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第5話

残念なお知らせ、

破山剣を手に入れるまでの番外編第3話幕間を誤字修正の時に間違って消してしまいました。


二万字位あったのでもう一度書くのはキツいので後回しにします。


ちなみに作中に出てきますのでスペックだけでも、


銘 破山剣


特殊能力

1、剣に認められた者以外が手に取ろうとすると持ち上がらない程の重みになる、

但し机等無機物に置く事は出来る。


2、剣に認められると重みが消失し棍棒程度の重さになる。


3、強度が異常な程高い、

昔手に入らない事に癇癪をおこした者が全力で鉄槌を振り下ろしても傷一つつかなかった程。


4、切れ味が良い、

昔は山すら斬れたらしいが今は普通の剣よりは切れる程度。


由来

昔暴虐の限りを尽くした悪妖を倒す為に仙人から頂戴した剣。

前の持ち主が死ぬ間際ある山の頂上に突き刺し、

「乱世がまた来たら抜ける者を探せ」

という伝承を残した。

昔は中国各地で活躍したらしく知名度はそれなりにあるらしい。

何故か雷獣が反応した事から隼人の手に…。


こんな所です。

−盗賊討伐から2ヶ月後


「華琳、新しく傘下に入った街の警備隊の組織図はここで良いか?」


「ええそこに置いて良いわ」


「あんた!

何回も言ってるでしょ!

華琳さまの真名を呼び捨てにするのをやめなさいよ!」


「桂花も目を通しておいてくれよ?

後、秋蘭から伝言で例の集団は勢力を増したそうだ」


「例の集団とは何?」


「華琳の所にも報告は行っている筈だよ?

頭に黄色い布を巻いた集団の話」


「そうね来てるわ。

巷では黄巾賊とか言ったかしら?」


「そうそう黄巾賊。

随分増えたらしくてな、

ここらではそんなに被害は出てないけど北の州では被害が本格化しているらしい」


「ではこの州でも?」


「秋蘭はそう見てるな…ちなみに俺も同意見だ」


「そう…由々しき事態ね」


「由々しき事態だな」


「…隼人…あんたね〜!」


ここは華琳の執務室、

結局あの遠征の後州牧は逃げたまま戻らず、

空いたその座を盗賊討伐の功もあった華琳が受け継いだ。


そして今の喚き声でわかる通り桂花も生き残った。


−遠征終了時


「桂花…私は最初に言っていたわね?

私の兵が1人でも飢える事があれば首をはねると…」


「覚えております」


我らが軍は先程頓丘に帰還した、

その時には既に糧食は底をつき朝飯を抜いて行軍してきた。


「ならばあなたの命は私の物ね?」


「御意」


今は兵を労い解散させた後、

細かい後始末を終わらせた華琳の執務室の中だ。


中には2人の他に春蘭と秋蘭と俺の最側近3人に加え、

今回の遠征でスカウトされた季衣も同席している。


「言い訳は致しません…」


「へ?へ?何がどうなってるの?」


「季衣…今は静かにしてろ」


1人だけ話がわかっていない季衣を俺が諫める。


「その覚悟は見事よ。

ならばその首を…」


華琳は愛用の鎌−銘は絶−を持ち桂花に近づく。


「…とも考えたのだけれど」


殺気を感じなかったのでちゃちゃを入れなかったのだが、

なんだか妖しい雰囲気になってきた。


「あなたの指揮能力、

策の立案実行能力共に私は欲しているわ。

約を違える事にはなるけれど…」


華琳が桂花のうつむいた顔を顎をとり上げさせる。


「私の軍師になりなさい。

私があなたを可愛がってあげるわ♪」


「そ、曹操さま…」


「真名を許すわ。

私の物になりなさい桂花」


「はい…桂花の全ては華琳さまの物です…」


完全にピンクな空間になった部屋の中で、


「へ?何々?見えないよ兄ちゃん!」


まだこんなのを見るには早過ぎる季衣の目を覆いながらげんなりする。


−回想終了


「私の言葉を無視するなんて…いい度胸じゃない!」


堪忍袋の緒が切れたのだろう−俺に対してあるのかは疑問だが−、

向かって来る桂花の頭に手をやり押しとどめる。


「んな事言われても、

華琳自身が嫌がってないんだからいいじゃないか」


「そうね…私は構わないわよ?」


華琳がこう言えば、


「そんな!華琳さまの真名を呼び捨てにするなんて!

華琳さまがお許しになっても私が許せません!」


顔を真っ赤にして反論する桂花。


「そうね…試しに私に敬語を使ってみなさい隼人」


「は!華琳さま、

こちらが新しく傘下に入りました街の警備体制に関する目録となります。

お目を通していただきますようお願いします…」


試しに型通りに報告してみるが、


「やめよう華琳、

何か凄く気持ち悪い」


早々にギブアップする。


「そうかしら?

なかなか悪くなかったと思うけど?」


人の悪い笑みで言われても…。


「俺が気持ち悪いんだよ。

それに俺は完全に華琳の物というわけではないからな」


「閨での事なら前向きに考えるけれど?」


「よせやい!魅力的なお誘いだけど、

俺は女を抱くなら心まで欲しい。

それか金で割り切って抱く以外は寝たくないね」


「あら?

だから以前秋蘭が寝込みを襲った時も…」


「まあな。

だがいつもなら抱いてるかな?

命を狙われたなら俺にも旨味が無くてはね、

そういう場合なら無理矢理でも可だ」


かなり自分勝手な持論だとは思うが、

ここまでが最大限の譲歩だろう。


「そうなの?

ならば今夜閨に誘うと言ったらどうする?」


そんな事を含み笑いを隠しながら言われたら、

溜め息と共に反論するしかない。


「は〜…恋も知らない餓鬼じゃね〜んだから、

本当に自分に惚れてるかなんて一目見ればわかるだろうよ」


「あら心外ね、

私はあなたに惚れてるわよ?」


「華琳さま!」


流石に我慢出来なくなったんだろう桂花が悲鳴をあげる。


「それは俺の腕に惚れてるんだろう?

恋とはかけ離れてるわな」


そう言ってこれ幸いと執務室から逃げ出す。


「待ちなさい隼人!

まだ私の話は終わってないわよ!」


「その文句は華琳に言ってくれ。

華琳が嫌だと言ったら改めるよ」


追撃してくる言葉をいなしながら執務室をでて街に向かう、

今日も今日とて警備隊の仕事は山程あるのだから。


「しかし人が増えたな〜」


目抜き通りを詰め所に向かって歩けば、

以前の数倍の人々がひしめき合っている。


「やっぱり州牧のお膝元の街は違うのかね〜?」


口ではそんな事を言っているが本当はわかっている…。


黄巾賊が本格的に動き始めたという事は乱世の始まり、

ならば庶民は力のある者の所に集まってくる、

そこが治安が良ければ尚更だ。


−それから1ヶ月後


「集まって貰ったのは他でもないわ。

あなた達も知っている通り…官軍が黄巾賊討伐に失敗したわ」


この1ヶ月で秋蘭の懸念通り黄巾賊の数は爆発的に増え、

さらにその集団は付近の街や村を襲い始めた、

それは朝廷の危機感を煽るのに十分だった。


早速5,000からの正規軍が鎮圧に向かう、

だが首都防衛しかした事がない将軍にその側近、

力ではなく家と名前で採用された兵士、

こんな軍では農民出身者が多い黄巾賊とはいえ負ける訳がない、

その頃には総数五万を越えていた黄巾賊は苦もなく正規軍を撃破した。



慌てたのは朝廷だ、

ただの農民達の集まりだと思っていた黄巾賊が正規軍をやぶる力を持っていたのだから…。


そこで朝廷は各地の諸侯に助けを求めその一通がこの頓丘の刺史、

華琳の元にも届けられた。


「そして今日朝廷からの勅命が出たわ…黄巾賊をうつべしとね…」


皮肉化に顔を歪ませる華琳。


「まさかここまで酷いとは思わなかったけど…漢王朝の力が弱まっているのは気付いていたわ…」


街に流入する人々、

盗賊共の増加等からも朝廷の力不足が伺える。


「でもまさか農民達の反乱を鎮められない程とは!」


何かを吹っ切るように叫ぶ華琳。


「そんな者達にこの国は任せられないわ!

この時!この場から私の覇道を始めるわ!」


「「「は!」」」


俺を除く全員が膝を折る。


「華琳…黄巾賊は烏合の衆だ。

だがそれに近付く勢力がある…」


「何か掴んでるのかしら?」


「各地の名のある侠客が黄巾賊に加わっている」


俺が独自に構築した情報網からの報告だ。


「何人かに手の者を接触させたんだがな…何か変なんだ」


「変?何が変だと言うの?」


「実は侠客達と首謀者との接触が無いらしい。

だから本隊以外はもしかしたら何も知らずに騒いでるだけかもな…」


「どういう事?

そして首謀者がわかっているの?」


「う〜ん…首謀者の名前はとりあえず張角と言うらしい」


華琳に問い詰められながらこちらも困惑する。


「なんて〜かな?

今黄巾賊の本隊と思われている奴らの悪行が噂と違うんだ。

首謀者は女で歌手らしいんだがそんな事はほとんどしないらしい」


他の諸侯はこの情報を噂と一蹴したらしいが、

それにしては情報がありすぎる。


「何を言っているんだ隼人!

歌手如きに正規軍が敗れたとでもいうのか!」


「そうなんだよな?

ただの歌手にそんな事出来る訳ないんだよ…」


「その情報の信憑性は?」


「うん…かなりの精度だと思うんだよね…。

秋蘭に報告した作付け面積の値を調べたのと同じ奴等なんだよ」


「ふむ…あの数字は正確だったな」


「信憑性があったとしてあんたは何を言いたいのよ?」


流石に真面目な話の時には少し険がとれる桂花。


「それなんだがな…もしかしたら功を独り占め出来るかもしれないぞ?」


ニヤリと笑う。


「話してみなさい」


先程まで疑問符を浮かべていた華琳だが、

こういった話には対応が早い。


「恐らく諸侯の軍は隣の州のおおよそ三万の大軍に突っ込むだろう…そこに首謀者がいなければ?」


「一番の手柄は…」


「そう首謀者を捕らえた、

またはうった者の物だろう」


我が意を得たりと力を込める。


「賭にはなるが、

俺の情報網では張角は我等のいるこの州に居るらしい」


「何!」


「本当か?」


食いついて来た春蘭秋蘭。


「もし三万の軍に張角がいたら遅参の恥は相当な物だ…」


考えてしまえばいくらでも可能性はある。


「だがそれでも賭ける価値はあると思うぞ」


結局決めるのは華琳自身だ、

俺達に出来るのは情報を集め決断の材料にしてもらう事だけだ。


「いかがなさいますか華琳さま?」


「桂花、あなたはどう思うの?」


「私の情報には役にたちそうな物がありませんので言い辛いですが、

華琳さまが覇道を行こうとしますなら火中の栗を拾うのは得策かと…」


「その意は?」


「は!朝廷の力が弱まったといってもまだまだその力はなめられません。

今は雌伏の時とするならば功はあって邪魔にはなりません!」


桂花は自分の気持ちをはっきりと伝える、

それに背を押されるように華琳は決断する。


「そうね…私の結論も同じよ!

皆に命を下す!

3日の内に準備を済ませ隼人の情報を元に出撃する!」


「「「は!」」」


実は話が長すぎて季衣が寝てしまっていたのは秘密だ。


−3日後


「では黄巾賊の本隊は州境に居ると言うのね?」


「ああ数は一万を越えるかどうからしい。

流石にこの数だと州境を越えるのは難しいらしい」


既に俺達は4,000の兵をはじめとし輜重隊を合わせ4,500の大軍で行軍している。


今回の出撃の準備が早かったのには訳があり、

華琳が事前に細かい準備を指示していたらしい、

先見の明があるとはこの事だろう。


「他に我々と同じ目標に近付く軍は?」


「華琳さまそれは私が…」


「それでは桂花報告なさい」


「は!我々の他には袁術の客将孫策2,000、

公孫賛と義勇軍を率いている天の御使いとかいう輩が併せて2,000、

こんな所でしょうか」


この前の報告で情報が少なかったのが悔しかったのだろう、

今回の出撃に際して桂花の手の者が随分情報収集にでているらしい。


「良く調べたな〜?」


「か〜!」


威嚇されちゃった。


「ならば私の軍が一番兵数が多いのね」


「まあそうらしいな、

しかし天の御使いか〜」


話には聞いている、

乱世を終わらせる為に天から使わされた光り輝く服を纏った男らしい。


「軍勢を持てる位には力をつけたんだ?」


「そうじゃないみたいよ…基本的には公孫賛の軍勢の客将の旗頭という立場らしいわ」


「そんじゃ義勇軍てのは?」


「公孫賛の客将の劉備とかいう将の軍らしいわ」


「そんじゃ御使いとかいうのに実権は無いんだな?」


「そうとも言えないようなのよね?」


そこまで説明してから困惑した顔をする。


「どういう事?」


「指揮系統は公孫賛と劉備の所にあるようなんだけど、

御使いとかいうのも口出しは出来るみたいね」


「御輿よりは口出し出来ると?」


「そういう事ね」


「えらい良い身分だな」


細かい作業は周りが全てやってくれて自分はたまに指示を出すだけなんて…。


「無駄話は終わりよ。

隼人は先行している春蘭の所に行って秋蘭と交代なさい、

桂花は輜重隊で物資の消費量の確認」


「は!」


「あいあい」


−2日後


「華琳さま〜!」


春蘭が本隊先頭の華琳に向かって大きく手を振る。


「春蘭、別に昨日も会ったんだからそんなに大袈裟にしないでも…」


「何を言うか隼人!

今は季衣が親衛隊隊長としてお側に居たとて、

華琳さまの無事な姿を見たならば気分は高揚するものだろう!」


「あ〜はいはい」


藪蛇だったな。


「きさまはあまりにも華琳さまに対しての敬愛が足りん!

大体…」


「何を敵軍の鼻先で騒いでいるの?」


向かって来ていた華琳が到着した。


「華琳さま!

こやつの華琳さまに対する敬愛が足りないと!」


「あら隼人は私が嫌い?」


「当然愛しているさ!

華琳の為なら命をかけられる位!」


「隼人はこう言っているけど?」


「隼人きさま〜…」


打ち合わせていないのにここまで合わせてくれる華琳は素晴らしい主君だね、

だけど春蘭の顔が怖いっす。


「それであの砦が目標?」


「ああ目算で一万二千だ。

事前情報より数が多いがそれは行軍中に集まったらしい」


「この2日間で2,000?」


「そうだ…恐ろしい集まり方だな」


なんともふざけた話だが事実だ。


「それであちらが?」


砦の左右を見て確認してくる。


「孫の牙門旗を見てわかる通り右が袁術の客将孫策の陣営だろう、

そして左が公の牙門旗からわかる通り公孫賛の軍だ。

劉備の旗が無いのは義勇軍の体面を気にしてるのかな?」


ここまでは事前情報とさほど変わりないがここからが重要。


「んでだな…言い難いんだが砦の向こう側に皇の牙門旗があってな…」


「皇の…まさか皇甫嵩?」


「だな…どこから情報を持ってきたのかわからんが大物が来ちまったよ」


驚きの声をあげる華琳だが冷静さは失わない。


「兵数は?」


「2,000て所だな、

兵数ならまだうちが一番多いよ」


「……伝令を飛ばしなさい。

皇甫嵩の所で軍議を開きましょうと」


「は!」


華琳の命令に騎馬隊の数人が三方に散る。


「軍は春蘭を大将に補佐に秋蘭、

桂花と季衣は私についてきなさい」


「「「は!」」」


「俺は?」


「あなたも私についてきなさい。

面白い物が見れるかもしれないわ」


こう言っては何だが楽しそうだな華琳。


「それでは私は一足早く向かいましょう。

後は頼んだわよ春蘭秋蘭」


「は!お任せ下さい華琳さま!

季衣!命にかえても華琳さまを守るのだぞ!」


「ボクにお任せ下さい春蘭さま!

華琳さまには指一本たりとも触らせません!」


「良い意気込みだ!」


何か段々季衣が春蘭化している気がする。


「隼人も気をつけてな」


「そう言ってくれるのは秋蘭だけだよ…季衣俺も守って頂戴な♪」


「え〜兄ちゃんボクより強いんだもん!」


笑いながら頬を膨らませる季衣は凄く可愛いと思う。


「ふざけてないで行くわよ!」


桂花に怒られちった。


そして馬の早足で皇甫嵩の軍に向かう華琳の横に追い付く。


「そんで華琳、

面白い物ってなんだ?」


「来てみてわかったわ…ここは当たりよ」


「当たり?張角がここに居るって?」


「そうよ…間違い無いと思うわ。

そして私達以外にもそれに気付いた者が居た、

もしかしたら今後覇権をかけて戦うかもしれない勢力、

面白いと思わない?」


楽しそうに笑う華琳をよそに内心驚いている俺。


(華琳は正史を知る訳が無い。

ならば勘働きが良いという事なんだろうが流石だな)


−皇甫嵩陣営本営


「良く来てくれた曹操殿」


一通りの挨拶が終わってから再度感謝の意を表す皇甫嵩将軍も美人だった、

茶色のストレートの髪を腰まで伸ばし、

スタイルは春蘭と比べると控えめ−春蘭がグラマー過ぎるんだが−、

でも出る所は出ていて多分歳は30手前だろう、

綺麗な青い目をした快活な感じのする女性だ。


「まさかこんなに集まっているとは思わんでな…、

手勢では足りんと思っていた所だったのだ」


「皇甫嵩殿の御高名はかねがね聞かせていただいております。

馬を並べられるのは光栄至極…」


「堅苦しいのは無しにしよう!

今はそれより賊の討伐が先よ!」


天幕に通され座布団を促してくれる。


「もうすぐ他の陣営からも人が来るだろう」


「御意」


なんだか敬語を使う華琳て新鮮だな。


「そう言えばそちらが?」



「私の部下で神北隼人と申します」


何故か興味を持たれたらしい。


「神北隼人です」


無難に挨拶をしておく。


「おおそなたが神北将軍か!」


「?私を知っておいででしょうか?」


心当たりは無い。


「ああ!あの破山剣を抜いた者の噂は聞いている。

その腰の剣がそうか?」


「は!そうで御座います」


意外と破山剣は有名らしい。


「どれ、少し見せてくれんか?」


「御意。

ですが私以外は持てないと思いますが…」


「よいよい噂は聞いている」


「では」


腰の破山剣を抜き、

刃を自らに向け柄を差し出す。


「!」


やはり持つ事は出来なかった、

剣は天幕の床に突き刺さる。


「これは…噂通り奇怪な…、

話には聞いていたが恐ろしく重い…」


感触を思い出しているのだろう皇甫嵩将軍は掌をニギニギしている。


「はい…ですが私だと…」


柄を軽く握り引き抜く。


「この通り軽いのです」


「ならば伝説にあるように山を斬れるのか?」


目を少年のように輝かせて聞いてくる将軍、

何でこの人はこんなに無邪気なんだろう。


俺は二つの理由で苦笑しながら答えた。


「いいえ残念ながら…、

持ち手を選ぶ以外は軽く切れ味が他より良い頑丈な剣なだけです。

巨石を割ったり山を斬ったりは出来ません」


「そうか残念だな。

出来るならあの砦を真っ二つに斬ってもらおうかと思ったのだが…」


「ご期待に添えず申し訳御座いません」


「よいよい。

あまりそういった力に頼るのもどうかと思うしな」


なんだこの人?

まさかいい人なのか。


「う〜む…曹操殿!

神北将軍を私にくれんか?」


前言撤回。


「申し訳御座いません将軍…。

隼人は既に我が軍の中核を成す人物、

おいそれと譲れる者ではありません」


ありがとう華琳嬉しいぜ!


「そうか残念だ。

神北将軍、そちらが良ければいつでも待っている」


「ありがたき御言葉…しかし既に主君に忠誠を誓った身、

ご容赦下さい」


今はこう言っておいた方が良いだろう。


そこに他の陣営の者が来たとの報告が入り、

新しく6人の人物が天幕に入ってくる。


「お初にお目にかかります。

袁術が客将、孫策伯符只今到着致しました」


「同じく周瑜公謹」


ここまで来たら英傑が女でない方が不自然だ。


孫策は南方の人特有の小麦色の肌に薄紫の髪が美しいグラマラスな…、

いや超グラマラスな女性、

その超絶ボディを危ういスリットと上乳が丸見えのチャイナ服で包むという快挙!

そして描写が後になってしまったが、

今は改まっているが普段は悪戯っぽく光っているだろう事が予想できる青い瞳が印象的な美人だ。


そして周瑜は長い黒髪を背中に垂らし、


足下に近い辺りで1つに括ったポニーテールの変形のような髪型に、

孫策と同じく南方特有の小麦色の肌、

そしてこちらも南方特有なんだろうか孫策に負けない超絶ボディをチャイナ服に包んだ、

エメラルドグリーンの切れ長の瞳が印象的な美人。


「お久しぶりで御座います皇甫嵩将軍。

公孫賛伯珪只今到着致しました」


公孫賛はなんて言うか普通?

凄く可愛いんだけど感想を言うと普通になるという不思議な女性だ。


髪の色はピンク、

スタイルは普通、

瞳の色は琥珀色、

特徴と言えば白地に金の造作がなされた部分鎧を着ている。


顔は美人顔なのに何でこんなに地味なんだろう?


「私は白蓮ちゃんの客将劉備玄徳」


「同じく関羽雲長」


来ました超爆乳!

劉備は朱色でいいんだろうか?

赤よりも少しブラウン寄りの明るい髪色に、

何を食ったらそんなに大きくなるんだって位の超爆乳!

スタイルで言えば春蘭や孫策の方がバランスが良いが、

胸だけで言えば劉備の勝ちだろう事が確信出来る爆乳だ、

そしてそんな破壊力のある体を持ちながら瞳には邪気の一つもないコバルトブルーの瞳を持つ女性。


関羽も劉備と同じく超爆乳を持ちながら、

黒く艶やかな髪をポニーテールに纏めて背中に垂らし、

意思の強そうな琥珀色の瞳をした女性。


「初めまして、

北郷一刀と言います。

一応巷では天の御使いとか呼ばれてますが、

普通の人間ですので…」


「御主人様!」


いらん事を言ったのだろう関羽にたしなめられた唯一の男は、

黒髪黒目に端正な顔、

白くキラキラと光るポリエステル製だろうかどこかの学生服風の服装をした…。


「え?」


思わず間の抜けた声を出してしまう。


「あ、何か失礼な事言いましたか?」


北郷がおずおずと聞いてきたがここで問い詰める訳にもいかず、


「いや何でもない…知り合いの顔に似てたんで驚いただけだ」


「そうですか…」


とっさに誤魔化す、

あっさり北郷が納得してくれたので助かった。


そうこうしてると、


「良く集まってくれた!

一応この中では官位が一番高いのは私だからな、

進行は私がやらせてもらおう。

異存は無いな?」


そうして軍議が始まった。


会議の結論は、


1つ、賊を逃がさぬ事。

1つ、抜け駆けせぬ事。

1つ、明朝より三時間交代で砦への攻撃をする事。


以上になる。


「桂花の策が採用されたな」


「当然ね(でしょ)」


あきれたような華琳と得意そうな桂花の声が重なる。


「何でだ?」


一応本人の事なので桂花に聞いてみる。


「そんな事もわからないなんて本当に無知で汚らわしいわね」


「んじゃ華琳何でだ?」


「なんでわざわざ華琳さまが説明しなきゃいけないのよ!

馬鹿じゃないの!」


「だって桂花が説明してくれないから」


「なんであたしがあんたの為に説明しなきゃいけないのよ!

ちょっと勘違いしてないかしら、

私は男で馬鹿な人間なんて大っ嫌いなんだからね!」


うむ行軍中に随分仲良くなった気でいたが気のせいらしい。


「桂花、そろそろ説明してあげなさい」


「え!何故ですか華琳さま、

こんなやつに理解出来るとも思えません」


「それはあなたの観察眼が曇っているのかしら?

隼人は少なくとも馬鹿じゃないわよ」


うむ毎回フォローありがとう華琳。


「ですが!」


「桂花…」


まだ何か言おうとした桂花を制する。


「…わかりました。

申し訳御座いません華琳さま」


若干うなだれた桂花だが俺を見る目は敵を見る目だ。


「しょうがないからあんたに説明してあげるわ!

ありがたく拝聴なさい!」


「ありがとう御座います桂花さん」


「き〜!ムカつくわね!」


「桂花?」


「は!華琳さま!」


おちょくる意図は無いんだがどうしても声に疲労感が出てしまう。


「は〜…それでは説明するけど、

話ははっきり言って簡単よ。

私の策は…と言うより私は軍師よ、

この軍師という役職はそんなに偉くないのわかる?」


「え!だって桂花は軍議の席でも実際の戦場でも華琳の側で命令を出したりしてるじゃない」


「そうね、

華琳さまはいち早く私達軍師の有用性に気付いて下さったわ。

あの周瑜とか言ったかしら?

あの人も軍師のような感じだったけど、

専門ではなく将軍と兼業なんじゃないかしら?」


「へ〜てっきり桂花みたいに軍師を本職とするのが普通かと思ってたんだが」


「馬鹿ね!そんなの華琳さまの元だけよ」


「は〜華琳は凄いんだな〜」


「ふふふ…私はただ戦をするのに作戦立案が出来る人物は多いにこした事はないと思ったまでよ。

他の人間が気付くのも時間の問題じゃないかしら?」


謙遜している風ではないのが流石だ。


「さあ話は終わりよ、

陣営に戻ったら明朝の出撃準備を急がせるわよ!」


「は!」


「了解!」


−深夜


さささ…


篝火を避け巡回している兵を避けながら俺は闇を進む。


(久しぶりだな。

暗殺する訳じゃ無いけど隠密作戦なんて)


公孫賛軍の陣地を進む俺の今日の目標は天の御使いの天幕、

どう考えてもあの服は俺の生きていた未来の服だ、

何故そんな物を纏った人がここに居るのか聞き出さなきゃいけない。


(かなり奥まで来たが…あれか?)


一際大きな天幕は公孫賛の物だろう公の牙門旗が揺れる、

その隣に一回り小さいが周りより若干大きな天幕…。


(誰か出てきたな…)


気配を完全に絶つ。


「ふ〜…明日からまた戦闘か…また人がいっぱい死ぬんだろうな…。

いや!俺はみんなの生活を守る為にも逃げないって決めたじゃないか!」


何か小さな声で決意を確認してるな。


こんなのはいつもの事なんだろう、

天幕の影に隠れるように立っている夜衛の者は気にしていない。


(悪い奴ではなさそうだが…)


天幕の中の気配を探ると、


(居るな…ひのふのみ…3人か…)


今日寝込みを襲って尋問しようかと思ったが難しいらしい。


(関羽は気配からしてもかなり使うだろうからな…明日正規のルートで会談を申し込むか…)


悪い奴ではなさそうだという新情報で満足して、

見つからないように退却する。


−翌朝


「悪いんだが華琳、

天の御使いと会談したい。

許可をくれないか?」


「理由を聞いてもいいかしら?」


「興味があるんだあの服に…光り輝く素材の服。

もしかしたら帰るなんらかの助けになるかもしれない」


正直同じ所から来たと思われるのは嫌なんだが−天て恥ずかしくないか−、

本当の事を言わなければ許可が下りないかもしれない。


「…そう…いいわ。

私から申し込んでおくわ。

何か注文はある?」


「出来れば相手の陣地でもいいから2人で会いたい」


「それは難しいんじゃないかしら?

あちらは怪しいとはいえ義勇軍の旗印よ?」


正論だな。


「それじゃあこの手紙−竹簡だけど−を見せてくれ」


「見ても?」


「構わないさ、

但し暗号になっているから読めないと思うよ」


手紙を開く華琳。


「これが相手は読めると?」


「読めれば手がかりになると思う」


「そう…たれかある!」


親衛隊の人間が近付いてくる。


「は!如何致しましたでしょうか?」


「この書簡を公孫賛軍へ届け、

天の御使いとやらとの会談を望と伝えよ」


「は!」


「これでいいかしら?」


「感謝する」


「それでは出撃よ。

相手は人数だけならこちらを圧倒するわ、

気を引き締めてかかりなさい」


「了解」


その日は流石に落城等の大きな動きはなく、

日が完全に昇る前に孫策軍に交代となった。


「何なのだあの黄巾賊とかいう奴らは!」


「何か頭の腺が一本切れているとしか思えない戦いぶりだったな…」


「何か怖かったですよ〜春蘭さま〜」


「あれが狂信的信者って奴なんだろうな…」


孫策軍と交代して陣地に戻る道すがら将軍4人で感想を述べる。


「弓で射落としても怯まず…」


「剣で叩き斬っても怯まず…」


「鉄球を振り回しても逃げるどころか向かってきた!」


「そのわりに統率や編隊はお粗末…」


「訳がわか(らん!)(んない!)」


直情的な2人の声が揃う。


(張角は歌手という事だけど…まさかこいつら追っかけとか言うんじゃないだろうな?)


心当たりは一応あるが、

流石に命をかけるまでではないだろうと思考を排除する。


皆の心に若干の恐れを刻み込む事に成功しながら1日目が終了する。


−その夜


「初めましてと言った方が良いかな天の御使い殿?」


「やめて下さい…。

色々と言われてますけど俺はそんなんじゃないです!」


吐き捨てるように心情を吐露する。


「だが君は……いややめよう。

別に君の立場を揶揄する為に会談の場を整えてもらった訳じゃない」


「そうだ!あの手紙の文字!」


「し!2人で会談させてもらう意味が無いだろう?」


「は、はい…」


気負い過ぎている彼を落ち着かせるように自己紹介する。


「改めて名乗ろう、

俺は神北隼人…隼人と呼んでくれ」


「あ!はい!北郷一刀です…一刀って呼んで下さい」


自然に握手する。


(この時代に握手の習慣は一般的じゃない…やはり)


「単刀直入に聞こう…君は未来の人間なんじゃないか?」


「!…やはりあなたも?」


「まさか同じ境遇の人間に会おうとは思わなかったよ」


溜め息をつきたい位の気分だ。


「一応聞くが君は元の時代に戻る方法は?」


「そう言う事はあなたも…」


「そうか…予想はしていたがな…」


「隼人さんは何時からこの世界に?」


「もうすぐ1年になるか?君は?」


「俺はまだ2ヶ月位です。

しかし隼人さんは今将軍として戦っているようですが大丈夫ですか?」


2ヶ月ならこれまでに何回かは戦闘をこなしてきたのだろう、

心配そうな顔でこちらを伺ってくる。


「う〜ん…それにはまず一刀の元の世界が俺と同じなのかが不安だな」


「どういう事でしょう?」


「俺がいたのは2009年だったが君は?」


「俺もです!その7月でした」


「ならば東京はあるかい?」


「はい!当然です!」


「ならば極東会本部は?」


「…は?」


おれの言葉に目が点になる一刀。


「その顔からするとやはり君と俺とはまた違う世界から来たらしい」


「?」


「俺のいた世界では極道やマフィアが幅をきかせて、

死が普通に道端に転がっている世界だったが…」


「………へ?」


「俺は極道の極東会所属の構成員でな、

相手を殺すのはそこまでの心理抵抗は無かったかな?」


「…………へ?」


阿呆顔晒してんな一刀。


「一刀の世界はどんな感じだったんだ?」


話を振ってやればやっとまともな返答が帰ってきた。


「あ…ああ…俺は普通の学生で、

この制服も聖フランチェスカ学園て言うんだけど…」


「フランチェスカ?

聞いた事ないな…」


「かなりのマンモス校なんで東京近郊ならかなりの知名度あるんですが…」


「…やっぱり聞いた事ないな?

やはり俺のいた世界と一刀の世界はちがうようだ」


「そ…そうですね…俺のいた世界ではそう簡単に人死にはでませんから」


そんなに微妙な顔すんなよ。


「ははは!俺この世界に来てすぐ華琳−曹操の真名なんだがな−の真名を呼んじまってな!」


「ええ〜!」


「そん時にうちの将軍2人に切りかかられてな!」


「ええ〜!」


「あの時いたのが俺で良かったぜ」


「そうですね…俺なら斬られてたな…」


青ざめた顔で頷く。


「まあ巡り合わせだな?

だが一刀は何故義勇軍なんかに?」


「俺はこの世界に来た時に3人組の盗賊に最初にあっちゃって、

それを助けてくれたのが愛紗達なんです」


「あ〜それは真名かな?」


これはこの世界の面倒な所だ、


「あ!すいません愛紗は関羽の真名です」


真名を呼ぶには本人の許可がいるからいつも真名を呼んでいると人に紹介する時に混乱するのだ。


「いやいいよ。

仲が良いらしいな一刀達は…」


「はい!」


屈託ないな一刀。


「ふむ…関羽といえばあの爆乳ちゃんだな?」


「え!いや…まあ…その…」


「もう寝たのか?」


「そんな!俺なんかじゃ…」


「じゃあ劉備は?

あちらも魅力的な爆乳だったが」


「桃香!あ、桃香は劉備の真名なんですけど、

桃香は君主ですから…」


「でも一刀も旗頭になる位なんだから劉備と同じ位の立場なんだろう?」


「そんな俺なんて…」


「おいおい真名を呼べる程の仲なのに気兼ねし過ぎじゃね〜か?」


「なら隼人さんはどうなんですか?

曹操さんの真名を許されてるんでしょ」


反撃に出る一刀だが俺は、


「う〜ん…俺の場合は華琳が同性愛者だからな〜」


「ええ!」


こんな理由があるからな。


「一刀はしってるかな?

正史の曹操が女好きだった事」


「一応知ってます。

確かそれが理由で死にかけた出来事もあったような…」


「そうなんだよ、

だからかは知らないけど華琳も無類の女好きでな。

夏侯惇と夏侯淵、

春蘭と秋蘭ていうんだがこの2人は俺が加入する前からの付き合いだし、

荀イク…桂花は完全に華琳のネコなんだよな」


「は〜〜…」


呆けた顔で聞いている一刀。


「まあ俺はそれでも諦めてる訳じゃないからな、

みんな可愛いし綺麗だからチャンスがあれば抱くよ?」


これは本当、

春蘭達に華琳より俺の事を好きになってもらうのは難しいというより無理だけど、

男の中では1位になるのは無理じゃないから。


「そんなに嫌われてはないと思うし、

気長に口説く…って所かな?」


「隼人さんは強いですね…」


「ん〜?」


何か話が繋がってないような。


俺の疑問の浮かんだ顔を見て一刀が慌てて説明する。


「いやだって…いきなりこんな世界にやって来ちゃって、

いつまた元の世界…いやまた別の世界かもしれないに、

跳ばされるかも知れないのに…」


「阿呆だな〜一刀は!」


「え!」


同い年位で背も一緒位なのに何か一刀が弟か何かに思えて仕方なかった、

その理由が今の台詞を聞いていてわかった。


「お前は考え過ぎなんだよ!

死ぬかもしれないなら精一杯足掻けばいい!

助けたい人がいれば自分の全力で助ければいい!

好きな人がいれば振り向いてもらおうと全力で努力すればいい!

その後の事なんてなるようにしかならないんだから!」


考え過ぎて足を止めてしまう慎重さも時には必要だろう、

だが何が原因かわからないで−俺には少し心当たりがあるんだが−こんな不思議な世界に跳ばされて、

そこでも慎重過ぎるのはやり過ぎだろう。


「御主人様とまで言われてんだろう?

憎からず想われてんだよ…女性から切り出させんのは恥だかんな!」


最後に胸をドンと突いておく。


「ぐ…ごほ!……いいんでしょうか僕なんかで?」


「そう思うなら自分を磨けよ、

…この世界の女性は一部洒落にならん位強いから武力を磨けとは言わないが、

力とは武力だけじゃないだろう?」


近くで感じる一刀の実力は…予想だが華琳の所の一般兵と大差ないように思える。


「そうですね…今更武術を習っても愛紗や鈴々に勝てる訳が無いし…。

あ!またやる所だった、

鈴々は張飛の真名です」


「そうか桃園の誓いの3人は既に集まってるのか…」


「はい!実は…」


何か内緒話をするように耳に顔を近付けてくる。


「桃園の誓いの場所に俺も居たんですよ…」


「何〜!」


かなり大きな声を出しちまった。


「お前それは羨ましいじゃね〜か!

この!この!このやろ〜!」


「はははやめて下さいよ〜」


思わずヘッドロックかまして頭をグリグリしてやる。


とそこに、


「どうしたのだお兄ちゃん!」


小さい女の子が飛び込んで来る。


背は俺の胸位だろうか、

赤い髪をショートにして動き易そうなベストタイプの服を纏っている、

瞳の色は深紫でアメジストのようだ。


その女の子は蛇矛を手に持ち会談場所の天幕に飛び込んできた。


「「「……」」」


思わず見つめ合ったまま固まる。


状況を整理しよう、

ここは会談場所に提供された義勇軍の天幕、

俺の脇の下でグリグリされてるのは義勇軍の旗印、

飛び込んで来たのは蛇矛を持った女の子。


「お兄ちゃんを…離せ〜!」


そうなりますよね!


一刀を脇に突き飛ばし、

突き出される蛇矛を用意されていた机や椅子でからくもそらす。


「ちょ!待て!誤解だ!」


「お兄ちゃんをいじめる奴は鈴々が許さないのだ〜!」


突き出される蛇矛には明確な殺意が込められている。


「鈴々やめろ!隼人さんが死んじまう!」


やっと一刀が羽交い締めにして女の子が止まった、

こんな事なら武装解除される時に護身用と雷獣だけでも持っとくんだった。


「何で止めるのだ!

お兄ちゃんをいじめる奴を鈴々が懲らしめてやるのだ!」


「だから誤解だって!

この人は…」


「一刀!それ以上は黙っといてくれ」


「え?」


疑問符が見える一刀を天幕の片隅に引っ張ってきて、

俺は今の日本の隠れ里が出身と嘘をついている事等を説明する。


「鈴々…この人は遠見の知り合いが居て、

俺の元居た世界の事を知っていたようなんだ。

そんで俺とは馬が合ったから少しじゃれていただけなんだ」


「お兄ちゃんいじめられてないのか?」


「いじめられてない!いじめられてない!」


俺も裏で痛い程首を上下に振る。


「な〜んだ!

てっきりお兄ちゃんがいじめられてると思ったのだ!」


単純な性格でよかった。


「大丈夫だよ、

隼人さんとは親友か兄弟みたいに仲良くなったから」


「そんなら俺が兄ちゃんかな?」


「そうですね俺が弟かな?」


笑いあう俺達を見て疑念は完全に晴れたのだろう、

女の子が口を開く。


「お兄ちゃんのお兄ちゃん?

なら鈴々にとってもお兄ちゃんなのだ!

初めまして!

性は張、名は飛、字は翼徳なのだ!」


「俺は頓丘が刺史、

曹孟徳揮下神北隼人、

巷では破山剣の隼人で通っている」


握手は慣れてないようなので頭をナデナデしておく。


「くすぐったいのだ〜♪」


これが先程俺を追い詰めた少女なのだろうか?

顎を撫でられた猫のように気持ち良さそうに顔をほころばさせる。


そうしていると物音を聞きつけて、


「何があったのです!」


「御主人様〜!」


続けて爆乳ちゃん達が入ってくる。


「鈴々がいきなり走り出したので…来てみたのですが?」


張飛の頭を撫でている俺、

撫でられている張飛とそれを温かく見守る一刀、

正直先程の物音とあわせると何の場面だかわからない。


「あ〜愛紗なのだ!

どうかしたのだ?」


「どうかしたかではない!

何故鈴々が会談場所にいるのだ?

あれ程近付いてはならんと言っておいたではないか!」


「そうだよ鈴々ちゃん、

御主人様からもきつく注意されてたでしょ?」


2人に詰問されしゅんとなる鈴々。


「だってお兄ちゃんの悲鳴が聞こえたから…」


「何!」


「えぇ!」


それは誤解を生む爆弾だぜ張飛ちゃん。


「きさま御主人様に何をした!」


先程の二の舞になる前に今度は一刀が説明してくれる。


「違う違うそれは誤解なんだよ!」


「いや〜一刀とは出身は違うんだけど…」


「そうそう近い世界…」


「知ってる所だったから意気投合してな!」


何を言おうとしてるんだこいつは!


爪先を後ろ足で踏んずける。


「な?一刀?」


「そ、そうなんだよ桃香、愛紗」


一瞬痛みに顔が歪むが頑張って合わせる。


「天の?」


「御主人様の?」


「ああ俺は東の島国の出身で、

そこには遠見や予知等の特殊能力者が多くてね…」


「だから天の国の事も知っていたようなんだ…、

それに馬が合ったからもう義兄弟?」


「「御主人様の義兄弟?」」


驚きの声をあげる劉備と関羽。


「そうですよね兄者?」


「そうだな弟よ」


「そうなのだ〜♪」


何故か張飛ちゃんも合わせてくれた、

そうなれば劉備と関羽も納得してくれる。


「そうだったのですか!」


驚く関羽に劉備は、


「御主人様の義兄弟なら私にとっても義兄様?」


抜け駆けっぽい。


「な、何を言っているのですか桃香様!」


「だって御主人様のお兄さまなんだよ?」


「だからと言って…」


「だって〜…」


揉め始める2人を眺めながら一刀に質問する。


「お前こんだけ愛されながらまだ煮え切らないのか?」


「え?いえ!桃香のあれは…」


「言い訳すんなよ。

元の世界に戻れるかなんてわからないんだから、

こちらに妻を娶ったって問題ないだろう?」


「それじゃ俺が帰れた時…」


「だからそんな心配するのは早いだろ?

若いんだから後先をそこまで考えるなよ…嫌いな訳じゃないんだろう?」


「嫌いだなんてそんな…」


「なら本命は誰だ?

劉備か?関羽か?まさか張飛か?」


あちらのドタバタの音が静かになり始めているのは気付いたが、

気にせずに一刀を問い詰める。


「いや本命と言われても…」


「まさか全員本命か!」


「な、何を!俺はただ俺なんかを好きでいてくれるかが…」


「私は御主人様の事を好きですよ?」


「鈴々も好きなのだ〜!」


「わ、私も御主人様の事を…」


完全に聞きの態勢になっていた女の子達が告白する。


「え!えぇ〜!」


「気付けや一刀〜、

女から言わせたら恥だって言っただろ」


「あ、あの、その…」


いきなりの事にもじもじとしている一刀をほおっておいて女の子達に忠告する。


「いきなりの告白に煮え切らない奴だけど、

これはこいつの故郷が一夫一妻制だからだと思うんだ。

この世界では妻を何人娶っても構わないんだから、

頑張ってくれよ?」


「隼人さん!」


思わず止めに入る一刀だが、


「「はい!」」


「お〜なのだ〜!」


女の子達はノリノリだ−告白時は恥ずかしそうだった関羽までノリノリ−。


「まあそういう事だ!

頑張れ一刀!」


「隼人さ〜ん」


泣きそうな感じの一刀だが同情は出来ない。


「何だよ一刀…まさかこんな美少女達に告白されて迷惑だとでも言うのか?」


「え?御主人様?」


「お兄ちゃん?」


関羽は黙って見つめている。


「そんな訳ないじゃないですか!

桃香だって愛紗だって、

勿論鈴々だって凄い可愛いくて才能溢れる娘達なんですから!」


「「御主人様!」」


「恥ずかしいのだ〜」


幸せそうな顔だな3姉妹。


「なら何が不満なんだよ?」


「不満なんて…」


「まあいいじゃないか一刀!

ほら彼女達の顔を見てみろ!」


「え?」


本当に気付いてないんだろうか彼は?


「御主人様…」


「お兄ちゃん!

鈴々もお兄ちゃん大好きなのだ!」


「御主人様さえよろしければ…」


3人共顔が真っ赤っか。


「あ〜!これはその…」


「言い訳はいいだろうよ、

本心ではもうメロメロだろ?」


「う、うぅ…」


ぐうの音も出ないとはこの事だ。


「だってこんなに魅力的な美少女達なんだから仕方ないだろう?

これで何にも感じない方がおかしいぞ?」


一応フォローは入れておく。


「さあ盛り上げといて何なんだが…まだ会談中なんでな、

人払いをお願い出来るかな?」


「は、はい!

申し訳ごさいません!

さ、桃香様行きますよ。

鈴々も行くぞ」


あれだけ盛り上げといて心苦しいが、

まだ一刀と人に聞かせられない話が残っている。


「行ったかな?」


「…愛紗は真面目ですから…」


大丈夫と続けたいんだろう。


「そうか…一刀、

改めて真面目な話なんだが…」


気配を変えたのがわかったのだろう、

先程の事に脱力気味の体を改めて聞く体勢を整える。


「お前はこの世界で何をしようとしている?」


皇甫嵩の所で会った時からの疑問だ、

同じような世界から来た事は服装から予想していた、

そして桃園の誓いの事を知っている事から三国志は一刀の世界でもあるのだろう。


「義勇軍の旗頭になった、

兵を纏めて黄巾賊を討伐するのはいい、

だが劉備と共に居れば恐らく戦乱の中である程度の立場になるだろう…」


「そうですね…」


「そうなった時お前はどうする?」


「お、俺は……隼人さんはどうするんですか?」


「俺は既に決めている」


一刀から目線を外す。


「華琳達には世話になっているし、

華琳の理想には共感出来る部分が多い。

ならば俺は華琳が華琳である限り天下を穫らせたいと思う、

例えどんな障害があろうとも…」


意味深な目線を一刀に向ける、

お前にそこまでの覚悟があるのかと暗に問い掛けるように…。


「俺は…俺は…」


「今答えを聞こうとは思わない。

だがお前が敵にまわるなら…俺は容赦する気は無い…。

その時は俺にも正史の知識がある事を忘れるなよ?」


「そんな事には!」


「ならないとは言えないだろ?

劉備、曹操、孫権で天下三分するのが三国志だ。

ならば我が主君華琳と劉備が戦うのは至極当然の流れだろう?」


「ですけど…」


混乱し始める一刀、

まあ助ける為にそろそろフォローを入れよう。


「しかしまだ黄巾の乱だ。

群雄割拠はまだ先だからな…それまでに色々と考えな」


「……はい…」


「なら俺からの話は終わりだ。

一刀からは何かあるか?」


「……いえ…」


「なら会談はこれで終わりだ。

死ぬなよ一刀!」


「…はい!

胸をはって隼人さんに言い返せるまで死にません!」


何か吹っ切れたのか元気良く言い返す。


「そのいきだ…そんじゃな!」


会談は終わり天幕から出る。


それから場所を提供してくれた公孫賛に礼を言い、

劉備達にも挨拶をしてから華琳陣営に戻る。


「どうだったかしら?」


待ち伏せていたのか華琳が居た。


「華琳…自分の陣営とはいえ不用心だな」


「後ろには季衣をはじめとした親衛隊が固めているわ」


「まあそれなら…」


「改めて聞くわ…どうだったかしら?」


「実りはあった、

一刀の居た所は本当に天と言って良いだろう。

俺の故郷ではあいつの居た所を桃源郷とも言っていたからな」


「へ〜ならばあの男には特殊な力があると?」


「いや…天から来たのは本当でも、

別に特殊な力は無いようだ。

あったとしてもおおまかな予知位じゃないかな?」


しらっと嘘を吐く。


「それでも使い方によっては脅威よ」


「まあな…でも一刀は甘い奴だからな。

ああそう言えば一刀と義兄弟の仲になったから」


「…それで?」


「それだけ。

まあ敵対すれば殺すと誓いも立てた、

心配すんな」


「別に心配はしないわ…なら今すぐ帰る訳じゃないのね?」


「なんだ華琳?

もしかしてそれが不安で待っててくれたのか?」


「そんな訳ないでしょ…、

あなたは少し自意識過剰な気があるわね」


恥ずかしがるのではないはっきりとした冷たい視線。


「わかった!わかったからそんな目で見るな!」


「わかればいいのよ」


「何で一刀はあんなにモテてんのに俺はこんな?」


こそこそと小声で愚痴るが、


「何か言った?」


「いいえ何も言ってませんよ!」


地獄耳の華琳には聞こえてしまう。


「まあもういいだろ?

別に何も無かったよ、

ただ爆乳ちゅんは可愛かったけど…」


最後の方はボソッと言うが、


「爆?何か言ったわね!」


「いってないよ!

言ってないから!」


詰め寄る華琳をいなしながらその日は就寝した。


−次の日


2日目の砦も狂っているとしか思えない抵抗を示す。


こちらは3時間しか戦闘していないので疲れはほぼ無いが、

砦の黄巾賊は1日中戦い続けたのだ疲れも蓄積されているだろうに抵抗はよりいっそう激しい。


「秋蘭!ちょっといいか!」


戦闘の合間に後方に下がり、

弓隊を率いる秋蘭に寄っていく。


「どうした隼人?」


こんな混戦−黄巾賊の統率がとれてないので−模様にも関わらず冷静な秋蘭は凄いと思う。


「なあ秋蘭…なんて言うか変じゃないか?」


「隼人もそう思うか?」


「秋蘭も気付いていたか…」


そこで華琳の元に報告に向かう。


「何か昨日と比べると追い詰められたような…」


「そうだな切羽詰まった感じが俺にも感じられる…」


「つまり…」


「「首謀者の逃亡の恐れがある」」


奇しくも声が重なる。


「逃げるなら夜だろう」


「それにはある程度の混乱が必要です」


「根拠はあるのかしら?」


桂花が横槍を出してくる。


「根拠は相手の抵抗具合かな?

昨日も凄かったけど今日は昨日に倍して凄い。

まるで明日の心配はしていないようだ…」


「私も同意見です」


秋蘭も同意してくれた。


「桂花はどう思うかしら?」


「は!隼人だけならともかく」


(おい!)


「秋蘭まで感じたなら可能性は高いかと」


「ならば今日の夜が決戦ね」


「御意」


そしてやはり決死の籠城を崩す事は出来ず孫策の部隊と交代する。


「くそ〜何なんだあの賊共は!」


「疲れた〜!」


かたや激昂、かたや脱力の春蘭と季衣に作戦をここであかす。


「春蘭、季衣、疲れている所悪いが作戦だ」


「うん?」


「え〜!」


「こらこら季衣、

将軍としてそんな声を出すんじゃないの」


「だって〜…」


もう可愛いな〜!

思わず頭撫でちゃうじゃないか。


「こら隼人!

作戦とは何だ!」


「姉者、それは私から説明しよう」


見かねて秋蘭が引き継いでくれる。


「姉者も感じたと思うが今日の賊共の抵抗は激しすぎる」


「それは私も感じた」


「ボクもボクも〜!」


「だろ?だから俺と秋蘭は予想を立てた」


「恐らく今夜、

奴らは動くだろう」


「何!」


「絶対ではないけど既に華琳には報告した。

華琳と桂花も同意見だ」


内容が浸透するまで少し間をおく。


「だから今夜何らかの異常が起きたら夜襲をかける。

その為にも休める内に休んでおいてくれ」


「おう!」


「夜だね!」


「ちなみにこの作戦は我が軍のみで行う。

理由は言うまでもなく功を独り占めする為だ」


(まあ昨日会った感じだと公孫&義勇軍以外は気付きそうだけど…)


−深夜0時


(そろそろ動きが見えてきたな…)


砦内ではこっそりと動いているつもりなんだろうか?

賊共が動きまわっているそして…。


(何だ?何かチラチラと…!)


「華琳!」


「こちらでも確認したわ!

全軍突撃〜!」


先程チラチラ見えたのは炎、

恐らく火事だろう。


やはり他の部隊でも異常を感じていたのだろう、

見える限り孫策の部隊も突撃を開始している。


(糞!火事だと!もしかするとこれは!)


俺の予想は最悪の形で現実となる、

火事に動転してろくに抵抗出来ない賊共をかたずけながら、

恐らく張角が居ただろう砦の最深部に向かう。


「こりゃ消し炭だな…」


恐らく脱出の為の陽動に火を使ったのだろうが、

あまりにも勢いがつき過ぎてしまったのだろうそこには女性と思われる焼死体が3体転がっている。


「あらあら…骨折り損ね」


黙ってしまった春蘭達に続いて孫策達がやってくる。


「やはりそちらも気付いていたか」


「当然でしょ?

あれだけ無理してれば近い内に何かするのは目に見えてるわ」


「だな…だがそこまでは良かったんだが、

こんなヘマされるとはな…」


「あ〜つまんない!

一番手柄いただこうと思ってたのに!」


「こら雪蓮!」


「何よ〜どうせあちらだってそのつもりだったんでしょ」


言い返す言葉も無いな。


「瞑琳帰るわよ。

首謀者も消えてここにはもう旨味は無いんだし、

袁術もこれだけ戦えば満足するでしょ?」


「そうね…今から分隊の方に行っても旨味は無さそうね…」


「そちらはもう帰るのか?」


「あら?あなた達は違うの?」


「こちらは数が数だからな。

一晩ここで休んでから…」


「張角は何処だ〜!」


そこに皇甫嵩将軍登場。


「皇甫嵩将軍こちらです」


ここで漢王朝で唯一官位を持っている華琳にバトンタッチ。


「おお皆で揃い踏みか!

して張角は?」


無言で消し炭を示す。


「何!まさか火にまかれて…」


「そうではないかと。

途中捕虜にした黄巾賊の話では年格好は大体合ってるかと…」


今まで捕虜にしても頑として口を割らなかった奴らだが、

流石にいきなり火事になって動転していたのだろう口を滑らせてくれた。


「恐らくこの一番大きいのが張角、

後の2体が張宝と張梁かと…」


「なんたる事!

出来る事なら生け捕りにして帝の前で断罪を!

と思っていたというに!」


「我々もで御座います…」


精一杯神妙な顔をする華琳。


「仕方がない…その消し炭で良いから持って行くとしよう。

おい!荷車を用意せい!」


皇甫嵩将軍の部下が手際良く動く。


「こんな事になってしまったが、

確かにここに首謀者が居たのは間違いなかろう。

帝にはこの事を細大漏らさず報告するから安心するがよい」


「「ありがたき幸せ」」


華琳と孫策が膝を折る。


「儂はこうなっては一刻も早く帝に報告せねばならん。

両軍はどうする?」


「恐れながら我々は江東からの遠征軍、

こうなった以上軍を退きたいと思っております」


「我々も同意見なのですが、

大所帯での夜行軍は遠慮したいので一晩この砦を使おうかと…」


「ふむ…よかろう、

公孫賛の方にはこちらから伝えておく。

追って報奨等の通達があると思ってくれて構わない、

楽しみに待っておれ」


「「は!」」


そして深夜3時をまわる頃には華琳の軍以外いなくなった。


皇甫嵩の軍は死体を回収すると帝都に向けて出発、

孫策の軍も同じく江東に向かって出発した、

公孫賛の軍はまだいるが砦の外だし皇甫嵩の軍から伝令が行っているだろうから明日には帰途につくだろう。


「隼人」


「わかってるさ…人払いは済んでるよな秋蘭?」


「うむ、完了している」


「兵の休憩の手配も終わりました華琳さま」


わかってるのは俺達4人だけらしい、

人払い中も春蘭と季衣は疑問符を頭に貼り付けている。


「なら…」


獣油の光に照らされながら俺は砦の最深部の部屋、

その焼けた石畳の一枚を破山剣で突き刺す。


「……ふ!」


普通の石畳にしては軽い感触で石畳を持ち上げる。


そこには、


「出てきなさい…」


「え〜何でわかっちゃったの〜?」


「姉さん今そんな場合じゃないでしょ!」


「万事休すね…」


3人の娘が隠れていた。


「諦めて出てきな…ほれ!」


石畳を放り出し破山剣を鞘に納めてから穴の中に手を伸ばし1人ずつ引き上げていく。


「ありがとう〜♪」


「どう致しまして」


「く!」


「諦めときな、

俺は強いよ?」


「ありがと…」


「どう致しまして」


1人目はピンクの髪を腰まで伸ばし、

その髪を黄色い大きなリボンでポニーテールにしたナイスボディのお姉さん。


2人目は青い髪をサイドで緑色の髪飾りで纏めた、

こう言ってはなんだが貧乳な少女。


最後は紫の髪を肩口までのセミショートにそろえ、

アクセントの為か黄色の髪飾りをつけた眼鏡っ娘、

スタイルは見た限り前述の2人の中間辺り…だが俺の予想では着痩せするタイプと見た。


そして全員に共通するのは瞳の色が3人共緑色だという事だろう。


「人和ちゃ〜んどうしよう?」


「残念だけど天和姉さん、

私も万策尽きたわ」


「わ〜ん!まだ死にたくないわよ〜!」


騒ぐ娘達には構わずに協議する華琳と俺。


「この娘達がそうだと言うの?」


「まああまり信じられないが状況的には間違いないだろうな」


「ふむ…あなた達」


そこで初めて話を向ける。


「何でしょうか?」


唯一冷静さを表面的に保った紫の髪の娘が答える。


「あなた達の名前を聞かせてもらえるかしら?」


「私は〜…」


「姉さんちょっと!」


ピンクの髪の娘が答えようとした所で青い髪の娘が口を塞ぐ。


ところが、


「私は張梁、ピンクの髪が張角で青い髪が張宝です」


張梁が全部答えてしまう。


「人和あんたなんて事…」


「地和姉さん、

この状況で言い訳は無理よ。

それより…」


こちらに向き直り、


「他の軍が去った後にわざわざ見つけたこの人達の狙いを聞きましょう」


あらあらしっかりばれてらっしゃる。


「狙い?」


「ど〜ゆ〜事〜?」


「皇甫嵩の軍が居た時には既にバレてたという事よ、

なのに皇甫嵩には偽の死体を渡して遠ざけ自分の軍のみで私達を捕まえた…」


「少しは話せる人材がいるようね」


話がスムーズに進むのは願ってもない事だ。


「私はあなた達を朝廷に引き渡すつもりでいたわ、

まあその前にどうやってあんなに人を集められたのかを聞くつもりだったけど」


「それは簡単よ〜♪」


いきなり張角が脳天気な声をあげる。


「あら聞かせてもらっていいかしら?」


「それは〜私達の歌に感動したからで〜す♪」


うむ頭のネジがとんでるなこの娘。


「…そういえばあなた達は歌手だそうね?」


「ええ私達は3人で踊りながら歌う事で独自の音楽を創っているわ」


「後私達の…特に私の可愛い容姿も大人気だしね♪」


「地和ちゃ〜ん?

特に自分てなんなの〜?

私だって〜…」


「何言ってるのよ!

私の魅力にみんな卒倒してたじゃない!」


なんか女の戦いが勃発してるんですが…。


「そこのあんた!」


「俺かい?」


「あんたしかいないでしょ!

天和姉さまとあたし、

どちらが魅力的か答えなさい」


「あ〜私も質問する〜♪

ねぇ?天和ちゃんの方〜が〜魅力的でしょ♪」


いきなり右腕に抱き付いてこられました!

しかも胸の谷間に腕が…。


「あ〜ずるい天和姉さま!

それなら…」


今度は左腕〜!


「私の方が魅力的よね?」


お〜こちらは上目づかいですか〜。


「隼人?」


「きさまは〜!」


「兄ちゃん!」


「穢らわしい!」


俺は被害者だと思うんだが…。


「どうなのよ?」


「そ〜そ〜どうなの〜?」


「それぞれ魅力的だと思うんだけど…」


当たり障りのない答えだけど初対面での本心はこんな所かな?


「それじゃ駄目なのよ!」


「そうそう♪駄目なの〜♪」


「姉さん達そこで止めておいて…」


うむこの娘やはり冷静だね。


「今がどういう状況なのかわからないなら別に良いけど、

首が胴体からはなれるのを見るのは流石に嫌なんだけど」


冷静というより冷徹か?


「ふむ、こちらも冗談はやめにしましょう」


「そうですね。

脅すにしろ既に私達は袋の鼠、

どんな条件だろうと受けなければ死が待つだけなんですから」


「いい度胸だわ…それではまずどうやって人を集められたのかの真相を聞かせてくれるかしら?」


「だから〜…」


「姉さんは黙っていて下さい。

話がややこしくなります」


「ぶ〜人和ちゃんのいけず〜」


流石に姉妹、

口を塞ぐ呼吸までばっちりだ。


「しかし改めて答えれば、

姉さんの言った事もあながち間違いではないです」


「ほらほら〜♪」


「私達の歌と踊り、

それに容姿とあと1つが合わさって今回の騒動は起きました…」


「ずばりその1つとは?」


「私達の応援をして下さった男の方からいただいた大平要術書という書物です」


「大平要術書!」


「何か知ってるのか華琳?」


「確か南華老仙という仙人が記した人身掌握術に関する書物よ!

今それは何処に!」


勢い込んで聞く華琳だが、


「残念ながらいただいた時には損傷が激しくて…、

持っていた部分も籠城戦の最中に行方が知れず…」


淡々とあんまり未練はないような口調で張梁は説明する。


「話を聞いてると張梁ちゃんはあんまり大平要術書にこだわりは無いんだ?」


「無いですね」


どきっぱりと返答されてしまった。


「…ちなみにそれは何故?」


「私達はこんな黄巾賊なんて呼ばれる人達を集めるつもりは無かったんです。

ただ私達の歌を多くの人に聞いてもらいたかった…、

ただそれだけだったんです」


「そうそう!最初はいっぱい人が来てくれて有頂天になったけど、

時間が経つにつれて変な奴が増えちゃって…」


「でもその人達が持ってきた食べ物を食べちゃってるから〜、

言い訳にはならないけど〜♪」


言いにくい事だろうにはっきりきっぱり白状する。


「太平要術書は行方不明…隠して…無いわね…あなたなら」


「最初は感謝もしましたけど、

今では何故早く売っておかなかったのか後悔している位ですので…」


ちなみに発言していない春蘭は疑問符だらけの頭をグワングワンふっている、

季衣は自分だって農村出身なんだから盗賊共の元締めのような奴のを憎むかと思えば、

長い話に疲れたのか膝を抱くようにして丸くなって寝ている。


秋蘭と桂花は華琳が話し合っている間は役目は巡ってこないと決めているのか沈黙を保つ。


「そう…」


「華琳どうした?」


深く考え込む華琳は何を考えているのだろうか?

後々の事を考えれば朝廷に引き渡すとかなりの旨みだと思うのだが。


「あなた達は歌を大勢に聴かせたいのよね?」


「そうで〜す♪」


「天和姉さん!

今真面目な話の最中だって言ってんでしょ!」


「そうですね、

へんな奴らは多かったけれども中には私達の歌に感動してくれた人も多かったと思ってます。

それは書の力ではなく私達の歌の力だと確信を持って断言出来る、

だからこそ私達は一度逃げようとしたんですから」


自分達の歌に自信があるのだろう、

張梁の目は真っ直ぐに華琳の瞳を見つめている。


「ならばあなた達私の為に働く気はない?」


…そうきたか華琳。


「どういう事です?」


「言葉通りよ。

私はあなた達に資金と場を提供しましょう、

あなた達は歌を人々に聴かせて最後にこう言ってくれればいいの…、

この乱世を終わらせる為に協力してと…」


そこで一度言葉をきり反応を確かめる。


「……」


張梁は黙って目を閉じ深く考え込む。


「当然その人達は私の兵になってもらうから近くに募兵の為の人間を配置させてもらうわ」


「私達を宣伝活動に使おうと言う訳!」


「でも死ぬよりはましだし〜」


「…と言うよりも破格の条件と言って良いでしょう」


考えが纏まったのかおもむろに口を開く張梁。


「条件がそれならば当然興行出来るのは…」


「私の領地内だけよ、

あなた達は私の急所になる可能性のある者なのだから護衛も兼ねた監視も付けるわ」


まあ華琳が張角及び黄巾賊の首魁を引き込んだなどとわかれば良くて官位剥奪、

悪くて−恐らくこちらになるだろうが−死罪だろう。


「あなたが治める頓丘には書を手に入れる前に寄ったわ。

治安も良かったしある程度の固定客も居たから今の私達なら集客は問題ないか…」


「興行範囲が気になるなら安心するがいいわ。

私は今この州の州牧なんてしているけど、

後々はこの国全てを私の物にしてみせるわ!」


聞きようによっては漢王朝への反逆を示唆しているように聞こえる−そのつもりなんだろうが−。


「…なら問題点は無いわね…。

姉さん達も良いわね?」


「人和ちゃんの言う通りにする〜♪」


「しょうがないわね!

まあ一時は死ぬ以外に選択肢が無かった事を考えれば儲けものか!」


「話は決まったようね?」


「はい、お話しをお受け致します」


言ってから張3姉妹が一斉に頭を下げる。


「「「よろしくお願いします」」」


そしてまず張角が頭をあげて自己紹介。


「私の真名は天和、

天和ちゃんて呼んでね〜♪」


次に張宝、


「私の真名は地和、

地和で良いわ」


最後に張梁、


「そして私が人和、

人和と呼んで下さい」


こうして張3姉妹が我が陣営に加わった、

そしてこの時をもって本当に黄巾の乱は終了したのだ。


それはさらなる乱世の幕開けと同義だと気付いている者は多いだろう。

次回はやっと魏の三羽烏が登場。


私のお気に入りは凪です。

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