成功、けれど思わぬことに
自分から、挨拶をする。
女性はか弱いので、優しくする。
ただし、か弱いので決して押しつけはせず。
言われたのはそれくらいだが、流石攻略対象と言うべきか――私に言いに来た次の日から、脳筋無双が始まったそうだ。
「おはよう!」
「重いだろう? 運ぶの、手伝うよ」
「この本を取ればいいか? 俺の方が背が高いから、遠慮なく頼ってくれよな」
そんな風に爽やかに挨拶したり、クラス全員分のノートを職員室まで運ぶの手伝ってくれたり、図書室で高いところにある本を取ってくれたり――エマ曰く「とぅるらぶの新規スチル絵を見ているようでした」だったらしい。私は当の乙女ゲームは知らないが、Web小説のコミカライズや挿絵でそれらしいものを見たことはあるのでイメージは出来る。
(脳筋だけど、だからって筋骨隆々のゴリラじゃないものね。仮にも乙女ゲームの攻略対象に、そんな風に優しくされたら……そりゃあ、コロッと落ちるわよねぇ)
そう思うのは、エマの話を聞いたからだけではない。脳筋無双から二週間ほど経ったが、その後の寄り添いで一年女生徒の利用が増えたからである。
「アリア様とエドガー様、どちらも素敵で……」
「同じ学年の男性達が子供過ぎて、アリア様に惹かれましたが……エドガー様が、あんなに紳士だなんて」
「わ、私は簡単になびいたりしませんわ!? でも……足を滑らせた私を、しっかり支えてくれて……殿方とは、あんなに頼もしいものなのですね」
男性生徒達の思惑通り、女子生徒達の心は揺れまくっていた。それ故、寄り添い部屋の利用が増えて――結果、エマは学園では私と話が出来なくなった。そんな訳で、今は両親が領地に引きこもっている為、王宮で暮らしているエマが休みの日に修道院の寄り添い部屋に来て日本語で話してくれた。
「エドガー様の快進撃で、アリア様の独占状態だった女生徒人気は、エドガー様と二分されました……男子生徒のイメージアップは、成功したと思います」
「それは、よかっ……」
「……なんですが。今度は、アリア様派とエドガー様派に分かれまして。貴族令嬢なので、喧嘩したりはないのですが、それぞれのイメージカラーである青……あ、これはエドガー様が赤だからみたいですが。どちら派かをリボンやカチューシャで示し、対立する派閥の生徒とは距離を置くようになっています」
「え?」
「ファンの女生徒達がそうなので、逆にアリア様とエドガー様もライバルのようになっています」
「……え?」
エマの説明が呑み込めず――いや、理解出来ないのではなく理解したくなくて――私は、驚きの声を上げることしか出来なかった。