ユリカ参上
宇宙からの『落とし物』が、火球となり関東北部の地方都市へ落ちていく。
数秒後、合同庁舎ビルの上部を破壊し大通りに着弾。
アスファルトは陥没し、その衝撃波で大通りに面したビルの窓ガラスは割れ、人々の頭上に降り注ぐ。
水曜の昼下がり、ビジネス街の日常は一瞬にして崩壊した。
煙がもうもうと立ちこめる大通りの窪みの底で、緑と青のまだら模様の液体がブクブクと湧き始める。
数秒後、爬虫類の手のようなものが亀裂の入ったアスファルトにべたりと張り付く。緑と青のまだら模様の胴体がのそりと這い出してくる。
姿形こそ大山椒魚に似ているが、その大きさは路面に横転しているトレーラーよりもさらに大きい。
頭から尻尾の先にかけての体側部には、無数の眼球がキョロキョロと不規則に動いている。
あきらかに地球上のものではない、おぞましき姿の怪獣である。
怪獣の全身が道路に出ると、眼球の一つ一つが逃げていく人間の背中へ向けられる。
微かに透き通る体内から泡がブクブクと湧き出し、緑と青のまだら模様の皮膚が波打ち始める。
その振動は不気味な音となり、逃げ惑う人々の恐怖心を加速させていく。
――ブッシャァァァ――
ゴム風船が弾けたような勢いで、怪獣の背中から生えた無数の触手が飛び出していく。
それは大通りを走る者を追い、さらに路地裏へ逃げ込んだ者までも追っていく。
退路を断たれた者たちは一瞬息を飲み、恐怖の悲鳴を上げる。
その悲鳴を待っていたようなタイミングで触手の先端が蛸の足のように広がり、次々と人間を飲み込んでいく。
ビジネス街は人々の悲鳴が飛び交う地獄絵図と化した。
数分後には、街のあちこちにドロドロの液体まみれとなった身体が横たわっていた。
色を失った目をただ開き、半開きの口から呼吸をするだけの存在に。
ホースに流れる水のように、触手の中を光の粒が怪獣の本体へ向かって流れ込んでいき、怪獣の身体はぐんぐんと巨大化する。
怪獣の身体が大きくなるにつれ、被害の範囲は加速度的に広がっていく。
残された人々は悟った。
もう誰も助からない。
次は自分の番だろう……
その時だった――
「待ちなさい怪獣！」
悲鳴を掻き分け、ビルの谷間に女の声が響きわたった。
その瞬間、すべての触手の動きがピタリと止まり、怪獣の体側部にある眼球が一斉に上方へ向けられた。
「大黒生命ビルの上を見ろ！ 誰かがいるぞ！」
続く男の声に、人々も一斉にビルを見上げた。
「あ、あれは……」
「あの人は……」
スーツを着た青年が震える手でスマホを操作する。
画面にはＳＮＳに出回った一枚の画像が映っている。
それは一週間前、隣町で撮影された怪獣事件の画像――
「ユリカ様!?」
「マジか!?」
その画像には、怪獣に立ち向かう人物の後ろ姿が写っていた。
「ユリカ様は本当にいたんだ！」
「私たちを救いに……」
「来てくれたんだー！」
たった一人で凶悪な怪獣に立ち向かい、隣町を救った救世主。
その名は、ユリカ。
彼女は今、大黒生命ビルの屋上から怪獣を見下ろしていた。
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