お約束じゃなくても
異世界で生まれ変わり、前世の私(加奈)が現れた時、思ったのは「前世みたいに、人の為に働きたい」ってことだった。
今でも、その考えは変わらない。そしてそうして働いてきたことで私と、現世の私の世界は広がった。
そんな私がラウルさんを好きになることを、エマと現世の私は喜んでくれている。
ただ、言われた内容がちょっと気になったので、私はやんわりと訂正を入れた。私はそんな、出来た人間じゃない。
『別に私、自分を犠牲にしてるつもりはないわよ? まあ、始めたことを形にするのにいっぱいいっぱいで、余裕がなかったのは否定しないけど』
『それは……まあ、それも否定しませんけど、でも』
『でも?』
『……イザベル様、ラウルさんといる時はリラックスしてるんです。だから私は二人が一緒にいるの、好きですし嬉しいんです』
エマの言葉に、私はパチリと瞬きをした。ラウルさんのことを頼りにしているとは思っていたが、仮にも人見知りの私がリラックスまでしているとは思っていなかった。
(いや、でも)
それこそ修道院に入った時から、私はラウルさんに抱き上げられたり、何かあっても助けて貰っていたりする。だから、私はラウルさんを信じているし――今思えば、好きだからと言うのもあって、エマの言うところの『リラックス状態』だったかもしれない。
だが、アリアがああ言ってきたところを見ると、少なくとも彼女にはそう見えていないという訳だ。
『……ラウルさんは、攻略対象じゃない。ネット小説なんかを読んでいれば、悪役令嬢の運命は攻略対象以外じゃないって勘違いされるかもしれない。少なくとも、私のことを恋敵だって言う彼女にとっては、そうなんでしょうね』
そこで一旦、言葉を切って私は闇魔法の壁の向こうにいるエマに話の先を続けた。
『お約束じゃないのと、好き嫌いは全く関係ないし……そもそも私、脳筋の恋敵に収まるつもりはないの。だからお願い、エマ。協力してくれる?』
『解りました!』
私がそう言うと、エマは元気に返事をした。何なら見えないが、右手を挙げていてもおかしくないくらいの勢いだった。
そして私は、エマにあることを提案し――エマは頷いて、殿下に伝えることを約束してくれた。