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撤回と決意と

 言った、言ってしまった。

 だが、口から出た言葉は戻らない。それ故、ラウルさんから何と言われても受け留めようと、真っ直ぐに見つめていると――ラウルの眉と目尻が上がり、強面の顔が怒りで更に迫力が増す。もっとも普段のラウルを知っている私からすれば、その顔を怖いと思うことはない。

 ないが、このタイミングでの怒りとなると、やはり嫌われたかと落ち込んでいると――目尻を吊り上げたまま、ラウルさんは口を開いた。


「俺が聖女様を嫌うなんて、ありえない。聖女様とは言え、そこは譲れない。撤回してくれ」

「……えっ?」

「俺が情けなくて、聖女様に嫌われることはあるだろうが……逆は、絶対にありえない。どうか、撤回してくれ」

「は、はい! 失礼しましたっ」


 声は淡々としているが、とんでもなく圧を感じて私は慌てて返事をした。そして、おずおずと私は言葉を続けた。


「……でも、私もですよ? ラウルさんが頼りになるから、話を聞いて貰ったんです」

「聖女様……」

「ラウルさんに話を聞いて貰って、疑問点を挙げて貰ったから……自分の思い込みと、だからこそのズレに気づけました。ラウルさん、ありがとうございます」

「……役に立てたのなら、何よりだ」


 私の言葉に怒りは静まり、代わりに緑の瞳が優しく細められた。基本無表情だが、ラウルさんは私にはこうして僅かに、けれど確かに優しく対応してくれる。

 いつものラウルさんに戻ったことに、私は安堵し――ラウルさんに対して、くるくるコロコロ反応する気持ちを、今度はそのままにはしなかった。


(……私、ラウルさんのことが好きなのね)

(カナさん……)

(恋愛……なのかなぁ? でも、言動に一喜一憂するくらいには好き……ごめんなさい。イザベルの恋を、応援するつもりだったのに)

(大丈夫! 私はカナさんが好きで、カナさんを大切にしてくれるラウルさんも好きだから!)

(天使……)

(あと、ラウルさんとならずっと、修道院にいられるでしょう?)

(無邪気に強いイザベル、可愛い……)


 そう、聖女である自分もだがラウルさんも神兵なので、結婚などは出来ないが――お互いの居場所である修道院で、ずっと一緒にいられる。しかも結婚などしないなら、あえてラウルさんに好きだと告白して気まずくなることもない。流石にもう嫌われるとは思わないが、ラウルさんの私への気持ちは尊敬とか崇拝とか、そういうものだと思うからだ。

 修道院で、今まで通り暮らせることを現世のイザベルも喜んでいるようなので、私はラウルさんへの想いをこのまま一生抱えていくことにして――アリアへの対応について気持ちを切り替え、そうしてくれたラウルさんにお礼を言った。


「ありがとうございます、ラウルさん」

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