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氷天の禊  作者: ラキ
ボーダー奪還戦
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アエテルタニス

────むかしむかしのことでした。

 世界には七つの悪魔がおりました。

 悪魔は人々を欺き、力を振るい、傷つけました。

 王様は見かねて一人の青年を勇者とし、悪魔を倒すように命じました。

 勇者は七つの悪魔を倒しましたが、その力の欠片はは人々の魂に宿ってしまいました。

 人はこれを魔力と呼び、魔法を使えるようになりました。

 しかし、魔法に溺れた人々がそれを使いすぎたら、一つの悪魔がよみがえってしまいました。

 そして悪魔はどうやってかほかの悪魔も蘇らせ、王様を、人々を殺してしまいました。

 勇者は自分の命とひきかえに悪魔を再び倒しました。

 生き残った人々は長い年月をかけ再び国を作りました。

──────




 「……ほいよ、これが今回の報酬だ」


 そう言うと小太りの中年は硬貨の入った袋をフードの男に渡した。男はじゃらじゃらと袋の中身を確認した。そして彼にあることを聞いた。


 「悪魔伝説って知ってるか?」

 こども騙しの伝説だ、と彼は笑った。男はそうか、とだけ言うとその場をあとにし、大通りへ向かった。


 今までいた裏道────裏商売の場だとどうしても息が詰まるものだ。大通りに出ると男はふぅ、と息をつき、フードを脱いだ。銀色の髪が風に揺れ、蒼い瞳は街並みを見渡している。左目の周りには痛々しい傷跡があるのだが。


 ここは魔導大陸アエテルタニス、その東部の国のムスプルヘイムの城下町だ。王都の城下町なだけあって、さすがに賑わいがある。肉屋や八百屋は声を出し人を呼び込み、胡散臭い占い屋や情報屋がにやけ顔で客と話している。


 男が菓子屋を見つけ、歩き出した時のことだ。男の懐から通信端末の音がする。


 舌打ちしながら端末をとり、少し裏道に入る。賑やかすぎる街中じゃ会話なんて出来やしない。


 「よー!久しぶりだな~!」


 いやに元気な少年の声が聞こえる。男……ニックスは軽くため息をつく。


 「その声はレンか。久しぶり。そっちは順調か?」


 「まーぼちぼちって感じだ。ガルと"オーブ"一つ取って来れたしな。んでお前の方は?」


 「収穫なしだ。さすがにガード硬めって感じだな」


 「まーそのうちなんとかなるさ。あ、ガルとも話すか?」


 「いやいいよ。ガルもいいって言うだろうしな。」


 「だろうな。らしいっちゃらしいや」


 レンはくくっ、と笑った。


 通信を切ると、ニックスは上を向いて呟いた。


 「なぁハル。見ててくれよ。」


 城下町を歩いていると噂話も流れてくるものだ。


 「魔導学園のレベルが下がってる」


 「最近景気が良くなっている」


 「"禊"の連中が帝国の国宝を盗んだ」


 他愛もない噂話。帝国はそれについて名言はしていない。それはそうだ。もし認めたら、国の核たる城の警備がザルだと明言することになりかねない。


 "禊"とは、3年前に突如現れた勢力だ。全員が凄腕の#魔法使い__メイジ__#で非魔法使いの殆どは相手にもならない。数人はデータがあるものの全体の人数、能力、数人は顔や名前すらも分かっていない。


 ニックスが歩いていると空き地に人だかりが見えてきた。魔導学園の学生達が魔法の練習をしているようだ。


 魔法には通常五つの属性がある。

 加熱、炎を発生させる力を示す火属性。

 水流水圧を自在に操る心を示す水属性。

 大地や地面を動かす癒しを示す土属性。

 雷などの電気を操る速さを示す雷属性。

 鎌風をも引き起こす鋭さを示す風属性。


 人は適切な訓練をしたり、心に大きな負荷をかけたりすると魔力に目覚めることがある。


 魔法を扱えるようになる人間はおおよそ三人に一人。そのうちの殆どが一つの属性を扱うことができる。才覚のある者は二属性、もしくはそれ以上の属性を扱うことができる。三属性扱えるようになったものは魔導学園の教授職か戦場の英雄になるか、はたまた多くの属性に耐えきれず早死するかだろう。


 魔導学園の生徒の殆どは訓練によって魔力に目覚めている。そして訓練しているだけあって強力な魔法を扱うことが出来る。しかし彼らはひとつ発動するのに5~10分くらい集中する必要がある。要するに戦闘にはてんで向いていないのだ。とはいえ威力はかなりのもので、1時間集中し続けることができれば城をも吹き飛ばすことができるだろう。……城に強力な結界が貼っていなければだが。


 「彼らが気になる?」


 後ろから声をかけられた。ニックスが振り向くと、そこには鎧を纏った金髪の女性が立っていた。


 この鎧は国直属の軍、通称[騎士団]のものだ。


 彼女は後ろで髪を結び、赤い瞳はニックスを真っ直ぐ見ている。


 「私のこと、覚えてる?」


 ニックスは首を振った。


 「いや?どこかで会ったか?」


 「そっか、それならいいや。ニックス君、だよね?」


 「あぁ、よく知ってるな。あんたは?」


 「私はリオ。リオ・ブルーム。ニックス君、君に依頼があるんだけど、いいかな?」


 「それは構わないが……あんたは騎士団の人間だろ?外部の奴を雇う必要なんてないだろう」


 「うーん……」


 リオは時計をちらっと見ると、軽く微笑んだ。


 「場所を変えましょう。お代は私が出すから」



 喫茶店にて。


 「それで、俺を雇う訳って?」


 「うん、単純に人手不足よ。今回命じられた作戦が無茶だなんだってみんな辞退しちゃって……」


 リオは目線をそらし、ため息をつく。


 「......んで、その作戦は?」


 「ごめんなさい、それは言えないの」


 「それじゃあ受けられるものも受けられないぞ?」


 ニックスは呆れたように言った。それを聞いたリオは慌てたように言った。


 「あーそうだ報酬! 今回の作戦が終わったら金貨100枚出します!」


 ニックスはそれを聞いて呆然とした。


 「マジかそれ。ぶっ飛んだ報酬だなお前」


 「大丈夫。成功時は国からそれ以上貰えるから」


 心なしかリオ自身に言い聞かせるようにも聞こえる。


 「ま、いいか。国との繋がりもできるわけだしな。その仕事、乗った」


 その返事を聞いたリオは目を輝かせ、嬉しそうにしている。


 「ありがとう! うん、本当に。それじゃ、早速だけど兵舎に着いてきて。作戦はそこで話すから」


 二人は騎士団の兵舎に向かっていった。

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