単なると言うのも何だが
当の乙女ゲームを知らない私からすると、この世界は単なる異世界でしかない。
だからこそ、前世の記憶が甦った時に修道院に行くことを選択した。結果として役割から逃げることになったが、自分が(と言うかイザベルが)悪役令嬢だから逃げた訳ではない。
……ないのだが、エマと違って現世の私と接点がなかったアリアからすれば、転生者である私は悪役令嬢としてのバットエンドを回避し、第二の人生を謳歌しているように見えたかもしれない。
(確かにイザベルの幸せの為に行動してるから、好きなように生きてるのは間違いないけど……でも)
そこまで考えて、私はため息と共に呟きを落とした。
「の……エドガー様とか、他の攻略対象と物語のような恋愛関係になるつもりはなくて」
「そうなのか?」
「え? 疑問形? まさかと思いますが、ラウルさんから見てもそんな風に見えてました?」
「……アルスはともかく、ご子息二人は聖女様と同じ年で、交流もあるから」
「そうですか……ラウルさんでそうなら、ますます誤解されても仕方ない……」
「年は離れているが、アルスも聖女様とは交流があるし」
「えぇ? 現世ではそうですけど、前世から考えるとアルス様も年下なので……と言いますか、そもそもそれぞれ第一印象に問題がありますから。改善したのは良かったですけど、知り合い……まではいかなくても、友人としか思えません」
「…………」
「ラウルさん?」
ずっと傍で見守ってくれたラウルさんにまで、暴風雨達と恋愛関係になるかもしれないと思われていたことがショックだった。だからついつい力説してしまったが、そこで私はラウルさんが黙ってしまったことに気がついた。
(いけない……仮にも聖女って呼ばれてるのに、愚痴ったりして呆れられたかも……いや、もしかして嫌われた?)
そこまで考えたところで、先程以上にショックを受け――そんな自分にあれっ、と引っかかったが、その前にラウルさんがいきなり頭を下げてきた。
「申し訳ない」
「……えっ?」
「アルスがそうなら、俺のことも頼りなく感じたと思う。それなのに、そんな俺に今まで黙っていたことを打ち明けてくれて……寛大なお心に、感謝しかない」
迂闊だが、言われて暴風雨とラウルさんが同じ年だったと思い出した。そして確かに、子供の頃は年下と言う意識はあったが――逆に頼りたいと思ったから話したのに、そんな相手に気を使わせた挙句に謝らせてしまうなんて!
だからこそ私はこれ以上、誤解されないように本音を打ち明けた。
「違います! 逆に、私こそ中身は年上なのに悩んでばかりで……情けないから、嫌われたと思いました。こんな奴に、謝らないで下さい」