私は私、あなたはあなた
返された言葉で、やはりアリアにはイザベルが恋をするならエドガー達攻略対象だと、勘違いされていたのだと思った。
(まぁ、ネット小説でよく読んだけど)
とは言え、いくら乙女ゲームの世界でも、ゲームと同じ名前や見た目でも――私達には、心がある。エマが殿下の婚約者になったのは、ゲームに沿った訳じゃない。確かに前世の推しキャラらしいが、ゲームの設定を知っているからこそ彼の為に身を退こうとしたが、私と話してそのまま婚約者としていられることになり、恋心を自覚したらしい。
(確かに、相手の為にって行動するのは『愛』よね)
(カナさんが私や、皆の為にって行動するのも『愛』よ?)
(……本当、イザベルってば天使)
可愛いことを言う現世の私にときめくが、それこそ聞いた乙女ゲームのキャラクターと一番違うのが現世の私だ。そして自画自賛ではあるんだけど、元々良い子だったけど彼女には私がいたから、自分の境遇に自暴自棄になることも拗らせることもなく可愛く元気に成長した。
(……そんなイザベルが、許してくれたんだから。「誰?」って言われたのには、怒っていいよね? そりゃあ、脳筋一筋だから関心がないんだろうけど……ラウルさんは、あんなに優しくて素敵なのに)
私は、乙女ゲームのキャラクターじゃない。あと、見た目は十代だけど前世で生きた年数も追加したらアラサーどころかアラフォーだ。
だから怒鳴って悪目立ちしたりはしないけど、目の前の子にははっきりキッパリ言おうと――私は気合いを入れてにっこり笑い口を開いた。
「私の好きな人のことを、そんな風に言わないで下さい」
「……あ」
「殿下達とは確かに、子供の頃からの知り合いですが……ラウルさんは、修道院に入ってからずっと私を守って、支えてくれたんです。そんな素敵な人がいるのに、他に目なんていきません」
だから私は、あなたの恋敵ではありません。
最後は言葉にしなかったが、アリアには通じたようだ。先程までの躊躇はなく、男子用の制服なのでスカートを摘まむのではなく、胸に手を当てて私に頭を下げた。
「今までの数々の無礼、申し訳ございませんでした……私は、どんな罰でも受けます。ですからどうか、家や両親はお許し下さい」
「反省しているのなら良いですよ、あなたを許します。これから、気をつけて下さいね……あなたはあなたとして、卒業まで学園生活を満喫して下さい」
乙女ゲームのキャラクターとしてではなく、一人の人として――言葉に込めた意味が通じたらしく、アリアは顔を上げて今までの王子様のではなく泣き笑いの、可愛い女の子の表情で頷いた。
「はい」