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第二十一話 加速していく過保護




 「上位術式………並列起動!?」

 話を聞いたギルド職員ケイン=ダンテ及び受付嬢アイシャ=ルブランは、小一時間…は大げさとして三十秒ほど、絶句していた。

 何も言うべき言葉がないのであれば、もうそろそろ帰ってもいいだろうかとギーヴレイが思い始めたあたりで、ようやくダンテが我に返る。

 「その………術式運用の分野で、そのような単語を聞いた覚えはあるのですが……あれは、理論上の仮説であって、未だ実現はしていないと……聞いて、いた…んですけど…」

 信じられない、という疑念と、これが真実だったらとんでもないことだ、という戦慄に、ひどくキョドっている。隣のシャロン受付嬢に至っては、自分で思考することを放棄しているようだ。

 

 正直、ギーヴレイは彼らが信じてくれようがくれまいが、一向に構わない。と言うか寧ろ、下手に信じられると詮索が煩くなりそうでそれはそれで勘弁願いたい。

 が、ここで法螺吹き野郎扱いを受けても面白くないわけで、どうこの場を切り抜けようか頭が痛かった。


 「あの、もし宜しければ……見せていただくことは出来ますか?」

 百聞は一見に如かず。ダンテは、一番手っ取り早い方法を取ることにしたようだ。

 「それは、ギガサーペントを倒したときの状況を再現しろということか?」

 「いえ!いえいえ!そんなことをしたら支部が壊滅してしまいます!!上位術式だなんて、街中で使ったらエライ騒ぎですよ!!」

 ギーヴレイの剣呑な双眸に冗談ではないものを感じ取り、ダンテは慌てて首を横に振る。

 「そうではなくて、並列起動の方だけです!何か、小さな術で構いませんので…」

 「………ふむ。ならば、この程度でも?」

 言うなりギーヴレイは掌の上に小さな火球を三つ、生み出した。【火炎球ファイアボール】は炎熱系の中でも初歩中の初歩の術式で、地上界でもポピュラーなものだったりする。

 …のだが、同時に三つも現れた火球に、ダンテは硬直した。


 「そんな………詠唱破棄だけでも凄いのに………あ、あの!もう一度!もう一度宜しいですか!?」

 ダンテの要望に応え、一旦火球を消してから次は同じような大きさの光球を、これまた三つ。光学系低位術式の【燈明花ライトニング】である。

 「す……凄い………本当に、術式が同時展開している…!」

 ダンテは、何がしか魔導分析系の得能スキルを有しているようだ(そう言えば先ほど解析眼とか言っていたような)。どこか焦点の虚ろな瞳が、ギーヴレイの掌の上に固定されている。

 「あの、その、別々の術式でも可能…なのですか!?」

 更なるリクエストに応えて、お次は【火炎球ファイアボール】と【燈明花ライトニング】を二つずつ。空中に漂う炎と光の球体を目にしたとき、ダンテの興奮は最高潮に達した。

 「う…ぉお………おおおおおおお!?」

 見えるからこそ、その凄さが実感出来るのだろう。ここで同じような反応を見せているのは、ラウレンスくらいだ。

 あとの三名、シメオン、イーノック、アイシャ嬢は、ギーヴレイが見せているのが地味目の低位術式だということもあってかポカーンとしている。

 「す……凄いですよ、ギーヴレイさん!!貴方は、間違いなく稀代の天才魔導士です!!これは是非、ギルド本部にも報告して貴方の等級を…」

 「いや、それには及ばん」

 興奮しきりのダンテの提案を、ギーヴレイは速攻で拒否した。上位術式の並列起動程度ならばそれほど秘匿すべき事柄ではないが、それでもあまり噂が広まってしまうのも煩わしい。

 「あまり騒がれることは私の好むところではない。出来れば、ここだけの話にしてもらえるだろうか」

 ギーヴレイは知らないことだったが、遊撃士の個々の能力・スキルは不可触のものであるというのがギルド及び世間一般の常識だ。極めて個人的プライベートな要素であり、自分から発表するならいざ知らず、他者が詮索したり暴いたりするのは決して褒められた行為ではない。それが暴かれるとしたら、第二級以上の犯罪者くらいなものである。

 なので、ギーヴレイにそう言われてしまってはダンテもそれ以上何も言えなかった。ただ、物凄く惜しそうな表情をしている。

 「そうですか………けど是非、昇級試験は受けるべきですよ。これほどの技術を持っていて第九等級なんて、有り得ません」

 並列起動を見せられただけで、既にギーヴレイの能力を疑うことをやめている。ここまで高度な運用技術を持っていれば上位術式を使えたって不思議ではない、と判断したのだろうか。

 「こちらの支部では昇級試験は行っていないのですが、隣のエラール市なら第三等級までの認定が可能です。ギガサーペントの討伐実歴があれば、おそらく一気に第三等級までなら受けられますよ。こちらで推薦状も書きましょう」

 「いや、そこまでしてもらう必要はない」

 ギーヴレイ的には、第三等級は避けたい。出来れば、その下の第四とか第五で止めておきたい理由があるのだが…

 「どうしてですか?等級が上になればなるほど受けられる依頼も増えますし、割のいい指名依頼だって舞い込んできますよ」

 「…………」

 しかしその理由は極めて個人的な感情に絡むものであり、かつ彼らに話せる内容でもなく、どう説明したものかとギーヴレイが言い淀んでいると…


 「あー、やっぱりまだこんなところにいたんですね!」

 いきなり声がした。

 「ダメじゃないですか、仕事が終わったらすぐ帰ってこないと、シーナちゃん淋しがりますよ」

 ギーヴレイたちが話していたのは、ギルド支部の一階の片隅にパーテーションで区切られた一画だったのだが、その仕切りからひょこっと顔を出したのは、「勇者」ライオネルだった。


 突然の大物の登場に、ダンテとアイシャは飛び上がる。シメオンたちは勇者の顔を知らないのか、キョトンとしているのだが…

 「ゆ、勇者さま!?どうしてここに……いらっしゃるなら連絡頂ければお迎えに上がりましたのに…」 

 やはり「勇者」は特別なのだろう。ダンテが慌てに慌ててライオネルに駆け寄るのを見ていたシメオンたちは、一瞬の間をおいてから目を丸くした。

 「え………えええ、勇者!?」

 「勇者ってあの……聖戦の英雄?なんつったか、三剣みつるぎの……」

 「どうして勇者さまがこんなところに……」

 口々に驚きを表す三人に、ライオネルは優雅に一礼した。

 「初めまして。僕はライオネル=メイダード。三剣の勇者の一人、剣姫を名乗らせていただいています」

 特徴的な出で立ちも気にならない程に彼らの驚きは大きかったようで、誰もそこのところは言及する様子はなかった。

 「え、それで……もしかして、にーさんと勇者さまって、知り合いだったり…?」

 「あ、そう言えばお二人はお知り合いでしたね。そっかー、勇者さまのお友達なら凄い方でも不思議はありませんね!」

 恐る恐るな感じで尋ねるシメオンに続いて、アイシャが得心がいったようにポン、と手を打ち鳴らした。

 「もしかして、勇者さまと一緒にパーティーを組んでたり…?」

 「それは違う!!」

 言語道断の勘違いをギーヴレイは速攻で否定した。こればかりは、誤解されては堪らない。その勢いの強さに、アイシャは吃驚してライオネルとギーヴレイを見比べた。

 「アハハ、そんな全否定しなくても……けどまぁ、彼が強いのは僕が保証しますよ。控えめに言っても、聖戦の英雄クラスはあるんじゃないですか」

 「貴様は余計なことを言うな」

 勇者の保証なんて嬉しくも何ともないギーヴレイである。

 「そんなことより、何の用だ」

 「何の用って……大した依頼でもないのにまだ帰ってこないもんだから、様子を見に来たんです。シーナちゃん待ちくたびれちゃってますよ」

 腰に手を当てて、何やら説教臭いライオネル。しかし、

 「……で、貴様シーナはどうした?」

 「え?宿でお昼寝してますよ。目を覚ます前に貴方を迎えに行こうと思って…」

 「寝ている幼児を一人にしては何のために貴様がいるのか分からんだろうが!」

 ギーヴレイの苛立ちの理由が理解出来ないのは、彼が未だ幼子を育てた経験がないから、だろう。

 「え?え?だって……今までも彼女、一人で暮らしてたんでしょう?赤ん坊ってわけじゃないんだし、少しくらいは…」

 「暮らし慣れた村と此処とでは話が別だ。要らぬ世話を焼こうというなら最後まで徹底しろこの阿呆が」

 「ちょ、それ非道い……って、待ってくださいよう!」

 アテにならない子守りを怒鳴りつけると、ギーヴレイはその場を放り出して足早にギルド支部を出て行った。その後を、勇者が慌てて追いかける。


 話も中途半端なところで中断されてしまった残りの面々は、勇者相手に無礼千万な態度のギーヴレイとそれに対し平然としている勇者の遣り取りに唖然として、ただ二人を黙って見送ることしか出来なかった。




 

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