第2話
オリキャラの性格は未定。
経歴も決めてなかったり。
ただ出来るだけカッコ良く馬鹿キャラにしたい!
頓丘 刺史の城
出会いから三時間程、
俺は曹操達の馬に乗せられ−非常用に空馬を何頭か連れていた−て、
曹操がこの時代に治めていた頓丘の城、
その庭の東屋で質問に答えていた。
「もう一度聞くわ。
あなたは何処から、
どういった手段で、
何の目的があって此処に来たの?」
東屋はそこそこ広くテーブルも大きい、
当然椅子も8人位なら座れるだけの大きめの長椅子、
これがテーブルの対面状に2脚置かれている。
こちら側には俺1人、
対面には先程の3人が最初に会った時と同じ並びで座っている。
「何処からは南の海の先の島国、
どうやっては俺が聞きたい、
目的は来るつもりが無かったんで無い」
目の前にはお茶が良い感じに湯気を上げ、
茶菓子だろう月餅が添えられている。
「ふ〜…、
島国の名前が」
「日本」
「海を渡るなら船を使わなければいけないでしょう?」
「それが、
俺が気付いた時にはあの場所だったんだ」
「それは何の冗談なの?」
「きさま〜!
下手に出れば調子に乗りおって!」
「姉者やめろ、
姉者は最初から下手には出ていないではないか。
ただ隼人、
貴公も冗談は止めて真面目に答えてくれんか?」
三人共信じてくれない、
当然と言えば当然なのだが俺にも他に言える事は無い。
「冗談と言われても困るよ。
目が覚めたら荒野に1人寝そべっていたんだよ。
そしたら曹操さん達がやってきた」
「ならばその前は?」
「仕事の後に寝たのが最後の記憶かな?」
いけしゃーしゃーと嘘を吐く。
流石に暗殺を行ったら光に呑まれた、
なんて言ったら怪しさが倍だからな。
「ではあなたには、
何故此処に居るかが皆目見当もつかないとそういったわけね」
最後の方はほぼ自分に言い聞かせるように呟く。
「まあそんな所だね、
せめてもの救いは何もわからない場所じゃない事かな」
「そういえば神北は−」
「ああ隼人で良い、
名字で呼ばれるのは慣れていないんだ」
「では隼人は、
なぜこの国の者なら誰でも知っているような真名の事は知らなかったのに、
私の名前や春蘭と秋蘭の名前は知っていたのかしら?」
当然の疑問だろう、
これに対しても嘘を用意している。
「ああそれはね、
我が国の占い師の話を聞いていたから。
曰わく、
大陸の巨龍に陰り有り、
だが好機では無い、巨龍の体内には若き群龍が飛躍の時を待っている、
数多の群龍の中見える物は、袁、曹、劉、孫、
この後まだ色々言っていたんだけど長いから省略して、
またそれぞれの傍らに強き物が見えると言っていたんだ」
ここまでは良いか目線で促す。
「続けて」
「わかった、
一応大陸に来る用事も無いし聞き流しても良かったんだけど、
少し興味があったから推理したんだ。
大陸の巨龍は恐らく漢王朝、
群龍の文字は家名だろうと、
色々情報を整理すると曹の文字は曹操だろうと」
「待ちなさい、
何故そこで私だったのかしら?
曹家ならばお母様達もいらっしゃるわ」
「その答えは簡単。
曹操さんの噂はこちらにまで届いていたからね、
それに占い師が言った傍に見える物が夏だったから、
これは夏侯一族だろうと。
そしてそう調べていくと群龍の中の1人はあなただと結論づけたわけ」
「説明になっていないわ。
お母様の側にも夏侯の、
春蘭、秋蘭の親族がいるわ」
「だがあなた程の突出した才は無い。
そしてお二人程の武芸は無いだろう」
話の粗を的確に突く曹操、
だが俺だって暗殺なんて仕事を生業としていた男だ。
なんとか言いくるめてみせる。
「ふふん♪わかっているではないかきさま!
華琳さまの御側には私達がついている。
母上達にも劣るものとてない」
食いついたな。
だが夏侯惇、
君単純過ぎじゃないかい。
「だね、
夏侯惇殿の武勇は海を渡って鳴り響き、
夏侯淵殿の弓の腕も神弓の誉が高い」
「私もか?
確かに弓の腕には自信はあるが」
「ええ、噂では飛んで来る矢を自らの矢で迎撃したなんて話もあるくらいですから」
どこかのゲームで見た場面だが、
さも本当の事のように誉めちぎる。
「確かに出来ぬ事は無いが」
「本当ですか?
流石にこれは眉唾ものかと思ったのですが」
なんとか夏侯姉妹を懐柔出来かけた時に横槍が入る。
「まちなさい
今言った眉唾ものとはどういった意味かしら?」
「え…、
こちらの国では言わないのですか?
狐狸妖物の類は人の唾が嫌いだから、
騙されそうになったら眉に唾をつければ騙され無いという諺なんですが」
この時代にはこの言葉はまだ無かったのだろうか。
「へ〜面白いわね、
あなたの国では狐や狸が人を化かすの?」
あ、変な所に食いついた。
「ええ、例えば我が国の他の妖怪では、
川の源泉等の山深くで小豆を洗い、
その音で催眠をかけ人を喰う小豆洗い。
田んぼを大切にしない者に裁きを下す泥田坊。
他にも枕返しアカ舐め海座頭等の妖怪変化が多数います」
天狗とかは中国にもいたっけかなどと考えながらも、
ここは嘘を吐く必要は無いので正直に話す。
「ふむ、
とりあえずあなたが外国の者なのは本当のようね」
そこからか!
流石は曹操だけあって疑り深い。
「そこからですか?
本当にこちらの風習も知らないんですよ」
「でもおかしいわね、
それだけの情報収集能力があるのに、
真名の事は知らないのね?」
痛い所を突かれた。
調子に乗りすぎたな、と思ったが。
「でも良いわ、
あなたは怪しいけど本当に目的は無さそうだし」
「では?」
「ええ話はここで終わりにしましょう」
なんとか曹操からの追求を逃げ切った。
というより逃がしてくれたのかな。
ほっと一息ついた俺だが、
「では次は私だ!
きさま手合わせの相手になれ!」
忘れてた。
「いや待ってくれ。
せめてお茶を飲んで一服位させてくれ」
「駄目だ!
今すぐ用意をしろ」
御無体な。
そんな俺に救いの手が差し伸べられる。
「春蘭待ちなさい」
「え!何故ですか華琳さま〜」
またも犬化する夏侯惇に、
曹操はにっこりと笑顔で続きを告げる。
「私も見学したいわ、
だからお茶が終わってからになさい」
「はいそういう事なら、華琳さま♪
きさまは華琳さまに感謝しろ、
寿命が少し延びたのだからな」
「姉者、手合わせなのだから殺すな」
夏侯淵がフォローしてくれる。
「夏侯淵さんも苦労するね?」
「そこが姉者の可愛い所なのだがな」
ご馳走さまです。
それから十数分の和やかと言って良いお茶の時間が流れる。
「ご馳走さまです。
では夏侯惇殿、
1手お相手願えますかな?」
「望む所よ!」
受け答えを全て気合い入れなくてもいいと思うんだが。
「場所はそこの広場で良いでしょう。
審判役は秋蘭に任せるわ」
「は!
では姉者、神北−」
「隼人で良いって」
「では隼人、
華琳さまの御前だ。
恥ずかしくないよう一層の奮起を期待する」
「おう!華琳さま、
ギッタンギッタンにしてやりますのでご期待下さい♪」
「頼もしいわね春蘭、
勝てたら今夜はたっぷり可愛がってあげるわ♪」
おいおい何だよこのピンクな空気は、
でも頬を染めた夏侯惇可愛い。
「でわ、きさますぐに用意しろ!
得物は剣か槍か好きな物を用意してやる」
ヤバい、気力が倍増してやがる。
「ありがたい申し出だけど、
俺は無手の技が基本なんでな」
「無手〜?
きさま我が剣に素手で挑むか!
なめられたものだな!」
「なめてるんじゃないよ。
多対1なら剣も使うけど、
1対1なら拳の方が強いぞ俺」
「そうだぞ姉者、
先程素手の隼人に抜かれていたじゃないか」
「そうね、
でも隼人良いの?
あなた掌を切ったじゃない」
あなたに切られたんですが。
「大丈夫ですよ。
実の所戦いの中で拳を握り込む事はないんで」
「それならすぐに勝負だ!」
場面は変わって庭の広場、
50人位なら楽に収容出来るだけの場所、
勝負の場所に指定されただけの事はある。
「では双方構え!」
ザザ
俺は腰を落とし、
右腕は腰に引きつけ、
左腕は相手に向けて突き出す。
対する夏侯惇は正面に剣を構え、
若干剣を斜めに傾ける。
剣道の基本の構えとは少し違うようだ。
その状態で気を練っているのだろう、
体を取り巻くオーラで夏侯惇の体が一回り大きく見える。
「始め!」
まずは俺からつっかかる。
構えから一足飛びに間合いを詰め、
一撃を繰りだそうとするが、
「甘い!」
逆にカウンター気味に剣を突き出され、
ギリギリで跳び退くとそこに追い討ちの連撃。
かわせる物はかわしかわせない物は籠手で反らす。
だがあまりに剣撃に威力があり、片手の籠手では防ぎきれない俺は、
両手の籠手で防戦するので押し込まれる一方だ。
防ぎきれない攻撃に、
所々服に裂け目が出来肌に薄い傷をつける。
そんな防戦一方な俺に、
「どうしたどうした!
防ぐだけでは勝てんぞ!」
夏侯惇はテンションが上がる程力を出すタイプなんだろう、
オーラが爆発的に大きくなると共に剣撃の力が益々上がる。
(ヤバい、このままじゃ…)
幾度目かの大振りの一撃−流石と言おうか振りが速すぎて割り込めない−を防ぐのに合わせて跳び退く俺。
(油断してない夏侯惇さんはやはり強い!)
最初の出会いでは、
こちらを一般人だと侮る所があったのでそこを突き、
脇をすり抜ける事も出来たが、
今の夏侯惇は侮るとかいう前にやる気満々だ。
そんな事を考えている内に夏侯惇が間合いを詰めて来る。
「ふ!」
大上段からのスピードの乗った一撃を体を開いて避けるが、
「ふん!」
地面を砕いて打ち下ろされた剣がすぐに地面から斜めに翻る。
それを両手の籠手で受けるが、
その威力にそのまま吹っ飛ばされた。
(女の膂力じゃね〜)
空中を飛びながら痺れる腕に辟易する。
(ならば!)
防ぐだけではジリ貧だ、
思い切って攻めに転ずる。
着地と同時に間合いを詰めてくる夏侯惇に向かい、こちらからも間合いを詰め掌底を繰り出す。
「ふ、ふ、せい!」
何度目かの攻防の後剣をかい潜り、
剣の間合いから一歩踏み込んで腹に向けての三連撃。
ここで決める気で撃ち込むが−−、
(く!)
やはり傷が気になって一撃甘くなる。
そこを見逃さずに夏侯惇は、
掌底を喰らいながらも肩から体当たりをかけてくる。
三連撃を繰り出している最中の俺にかわせる筈もなく、
体当たりを受けぶっ飛ばされ尻餅をつく−2メートルぶっ飛ばされた−と、
眼前には剣の切っ先が、
「勝負あり!姉者の勝ちだ」
負けた。
まさか傷を受けていたにしても、
俺が本気で繰り出した掌底を受けてそのまま体当たりなんてどんな頑丈な体をしてるのだか。
自慢じゃないが利き腕じゃなくても、
そこらの喧嘩自慢位なら掌底一発で沈める自信がある。
「私の勝ちだな?」
小憎たらしい位の満面の笑みで確認してくる夏侯惇。
「ああ負けた。
傷が無くてもあなたなら立っていただろう」
「でしょうね、
良くやったわ春蘭。
隼人も素晴らしい腕だったわよ」
曹操が拍手をしながら悠然と近づいて来る。
「華琳さま〜やりました♪」
犬化する夏侯惇、
先程までのオーラはすでに無い。
「ええ春蘭、
今夜は寝かさないわよ」
「はい♪」
やっぱりそういった意味なのだろう。
「ああ、そんな姉者も可愛いな〜」
あんたも何言ってるんだ夏侯淵。
「それは兎も角、
ねえ隼人?
あなたはこれからどうするのかしら?」
いきなりと言えばいきなりに聞いてくる曹操。
「どうすると言われても、
帰ろうかと思いますよ。
ただ実は、
金も無いし帰る所も南の島国の中でも特殊でして、
本当に帰れるかは怪しいんですが」
未来に帰る方法なんて、
そんな簡単に見つかる訳もないからな。
「では私の所で働く気は無いかしら?」
予想外の勧誘だ。
「な!華琳さま」
驚きの声を上げる夏侯淵。
(当然だろうな、
ん?声は夏侯淵だけだ夏侯惇は?)
憮然として顔で眉を寄せている。
「何か問題でもあるかしら?」
「華琳さま、
確かに隼人の腕は素晴らしい物ですが、
はっきり申し上げれば怪しい者です。
そんな者を御側に置くのは賛成出来ません」
膝をつき、
主君を諫める夏侯淵。
「あなだがそう諫めるのはわかっていたわ。
でもね、
私はどうしても欲しいと思ってしまったの、
それに春蘭は反対では無いようよ」
諭すように言い含める曹操。
「姉者…」
反対するだろうと思っていた夏侯惇へ、
夏侯淵も目を向ける。
「秋蘭、
手を合わせた感じから、
こやつはそんなに悪い者では無いと思う」
はっきりと言い切る夏侯惇。
「それにこれだけの腕だ…仕官先は数多あるだろう、
ならば華琳さまの下に居させるのも悪く無いと思う」
「だが姉者!」
「待て秋蘭、
わかっているつもりだ。
身元もわからん者が華琳さまの下に居るのが危険な事だと、
だがそれでもこの腕は惜しい」
ここに夏侯惇を良く知る者が居たなら驚き慌てただろう、
こんなに理路整然と話す夏侯惇なんてそう見られる物ではない。
「決まりね♪
隼人どうかしら?」
「俺は…」
「私が言うのはなんだけど、
我が陣営程治安が良く待遇が良い所は少ないわよ」
自信があるのだろう、
曹操ははっきりと言い切る。
「それに私は部下同士の恋愛に口を出したりしないわよ?」
爆弾投下。
「…!華琳さま!なにを!」
慌てる夏侯惇に、
曹操が悪戯っぽく笑いかける。
「どうしたのかしら春蘭?
誰ととは言ってないわよ」
「華琳さま!
御冗談はお止め下さい。
私の心は華琳さまだけの物です」
「だから誰ととは言ってないでしょうに」
「華琳さま〜」
ああまたもや犬化した。
しかし曹操はドSだな。
「その申し出は魅力的なんだが、
俺は誰かに忠誠を誓う事はしたくないんだ」
「私の誘いを断ると…?」
「待ってくれそうじゃないんだ、
仕事は欲しいんだ。
だから頼む!
俺を傭兵として雇ってくれないか?
仕事はしっかりするし、
裏切ったりしない。
だだ俺の性格で、
縛られるのが嫌いなんだよ」
正直に言おう、
実は武将として曹操の元に身を寄せるのは魅力的だ。
だが俺の天の邪鬼な性質が、
縛られる事に拒否反応を示している。
「傭兵ね…」
「悪いとは思うんだが、
忠誠を誓い兵として雇われれば、
もし帰る手段が見つかっても帰れないだろ?」
「それなら…」
「そこまで俺の腕を買ってくれたんだ、
話させて貰おう。
実は俺はその島国の中の、
ある隠された地域の一つの人間だ」
嘘だけどなんとか修正して。
「どうゆう事?」
「全ては話せないんだが、
そこは予言の能力を持った者が多く生まれる所でね、
曹操様ならこの意味がわかりますよね?」
「ふ〜ん?
もし本当にそんな場所があるなら…、
世の支配者達は黙っていないでしょうね」
「そうなんだ。
だから実は島国までは多分帰れるんだが、
その場所には入れないんだよ」
ちょっと困った顔で説明する。
「ならばその中ではどうやって暮らしているのだ?」
夏侯惇が横槍をいれる。
「うん?普通と言えば普通だよ。
多くが特殊な能力はあるが、
四方を山で隠された里の中で、
結界に守られながら暮らしていた。
俺には飛び抜けた体力がある位だが、
多くは神通力で会話したり予言によって世俗の事を知ったり」
嘘だけど、
実は本当の事もある。
この里は本当にあるのだ、
この時代のずっと未来だが。
晴明がある時俺を連れて行ってくれた里、
そこでは晴明のような術ては無く、
超能力としか思えない人々が普通に暮らしていた。
「その里の人々も、昔は国に仕えた者達だったんだが、
人は異質な者に畏敬と恐れを持つ。
ある時力が弱い者達が連続で生まれた時代、
政敵の謀略にあいそに隠れ住むようになったそうだ」
その里の歴史はそうなっていた。
「ならば何故今も隠れるの?
それだけの力があればまた元の地位に返り咲けば良いじゃない」
「曹操様、
隠れ住む者達は権力を望まなかったんですよ」
「何故?」
「わかったのでしょう、
民衆は自分達に頭を下げている訳じゃない。
自分達の特殊な能力に頭を下げているんだという事に。
それにその里の者は、
特殊な能力のせいか体が弱く統率力もないんで」
「何故?」
「考えてみて下さい。
上役が
何か決める度に中空をボーっと見ては指示を出す。
部下達にしてみればはっきり言って不気味でしょう?」
想像したのか頷く夏侯惇。
「でも指示が的確なら逆に畏敬となるのではないの?」
「そうですね、
ですが全てが当たるわけではないのですよ。
予言とは解釈が命、
間違えば当然危険です。
例えば川が氾濫する予言も、
聞けば色々種類があるらしく、
龍が村を飲み込むといったわかり易い物から、
村に陰りがあるといった抽象的な物まで色々あると言います。
その全ての解釈を完璧に推理するのは無理です」
きっぱりと断定する。
「ですがそれがわからない、
わかりたくない者−被害者等です−からしたら何故助けてくれなかったのか、
何故助けないのかといった事になる訳です」
「それはあるでしょうね。
でもそうならないよう王がいるのでしょう?」
「だからこそです。
里の者達も仕えていた時期は信じていました。
ですが先も言った時期、
力が弱い者達が連続で生まれた時期に、
王は最終的に守ってはくれなかったのです」
「なぜ!
そんなに力がある予言者なら手放せないでしょうに」
思わず声を荒げる曹操、
「恐らく嫉妬していたのでしょう。
予言の力で感謝される一族に」
「下らないわね、
私の下にいたならそんな事にはならなかったでしょうに」
「おや?聞いた話では、
曹操様はこういった能力は好まないと思いましたが」
「別に嫌いではないわ。
ただ根拠も無く物事を断定するのも、
それにそって動くのも嫌いなだけ。
参考程度には聞くわ」
可笑しそうに含み笑う曹操の目は、
(利用出来る物は何でも利用する…か)
口程に物を言っていた。
「まあそおいった訳で、
帰れるかがわからんのです。
そして帰れるとしたら好機はそう無いだろうし」
やれやれと肩をすくめて嘘を吐く。
「そう…、
そういった事情なら仕方ないわね。
ならばそれで良いわ、
我が陣営に来なさい」
「華琳さま!」
「秋蘭、
別に今の話を聞いて何か変わったの?
隼人の身元が不明なのも、
隼人が怪しい者である事も変わらないわ、
隼人の腕が春蘭に匹敵するのも変わらないと同じ様に」
全て事実なんですが、
何か言いたいな。
「秋蘭、華琳さまがお決めになった事だ」
夏侯惇が夏侯淵を諫める。
「それにな…、
こいつが華琳さまの害悪となったなら…」
突然俺の首に剣を突きつける。
「その時は我が大剣にて叩き斬ってくれる!」
あの夏侯惇さん首に刃当たってるから!
「姉者…」
なんか夏侯淵さん感動してるんだけど、
刃が、刃が〜!
「春蘭そろそろ刃を外してあげなさい。
そのままだと話が決まっても首が無い体が残るわ。
そんなもの私はいらないわよ」
「いらないとか言う前に助けて〜」
泣きながら助けを求める俺。
「きさままさか裏切る気は〜!」
夏侯惇が詰め寄るので首に剣が接触する、
今刃を引かれれば!
「無い!
裏切る気なんか無いから!
だから剣を退けろ〜!」
流石に今下手な冗談でも言えば死ぬ。
必死で弁明する。
「本当だな〜?」
「本当だ本当!
だからそんな笑顔で剣を押し付けるな〜!」
少し泣けてきたよ。
「それでは信じてやろう。
そして…、
我が性は夏侯、名は惇、字は元譲だ。
そして真名は春蘭、
その腕に敬意を払い呼ばせてやる!」
「あら春蘭?」
「あ、姉者!」
驚きの声が上がる。
「勘違いするなよ?
我が心、我が忠誠は華琳さまの物だ。
だが私と打ち合い、
我が武に匹敵する腕を持つ同僚に敬意を表す事に迷いは無い」
剣を退けて胸を張り、
はっきりと宣言し手を差し出す春蘭。
「ならば俺の事は隼人と呼んでくれ。
いつまでもきさまじゃ寂しいからな」
首をさすりながら握手する。
「姉者が真名を許すならば私の名も許そう。
我が性は夏侯、名は淵、字は妙才、真名は秋蘭だ。
私も姉者と隼人の手合わせで隼人の実力には敬意をもっている。
先程の言葉に気を悪くしたなら謝ろう、
だが私は言わなければいけないと思った事を言ったまでだ」
正面から目を見て言われては手を握るしかない。
「気を悪くするなんてとんでもない。
俺があなた−」
「秋蘭だ」
「−悪い。
秋蘭の立場でも同じ事を言っていた。
というより曹操様の言葉に一番びっくりしたのは俺だと思うよ」
苦笑しながら握手する俺に、
曹操が文句をつける。
「私が何か悪いみたいな言い方ね?」
「雇われる俺が言うのはなんだけど、
身元もわからないような流れ者を陣営に加えようとするとは、
主将としてはどうかと」
文句をつける曹操に呆れるように指摘しておく。
「怪しき者は近づけずっね?
正論ではあるけれど面白みはないわね」
にっこり微笑んで続ける。
「今の私は1地方の刺史でしかないわ。
でも私はこんな所で終わる気はない」
きっぱりと宣言し拳を突き上げる。
「腐った官吏と朝廷、
虐げられる庶人達、
この国は遠からず滅びるわ」
漢王朝の臣下としては言ってはいけない事をきっぱりといって、
「ならばせめて、
その時に庶人が迷わないよう、
庶人が寄る辺を無くさないよう、
私が王として立ちましょう!」
静かな口調から、
段々と熱を帯びた口調へ。
「だがまだ官吏にも朝廷にも力があり、
私には力が無い!」
既にその瞳には俺達は写っていない。
「官吏にも朝廷にも負けない力が要る、
その為なら今は泥だろうと呑んでやるわ!」
握った掌を開き、
何かを掴むように握り込む曹操。
その姿は綺麗で、
まるで一枚の宗教画の救世主のようで、
思わず俺ですら膝を折りそうになる−春蘭と秋蘭は既に、
膝を折り頭を下げている−。
「だから隼人、
あなたの力を私に貸しなさい。
私は私の理想を成す為に、
あなたはあなたの望みの為に!」
そこで再び俺の瞳と曹操の瞳が重なる。
その瞳には狂う程の炎−想い−と、
冷静に目的を遂げようとする氷−想い−が相反せず共存している。
「俺の力で良いなら貸そう!
存分に使ってくれ」
意地で膝は折らずに、
正面から見返す。
「ふふふ♪
その言葉忘れないわよ?」
突然口調を変えて、
悪戯な微笑みを浮かべる曹操。
「へ?」
アホな顔を晒す俺だが、
しょうがなくない?
「今の言葉は忘れないわよ?って言ったのよ」
凄く楽しそうなんですがこの娘。
「騙されたの俺?」
引き続きアホ顔ですが何か?
「騙してないわよ?
言った事に嘘は無いもの。
ただ答えた言葉が色々考えられるから…ね♪」
「可愛い顔されてもな〜」
本当に油断出来ない。
「ふふ…良いじゃない。
その言葉のお礼に…」
真面目な顔で、
「我が性は曹、名は操、字は孟徳。
そして真名は華琳、
今度からは真名で呼ぶ事を許すわ」
「「!」」
その時の春蘭、秋蘭の顔は言葉では言い表せない。
「光栄に思いなさい、
私の真名を呼べる男性は父以外ではあなたが初めてよ」