表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/113

きっかけは大事

 元々、学園は魔法の使い方を学ぶ為、貴族の令嬢令息が通う学校である。平民でも適性があれば通うこともあるが、それは本当に例外だ。

 それ故、学園に通うことには他の貴族と交流するという目的もある。卒業後、そして成人後の為だ。しかし今の一年は、最初に揉めてしまったせいでその目的が果たせていない。それ故、最近の寄り添い部屋で語られる不安が「いつまでこの膠着状態が続くのか」になっていたのだ。


(見た目は大人っぽい子もいるけど、何せ十六歳だものね……学園にいる間は他の子もいるけど、この乙女ゲームの学園は、全寮制じゃないから。通学組は、親にどう思われるか不安にもなるわよね)


 だから私は、この新入生歓迎会を今の状況を打破する場に選んだ。泥臭い言い方になるが『同じ釜の飯を食べること』には、それだけの力があるからだ。毎回ではなかったが、私が職場の飲み会に節目の時だけは参加したのはその為である。

 ……そう、ちょうど今のように。


「「美味しい……」」


 焼き菓子――マドレーヌを食べた女生徒二人が、ほぼ同時に声を上げる。彼女達はそれぞれ、赤いカチューシャと青いリボンをつけている。

 今までだったら、自分の『好き』を否定されると思って、すぐに距離を取っていただろう。

 けれど、今は。同じマドレーヌを食べて、同じ「美味しい」を口に出来た今なら。


「素朴ですけど、美味しいですね」

「ええ。とても優しい味で」


 それぞれの感想を口にして、二人は笑い合う。そう、お互いの『好き』の話をしなくても、今は共通の話題に出来るお菓子や軽食があるのだ。


「美味しそう……」

「取ってこようか? ……良ければ、だが」


 サンドイッチやパスタが並ぶテーブルには、予想通り男子生徒が集まっている。

 それ故、遠慮しつつも羨ましがる女生徒に声をかけたのは、以前にやらかしたヒースだった。声をかけられた女生徒は驚くが、強引にではなく確認されたことが良かったのか、おずおずと口を開いた。


「ありがとう、ございます……お願いします」

「っ! ああ、解った! パンとパスタ、どちらが良い?」

「……あの、どちらも」

「解った!」


 ヒースの口調からすると、同じ下級貴族なのだろうが――頼まれたのに、嬉しそうにヒースが笑うと、女生徒もつられたように笑った。緊張が解れたその笑顔は可愛くて、ヒースが赤くなりながらも軽食を取りに行く。初々しい。

 そんな二人のやり取りを見て、他の生徒達も同じように軽食を取って貰ったり、逆にお菓子を取ってあげたりが始まった。良いきっかけになったようである。

 ……さて、アリアはどうしているかと私が目をやると。


「これ……」


 何故か、テーブルにある焼き菓子――クッキーを凝視して、固まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ