甘えちゃっていいのかな?
この異世界では悩みを人に話すことは軟弱だと思われ、相手に弱みを握らせることだと思われてきた。いや、寄り添いを取り入れこそいたが未だ、その考えは根強い。
……もっとも、十年近くこの異世界で暮らした今となっては、否定ばかりも出来ない。地味にしんどいと思うのは変わらないが、貴族階級がある格差社会だ。むしろ、安易に頼る方が危険なのだと今なら思う。
(乙女ゲームの世界だけど、現実でもあるし……危険なことは、出来るだけ避けた方が良いよね)
ただ抱え込み過ぎて、破裂してしまっても大変なので自画自賛になるが、吐き出す場として寄り添いを提案したのは良かったと思う。
しかし気づけば、私が人の話を聞くことはあっても私が悩みごとを人に相談したのは、現世父と絶縁した時の一度きりだ。それもクロエ様とアントワーヌ様という、年上かつ人生の先輩である方々である。
(まあね……殿下達は七、八歳とかだったし……ラウルさんも、見た目はともかく十代だったし。一方、私は前世二十代で成人済だったから、そうなると相手は限定されるわよね)
けれど、今は違う。自分の中身が成人済(前世の年齢も足したらアラフォーだ)なのは変わらないが、ラウルさんは二十六歳になった。元々、大人びてはいたが今は名実共に大人である。
(……甘えちゃって、いいのかな?)
(カナさん、甘えても良いと思うわ!)
(え? イザベル?)
(甘えても良いと思うわ!)
イザベルは知らないが、前世には「大切なことなので二回言う」という言葉がある。その言葉に乗っ取ると私がラウルさんに話を聞いて貰うのは、現世の私にとって大切なことなんだろう。
そして現世の私は私のことを好きでいてくれるので、彼女が大切なことだと思うなら私にとっても大切なんだと思う。
(そう、よね……寄り添いみたいに、自分の抱えた悩みを口に出して言語化するって大切よね)
(ええ!)
そう自分に言い聞かせ、現世の自分が励ますように頷いてくれたのに――私は、覚悟を決めて口を開いた。
「ラウルさん……私も、うまく話せないかもしれませんが。どうか、聞いて貰えますか?」
「勿論だ」
そんな私の問いかけに、ラウルさんが無表情ながらもすぐに頷いてくれた。