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新米教師ユリカの四十九日間戦争  作者: とら猫の尻尾
序章 第三の怪獣現る
5/13

蛇行する人生を歩む女

 サイレンを鳴らした救急車が矢継ぎ早にすれ違う。

 最初の方こそ、何となくその台数を数えていた友梨香だったが、それが十五台を越えた辺りから、もうどうでも良くなっていた。


「おい、ちゃんと前を見て運転しろー!」

「ハッ、わわっ!」

 

 遠ざかる救急車をサイドミラーで見ていた友梨香は、その声に慌ててハンドルを切る。

 大きくふらつく赤い軽ワゴン車。

 後続の車にクラクションを鳴らされ、さらに慌てた友梨香はアクセルを戻してしまう。

 国道十七号下り線は、クラクションの大合唱が始まった。

 緊急事態は事件現場ばかりで起きているとは限らないのだ。


「ううっ、……ごめんね幸村君」


 米澤友梨香はこの春に運転免許を取ったばかりの、とんでもなく初心者ドライバーだった。

 

「俺に顔を向けなくていーから! 前を向け前をー!」

「うん、わかった。でも、先生うれしいんだ……幸村君だけなんだもん、私の隣に座ってくれるのは……うふっ」

「ああ、そうだろうなー! 良く分かるぜぇー! あー、ここ左折専用車線だぜぇー!」

「あわわっ、どうしよう……」


 友梨香はチラッとサイドミラーを見てから、ぐいっとハンドルを右に切る。

 ミラーの死角にいた後続車のブレーキ音とクラクションが同時に鳴った。


「あーんもう! 初心者マークを付けているんだから、ちょっとは優しくしなさいよー! もうー! いやー!」


 友梨香は周りから同時に責められると、破れかぶれになってしまうことがある。怒りのリミッターは意外と低いのである。


 助手席の幸村は、やれやれという表情を浮かべて腕を組み、静かに目を閉じた。

 頭のリミッターが外れた友梨香には、何を言っても無駄だということが、彼には分かっているからだ。


「……あっ、もっと急がないと、午後の授業が始まっちゃうよね! 私、運転頑張るよ!」

「いやもう諦めろ! 事故ったら行き先が学校でなく病院に変わっちまうぞ?」

「ううっ……それは嫌だよぉー。あ、私は五時間目は空き時間だったぁー、ラッキー! えっと……幸村君は……げげ、加藤先生の英語じゃないの! 英語は頑張るって幸村君言っていたもんね?」

「あー、それはもういいよ。今日は俺サボる。明日から頑張るぜ! 今日は単語テストの日だけどさ、どうせ勉強してねーから点数取れねーし!」


「――――はっ?」


 友梨香は、まん丸お目々を見開いて、助手席で腕を組みふんぞり返っている教え子を見た。


「バ、バカヤロー! 前を見ろ前をー!」

「あわわっ」


 車は対向車線に大きくはみ出し、再び起こるクラクションの大合唱。

 だが、友梨香はアクセルを踏み込んでいく。

 660ccのターボエンジンがうなる。


「な、な、なぜ加速するー? テメェー、死にてぇーのかぁぁぁー!」

「私、幸村君のお母さんと約束したんだもん! あなたを卒業までちゃんと面倒を見ますって! 単語テストで点数取らないと英語の赤点は確実なんだからー!」

「うおぉぉぉー、そのまえに俺は人生から卒業しそうだぁぁぁー……」


 教え子が騒がしい。

 頭を茶髪に染めて、耳にはピアス。

 教師を教師としてみない横柄な態度。

 汚い言葉遣い。

 

 そんな彼が、少しスピードを上げたら悲鳴を上げる。

 これって――


 ギャップ萌え?――

 

 私は今、幸村君に萌えているの?――



 いや、そんなことは有り得ない。と、友梨香は首を振る。

 

『ゲロゲーロ』

 

 蛙が鳴いた。

 魔法が効いていないときの『ゲロちゃん』は、ぶよぶよした体の蛙なのだ。

 後部座席が土や粘液で汚されていくことが心配で、友梨香はバックミラー越しに蛙を何度もチラ見した。 



 ああ……

 ようやく憧れの高校教師になれたというのに……

 人生というものは、どうして思い通りに進まないのだろう。


 あの日、廃墟の中で――

 彼に出会ってしまったことが、全ての始まりだった。



 友梨香は三週間前の出来事を回想する。

 梅雨入り間近のその日は、雲一つない青空が広がっていた――


 ――――


 ――





ここまでお読みいただきありがとうございまーす!

今話は序章のエピローグ兼、次章のプロローグでもある、繋ぎとなる部分でした。

前話で登場した『幸村』と友梨香の掛け合いを楽しんでいただけたら幸いです。


挿絵(By みてみん)

作者らくがき『友梨香の愛車』

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[一言] いえいえ、歌詞といっても  あの日、あの時、あの場所で――  彼に出会ってしまったことが って部分が、思わずラブストーリーは突然にの節で鼻歌歌っちゃっただけですのでw 歌詞は微妙に…
[良い点] ユリカがいちいちボンコツなところ! 気が弱そうで、そうかと思ったら吹っ切れたり、なかなかいいキャラですねw ギャップ萌ってw ユリカ楽しいなぁ! [一言] 小田和正がでた辺りで引きです…
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