心を固めた。


「では警備隊及び義勇兵の配置…」


「待ってくれ!」


進行しようとした刺史の言葉を遮り俺が発言する。


「皆には早めに伝えなければいけない事がある…、

先程賊に潜入させた我が部下から報告があった、

賊共は街に官軍が到着した事に危機感を募らせ一斉に襲いかかって来る計画を立てているらしい…」


俺の不意の報告に皆の顔がポカーンと緩む。


「一斉攻撃?」


「嘘だろ?」


「嘘では無いんだ…悲しい事だがな。

あちらの指揮系統はお粗末だが…いやだからこそ危機感を募らせているんだろう。

恐らく先程の戦闘で正規軍の数が多くない事に気付いたんだろう、

これ以上増えない内にと明日にも攻めて来るようだ」


わかりやすく説明したつもりだから皆理解は出来ているだろう、

しかし大半の者は信じたくないのか半笑いで首を振っている。


「悪いんだがそういう事だから指揮系統をこちらに渡して貰うよ?

今回襲いかかってくる奴等は物資目的ではなくこの街そのものが目的だろうから…」


「ど、どういう事ですか?」


気丈に刺史殿が質問してくる。


「それはね…相手だって何も考えて無い訳じゃないから、

援軍が俺達で終わりとは考えていないだろう。

ならば有利に迎え討つのに拠点が必要だ、

そして目の前には物資も城壁もある街がある…、

これで襲わないのは逆におかしいと言える」


「ですが皆様が到着したのですから奴等だって逃げる可能性も!」


「俺もそれを期待はしていたんだが…。

今日の襲撃の時に感じたんだがあんまりにも相手の統制がとれてなさ過ぎる。

恐らく全体の潜在的考えは逃げたいんだろうが、

各人が相互に見張りあって言い出せないんだろう…」


「ならば今街の外にいるのはただの意地の張り合いだと!」


「俺はそう見てる…」


最後はもう叫んでる風だった刺史はそこで膝をつく。


「そんな…そんな事の為に私の街が…」


顔を覆い崩れ落ちる。


(そりゃショックだろうな…、

命懸けで守り通そうとしている街を襲ったのがこんな集団じゃ)


そのままうずくまってしまうと思った俺だが、

そこはバイタリティーの違うこの世界の人だ、


「奴等許さ〜ん!」


「…え…?」


突如立ち上がると絶叫をあげる、

俺は点目だ。


「我が街を襲ったのだけでも許せんのに、

今居座るのは何の大義も展望も無くただ意地の為だと〜!」


「いやそれは俺の予想だし…」


「ならば神北将軍はその説に自信が無いと!」


「いや十中八九間違いないとは思うが」


「ならばやはり許さ〜ん!」


両手を振り上げ力の限り叫ぶ。


「皆の衆も悔しくないのか!

我々の仲間が傷付きながらも守ったこの街を!

言うに事欠いて体面の為だけに襲い続けようとしているのだぞ!」


「……俺も許せん!」


「…俺だって!」


「俺達もだ!」


次々と同調し始める人々。


「神北将軍!」


「へい!」


勢いに押されて間抜けな返事をしてしまう。


「あなた達に任せれば…あいつらをブチ倒してくれますか?」


「それは任せてくれて良い。

我等が主、曹操さまは獣に容赦する方では無い」


「私からも保証しよう」


激昂を我慢している刺史に2人で太鼓判を押す。


「ならば皆の衆!

我等の力は微々たる物だが!

我等をなめてるとしか思えない奴等に思い知らせてやろうぞ!」


「「「おぉ〜」」」


報告した時にはどうやって士気をあげようか考えていたのに、

思いがけず士気が鰻登りだ。


「なんだな秋蘭?」


「そうだな隼人?」


「奴等も随分…」


「割に合わない街を襲ったものだ…」


しみじみ頷きあう。


「我等の街は我等が守るんだ〜!」


「「「おぉ〜!」」」


そんな会議が終わり指揮系統を分配、

襲ってくるのが恐らくとはいえ明日とわかっているので大半を今夜は休ませる。


−深夜


(あんなに纏まってくれるとは思わなかった…。

最悪騎馬1,000のみで防衛しなければとも考えていたが…、

何とかなりそうだな!)


華琳達の本隊が着くのは早くても明後日以降だろう、

それまで1,000では心許ないと正直思っていた。


(どんなに騎馬隊が精鋭集団とはいえ、

数の暴力には適わないからな…)


郊外の賊は小規模な脱走はあるが、

それにも増して何処から来たのかわからない奴等が加入して総体的には数を増している。


これに拠点があるとはいえ1,000で対抗しようとすれば、

局地的勝利は何件かあげられるだろうが戦略的には負けるだろう。


「神北将軍…」


「ん?」


不意に声をかけられた。


「あの…こんばんわ…」


「こんばんわ楽進殿」


そこに居たのは昼間西門で絶妙な号令を出してくれた楽進だった。


「お〜そう言えばまだ礼を言ってなかった。

あの時号令を出してくれたからあいつらの混乱を助長できたし、

俺も助かった。

ありがとう」


「いえ私など…」


「謙遜する必要は無いだろう。

あの時の号令、

及びその後の白兵と素晴らしい働きだった」


「いえ!そんな…神北将軍こそ…」


「隼人でいい。

それだけの働きをしてくれた」


「は、はい!

では、隼人殿こそあの人数差の中多数を討ち取り、

しかも首領格の首まであげるとは感服の極みです」


あら何か誉められちった。


「しかも既に奴等の中に間者まで放つなど…恐れ入ります」


うむ、持ち上げ過ぎだ、

調子に乗っちゃうぞ。


「わっはっは!

そうだろうそうだろう!

しかし楽進殿もかなりの腕を持っているだろう?」


「…本当にそう思われますか?」


「あの白兵を見ればわからいでか!

気を扱うのが上手いと聞いていたがあれ程とは…」


「それを言えば隼人殿こそ…、

見る者が見ればわかります、

一撃一撃にあれ程の気を込められればたまったものではありません」


(気付かれていたか…)


表面上は馬鹿笑いしながら心の中では舌を巻く。


俺は師の晴明からの教えでかなり気を扱うのが得意だ、

だからこの世界に来て驚いたのは春蘭や秋蘭が意図せず気を自在に操る事だ。


春蘭辺りは勘や経験で操ってあれなのだから自在に操れるようになればどうなる事か−まあ春蘭は愛すべき馬鹿だから無理だろうが−、

また秋蘭辺りは完全にでは無いがかなり意図的に気を扱っているように見える、

この世界の女性が強いのはここら辺りに秘密があるのだろう。


「いやいや俺はそんな…」


「誤魔化さないでいただきたい!」


お茶を濁そうとする俺を楽進殿が止める。


「あ!いえ、その…怒鳴るつまりは…。

私はただ隼人殿の腕に感服して…一手なりともご教授いただければと…」


「あ〜…」


「当然不躾なお願いであり現状を考えれば非常識とはわかっているのですが…」


俺の言葉を遮り手をパタパタ振りながら目線をそらす楽進殿、


「ただ…私の中の武人の魂が叫ぶのです!

貴殿と私でどれ程の力の開きがあるのかと!」


俯かせた顔を振り上げて楽進は訴えてくる。


「ん〜?」


「だ、駄目でしょうか?」


訴えてきた勢いから一転心細そうに俺を伺う楽進。


「いや…良いだろう」


「では!」


「うんやろうか?

まあやるからには本気でね」


「はい!」


それから2人で広場まで移動し対峙する。


「夜だからね、

うるさくないように飛び道具は無し、

かけ声は極力抑えて…」


「はい!」


「だから〜」


広場は元々対策本部になっているので寝ている人は居ないが、

あんまりうるさくすると近くの家の人が起きてしまうかもしれない。


「す、すいません…」


慌てる楽進はかなり可愛い。


そこに、


「どうしたのだ隼人?」


「凪もどないしたん?」


「凪ちゃんなのぉ〜さっき用事があるって言ってたのにどうしたのぉ?」


何故か武力的なトップがほぼ集まってしまった。


「おいおい秋蘭、

今は休憩時間だろう?

ゆっくり寝てろよ」


「既に休ませて貰ったさ。

私の部隊の人間は心配性らしくてな、

すぐに寝る準備が整ってしまったから十分休んだ、

心配するな」


「んなら良いけど」


「凪はどないしたん?

神北将軍と一緒に帰ってきてからに…、

はは〜ん?

もしや将軍を誘惑…」


「そんな訳ないだろう!」


「そうなんですか〜?」


干禁が俺に話を振れば期待に応えない訳にはいかない。


「そうなんだよ…楽進殿が暗い中俺の部屋に…」


「隼人殿!」


「「隼人殿〜(なのぉ)?」」


ハモりやがったよこの2人。


「いや!これは!」


「隼人殿か〜」


「奥手の凪がまさかなのぉ〜」


にやにやと笑いながら楽進の周りを2人が回る。


「隅に置けんな〜?」


「玉の輿狙いなのぉ」


「相手は将軍やさかいな!」


「なのぉ〜!」


好き勝手に言われている楽進がぷるぷる震えたかと思うと、


「2人共…いい加減にしろ〜!」


ゴチーン×2


鉄拳制裁!


「何するんや凪〜」


「痛いのぉ〜」


「何をするではない!

私はただ隼人殿に手合わせしていただくだけだ!

それに私のような傷だらけの女なぞ…」


気にしてるのか自らの腕の傷を撫でる。


「俺は気にならないぞ?

楽進殿さえ良ければ手合わせだけじゃなく体も…」


「隼人、下世話過ぎるぞ」


「…そう言われればそうだな。

しかし何が言いたいかと言うとだな…」


楽進に近寄って、


「傷なんて気にならない位、

いやそれも魅力になる位楽進殿は可愛いんだから自分を卑下したりしないで。

と言いたかったんだよ」


そう頭を撫でながら諭す−楽進の髪は硬いかと思ったら艶やかで触り心地が良かった事を追記しておく−。


「…え?あ、その…ありがとうございます…」


おお顔を真っ赤にしちゃって可愛いな。


「そんじゃま〜時間も限られている事だし始めましょか?」


頭から手を離し5メートル程間隔をとる。


「…はい!お願いします!」


「丁度良いや、

秋蘭審判やってくれるか?」


「いいだろう」


「ならまずは範囲はこの広場で良いとして、

飛び道具禁止、刃物を使うの禁止、金的目潰し禁止。

こんな所かな?」


「私に異存はありません」


「ならば始めよう。

決着は相手が気絶するか参ったと言えば終了。

いいな?」


秋蘭が最終確認をすれば俺達は、


コク×2


頷きだけ返して黙って気を練る。


「ならば…始め!」


まず突っかかるのは俺、


「し!し!破!」


突進の勢いのままジャブジャブストレート、

楽進はジャブを腕でブロックしてストレートは後ろに跳んで避ける。


「りゃ〜!」


追撃しようとする俺に逆に突進してきてパンチ…と思いきやローキック、


「ぐ!」


気を体に張り巡らせていなければ一発で膝を折るクラスのローキックだ!


「貰った!」


体勢の崩れた俺に気が集まり過ぎて発火したハイキックが襲い掛かる!


「ぐ…うぉ〜!」


危機一髪籠手をキックとの間に滑り込ませ直撃を免れる、

が威力があり過ぎてガードしたまま吹っ飛ばされる。


(強い!)


吹っ飛ばされながらも冷静に分析し楽進の腕を再評価する、

そして着地と同時に追撃に迫ってきた楽進へ牽制の足払い!


「ふ!」


それを読んでいた楽進はジャンプで避けながら勢いを利用したカカト落とし!


「ふ!…せい!」


だが今度は俺が先読みしてクロスガード!


「く!……!」


飛び退こうとした楽進の足首を掴み…、


「うぉ〜りゃ〜!」


背負い投げ気味に投げ、


「破!」


掴んだ足と反対の足で肩口を蹴られすっぽ抜ける。


「クックックッ良いね良いね〜!

かなりの腕とは思っていたがこれ程とは!」


「ふ!」


悠長に喋る俺に肉薄する楽進!


「破!や!」


ミドルキックの牽制からの身を沈めた片足での足払い!


「甘い!」


牽制のミドルを籠手で受け本命の足払いは避けずに足を踏みしめ耐える。


「!…せい!」


楽進は俺の足に当てた所を支点に体をひねり腹への二段目の蹴り!


「甘いと言った!」


追撃を読んだ俺は腹への蹴りを体を接近させる事で威力を削る、

そして蹴りを受けながら楽進の腹へ目掛け必殺の拳を…、


「破!……」


寸止めする。


「………?」


当てられると思ったのだろう、

楽進は目をギュッと瞑り腹へ力を入れていたがいつまでも来ない衝撃に訝しくなり目を開く。


「なんてな…」


目を開いた所で頭をポコンと叩き決着をつける。


「…へ?」


「これは手合わせだ、

本気で当てるかっつーの」


決着はついたとばかりに後ろを向き秋蘭に歩み寄る。


「そうだな…この手合わせ!隼人の勝ちとする!」


「よっしゃ〜!」


わざとらしくガッツポーズをとる俺に李典と干禁が走り寄る。


「凄いな自分!

凪はウチらの中では一番の遣い手や!

それをあんなにあっさりと!」


「そうなのぉ!

最初は押されてると思ったら最後はあんな風に…」


「隼人殿!」


予想外の決着に呆然としていた楽進が干禁の言葉を遮って俺を呼ぶ。


「どうした?

判定に不服でもあるか?」


「いえ…私の完敗です」


「ならなんだい?」


「あなたは最初手加減されていましたか?」


「してたな、

手合わせだから君の実力を見る為にも得意の速さを封印した」


「え〜?」


「ほんまかいな!」


驚きの声をあげる2人だが、

流石に華琳直属の将軍として在野の実力者とはいえ素人に負ける訳にはいかない。


「やはりですか…」


「そこが不服かい?」


「いえ…本気を出させる事が出来なかったのは我が身の不覚…」


「いやかなり危なかったけどな」


「お世辞でも嬉しいです」


「いやいや本当だって!なあ秋蘭?」


「そうだな何回か見ていてヒヤッとしたからな」


「だろ〜?

俺から見て力の階級は、

曹操殿の親衛隊隊長、許緒に迫る力とみたからな!

流石に夏侯惇や秋蘭には及ばないが…」


おいらの冷静な判断力!誉めて誉めて。


「過分なお言葉ありがとう御座います」


そう言って此方に近づいて来る。


「まあ楽進殿がそれで良いなら受け止め方は人それぞれだ」


「しかし、こんな手合わせを見ていたら…私も少し体を動かしたくなったな」


俺をチラリと見てから意味ありげに見学者2人を見る。


「そうか…なら楽進殿だけでなく干禁殿か李典殿にも相手してもらうか?」


「そうだな」


ニヤリと笑い目を向ける。


「「…え?」」


「優しく相手をしよう。

どちらが来てくれるのかな?」


いきなりの事に鳩が豆鉄砲をくらったような顔をする2人に時間を与えず、

既に手合わせする事は決定事項と言うように広場の中央に歩いていく。


「どないする?」


「どうしよ〜なのぉ〜」


「諦めな…秋蘭は冷静で常識人だけど、

あの夏侯惇の妹だ。

一度こうと決めたら曹操殿が言うでもなければ前言撤回はしないだろう」


俺の言葉に目を見合わせて焦る2人。


「なら相手は沙和で決まりや!」


「なんで〜実力的には真桜ちゃんの方が上なのぉ〜!」


「なら沙和はウチが螺旋で戦えっちゅーんか?」


「それは〜…」


こそこそと2人が言い合っているのを聞いた俺は疑問を楽進にぶつける。


「螺旋て何だ?」


「ああそれは真桜の武器で、

槍の先端が絡繰り仕掛けの螺旋状になっていて…言葉で表すのは難しいですね」


「ふ〜ん…で、何で今使えないんだ?」


「それはあの武器の先端が関係するんですが、

攻撃する時に先端を回し気を込めて突撃するんですが、

基本的に目眩ましの為に地面をまず掘り返して爆発させるんです」


「ほ〜後で見せてもらうか」


まあそんなうるさそうな武器じゃ戦えないわな。


「どうした?

どちらでもいいから早く来い」


「ほら夏侯淵将軍もああ言っとる事やし早く用意せい」


「え〜本当にやるのぉ〜?」


「ウチに言いたかてしかたないやろ、

なら沙和から夏侯淵将軍に断りなや」


チラッと見ればやる気満々の秋蘭。


「真桜ちゃ〜ん!」


「諦める事や…」


「ふぇ〜ん!」


泣きながらも仕方なく広場の中央に行く干禁。


「李典殿」


俺と凪は李典に近付き共に観戦する。


「干禁殿はどの位の腕で?」


「沙和は賊の3、4人位なら楽勝で討ちとれます。

ただ正直ウチらの中では一番腕はたちませんのや…」


「沙和は直接の対決ではなく策略を併せて戦うのが得意なんです」


「ほ〜まあ秋蘭も弓は使わないから勝機はちょっぴりだけどあるかな?」


「逆に夏侯淵さまはどんな?」


「秋蘭はな…はっきり言えば強い!

姉の春蘭が剣の名手として有名過ぎて弓が有名だが、

実は剣も春蘭に匹敵する腕なんだよな」


「そうなん?」


「ああ…春蘭には勝てないかもしれないが、

10本手合わせすれば3本か4本は取れると見てるな」


実際忙しい時間を縫って春蘭達が手合わせするが、

勝負は時の運と言った感じの勝率だ。


「それは…」


「沙和には荷が重いわな〜」


こちらでこんな話をされてるとは思わない秋蘭と干禁はルールを決めている。


「ならばやはり飛び道具は無しの方向で…」


「うんうん!」


「そちらの得物は双剣か?」


「ニ天ちゃんなのぉ〜」


「ならば相手の得物を手放させるか参ったと言うまでで良いかな?」


「わかったのぉ〜」


「ふむ…聞こえていたな隼人!」


「お〜♪」


「審判を頼む」


「任された〜♪」


てくてく歩いて対峙する2人の間に、


「それでは双方とも構え…」


「ふ〜…」


秋蘭は片手で剣を構えリラックスして気を整える。


「やるからには全力なの!」


干禁は少し入れ込み過ぎか?


「始め!」


まずは双方様子見、

秋蘭は静かに佇み干禁は秋蘭の周りを回り始める。


(やはり秋蘭の方が格上だからな…)


格下が格上の周りを回るのは古今の通例だろう。


「や〜!」


周囲を回っていた干禁だが隙が見つからなかったのだろう、

ほぼバンザイアタック状態で突っかかる。


「や〜!や〜!や〜!」


「ふ!ふ!ふ!」


干禁は双剣を巧みに使い攻め込むが、

秋蘭はそれ以上に剣を巧みに使い必ず双剣の片方が死ぬように防御する。


そして何合か打ち合った後秋蘭が反撃を始める、


「ふ!…それ!」


まずその前と同じように双剣の片方をいなしてから隙間を縫うように剣先を突き出す。


「え!や〜なのぉ〜!」


素晴らしい反応でこの一撃を止めた干禁だが当然それで攻撃が終わる訳がない。


「ふ!は!は!」


かなり手加減はしていても鋭い剣閃が連続して襲う。


「くぅ〜!う!まだなのぉ〜!」


なんとか紙一重で防ぐ干禁−秋蘭が防げるギリギリで打ち込んでるんだけど−。


「ふ!…破!」


秋蘭がラストスパートに入った、

一撃一撃の重みと鋭さが増し最後は武器を飛ばす為だろう、

一歩踏み込んで双剣の片方を狙って今日一番の鋭さの一撃を放つ。


「!それなの!」


干禁はこれを待っていたのだろう、

最後の足掻きに秋蘭の一撃に双剣の両方でカウンターを当てようとする!


「!…軽い!」


秋蘭が吠えた!


「う!…きゃ〜…」



狙いは良かったが秋蘭の膂力に抗せるだけの力は無かったようだ。


「う〜痛いのぉ〜!」


吹き飛ばされた干禁がブーたれた所で、


「干禁殿の武器が手を離れた!

よってこの勝負秋蘭の勝ちとする!」


俺が判定を下す。


「ふ〜…良い手合わせだった…」


秋蘭が満足のため息をつく。


「だな〜城で他の将軍と手合わせしていたのより楽しそうだった」


「それは隼人もだろう?」


「然り。

やはり腕のある者との手合わせは楽しいからな」


「そうだな…しかし干禁殿」


そこで観戦していた2人に助け起こされた干禁に声をかける。


「は、はい!」


「良ければこの戦いが終わったら我等が陣営に来ないか?」


「……え!」


「おおそれは俺も言おうと思っていたんだ!

楽進殿と李典殿も良ければ我等が陣営に来ないか?

君達に意思があれば推薦させてもらうんだが…」


「「ええ!」」


「何を驚くんだ?

俺や秋蘭相手にここまで戦えるんだ、

部隊長…いや将軍として召し抱えられてもおかしくは無いと思うぞ?」


正直華琳の所の将軍の中でも3人に匹敵する腕の者は数える位だろう。


「そうだな…私も同意しよう」


「な〜?

秋蘭の太鼓判なら華琳も納得するだろう、

どうかな?」


俺達の提案に驚き固まってしまう3人。


「ありがたい御提案なんですが…」


「ウチらが将軍?」


「信じられないのぉ〜」


「まあ何を言ってもまずはこの戦いを生き抜いてからだけどな!

その後にもう一度意志を聞かせてもらうよ」


「そうだなまずはこの戦いだな」


迷っている3人に猶予を与えて考えてもらいたい、

だが明日の戦いに支障をきたしたら元も子もない−手遅れの気もあるが−からこの話はこれで終わらせ、

各自明日に備え解散する。


−翌朝


昨夜の手合わせの間もその後も襲撃は無かった、

この事からも今日の一斉攻撃の情報の信頼性は各段に上がり、

昨日大半を休ませたこちらの作戦はドンピシャだった事が知られる。


(俺の株もかなり上がったな…後はそれがどれだけ士気に関わるか…)


まだ俺の所には賊が動いた等の報告は無い、

しかし自警団にしろ秋蘭が率いてきた正規軍にしろ空気がピリピリと帯電しているようだ。


「御報告申し上げます!」


その中1人の兵が俺の元に駆けつける。


「南門に神北将軍の名を出し敵の総攻撃を示唆する者が現れました!」


「「「!」」」


「予定通りだな…皆の衆!

来るべき時が来た!

我等はこの西門を死守する!

恐らく南門が主戦場となるがこの西門にも敵はやって来よう!

我等は何としてもこの少数でこの西門を死守しなければいけない!

攻める必要は無い!

我等は本隊が来るまで耐えれば勝ちなのだ!」


「「「お〜!」」」


正規軍1,000、

及び街の警備隊の大半は主戦場となる南門に配置されている、

そして昨日破られた西門に自警団の半分と俺、

東門に昨日手合わせした3人組と自警団の残りが、

北門には賭けになるが兵は置かず自警団ではないが志願者を募り守りとした、

資材は北門に一番回し人材の不足はこれで補おうとする。


(華琳…急いでくれ)


何とかなるとは思っているが相手の数が数だ、

早ければ早い程こちらの被害も少なくなる。


−30分後


既に南門では戦闘が始まっているとの報告が来ている、

かなり優勢に事は運んでいるとの事だ。


そして賊は街を囲む城壁を伝い西門に、


「神北将軍!」


「わかってる!

功を焦るな命を惜しめ!」


総数1,000程の賊が現れる、

こちらは200の自警団と俺…思っていたより数が来たな。


「ぶっ殺せ〜!」


「奪え〜!」


賊の先頭は口々に聞くにたえない罵詈雑言を叫びながら突撃してくるが、


「ふざけんな〜!」


「テメエ等許さね〜からな〜!」


こちらも負けてはいない、

昨夜の事があるから自警団の連中は賊共に言い返す。


「それ!それ!それ!」


俺は門から突撃してくる賊に竹槍を次々と投げつける!


「ぐぇ!」


「痛ぇ〜!」


「ぐふ!」


この竹は各家庭から供出してもらった物、

家の部材だったり麺棒替わりだったりを斜めに切っただけだ。


相手は数を頼みに突撃してくるだけだから狙う必要はなく、

ただ力いっぱい投げれば2、3人纏めて串刺しに出来る。


「帰れ〜!」


「食らえ〜!」


他の連中も手に手に石を持ち投擲する。


西門は昨日の襲撃で門扉の蝶番が壊れてしまったので、

仕方なくそこから繋がるメインの大通り以外をバリケードで塞ぎ、

大通りにも入って50メートル位にバリケードを作る、

そうして敵の進行を一本化している。


「ぐぁ!痛ぇ!」


「何してやがる!速く突っ込まね〜か!」


こちらは相手が接近するまでは一方的に攻撃出来る、

しかも数が多いもんだからどこに投げても命中するときたもんだ。


串刺しになる仲間を見て先頭は止まろうとするが後ろの人間が押すため止まれない、

しかも串刺しになった人間を盾にして集団は津波のように押し寄せる。


「来るぞ!

作戦通り壁から出るな!

乗り越えようとする奴だけ相手にすればいい!」


そこからの戦闘は凄惨を極めた、

賊共はバリケードを越えようと取り付き我等はさせじと手を頭を槍や棍棒で突く叩く、

俺は突破されそうな場所に駆けつけては切り殺して回る。


「諦めるな〜!

相手も怯んでるぞ!

1人たりとも中に入れるな〜!」


激を飛ばし味方を鼓舞すれば、


「お〜!

テメエ等が意地で来るなら俺らも意地だ!

1人たりとも通さねーぞ!」


「俺の嫁に!」


「俺の彼女に!」


「「指一本触らせるか!」」


全員の気合いが爆発する。


−1時間後


「怪我人がまだ居るぞ〜!」


「包帯はまだか〜!」


賊の第一波は何とか撃退出来た、

こちらの被害は死者5名重傷者3名軽傷者沢山、

賊の損害は20倍以上だから傍目には勝ちだろう。


「動けない者は荷車に乗せて北門へ!

手があいてる者は壁の修復、補強を頼む!」


「「「お〜!」」」


士気は高く被害は予想より少ない、

だが奴等は今日中にもう一度襲って来るだろう何か策が必要だ。


(奇策はこちらの練度がないから無理、

しかし真正面からでは被害が…)


「神北将軍!

俺達なら大丈夫です!」


「…え?」


話し掛けて来たのは此処の自警団の半分を率いている責任者。


「今なんとか被害が少なくなるようにと無茶な作戦を考えていたでしょ?」


「まあ俺の少し位の負担で楽になるなら…」


「駄目ですよ。

我等の事ならこんな時代に戦いに参加しているんです、

死ぬ覚悟位出来てます。

だから神北将軍が危険をおかす必要はありません」


「そうかもしれんが…」


「我等は正直驚いていたのです。

州牧が変わったと聞いても、

それが良い評判のあった曹操さまだったとしても、

結局は何も変わらない自らの街は自分で守らねばと考えていました」


「う〜ん以前の州牧はそれ程酷かったんだね」


「はい!かなり!

ですが曹操さまに変わってからは警備隊の増強等以前では考えられない政策が実施され、

今回のような大規模な賊の襲撃への迅速な対応を考えれば、

曹操さまがどれだけ有能で私達を大切に思っていただけているか疑いようもありません。

ならば我等が命をかけるのに何の迷いがありましょーか?」


バリケードの補強や手当てをしている、されている者達が目で同意見だと伝えてくる。


「おまえ達…」


「そして神北将軍は曹操さまの片腕、

こんな所で死んではいけないお方だ」


「そいつは少し言い過ぎだが、

ありがとう。

そこまで評価してくれたのは単純に嬉しい」


正直な感謝の気持ちを伝え、


「ならば特に作戦の変更は無い!

今日の襲撃は後一度が限度だろう!

皆の一層の奮起に期待する!」


「「「お〜!」」」


その後は投擲した竹槍や石を回収して来て、

ついでに死体を通りの真ん中にうず高く積み上げ進行の邪魔をするようにした。


「御報告申し上げます!

夏侯淵将軍からの伝令で、

南門は問題無し、人員が必要なら連絡されたし、

との事です」


「あいよ了解、

なら夏侯淵将軍に返答だ。

西門も問題無し、そこが一番の激戦地なんだから気にすんな、

頼んだ」


「は!確かに承りました!」


他の場所も気になるがそれは総大将たる秋蘭に任せるのが筋だろう。


(あちらだって余裕がある筈無いのに、

秋蘭は優しいからな…)


南門には最低8,000の賊、

迎え撃つのは秋蘭以下2,000だからこちらと規模が違い迎撃の指揮をするのもかなり難しいだろう。


「神北将軍!

こちらはどうします〜?」


「お?お〜今行く!」


感慨に浸っても仕方ないので、

現実的な脅威を回避する為に指揮を取りに行く。


−2時間後


全員に交代で休憩を取らせられた所で再度の襲撃がある。


「来たぞ!迎え撃て!」


「帰れ〜!」


「こっちくんじゃね〜!」


前回同様次々と石を投げつける、

だが今回は相手も粗末な板を盾に突撃してくる。


「みんな気にすんなどんどん投げろ!」


まあそんな事は予想できていたんだがね。


「投げれば投げる程奴等の進行速度は遅くなる!

そうなれば!」


言いながらバリケード上で、

家々から取り外した板戸をフリスビーのように構える。


「どっせい!」


家の板戸だ2メートル強ある、

それが俺の膂力で回転しながら飛んでいけば、


「うが!」


「ぐぇ!」


粗末な板如き粉砕して敵をなぎ倒せる、

そして前回の襲撃で感じたのだが相手は死んだ仲間には見向きもしないが、

怪我だけなら何とか回収しようとする、

しかも仲間内でも派閥があるのか回収に手間取るのだ。


「どんどん渡してくれ!」


俺の裏には2人付き俺へ板戸を次々と渡してくる。


「ほい!…ぜりゃ!

ほい!…おりゃ!

ほい!…食らえ!」


そして俺が先頭の板を壊せば、


「痛い!」


「目が!」


「くそ!テメエ等!」


石が相手に当たるようになる、

そうして相手の足が止まりこちらが優勢に迎撃していたその時、


ビン!ビン!


奴等の中から矢が飛び出した、

しかし狙いは殆どついていないのでバリケードに突き刺さる。


「竹!早く!」


微妙に浮き足立ち始める味方を無視して竹槍を渡すよう急かせる。


「は、はい!」


「よし!…そこだ!」


狙い誤らず弓を構えた奴に竹槍が突き刺さる。


「怯むな!弓は俺に任せろ!」


「「「お、お〜!」」」


(よし!何とか士気は落ちてないな、

しかし弓持ちがこちらに回るとは…秋蘭がんばってんだな)


秋蘭は弓の名手で名高い、

そしてその部下にも良い弓の腕を持った人材が集まっている、

そこに数だけの弓兵をあてた所で勝てる訳がない。


ならばこちらならどうかと回されたのが今の奴等だろう。


「おら!…よし!

次からは板戸くれ!」


数自体は2名と少なかったので俺の槍投げで防げたがこの後はキツい戦いになりそうだ。


−その夜


「秋蘭!」


「隼人、そちらの損害は?」


「戦線が保てない程では無い。

それよりこちらに弓兵が2人来たぞ」


今日の防衛での事を細かく報告する。


「…ならば明日は西門にも20人程回すか?」


「頼む…何とか今の状態で大丈夫と言いたいが、

今日の動揺の仕方を考えると…」


「仕方ない、

訓練した兵でも耳元で矢羽根の音がすれば怯むものだ。

そして隼人の所に居るのは自警団の人間だけだ、

手に剣を持った戦いならまだしも本当の殺し合いとなればな」


「悪い…」


「謝るな」


そんな深刻な話をしていた2人だが、


「お〜い神北将軍〜!」


「夏侯淵将軍も一緒なのぉ〜!」


「止めろ2人共!

御2人は話し中だろう!」


脳天気な声が2つと諫める声が1つ。


「…おう!皆無事だったな」


「当たり前や!

あんな奴らに負けてたまるかい」


「みんな頑張ったのぉ〜♪」


「お話の途中申し訳ありません夏侯淵将軍…」


「気にするな楽進、

話は終わっていた」


何だか常識人と非常識人に分かれたようで嫌なんだが…。


「東門の被害は?」


「その後目立った損害はありません」


「ん?東門では何かあったのか?」


総大将たる秋蘭とは違い俺には東門の情報は入ってきていない。


「そうなんや!聞いて〜な神北将軍。

あいつら数だけはいるさかい肩車で外壁登ろうとしたんや!」


「肩車〜!?」


街の外壁はゆうに7メートルを越えている、

それを肩車で越えようとするなら最低5人の肩車が必要だ、

だが5人の肩車なんかしたら一番下の人にかかる重さは半端じゃない。


「そうなのぉ〜肩車した人がいっぱいで怖かったのぉ〜!」


わざとらしく−恐らく天然だが−震える干禁から冗談では無い事がわかる。


「奇抜な策だが今回に限っては有効だろう。

奴等には資材は無いが人材はある、

こちらは地の利−資材−はあるが人数では圧倒的に負ける。

ならば人を資材として使えば…」


「なる程…」


「そいつらをな!

凪が千切っては投げ千切っては投げ!」


「外壁の上で大活躍だったのぉ〜!」


自分の事のように嬉しげに説明する2人と、


「2人共止めろと言うに!

私はそんな…」


「謙遜する必要は無い、

伝令の兵からも詳しく聞いた」


「お、恐れいります」


楽進は誉められ慣れてないのかな?随分顔が赤いが。


「そんなに照れんでも、

しかしそんな策がな〜…そいえば東門には弓兵は?」


「にはっちゅ〜事は西門にも?」


「2人と人数が少なかったから何とかなったが」


「ウチらの方にも何人か来たけど、

ウチの作った煙幕と凪の遠当てで何とかなったで」


「遠当てでって、

かなり距離もあるだろ?」


「凪ちゃんの遠当ては100メートル位なら届くの♪」


「100メートル!?

そいつはすげーな!」


俺も実は遠当て事態は可能だが、

せいぜい10メートル届けば良い方だ。


「コツでもあるのか?」


「いえ、私は特に何かしている訳では…、

ただ単に私の気が遠当てに適しているだけだと思います」


「そうか〜んなら仕方ないか」


コツがあるなら教えてもらいたかったんだが、


「あの…申し訳ありません」


真面目に謝られたら、


「いやいや別に楽進が悪い訳じゃないんだから」


フォローするしかないじゃん。


「しかしここまでの話を聞くと…東門には少しは余裕があるのかな?」


「余裕と言う程ではなかろう、

まあ門も無事で指揮官が楽進、干禁、李典、王李と4人もいるからな、

優勢に防衛は出来るとは思うが」


「なら秋蘭、

何とか王李を北門に回せないか?」


「…北門には賊が現れたとの報告は無いが?」


「まあ奴等に街を迂回して北門を襲う体力があるかと言うと微妙だが、

資材はある程度まわしたとはいえ一番守りが薄いのは北門だ、

そして破られれば退路を失い挟撃される。

にわか兵では少数の挟撃でも瓦解は必至だ、

保険としても何とかならんかな?」


義勇兵、自警団の人間を信じているが、

出来る事と出来ない事を混同してはいけない。


「不安はわかるが東門に負担をかけるわけにも…」


秋蘭を困らせたい訳ではないが結果的に困らせている。


「王李さんはまとめ役としても実働役としても必要な方です」


「ウチらも頼りにしてるし…」


「みんなの信頼も厚いのぉ〜」


3人からも不安の声があがる。


「なら誰か行けないかな?

今日の感触から明日辺りが山だと思うんだ。

今日以上に明日は激戦になる、

そして北門も明日は戦場になると予想してんだよね」


それでも食い下がる、

何故か予感がするんだ北門をこのままにしていてはいけないと…。


「隼人がそこまで言うか…、

ならば申し訳ないが干禁殿、

何とか行けないだろうか?」


「え〜沙和が行くのぉ〜?」


いきなり水を向けられ吃驚する干禁。


「沙和も中核の1人ですので…」


「でも王李さんとどちらかと言ってまうと…」


「え〜!真桜ちゃん酷いのぉ〜!」


「言うたかて沙和も考えてみーな、

自分と王李さんなら?」


「う〜…沙和なの」


悔しそうに、だが正直に答える。


「んで神北将軍がここまで言わはるんや、

ここは沙和が適任やろ」


「……わかったの」


「わるいな干禁」


俺のわがままで移動してもらうんだ謝罪位はする。


「ううんいいの、

神北将軍の言う事はもっともなの、

沙和も気にはなってたから気にしないでなの」


「な〜?沙和はウチらと離れたないから渋ってただけやもんな〜?」


「あ〜真桜ちゃんバラさないでなのぉ〜!」


顔を真っ赤にして李典を追い回す干禁を見て笑う俺達、

そしてその日の軍議は終了した。


−深夜


「此処がこうで…こっちがこうだから…」


俺はあれから三時間程睡眠を取り、

西門のバリケードのある大通りまで来ていた、

見張りとバリケードを補強している連中に差し入れし、

俺は門から続く大店の店内を順繰り回りある確認を取っている。


「あの店のあそこがこうなるから…」


悪い予感が消えないのである作戦の為に来ていた。


「干禁達にあんなに負担をかけたんだ、

此処は絶対に抜けさせん!

例え街の人達に恨まれたとしても…」


−次の日の昼


「奴等が来ました!」


見張りに出していた奴が門から全速力に帰ってきて報告する。


「弓を持った奴が大勢居ました!」


「そうか…皆報告通りだ!

事前の作戦通りに!」


「「「お〜!」」」


その掛け声と共に自警団の皆は2人1組になり、

1人が板戸を構え1人が石を構える、

これなら弓で倒れる可能性は軽減出来る。


「弓兵は任せたぞ!」


「「「は!」」」


秋蘭から回してもらった20人の弓兵、

相手方がどの位弓を揃えたかわからないがこちらは質より量と考えておく。


「皆昨日のように賊を近付けるな!

数では勝てないのだから我等は何としても近付かせず!

この防壁を守り通すのだ!」


「「「お〜!」」」


そうこうしている内に門の辺りが騒がしくなる。


ドシ〜ン!ドシ〜ン!


(クソ!奴等の中にも少しは頭を使う事を知ってる奴が居たか…)


実の所昨日の2回目の襲撃をほぼ無傷で撃退できたのには訳があり、

当然皆の投石などの攻撃もあったがそれだけではなく、

壊された門が関係している。


門は一昨日の襲撃で壊され閉める事も開ける事も出来なくなっていたが、

その状態でも5割の侵入経路を潰す壁として機能していたのだ、

だから賊は纏めて入る事が出来ずに撃退出来たと言う訳だ。


バギーン!


ズズーン!


その壁が破られた。


「敵侵入!敵弓兵数30!秋蘭の部下ならこの位の数は押し返せ!

その他は投石準備!」


それからの戦闘は正に地獄の釜の蓋が開いたような凄惨なものだ、

初戦は何とか押し返したが2時、3時と波状攻撃を受け遂にバリケードの一部が崩された。


「ぐぉりゃ!皆死力を尽くせ!

まだ負けていない!

まだ負けた訳じゃないんだ!」


この戦闘で併せて50人の死者が出た。


−3時半


「これ以上戦線を維持するのは無理だ…」


正に死力を尽くし、

いや尽くして尽くして尽くし果てた皆に無情な言葉を告げる。


「…何を言ってるんですか?」


自警団のまとめ役が呆然と聞き返す。


「この人数この状況では戦線を維持するのは無理だと言ったんだ」


皆が気付きながらも目を背けていた事実を指摘する。


「あなた…あなたがそんな事を言ったら!」


「だから皆は中央広場まで退いてくれ」


「どうなると!…と?」


「中央広場まで退けばまだ何とかなると思う」


勘違いするような言い方をして煙に巻く、

これこそおちょくりの奥義なり。


「後30分位したら奴等がまた来るはずだ、

それまでに他の門への伝令と迎撃準備を済ませてくれ、

責任者は君だ」


「…は?」


「は?じゃなくて指揮は君がとってくれ、

俺は奴等の進行を遅らせるためにここに残る」


呆然とするまとめ役に指揮を押し付けようとするが、


「残るって!何を言ってるんですか!」


他の人達から突っ込みが飛ぶ。


「だって此処をすんなり通すのはシャクじゃん?」


「「は〜?」」


いやみんな揃って呆れなくても。


「いや別に死ぬ為に残るんじゃないぞ?

しっかり作戦と言うか仕込みはあるんだ」


「「聞きましょう」」


「言うの〜?」


「「聞きましょう!」」


「わかったよ!みんな揃って怒るな!

…まったく何でここの住人はこんなに息ピッタリなんだよ」


「「早く説明して下さい!」」


ここまでくると少し怖いです。


「わかった話すよ、

今日の明け方までかかったが実は大通りの両脇の店に仕掛けを施した」


「どんな?」


よかった今度は代表者が聞いてくれた。


「悪いとは思ったが何本か柱を斬って耐久力を弱体化させた、

後は奴等が来たら要となる柱を破壊すれば連鎖的に倒壊する」


「それじゃあ何人か手伝いに…」


「駄目だ!残れば生きて帰れない。

俺だけなら何とかするが正直足手まといだ」


「しかし…」


「俺の事は気にすんな、

あれだけの人数に正面から当たれば死ぬだけだが、

今回は仕掛けを作動させるだけだ」


本当はそんなに簡単ではないがおくびにも出さない。


「それよりそちらも重要だぞ、

中央広場まで下がったら後はない。

抜けたら他の門の裏を突かれてしかも挟撃になる、

責任重大なんだからな?」


「は、はい!」


「俺もなるだけ早く戻るようにするが、

奴等を出来るだけ巻き込みたいから先頭が通り過ぎてから仕掛ける、

だからもしかすると100人位はそちらまで行くかもしれない、

用心してくれよ」


皆の顔が引き締まった所で作戦開始。


−1時間後


「しかし命までかける気は無かったんだがな…」


要の柱の傍で独り言。


「この街の人間があまりにもイイ性格だったから…」


良い性格×

イイ性格○


「俺も命を賭す気になるんだよな」


走馬灯のようにここ数日の事が思い出される。


「生きて帰れるかね?」


相手は諸々の戦闘等で数を減らしても1,500弱、

一度に相手にしないにせよ絶望的な数、

腕にも足にも自信はあるが囲まれれば最終的には殺されるだろう。


「来たか…」


気配を察知して本格的に隠れる。


(ウダウダ考えてもな!

なんとかなる…いやする!)


奴等の気配の動きが鈍い、

いっちょまえに敵が待ち受けてない事に何かを感じたのだろう。


(戸惑ってる戸惑ってる、

足が鈍るだけでも時間が稼げる)


俺達は敵を倒すのが目的では無い、

援軍が来るまで耐えるのが目的だ、

だから今の状態は大歓迎。


(今日中に華琳達が到着すると考えると、

後2時間耐えれば良い)


そんな事を考えている内に賊共の気配が動く、

数が多すぎて細かくはわからないが進軍速度は遅め、

と思ったら、


「あいつら逃げやがったんだ!

者共進め〜!」


馬鹿が1人。


そして流石は統制の取れてない集団、

1人が走り出せばもう1人が、

それを見た周りも走り出す。


「待て!罠の可能性が高い!

ここは慎重に!」


足を止めようとする声も聞こえるがまあ無理ですよね。


(大体先頭はバリケードのあたりかな?

もう少しもう少し…)


逸る気持ちを落ち着かせながら気配を消し続ける。


(……!今だ!)


隠れていた物陰から飛び出し要の柱に、


「は〜…チェスト!」


走りながら気を整えての正拳突き!


バガ!


元々他の幾つかの柱を間引いた事で、

無理な過重が掛かっていた柱は木を破壊した音とは思えない音と共に粉砕された。


ミシミシ!


「倒れるぞ〜!」


もう一本対面の店の要の柱を倒すための混乱を誘発するために、

親切にも警告を発してから倒壊しようとする店から飛び出だす。


ビキビキ!


「なに!あ、テメエ!…う、うわ〜!」


俺の警告に振り返り、

バリケードで陣頭指揮をとっていたので顔を知っていたのだろう、

何人か足を止めてこちらを睨んだが、

その視界の中で店が自分に倒れて来たら逃げるでしょ。


(あ〜こりゃ死ぬかな〜?)


逃げているとはいえ視界には何百人という敵の姿、


(しかも警告が聞こえたら走り抜ける隙間が無くなる…失敗したな)


反省はするがどうしようもないので覚悟を決める。


「参る!」


倒れる家屋に先んじて俺もダッシュ!


「くそ!食らえ!」


混乱し過ぎたのか逃げずに剣を突き出してくる奴は、


「…疾!」


走る片手間に斬り倒し、


「破!」


押し競饅頭状態の奴らの頭上へ飛び上がり、

密集しているのを利用して人波の上を走る。


「どりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ〜!」


足場が悪くしかも敵の上なのでどこから剣が飛び出すかわからないが、

運と気合いで走り抜け対面の店に到着した。


「くそ!」


が、店内までぎっしり人が居て降りる場所がない、

仕方なしに賊の頭を踏み切り板替わりにして二階へと飛び込む。


ガラガラガラガッシャーン!


地震と間違える程の揺れと共にこのタイミングでやっと店が連鎖的に倒壊した、

ある程度は賊を巻き込めたが予想より幾分か少ない。


「やはりこちらも倒さんと…」


気分も新たに階段に向かうと、


「二階まで行ったほうが…」


「早く上がれよ」


汚い顔が何人か上がってこようと、


「……(ニヤリ)」


先頭の奴に不意打ちの跳び蹴り!


「ふ…破!」


後は階段ですから後続は連鎖的に落ちていく。


「うわ!」


「何だ!」


「ぐぇ!」


3人程片付けて俺も急いで一階に飛び降りる。


「…げ!」


店内にはぎっしりと敵が、


「いた!」


「殺せ!」


向かってくる。


「ぜ!」


何本もの剣が一斉に突き出される。


「ふい!…だりゃ!」


その内の俺に当たりそうな物だけを防ぎ、

次の瞬間吹き飛ばす。


そして柱に向かって走ろうとするがワラワラ敵がまとわり付いてなかなか進めない、


「邪魔だテメエ等!」


破山剣を振り回しながら何とか突破しようとするがあまりにも数が多すぎる、

スピードに任せて間をすり抜けたいが隙間が少な過ぎてキツい、

そんな泥沼な戦いをしていたら背後にも賊が回り込み四方を囲まれる。


「まず!」


後ろから切りかかってきた奴をカウンターの蹴りで吹き飛ばし、

その隙に切りかかってきた右の奴の剣を籠手で止め、

前と左が同時に切りかかってきたので右の奴の腕を取り払い腰で盾にする。


だがそんなギリギリの攻防をしていれば体に細かい切り傷が増え、

徐々に追い詰められていく。


(こんな場合一番やっちゃいけない足を止めるをやっちった!)


頭数が少ない場合は数で押されないよう動き回る、

戦術の基本で躓いた俺は柱に近付くどころか身を守るのが精一杯。


「破!ふ!危!…」


今は何とか均衡を保てているが、


「囲め囲め!」


「やっちまえ!」


賊の志気は高く現状打開の隙が現れない。


(このままじゃ…)


今動きに支障をきたす傷を受けたら確実に死ぬ、

ならばまだ回り込まれたとはいえ手薄な二階への退却を考えた瞬間、


「死ね!」


「が〜!」


「ふ!」


三方から同時に切りかかられる。


「ふ!ぐ!ぐぅ!?」


正面、右からの2撃までは剣と籠手で止めたが、

最後の背後からの1撃は左の肩口に突き刺さる。


「やった…」


「疾!」


歓声をあげかけた賊を振り向きざまに切り捨てて退却の考えを固めた。


切り捨てた死体が倒れない内に階段に向かって蹴り飛ばし隙を作ったその時、


ミシ…ミシ…


店内に家鳴りが響く、

多人数で暴れたのと最初に耐久力を弱体化した事で柱に限界が来たのだろう、

僥倖に感謝しながら囲みを突破し二階に駆け上がる。


無理な突破をしたのでさらに一撃左腕に食らったが損害は軽微、

二階に上がった勢いのまま裏通りに飛び降り前回り受け身した時に、


ガラガラ…ズズーン!


抜き身の破山剣を右手に垂らす俺の目の前で家々が倒壊した。


「これで足止めは成功しただろう…」


服を裂き軽く止血を済ませて中央広場へ向かう。


(粉塵と救出活動で1時間は稼げるだろう、

後は相手の先遣部隊を撃破すれば!)


裏通りを飛ぶように駆ける俺の耳に剣戟の音が聞こえてくる、

だがおかしな事にその音が少ない、

激戦ならもっとうるさくてもいい筈。


「……ふ!」


タ、タ、タン!


戦闘区域の手前で家の前の水瓶等を使い屋根へと飛び乗る。


「…!春蘭!」


2つ隣の大通り、

そしてバリケードのある中央広場に見覚えのある、

そしてこの戦いの間もっとも見たかった顔が見える。


「着いたか!」


よく遠くまで見れば北門、

そしてそこから繋がる北の大通りには華琳の軍特有の黒い鎧がひしめいている。


「本当に2日で…」


軍の運用からすれば無茶を通り越した話を現実に目の前にしている。


屋根を伝い南の大通りまで出てから中央広場に向かう。


「神北将軍!」


「怪我を!」


広場で一応大通りを警戒していた兵が俺に気付き近付いてきた。


「傷は深くない、

それより華琳は何処に?」


「曹操さまはまだ北門に、

衛生兵!神北将軍に手当てを!

ご案内致します」


「頼む」


左腕を手当てされながら北門に向かう。


「隼人…怪我をしているの?」


案内された先の華琳は、


「まあ軽くな…それよりこんな早く到着してくれて助かった」


流石に顔等は汚れを拭ってあるが鎧は砂埃にまみれ、

髪はボサボサで顔には疲労の色が濃い。


「兵には悪い事をしたとは思うわ、

ただ間違ってはいなかったようだけど」


「ああ後1日遅かったらもしかしたら耐えきれなかったかもしれん」


「そのようね…良く守り抜いてくれたわ」


労いの言葉をくれる華琳だが、


「…俺は役にたった自信がある」


「…それで」


「褒美が欲しい…」


俺は不躾に褒美催促する。


「あなたが怪我をしているとはいえ、

前線からわざわざ来るのは何かあるとは思っていたわ。

それで何が欲しいの?」


「賊の首を、

街に足を踏み入れた者にはことごとく報いを!

降伏してきた者を迎え入れる、

裏切りを打たせて兵を吸収する、

それは戦国の世の常だと言うのはわかる。

ただ今回だけは俺への褒美として、

街に足を踏み入れていない者は除外してもいいんだ、

だから頼む!」


頭は下げない、

挑むように目を真っ直ぐ見て頼む。


「あなたは自分の言っている事が…、

いえ、わかっているわね」


「ああ、俺の願いを叶えるとしたら、

死体を5,000以上作る事になる」


「それでも?」


「それでもだ。

街の者との約束というのもある、

だが実の理由は至極単純だ」


一拍おいてはっきり言い切る。


「それでもだ。

気に入らないというのもある、

だが実の理由は至極単純だ」


一拍おいてはっきり言い切る。


「街の者との約束だ。

俺は嘘吐きになりたくない」


淡々と激情を抑えて頼む。


「あなた1人の褒美に5,000の首…、

釣り合うかしら?」


「釣り合わないと思ったら断ってくれていい、

所詮俺がそれまでの男だったというだけの事だ」


感情を込めず淡々と返答する、

何を言った所で軍を動かす権利を持つのは華琳だ、

断られたら俺に出来る事は無い。


「それ程この街の人間に義理があるの?」


「…冷静に、第三者目線で計算しても、

街の人間の協力がなければ俺は秋蘭を見捨てて逃げてる。

秋蘭は死に、

兵の8割以上は討たれただろうな」


「あなたが逃げる?」


「命は大事だ。

計画が無謀なら付き合う必要はないだろう?

例えそれで大切な同僚を失ったとしても」


正直な分析だ、

仲が良く美しい秋蘭とはいえ、

自分の命と天秤にかければ自分の命が勝つ、

今回の家を倒壊させる為の作戦も自分が助かる可能性が後数パーセント少なかったらやらなかった。


「……良いわ。

たれかある!」


声に反応して華琳の従騎の1人が進み出る。


「は!」


「春蘭、季衣に伝令なさい!

降伏を認めず!最後の1兵まで殲滅なさい!」


「御意!」


従騎は馬に飛び乗り疾走する。


「これで良いかしら?」


「感謝する」


今度は頭を下げる。


「話は終わった。

俺は前線に戻るから華琳は少し休め、

総大将が倒れたら一大事だ」


「あら、心配してくれるのかしら?」


うわ、底意地悪そうな顔。


「当たり前だ。

華琳は総大将なんだぞ?

それに愛しい娘の心配をしない男はいない」


カウンターを合わせるが、


「愛しいの?初耳だけど」


綺麗に止められる。


「態度で随分表してるつもりなんだがね?」


「言葉にしないと伝わらない事も多いわ」


「まあな」


「それに愛しいのは私だけではないでしょう?」


「まあ、秋蘭、春蘭、季衣、桂花、

っと能力も美も兼ね備えた娘が多いからな」


気が多いように思えるが、

時代が時代で俺は将軍職なんだから許される。


「でしょうね。

でも言葉でくれたのは嬉しいわ、

前線には出ないでここで指揮をとる、

でいいかしら?」


「宜しいのではないですか。

で、一番手が足りなさそうなのは?」


怪我をしていても守られる気はない。


−2日後の夜


「神北将軍!」


「やりました!」


「あなた方のおかげです」


俺の周りには手に手に酒を満たした杯を掲げる人々、

今は戦勝の宴の席。


「今夜は無礼講だ!

生きてる事に!

助けにきてくれた皆に!

そして死んでいった同朋に!」


「「「お〜!」」」


と開始の号令があったのが30分前、

それから秋蘭と俺は周りを囲まれ続けた。


「何を言うんだ!

皆の協力が無ければ守り通せなかった!」


俺が言えば、


「然り、皆の協力があってこそだぞ?」


秋蘭も続いてくれる。


「皆の頑張りに!」


「「「乾杯!」」」


何回目かの乾杯を行い皆の輪からこっそり抜け出す。


「楽進!李典!干禁!」


3人は別の大きな輪の中心にいた。


「隼人将軍!」


「あ〜神北将軍なのぉ〜!」


「かんぱ〜い!神北将軍もウチらと飲みに来たんか〜?」


陽気な酒、良い酒だな。


「それもあるんだが…少し通してもらっていいかな?」


「これは気付かず!」


「どうぞどうぞ!」


座って呑んでいた皆が道を開けてくれる。


「おう、ありがとう。

悪いな、失礼、…っと」


やっと中心までこれた。


「隼人殿!今回の事は…」


酒の席だというのに堅苦しい楽進、


「楽進、今夜は無礼講だ」


「そうやで凪!

今夜は無礼講や!」


「無礼講なのぉ〜!」


に比べて軽い2人、

まあ良いんだけど。


「そう2人の言う通りだ、

まあそんな事を言っといて悪いんだが今からの話は少し違う」


白けさせたくは無いが大事な話だ。


「は!」


「なんや?」


「真面目な話なのぉ〜?」


三者三様の返答。


「他でも無い、

答えを聞かせて欲しい」


「答え?」


「あ〜あの仕官の話やな!」


「受けるのぉ〜!」


いや干禁フライングだろう。


「沙和!」


「自分なに言っとんねん!」


「?…凪ちゃんも真桜ちゃんも嫌なの?」


「そうは言ってないわ、

ただ真面目な話やで?

そんな簡単に…」


「そうだぞ沙和、

受ければ官軍として仕えて…」


慌てて諫める2人だが、


「え〜!じゃあ凪ちゃん真桜ちゃんは受けないのぉ〜?

じゃあ沙和も受けないけど…」


「それは残念だな。

俺は出来れば3人と一緒に戦いたいんだが?」


不安そうにしている干禁を援護するために俺も発言する。


「…楽進殿と李典殿は仕官する事に何か問題があるんですか?

我等は良い話だと思いますが…」


「そうですよ!

良い話じゃないですか!」


「3人の腕なら十分仕官出来ますよ!」


周りの共に戦った者も同調してくれた。


「自分ら…やけど…でも…そうやな!

凪!覚悟を決めるで!」


「真桜!?」


「皆がこんだけ言ってくれてんのやで!

ここで応えな男やない!」


「お前は男じゃないだろ!」


思わず裏手突っ込みしちゃった。


李典は一瞬目をパチクリとしてから、


「なんや神北将軍!

突っ込み出来るんですか?」


「いや突っ込みという程の物では…」


「いやいや今のは良い突っ込みでしたわ!

いや〜仕官する理由が増えましたわ」


「おいおい理由が増えるって…まあ良いけど」


前向きに参入してくれるのなら理由は何でも良い。


「な!凪!」


「凪ちゃん!」


「…2人も一緒ならば…この武をお役立て下さい!」


「良く言ってくれた!」


楽進の承諾も取れた、


「なら華琳の所に行こうか」


時間が勿体無いしね。


「「「え?」」」


「皆、主賓だけど3人連れてくよ?」


「「「どうぞどうぞ!」」」


乗りの良い人々で助かるわ。


「ほら付いて来な!」


戸惑う3人を引き連れて先ずは秋蘭の所に戻り、


「秋蘭!3人の快諾がもらえた!

付いて来てくれ!」


「うむ、皆すまんが行ってくる。

宴は続けてくれ」


「「「お〜♪」」」


合流してから華琳の元に向かう。


「しかし良く決断してくれた、

私も是非推薦させてもらおう…で、どうしたんだ?」


戸惑う3人を訝しく思ったのだろう、

秋蘭が俺に聞いてくる。


「華琳の前にいきなり行く事になって緊張してんだよ」


「ほ〜そうだな、

最初は緊張するだろうな」


納得してくれた。


「本当に行くんですか?」


楽進が代表して聞いてくる。


「当然だろ?

採用するかどうかは俺が決められる事じゃないんだから」


「うむ、紹介するのは早ければ早い程良い」


「はあ?それは…」


「華琳が君達に興味を持ってたんだよ」


「そうだな、

私から見ても興味を持っていたように見えた」


初日は行軍の疲れを考えて北門から離れなかった華琳だが元々が効率を重んじる娘だ、

2日目からは戦場に近い中央広場で指揮をとっていた、

その時に見かけたのだろう興味を持って話していた。


「だから早ければ早い程良いんだ」


そんな説明をしていると総大将の宴の輪に到着する。


「隼人兄ちゃん!」


「よお季衣!華琳に話があるんだが…」


いきなり腰に抱きついてきた季衣に用件がある事を伝えると、


「そうなの?

華琳さま〜隼人兄ちゃんと秋蘭さまが話があるそうですよ〜!」


大きな声で取り次いでくれる、

相変わらず脊髄反射で生きているような娘だ。


そして許可が出たのだろう親衛隊の一角が道を開けてくれる。

「よう華琳」


「話があるとの事だけど、

酌でもしてくれるのかしら?」


「こんな獣がお酌するなら私が!」


「ずるいぞ次は私だ!」


華琳が冗談で言ったのに脇に控えた桂花と春蘭が反応する。


「…酌は間に合ってるようだけど?」


「そうだぞ間に合っているぞ!

華琳さまにお酌をしたいなら順番だ!」


「いや別に酌をする為に来たわけじゃないし…」


ここまできても冗談だと気付かないのか春蘭。


「ならば話とは?」


このままでは話が始まらないので華琳が助け船を出してくれる−原因を作ったのも華琳だが−。


「紹介したい人間がいる…」


そこで後ろにいた3人の背中を押し前に出す。


「あの、自警団を指揮しておりました!

楽進と申します!」


「同じく李典て言います!」


「干禁です!」


緊張のあまり口調が変わってしまっている。


「3人共今回の防衛の立役者であり、

個人で手合わせしたが楽進に関しては季衣並みの力を持っていると思う」


「同じく干禁と手合わせしましたが、

十分陣営に加えるに足る者かと」


そんな緊張しいな3人を俺と秋蘭で太鼓判を押す。


「季衣と並ぶと?」


「手合わせした感想でな、

護衛と考えると季衣に分があるが、

1対1で立ち会えば甲乙つけ難いな」


「それ程?」


「俺が手加減したとはいえ押されたからな、

しかも俺は無手だった」


この意味がわかるのは俺が破山剣を持つ前を知っている人間だけだ。


「…そう…楽進と言ったかしら?」


「は、はい!」


直立不動で顔は真上を向く、

ガチガチに緊張してるな。


「何が得意なのかしら?」


「は!気の扱いには自信があります!」


喋りはまともだが目はグルグルと回ってイッパイイッパイなのがまるわかり。


「補足を良いか?」


「どうぞ」


「気の扱いに関しては楽進が一番だが、

実は後の2人も気の扱いが上手い。

腕、人柄共に好ましいと思うんだが?」


「あなたの好みじゃないの?」


「否定はしない」


最後に少しの冗談を混ぜておく。


「私から見ても兵のの統率等評価する事の出来る出来です」


「ほお?秋蘭にこれ程に言わさしめるとは…、

華琳さま」


「そうね…良いわ陣営に加えましょう。

ただ、まだ私自身であなた達を見極めていないわ、

当分は隼人、あなたの元で使いなさい」


「おお了解了解♪

んじゃ俺の直属の兵は少ないけど、

少ないなりに三等分して3人に任せる。

3人には俺の副将を頼むな」


採用が決まってしかも俺の部下になったので早速部下をつけてしまう。


「…え?あの、副将!?」


「もう採用なんでっか?」


「試験とかあるんじゃないのぉ〜?」


「試験は俺と秋蘭の手合わせで終わってるよ。

武人の試験なんて戦ってみないと仕方ないし、

それに用兵に関しても、

今回は実際に自警団という素人の集まりで見せてもらってるからな、

素人を指揮してあれだけ戦えたんだ十分だよ」


実際3人がいなかったら東門はもたなかった、

いやその前に俺達が援軍に来るまで街がもたなかっただろう。


「だから試験は必要無いんだよ。

ともかく華琳から俺の所で預かるよう言われたし、

十分腕もわかってるから2人も俺の事を隼人と呼んでくれ」


「いいんでっか?

なら、隼人将軍これから宜しくお願いします」


「隼人将軍、沙和も宜しくなのぉ〜♪」


「ああ宜しくな」


2人との挨拶を済ませて、

ふと話に参加しない楽進に目を向ける。


「それで楽進は?」


「凪?」


「凪ちゃん?」


何故そんなに難しい顔をしているんだい?


「曹操さま、私達を陣営に加えて下さると言う言葉は間違いないでしょうか?」


「私に二言はないわ」


「ならばあなたさまは我が主君、

私の真名を貰っては頂けないでしょうか?」


「…それはあなたが決める事よ。

ただ先程も言った通り私はまだあなた達を見極めてないわ、

だから私の真名を呼ぶ事は出来ないわ」


「真名だなんて!

曹操さまと直接お話出来る事だけでも十分恐れ多い事ですのに、

真名を許されようなど思考の外であります」


そうなんだよな、

実際この前までの華琳は刺史−これでも十分偉いんだが−だったから季衣に軽く真名を許したが、

州牧ともなると自分の好悪以外にも気を付けないといけない。


「そう、それならもらっておこうかしら。

但し、陣営に加わるからという理由なら要らないわ、

真名とはそういう物ではないから」


桂花の時には別の事を言っていた気がするが。


「いえ、陣営に加わるからという理由では御座いません曹操さま。

元々曹操さまの噂を聞いておりましたし、

一昨日からの指揮も見せていただきました、

それに夏侯淵将軍や隼人将軍という方々が仕えている方です、

真名を預けるのに値する方と判断するのに不足は御座いません」


そんな事を知らない楽進は真面目に返す。


「秋蘭と隼人はそんなに有能だった?」


「はい!隼人将軍には直接手合わせをしていただきましたし、

夏侯淵将軍の手合わせも間近で見せていただきました。

そして夏侯淵将軍は主戦場である南門を守り抜くだけでなく全体の指揮もこなし、

隼人将軍は門扉の壊れた西門を守り通しました。

我々は3人と王李殿という4人で指揮して何とか守り通せました事を考えると…」


「尊敬出来ると?」


「はい!」


そんな真剣に評価されたら…嬉しいじゃないか。


「ならば私だけではなく隼人達にも許したらどうかしら?」


「え!?

…夏侯淵将軍や夏侯惇将軍なら…」


「そこまで誉めといてかよ!」


またもや突っ込んでしまった。


「あ!?いえ…あの…だって…」


言葉を濁して顔を真っ赤にしてしまう。


「私達に遠慮する事はないわ。

別に隼人に真名を許してはいるけど体を許した覚えはないから」

「そうなんでっか!?」


「え〜なのぉ〜!?」


いきなり変な所に飛び火したな、

それにしてもやはり驚くんだな。


「ああ私も体を許した事は無いな」


「当然ね!誰がこんな獣!」


秋蘭と桂花は直ぐに否定した。


「秋蘭、桂花、何を言ってるんだ?」


話の内容がわかってないような春蘭に秋蘭が優しく諭す。


「姉者、真名を異性に許すのはどんな時だ?」


「伴侶を決めた時だ。

だが私達姉妹は華琳さまに身も心も捧げている!

…秋蘭は違うのか!?」


驚く所が違うよ。


「いや違わないよ姉者。

だが今回楽進が言いたいのは、

真名を許した人間がこんなにいるなら隼人に真名を呼んでもらうのは失礼かと思うって事なのさ」


秋蘭の説明に考え込む春蘭。


「…ならば今言っていた一連の会話は…」


「今姉者が考えている通りだと思う」


「…あるわけ無い!

私も当然だが華琳さまもあるわけが無い!

隼人!きさま華琳さまに指一本近付けてみろ!

首はないものと思え!」


「わかってるから簡単に剣を抜くな!近付けるな!押し込んでくるな!」


籠手でクロスガードしているのにそれでも押し込んでくる。


「今のでわかったでしょう?

私達はそういった関係ではないの、

但し隼人の腕には信頼をおいているわ、

だからこそ真名を許してる。

そしてもし、万が一私達がそういった関係になっても、

あなた達が隼人をそういった目で見るのを止める気はないわ、

私の元にいる将軍ですもの、

ちゃんと節度を守れば何人と付き合おうと文句は言わないわ」


「万が一なんだ?」


「!きさま今華琳さまを淫らまがしい目で見たな!」


「春蘭!いいから息の根を止めちゃいなさいよ!」


「!?いや待て!マジで死ぬ!死ぬから!」


華琳の言葉に反応したら三途の川を渡りかけてるぜ。


「なんやてっきりウチは、

夏侯淵将軍の真名を隼人将軍が呼んでるからそういう関係なのかと」


「沙和もそう思ってたのぉ〜!」


「私もお恥ずかしながら…」


ふむ、実はこっちで暮らし始めてから少しわかったのだが、

実際3人が言ってる事は的を射ているんだな。


昔の軍の話を竹簡や書物で見てみると、

軍中で異性に真名まで許すのは普通ではないらしい、

話にもあった通り異性に真名を許すのは伴侶を決めた時が普通だから、

どんなに敬意を表すとしても真名まで許すのは尋常じゃない、

他にも例が無いかと言うとあるが、

それは夫婦で軍人だった例だからカウントしなくても良いだろう。


「そうね勘違いする人も多いけどそういった関係はないわ。

隼人自身の出身が他国だからこの国らしい信頼の表し方をしているだけ、

まあそれに楽しいし♪」


「…そうなんだよ…華琳の真名を呼べるからよく勘違いされるんだ。

街で良いなと思う娘に声をかけても、

城下では俺って有名だからまともに取り合ってもらえないんだ!

しかもそれを知って華琳が笑うんだぞ!

それはそれは楽しそうに!」


「あら?愛情表現よ」


「目が笑ってますよ!」


だから実はこっちの世界に来てからというもの、

素人の女性とは関係をもった事が無い、

もっぱら金で買う玄人相手だけだ。


「ふふふ…だから隼人に関しては気にする事はないわ。

私の軍の特色だと思えば良いわ」


「そう言う事、

でも俺を愛したらはっきり言ってくれ?

何時でもお相手出来るからな」


百万ドルの笑顔でアピールアピール。


「お相手?ねぇ兄ちゃん、

さっきから何の話しをしてんの?」


と、そこでちゃっかり春蘭に切りかかられる前に腰から離れた季衣が水をさす。


「なんだ季衣?秋蘭が春蘭にわかりやすく説明していただろう?」


「それでもわかんないんだもん!

ねぇ兄ちゃんボクでもわかる位簡単に説明してよ」


「う、う、う〜ん?」


馬鹿力でガクガク揺らされながらどう言ったものかと思案する。


「季衣、男に真名を許すのが伴侶…夫婦になる位好きな相手にしかしない事はわかるな?」


「うん!

もう兄ちゃんボクだって子供じゃないんだからその位知ってるよ!」



うお!無垢な笑顔が汚れた心にクリーンヒット!

まあ多分詳しくはわかってないからだろうけどね。


「…それなら俺は男で季衣は女の子だ、

俺と季衣は夫婦かな?」


「え〜!?違うよ!

ボクは兄ちゃんが好きだけど、

まだ夫婦なんて…」


だからさらっと告白するなと。


「ふぐぐぐ…まあだから3人は俺が真名を呼ぶ季衣達が俺の恋人だと勘違いしたんだよ」


俺だって成人していない−こちらだと15位から成人らしいが−とはいえ男だ、

既に本気の恋やら愛やらをした事はある、

睦言を耳元で囁かれたりなんて経験もあるがこんなに無垢で可愛らしい告白は初めてだから、

全身が恥ずかしさで痺れちゃった。


「ふんふんわかった!

…楽進さん達大丈夫だよ!

兄ちゃんとは仲が良いだけだから♪」


俺の話を真面目に聞いたと思ったら、

体ごと楽進達に向き直り天然な発言をかます。


「だからさっきそれを話してたからわかってるよ」


一応理解出来たようなので頭は撫でておく。


「えへへへ♪」


うむ、アホな子程可愛いと言うが本当だな、

天然発言なんで少し撫でる手に力が入っていたんだが逆に気持ち良さそうだ。


「愛い奴愛い奴…は!」


この突き刺さるような視線は!


(わかっているでしょうね?)


季衣に関して自主的にそういった事に興味を持つまでは不可侵を約束した華琳だ。


(当然だ)


目で答えておく。


なんて横路に逸れながらも結局、


「そう言う事なら、

隼人将軍!宜しければ私の真名もお預かり下さい!」


片膝をつき宣言する。


「宜しければ曹操さま達だけではなく、

この場にいらっしゃる方々にも真名を呼んでいただきたいんですが?」


「良ければウチも!」


「沙和も皆さまが宜しければ!」


楽進が宣言するのを追って李典、干禁共に真名を預けようとする。


「ふふふ…嬉しいわ。

ならばあなた達の真名を私達に教えてくれるかしら?」


「は!我が性は楽、名は進、字は文謙、真名は凪と申します。

どうぞ皆様凪とお呼び下さい」


「ウチは性は李、名は典、字は曼成、真名は真桜ていいます」


「沙和は性は干、名は禁、字は文則、真名は沙和。

宜しくお願いしますなの」


華琳が促し3人は真名を預けた。


「ならば私の真名も預けるとしよう」


「ボクもボクも!」


「まあ昨日からの戦いは見事だったから私も良いわよ」


「当然推薦した私も交換するとしよう」


すると春蘭達も真名を交換してくれた、


「うんうん仲良き事は美しきかな…だな華琳?」


「そうね、私も近い内に真名を許す事になりそうね」


ただ1人その輪の中に入れない華琳の傍に寄り、

世間話をするように話を振っておく。


「順調に戦力が増えていく…」


「そうね…」


こうしてまた心強い仲間が参入するという幸運をもって、

黄巾賊の残党討伐は終了したのだった。

アクセス数って見れるんですね?(汗)


見てみたらなんとユニークアクセスが、


25,000!


おありがとうございます!ありますがとうございます!

これからも精進すると共に続きを書いていきたいと思います、

皆様何卒見捨てずにお引き廻しの程宜しく御願い致します。




感想を数人の方から頂けていたので独りよがりでは無いとはわかっていましたが、

まさか25,000もいっていたとは…、

感想待ってまーす。

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