第10話 5の巻
さて間がかなり空きました。
孫策達との会談を終えた俺は、
一路華琳達が会議を始めているだろう大天幕に向かう。
道々に俺を待っていたのだろう伝令兵が居るがスルーして大天幕に到着。
「神北将軍お止まり下さい!」
「いや!」
入口の両脇の歩哨が凄いスピードで近付いて来る俺を制止するが言下に断る。
「失礼!」
2人が槍を交差させるのでスライディング気味に体を傾け間を抜ける。
そしてそのまま天幕の入口を跳ね上げ中に身を躍らせる。
内部はいつも通り上座に一段の段差を設け、
更にそこに簡易の玉座を設置し華琳に鎮座していただく。
そしてその脇に桂花が付き会議を進行し、
春蘭等は天幕の床全てをカバーする敷物の上に直に座っている。
「おかえりなさい隼人。
孫策の所はどうだったかしら?」
一瞬場の空気が止まり沈黙が生まれるが、
誰より早く気を取り直した華琳が口を開く。
「いやはや予想外に面白かったよ♪
よ、桂花!会議に遅れて悪い!」
それには軽口で応え桂花に謝罪すれば、
「悪いじゃないわよこの脳みそ下半身男!」
予想通りの罵詈雑言。
「おいおい桂花?あまり俺も賢いとは言わんが、
下半身で考えると言う程色ぼけは…」
「そう言う事は色街の女を整理してから言いなさい!」
すみませんグゥの音も出ません。
サムズアップしたままで硬直してしまった俺だが、
そんな事で再起不能になっていては桂花と付き合う事は出来ない。
「…それは置いといて……土産話があるんだが聞いてくれるか華琳?」
「何話を!」
「聞きましょう」
更に何かを-100%罵詈雑言-言おうとする桂花に被せて華琳が静かに話を促す。
桂花は口をパクパクとさせながら華琳を見て、
そして俺を殺意の籠もった鋭い目で睨みつけてくる-いや、逆恨みだろ?-。
「どうしたの隼人?
早く面白い土産話を聞かせなさい」
わかっているだろうに桂花をスルーする華琳は素敵だな。
「そんじゃ話させてもらおう…」
俺は孫策の所で行われた会談の内容を一部を除き簡単に説明する。
「…と言うわけさ」
勿論十常侍の反乱の情報は意図的に伏せる。
何故なら俺を信用して話してくれたのなら仁義は通さなくてはな。
華琳は少し頭の中で話を整理していたのだろう、
一度まぶたを閉じてから俺に問いかける。
「……あなたはその話に乗れと?」
「面白い話が聞けるぜ?」
その言葉が終わると同時にニヤリと即答する。
「足りないわね。
それでは私が赴く理由にはならないわ」
「ならば俺の命をかけると言えば?」
片肘をつき窘めるように否定の言葉を発する我が愛しの覇王に、
自分の不退転の覚悟を見せるため命を差し出す。
そしてその瞬間、
「チ!」
ピ……‥プシ!
春蘭の抜刀と共に額に痒み、そして頭部からの勢いのある出血。
「春蘭さま!?」
「兄さま!?」
季衣と流琉の悲鳴が聞こえるが仕方ない。
「返答やいかに?」
実際今の春蘭の抜刀なら軽々と避けられたんだが、
命賭けたと言ったのに避ける訳にはいかないじゃないか。
それに春蘭から殺気は感じられなかったし剣の軌道は額の皮一枚までだったからあえて斬られたんだ。
「……そこまでなの?」
「そこまでなのさ♪
あ、でも勘違いしないでくれよ華琳?
俺は華琳の客将でこの軍に不利になるような提案をしているつもりも、
華琳達を裏切って孫策達についたつもりもないから」
血で前が見えないが俺はそんな事は関係ないかのような笑顔、
だが内心はかなり不安でガクブルだ。
今の所春蘭からの攻撃の予兆は無いが、
今殺す気で来られたら何も出来ないで死ぬからね。
「そうは思えないのだけれどね?」
「信じてくれよ華琳」
世間話のように会話しているが俺の額からは相変わらず血が流れ続けている。
「信じてあげたい気持ちはあるわよ?
しかしこの提案は気持ちで答える物ではないでしょう」
「そう言わずにさ~頼むよ」
「仕方ないわね…‥」
ブン!
空気が裂かれる音がすると同時に自分に飛来する物体を感知するが動けない俺。
ゴン!
それは狙い誤らず額にぶつかり俺の意識を刈り取るのだった。
-1時間後
「うぅ…うん?」
「隊長!」
あれ?凪だ?
「大丈夫ですか隊長?」
大丈夫って何がだよ凪?
「っ痛ぅ!」
頭に軽い痛みを感じて顔をしかめる。
「無理をなされないで下さい隊長!」
凪の心配そうな声を聞きながら記憶を回復させていく。
「無茶するな~華琳は…」
ある程度まで記憶を遡れば大体何があったのかの予想はつく。
心配そうに俺の顔を覗きこむ凪を宥めながら気絶するまでの出来事を思い出す、
恐らく華琳の愛用武器である『絶』を投げつけられたのだろう。
「本当に大丈夫ですか隊長?」
「…俺は大丈夫なんだが、その後華琳達はどうした?」
記憶をなぞり終え一番気になった事を聞く。
「華琳さまは急遽孫策軍との会談の予定が入ったのでお留守です。
供に秋蘭さま桂花さまをお連れになり、
春蘭さまが季衣、流琉両名と共に留守を預かってらっしゃいます」
俺が聞くのを予想していたのか打てば響くように返答が帰ってくる。
「場所は?」
「孫策殿の提案で両軍の境にて行われています」
この答えにほっと胸を撫で下ろす。
「命賭けた甲斐はあったか」
華琳の事だから大丈夫だとは思っていたが、
正直確実とは言い難かったから不安は若干とはいえあった。
「これで孫策との約も違えずに済んだな」
ホクホク顔で独り言ちる俺だったが、
介抱してくれていた凪の柳眉がキリキリとつり上がっていく。
「隊長……隊長のお考えがどうであれ、
隊長は我が軍の…華琳さまの軍の中核をなす方です!
二度とこのような事のないようお願いします」
凪から諭されるように説教され一応神妙な顔はするが、
心の中では次同じような事があれば同じように対処するだろうなと独白する。
その後沙和と真桜からもコッテリ絞られた事を追記しておく。
-1時間後
気絶してから2時間が経過、随分回復した俺が自分の天幕で会談の推移を想像していると、
一気に天幕周りだけではなく軍全体が活気を帯びる。
「帰って来たか華琳…」
さてこれからどうなるかと一息ついていたら、
「神北将軍!曹操さまより緊急召集です!」
伝令が所在確認すら忘れて天幕に突っ込んで来て報告する。
「場所は大天幕だな?」
「は!そうであります!」
「わかったすぐ行く」
「は!」
俺が答えると伝令は敬礼を残しそのまま天幕の外へと駆け出して行った。
「さてさてどうなるやら」
一応会談の内容を予想出来る身としては、
事前にこうなるだろうと予想はしていたので留守中の指揮を凪に託して大天幕へと向かう。
-大天幕
大天幕へ向かう道々でもかなり浮き足立った兵を見ていたが、
大天幕の周りは特にその様子が顕著だ。
流石に華琳の耳の届く所で怒鳴ったりする奴はいないが、
それだけに一言も喋らず早足で急ぐ兵達のキビキビした所作が目に付く。
そんな様子を横目で眺め大天幕の入り口へと急ぐと、
「これは神北将軍!曹操さまがお待ちです、どうぞ」
歩哨の兵が入り口を開き誘導してくれる。
歩哨に礼を言いながら中に入ると秋蘭以外の全員が既に集まっていた。
既に浅い傷だし手当ても早かったため血も止まっているのだが、
沙和からのたっての希望-泣き落とし-により巻いている包帯を見て流琉が心配そうな顔で俺を見る、
それをニコリと柔らかい笑顔で安心させた所で華琳から声がかかる。
「来たわね隼人」
玉座に座らずに仁王立ちする華琳には気付いていたが、
見る限り機嫌は良さそうだ。
「お召しにより参上仕りました♪…って秋蘭は?」
「秋蘭は先に動かしてるわ」
簡潔に問いに答えて目線で着席を指示されたので、
それ以上口を開かず座る。
そして着席を確認すると華琳は一度俺達を順繰り見回してから口を開いた。
「…皆集まったようね、桂花!」
「は!」
そして今の今まで話に参加する事なく瞑目していた桂花に場を任せる。
「秋蘭に関しては華琳さまの言った通り先に動いているわ。
何故秋蘭だけ先に動かしたかと言えば…」
そこで桂花は一拍おき、
華琳と同じように俺達の顔を順繰り確認する-当然俺の顔はあまり見ない-。
そして再度口を開いたと思うと、
「時間がないのよ!
明日は朝から孫策軍と行動を共にするから、
春蘭!あなたは主力として動く為に兵に用意を!
季衣!流琉!あなた達は親衛隊に華琳さまの直衛の徹底を!
隼人!あんたには言いたい事が山!程!あるけど、
今は明日の出撃の為に我慢してあげるわ!
あなたの隊は孫策軍と協力して呂布を抑えなさい!」
一気にまくし立て仁王立ちをかます。
最後に華琳が一歩前に出て桂花に並ぶと、
「これは我が命である!
思案の時は終わった!各々の奮起に期待する!!」
会議の終了と激励を行えば、
「「「は!」」」
一瞬前まで面食らっていた俺以外の声が揃って木霊する。
そして3人はそのまま天幕を出て行き、
天幕には華琳と桂花、後俺だけが残った。
「何してんのよ隼人!あんたもさっさと準備に取り掛かりなさいよ!」
「…凄いネタだったろ?」
噛みついてくる桂花を無視して華琳へと問い掛ける。
「ええ♪私だけでなく桂花も秋蘭も絶句してたわ」
茶目っ気たっぷりな返答に満足した俺は、
笑顔で1つ頷き天幕の出口に歩き出す。
「…でも隼人…あなたに1つだけ聞かなきゃいけない事があるわ…」
ここでの話は終わったと思っていた俺は、
華琳の真剣な口調に少し怪訝な顔をして振り向く。
「あなたは私の客将よね?」
「…ああ」
「ならば何故事前に内容の一部なりとも教えなかったのかしら?」
華琳の目は本当に疑問に思っている目ではなく-華琳が察しが悪いわけない-、
完全に確認の為とわかる疑問を問うて来る。
「…会談内容は秘中の秘。
皆を信用しない訳ではないが、
情報を知るのを限定するのは当然だろう」
「怪我を負ってでも?」
「無論だ」
双方とも相手の反応をある程度予測した上での応答。
「ならば以後もこういった事はあるのかしら?」
「今回の例は珍しい事例ではあるが、
同じような場面では同じ対応をするだろうな♪」
最後の確認でニヤリとすれば、
華琳もニコリと極上の笑みを浮かべ、
「あなたを手に入れて本当に楽しいわ♪
明日は忙しくなるのだから準備を怠らないように」
「御意♪」
これで本当に会話は終わりと深く一礼、
そして足早に天幕を後にする-桂花の視線に耐えられなくなったとも言う-。
「さ~て…明日は天下無双と戦闘か!」
大きく背を伸ばし何でもない事のように独り言ちる。
まだ俺は知らない…天下無双は伊達ではないと言う事を…。
【第10話・終】
話は浮かぶのに上手く文章に出来ない文才ない自分。
自覚はあったがあまりにも上手くいかないと書くのが嫌になる…。
と、いった理由で遅くなりましたw
マイペースで更新しますんで御了承下さい。
感想あると更新は早まるけどねw
いや、書いてみると感想あるのとないのとじゃあモチベーションがダンチなんよ!
と、言いながらも自分の為に書いてるから完結まではいくつもりだけど(笑)