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氷天の禊  作者: ラキ
王の器
16/31

空木

 「来たぞオヤカター」


 レンは閑散としている店の入り口から声をかけた。しばらくして奥から筋骨隆々の男が出てくる。初老に差し掛かるくらいの歳の男はタンクトップ一枚という軽装で彼を迎える。


 「ん?お前か、ボウズ」


 「いつまでもボウズって呼ぶなよ」


 キョウの外れにある鍛冶屋。何年か前は注文やらなんやらでこの時間でも一人二人はいたものだが、通信機器が普及したここ数年では受け取り以外では店を訪れない人もいるくらいだ。


 「まぁとりあえずモノはできてる。着いてこい」


 レンはオヤカタに連れられ、店の奥へと入る。そして彼は立て掛けてあるカタナを手に取り、レンへと手渡した。

 彼はカタナを鞘から抜き、刃をまじまじと見つめる。


 彼の背丈ほどもある刃。その細やかな刃文を眺めている。


 「オヤカタ、これ中になんか入ってるの?」


 刀身から微かに漏れる魔力に気付き、問いかける。


 「おお気付いたか。幻妖鋼を柄と刃先に練りこんである。その分全体が重くなってるが……問題無いだろ?」


 「あぁ。……手に込めた魔力が柄を通して刀身に渡るって感じか。良いね、気に入った」


 レンはそれを鞘に納め、肩に担いだ。


 「……ただ問題はやはりその重量だ。短期戦なら問題なくとも、数時間……それ以上の時間の戦闘行動をするならやはりこれが枷になりかねない。だから──────」


 レンはぷふっ、と吹き出した。


 「大丈夫だって。どうなろうと負ける訳無いだろ?」


 「あー、そうだな。ま、頑張れよ」


 「ありがとな、オヤカタ」


 外に出ると、オヤカタはカタナを背に差し去っていくレンを見送っていった。



 鍛冶屋を後にしたレンは大通りへと入っていく。


 キョウの街並みは他の都市とは違った雰囲気を出している。家屋のつくりは記録もあいまいなくらい昔からの文化だそうで外からは主に「ワフウ」の建造物だそうだ。そんなワフウの木造建築が所狭しと並び建ち、大きな商店街になっている。そして武士の姿もちょくちょく見かける。


 武士は平常時も腰に刀を差しているのが特徴の一つだ。彼らは彼ら自身の武芸、カタナに誇りを持っており、相当に我が強い。だからなのか、目をつけられたら厄介なことになる。


 彼はそのまま住宅街へと入っていき、ある所へと向かっていく。


 五分ほど歩き、大きな屋敷が見えてくる。代々サムライを輩出している名家であり彼の生家である「空木家」だ。彼は塀に飛び乗り、二階の窓の一つに飛び移る。そしてそれを開け、中にいる少女に声をかけた。


 「アキ、久しぶり。元気してたか?」


 少女……アキホは「うわっ」と声を上げ、窓に駆け寄る。


 「に、兄さん!?いきなり……ていうかこんな真昼間からどうしたの?」


 「ま、少し前からこのあたりに来ていてな。ついでだから会いに来たんだ」


 彼はいたずらっぽく笑みを浮かべる。それを見たアキホは少し息をつく。


 「……2年ぶり、よね。いきなり来て、しかもこんな昼間にどうしたの?」


 「あ、そうそう。親父にも伝えてくれ。この先一週間、キョウは少し荒れると思う。少し街を離れろ」


 「そうなのね。兄さんがわざわざ顔を出すくらいだし、嘘ではないんでしょう。兎に角わかったわ。王都にでも行けばいい?」


 レンは首をふる。


 「王都はダメだ。そこもそのうち荒れることになる。そうだな……スノーリアあたりに行けば良いと思う。気をつけて行くんだぞ?」


 「スノーリアね、わかった。……兄さんも気をつけて」


 レンは頷き、窓から飛び降りて行く。そしてアキホはその後ろ姿を眺め続けていた。



 もう七年も前のことになる。その頃のキョウは今より随分治安が悪かった。泥棒は毎日のように現れ、それを直接取り締まるはずの下っ端サムライ達は権力を振りかざし一般民を脅し、金をゆすり取ることも多かった。


 そんな頃だからだろう。散歩しているレンとアキホがサムライ達に絡まれ、金を持ってないとわかるとアキホを連れ去りレンを叩きのめしていった。


 そこを偶然通りすがったニックスとヒノ。二人の協力でアキホを救出することが出来たのだ。それからレンは二人についていき、家を出ていってしまった。アキホはそれに激怒した父をなだめるのに苦労したものだ。


 アキホは空を眺め、少し溜め息をつく。懐かしんではみても彼女にとっては少し苦い思い出だ。それでもたまに顔を出す兄の顔があまりに輝いているのだから、悪いことばかりでもなかったのだろう。アキホは父への伝言を預かってしまったので、それを果たすべく居間へと降りていった。




 時間は少し遡り、禊萩の小屋にて。


 「……本気ですか?キョウを壊滅させるなんて」


 「えぇ。壊滅と言っても上層部と戦闘員を潰すだけなんだけどね」


 声を震わせるナツメグに対し、ネロはただ冷静に答える。


 彼らの作戦、その第一段階。その準備のためにヒノ、ガルム、そしてニックスが既に動いている。


 「潰すって……殺すんですか?」


 「一般兵ならまだしもメイジや上層部はね。特に追い詰められたメイジの厄介さ……なんとか避けないとね」


 「そう……ですよね」


 ナツメグは俯き、呟いた。



 王子としてある程度知識のある彼は理由を理解することは出来た。相手方のメイジが『覚醒』することを恐れてのことだろう。


 そもそも魔力とは生命力そのものであり、神経を通じて全身に回っている。本来それは有限であり、誕生してからは新たに作ることはできない。ただ、稀に生まれ落ちてからも自ら魔力を作り出すことができる動物が生まれてくる。それが魔法使い(メイジ)の卵となるのだ。


 ただ、古い文献によるとこんな記述がある。魔力とは精神力の表れだと。例えば動物……特に知能の高いものの心に大きな負荷を与えると、魔力を吹き出し、それを扱い始めるという。そしてその動物の心臓には五つ目の部屋(・・・・・・)があったそうだ。


 そして、既に魔力を扱う人間(・・)の一部にさらに大きな負荷……その人物の死に瀕する自体になった時。彼らの扱う魔力の量が一回り増えたのだそうだ。


 そのトリガーとなるのは怒り、悲しみ、決意などの感情、それも相当に深いものだ。


 ただでさえ圧倒的に数的不利である禊萩がそれを避けようとするのは当然だろう。同等以下ならまだしも、自分達より強い怪物を呼び覚ましてしまう可能性があるのだから。



 「箱入りの王子様にはきついかもしれないけれど、恐らく私達と戦闘するメイジは生きて帰ることは出来ないでしょうね。ま、こればかりは諦めてほしいわ」


 ネロは諭すように言い、コーヒーを飲む。


 「僕には何を言う権利も無いでしょう。僕はあなた達に従うしか無い」


 「物分りが良くて助かるわ。……そろそろレンも帰ってくるだろうし、そしたら今後の動きをちゃんと説明しておきましょうか」


 「その事で一つ質問があります。……レンさんはキョウが故郷だと聞きました。そこを攻撃するのを彼はどう思っているんでしょうか?」


 「それは……本人に聞いた方がいいかしらね」


 ネロはそう言い扉の方へ目をやった。その直後に扉が開き、レンがいくつか袋を持って帰ってきた。


 「ただいまー。ってありゃ?どうしたんだお前ら、そんなに見つめて」


 レンは台所に袋を置き、近くによって椅子に座った。


 「ちょっとね。ナツメグくんが君のこと知りたいって言うから」


 「俺の事?」


 「自分の故郷を攻める理由。気になるみたいよ?」


 彼はガシガシと頭をかき、ナツメグの方を見つめる。


 「あー、気になるかそれ。時間は……まだ余裕あるな。少し長くなるけど、いいか?」


 「いいんですか?」


 ナツメグは申し訳なさそうに言う。


 「いいよ別に。そんな隠すほどでもないしな。……さて、どこから話そうかな……」


 レンは頬杖をつき、語り始めた。

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